花涼みの祭

作者:崎田航輝

 薄雲が太陽を覆って、空を蒼灰に変えていく。
 そんな日は、空気もひんやりとして過ごしやすくて。涼やかな風の吹く中で、祭りも和やかな賑わいを見せていた。
 長い道を紫陽花が飾る、市街の一角。明るい活気に満ちるそこでは──紫陽花祭りと称した催しが開かれている。
 露店にはお祭りらしい美味の数々が並び。道を挟むように伸びる花壇には、紫陽花を中心に初夏の花が美しく咲いていて。
 散歩するだけでも快く涼める温度の中で、人々は食を味わい、花で目を楽しませ。夏本番の前の、ひとときの寛ぎの時間を過ごしていた。
 けれど、そんなのどかな祭りの中に踏み入る男が一人。
「ああ、何とも愉しそうじゃないか」
 それは長大な剣を握り、細い瞳に愉快げな色を浮かべる罪人──エインヘリアル。
「けれどまだ、足りない」
 賑わいは血に染まる狂乱があってこそだから、と。
 笑みを含むと、人波に歩み寄って刃を振り上げて。顔を恐怖に染める人々へ、躊躇もなく振り下ろす。
 血潮が弾けて風が赤に染まる。噎び声の劈く中、罪人は高らかに嗤いながら剣を振るい続けていた。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へと説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのはエインヘリアルです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 現場は市街の一角。丁度祭りが開催されているところで、賑わっているのだという。
 エインヘリアルはそんな人々を襲おうとするだろう。
「人々の命を守るために。この敵の撃破をお願いしますね」
 戦場は道の中程。道の幅は広いため戦いに苦労はしないはずだ。
 人々については、警察の協力で事前に避難が行われる。こちらが到着する頃には皆が逃げ終わっていることだろう。
 周囲の環境を傷つけずに倒すこともできるはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利した暁には、皆さんもお祭りを楽しんでいってはいかがでしょうか」
 屋台で食を味わうのもいいし、景色を眺めて散策してもいい。花をモチーフにした小物なども売られているので見ていっても楽しめるでしょうと言った。
「そのためにも是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう声音に力を込めた。


参加者
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
北十字・銀河(星空の守り人・e04702)
クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
近衛・観月(雪降る夜・e41172)
不知火・妖華(夕焼けの魔剣・e65242)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)

■リプレイ

●迎撃
「紫陽花か、もうそんな季節になったんだね」
 潤いを含んだ爽風に、梅雨色の花が優しく揺れる。
 街角に降り立ったカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は、その美観に感慨交じりの声を零していた。
 清廉な彩と、穏やかな祭りの残り香。山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)もそこに和やかな空気を感じて。
「熱狂的なお祭りもあるけど。今回は落ち着いたお祭りなんだよねー」
「ああ。本格的に暑くなる前に丁度いい……と思ったんだけどねえ」
 と、メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は言いながら──ゆるりと道の遠方を見遣る。
 その視線の先。一人の巨躯の姿が垣間見えていた。
 長大な剣を握る罪人、エインヘリアル。祭りも何もかもを、斬ろうと歩んできている。
 皆と頷き合うと、ことほは前に踏み出しながら。
「場違いさんは、退場してもらおっと」
 一息に前進し、皆と共に巨躯へ接近。正面から立ちはだかってみせた。
 罪人は剣を構えながら此方に目を遣る。
「獲物が自らやってくるとはね。僕が望む賑わいの、糧になりにきたのかい」
「いいや、逆だ。折角の花祭りを台無しにしないでもらいたいからな」
 と、ふっと鼻で笑うように返すのは北十字・銀河(星空の守り人・e04702)。次には銀灰の瞳で、睨みつける。
「早々に帰ってもらおうか。その気がなければ……俺達、番犬が相手してやるぜ」
「……面白い」
 眉根を顰めながらも、罪人はすぐ好戦的に笑って踏み寄ってきた。
 その獰猛な眼光に、メイザースは息を吐く。
「判ってはいたが、やるつもりか。君達はどうしてこう……まあいいか」
 言ってから首を振って。
「語っても詮無いことだ、手早く済ませるとしよう」
 すらりと手をのばすと、オウガメタルを流動させて煌めく粒子を風に乗せた。
 それを合図に、高まった知覚を以て銀河が剣撃。七彩の星剣と銀色の宝剣で耀く斬閃を見舞う。
 衝撃に巨躯が一歩下がると、その間隙に天原・俊輝(偽りの銀・e28879)は空へ紅鳶の瞳を向けていた。
 ──破邪の雨を。
 淡く曇った天から、雫を喚ぶように。
 ぽつりぽつりと降らす冷たさは『紅雨』。俄に強くなるその雨滴が、弾けて破魔の力を与えゆく。
「ありがとう」
 力を受け取ったクレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)も、先ずは戦線を整えるためと靭やかに扇を踊らせる。
 妖猫の幻影に煌めく魔法円は、後衛を包み込んで魔を砕く加護を宿していた。
 その頃には罪人も攻撃へ奔り出す、が。
「──桜」
 クレーエの呼びかけに応じビハインドが飛翔。ふぅと桜の花風を吹かせて、花弁で巨躯を囲い動きを縛る。
 そこへ俊輝も娘たるビハインド──美雨へ視線を送り。
「お願いしますね」
 頷く美雨が美しき風雨を舞わせて罪人の体勢を崩した。
 生まれた隙を逃さず、カシスが翼で風を叩いて翔び立っている。
「この飛び蹴りを、見切れるかな?」
 そのまま弧を描くように降下して、雪片の舞う蹴撃を撃ち込んだ。地を滑る罪人は、それでも斃れず氷波を返してくる、が。
「藍ちゃん。しっかり守るよー!」
 ことほがライドキャリバーの藍に乗って疾駆。高速で曲線軌道を奔り、壁となって衝撃を受け止めてみせた。
 残る傷も、ことほ自身が治癒の風を燿かせて回復。
「では反撃と行きましょうか」
 髪を軽く結い直し、柔い声音を聞かせるのが近衛・観月(雪降る夜・e41172)。さらりと毛先を靡かせリボルバーを抜いている。
 時を同じく、不知火・妖華(夕焼けの魔剣・e65242)が地を蹴っていた。
「合わせましょう」
 美貌の面立ちの、光を透かした海の如き瞳で敵を見据えると。白炎纏う刀に濃密な魔力を上乗せして煌々と輝かす。
「その動き、封じます……封魔剣!」
 刹那、『束縛の封魔剣』──その一刀を振り抜き糸状の霊気を巨躯へ絡みつかせた。
「今です……!」
「では、遠慮なく」
 敵が動けぬ間に、応えた観月がフロントサイトを真っ直ぐに向けて。
「虚空に潜む満月よ、敵を貫き、その身を氷漬けにしなさい!」
 月光の如きマズルフラッシュを伴って『虚空満月砲』。鮮麗な魔力を散らせたその一弾で、巨躯の体を深々と穿ちながら膚を凍気に蝕んだ。

●烈戦
 躰を軋ませながら、罪人は膝をつく。
 訪れた僅かな静寂に、快い風が吹くと──メイザースは空を仰いでいた。
「良い日だ。紫陽花に限っては晴天より雨天や薄曇りの方が映える気がするよ」
 風情、という奴かな、と。
 呟きながら視線を下ろす。
「まあ祭りは祭りでも血祭り、なんて方向に意識が向いていそうな君には難しかろうけど」
「……否定はしないよ」
 罪人は苦痛を顕にしながらも、嘯いた。
「熱く滾れるものを求めるのは当然だろう。花も命も、その為に刈られるのだから」
「……どこまでも殺戮しか頭にないんですね」
 と、観月が仄かに呆れ声を零せば、妖華も頷いて。
「エインヘリアルも、祭りも楽しめばいいのですけどね。それが出来ないから相容れない存在なのでしょう」
「賑やかなのがいいなら、こう、裸祭りとかに遭遇できてたら喜んだのかな?」
 ことほは呟きながらも、まあ、とすぐに言い直す。
「どのみち殺生は良くないけどー」
「ええ。何より花は愛でるもの。共に居る人と穏やかな時間を形作るものですよ」
 ですから、と俊輝は一歩いでて。
「刈る事しか頭にない方はお帰り頂きましょう」
「そうだね。ペちペちってお仕置きしちゃおー!」
 クレーエは獅子意匠の剣を燿かせ、罪人へひた走る。
(「エインヘリアルってばホントどれもこれも似たり寄ったりだなー」)
 相手の殺意にそんな感情を覚えながら。それでも一切の油断なく──剣閃を奔らせ傷を刻みつけた。
 その間に、メイザースはオウガメタルに魔力を分け与え分体を生成。『Shield of Aigis』──前線の仲間へ付与して護りを万全とする。
 罪人も反撃を狙うが──その眼前へ観月。
「神速の突きです、食らいなさい!」
 視認する暇も与えずに、雷光煌めく一撃で腹部を貫通してみせた。血を吐く巨躯へ、妖華も隙を作らない。
「この一撃で、氷漬けにしてあげますよ」
 刃へ冷気を漲らせ、斬り裂きながら腕元を凍らせる。
 罪人は一度下がろうとするが──。
「どうした? 足元が隙だらけだ」
 銀河が翻り一撃。漆黒のブーツで刺すような蹴りを加えていた。
 呻く罪人は振り払うように剣風を吹かす。けれどその一端を美雨が防いでみせれば──俊輝が鎖を奔らせていた。
 宙を踊るその道筋が、雨中に架かる虹のように輝いて。守りの加護となって体に溶け込み前衛の傷を癒やしていく。
「あと少しですね」
「じゃ、やっておくねー」
 次いでことほも『桜の樹の下』──大地に宿る癒しの力を桜の樹へ変え、耀く花吹雪で苦痛を浚いながら皆を強化していた。
「幽子さんも、お願い」
 と、クレーエが目を向ければ巫山・幽子が頷いて。盾役へ気力を注ぎ体力を保つ。
「後は、お任せしても宜しいでしょうか……」
「──うん」
 その声に応えるのは加勢したノチユ・エテルニタ。『冥府に消ゆ』──死への標を与えるように、狙い澄ました昏き一閃で罪人の躰を捌いた。
 血潮を零す罪人へことほも攻勢。艶めく角を伸ばして肩を穿つと──。
「さあ、キルケ」
 メイザースがファミリアを解放。白のスコティッシュフォールドを罪人へ駆け出させ、猫パンチを見舞わせた。
 傾ぐ巨躯へ、妖華と観月も連撃。紅き刃と風を纏った斬線を縦横に滑らせ傷を抉る。
 苦渋を洩らす罪人に、カシスもまた慈悲なくエナジー状の剣を無数に創造して。
「さぁ、断罪の時間だよ」
 その全てを降り注がせる。『断罪の千剣』──幾度も幾重にも。斬り刻み傷口を広げて瀕死に追い込んだ。
 倒れゆく罪人へ、銀河は刃に青白き光を纏わせる。
 人々の命と祭りを守るため。乱暴者の狼藉はここまでだと、その一振りを大きく翳して。
「闇の中で永遠の眠りにつくがいい」
 放つ一閃は『獅子王』。神話の獅子の力を斬撃に乗せて、巨体を叩き斬った。

●夏への道
 柔風の中に、憩いの時間が帰ってくる。
 番犬達が迅速に事後処理を済ませることで、祭りはすぐに再開されていた。平和な空気の中、番犬達もそれぞれに歩み出して──メイザースもまた、散策を始めている。
 こんな機会だからと、風流な七宝の浴衣の出で立ちで。オウガメタルを肩に、ファミリアを隣に、長閑な景色を眺めていた。
「これこそ祭りといった風情だな」
 実感を得るように呟いて。
 そよぐ花に目を楽しませつつ、店々にも寄ってみる。
「色々あるね。折角だ、何かお土産でも買って帰ろうか」
 小物に食べ物、枚挙に暇はないけれど──その中で目を留めたのは綺麗な容れ物に入った一品。
「この金平糖なんかどうかな、色取りも紫陽花みたいで綺麗だし」
 手毬咲きのような青や紫が美しく。キルケもオウガメタルも肯定の意を示すから……メイザースはそれを購入。
「今度はあの子と一緒に来られるといいね」
 心には、留守番中の番の竜人を浮かべて──進み出す。
 道中、オウガメタルが欲しがったので風車も買った。
「落とさないようにね」
 オウガメタルが頷くように動き、くるくる回るそれを受け取ると──メイザースはまた人波の間をそぞろ歩いて。
「さて、今年の夏も暑くなるだろうか」
 空を見上げて、近づく季節の気配を肌に感じていた。

 行き交う人々が穏やかに笑い、愉しい空気を作り上げる。
 そんな景色の中を銀河はゆったりと歩いてゆく。
「賑わいが戻って、良かったな──」
 人々の生き生きとした顔を見ながら、自身ものんびりとした表情で。屋台で買ったスティックワッフルを時折つまみつつ散歩をしている。
 ふと視線を巡らせれば、青空を写したような色彩の紫陽花が咲いていて。紫色のものとグラデーションを作るその美しさも楽しんだ。
 紫陽花の花言葉は移り気。けれど家族団欒という意味もあると知っているから──どこかそこに温かなものも感じながら。
「おや」
 と、ふと途中足を止めて見るのは、小物の出店。
 そこに並ぶ美しい品々の中に、紫陽花の髪飾りを見つける。それが、いつも世話をかけている盟友の好きそうなデザインで──。
「これを一つ」
 すぐに買うと決めて、綺麗に包んでもらう。
「もう少し、眺めていこうか」
 そうしてそれを丁寧に受け取ると、また花々を見ながら──ゆっくりと歩み出した。

 花のそよぐ道で、クレーエは幽子をみとめて声を掛けた。
「幽子さん、一緒に散歩しない?」
「ご一緒してよければ……」
 こくりと幽子が頷くと、クレーエは微笑んで。桜もふわりと並び、三人で祭りの中へ歩み出していく。
 夏の隙間の涼しさに、さらさらと花が奏でる音が心地良く。幽子が花を見ている様子に、クレーエもまた視線を誘われた。
「綺麗に咲いてるねー」
「はい、とても……」
 幽子も静かに応え、暫し穏やかな散策を過ごす。
 その内に店の並ぶ一角に辿り着くと、皆で小物を少々眺め始めた。
「どれにしようかな……」
 と、クレーエが悩むのは奥さまへのお土産。
 飾り物に日用品、探せば色々あるだけに迷うけれど──中でも紫陽花の形が美しいブローチを見つけて購入。
 更に花柄の可愛らしいクッションにも目を留めて、それも買うことにした。
「後は食べ物だね」
 言って露店に歩むと、綺麗な花型の飴細工を発見してそれはお土産に調達。自分達にはベビーカステラを買って。
「おいしいね」
「はい……」
 同じものを買っていた幽子ももぐもぐと食べて同意。
 その後も歩みつつ、時折屋台に寄りながら、花も観賞して。暫しぶらぶらと歩みを続けていった。

 空を仰げば、薄雲が丁度良い明るさの青を作り出している。
 見つめるとそれが何とも美しくて。
「初夏を楽しむには絶好の日だね」
 カシスは空気を胸いっぱいに吸うようにして、人波を眺めていた。
 夏本番を楽しみにさせるこの気候が、人々を笑顔にさせている一つの理由でもあろう。だからこそ、観月もじっとしているつもりはなく。
「さぁ、一仕事終えましたから。僕たちも祭りを楽しみましょう」
 淡い笑みを浮かべると道を歩み出していた。
「そうだね。折角だから参加しよう」
 カシスも頷いて続けば──その隣に並んで歩むのが妖華。
「なんだか明るい雰囲気ね」
 と、人々を見回しながら、楽しい気分に言葉も少し柔らかくなりながら。露店の並ぶ場所を見つけると二人へ目を向ける。
「良かったらご一緒に屋台で何か食べていきませんか?」
「勿論」
 応えながら観月も同道し、どの店に寄ろうかと見聞。
 鉄板の上で灼けるソースの音、香ばしい匂い、甘い芳香。祭りの屋台はどれも魅力を放っていて、自然と足が動いてしまいそうだけれど。
「まずは飲み物はどう? 今日は暑いから、何か冷たいオレンジジュースでも頂きたいな」
 戦いで渇いた喉も潤したいと、カシスが言えば二人も頷いて。観月は冷えたソーダを、観月はアイスレモンティーを買って一息。
 それから屋台へ向かうと、最初に定番のたこ焼きと焼きそばを調達。
 早速たこ焼きを口に入れると、濃いめのソースとマヨネーズの匂い、熱々の温度が期待通りでカシスはひとつ頷いた。
「やっぱりお祭りの味は良いね」
「ええ」
 観月も応えながら焼きそばを啜る。こちらも海苔と鰹節が何とも言えず芳しく、味も勿論美味だ。
 妖華もそれを存分に味わうと、次は甘いものをと、綿あめとイチゴ飴を購入。ほわほわ食感と、綺麗な紅色の甘味に舌鼓。
 歩きながら気になる物があれば買ってシェアして。沢山の美味を楽しめて声は満足げだ。
「美味しいものばかりで、良いですね」
「そうですね。それに……綺麗な小物も沢山並んでいて、興味深いです」
 と、観月が視線を注ぐ先には、装飾品に置物と、雑貨の並ぶ店。紫陽花をテーマにしたものが多く、どれもオリジナリティがあって美しい。
 立ち止まって眺めると、カシスと妖華もまた興味を惹かれたように品々を見つめて。
「これとか、いいね」
 カシスが手に取るのは花の形のペーパーウェイト。綺麗だけれど、主張の抑えられたデザインで使いやすそうに思えた。
 そちらを覗き込みながらも、妖華が見つけたのはネックレスやイヤリング。
 こちらも紫陽花の色と形を意匠に使いながらも、派手さの抑えられた造り。気軽に買えるお値段だったこともあり、購入することにした。
 カシスもまたペーパーウェイトをお土産にしていたので……観月も折角だからと、紫陽花柄が上品なハンカチを購入して。
「形に残るものも買いましたし……また歩きましょうか」
 それには二人も頷いて。再び屋台の並ぶ中へと、歩を進めていった。

「では、見て回りましょうか」
 夏の匂いと、心地良い風。
 今の季節だけの、二つを兼ねた空の下で──俊輝は美雨と共に祭りへ歩むところだった。
 賑やかだけれど、騒がしいというより穏やかで。緩やかな時間の流れを感じる道を、急がず進んでいく。
 その内に小物店に行き着くと、俊輝は隣に声を掛けた。
「美雨はなにか欲しいものはありますか?」
 折角ですから1つだけ買ってよいですよ、と。
 言ってあげると、美雨は嬉しそうに早速品々を見渡して。近づいて、じっとよく眺めて選んでいく。
 それから暫しの後、最後に決めたのは。
「その紫陽花の、つまみ細工の花簪ですか?」
 美雨は静かに頷く。
 それはまるで小さい花が本当に咲いているかのような、可愛らしくも優美な一品。
「いいですよ。1つ頂きましょう」
 俊輝は微笑み、それを購入すると──そっと優しく付けてあげた。
 黒を纏うきみに、あおい花が咲く。
 ──本当はもっと沢山の彩りを与えたかった。
「……ああ、すみません。少し考え事をね」
 こちらの様子に仄かに小首をかしげる美雨に、俊輝は言ってまた淡く笑む。
「さ、紫陽花も見に行きましょうか」
 今度は母さんをつれて、3人で来ましょうね、と。その言葉に頷く美雨と隣り合って、鮮やかな花々を眺めていった。

 ことほは藍と一緒にまずは花巡り。
 道を真っ直ぐに進むだけで様々な色が楽しめる、そんな景色を眺めながら。
「紫陽花、いいよねー!」
 藍が回転数を上げて応えるのを聞きつつ、暫し花の観賞をして──その後に立ち寄るのは雑貨店。
「いい感じの、あるかな?」
 そんな期待と共に、装身具の品々を見つめ始める。
 先日、紫陽花のレインポンチョを買ったので……それに小物を合わせても可愛いのではないかと思ってのこと。
 探せば、早速簪を見つけて。
「これ、ぴったりかも!」
 精緻な花の細工と、艶めく青と紫の色彩が目を惹いて。雨の日にとてもよく合うと直感して購入を決める。
「それから、これと、これも……」
 と、さらにバッグチャームも幾つか見繕う。
 こちらは簪に比べ幾分ポップで可憐なデザイン。それでいて、紫陽花の綺麗な部分も十二分に感じられて……簪やポンチョと合わせると丁度良いバランスになりそうだった。
「これでよし!」
 そうして買い物を終えたら、屋台で食べ歩きつつ……タピオカドリンクの店を発見。『タピる』に挑戦しようと、タピオカミルクティーを注文して。
「私も……タピデビューだ……!」
 感慨にふけりながら、ちゅるちゅると飲んで。柔い食感と美味を楽しみながら、また道を進んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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