メリュジーヌ奪取戦~謀略の罪と裏切りの罰

作者:朱乃天

 今回行われた最終決選投票の結果を、ケルベロス達に伝える玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)。
「票差は僅差だったけど、最終的にはブレイザブリクを明け渡さずに、大阪城の攻性植物のゲートに決戦を挑む事に決まったよ」
 そしてメリュジーヌのコギトエルゴスムを使い、交渉しようとしてくるベルンシュタイン伯爵については、撃破してメリュジーヌのコギトエルゴスムをも奪取する。それが今回の作戦というわけだ。
 まずは交渉を担当するチームがベルンシュタイン伯爵と接触し、彼らによって交渉が成立したと思い込んだベルンシュタイン伯爵が、ブレイザブリクに近付いてくる。そこを狙って複数チームで襲撃し、伯爵達を撃破する。
 ブレイザブリクの内部にベルンシュタイン伯爵を迎え入れるのは、ブレイザブリクの機能を悪用される危険があるので、ブレイザブリクに到着するより前に強襲を仕掛ける形になるとの事だ。

「撃破を担当するのは計4チーム。キミ達にはその一つに当たってほしいんだ」
 4つのチームの主な役割は、最初に交渉を終えたベルンシュタイン伯爵を迎えに来たかのように近付いて、奇襲を仕掛けるチームがまず1つ。
 相手は交渉が成立したと考えて油断しているので、ある程度まで近付く事が可能であり、奇襲を仕掛けて時間稼ぎをした上で、他の3チームも加わり、包囲する。
 包囲を展開させる3チーム側は、ベルンシュタイン伯爵の軍勢に気付かれないように身を潜め、隙を衝く形で周囲を包囲。最初のチームが仕掛けたタイミングに合わせ、襲撃を行う流れになる。
「そこでキミ達には、包囲側の3チームの内、向かって左側を担当してもらうことになる」
 ベルンシュタイン伯爵がどの方向に逃げるか定かでない。もし自分の所に逃げてきたら、逃走を阻止して撃破する。
 逃げてこなかった場合は、代わりに私兵団を撃破して、彼らが運んでいるメリュジーヌのコギトエルゴスムを奪取する。その後は、伯爵と戦闘を行うチームか、或いは最初に奇襲を仕掛けたチームが私兵団に囲まれている状況なので、何れかの増援に向かってもらいたい。
「ちなみにメリュジーヌのコギトエルゴスムだけど、私兵団全員が『少量ずつ小袋などに入れて所持』しているんだ」
 宝箱などに纏めておくと一気に奪われる危険がある為、分散して運んでいるようである。
 従って、可能な限り敵を逃さず、全てのコギトエルゴスムを回収出来るように努めてほしい。
 ――この戦いは、大阪城の攻性植物と決戦を行う前の、云わば大事な前哨戦となる。
 決戦に向けて幸先良い報告が出来るよう、ベルンシュタイン伯爵を必ず倒して勝利する。
「戦争の行方がどうなるか、全てはキミ達に懸かっているから、後はよろしく頼んだよ」


参加者
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
黒鋼・鉄子(アイアンメイド・e03201)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)

■リプレイ

●完全包囲
 攻性植物との最終決戦を前に、ベルンシュタイン伯爵討伐へと向かうケルベロス達。
 偽交渉で騙されているとも知らぬ伯爵を奇襲する。だがもし交渉が不発に終わってしまえば、作戦は台無しになってしまう。
 襲撃役を担う一行は、敵に気付かれないよう隠密気流を纏って身を潜め、交渉の成功を祈りながらその時を待つ。
「こうして見ると、ブレイザブリクが剣の墓標みたいだね……」
 無数の剣が連なる焦土地帯を眺めつつ、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)がぽつりと呟く。
 以前の人の営みすらも失われ、荒れた大地が続く光景に、瑪璃瑠は胸を痛めるが。新たな墓標をこれから刻み、決着を付ける事を心に誓う。
「追い詰められたヤツってのは、思いもしないコトをしでかすモンだ」
 保身の為には、敵であろうと形振り構わず取引をする。そうした相手の執念に、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は半ば呆れるように感心しつつも、来るべき決戦に向けての懸念材料を減らすべく、きっちり手を打ちたいと気を引き締める。
「交渉に来た人を返り討ちにするのって、なんか卑怯な感じ。でもメリュジーヌの皆さんの為だもんね」
 正義を掲げるケルベロスにとって、今回のような手段は正攻法とは言い難い。今・日和(形象拳猫之形皆伝者・e44484)は若干戸惑いを覚えるが、ここには救出すべき生命も待っているから、ガンバロウっ、と小さく拳を握って気合を入れる。
「ふむ、このやり口……組織もなかなか勝ち戦への欲が出てきたと見える」
 片や服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)は対照的に、今回の作戦は必勝を期す為の万全の策であると評価して。気を昂らせ、戦いの時を今や遅しと待ち望む。
 そろそろ交渉を終える頃かと、瑪璃瑠が懐中時計で時間を確認。見上げた空には、白い信号弾が打ち上げられるのが目に留まる。
「不意打ちには成功したようですね。ただ、どこに逃げたかまでは不明でしょうか」
 合図の信号弾は上がったが、指定と異なる色の為、逃走方向までは判別できない。
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は周囲を見渡しながら警戒し、敵を見落とさないよう目を凝らす。
「こっちの方は手下しかいないか? だったらメリュジーヌのコギト玉、ひとつ残らず回収させて貰うぜ」
 隠密用のローブを着用しながら注視していた渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)が、向かってくる敵集団の影を捉えるが、そこに伯爵の姿は見当たらない。それならと、配下の撃破に狙いを切り替え、臨戦態勢に移行する。
 ローブを脱ぎ捨て、剣が連なる大地に手を添え、自身の魂の輝きを、極限まで高めて星の力をその手に集める。
「蒼き星の力、今この掌の中に――これは、明日を切り開く希望の力!」
 数汰の手には、地球の力と共鳴させて創った聖剣が握られている。剣を一振りすれば、青い衝撃波の一閃が、私兵の群れを斬り払う。
「敵襲だと……!? だが数ではこっちが上だ、蹴散らしていくぞ!」
 思わぬ不意打ちを食らって、一瞬怯む私兵達。しかし強行突破するしか活路がないと判断するや、気勢を上げてケルベロス達に突進してくる――その数、凡そ20体。
『かなりの団体様がお越しのようで。丁重にお持て成しと参りましょう』
 和装のメイド服に仮面を被った出で立ちの、黒鋼・鉄子(アイアンメイド・e03201)も準備を整えながら伯爵軍を迎え撃つ。
 エコーがかった声で語る口調は丁寧に、オウガメタルが発する光の粒子で仲間の闘争心を研ぎ澄ます。
「――炎よ 全てを遮る盾となれ!」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は右腕の地獄を燃え上がらせ、荒ぶる蒼き焔が前方を覆って仲間を守る炎の壁を構築し、敵の攻撃に備えて防御を固める。
 今回は大一番に向けての前哨戦。エインヘリアルに囚われたメリュジーヌを救出する為、ケルベロス達は万全の布陣を敷いてこの一戦に臨むのだった――。

●策士の誤算
 メリュジーヌのコギトエルゴスムは、兵士が分散させる形で所持している。その全てを回収するには、彼らを一体残らず殲滅するしか手段はない。
「悪いけど、ここからは逃がさないよ」
 日和が大きなハンマーを肩に担いで狙いを定め、大砲と化したハンマーからエネルギー弾が撃ち込まれると、竜が吼えるが如く激しい爆発音が轟き響く。
「さぁ! いざ尋常に、勝負ッ!!」
 長らく隠れて待機していた分、無明丸は漸く力を出せると開放気分で喜び勇み、拳を握って力を溜めて、敵集団に向かって全速力でダッシュする。
「ぬぁあああああああーーーっ!!」
 土煙を巻き上げながら距離を詰め、握った拳が眩く輝き、ありったけの力を込めて相手の顔面目掛けて殴打する。
「ぐはああああぁぁぁーーーっ!?」
 無明丸の全力全開の打撃をまともに受けて、敵兵士の一体が吹き飛ばされて地に伏せる。
「何をしている! 怯むな!!」
 一人が倒れようとも、敵は構うことなくケルベロスを排除しようと襲いかかる。
 剣を手に取り、進撃してくる赤き鎧の軍勢に対し、キソラがふらりと前に出ながら、彼らの行く手に立ちはだかる。
「イタイのはやぁよ?」
 ニヤリと不敵に笑み浮かべ、周囲に風が吹き荒れる。その身を包む旋風は、雷孕んで陣を囲んで、降りかかる厄災受ける盾となり、加護の力を味方に齎す。
「生きるんだよ、生かすんだよ。それが瑪璃瑠なのだから!」
 自身を鼓舞するように、瑪璃瑠が光刃を発するアンクを大地に突き立て、己の霊気を同調させる。すると自然の力が杖を伝って共振し、彼女の癒しの力が増していく。
「メリュジーヌの方々は、私と同じ妖精種族。ですので必ず奪取し、開放します!」
 シャドウエルフのウィッカは妖精族として、囚われた同胞達への思いを強く抱く。
 彼らをこの手で救ってみせる、と。冷気を宿した氷結輪を高速回転、生じる氷の嵐が私兵の足元を凍結させる。
「英雄級が居ない雑兵の集まりでは、俺達ケルベロスの囲みは突破出来ないぜ」
 雑魚相手なら、全力で片っ端から倒すだけ。数汰がジェットブーツを噴射させ、繰り出す蹴りは暴風を伴い、私兵を纏めて薙ぎ倒す。
『どうやらお疲れのご様子ですね。少し休まれては如何でしょう』
 鉄子がメイドらしさを前面に、折り目正しく私兵に問う。だが彼女の姿は視界にはなく、声が真上の方から聞こえてくる。
 高く跳躍しながらメイドドレスを翻し、落下の加速で重力纏った鉄子の蹴りが、私兵に炸裂。よろめく敵に、今度は煉が追い討ちを掛ける。
「エインヘリアル同士で責任の擦り付け合いねぇ。侵略者の末路とはいえ悲惨なもんだな」
 謀略を巡らせた心算が逆に利用されてしまうなど、策士、策に溺れるとはこの事だ。
 だがその結果、新たな仲間を得られる好機が巡ってきたと。煉は烈火の闘気を棍に注ぎ、伸縮自在の棍が一直線に勢いよく伸び、狼の牙の如くに私兵を穿つ。
 奇襲攻撃に成功し、優勢に戦いを進めるケルベロス達。しかし敵もやられてばかりはいないと反撃するが、癒し手達が傷付く仲間を回復し、戦線を支える役目を果たす。
 各自が役割分担しながら連携力を活かした戦い方で、ケルベロス達は陣形を維持しながら伯爵軍の親衛隊を撃破していく。

「鎖よ飛べっ。掴んだら離さないでね!」
 一体たりとも逃しはしないと、日和が念動力で鎖を投げつけ、相手の四肢に絡めて締め上げ、捕縛する。
「何人たりとも、生きては返しません」
 ウィッカが脚に理力を籠めて蹴り込むと、煌めく星のオーラが飛び交って。拘束された兵は身動き取れず直撃し、力潰えてそのまま崩れ落ちていく。
「オマエらが持ってるそのコギトエルゴスム、悪いが俺達がもらってくぜ」
 飄々と振る舞いながらも冷静に、確実に倒せる敵を狙ってキソラが高く掲げたソレは、巨大な竜の残骨だ。削げてしまえば白い塊程度でしかないが、打ち砕くには充分な威力を兼ね備えている。
 キソラはソレを軽々持ち上げ、くるりと回し、凍気を帯びた竜骨を、敵の頭上に振り下ろす。その超重力の攻撃に、私兵は耐え切れなくて、息絶える。
「同僚を売り払うような性根の腐った奴らは、一人残らず叩き潰してやる」
 功績の為なら同志ですらも見捨てるようなエインヘリアルのやり方に、数汰は怒りを露わにしながら、魔力を杖に集めて練り上げ、魔法の矢弾を放って敵を射る。
 ケルベロス達は彼らの方向に逃げた20体の内、半数以上の親衛隊を撃破する。この調子で残りの敵も倒して、仲間の援護に行こうと思ったその矢先――。
「まさか向こうの方から、来てくれるなんてね……」
 瑪璃瑠の瞳に映った影は、紛れも無いベルンシュタイン伯爵本人だ。
 どうやら彼は後方チーム側に転がり込んだみたいだが、交戦の末に今度はこちらに逃げてきたようだ。
「ここまでようこそなんだよ、伯爵様♪」
 わざわざ探す手間が省けたと、瑪璃瑠はこの上ない満面の笑顔で伯爵の来訪を歓迎する。
 一方、伯爵自身はかなりの負傷をしているようで、これも二つのチームがダメージを与えてくれたおかげだろう。
「なあっ!? こっちも回り込まれてるだと! ええい、お前達。早く私を守らぬか!」
 伯爵は慌てふためきながら周りの私兵を怒鳴り付け、命令を受けた兵士が急いで集まり、伯爵を囲んで壁を作る。
 追い詰められた伯爵は、袋の鼠も同然だ。故に絶対逃さず仕留めると――ケルベロス達は強い決意を内に秘め、最後の勝負に打って出る。

●謀略の結末
「罠とも知らずよくぞ参った! 騙して悪いが!」
 無明丸が仁王立ちしながら豪快に笑い、いつでも殴りかかれるように身構える。
「ああ。騙して悪いが、散々侵略されてっのは俺らの方なんでな。死んでもらうぜ!」
 そんな彼女の言葉を引き継ぎながら、煉が降魔の力を拳に宿し、魂喰らう一撃が、伯爵に叩き込まれるその直前――私兵が間に入って盾となり、煉の拳を代わりに受ける。
「ふっ、まあ致し方あるまい! 戦の倣いと思って許せよ!」
 煉に先を越されたものの、お次は自分の番だと、無明丸が雷を帯びた突きを伯爵に放つ。が、またもや親衛隊に阻まれてしまい、番犬達の攻撃は伯爵の許には届かない。
『往生際が悪いですね。お付きの方々には、早々に退場して頂きましょう』
 攻撃が防がれてしまう以上、まずは配下を削るべきだと、鉄子が大砲を撃ち込み、邪魔な私兵を大地に沈める。
「ならコイツらごと、纏めて吹き飛ばしてやるだけだ!」
 どうせ全員倒すことには変わりない。数汰は動じることなく戦況を見極め、嵐を呼び込む蹴撃で、私兵の群れを一網打尽に排除する。
「もう一撃キックだ!」
 更には日和が残った私兵目掛けて飛び掛かり。刃の如く鋭い蹴りで、敵の息の根を止め、また一体と仕留めていった。
 配下が守っている間、伯爵は逃げ出す隙を窺うが――気が付けば頼みの配下はケルベロス達に全滅させられ、後は彼だけしかいなくなってしまう。
「もうお終いですね。チェックメイトです」
 呆然と立ち尽くしている伯爵に、ウィッカが詰め寄り、止めを刺そうと魔力を高め、力を行使しようとした時だ――。
「……名門ベルンシュタインの当主が、こんな所で討ち取られてなるものか!」
 もう後が無くなった伯爵は、腹を括って覚悟を決めたか。表情も先程までとは一変し、眼光鋭い歴戦の騎士の顔付きになる。
 配下がいなくなったことにより、一人の戦士であった過去の記憶を思い出し――遂に伯爵自ら剣を抜き、退路を断ってケルベロス達に立ち向かう。

 ――振るう刃は覇気を纏い、赤い軌跡が虚空を裂いてウィッカに迫る。
 だがそこに、キソラが割り込み、七彩放つ闘気で全身を覆い、防御の構えを取って伯爵の剣を受け止める。
「っ……!? ただのヘタレと思っていたが、やるじゃねぇか。いや……かなり強ぇ」
 攻撃を凌いだ筈のキソラの身体が、グラリと傾ぐ。その衝撃は、想像以上に重くて硬く、ガードをしても骨まで砕かれそうな激しい痛みを感じる程だ。
「嘗ては勇名を馳せたこともあるのでな。見縊ってもらっては困る」
 発するオーラは威圧するかのような鬼迫を放ち、正に強者の風格だ。
 よもやこれ程までの手練れとは。そう考えながらも、キソラは強敵相手に力を揮えることに内心悦び、緩む口元から滲み出る血を手で拭い、闘志を奮い立たせて対抗する。
 もし伯爵が無傷の状態だったなら、さしものケルベロス達でも苦戦していたことだろう。
 本気を出した伯爵は、八人掛かりのケルベロスを相手に一歩も退かず、その後も必死に抵抗しながら善戦するが――体力は既に限界近く、深手を負った身体では、討ち取られるのはもはや時間の問題だ。
「――汝、動くこと能わず、不動陣」
 ウィッカが指で空をなぞって星を描き、呪文を唱えて魔法を発動。すると伯爵の足元に、五芒星が浮かび上がって、魔法陣から溢れる光の枷に、伯爵は動きを封じられてしまう。
「これ以上、ボクを怒らせるなよ!」
 一気に決着を付けようと、日和が両目を閉じて意識を集中。右眼を開くと溜めた力が解放されて、赤い瞳の耀きが、伯爵の全身に流れる気を乱し、内から伯爵自身を破壊する。
『では、そろそろ最後のご奉仕の時間でございます』
 慇懃無礼とも思える所作で、鉄子が弩を構えて矢を番え、螺旋の力を注ぎ込む。
『この一矢が死に至るものであることを知りなさい――――ガルド流冥弩術”冥土送り”』
 照準を合わせ、絞った狙いはただ一点。引き金を引いて撃ち放たれた矢は、一直線に伯爵の胸に突き刺さり、帯びた氷の螺旋が荒れ狂い、死に至らしめんと生命の時を凍てさせる。
 致命傷を負った伯爵は、瀕死の状態だがまだ辛うじて息がある。瑪璃瑠はこの一撃で全てを終わらせようと、残った魔力を火力に変換。眠れる力を覚醒させる。
 それは夢現の狭間にして最奥。始まりたる少女の一念――。
 魔具に継承した双子座の力によって、瑪璃瑠がメリーとリルの二人に分身。左右で相手を挟み込み、超高速の突撃を同時に仕掛けて斬りかかる。
『ユメは傍ら!』『ウツツの果てまで!』『『真名――ムゲン・クロノス!!』』
 メリーとリルが互いに交差し、Xの字状の斬撃を描くと同時――赤い飛沫が舞い散って、伯爵は力無く糸が切れたように倒れ込む。
「全ては……一族の為を思ってのことだったのだが……無念、だ……」
 死の間際、後悔の言葉を最期に遺し、伯爵の骸は光に包まれながら消滅する。
「……一族の命脈、か。少なくとも我が身だけでなく、一族のことを案じられる点では、カーネリアよりもずっと伯爵に相応しかったかもね」
 そしてその選択と結末を、誰も愚かと言わないだろう――瑪璃瑠は心の中で静かに祈り、伯爵の死を弔う。

 ――斯くして戦いはケルベロスの完全勝利で幕を閉じ、戦場一帯に勝鬨の声が木霊した。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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