考えるな、イエスと言え!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「いいか、お前等! お前等は、何も考えなくてイイ! とにかくイエス! 俺の言う事だけ聞けばいい! だから何も考えるな! 俺に従え! 分かったか!」
 ビルシャナが廃墟と化した施設に信者達を集め、自らの教義を語っていた。
 信者達はビルシャナによって、洗脳されており、目をグルグルさせながら、『イエス!』と答えを返した。

●セリカからの依頼
「キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが確認されたのは、都内某所にある施設。
 この場所にビルシャナが信者達を集め、朝から晩まで奴隷の如く働かせているようだ。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 信者達は洗脳状態に陥っているため、ビルシャナ以外の命令にも『イエス』と答えてしまうかも知れないようである。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
内牧・ルチル(浅儀・e03643)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●都内某所
「究極のイエスマンという事なのでしょうか、これは……」
 大森・桔梗(カンパネラ・e86036)は複雑な気持ちになりながら、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている施設にやってきた。
 この施設は以前まで怪しげなセミナーが行われていたらしく、沢山の被害者が出ていたらしい。
 そのため、何とも言えない如何わしい雰囲気が漂っており、依頼で無ければ近づく事さえないような場所だった。
 その場所でビルシャナが信者達を洗脳し、自分の言う事を何でも聞く奴隷にしているようである。
「何でもイエスねえ……ふふ、チョロそうだわ。こんなの、楽勝でしょ?」
 ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)が夜のお店風スーツを着込み、含みのある笑みを浮かべた。
 おそらく、信者達は思考停止状態。
 自分の意志では何も考える事が出来ないため、説得する事は難しくないだろう。
「……業務用の冷凍庫を導入しておいてよかったわ」
 そんな中、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が、ホッとした様子で溜息を洩らした。
 ある意味、これは運命。
 果たすべき使命であった。
 故に、林檎。林檎である。
「それでは、ここを鳥パラダイスにしましょうか!」
 そう言って内牧・ルチル(浅儀・e03643)が、覚悟を決めた様子で施設の中に入っていった。

●施設内
「さあ、皆さん。この廃墟を今から片付けて綺麗にしましょう! 目指すは教室風です」
 すぐさま、桔梗がパニックテレパスを使い、信者達の不安を煽って掃除を始めさせた。
「了解しましたァ~!」
 その要求に応えるようにして、信者達が慌てた様子で、施設の掃除をし始めた。
 まずは窓や柱、棚の埃を取って、床を掃き、雑巾を掛けて、仕上げに乾拭き。
 普段から清掃が行き届いているため、さほど汚れてはいなかったが、桔梗は埃ひとつ見逃さなかった。
 それはまるで、鬼姑ッ!
 わずかな汚れも逃す事なく、ハンター目線で、信者達に睨みを利かせていた。

「ほらほら、休んでいる暇なんてありませんよ。椅子と机を綺麗に並べて、ほらほら……動く!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、桔梗が信者達を煽って、煽って、煽りまくった。
 その間も信者達はダンボールを持ち上げ、あっちにイソイソ、こっちにイソイソ。
 何ひとつ文句を言わず、桔梗に言われるがまま、テキパキと掃除をしていた。
「ぐー……」
 そんな中、ビルシャナはスヤスヤ、熟睡中。
 羽毛布団の中に埋まって、幸せそうに寝息を立てていた。
 残念ながら、どんな夢を見ているのか分からないものの、見ている方がイラつくほどのエビス顔。
 思わず拳を叩き込んでしまいそうな程の笑顔に、サンドバッグという言葉が相応しく思えた。
「何でもイエスなら、これもイエスよね?」
 一方、ユーシスはテーブルの上に、婚姻届けや借用書の束を広げ、信者達の顔色を窺った。
 信者達は躊躇う事なく、イエス、イエス、イエス。
「はい、これで……あなた達は晴れて新婚さんよ! まあ、男同士って言うのが引っ掛かるけど、地域によっては行けるらしいから大丈夫! もうふたりには何の障害もないわ!」
 その流れに乗って、ユーシスが信者達の前に書類を置いた。
「はい、はい、はい!」
 信者達は書類の内容も読まず、サインを書いて、書いて、書きまくっていた。
 その姿は、ハンコを押す事だけが仕事になっている上司風。
 まるで流れ作業の如く、書類の山を処理しているため、まったく危機感が無いようだった。
「そろそろ、皆さん。お腹が空いてきませんか? 揚げたての風味抜群のからあげですよ! 定番の醤油、塩はもちろん柚子胡椒、マヨネーズ、照り焼き、キムチ、はにーますたーどとか、フレーバーも色々用意してありますよ!」
 その間に、ルチルが大量のからあげを作って、信者達を呼び集めた。
「それじゃ、いっただきまああああああああああす!」
 信者達は何の疑いもなく、躊躇いもなく、瞳をキラキラ輝かせ、ルチルのまわりに群がった。
 それは信者達にとって、御馳走!
 故に、からあげを鷲掴みにすると、何かに取り憑かれた様子で、口の中に押し込むようにして、ムシャムシャと食べ始めた。
 それは味わうというよりも、胃の中に流し込んでいる感じであった。
「……良かったら、林檎スイーツは、どう? 林檎の角切りコンポート入り焼きドーナツ、りんご飴……他にも色々とあるから、遠慮なく食べて」
 キリクライシャが怪力無双で業務用の冷凍庫を運び込み、その中にしまってあった林檎のスイーツを信者達に配っていった。
「もちろん、いっただきまァァァァァァァァァす!」
 信者達は血に飢えたケモノの如く、瞳をギラギラさせながら、林檎のスイーツを受け取って、迷う事なく口に運んでいった。
 そのため、みんな腹が膨れてポンポコリンになっていたが、途中で食べる事を止める事はなかった。
「……って、何をやっているんだ、お前達! それは俺の奴隷だ! お前達の奴隷じゃない! それなのに、なんだ! 勝手な事をしやがって!」
 その途端、ビルシャナが飛び起き、ブチ切れた様子で、ケルベロス達を叱りつけた。

●ビルシャナ
「俺の奴隷……ですか。人間は考える葦である、なんて言葉が有るように、考える事を止めたら人間終わりですよ。心も意思も無く何も生み出さない……つまりブラック企業に使い潰される感じの。ああっ、何という資源の無駄遣い! この世情に逆行する流れです!」
 桔梗が残念なナマモノを見るような感じで、ビルシャナに視線を送った。
 何となくビルシャナの頭からカラカラと音が聞こえているため、カラッポとまでは行かなくても、コンパクトサイズの脳味噌が音色を奏でているような感じであった。
「だから、どうした! みんな、俺の奴隷だ! お前等が何と言おうが、俺が法律ッ! 俺の言う事だけが正しく、他は悪ッ! 絶対的な悪だ! だから、お前達に文句を言う権利はない! 無論、意見をする権利も……ない! お前達は、ただ俺の言う事を聞けばいい。何の疑いのなく、息を吸うように、な!」
 だが、ビルシャナはまったく悪びれておらず、躊躇う事なくキッパリと断言!
 自分には全く非が無いと言わんばかりに堂々としており、踏ん反り返るほどの勢いで胸を張っていた。
「それにしても、鳥っていいですよね。外見を愛でてよし、羽毛は布団によし、肉こそ食べてよし! 本当、美味しそう……」
 そんな中、ルチルがビルシャナを見つめ、じゅるりと涎を垂らした。
「な、何が言いたい。ちょっと、待て! なんだ、その目は! おい、こら、待て! 俺を何かと勘違いしていないか? 俺は御馳走じゃないぞ!? それなのに、なんだ、それは……。おい、こら、待て! 待ってくれ! もう少し冷静になって、俺を見ろ! 俺はメシか? 違うだろ! どう見たって、鳥とは違うだろ? それなのに、喰うつもりなのか? ダメだ、絶対にダメ! よく考えてみろ! 美味いと思うか? 絶対に美味くない! 美味い訳が無いんだ、考え直せ! 今なら、まだ間に合う!」
 その視線に気づいたビルシャナが、必死になって命乞いをし始めた。
 だが、状況的には、まな板の鯉状態!
 状況的には、まな板の上でピチパチ跳ねているようなモノなので、既に未来は決まっていた。
「……林檎と鳥……どちらが美味しいのか、ここで確かめる必要がありそうね」
 その流れに乗って、キリクライシャがテレビウムのバーミリオンと一緒に、シャキィーンと包丁を輝かせた。
 既に、林檎か鳥の美味さなど関係ない。
 とりあえず……食う!
 喰ってから、考える!
 そう言わんばかりにシャキィーンであった。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は美味しくない! 絶対に美味しくない! だから止めろ! こんな事をしても後悔するだけだ! そんな事をして、何の意味がある。ある訳がないだろ! むしろ、損をするだけ。例え、食べても、みんなで御通夜みたいな顔になるぞ? いや、おやつじゃないぞ、御通夜だからな! だから、寄るな! こっちに寄るな! つーか、なんで信者達まで寄ってくる!」
 その事に危機感を覚えたビルシャナが、命懸けでケルベロス達を説得し始めた。
 だが、ケルベロス達だけでなく、信者達までシャキィーンである。
 みんなに目をギラギラさせ、目の前の御馳走に、まっしぐら!
 頭の中がチキンで埋め尽くされてしまっているのではないかと錯覚してしまう程、みんなビルシャナに夢中であった。
 もちろん、ビルシャナも、こんな状況で無ければ、喜んでいた事だろう。
 しかし、この状況は違う。
 絶対に求めていたものではない。
 そう確信しているせいか、恐怖のどん底にいるような感じになっていた。
「嘘を言ったら、駄目ですよ。だって、ほら……こんなに美味しいのに……」
 次の瞬間、ルチルが血襖斬りを仕掛け、ビルシャナを斬り裂くと同時に、返り血を浴びて、舌舐め擦りをし始めた。
「や、やめろ! こっちに……来るなァ! やめろ、やめろ、やめてくれ! マジでやめろ。考え直してくれ。話せばわかるから! なっ! なっ! なっ! それとも、あれか。金が欲しいのか? だったら、好きなだけくれてやる! だから考え直せ! 今なら、間に合う。絶対に間に合うから……! で、でも俺を喰ってからじゃ手遅れだ! だから……考え直してくれ」
 ビルシャナが全身に鳥肌を立たせ、ジリジリと後ろに下がっていった。
「少し黙っていてくれる? ハッキリ言って、うるさいから」
 それと同時に、ユーシスがドラゴニックスパークを発動させ、敵の足元から雷を纏ったドラゴンの幻影を放ち、天に昇る幻影と雷でビルシャナを貫いた。
 そのため、ビルシャナは断末魔をあげる余裕すらなく、こんがりと焼かれて絶命した。
「それじゃ、チキンパーティを再開しましょうか」
 そう言ってルチルが物凄くイイ笑顔を浮かべながら、チキンパーティを再開するのであった。
 そのため、信者達は大興奮!
 ナイフとフォークを持って、飛び上がるほどの勢いで、ヒャッホーと歓声を上げた。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月7日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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