踊るニャンコに、見るニャンコ♪

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した倉庫に捨てられていたのは、プロジェクションライトであった。
 そのライトで映し出されていたのは、猫達が喜びそうな映像ばかり。
 部屋中に映し出された猫じゃらしが、尻尾の如く左右に揺れ、不規則に飛び回る無数の光が、猫達の心を魅了した。
 そのため、その光に釣られて、まるで猫達が激しくダンスを踊るようにして跳ね回り、部屋中の家具を壊しまくってしまう程だったようである。
 だが、それはメーカー側が意図した事ではなかった。
 むしろ、『えっ? 猫? 猫に喜んでもらおうと思ったら、こんな事になったから、責任を取れ? えっ? えっ? ええー?』と言って感じで驚き、『うわ、マジか。まったく考えていなかったわ。いや、そもそも猫用じゃないし、猫好きが喜べばいいと思っただけで……あっ! それでか!』という結論に至り、販売が中止になってようである。
 しかし、それはプロジェクションライトが、望んだ事でもない。
 ただ人を楽しんでもらうため、皆に喜んでもらうため、映像を映し出していただけなのである。
 その無念な気持ちに心打たれたのか、それとも別の理由があったのか、蜘蛛型のダモクレスが姿を現した。
 蜘蛛型のダモクレスは、カサカサと音を立てながら、プロジェクションライトの中に入り込み、機械的なヒールで家電製品っぽいダモクレスになった。
「プロ、プロ、プロジェクショォォォォォォォォォォォン!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破り、グラビティ・チェインを奪うため、街に繰り出すのであった。

●セリカからの依頼
「地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した倉庫でダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、廃墟と化した倉庫。
 この場所に捨てられていたプロジェクションライトが、ダモクレスと化してしまったようである。
「ダモクレスと化したのは、プロジェクションライトです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティ・チェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、グラビティ・チェインを求めて攻撃を仕掛けてくるようだ。
 しかも、ダモクレスが映し出す映像は、猫達にとって魅力的なモノ。
 思わずまっしぐらになってしまう程、魅了的な映像が映し出されるため、どんなに危険な状況であっても、ぴょこぽんと飛び跳ね、大興奮してしまうようである。
 そのため、例えるなら、動くマタタビ。
 ラリラリパッパとばかりに、猫達が踊り狂ってしまうため、一般人の避難よりも、猫達の避難を優先しておくべきだろう。
 最悪の場合、ダモクレスの前で、猫達がラインダンスを踊ってしまうほど危険なため、色々な意味で注意をしておく必要である。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
グレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●都内某所
「プロ、プロ、プロロロロォォォォォォォォォォォォ!」
 耳障りな機械音を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破って現れたのは、蜘蛛型のダモクレスであった。
 蜘蛛型のダモクレスは異形と化したプロジェクションライトを使って、近くに壁に跳ねるボールや、大量の猫じゃらしを映し出した。
「にゃ!」
 その途端、茂みの中に隠れていた野良猫達が一斉に瞳をキラーンと輝かせ、壁の映像めがけて駆け寄った。
「わー……、これがホントの猫まっしぐら……。こんな大量のまっしぐら初めてみたかも」
 それを目の当たりにしたグレイシア・ヴァーミリオン(永久の娯楽と堕落を望みし者・e24932)が、しばらく言葉を失った。
 野良猫達は壁に映ったボールや、猫じゃらしに大興奮ッ!
 我を忘れて、壁をペチペチと叩いているため、まるでダンスを踊っているような感じになっていた。
「プ、プ、プ、プー……」
 その事がダモクレスの本能を刺激したのか、壁に映し出された映像が次々と変わっていった。
 そのため、野良猫達はすっかり虜。
 何かに取り憑かれた様子で、壁に猫パンチを繰り出し、御満悦。
「……猫さんは光につられているようですね」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が物陰に隠れつつ、野良猫達の様子を窺った。
 野良猫達は操り人形の如く、壁に映し出されたモノを追い、まわりが見えなくなっていた。
 同様にダモクレスも、野良猫達の相手をするのに夢中で、ケルベロス達の存在に気づいていなかった。
「猫がプロジェクションライトにつられてしまうのは、映像が目に見えているからです。幻影の力で覆ったり、それ以上に魅力的な映像を魅せて戦場外へ誘導してみましょう」
 そんな中、エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)が、仲間達に声をかけた。
 いまのところ、野良猫達はダモクレスが壁に映し出した映像に夢中だが、このままでは戦闘に巻き込んでしまう事は、確実。
 それを防ぐためにも、野良猫達の興味を引く必要があった。
「それじゃ、ペイントブキで猫ちゃんの喜びそうなものを描くわよ~。理想の兄貴を描き続けてきたあたしの画力! 発揮するなら、今しかないよねっ。プロジェクションライトになんか負けないんだからっ!」
 すぐさま、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がペイントブキを握り締め、近くの壁にツナ缶や、風に揺れる猫じゃらし、イケメン風の猫を描いた。
「……にゃ!」
 その途端、メス猫達の瞳が、キラーン!
 オス猫達は未だに、ダモクレスが描いた映像に夢中であった。
「それじゃ、これはどうかな?」
 グレイシアが含みのある笑みを浮かべ、液状スティックや、猫草、猫じゃらし、野良猫がすっぽり入りそうな箱を設置した。
「にゃ?」
 そのニオイに気づいた野良猫達が、一斉に鼻をヒクヒクさせた。
「こちらでのんびりしませんか? ふかふかのクッションだけでなく、ひんやりシートもありますよ?」
 そこに追い打ちをかけるようにして、夏雪が野良猫達に語り掛けながら、ふかふかのクッションを置いた。
「……にゃ!」
 野良猫達がハッとした様子で、一斉に顔を見合わせた。
 確かにダモクレスが映し出す映像は魅力的だが、ここは外ッ!
 故に暑い。
 それこそ汗が溢れるほどに……。
「これ、大好きでしょ? 大人しくしていたら、上げるからね」
 グレイシアが野良猫達に液状スティックをチラつかせ、電動猫じゃらし機のスイッチを入れた。
「にゃ!」
 それと同時に野良猫達が、我慢の限界とばかりに、ケルベロス達に駆け寄った。
 即座に野良猫達がふかふかクッションに飛びつき、ひんやりシートでゴロゴロした。
「……夏雪も、じゃれてみる?」
 グレイシアが軽く冗談を言いながら、夏雪の前で猫じゃらしを揺らした。
「にゃーん……じゃないですから」
 その流れに一応乗ったものの、途中で恥ずかしくなったのか、夏雪が恥ずかしそうに視線を逸らした。
 最初は軽い気持ちでノリに乗ったが、冷静になって考えると、赤面モノ。
 それを誤魔化すようにして、野良猫達と戯れた。
「プ、プ、プロロロロロロォォォォォォォォ」
 その事に対抗心を燃やしたダモクレスが、壁に色々な色のボールや、色々な形の猫じゃらしを映して、再び野良猫達の興味を引こうとした。
 だが、猫達がまったく興味を示そうとしなかったため、八つ当たり気味に攻撃を仕掛けてくるのであった。

●ダモクレス
「さすがにオレ達と遊ぶ気はないようだねぇ」
 すぐさま、グレイシアがサークリットチェインを発動させ、地面にケルベロスチェインを展開すると、仲間を守護する魔法陣を描いた。
「プ、プ、プロロロロロォォォォォォォォォォォ」
 だが、ダモクレスはまったく警戒しておらず、ケルベロス達に迫ってくると、野良猫達が興奮しそうな映像をビームに変えて飛ばしてきた。
「にゃ♪」
 そのため、野良猫達は、さらに興奮。
 全速力でビームを追いかけ、飛び跳ねるようにして、猫パンチを繰り出した。
 しかし、猫パンチは虚しく空を切るばかり。
 それが野良猫達の狩人魂に火をつけたのか、ビームを追いかけ、途中でグッタリ。
 日頃の怠惰な生活が災いしたのか、『興奮し過ぎたせいで、膝が笑ってやがるぜ!』と言わんばかりに、両脚が小刻みにリズムを刻んでいた。
「ここは私達に任せてください」
 そんな空気を察したエレスが、野良猫達を護るようにして、ダモクレスの前に陣取った。
 その間にダモクレスが『す、すまないな。ワシがもう少し若ければ、こんな事には……』と言わんばかりのノリで、ケルベロス達から離れていった。
「……とは言え、その胸だと戦いにくいんじゃないの?」
 グレイシアがまったく悪気がない様子で、エレスに対して問いかけた。
「いえ、まったく問題ありません」
 すぐさま、エレスがブレイブマインで、仲間の背後にカラフルな爆発を発生させた。
 その姿を眺めながら、グレイシアが思わず拍手を響かせた。
「プロロロロロロロォォォォォォォォォォォォォ」
 それでも、ダモクレスは臆しておらず、ケルベロス達めがけて突っ込んできた。
「……って、少しは驚きなさいよっ! まったく空気が読めないわね。そういう分からず屋には、この蹴りで……って最近、蹴りばっかり使っているから、あたしの白鳥みたいな細い足が太くなっちゃうじゃない! もう、どうしてくれるのよ!」
 レイがムッとした様子で、スターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放ち、ダモクレスを足止めした。
「プロロロロロロロ……」
 その事に腹を立てたダモクレスが、プロジェクションライト型のアームを伸ばし、野良猫達が興奮する映像を、あちこちの壁に映し出した。
「にゃあああああああああああああああああああああああ!」
 そのため、野良猫達の瞳が、ランラン。
 今にも飛び掛かっていきそうな勢いで、大興奮ッ!
 だが、おやつは欲しい。
 とっても食べたい。今すぐ食べたい。
 まさに気持ちは、まっしぐら!
 それでも、我慢ッ! 不動の我慢ッ!
 みんなで尻尾をパタパタさせながら、おやつのために……我慢した!
「さすがに、これは……酷ですね」
 そんな空気を察したエレスがダモクレスに斉天截拳撃を仕掛け、ヌンチャク型如意棒で、プロジェクションライト型のアームを壊して、壊して、壊しまくった。
「プロ、プロ、プロロロロロロォォォォォォォォォォォォォォォ」
 次の瞬間、ダモクレカがプロジェクションライト型のミサイルを飛ばし、アスファルトの地面に落下したのと同時に、猫達が興奮しそうな映像を映し出した。
「……!」
 そのため、野良猫達が両目をカッと見開く、超高速で尻尾をパタパタさせた。
 この時点で、我慢の限界。
 みんな全米並みに泣いていた。
「プロ、プロ、プロ、プロォォォォォォォォォォォ」
 そこに追い打ちをかけるようにして、ダモクレスが再びミサイルを飛ばそうとした。
「まったく、もう! みんな嫌がっているでしょ! そんな悪い事ばかりするのなら、ライトを塗料で塗り潰してあげるんだからっ!」
 レイがダモクレスを叱りつけながら、ペイントラッシュを仕掛け、激しく塗料を飛ばし、プロジェクションライトを塗り潰した。
「プ、プ、プ、プ……」
 そのため、ダモクレスは狙いを定める事が出来ず、適当にミサイルを飛ばして、アスファルトの地面に幾つも穴を開けた。
「これ以上、好きにはさせませんよ。ヒールで修復するのだって、大変なんですから……」
 それと同時に、夏雪がプラズムキャノンを仕掛け、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスの発射口を破壊した。
「……猫達を巻き込んだのが間違いでしたね」
 それに合わせて、エレスが幻影欺壊(ゲンエイギカイ)を仕掛け、攻撃の起点となる部分にダメージを与えると共に、その部分を傷つき壊れたと見せかける幻影で覆った。
 だが、実際には致命傷。
 ダモクレスが無理やり身体を動かそうとした瞬間、あちこちのパーツが弾け飛び、崩れ落ちるようにして動かなくなった。
「さぁ、猫達! 大人しくしてた、ご褒美だよぉ」
 その事を確認した後、グレイシアが野良猫達を呼び寄せ、再び液状スティックを食べさせた。
 野良猫達の中には大人しくしていなかった猫もいたが、ドサクサに紛れて、しれっとイイ子を演じて、液体スティックをペロついていた。
「少しくらい猫さん達と一緒にじゃれついてもいいですよね……」
 夏雪が自分自身を納得させ、擦り寄ってきた野良猫達と戯れ始めた。
「だ、だからと言って、そんなところに入ったら駄目ですよ」
 そんな中、エレスが胸の谷間に潜り込んだ悪戯子猫を抱き上げ、メッと軽く叱りつけた。
「それじゃ、あなた達のために、イケメン猫でも描いてあげようかしら。一生の宝物にしなさいよ」
 そう言ってレイが野良猫達を集め、自信満々にえっへんと胸を張りながら、近くの壁にイケメン猫を描くのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月14日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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