太陽と猫の街

作者:崎田航輝

 雨雲は遠く、代わりに燦々と燿く太陽が空に昇っている。
 水溜りの跡が道々に残る中──雨季に訪れた快晴に、響く猫の声も愉しげだった。
 夏が近づいて、自然が一層豊かに色づく港町。
 快い海風が吹いて、山の木々が涼やかにそよいで。そこは都会の喧騒から離れた穏やかさに満ちている。
 そんな長閑な環境だからだろうか、街には沢山の猫が見えていた。
 道を見れば、にゃあにゃあと駆け回る姿があり。屋根を仰げば身軽にジャンプする猫がいる。数日ぶりの陽光の下、ごろごろと日向ぼっこする猫も数え切れなかった。
 黒猫に白猫、斑猫に虎猫。
 神社や林道、軒先や公園を歩めばいろいろな猫に出会えるから、平素から訪れる観光客も多いけれど。梅雨の晴れ間に猫達と戯れようと、この日は人々も一層賑わっていた。
 と、その平和な時間の中に招かれざる足音が響く。
「ああ、やっと見つけたぜ」
 獲物に相応しい命をな、と。
 獰猛な声音で笑みを浮かべるそれは鎧兜の罪人──エインヘリアル。
 猫には目もくれず、視線を注ぐ先は人波。ぎらりと剣を耀かせると、大股で歩み寄っていた。
 人々はその存在に気づき、悲鳴を上げて逃げてゆく。だがエインヘリアルはそこへ悠々と追いつき、剣を振り上げていた。

「集まって頂きありがとうございます」
 陽光の暖かなヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へと説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのはエインヘリアルです」
 アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
「現場は港町です。野良の猫さんが沢山住む町で、観光客も普段から多いようですが……天気が良いこともあって一層賑わっているようですね」
 エインヘリアルはそんな人々を襲おうとするだろう。
「一般市民と、そして猫さんの平和のためにも。この敵の撃破をお願いしますね」
 戦場は港にほど近い、開けた道。そこを真っ直ぐに進んでくる敵を、こちらは迎え討つ形となるだろう。
 尚、人々の避難誘導は警察が行ってくれる。こちらが手を貸さずとも、戦闘前には一帯は無人状態となるだろう。
「皆さんは猫さん達を逃してあげつつ、待ち伏せして……敵を迎撃してください」
 周囲の環境を傷つけずに倒すこともできるはずだ。
「無事勝利できれば、周囲を散策したり猫さん達と遊ぶ時間もあるでしょうから。ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう声音に力を込めた。


参加者
三和・悠仁(人面樹心・e00349)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
ステラ・ベルカント(純白の導・e67426)
ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)

■リプレイ

●猫の街
 青空の下、暖かな風に鳴き声が交じる。
 港街は右も左も猫に溢れていて──翼で降りたステラ・ベルカント(純白の導・e67426)は、早速足元の茶猫を抱き上げていた。
「皆さんも、お願いするのよ」
「ええ。始めましょう」
 頷くのは三和・悠仁(人面樹心・e00349)。戦場から猫を逃がすために──自身も道を挟んで反対側へ。
 そこにたむろする黒猫へ、驚かさないよう、怖がらせないよう注意しつつ。
「さあ、離れて。ほら、後で玩具なりおやつなり持って来るから……その時まで、ちょっとだけ待っていて」
 優しく言って、なー、と声を返す猫達を誘導していった。
 近くの草むらでは、駆け回る若猫達にカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が動物の友の力で以て話しかける。
「ここは戦いになるから危ないんだ。悪いやつは僕達がやっつけるから、少しの間だけ避難してくれると嬉しいな」
 穏やかに伝えると、猫達もにゃあと応えて。友好の証か、肉球でカロンに触れつつ……その場から去っていく。
 小高い一角で日向ぼっこする老猫には、リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が歩み寄っていた。
 寝転がり、快さげに目を閉じている──そのお腹に顔を埋めたい誘惑に耐えつつ。そっと抱っこして運び上げる。
 ──天よ、お猫様の日向ぼっこを邪魔する大罪を許したまえ。
 心より懺悔しながら高台を目指すと……途中も微睡む猫がごろごろと身じろいで。
「嗚呼……太陽の香りがする」
 そんな猫をずっと抱えていたかったけれど。一匹たりとも見逃さぬ覚悟でまた、リューデは避難を続けた。
「ほら、向こうだよー」
 と、港の虎猫達を連れ出しているのは天司・桜子(桜花絢爛・e20368)。そのままとことこと行進するように、群れのまま道の先まで導いていく。
「これで港は大丈夫そうかな」
「此方も、問題なさそうです」
 塀の隙間や物陰を見ていた羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)もまた、逃げ遅れそうな子猫を全て逃して。
 静寂が訪れれば──遮蔽に潜み、皆と共に戦いに備えた。
「さて」
 と、周囲に熱源が無いかを最後に確認しながら、ディミック・イルヴァ(物性理論の徒・e85736)もまた戦闘態勢。
 エネルギー炉をアイドリングさせて時を待ちつつ──ふと一度、内陸側を見る。
 すると遠景に、人々と猫の姿が望めた。
「穏やかな眺めだねぇ」
 ディミックが呟くと、紺もまた視線を巡らせる。
「この街は人と猫さんの距離が近い、のどかで平和な街なのでしょうね。その穏やかさに水を差そうとは──随分と無粋な敵がいたものです」
 と、陰から見据える先。
 そこに道を歩む罪人──エインヘリアルの姿が見えていた。
 ならば、と。
「僭越ながら、私たちが猫さんに代わって成敗いたします」
 地を蹴って跳び出た紺は、煌めく流体を宙へ奔らせて。巨躯を咬ませて鮮烈な初撃を与えていく。
 苦痛に眉を顰め、罪人は初めて此方に気づく。
「……っ、番犬か」
「ああ」
 静やかに、けれど鋭く。
 研ぎ澄まされた刃の如き声の主はティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)。脚装を噴射させ中天に昇ると、逆光を浴びながら砲身を下方へ向けていた。
「捨て駒とはいえ戦力は減らしておくに限るからな……」
 故に一切の容赦をする気はないと。瞬間、巨大な爆炎を上げて砲撃を撃ち込み、巨体を後方へ吹き飛ばす。
 そこへはらはらと舞うのが桜子の『紅蓮桜』。エナジーの花吹雪が焔へと変じ、鮮やかな灼熱で包み込んだ。
「次の攻撃、お願いだよ」
「判りました」
 応えるカロンは魔匣のフォーマルハウトに星屑をばら撒かせて敵を惑わすと──自身も蹴撃。光の流線を刷いて苛烈な打撃を加えていく。
 よろめきながら、罪人も斬撃の雨を降らした。が、直前にディミックがビームの壁を張り、眩い護りで衝撃を減らすと──。
「すぐに癒やします」
 悠仁が七彩の光を発破して治癒と強化を兼ねる。
 ステラもまた懐中時計を握り、そよ風に清らかな歌声を乗せることで──皆の意識を澄み渡らせて万全とした。
「これで、大丈夫なのよ」
「では反撃に」
 と、悠仁が視線を下ろせばライドキャリバーのウェッジが疾駆。冥色の焔を抱いて体当たりを繰り出していく。
 その間にリューデも鎖で守護の陣を描きながら、連続で攻撃へ。
「──お猫様に仇成す者は滅する」
 防御の暇すら与えずに。意志で刃を研ぎ澄ませ、『静寂の獄』の一閃で腹部を捌いた。
 蹈鞴を踏む巨体に、ティーシャも手心を加えることなく。
 降下して零距離に入ると、ライフルの銃口を押し当てて接射。目も眩む程の光の奔流を放って胸板を貫いてみせた。

●決着
 鮮血と共に、苦渋の吐息が零れていた。
 全くついてねぇぜ、と。罪人の呟きは憎しみの感情が滲んでいる。
「今頃、存分に狩りを楽しんでるはずだったってのによ……」
「楽しい、だなんて。たくさんの命を奪って……何が楽しいの……?」
 ステラは俯いて、声音に憂いを込める。
「わたしには……よく、わからないのよ」
「餌を狩るのが楽しいのは、当たり前だろ?」
 獲物にふさわしい命がそこにいるのなら、と。
 罪人があくまで笑みながら踏み出すと──悠仁は一度瞑目していた。
「成程」
 そう静かに呟いて。開く目は、罪人の姿を真っ直ぐに捉えている。
「確かに、獲物にふさわしい。──番犬の獲物に」
「……てめぇ」
 罪人は俄に怒りを浮かべて刃を振り上げた、が。
「させると思うか」
 その切先が何者をも捕らえる前に、ティーシャが罪人を照準に収めて一撃。氷花舞い散る冷光を撃ち当てて腕元を凍結させる。
 そこへ桜子が桜の枝を美しく流動させて。
「永劫桜花よ、敵を縛り上げてしまえー!」
 声に応じたそれを這い寄らせ、巨躯へ巻き付かせて動きを抑え込んだ。
「今だよー!」
「ええ」
 応える紺は銃口を突きつけて引き金を引く。
 罪人は弾丸を警戒して藻掻くが、襲うのはそれよりも昏く鋭い影。『葬送の神話』──飛来する漆黒が巨躯を穿ち貫いた。
 倒れ込む罪人は、それでも拘束から逃れて剣撃を返す。だがリューデが受け止めれば、直後にはステラが治癒の光を輝かせていた。
 目を小さく伏せているのは、仲間が傷つけられるたびに悲しさを覚えるから。
 それでもすぐにしっかりと前を見据える。
「誰も倒れさせたりしないのよ」
 皆で、穏やかで平和な日常に戻す為にと、暖かな光を与えて傷を塞ぐ。
 同時に悠仁も『緋創』。獄炎で意志の力を滾らせるように、残る苦痛を拭い祓っていた。
「これで問題は無いはずです」
「済まない」
 リューデは返しながらも既に敵へ。
 桜子もハンマーを掲げて追随していた。動きに迷いないのは、自分も猫が好きなためだ。
「可愛い猫に迷惑をかける卑劣な奴は、許せないからねー」
「……ちっ、俺は猫には手出ししてないぜ」
 罪人は言いながら剣で受けようとする。が、その頭上にリューデ。
「だとしても。日向ぼっこを妨害した罪は重いと知れ」
 即ちこの地を戦場としたこと、そのものが罪咎だと。剛速で翻り一撃、刺突で肩を砕く。
 そこへ桜子が槌撃を重ねれば──バランスを崩す巨躯へディミックはきらりと蛍石を明滅させて魔法を顕現する。
 瞬間、揺蕩う幻が罪人へ自身の過去を突きつける。『俤偲ぶ蛍石』──垣間見えた悪夢の体験に、罪人は心を奪われ静止した。
「後は任せるよ」
「はい。さあ、フォーマルハウト」
 頷くカロンは魔力を送り込み、『幻想投影のフォーマルハウト』。ミミックを混沌とした巨大な姿へ変容させる。
 その巨影が罪人の半身を食い破ると──。
「これで最後だ」
 ティーシャが脚部へ煌々と赫く焔を宿して一撃。燃え盛る曲線を虚空に描きながら、巨躯を千々に霧散させた。

●猫の時間
「終わったか」
 ティーシャは武器を収め、軽く見回す。
 そこにはもう敵の跡形もなく──波音が鳴る、穏やかな静けさが戻っていた。
 番犬達はそれから周囲の修復。皆に交じり、カロンも念入りに荒れた部分へヒールをかけて美しく保っていく。
「これだけ綺麗なら、猫さんも怪我しなくてすむはずです」
「では、住人へ連絡して──猫達も呼び戻さねばねぇ」
 言って視線を巡らすのはディミック。
 とはいえ、自身の機械の体躯を見下ろして少々逡巡する。これだけ大柄だと、小さい生き物を怖がらせてはしまわないだろうか、と。
「ふむ」
 幸い、皆がそれぞれに猫を呼びに行ってくれていたけれど──自分にも出来ることを考え、ディミックは草むらの小高い一角に立った。
 そうすると遠目からでも金属の躰が目立ち、猫達が物珍しげに戻ってくる。
 こちらは動かないので怖がらせることもない。
「暫し、じっとしていようかねぇ」
 そうして待ちの姿勢で猫を引き寄せることに終始した。
 その内に、近場にも猫の数が増え始め……草むらにも多くが集まる。中にはディミックの体をよじよじと登る猫もあったけれど。
「まあ、構わないかねぇ」
 ディミックはしばらく、そのままにしておきながら──ふと景色を眺める。
「港と、人々の営みと、住み着いた可愛らしい生き物……。野良だとはいうが、距離を保ちつつお互いに助け合って生きているように見えるねぇ」
 害獣を駆除するのにも一役買っているのだろう、と。
 共存する人と動物の、平和な空気をそこに感じていた。
 港方面にも猫と人の賑わいが戻ってくれば──その姿を見送りながらティーシャは帰路へ。青空の下、道を静かに歩んでいった。

 戻ってきた猫達へ、カロンは歩み寄っていた。
 すると避難時に会った若猫達が、こちらに気づいてにゃあと鳴く。カロンはしゃがんで目線を近づけ、礼を述べた。
「ありがとう。きちんと逃げていてくれたから、助かったよ」
 撫でてあげると、猫は喉を鳴らして応える。
 他の猫も懐いてくるので……肩に乗せてあげる。すると二匹三匹と続いて、猫が皆膝や頭に上って来るのだった。
 カロンは暫しそのままゆっくりして寛ぐ。その内に遊びたくなったか、猫達がぴょんと跳んで、招くように駆け出すと──。
「よし、追いかけっ子だね」
 カロンも微笑んで追い始めた。
 にゃーにゃーと響く声に導かれるように野原を走り、猫に触れて、触れられて。途中、フォーマルハウトも猫達とじゃれ合っているのを見つけた。
「こんなふうに遊ぶのも、楽しいね」
 フォーマルハウトが体を使って頷いてみせると、カロンは傾斜を見上げて。
「じゃあ次は丘に登ろうか」
 言うとまた、猫と共に眩い太陽の下を駆け出していく。

 涼やかな林道は、そよぐ翠も瑞々しい。
 木漏れ日が光る景色を進む悠仁は──その一角で猫の群れを見つけた。
 先刻逃してあげた黒猫だ。陽光に煌めく毛並みに柔く目を細め、悠仁は歩んでゆく。
「さあ、持ってきてあげたよ」
 と、約束どおりに見せたのは猫じゃらし。
 房をふりふり振ってみせると、一匹が耳をぴこりと動かして。すぐに走り寄ってくるのだった。
 そのままじゃらしてあげると、その猫はごろごろと戯れて。
 そうして慣れている猫と遊んであげつつ、警戒している猫にもゆっくりと近づいて触れ合っていく。
 その内に周りに猫の輪が出来ると、悠仁はおやつを取り出した。
「ほら、おやつだよ」
 硬いタイプとペーストタイプの両方をあげると、猫達はにゃあにゃあと大騒ぎ。かりかり、はぐはぐと好みのおやつを食べて……なー、とお礼代わりの鳴き声を聞かせた。
「……帰ったら、拗ねないように家の子も構ってあげようか」
 微笑みつつ、そんな事を呟いて。悠仁はまた猫達と過ごしていく。

「猫さんは皆、無事のようですね……」
 怪我した猫がいないかを見て回っていた紺は、皆が健常と知って安堵の息をついていた。
 猫達はすこぶる元気で、なーなーと鳴いている。紺は足元に寄ってくるそんな猫の頭をひと撫でしながら。
「散歩、しましょうか」
 陽気の下を進み出す。
 行き先は猫次第。ふりふりと左右する尻尾を見つめながら、その後を追い始めた。
 すると茶トラや灰猫の群れが、石畳の細道に逸れるので──紺もそちらへ。涼風に鳶色の髪を揺らしつつ、なだらかなカーブを曲がる。
 そして果樹に甘い香りを感じながら……その先に続くトンネルをくぐり、旧い教会を横目に通り過ぎると。
「猫さんの秘密の場所でしょうか」
 ひとけのない、花咲く木々の間に辿り着いた。そこで沢山の猫が歓迎するように鳴いてくれるから。
「少し、休んでいきましょう」
 暫し猫と共にゆっくりしつつ。
 また数匹が散歩を始めれば、紺もついていくのだった。

 ぐるりと見回すと、沢山の猫達が瞳に映って。
「これが、本来の景色なんだね」
 戻った平和に感慨を覚えるように、桜子は笑みを浮かべていた。思い思いに猫達が過ごす眺めが、穏やかで可愛らしく。
 自分もまたその時間を共にしたいから、桜子はついてくる猫と一緒に散歩を始めた。
「涼しいね」
 海風を浴びつつ、二匹ほどの猫と歩むのは海沿いの道。
 そこから公園に入り、キジトラやはちわれを途中で加えて十匹になると、列をなしながら内陸側へ。
 畑に面した場所は、真っ直ぐに伸びる道と緑、そして遮るもののない青空が楽しめて。軽く走ると猫達もかけっこするよう、にゃーにゃー走り出す。
 そこも越えて神社を通り過ぎると、山道へ続く階段に腰掛けて休憩。
 足元にすり寄る猫を撫でつつ……魔法ではらはらと幻想の桜を煌めかせてみせた。すると猫達は手を伸ばしてその光と戯れるから、そんな光景に桜子は表情を和らげて。
「やっぱり猫って可愛いなぁ、何だか癒されるよ」
 呟くと、また散歩を再開。のんびりと歩を進めていった。

 猫達が日常を取り戻す景色の中で──ネーロ・ベルカントは労うよう、そっとステラの頭を撫でていた。
「お疲れ様」
「うん。ありがとう、ネーロも」
 ネーロも猫の避難と戦いを手伝ってくれた、だから猫が無事に戻ったことがまた一層、ステラには嬉しくて。
 それをネーロも感じて、優しく笑み返して歩み出す。
「それじゃあ、猫と遊ぼう」
 言って猫じゃらしを取り出すと、早速周囲の猫達が察知。歩み寄ってくるその姿に、ステラは瞳を煌めかせた。
「白猫さん、黒猫さん……みんな可愛い!」
「ではもっと可愛いところを、見せてもらおう」
 ネーロは猫じゃらしを激しく動かし、白と黒の猫達の視線を招く。
 そうしてごろごろとじゃれ始めると、今度はピタッと止めて。猫達が不思議そうにつんつんしてくるのを誘った。
 さらに隠してみせれば、猫達はどこに行ったかとなーなー鳴き始める。それを見てステラは驚きの表情だ。
「ネーロ、猫じゃらしの使い方上手ね! わたしもやりたい!」
「じゃあ、やってごらん」
 と、ネーロが渡してくれるのでステラは三毛猫にふりふり。
「あっ……、そっぽ向かれちゃったの……」
 眦を下げているステラに、ネーロはスマホで動画撮影しながら、しょんぼりする姿も可愛いと微笑ましげ。
 ただ、ステラはそれどころではないと言いたげだ。
「ねえ、ネーロ、どうしたら遊んでもらえるの?」
「ふふ、ごめんね……今からやり方教えるからやってごらん?」
 言うと、ネーロはこうするんだよと丁寧にレクチャー。すると、ステラがその通りにやってみると……三毛猫もごろごろ。
「来てくれたの!」
「うん。良かったね」
 言いながらネーロは撮影を継続。可愛らしい姿をしかとレンズに収めていた。

 ノチユ・エテルニタは労いの言葉と共に、巫山・幽子に団子を渡していた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます……」
 頭を下げ、もぐもぐと食べる幽子を暫し見守り──終われば早速猫の元へ。見回す幽子が楽しそうでノチユも嬉しいけれど。
「……遊び方がやっぱりわからないや」
 というわけで教えを受けつつ、黒猫の頭や腹を撫でる。
「人懐っこくて、大人しいんだな。それだけ地元の人に可愛がられてるんだね」
「そうですね……。どの子も、可愛いです……」
「ん、まぁ、かわいいと思う。……あ、そうだ。これ買ってきたんだ」
 と、ノチユがおやつゼリーを出すと……目つきの変わった猫達が雪崩込み。
「たすけて、幽子さん」
「ほら、こっち……」
 ノチユが驚きながらもふもふに包まれていると、幽子は数匹を引き取って。今度は二人で共に、おやつを与えるのだった。

 街は山を背にして海を望む。
 だから高台に上がれば、街並みと海岸までが一望できる美観。リューデはそこにふわりと降り立って、猫の姿を見つけていた。
 老猫を中心にした黒猫や茶猫──先刻日向ぼっこしていた猫達だ。
「隣で陽を浴びても、いいだろうか」
 ゆっくりと座り込むと、猫達はにゃ、と小さな鳴き声を返してくれるから。リューデは翼を広げて、一緒に寝転がる形を取った。
 すると数匹がリューデの事を見て……尻尾をゆらりと揺らす。
 自分を避難させてくれた人と知ってか否か。のそりと動くと、柔らかなその翼に乗って、リューデに寄り添う格好を取った。
「……」
 リューデはその幸せに浸りながら、微笑んで。
 目を閉じると、毛並みの感触とゆるい呼吸のリズムを手や肩に感じる。それもまた幸せの心地。
「……良い天気だ」
 そうしてまた目を開けると、まっさらな青い空と、曇りない光が眩くて。
 猫達と一緒に、太陽に香りに包まれて。夏が始まりゆく季節の下、ゆったりとした時間を送っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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