別に契約とか全然ないけど魔法少女になってよ

作者:星垣えん

●魔法少女論
 色鮮やかにして華やかな衣装が、ハンガーラックに並んでいる。
 そしてそのハンガーラックとビルシャナが並んでいる。
「うむ、素晴らしい。まさにこれぞ魔法少女の着るべき服だ」
 袖がふわふわとひろがり、裾がひらひらと膨らみ波打つ衣装を手に取り、何度も何度も手羽でなでまくる鳥さん。
 なんかもうアカン臭がぷんぷんである。
 しかしもっとアカンのは、そんな鳥さんの周りに信者が10人いることである。
「魔法少女っていいですよね」
「萌えますよね。作品によっては燃えますし最強ですよね」
「そう、そのとおりだ。しかしだからこそ魔法少女とはおいそれと名乗っていいものではない」
 カチャ、となでまわしていた魔法少女衣装をラックに戻す鳥さん。
 信者たちへゆっくりと振り返ると、鳥さんは声に力をこめた。
「魔法少女は『少女』でなくてはならぬ! そして私の考える少女とはだいたい15歳までぐらいだ! できれば12歳ぐらいまでにしたいがそこは譲っておく!!」
 怒涛の勢いである。
 怒涛の勢いで魔法少女を論じた鳥さんは、その熱量のまま吼えた。
「だのに……だのに世の中には……16歳以上のくせして! もう少女でもないくせに平然と魔法少女コスを着る奴がいる! そんなのダメだろう! 魔法少女のコスプレは少女だけに許されるものだろうが!!」
「きょ、教祖……!」
「真理……真理ですよォ……!!」
「私の想いを理解してくれるか、同志よ!!」
 がしっ、と信者たちと肩を組む鳥さん。肩を組まれた信者がまた別の信者と肩を組み、いつしか鳥さんと信者たちは強固なひとつの輪となっていた。ほぼ高校球児。
「変えよう、俺たちが……俺たちがこの世界を変えよう! 15歳以下しか魔法少女コスを着ちゃいけない健全な世界に変えよう!!」
「はい! ついていきますよ教祖!」
「この命、果てるまで……!!」
 あるべき姿へ――とかほざきながら結束を強めてゆく魔法少女スキーたち。

 ええ、事案ですとも。

●れっきとした仕事なんや
 本日も鳥さんが元気にやってる。
 とゆーことを黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)から伝えられて、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は瞑目して頷いた。
「なるほど……言わんとすることはわかりますね」
「なんか、声に妙に実感がこもってるっすね?」
「ケルベロスをやっていると、色々あるじゃないですか……」
 遠い目を遥か天空に向けるシフカ。
 悲しみすら垣間見える瞳だった。
 すでに23歳だというのに仕方なく魔法少女コスを着る羽目になって死ぬほど恥ずかしい思いをした女しか持ちえない――そんな瞳だった。
「思い出しただけでも、恥ず……はじゅかしぃぃ…………!」
「シ、シフカさん!?」
 しゅうう、と赤い顔から湯気をあげて蹲るシフカ嬢。ダンテがそんな彼女を励ましたり宥めたりしてる間に猟犬たちはとりあえず情報を整理した。
 少女以外が魔法少女コスを着るな、と主張する鳥さんが現れたこと。
 鳥さんは信者を集めて布教を図っているので、何としても止める必要があること。
 シフカは魔法少女コスをキメたことがあること。
 ……なんか割とどうでもいい気がしてきた猟犬たちだった。
「い、いや! とはいえ一般人がビルシャナの教義に染まりそうなのはやっぱり放っておけないじゃないっすか! なんとか彼らの眼を覚まさせてやってほしいっすよ!」
 猟犬たちの空気を敏く感じ取ったダンテが、素早く引き留めにかかる。それから5分間ぐらい一生懸命説得されたので一同も何とかやる気を取り戻した。
 で、改めて説明するダンテ。
「ビルシャナのもとにいる10人の信者は皆、ビルシャナの教えはもっともだと納得してるっすよ。でも少女以外が魔法少女コスを着ても悪くないと教えてやれれば、きっと正気に戻ってくれるはず……なのでここは皆さんでコスプレするしかないっす!」
「なんでですかぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
 力強い宣言をしたダンテの後ろで、シフカの死にそうな悲鳴が響く。
 だがダンテは完全にスルーして、がらーっとハンガーラックを引いてくる。
 無論、ずらっと全部が魔法少女コスである!
「これを着て皆さんは魅力的な魔法少女になってくださいっす!」
「あああぁぁぁぁぁ…………!!!」
 ごろごろ、と悶えるシフカさん。
 ちなみにダンテくんによると男が魔法少女になるのも普通にアリらしい。やったな。
「信者の人たちが悪い鳥から解放されるように……頼んだっすよ! 皆さんの魔法少女力を存分に発揮してきてくださいっす!!」
 ぐっ、とサムズアップするダンテ。
 かくして、猟犬たちは何かよくわからんけど魔法少女になる羽目に陥るのだった。


参加者
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
パシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●無断
 泣き言と叱咤が、響き渡っていた。
「うぅ……はじゅかしい……」
「何してるっすかシフカさん。もっと堂々とやるっす!」
「は、はいぃ……!」
 シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の熱血指導をくらうシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が、泣き出さんばかりの顔でロッドを掲げる。
 その衣装は、モノトーンとはいえ魔法少女である。
「もう二度と着ないと思ってたのに……」
「しっかりロッドを高く! ウインクも忘れないっす!」
「ぴいぃぃ……!」
 鬼コーチの剣幕に震えるシフカ。
 魔法少女らしい可愛い決めポーズを教えてあげるっす、とゆーシルフィリアスの親切心によってシフカは地獄の只中であった。
 それを遠巻きに見物する薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)。
「シフカさん、無事でいられるのか……」
「大丈夫ですよ。きっと」
 にこり、と微笑む大森・桔梗(カンパネラ・e86036)。
 ちなみにこのタイタニア、男ながらすでに魔法少女化している。肩とか裾とかふわっふわなのに平然としている。楽しんでる節すらある。
「ところで、魔法少女って現代のものですけど、英雄の衣装を真似る話は世界各地に有るんですよね。日本にも王子が女装して敵を欺くと言う神話が有るので、広義的なコスプレと考えれば地球の伝統文化のひとつですね」
「へえ。桔梗さんは博識だね」
「いえいえ」
 ふりふり、と胸の前で手を振る桔梗。
 あすかはその謙遜にひとつ笑うと、ふと話題を変えた。
「しかし、ロボットだろうとおばあちゃんだろうとおっさんだろうと魔法少女になれるこのご時世に15歳以下の少女限定とか。時代に逆行してやしないか?」
「そうですね。人気アニメでもアウトになるキャラも多いと思うのですが……」
「てか世の中には見た目ロリだけど実は……な方々もいらっしゃるわけだけども」
「難しい話ですね……」
 2人して考えこむあすかと桔梗。
 そこへリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は何気なく、顔を出した。
「魔法少女、ケルベロスの中には結構いっぱいいると思うけど16才以上の子も多いよね? きっと、16才以上のケルベロスをやめさせるための高度な作戦だね」
「なるほど!」
「なんて巧妙な……!」
 それだ、とばかりに納得する2人。
 鳥さんの評価は勝手に爆上がりを続けた。だがそれに一切の興味を持たず、パシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)は眼をきらきらさせていた。
「わぁ、衣装がいっぱいです!」
 パシャが見ているのは、ずらりと並ぶ魔法少女コス。
 具体的に言うと、鳥さんの家に揃えられてる魔法少女コスである。
 うん、もう猟犬たちは鳥さんちにいたんだ。
 衣装部屋にたどり着いたパシャは衣装にすっかり眼を奪われて――。
「は! 誘惑に負けてはいけません!」
 いたが何とか正気は保った。
「見た目は少女、中身は狂気で説得ですよ、僕」
 ぺちぺち、とほっぺたを叩くパシャくん。
 そのとき、がらりと扉がひらいた。
「さっきから誰だ! 人んちで騒いでる奴らは!」
 鳥さんもとい家主だった。

●魔法少女……?
 居間に連れてかれた猟犬たちは、鳥さんから全力の説教をかまされていた。
「まったく何なんだ。お前とか明らかに20歳超えだろうが!」
(「あなたが現れたせいで着てるんですよ……」)
「なんだその表情は!」
 シフカの前に立ち、がみがみと怒鳴り散らす鳥さん。
「あの、いいでしょうか?」
「何だ?」
 そっと挙手した桔梗を、鳥さんが睨みつける。
 その視線をさらりと無視して、桔梗は信者たちへ目線を向けた。
 そして自らの(プリンセスモードによる)魔法少女姿を見せつける。
「大人用の魔法少女服が市場に有るのは親子で揃えたいとか、キャラが好きとか、その手の需要が有るからでしょう」
「需要があるだと? 大人の?」
「そうです。最近だと芸能人が企画で着ていたり、一般人でも高齢のご婦人が可愛い魔法少女服を着た動画や画像が人気が得ていたりするので中々侮れませんよ。勿論男の子が着ても可愛いですし」
 疑わしげに見てくる信者に、堂々と言い返す桔梗。
「老若男女問わず受け入れる魔法が掛かっているのが魔法少女服の最大の魅力だと思っているのですが……それを認めないとなると、鳥さんは単なる少女趣味の拗らせ系だとしか見えません」
「幼女趣味……」
「拗らせ系……」
 ジッ、と信者たちの視線が鳥に集まる。教祖は慌てて手を振った。
「違うぞ! 別にそういうんじゃないから! あくまで魔法少女として――」
「鳥さん」
「アイヤーーッ!!?」
 リリエッタが鳥さんの首を掴み、ぐりっと強引に自分へ向かせる。
「リリ、お仕事でこすぷれ? することもあるから、いろいろ教えてほしいな」
「ふむ。見たところ15歳は超えてないようだな。いいだろう。それじゃあまず衣装部屋へ……」
「うん。衣装選びとかポーズとか、教えてね」
「よかろう。私が一人前の魔法少女にしてやる!」
 はっはっは、と大笑いしながらリリエッタと一緒に去る鳥。
「幼女趣味……」
「拗らせ系……」
 もしかして、と信者が疑念を覚えるのも仕方ない光景だった。
 だが彼らに追及の時間はなかった。
「魔法少女はもっと自由であるべきだと思います! そんなわけでアイドル魔砲少女エンジェルロージー只今参上です!」
 弾けるようなポップサウンドとともに、ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)が颯爽と現れたからである。
 ロージーはそのまま、軽快なテンポに歌声を乗せた。
 しかし、信者たちの耳には届かなかった。
「いや胸がでかすぎるってぇぇぇーー!!!」
 ロージーの凄まじい巨乳(136cmのVカップ)に目が釘付けでした。しかもめちゃくちゃ胸元が開いてるから動くたびに揺れるわはだけるわで、歌どころじゃねえ。
「魔法少女じゃないでしょ! その衣装は!」
「今時の魔法少女はこういうスタイルもアリと聞きますし良いかなと!!」
 根拠ゼロだけどグッと拳を握ってみるロージー。
「と言いますか良いじゃないですか16歳以上でも! むしろ18歳以上でも需要は確実にありますよ、ほら! こういうお仕事は18歳以上じゃないと務まらないと聞きました!」
「確かに需要はあるけどそれはダメェェェ!!?」
 ロージーがぴらりとひろげたイケない漫画本にツッコむ信者たち。
 魔法少女が触手やらに襲われているそれは明らかにアウトのやつだった。
「てゆーか需要があるとしてそんな仕事できないでしょ!?」
「お仕事でしたら頑張りますよ! 伊達にオークに何回も襲われてませんし!」
「つ、強ええ……!!」
 きっぱりと言いきっちゃうロージーに、もはや返す言葉もねえ信者たち。
 だが当然のように、ロージーの主張に納得する者はいなかった。信者の半分ぐらいはたぶんロージーの胸しか見てない。
「やはり15歳以下に限定すべきなんだ」
「ああ。16歳以上は危ない」
 鳥さんの厳格な教えに帰結しかける信者たち。
 しかしそのとき! ガタァン、と扉が乱暴にひらかれた!
「契約してないのにやって来るとか、お前らどこぞの国営放送か!!」
 ちょっと何言ってるかわからない登場をやってのけたのは――チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)である。
 ちなみにただのチロではない。
 頭に紙袋を重ねて被り、腰に20個のコップがぶら下がる紐を回し、右手に木刀、左手に竹槍を装備した『魔法少女チロ』である!
「どこの部族か存じませんが家を間違えてますよ?」
「玄関まで案内しますので、どうかお帰りを……」
 丁重にお帰り願う信者たちが、がしっとチロさんの両腕を掴む。
 ――数秒後。
「うっせー! お前らが15歳以下の魔法少女をご所望だってんで、現役JCたるチロさんが悪を決して許さぬ魔法少女の格好で来てやったんだぞ! 有り難がれ! 感服しろ! 雑草よこせ!!」
「うわ暴れ出した!?」
「草! 草なら庭にあるから!」
「なら庭までチロをおんぶして連れてくんじゃよ。歩くのも面倒なんでな。運ばないとか抜かしたら尻はタダじゃ済まねぇからな……」
「こいつ竹槍をケツにーー!?」
「やべぇよ……JCやべぇよ……!」
 暴虐の限りを尽くす魔法少女に、信者たちが戦慄する。
 チロを雑草茂る庭に運んだ彼らは、そのまま家の中には戻ってこなかった。

●魔法少女ォ……。
「草うめぇ……ここの草うめぇよ……!」
 もっしゃもっしゃ、と庭の草を喰い荒らすチロ。
 鳥さんちの庭は軽くサイコホラーになっていた。草くわえた女子が徘徊してっからね。
 庭の片隅にリリエッタと鳥さんがいなかった、ほんとヤバかったよ。
「むぅ、これが魔法少女なんだね」
「そう! それが魔法少女だ!」
 自分の衣装を指でつまむリリエッタに、ふふんと胸を張る鳥さん。
 リリエッタの衣装は際どかった。ノースリーブだしおへそは出てるしスカートも短い。ハイセンスを盛り込んだ会心の魔法少女の誕生に、鳥さんも涎を垂らしている。
「魔法少女って、登場シーンとか必殺技シーンがあるよね。あれも教えてほしいな」
「よかろう。この私がお前を最高の魔法少女にしてやる!」
 リリエッタの申し出に、ふんす、と鼻息を強める鳥さん。
 鳥さんを引きつけて仲間の説得タイムを稼ぐ作戦は、順調に続いております。

 しゃらん、とマジカルロッドを振りかざして。
 シルフィリアスは虹色の光に包まれた。
 体の、腕に、脚に、腰に、胴体に輝くリボンが巻きついていって――。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
「す、すげええええ!!」
「魔法少女……魔法少女やないか!」
 マジモンの変身バンクに拍手を送る信者たち。
 それに気をよくしたシルフィリアスはさらにサービス。足元に魔法陣の光が浮かび上がらせ、かざしたロッドの先端にぎゅんぎゅんと魔力を凝縮する。
「いくっすよ! グリューエン、シュトラール!!」
「ひ、必殺技まで!」
「なんという魔法少女……!」
 巨大な魔法砲撃をぶっ放したシルフィリアスに、信者たちがついに憧れの眼すら向けはじめる。
 シルフィリアスはやりきった顔で、信者たちに問うた。
「どうっすか。あちしは18歳っすけど、年齢に関係なく凛々しくかわいく魔法少女はできてると思わないっすか。女の子はいくつになっても女の子で少女っす」
「なるほど確かに……」
「これ以上ないぐらいに魔法少女だったな」
「てかマジで18歳なの? 小学生にしか見えないんだけど」
「何言うっすか! れっきとした高校生っす!」
「その胸でJKは無理がある!」
「ぐふっ……!」
 わざわざセーラー服姿に戻ったシルフィリアスが、胸を指差されて死ぬ。
 だが彼女のおかげで信者たちの心は変わりつつあった。
 信者たちの揺らぐ表情からそれを察したあすかは、クールに笑った。
「年齢? 性別? んなことはどうだっていい。心が少女ならな、誰だって魔法少女になれるんだよ!」
「お、お前は!?」
 氷結輪を持った腕を構え、ポーズを取りながら信者らの前に出るあすか。
「ケルベロス、ドレスアップ!」
 即席の変身セリフを吐き、あすかが袖をまくる。露になった上腕の刺青をさらりと撫でると、澄んだ鐘の音が鳴り響き、全身が雪の結晶に包まれた。
 そして、結晶が弾ける――。
「氷結少女アイシクル*あすか、見参!」
「こ、こいつも完璧な変身を……!」
「馬鹿な……!」
 もこもこフードのついた純白衣装を身に纏ったあすかの姿に、息をのむ信者たち。
 あすかは涼しげに微笑んでみせると、彼らに流し目をキメた。
「溢れる知識と経験で主人公をサポートするお姉さん的立ち位置キャラ……悪くなかろ?」
「た、確かに!」
「クール系魔法少女も良き……」
「よし。ならあっちもアリだって、わかるよな?」
 信者らの視線を一身に集めたあすかが、指を向けて別方向へ誘導する。
 その先に立っていたのは――。
「魔法少女プリンセス☆シフカ、参上です!!」
 黒いシックな衣装で決めポーズをぶちかます、シフカさんだった。
 そのポージングはシルフィリアスの指導の賜物か、すっかり堂に入っている。表情ひとつ動かさぬシフカは(内心死ぬほど恥ずかしいのを我慢して)、玩具のロッドをバトンのようにくるりと回した。
「どうです。23歳でもここまでやれるんです」
「23歳で……」
「23歳なのか……」
「23歳ですが何か!!」
 憐れむような信者たちに、毅然と言い返すシフカ。
「自分が可愛いと思うものを着て何が悪いんです! 男の子も女の子もおじさんもおばさんも、なりたいと思うのなら誰でも魔法少女になっていいんですよ!」
「誰でも……」
「誰でもです! 大人が魔法少女になってはいけないなんて決まりはないんです!」
 反論の隙も与えぬほどまくしたてるシフカ。
 止まってはいけない、止まって冷静に考え直したりしては死んでしまう。恥ずかしさを押し隠すためにシフカの口は言葉を吐きまくった。
 それが功を奏したか――。
「うん、年齢で可能性を狭めるのは愚かかもしれないな」
「ああ。23歳でもここまでやれるなら……」
 信者はすっかり、シフカたちを許容していた。
 表情を軟化させた男たち。
 パシャは後ろから彼らにとことこと近づいた。
「皆さん。僕も魔法少女になってみました。似合いますか?」
「ん?」
「あー似合う似合う」
「トリさんに選んでもらったんです!」
 ふふふっ、と楽しげに笑いながらその場で回転するパシャ。パステルグリーンの衣装をなびかせる少年は紛うことなき魔法少女だった。
「良いなぁ……」
「魔法少女って武器も色んなのがありますよね。一般的なロッドから、かっこいい剣まで……皆さんどれが良いと思います?」
 がらがらと武器類をぶちまけるパシャくん。
 信者たちが「んーと」とか言いながらオキニのそれを選び取ると、パシャはにっこりと笑って両腕をひろげた。
「では全力で殴ったり刺したりお願いします!!」
『えええぇぇぇぇぇ!!?』
 信者たちが今日イチ、ビビる。
「いやそれはさすがに……」
「早くやってください! さぁ早く!」
「押しが強え!!」
 じりじり迫ってくるパシャ。
 信者たちは根負けして、慎重にパシャを攻撃した。
 だが。
「弱い。弱いですよ! もっと激しくアレコレでるくらい本気を込めてください!」
「ひいぃぃ!?」
「なんなら使ってください、僕の惨殺ナイフ!」
「ゆ、許してぇぇ!!」
 パシャくんの気迫に押され、信者たちが悲鳴をあげて退散してゆく。
 取り残されたパシャは、少し寂しげに肩を落とした。
 だがすぐ気を取り直し、振り返ってカメラ目線。
「魔法少女パシャ。猟奇的に解決です☆」

 その後、猟犬たちは魔法少女らしく鳥をボコ殴りにしてから帰路についた。
 もう二度と魔法少女にはなりたくない……と疲れきったシフカさんを皆で慰めてあげたのは、また別の話だ。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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