古民家カフェに招かれざる客

作者:神無月シュン

 山道を少し登った先に一軒のお店がある。民家だった建物を新しい持ち主が改装し、現在は古民家カフェとして生まれ変わったその店は、どこか懐かしい雰囲気を残しゆったりとした時間を過ごせると、連日多くの客が訪れていた。
 そこへ山道を登りやって来たのは、3mもの大男――エインヘリアルだった。
 エインヘリアルはもちろん、カフェでお茶を楽しむために来たわけではない。
 余りの恐怖に動けないでいる客たちを一瞥すると、エインヘリアルは手にした剣で建物ごと人々を薙ぎ払ったのだった……。


「集まっていただき、ありがとうございます。早速本題ですが、エインヘリアルによる人々の虐殺事件が予知されました」
 集まったケルベロスたちに一礼し、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が今回の事件について説明を始める。
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしく、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「エインヘリアルが降り立った場所の近くに古民家カフェがあった為、最初の標的になってしまうようです」
「早くしないとお客さんに被害が出てしまうのです」
 セリカの説明を聞ていた、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が心配そうに呟く。
「ですので急ぎ現場に向かい、このエインヘリアルの撃破をお願いします」

 セリカの予知によると、出現するエインヘリアルは1体のみで、このエインヘリアルは使い捨ての戦力として送り込まれているため、戦闘で不利な状況になっても撤退することはないとの事。
「このエインヘリアルはゾディアックソードを所持しています。攻撃はこのゾディアックソードを使ってのものとなります」
「カフェの中にはお客さんはどれくらい居るのですか?」
「襲撃される時間にはカフェの中にお客が7名、店員3名の合わせて10名居ます」
 周りに視界を遮る物が無い為、避難させるとどうしてもエインヘリアルの目に付いてしまう。そうなるとエインヘリアルが一般人を狙う可能性が高い。その辺を注意して避難方法を考える必要がありそうだ。

「素敵な雰囲気の古民家カフェです。建物への被害も極力抑えるようにお願いします」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
霧矢・朱音(医療機兵・e86105)
メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)
 

■リプレイ


 晴天の下、緩やかな坂道を足早に登っていくケルベロスたち。目指すはエインヘリアルが襲うと予知された古民家カフェ。
「カフェでのどかなひと時を過ごしている人々を殺戮するなんて、エインヘリアルは許す訳にはいかないわね。必ず、敵の凶行を止めて見せましょう」
「傍迷惑な罪人エインヘリアルは、素早く処分しませんといけませんね。古民家と人々への被害を抑えて倒してしまいましょう」
 一般人はおろか建物にさえ手出しはさせないと、意気込む霧矢・朱音(医療機兵・e86105)とミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)。
「重犯罪者を使い捨ての戦力に、か。放っておくと地球側についてくれたエインヘリアルに影響も出るし、何より一般人に被害が出るのは見過ごせねぇな。きっちりと全員無事避難完了! を目指すとしよう」
 メガ・ザンバ(応援歌ロボ・e86109)はこのままでは、味方に付いてくれたエインヘリアルへの世間の風当たりが悪くなってしまわないかと心配している。
「虐殺は必ず阻止するぜ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は左の掌に右の拳を打ち付け、気合を入れる。
「相馬さん、その格好はどうしたんですか?」
「格好? 何か問題あるか?」
「問題は……ないです」
 泰地の姿が気になりフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が問いかけるが、本人が気にした様子もないので、そういうものだと納得することにした。
 泰地の姿は上半身裸に裸足、『格闘技用トランクス』を穿いたボクサースタイル。場違いとも言える格好に、フローネが驚くのも無理はなかった。
 この格好が泰地にとっての戦闘装束。この姿でいる事こそ彼が本気であると示していた。
「犯罪者、しかも更生の余地がないなら遠慮は無用ですね、さっさと向かいましょう」
 話す時間も惜しいとジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は速度を上げた。

「メガさん、予定通り避難誘導は任せます」
 全員が足を止めると、肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)がメガへ向かって話しかける。
 山道の茂みの方からエインヘリアルがこちらへ向かって歩いてくるのが見える。どうやらこちらの方が少し早く辿り着けたようだ。
「私たちはここでエインヘリアルを食い止めます」
 朱音の言葉にメガが頷いた。
「戦闘前に支援をしても、意味がないんだったな……。みんな足止めの方は任せたぜ!」
 メガはせめて支援をと考えたが、戦闘に参加する少しの時間も惜しいと古民家カフェへと向かって走り出した。

「俺はケルベロスだ。突然で悪いんだが、エインヘリアルがこのカフェに向かってるんだ。エインヘリアルを倒すまでの間安全な場所に避難して欲しい」
 店の戸を開け、メガは近くの店員へと事情を説明する。
 話を聞いて店員もお客も慌てだす。我先に逃げようと入り口に殺到する人々。
「店員さん! 避難訓練のようにやればいい! 俺達が守り切るから安心しろ!」
 『スタイリッシュモード』を使うと、励まされた人々は落ち着きを取り戻し、順番に外へと出ていく。全員が外へと出た後、古民家カフェの裏手、山道を更に登った先へと避難誘導していく。ここからでもエインヘリアルが暴れているのがよく見える。その様子を一般人が見たらまたパニックになるだろうと、メガが声をあげた。
「落ち着いて逃げるんだ。後ろは振り向くなよ!」
 メガは最後尾を歩き、こちらへ襲い掛かってきたときにすぐ反応できる様、エインヘリアルの動きに注意する。
「ここまで来れば大丈夫だ。エインヘリアルを倒すまでここで少し待っててくれ」
 メガは店員と客に微笑むと、来た道を引き返し仲間の元へと走った。


 ――メガが避難誘導を始める少し前。
 メガの後姿を見送った残りのメンバーは、こちらへとやって来るエインヘリアルの方へと視線を向ける。
「ああ、確かに3mもあるとでかく感じますねえ、それだけですけれど」
 大きいからと言って恐れる必要はないとジュリアスは呟いた。
 フローネと泰地はエインヘリアルが自分たちを無視して進行しない様、左右に分かれ挟み込むように陣取る。
「被害を出さない為にも、ここで抑えきります!」
 フローネの言葉を合図にケルベロスたちは武器を構え、戦闘を開始した。
「この紫水晶の輝き、貴方に無視できますか?」
 フローネがドローンを展開し、『アメジスト・シールド』を前方に構えると、構えたシールドとドローンに装備されている小型シールドから強烈な光が交互にエインヘリアルに照射される。
 眩しそうに目を腕で覆ったその瞬間、泰地が跳び上がり、ミリムは猛ダッシュでエインヘリアルへと突撃する。
「はぁあああああっ!」
 振り下ろされるバスタードソード『ブルーフレイムラズワルブレイド』。ミリムの一撃がエインヘリアルの腕を打ち、その衝撃でエインヘリアルは自身の剣を取り落とした。
「さあ死になさい! 今すぐ! 罪人は斬首がお似合いです!」
 地面に剣が落ちる音と振動が響く中、ミリムはそう叫んだ。
 上空から泰地が虹をまとって、急降下蹴りを浴びせる。その衝撃によろめいたエインヘリアル。だがすぐに体勢を立て直し剣を拾い上げると、未だ空中にいる泰地に向かって剣を振り下ろした。
「ぐはっ!」
 地面へと叩きつけられ、一度、二度とバウンドし倒れ込む泰地。
「泰地さん、大丈夫ですか?」
「ああ……この程度なら問題ない」
 その言葉に安心すると鬼灯は詠唱を始める。
「見せてあげますよ。本当の僕の怖さをね」
 一つ一つ別の特徴を持った八匹の大蛇のオーラを身に纏った鬼灯が、エインヘリアルに向かって攻撃を繰り出していく。
「そいやァーっと」
 掛け声と共にジュリアスがエインヘリアルを掴み、投げ飛ばす。
「今迄もっとでかいのとも遣り合ってきたんでねえ」
 これくらいは余裕と、ジュリアスは言う。
「さぁ、まずは素早く動けなくしてあげるわね」
 投げ飛ばされ倒れているエインヘリアルに向かって、飛び蹴りを見舞う朱音。
「『紫水晶の盾』がお相手致します! 存分に打ってきなさい!」
 『アメジスト・シールド』を構え防御を固めるフローネを余所に、何かを見つけたのかエインヘリアルは遠くを見つめていた。
「余所見するならその頭真っ二つにしてやります」
 エインヘリアルが見つめる先には古民家カフェがある。避難途中の人たちを見つけたのだろうと判断したミリムは、エインヘリアルの視線を遮るように『暴斧Beowulf』を手に跳び上がる。
「あの寛げそうな素敵な場所と人を台無しにする様な輩は死です! 死!」
 頭上から斧を叩きつけるミリム。
「てめぇの相手は俺たち、だろっ!」
 ミリムと一緒に跳び上がっていた泰地は、エインヘリアルの顔面を蹴り飛ばした。
 泰地の攻撃に苛つき、剣を振るうエインヘリアル。
「させませんよ」
 前に躍り出たフローネがその一撃を受け止める。
「ボディがお留守ですよッと!」
 剣を振り下ろす格好で拮抗しているエインヘリアルの横っ腹にジュリアスが強烈な一撃を打ち込むと、続く様に鬼灯と朱音が次々と攻撃を繰り出していった。


 エインヘリアルと戦闘を始めて数分、古民家カフェへと向かい避難を行っていたメガが合流する。
「無事に避難誘導は終わったぜ」
「お疲れ様です。先に始めてますよ」
「ああ。皆のおかげで避難もスムーズに進めることが出来た。感謝するぜ」
 ジュリアスの労いに、メガは足止めのおかげだと返す。

「さて、俺が戦闘に参加するからには、賑やかに行くぜ!」
 メガが歌う仲間への応援歌が戦場に響き渡る。明るいメロディーに皆、心が軽くなるのを感じる。少し場違いなくらいが丁度いいというのがメガの考えだ。
「応援されたからには、頑張らなければなりませんね」
 如意棒『紫心棍』をヌンチャクの様に操り、エインヘリアルに打撃を加えていくフローネ。
「そうそう。いつもよりも頑張れる気がするよ!」
 ミリムは軽快な動きで距離を詰めると、ルーンを発動させ光り輝く斧をエインヘリアルへと振り下ろした。
「ううううううう……があああああ!」
 反撃に振るわれたエインヘリアルの剣の前に、泰地が体を滑り込ませ受け止める。
「うおおおおおお! どうした? これくらいじゃ俺は倒せないぜ!」
 痛みを吹き飛ばすかのように泰地が叫ぶ。その足元には鬼灯の描いた守護星座が光り輝いていた。
「余り無茶はしないでくださいね」
「そんなつもりはないんだが」
 2人のやり取りの間に、日本刀を手に飛び出すジュリアス。
「フッ!」
 一息で振るわれたジュリアスの刀が、敵の傷跡を正確に斬りつける。
「このナイフをご覧なさい、貴方のトラウマを想起させてあげるわ」
 朱音が跳び上がると、エインヘリアルの眼前で惨殺ナイフの刀身を煌めかせる。
「その動き、封じさせてもらう!」
 メガが精神操作で鎖を伸ばし、エインヘリアルを締め上げていく。その隙に、ケルベロスたちは一斉に攻勢に出る。
「紫水晶の輝きよ」
 フローネのシールドから放たれる光がエインヘリアルを照らす。
「風槍よ! 穿て!」
 続いてミリム。紋章から女王騎士の風槍を次々と取り出し、エインヘリアルを貫いていく。
「おらっ!」
 苦痛に歪むエインヘリアルの顔に泰地の蹴りがめり込む。
「八匹の大蛇の力、見せてあげます」
 オーラを纏い連撃を繰り出す鬼灯。
「どうしました、膝が笑ってますよ?」
 エインヘリアルに掴みかかると、ジュリアスは軽々とその巨体を投げ飛ばし地面へと叩きつける。
「周囲の地面ごと、貴方を叩き潰してあげるわ!」
 地面に倒れているエインヘリアルに向かって朱音の腕が振り下ろされる。強靭な腕力から放たれるその一撃は、周囲の地面ごと叩き潰しエインヘリアルを地面へとめり込ませた。
 その後、エインヘリアルが起き上がることは二度となかった。


「残心良し、店の皆様は?」
 戦いを終え、一息つくとジュリアスは一般人の安否を気にする。
「この辺の地面とかは私が直しておくから、皆さんはカフェの人たちの方へ」
 思い切りへこませたのは自分だからと、周りの修復を買って出る朱音。
 朱音の言葉に甘えて、一同は避難した人達の元へ。
「ここを襲おうとした不逞の輩は我々が討伐いたしました!」
「もう安全だ」
 避難していた人々に討伐完了したことを告げるジュリアスと泰地。
「あーあ……せっかくのカフェが台無しだよ。後片付けくらいは手伝わないとな……」
 カフェへと戻ると、床にテーブルから落ちたカップや皿が、割れて散乱していた。先程の戦闘による衝撃が届いていたのだろう。
 店員と共にメガが店内の掃除を始める。
「それはそうとして、お持ち帰りができるのなら帰りにつまみたいのですが……」
 皆が片付けをする中、ジュリアスは興味深げにレジ横のお土産コーナーを眺めていた。

「折角近くに来たのですし休んでいきましょう? 私は珈琲です!」
「私もできればカフェで何か飲んでいきたいわ。そうね……熱い紅茶がいいわ」
 片付けを終え、ミリムの提案に朱音も同調する。
「メガさんもそんな所に居ないで、こっちへどうぞ」
 鬼灯がメガの腕を引き、席へと連れていく。
 皆が席へと着くと、各々好きなものを注文をする。
「軽食嗜みつつ紫陽花を見るのも一興ですね」
 食事をしながら窓から見える紫陽花を眺めるジュリアス。
「時間がゆったりと流れて……ココロが落ち着きますね」
 フローネは優雅に紅茶の入ったカップを傾けていた。
 ケルベロスたちはしばらくの間、古民家カフェでゆったりとした時間を過ごすのだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月22日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。