彼の屍を越えて

作者:久澄零太

「ゴフッ……」
 四夜・凶(泡沫の華・en0169)は突如咳き込み、口元を覆う。放したその掌は、赤く染まっていて……。
「もはや、これまでか……」
「ま、待て、待ってくれ凶。お前が逝ってしまったら、私は……」
 得物を置き、震える手を伸ばすブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)へ、凶は小さく首を振った。
「私の体は限界です……どうか、ご武運を……ていうか自己責任じゃないですかなんとかしてください……」
 最期に半眼ジト目を残し、力尽きた凶に代わって、大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はブリジットへ得物を……『デザートフォーク』を差し出して。
「持ってきちゃった分は、食べよう?」
 初めてのスイーツバイキングで、ブリジットが調子に乗ってとってきたケーキの山を示すのだった。
「という事が昨日ありましてね」
 既に目が死んでいる凶がちょうど暇してた番犬に語ったのは、後に『ケーキバイキング事件』と語られる、しょーもないけど、よくある失敗談だった。最初にとりあえずガッツリ持ってきて、ペロリたいらげ「む、存外食べられるものだな……」などと思ってしまったが最期、二回目の山盛りを前に飽きが来て、口の中が甘ったるくなって美味しかったケーキタイムが拷問に姿を変えるのだ。
「ヒーローと満腹感は遅れてきますからねぇ……しかも、その帰りにブリジットがですね」

「ケーキなどに負けていられるか!凶、甘くないケーキを作れ!それなら今度こそ完食できる!!」

「などと、わけのわからない対抗心を燃やし始めましてねぇええええ……」
 負けず嫌いが悪い方に出ちゃったかー、と察した番犬の肩を掴み、深淵の瞳で凶が見つめる事には。
「しかし私の体は既に甘い物を拒んで、思考が纏まらないのです。どうかお手伝い願えませんか……!?」
 というわけで、みんなでお菓子作りするんですって。君達はせっかくの誕生日だから、と手を貸してもいいし、厄介事の気配を感じて全力ダッシュしてもいい。


■リプレイ

「苦戦しているようだなブリジット!」
「貴様は……ランスルー!」
 戦場で邂逅したかのような人馬二人組だが、ここは調理場です。
「思えばアスガルドで苦い敗戦を経験した時もそうだった……容易に倒せるからと突き進みまんまと敵の縦深防御にとりこまれたのだ」
「我々は速度を刃に敵陣を蹂躙する先遣部隊……それ故の苦汁だったな……」
 何やら不思議な会話をしているが、本人達が楽しそうなのでそっとしておこう。
「勝つためには、俺たちにとって有利な相手を選んで確実に攻める必要がある」
 ここで取り出したるはプレーンケーキ。
「まずスポンジケーキの上に好物をのせる……ブリジットは何が好きだ?」
「甘い果物なら何でもいいぞ。カロリーさえ摂れれば体は動く。それが糖分なら吸収効率もいい」
「相変わらず効率重視だな!!」
 モモを並べたらスポンジを重ねて、メロンを並べたらスポンジを重ねて……。
「十分に高さが確保できたら最上部をスポンジケーキで閉じて全体を生クリームで覆ったら完成だ。俺たちの勝利は疑いない……さて食うか」
 やり切った顔をするランスルーだが。
「昨日のケーキと形が変わっただけなんだが?」
 ブリジットが余計な事に気づいた所で、絶華参戦。
「甘くないケーキ……任せろ。圧倒的なパワーを秘めたチョコケーキだな!!」
 一瞬何言ってんだ?って思ったけど、ブリジットが効率優先な人だから何も間違ってなかったわ。
「甘さを排し、滋養強壮効果を得るならば、材料はこれしかない」
 絶華の一分クッキーング☆
「冬虫夏草等の漢方、ローヤルゼリー、毒抜きをした蜂や蝉諸々の滋養効果のある虫類、そして何といっても……」
 火薬かな?って色彩の粉末、その正体は。
「十倍濃縮した超高濃度カカオ!」
 ちなみに、九十パーセントカカオのチョコとか食った事ある?もはや苦いって言うより辛いレベルのやつ。アレの十倍の強度を持つ調味料が、ダバー。
「お、おい……」
「ブリジット……分かっている」
 彼女はオチを察して止めようとしたのだが、絶華は語り始めてしまう。
「お前が耐えられなかったのは体が甘味だけではパワーを得られないと悟ったからだ。そしてその意志に敬意を評し!我が全霊をかけて完食させて見せる!」
 こうしてできあがったのが、漆黒の円柱。
「圧倒的なパワーを秘めたバレンタインチョコむしケーキだ!二、三日は活動できる活力を込め、解毒作用も持ち、高たんぱく低脂質で美容健康にもいい!!」
 紹介文は素晴らしいが、ブリジットとランスルーの脳裏には、蟲が磨り潰されて溶けあっていく蠱毒の鍋が過る。
「……凶、昨日は甘さでやられたとか言ってたよな?」
「ん?凶も甘くなければ平気?任せろ!今こそ宇宙を感じ!体に溢れる圧倒的なパワーに歓喜の叫びをあげよ!」
「……」
 ブリジットに呼ばれた凶だが、絶華の手にある暗黒物質を見て、察した。そこに遭遇してしまったミリムの目から、光が失われて。
「……来るところを間違えてしま」
「私は彼女のお手伝いに入りますからお二人でどうぞ」
「ひっ!?」
 回れ右したミリムは凶に両肩を掴まれ、半ば連行される形で調理台へ……で、残された方は。
「くっ、ランスルー!ここはせめて共同戦線を……いない!?」
 ブリジットの横には、一通の置手紙。

 ――騎士は速度を貴ぶものだ!

「逃げられた……!」
 爽やかに笑うランスルーを幻視するブリジットの腰を、絶華がポン。
「宇宙的歓喜の時間だ……さぁ、圧倒的パワーを味わえ!!」

「甘くないケーキを希望するのですね。それなら私も作れますよ」
「巻き込んでしまってすみません……」
 ブリジットの断末魔を聞きながら、ミリムは袖をまくり微笑んで。
「まずはキャベツです!」
「キャベツ!?」
 ミリムは千切りキャベツに小麦粉、山芋を加えて、具材と混ぜ合わせたら大型の鉄板に広げて肉を貼り。
「お好み焼……ケーキです!ささ、冷めないうちにソースとマヨに鰹節に青のりと!」
 五段重ねのお好み焼き。甘さに疲れ切った今、ありがたい一品……。
「凶くんハピバー」
「食われてる!?」
 しかし、エヴァリーナに奪われてしまった!
「いやー、甘くないお好み焼きでもケーキと同じ現象起きてしまうのですけれどもね!満腹感が遅れて、ね!」
 果たして食べきれるでしょうか!?って顔をするミリムだが、渾身のお好み焼きケーキは一分ともたずに完食されてしまい、逆にミリムの方がポカン顔である。
「お料理するとなぜか途中で全部消えちゃってたんだけど、ちょっと前に初めてのケーキ作りに成功したんだよ!甘さ控え目のケーキ作ればいーんだよね任せてー」
「……成功、したんですよね?」
 調理場に立つエヴァリーナ、その口元にはソースに混じって、クリームが……。
「ちょっと前って、いつですか?」
「待って、違うの、話を聞いて?」
 冷や汗交じりのエヴァリーナがいう事には。
「なんでかね、材料が全部消えちゃうの。どんどん材料足せば大丈夫かな?って、野菜に果物を追加して、切ってね、小麦粉と牛乳を混ぜてね?でも、気が付いたらホットケーキサンドになっててね?あれなんか違うなって思ったらもうなくなっててね?」
「手軽なものを作って、できたそばから食べてしまっただけでしょう?」
 呆れ顔でため息をつくのは、番犬印の特殊収納ケースを持ちこんだアウレリア。その箱を見て、エヴァリーナはクッと奥歯を噛み。
「……うん、先に謝っておくよ。私は一応、止めようとはしたんだよ?でも無理だったんだ…」
「巷では寿司ケーキに肉ケーキ、星見る魚のパイもあるのだから、ケーキは甘いデザートでなければいけない、なんてただの先入観にすぎないわ」
 二人の謝罪と前置きから、凶は箱の中身を察した。
「この世で最も至高な美味とは辛さよ。折角のお誕生日なのだし私が、最高の味【辛味】のケーキを作って差し上げるわ」
 重力鎖認証でロックを解除するアウレリアの背後、アルベルトがオロオロと荒ぶり、ハッとしてフリップに書いた言葉が。
『逃げて』
「最近は地球産唐辛子に限界を感じていてね。攻性植物化した唐辛子から更なる美味を追求したソースを作り出したのよ……何故だか地上で調理する許可が降りないので大まかな調理はうちのお台所で済ませてきたので、後は仕上げて飾り付けるだけ、ね」
「なるほど、ノーチェ家秘伝の特別な料理なのですね」
 エヴァリーナの手と肩を取り、椅子に座らせたらフォークとナイフを並べて、彼女の胸元にナプキンを巻く。逃げ損ねたと察したエヴァリーナが振り返るも。
「まずは食べ慣れているノーチェ家の方に、お手本とマナーをご教示頂くのが礼儀ですかね。妹さんがちょうどお腹が空きすぎて我慢できないとおっしゃってましたし」
「待って凶君、違っ……」
「あら、エヴァったら仕方のない娘ね……」
 アウレリアによって開封されたそこには、地獄が詰まっていた。
「誰か……助けて……!」
 涙目で震えるエヴァリーナ。彼女が犠牲になるまでの延命に成功した凶が逃走ルートを探っていると。
「おや、お待ちでしたら、今のうちにこちらをどうぞ」
 ディッセンバーがカップケーキの山を持ってきた。焼菓子はそれぞれが異なるフレーバーを漂わせて、目の前の真紅の獄門と対比して天国のよう。
「実は私、重力を料理に籠める技術を研究していまして……なんと、料理の任意のパラメーターをランダムに変動させられるのですよ。という訳で、今回ご用意しましたこの小型ケーキたちは私の研究の集大成」
 こっちも地獄だった。
「どれが当たりの甘さ控えめなのかは、食べてみないと分からないですが……どれかは当たりのはずです」
「どれか『は』?」
「……他はもちろん地獄の甘さになってますね」
 数については明言せず、ただ微笑むディッセンバー。せめて、まともな味を……そう願って、柑橘っぽいケーキを頬張る凶だが。
「ゴフッ!?」
 KO!!
「凶さーん!?甘すぎるオレンジマーマレードだったんですね……!」
「マーマレード?」
 即死した凶を前に口元を覆うミリムに、ディッセンバーが笑う。
「そちら、色を変化させた重力苺ジャムですよ」
 つまり、どれを選んでも即死だった。

「凶殿ハッピーバースデーでござるよ!アメリカンサイズのスイートこそジャスティスなケーキをご所望でござるか?拙者もアメリカンサイズでござるよ!」
「甘さなんぞ……もういらねぇ……」
 テーブルに突っ伏して、ハイテンションNINJA、カテリーナに素の口調でボソリ溢す凶。
「そんな凶殿には、切り株風のバームクーヘンに、チョコの手裏剣がぶっ刺さったケーキを用意したでござるよ。年輪部には、焼く際にソイソースをペーストして、香ばしさをプラスワンでござる」
「まとも……だと!?」
 重力ケーキとの落差のせいで凶が目を見開き、そのツラにカテリーナがオー、テリブル!とドン引きしながら。
「手裏剣チョコはNINJAもびっくりカカオ八十%の超ビターチョコを使用してる故、視線が凶器になりそうなハードボイルドの凶殿にピッタリでござろう」
「ゴフッ!」
 余計な一言と言う名の手裏剣がメンタルに刺さりつつ、凶がケーキを見ていると。
「おや、花まで咲いて可愛らし……」
「あ、そのピンクいのは拙者用イチゴチョコで……」
「ッぶねぇ!?」
 カテリーナの早めの制止で、二度目の戦闘不能は回避されたのだった。

「凶さんお誕生日おめでとうございます。また一年……生き延びることができましたね」
 いつ死ぬか分からぬ番犬同士、再会を祝したベルローズの手にはクリームが塗られていないケーキ。上には切込みを入れて耳を再現し、食紅で目を描いた兎の白玉が並んでいる。だが、最大の特徴は。
「シベリヤ……ですか?」
 真ん中の黒い塊の層だろう。
「甘さでお困りのようですし、味噌と生姜を練り込んだスポンジ生地に、みたらし風のソースをゼリー状に固めた層を乗せました。中には、粗めに砕いたクルミを混ぜてあります」
 変わった食感の中にクルミが弾ける、そしてなにより甘くない……ケーキを凶が眺めていると。
「でも、クリームがないと殺風景ですね……枯れ野原をうさぎが遊んでるようです。そこ、「枯れた凶さんみたい」とか失礼なこと言っちゃだめですよ?」
 誰にともなく飛んだベルローズのツッコミに、凶はつい噴き出してしまうのだった。

「今年は比較的静かに終わりそうですねぇ……」
 割と大惨事な気もするが、凶が伸びをした瞬間。
「もらったっ!!」
 あすかのスライディングで凶の体が宙を舞い、群がる番犬達。取り囲んだその目的は。
『ハッピーバースデー!ヒャッハー!!』
 緋色蜂メンバーによる、恒例と化した胴上げだった。
「これをみんなで言うのも久しぶりって気がする!何歳になったんだっけ、二十九歳?だいたい自分の倍くらいだね!」
 陸也が花火の幻術をばら撒き光が降り注ぐ中、ワカクサに天井から紙吹雪を吐かせて、くす玉役を任じるクロウが手招き。
「ほら、ユキとブリジットも一緒に!」
「にゃっはー!」
「ひゃ、ひゃっはー?」
『あっ』
「おぶぁ!?」
 体格差の関係で、ブリジットに弾き飛ばされ、凶が吹っ飛んでいった。
「相変わらずっすねぇ」
 その現場をカメラに収めていた佐久弥は無表情のままに苦笑すると、ゴマをすりおろす。
「野菜がOKってことは甘味レベルなら良いんすよね。ゴマで風味をつけて砂糖を控える方向でまとめるっすかねぇ」
 胡麻生地を焼きつつ、すりごまをクリームに混ぜ込んで、渋い色彩のクリームを仕立てていると、オーブンからは香ばしい香りが……。
「おーぶんせさみ、なんつって」
「……よし、シフォンケーキ作ってお茶にごすか。抹茶増量増量増量の増量で渋さを前面に押し出していくべ」
 胡麻洒落の横でお茶洒落をかます陸也は深緑のケーキを焼き上げて、佐久弥の胡麻ケーキと並べる。
「胡麻と抹茶……」
「意外に間違ってない組み合わせじゃね?」
 佐久弥と陸也がキリッと目元を光らせた所で、計都が悪役風にクックック。
「皆何だかんだ、甘いやつを作ると予想して正解でした……俺のケーキはこれです!」
 何故かフライパンから取り出した計都。彼が用意したケーキとは……。
「合挽肉とタマネギ、その他香辛料で作ったミートローフ……ここにマッシュポテトを塗って、絞って形を整えたらミニトマトを飾って……」
 見た目『は』苺ショート。その実態は。
「ミートケーキです!!」
「「ハンバーグじゃねぇ(ないっす)か!?」」
 陸也&佐久弥のツッコミに、計都がドヤァ。
「まさか肉料理を持ちこむ人がいるわけが……」
「ボクからのお誕生日ケーキはー……これだ-!」
 その横で和が箱を開くと、真っ赤なケーキ。薔薇の花にも似たそれは、肉を並べて作ったもので。
「そして、こっちには鍋がある……そう、これはしゃぶしゃぶなのだー!」
「な、なにぃ!?」
 まさかのネタ被りに、計都の眼鏡がぱりんっ!
「さあ、ずずいっとしゃぶしゃぶするが良いのだ!タレもポン酢から何から揃えてあるのだー!」
「まさか肉が出てくるとは……」
「おいしい?ねえ、おいしい?」
 色味が変わった肉を、あえてタレなしで。
「……美味しいです」
 感動に震える凶に、満足した和がてれてれ。
「えへへー……っと、メインにごちそうしたところでー……おらー!お前らー、しゃぶしゃぶだぞー!」
 皆で分け合い、肉料理パーティーとなった中に参戦したのが。
「ご飯ものは重いかと思ったけど、この流れなら何の問題もないわね!!」
 小町が持ってきた、桶。
「……シーフード酢飯ケーキとか題して、えーと、ちらし寿司?海鮮丼?」
 蓋を開けば、ミチッと固まった海鮮丼。そこにイクラと紫蘇を散らして彩りと香りを加えれば。
「お肉に続いてお魚のケーキよ!」
 桶の縁を抜き取る様にして、散らし寿司が完成。押し寿司にしてあるため、包丁を入れれば本物のケーキのようにカットができる。
「アタシだって孤児院のお義母さん。南瓜や薩摩芋を蒸して潰してクリームチーズと混ぜた物をベースにすると良さそうだって分かるよ……」
 ベルベットが期待させておいて、ニコリ。
「……でもそんな普通な事する筈ないよね♪」
 取り出したのはキムチと納豆。どう見てもご飯のお供である。
「甘くないケーキが食べたいなら甘さと対極にある味付けにしたらいいのよ。ベルちゃんもしや天才では?」
 フフドヤッ、しながらミキサーにシューッ!超☆ミキシング!!
「あとは砂糖を使わず焼いたスポンジに塗って……」
 赤茶けて異臭を放つヤベー代物に。
「はい凶さん、アタシ達から心を込めて。ハッピーバースデー!」
「これはまた……」
 地雷臭が半端ないケーキを前に、凶が固まっていると小町がにょきっ。
「凶さんが食べないなら私がっ!」
 カットして、ネバァ……もぐもぐ。
「うっ……」
「曽我さん!?」
 身構える凶だったが、小町の両目は驚愕に見開かれて。
「普通に美味しい……」
「そりゃね!米粉に豆乳混ぜて、おにぎりっぽく仕上げてあるもん」
 ガチクオリティだった納豆ケーキに番犬達が舌鼓を打つ中、ベルベットがポツリ。
「いつもアタシ達を見守ってくれて……ありがとね」

 ここまで甘味を回避してきたが、中にはもちろん。
「……甘くなきゃ、ケーキじゃないでしょうがァ!!」
 こういう番犬【あすか】もいる。
「という個人的主張はさておき」
 置いておくんだ?
「僕が持ち込んだのはカカオ七十%のほろ苦チョコレートケーキ」
 チョコケーキにジャムを挟み、更にジャム、チョコでコーティングした、甘さと酸味とビターテイストが重なる一品。ジャムの違いが分かる様に、真ん中で割ってあり。
「王道の杏か、変わり種の苺か、どっちが……」
「杏で」
「食い気味!?」
 即答する凶に驚くあすかだが、凶の方はガタブル。
「もう、苺はこりごりですから……」
「そんな事もあろうかと、ラズベリーやブルーベリーのジャムで作って来ました!」
 ノアルは豆乳仕立てで甘さ控えめのスポンジを、髑髏型にカット、ベリーソースを挟み、マスカルポーネクリームを塗りつつも楕円形二つ分は塗り残して、眼窩を表現。
「自分はコーヒーシフォンケーキにモカクリームをたっぷり詰めたタイヤケーキだ!カフェオレも持ってきたから一緒に食べてね!」
 これに対してクロウは珈琲を多用して黒いシフォンケーキを焼き、その中心の空洞にモカクリームを詰め、モノクロな円を重ねたタイヤ風ケーキ。
「蝋燭は2と9の形の二本にしてみました!さぁ、一息でどうぞ!!」
 ノアルが髑髏の眼窩に蝋燭を立てれば赤紫の炎が点灯。陸也が指を鳴らせば照明が落ち、計都の指揮で番犬達がバースデーソングを歌う中、凶の吐息が蝋燭にかかり。

 ボウッ!

「地獄で燃やしてどうするんですかー!」
「すみません……」
 一瞬の蒼炎を上げて蝋燭が消火。ノアルのツッコミと共に部屋が明るくなるが。
「お二人とも番犬外套ですから、何かあるのかと身構えてしまって……」
 警戒する凶に、クロウが目を逸らしノアルがもじもじ。
「い、一応お祝いのための衣装を着てまして~……で、では向こうの方へ……」
 物陰へ連れ立っていく三人、そして。
「四夜さん、お誕生日おめでとうございます。二十代最後の年も無事に過ごせますように!」
 祝辞を述べたノアルと、彼女と並んでいたクロウ。二人の姿は三人だけの秘密だ。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月9日
難度:易しい
参加:17人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。