流水のごとき切断する者たち

作者:塩田多弾砲

 そこは、中小規模の工場が集まっている場所。決して規模は大きいわけではないが、その分『技術力』は、大企業には決して劣っていない。
 その工場、ないしは倉庫の中を。
 手の平程度の大きさのダモクレスが、虫のような足で這い回り……。
 埃避けシートをかけられ、放置された大型の機械へと潜り込んでいた。

 牛丼屋『ロビン』。
 部亜九朗がオーナーとなった後も、お得意様として通っているある男は、
「牛丼十人前! 持ち帰りでな」
 いつもの注文をしていた。
 作業着姿の彼の胸には、『久川』の名が。
 彼が向かったのは、一区画先の工場。正面の看板には『有限会社・久川素材加工』。
 内部は広い作業場で、作業員たちが工作機械を用い、素材加工の真最中。
「おい! 昼飯買って来たぞ! 休憩だ!」
 社長の声に、社員たちが作業の手を止め、牛丼を受け取り昼休憩に。しかし、最後の社員が、
「あの、社長。倉庫の方から……何か音が聞こえてきます」
 そう言ってきたので、久川社長はその社員を連れ、扉に隔てられた作業場の隣りに、倉庫に、二人して向かっていった。
 扉からは、確かに何かの音が。
「……なんだ?」
 そう言って、扉を開こうとした、その時。
 何かが、扉の向こうから『レーザー』のように放たれ……社長と社員の両方の首が切断された。
 そればかりか、扉そのものも切断。大きく切り飛ばされ、扉の向こう、倉庫から……、
『そいつ』が這い出て来た。
『そいつ』の下半身は、完全な箱状。
 下半身に対し、やはり箱状の、人型に見えなくもない上半身と、工業用ロボットアームめいた四本腕。腕の先端から、レーザーのように細く鋭い『水』が放たれた。
 周囲の壁や機械、それに『人間』たちをも簡単に切断したそいつは……、
『ヴォー・ダー、ヴォー・ダー、ヴォー・ダー……』
 不気味なつぶやきとともに、外へと歩き出した。

「少し前に、カセットプレーヤーがダモクレス化した事件がありましたが……」
 セリカの言う事件は、既に伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)たちにより解決済み。
 そして、そこからさして離れていない場所に。新たなダモクレスが出現したのだ。
 場所は、街中の素材加工の中規模な工場。広さはそれなりだが、作業場の奥には扉と壁を隔て、倉庫が存在する。
 倉庫には資材や、今は使わない機械装置などをしまい込み、保管している。今回の素体になった機械も、ここに入れられていたものだ。
 工場のすぐ隣には、屋外の資材置き場があり、現在は空き地に。戦うのならそちらに誘導するのが良いかもしれない。
 近隣も多くが資材置き場や小中規模の工場であり、一区画先にようやく牛丼屋がある程度で、人の行き来はあまりない。この『久川素材加工』も、工場の真向かいは川になっており、基本的に周囲に人の姿は無い。
 工場内には、社長の他、社員が十人。この十一人を避難させるのは、それほど難しくはないだろう。
 むしろ難しいのは、ダモクレスの攻略の方。
 今回のダモクレスの素体は、
「……倉庫に置かれていた『ウォータージェットカッター』。素材加工用の機械で……『水』を超高圧で噴出させ、石材や金属などを切断したり彫刻・彫塑したりする事ができます」
 水流の速度はマッハに近くなり、0・1mmから1mmの噴出口から放たれる水は、人体など簡単に切断できる。さらに、水流の速度を落とし、ガラス面など広範囲についた汚れを落とす事もできる。
「このダモクレス、能力から『ハイドロキラー』と呼称しますが、全体的な形状は……」
『足の無い箱状の下半身』『箱状の胴体に、ロボットアームが四本付いている』というもの。
 箱状の下半身、地面に面した場所にある、無数の小型脚で移動。
 腕には太いホースが内蔵され……それが背中の水タンクに繋がり、そこから水を引いているようだ。そして、四本腕の先端からレーザーのような水を放つのだ。

 たかが水、と侮れない。ケルベロスとはいえ、直撃したら重傷は免れないだろう。
 超高熱や超低温などのグラビティを用い、水を蒸発または凍結させられれば、なんとか攻略の糸口はつかめるかもしれない。
「ですが、ウォータージェットカッターは、実際に火災現場で消防活動にも用いられます。生半可な炎では蒸発どころか消されるかもしれません。むしろ、攻撃や防御には、『冷気』を用いる事も念頭に置いた方がいいかもしれないです」
 さらに、『ハイドロキラー』は、背中のタンクに水をため、そこから水流に用いる水を腕に供給している。これはどうやら、五分ほどで空になってしまう。
 だが、近くに水道など水源があれば、そこに移動し一分で補給。タンクを満タンにしてしまう。
「工場から出たら、そこは川です。川から水を補給されたら、おそらく皆さんに勝ち目はないでしょう」
 基本的な作戦としては、

『ハイドロキラー』に水を使わせる。
 給水タンクが空になるまで最低五分、ないしはそれ以上の時間を、防御しつつ耐える。
 水を使い切り、水源に移動しはじめたら、そこを一斉攻撃。

「……といった感じになるでしょう。ただ、何度も言いますが……『防御』だけは万全にしておいてください。参加される方は全員、盾や装甲、それらに準じた防御手段を有さない事には……最悪即死するかもしれません」
 セリカの『警告』に、君たちは怖気を感じた。しかしそれ以上に……『この恐ろしい相手と戦い、倒さねば』という気概もあった。
 すぐに君たちは、参加を決め……『水』を相手にどう戦うか、作戦を練り始めた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●冷たい雫寄り添って、泉の清水になるんです
「……エイクリィ、見たか? あの店、音楽喫茶『エーリッヒ』と言うらしいぞ?」
 工場の向かい、河川の向こう岸の喫茶店の看板を見たユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)は、自分が連れているミミックに語っていた。
 そしてすぐに、視線を工場に戻す。
「じきに、この場所に危機が訪れ、戦場と化す。故に、避難を促すもので在る」
 声掛けをするユグゴトに、
「……なんだ、あんたら?」
 牛丼を手にして戻っていた久川社長が、戸惑いを見せていた。
「私たちは、ケルベロスデス。社長殿、それに社員殿一同。この場所に危険が生じるのデ、急いで皆さんと避難してくださイ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が、久川社長に語り掛ける。
「……よくわからんが、わかった。おい皆! すぐに避難しろ!」
 エトヴァの凛とする風の効果か、社員たちがすぐに出てくる。
「んうー……避難。ついてきて」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が、彼らに付いてくるよううながし、
「さ、みんなこっちこっち。はやいとこ逃げないとな」
 櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)と、
「こちらへ。慌てずにお願いしますね」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)が、誘導する。
「社長殿、私たちで事前にこの周辺の事は確認しておきました。できるだけ遠く……一区画先の、あの場所にまで避難して頂けますか?」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)の言葉に、
「……ま、大事になるんなら仕方ねえな。終わったら、教えてくれよ?」
 そう言いつつ、社長と社員たちは全員、そちらに向かっていった。どうやら、避難の方は滞りなく済みそうだ……。
「おい! みんな気を付けろ!」
 そう思った皆の耳に、上半身裸の仲間、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)の警告が響く。
「……動体反応有り、敵さん、出てくるぞ」
 全身金属製の、頑強そうな鋼鉄のロボットが、泰地に並び立ち、戦闘態勢を。
 彼の名は、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)。
 社員が立ち去り、ケルベロスが代わりに入る。予見で見かけたという、工場奥の『壁』。それが向こう側から、何者かが、
 細い『流水』を放ち、それを以て『切断』し、
 壁を切り刻んだ後、『進み出て』きた。
「……あれが、『ハイドロキラー』か!」
 相手にとって不足なし。全身の筋肉を、戦いを前にして震わせ、泰地は駆け出した。
「……SYSTEM COMBAT MODE。『RED EYE ON』」
 続き、全身が鋼鉄の戦士も、同様に戦いの中に駆け出した。

●優しい流れ重なって、小川の清水になるんです
「援護は……任せろ!」
 泰地が放つは、『螺旋弾』。豪快なる正拳突きから放たれたそれは、『螺旋足止弾』。
『ハイドロキラー』の足下に打ち込まれはするも、その動きを多少鈍らせ、立ち止まらせはしたが。あまり効果的なダメージを食らったようには見えない。
『ヴォー・ダー! ヴォー・ダー!』
 逆に『ハイドロキラー』の流水が、泰地を襲う。四本の死の水流が、レーザーのように襲い掛かるが、
「おおっと!」
 グレーターウォール……用意していたタワーシールドにより、それを防ぐ。が、
「……ぐっ……はあっ!」
『水』はシールドにより、切断は防いでいた。が、打撃は防ぎきれず……泰地の手からシールドを弾き飛ばしてしまった。
 そのまま泰地の肩と脇腹と、太腿と胸に命中し、貫通した『水』は、
 彼を吹き飛ばし、壁と床にたたきつけていた。鮮血が、工場の床に流れ出る。
「TARGET IN SIGHT……『ZERO GRAVITON』SHOOT」
 すぐさま、マーク・ナインのバスターライフル『DMR-164C』が火を噴き、『ハイドロキラー』を若干弱体化はさせたものの……やはり、『若干』。
 だが、時間は稼げた。すぐにヒールドローンを用い、泰地を助け出すマーク・ナイン。
「……ARE YOU OK?」
 彼の問いかけに、
「……こ、この程度、平気の平左だ……がはっ!」
 言葉と裏腹に、血を吐く泰地。
「こちらに!」
 戻って来たジェミが、マインドシールドで泰地を治癒する。
「……むい」
 そして、避難させ終え、戻って来た勇名は。やや顔を曇らせていた。
「……こいつは、また。宴会で水芸やらせたら、さぞウケが良いだろうな」
 千梨もまた、淡々とした口調でそんな軽口を叩くが、その眼差しは油断なく敵へと向けている。
「狙いは正確で、しかもすさまじい威力ですね……思った以上に……」
 厄介であり、攻略が難しい。レフィナードはその言葉を呑み込んだが、他の皆も同じ結論を悟っていた。
「……ふん。いいだろう、貴様の絶叫に耳を傾け……水も滴る、素敵な母親で在りたい」
 ユグゴトが鉄塊剣を、長く禍々しい名称の剣を手にして突進し、斬りつけようとするも……、
 足下に『水』が打ち込まれ、身体も狙い撃ちされそうになる。ヒールドローンが無ければ、直撃も免れなかったやもしれない。
「ならば! ……『殺せ、殺せ。殺して終え』」
 囁き、語り、言い聞かせるは、
「……『奴が我等を滅ぼすものだ。殺される前に殺して終え』」
 風と共に投げし言葉。精神操るその言葉、木々に潜みし乙女の言葉。
『林の乙女(サツイ)』の混乱が、『ハイドロキラー』に襲い来る。鋼の身体を困惑させつつ、そいつは迷い、動きを止めた。
 ……わずかな時間のみ。
 すぐに持ち直し、再び四本腕の射撃。しかもそいつは、出現してからほとんど前進しようとしない。
 再び、『ハイドロキラー』の射撃が。しかし今度は、
「……刻印『雪華』」
 ジェミの『Stamp snowflake(スタンプスノーフレーク)』……六花の紋様、召喚された雪の白き結晶を、『水』への盾として当てたのだ。
 相殺され、『水』は細長い氷と化すも……本体にダメージは無い。
 それどころか、氷と化した『水』は……、針となって、ジェミに突き刺さっていた。
「……そう簡単には、防げないようですね」
 痛さと冷たさを味わいつつ、ジェミはうめいていた。

 今現在、ケルベロス達は工場の入り口近く、物陰に隠れ固まっていた。
 かろうじて、敵の『水』に当たらずに済んでいるが……、
「ジェミ、傷の具合ハ?」
「大丈夫、泰地さんの傷は塞がりましたよ。エトヴァ」
「ああ、もうへっちゃらだぜ! っていうかジェミ、あんたの負傷も手当しねーと」
 負傷は回復した。が、現状は停滞している。
 この位置からでは、遠距離の攻撃は当たるが、あまり打撃にならない。加え、接近戦を挑もうにも、狙い撃ちされるのみ。
 そして、敵は容赦なく打ち込んでくる。現在もまた、狙撃兵のごとく……全方位を警戒し、動くもの全てを狙っているようだった。
 空地の方から回り込んで、接近戦を挑もうとしてみるも……それもすでに看破され済み。
「こうなれば……」
「センリ?」
「当初の作戦通りに、いきますかっと」
 千梨の言葉を、エトヴァはすぐに理解した。つまり……、
『五分間撃たせて、水切れを誘う』
 その作戦を実行せんと、
「OK……LETS GO」
 マーク・ナインがまず進み出て、
「今度はヘマしないぜ!」
 泰地、そして、
「絶叫せよ、死すべき莫迦者。母親たる私に、その叫び聞かせよ!」
 エイクリィを連れたユグゴトが、それぞれ向かっていった。

●希望の清水が、蘇るでしょう
「TARGET LOCK……『FROST LASER』FIRE」
 マーク・ナインは、再び『DMR-164C』を構え、今度は冷たい光線を放つ。それは、『ハイドロキラー』のボディ表面に霜を作りつつあった。
 四本腕、その先端もまた、凍り付いている様子。しかし……すぐにバリバリと、溶かす音が。
 水流の一つが、マーク・ナインの装甲に直撃し、その表面を削る。
「愛しき鋼鉄の仔よ、見事で在る! 母もそれに続こうぞ!」
 すかさず、トラウマボールを放つユグゴト。
「俺も続くぜ! さっきのお返しだ!」
 続き、ドラゴニックハンマー『黒金式大型破壊槌『鉄塊』』より、轟竜砲を放つ泰地。それら攻撃は、『ハイドロキラー』にダメージを蓄積させるが、『水』の逆襲までは免れない。
 ジェミのサークリットチェインにより、こちらの防御は上がっていたが……それでも、敵の攻撃は正確で致命的。
 そして、この位置からでは。背中のタンクには狙いが付けにくかった。腕には攻撃が何度か当たりはしたものの……効果的なダメージを与えられたとは思えない。
 新たな『水』の狙撃が襲ってくるが、
「……はっ」
 千梨の熾炎業炎砲の炎が、かろうじて相殺。
 やがて、『五分』以上が経過すると、
『ハイドロキラー』は、水が切れたのか。
 射撃を停止させ、前進し始めた。
「……結構、移動速度が速いですね」
 レフィナードは、工場内の機械や設備を跳ね飛ばしつつ、迫ってくる『ハイドロキラー』を見据えながら……ビームシールドを油断なく構えた。
 射撃は止まった。しかしそれは、タンク内の水が切れたから……ではなく、『そう思わせている』意図はないか? ユグゴトらが突撃しようとした時、レフィナードは警戒し、彼女らを止めていたのだ。
「……なんとなく、ヤなかんじ。むい」
 それは勇名も同様らしい。
「勇名殿も、そう思いますか。ええ……どうにも嫌な予感がします」
『水』を撃ってこない。水切れだから? それにしては……今まで発射した水の量が、それほど多いとも思えない。
 まるで巨象に跨ったバーバリアンの戦士のように、突進してきた『ハイドロキラー』は、
 いきなり、立ち止まった。そして、
「っ! やはりっ!」
「気をつけテ! ヤツは、まだ撃てマス!」
 レフィナードとエトヴァの指摘通り、腕を構え、水を放ってくる。
「……ちっ」
「来るか!」
 千梨が舌打ちし、ユグゴトは鉄塊剣を構え直す。
 しかし……、
「やはり……そう来ると予測してましたよ。勇名殿!」
「おー。うごくなー、ずどーん」
 レフィナードの叫びとともに、
 勇名は、ポッピングボンバーを放っていた。
 足元で放たれたミサイルの爆発と煙が、『ハイドロキラー』を足止めし、前部を破壊する。
「はっ!」
 すかさずレフィナードが、クリスタライズシュートで敵を凍らせる。
「COVERING FIRE ATTACK……FORTRESS CANON FIRE」
 それに続き、マーク・ナインは。脚のパイルを地面に打ち込み、アームドフォート『XMAF-17A/9』からの援護射撃を食らわせた。
 ……それは、『ハイドロキラー』本体のみならず、工場内の、『天井』と『壁』にも命中し、それらを破壊し、ガレキの雨を降らせ……、
 敵を生き埋めにする、という結果をもたらしていた。
 降り注ぐ天井の鋼材が、背中のタンクに直撃して穴を穿ち、腕を切り飛ばす様子を、ケルベロス達は見届けた。
「やりましたね! お見事です!」
 ジェミが快哉を述べるが、
「……いや、まだ喜ぶのは早そうだ」
 千梨の言葉通り。瓦礫の山を掻き分けた『ハイドロキラー』が、更なる突進を繰り出してきたのだ。

 すでに腕は二本が切断され、一本ももげかかっている。タンクには穴が空き、まだたっぷり残っていた水が、そこからは溢れていた。
 が、『水』は発射されない。今がチャンス!
 水を求める巨獣のように、川へ突進する『ハイドロキラー』へ、
「ドラゴニックスマッシュ!」
 泰地が大鎚を叩きこみ、表面装甲を吹き飛ばす。
「母のこの剣、名状しがたき禍々しき刃の口づけで、動かぬ骸と化せ!」
 続いてユグゴトが、デストロイブレイドの容赦ない刃を叩きこんだ。彼女に続き、エイクリィのガブリング……噛みつきが、歯型を敵に刻み込み、一部をちぎり取る。
「ほらよ、どうせ逃げるんなら、空き地の方だ。鬼さんこちら、ってな」
 千梨が氷結輪による、ニブルヘイムシール……魔法の霜の領域を作り出し、足元に張り付ける。
 しかし、誘導に乗らない『ハイドロキラー』は、無理やり張り付いた足を千切り突進。立ちはだかるケルベロスらへ体当たりを。
 そのまま『ハイドロキラー』は、川に逃れようとする。
 が、
「……えとば、びりびりーを、おねがい」
「了解デス! センリも一緒にお願いしマス!」
 勇名の言葉を受け、エトヴァはエレメンタルボルトからの、『ボルトストライク』の直撃を放つ。
 それに続き、
「おうさ。……『満ちろ黒雲、奔れ雷電』」
 千梨は、御業の雷雲を招き、
「……『紅蓮の闇で、塗りつぶせ』」
『散幻仕奉『神雷』(サンゲンシホウ・シンライ)』……神威の一端を借りた稲妻を、敵へと放つ。
 爆発し、黒焦げの残骸と化した『ハイドロキラー』だが、
「……気を付けてください! まだ動いてます!」
 ジェミの指摘通り、そいつは最後の力で動いていた。切れたホースの先端を川の水面に垂らして水を補給し、最後の一撃を勇名に撃たんとしていたが、
「……これ以上の放水も、給水も、赦さない」
 残った腕を、ユグゴトが鉄塊剣で切断。さらに返す刀で本体も両断し……、
「……ゆぐごとちゃん、ぐっじょぶ。んうー」
 止めをさし、勇名の危機を救っていた。
「COMPLETE A MISSION……皆、お疲れさん」
 マーク・ナインの声とともに、皆は、戦いを終え、安堵の溜息をつくのだった。

●ウォーター・フィクサー。明日を救え、ケルベロス
「もう、大丈夫ですよ……とは、まだ言えませんね。あ、タオルどうぞ」
「ん。ありがと。これからなおさなきゃー」
 事後。
 ジェミからタオルを受け取り、顔をふきふきする勇名。
 彼らの前に広がるのは、破壊された工場の情景であった。
「はあ、やれやれだな。もう一仕事、ってとこか」
「そうだな。ヒール、始めるとするか」
 千梨の言葉を受け、レフィナードはヒールを開始する。
「俺も手伝うぞ。もうひとふんばりだ」
 マーク・ナインも、ヒールドローンを展開。
 さらに数刻後、
「……お疲れさん。……あんたら、大丈夫かい?」
 工場長が戻る頃には、ケルベロス達はくたくたになりつつも、ヒールを完了させていた。
「……な、なんとか、大丈夫、です」
 ジェミが答える。
 グラビティで皆に治癒を施していたが、緊張の反動からか、心が疲れた気分だった。
「もしよかったら、お礼代わりに、皆に牛丼を奢ろうか?」
 その申し出に、
「うん。それじゃお言葉に甘えるかな」
「そういえば、昼食を取って無かったな」
「うむ、牛の死肉と穀物の変容したものか。私も相伴に預かろう」
 千梨とレフィナード、ユグゴトが承諾していた。
「……良かった」
 そのやりとりを見て、ジェミは、他の皆は、満足を覚えていた。
 ひどく疲労させられたが、このように市井の人間の生活を救う事が出来た。
 その事を実感し、気持ちを新たにするケルベロスたちだった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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