花菖蒲祭り

作者:芦原クロ

 神社の境内、浅い水辺の有る箇所はハナショウブで埋め尽くされ、色鮮やかで美しい風景が広がっている。
 優雅、という花言葉がピッタリなほどに、姿も色も雅な花。
 三枚の弁が大きく目立つ三英咲き、六枚の弁が広がった六英咲き、そして八重咲き。と、花形も多い。
 神社ではハナショウブ祭りが行なわれており、屋台が並んでいる。
 一般人は花を愛で、祭りを楽しみ、賑やかで平和な日常を過ごしていた。
 その平和は、一瞬で壊されることとなる。
 謎の花粉がとりついた、1本のハナショウブが見る見る内に巨大化し、一般人に襲い掛かった。
 異形になったそれは一方的な殺戮を繰り広げ、平和だった風景が嘘のように、血と死体だらけの惨い光景と化した。

「ハナショウブか……梅雨の中でも華やかに咲く花だな。美しい花形と花色の変化から、色彩の魔術師とも呼ばれているそうだ」
「今回、その花菖蒲が攻性植物と化してしまいました」
 花の説明をする霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)に続き、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が説明を添える。
「ああ。バジル・ハーバルガーデンさんの調査のお陰で、攻性植物の発生が予知で確認出来た。急ぎ現場に向かって、攻性植物の撃破を頼みたい。放っておけば、多くの命が失われてしまう」

 敵は1体だけで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導は警察などが迅速におこなってくれる為、ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃する形となる。
 屋台が並ぶ場所から数メートル離れた先の、広く開けたスペースが戦場になるだろう。

「多くの人命と平和を守る為にも、どうか撃破してくれ。あんたさん達にしか、出来ない事だ。頼んだぞ」
 ケルベロスたちを信頼し、頭を下げて頼み込んだ。


参加者
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
七宝・琉音(黒魔術の唄・e46059)
アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)
紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)

■リプレイ


(「花菖蒲祭り、楽しそうね。だけどそこに攻性植物の魔の手が迫っているなら、放っておく訳にはいかないわね」)
 平和を好む霧矢・朱音(医療機兵・e86105)は、その平和が脅かされる事態を見過ごせない、と。
 強い決意を、胸中に抱える。
(「神社の境内か、神聖な場所を荒らそうなどとは、攻性植物にも困ったものだな」)
 ケルベロスたち以外に人の気配が無い境内を、紺野・雅雪(緋桜の吹雪・e76839)は警戒を解かずに見回す。
 直後、空気が揺れ、重苦しいものに変わる。
「迎え撃とう」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)の言葉を合図に、メンバーは広い場所にて各々、戦闘態勢に入る。
 ツルをしならせ、這い出て来た、異形。
(「神社という神聖な場所に攻性植物が現れるとは……放っておいたら被害は甚大になりますね。必ず僕たちで食い止めましょう」)
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は素早く仲間たちに視線を送り、敵を必ず討伐しよう、と。
 眼差しだけで、仲間たちに伝える。
 目は口程に物を言う。
 普段は温厚なバジルの、意志の強い紫の瞳を見て、メンバーは察した。
「さぁ、行くよ黒影、援護は任せたからね!」
 迫るツルを躱したのを皮切りに、七宝・琉音(黒魔術の唄・e46059)が声を高らかにあげた。


「豊穣の実りよ、その軌跡の果実よ、仲間を護る力となって下さい!」
 果実から聖なる光を発し、後衛陣を光で包み込む、バジル。
「エクトプラズムの身体よ、皆を護ってあげてね」
 朱音も最初に耐性の付与をと、作った疑似肉体で前衛陣を守護する。
(「ハナショウブ祭りか、私もハナショウブは好きだから興味あるな」)
 琉音が、黒影と共に飛び出す。
(「まずは、人々を襲う攻性植物を退治しないといけないね」)
 黒影は耐性付与に専念し、一気に距離を縮めた琉音が、腕を振るう。
「これで、動きを封じてあげるよ」
 敵を殴りつけ、網状の霊力で敵を緊縛する、琉音。
「俺は敵にBSをどんどん付与する事に、専念するぞ」
 すかさず飛び上がり、勢いをつける雅雪。
「この飛び蹴りを、避けきれるかな?」
 煌めく軌跡を描き、炸裂する、重い蹴撃。
 機動力を奪われた敵は反撃出来ず、花弁を散らす。
(「ハナショウブか、優雅な花だとは思うけど……攻性植物と化したものなら、人に危害が加わる前に倒してしまわないとね」)
 散り落ちた花弁をちらりと一瞬見送りながら、カシスは敵の死角へ回り込む。
「まずはその素早い動きを、封じてあげるよ」
 カシスが畳みかけ、飛び蹴りを食らわせる。
(「ハナショウブは綺麗な花ですよね、私も好きですよ」)
 更に散るゆく花弁を見て、アクア・スフィア(ヴァルキュリアのブラックウィザード・e49743)は思考を続けた。
(「ですが、それが人を襲うというなら、私も手加減はしませんよ」)
 苦しげに吠える異形の迫力に負けず、アクアは戦場を駆けながら、手の中に球体を作り出す。
「さぁ、この球体へと触れて消え去りなさい」
 不可視の球体を敵目掛けて放つと、球体が触れた部分が消滅し、敵は再び咆哮をあげた。
「攻性植物というのは、本当に無粋な事をするね」
 皆が楽しめる祭りに水をさすような真似を……と、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は嘆息する。
 表皮に不可視の呪紋が刻まれた蔦を変形させ、黄金に輝く果実を実らせる、アンセルム。
 輝きを後衛陣に向け、より一層、護りをかためた。
「敵が戦場から離脱しないように注意しよう」
 最悪のパターンも考慮済みの、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)。
 敵以外の花を傷付けないように、注意して動いていた熾彩は、敵の微かな動作も見逃さない。
 地面が揺れ、侵食された大地が、人数の最も多い前衛陣を飲みこむ。
「……凍て付き、眠れ」
 熾彩は飲みこまれながらも反撃に出て、力強い言葉を発し、敵を一瞬で氷の中へ閉じこめた。


「大丈夫ですか、手早く回復しますね」
 負傷した者たちを、バジルが薬液の雨を降らせて癒してゆく。
「大丈夫? すぐに回復するから、待っててね」
 朱音もオーラを溜め、負傷した者の回復に専念し、状態の異常を消し去る。
「黒影、お願いするね」
 琉音の呼び掛けに応えた黒影は、属性を味方1人に注入することで、傷を癒す。
 閉じ込めていた氷を砕き割り、敵が這い出て来る。
「俺は敵への攻撃に専念するね」
 仲間を信じ、カシスは自分の役割を口にする。
「その身体、焼き尽くしてあげるからね」
 強烈な炎の蹴りを敵に叩き込み、着地。
 着地の瞬間を狙った敵のツルを掻い潜るようにして躱してゆく、カシス。
「虚無球体に飲まれて、消えてしまえー!」
 琉音が飛ばした球体により、カシスをしつこく狙うツルが消滅した。
 敵はいよいよ猛攻に出て、ケルベロスたちに襲い掛かる。
 怯まず、焦らずに、メンバーはそれぞれ己の役割をこなす。
 敵の攻撃を受ければ、こまめな回復や対処を。
 負傷しても動ける限り動き、仲間から癒されながら敵を攻撃する。
 激しい攻防が繰り返され、状態異常も重なり続けた敵は、次第に消耗してゆく。
 敵の攻撃が弱まり出したのを、見逃す者は居なかった。
 好機を逃さず、一気に畳みかける。
「喰らい付け、妄執の大蛇」
 アンセルムが放った、強靭な蔦が大蛇と化して敵に食らいつき、敵を締め上げ、その動きを阻害する。
(「早く倒して、皆が花菖蒲祭りを楽しめるようにしないとな」)
 雅雪は拳を一度開いてから、強く握り締めた。
「零の境地の力を、受けてみよ」
 拳に死の淵で得た力を込め、雅雪が繰り出す、拳撃。
「攻性植物を倒して、皆でハナショウブ祭りを楽しみましょうね」
 アクアは柔らかな笑みを向けて仲間たちに声を掛け、水龍の大槌を手にした時には、笑みは消えていて。
「貴方の身体を、凍結させてあげます」
 滝の如き一振りで、超重の一撃を敵に叩き込む、アクア。
「命中率は十分、確保できているな」
 熾彩が手にしたパズルから放たれる、竜を象った稲妻。
 撃たれた敵は大きくよろめいただけで、反撃の動きはない。
「終わらせるね。ハナショウブ祭り、楽しみたいからね」
 エナジー状の光の剣を、無数に創造する、カシス。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 カシスの言葉を合図に、光の剣は敵を何度も斬り刻みまくる。
 猛撃に耐えきれず、敵は倒れ、消滅した。


 無事に討伐を完了し、侵食された大地や損傷個所をヒールで直している内に、一般人の避難も解除された。
 静まり返っていた境内に人々の活気が戻り、ハナショウブ祭りが再開される。
「俺達も祭りに参加してみよう」
「屋台を見て回りたいですね」
「それでは屋台に行って楽しみましょう」
 カシスとアクアの案に賛成し、バジルは他のメンバーたちにも声を掛ける。
「花菖蒲祭りの屋台を楽しんでおこうかな」
「屋台とか、どんなものがあるのか楽しみだよ」
 雅雪とカシスは何が有るだろうかと、賑やかな呼び声が響く屋台を仲間たちと共に巡る。
「色々とあって、目移りしてしまいますね」
 アクアは物珍しそうに、きょろきょろと色んな屋台を見回している。
「屋台も色々とありますね。りんご飴とか頂いてみたいですね」
「私はのどが渇いたので、アイスティーとか欲しいです」
 バジルはりんご飴を、アクアは飲料をそれぞれ購入し、味わう。
「俺は屋台で何か食べていこうかな。お祭りと言えば、やっぱり……たこ焼きかな?」
 たこ焼きを数パック購入したカシスは、気前よく仲間たちとシェアし、熱々のたこ焼きを美味しそうに食べている。
「たこ焼き美味しいね。あと、私はフライドポテトも食べてみたいな♪」
 琉音はカシスに礼を言ってから、目的の屋台へまっしぐら。
 アンセルムは、おみくじを引きに行ったり、境内を散歩したりと、自由気ままに楽しんでいた。
「もうあんな遠くに……」
 色々な場所をうろうろしているアンセルムを、暫し見ていた雅雪だったが、射的の屋台が有ることに気づく。
「定番の遊戯だな、やってみよう」
 雅雪がコルク銃を構えると、興味を持ったメンバーが集まって来る。
「あのぬいぐるみ、取れますか?」
「面白そうだね、俺にも出来るかな」
 バジルが景品のぬいぐるみを示し、カシスは挑戦しようと銃にコルクを詰める。
「私もやってみたいな。誰が一番多く、景品が取れるか勝負しようよ♪」
「よし、標的は必ず倒してやるぜ! 負けないぞ」
 琉音の案に乗り、雅雪が意気込む。
「頑張ってくださいね」
「皆、楽しそうね。私は花菖蒲を眺めながら、花菖蒲祭りを楽しむわ」
 アクアが応援し、朱音は屋台が並ぶ一角から離れてゆく。
 射的の屋台は暫し、和気あいあいとしていた。

 一方、スイーツ系を中心に屋台を巡っていた、熾彩。
「甘いもの沢山で幸せだなぁ……」
 鈴かすてらやリンゴ飴、チョコバナナなどを食べ歩きながら、ぽつりと呟く。
 同じく、甘いものを多く買っていたアンセルムと、はち合わせる。
「空鳴も甘いものが好きなんだね。ボクは花菖蒲の鑑賞に行くけど、折角だし一緒にどうだい?」
 クレープや人形焼きなどの甘いものを多く買い、気軽に誘う、アンセルム。
 やや人見知りしながらも行動を共にし、ハナショウブが良く見える場所に移動すると、そこには朱音が居た。
「綺麗な花々ね」
「花菖蒲か。ふむ、色んな形や色があるのだな」
 朱音の感想を耳にし、熾彩は咲き乱れるハナショウブに目を向ける。
 優美な花形に、しっとりとした風情が有り、華やかだ。
 一際鮮やかな色に、美しい花びらの形、気品ある花姿は、見る者の心を晴れやかにしてくれる。
「これはたしかに優雅だ。色彩の魔術師と呼ばれるのも納得だな」
「この景色を守れて本当に良かったわ」
 熾彩の言葉に朱音が頷きながら、守り抜いた艶やかで美しい風景を見つめ続けた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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