鳥さんがカレー作ったみたいだから遊びに行こうぜ!

作者:星垣えん

●飲めるんです
 真昼の住宅地に並ぶ、一軒の家屋。
 そこからは何やらスパイシーな香りが漂っており、ついでに言うと居間の食卓には鳥さんと愉快な信者たちの姿があった。
「カレーだよ」
 両肘をテーブルにつき、組んだ手に顎を乗せる鳥さん。
 その眼は真剣そのものだ。まるで世を達観して真理を見出してしまったかのような、そーゆーなんつーか超然ぶってる空気を醸し出している。
 そんな鳥の人の前には、1杯のワイングラスが置かれていた。
 けれど中身は高級な赤ワインなんかではない。
 カレーである。
 カレーがグラスの9割ぐらい注がれているのである。
「諸君もとっくに知ってるだろうが……カレーは美味い。奇跡的に美味い。もはやその美味さゆえに不動の国民食と言える。だが日本国民は何もわかっていない!!」
 だんっ、とテーブルを叩く鳥さん。
 誰が見ても不機嫌だとわかるほど荒ぶっておられる鳥さんは、カレーの注がれたグラスを手に取ると、声高に叫んだ。
「カレーはッ!!! 飲み物なんだッッ!!!!!!!!」
「ええ、飲み物ですね!!」
「液体ですものね! 液体ですものね!!」
 万雷の拍手を送った信者たちが、手元にあったカレーグラスを大仰に掲げる。
 そして彼らは――。
『レッツドリンク!!!』
 ぐびっとね。
 1日の最後を締めくくる生ビールみてーに、一気に呷りやがりましたよ。

●突撃! 鳥さんちのカレー!
「なるほど。カレーを飲んでいると……」
「カレーを飲んでいるんです!」
「どうしてそんなことを……」
「わかりません……!」
 何やら難しい顔をして、アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がひそひそと話し合っている。
 呼ばれてヘリポートに到着したらコレである。
 そりゃもう猟犬たちも『いったいどんな依頼内容が……』と身構えたよ。
 その緊張感が伝わったか猟犬たちに気づいたねむちゃんは、「あっ!」と声をあげてとっとこ駆け寄ってきた。
「大変です! 大変なビルシャナが現れたんです!」
 ほうほう、とヘリオライダーの説明に耳を傾ける一同。
 天真爛漫なねむちゃんが語ったところを要約すれば、以下のようになる。

 カレー大好きビルシャナが現れ、カレーは飲み物と主張してゴクゴクしている。
 それに誑かされた信者たちもゴクゴクしている。
 カレーにはお米とかナンとか、お供が必要だと思います!!!

 熱弁を聞き終えた猟犬たちは秒で緩んだ。大変な事態が起こっているかもしれないとか気のせいだったんや。ねむちゃんも最後ただの感想になっとるし。
「私もねむさんと同意見……ですね」
 依然として真面目な顔を崩さないアリッサムが、ねむの隣で首を肯ける。カレーの話してるとは思えないほどガチトーンでいられるのは才能だと思う。
「カレーを飲むのも好き好きですから口出しすることではないですが、ことビルシャナによって洗脳されているとあれば話は別です。どうにか信者の方々の目を覚まさせなくてはなりませんね、ねむさん!」
「そうなんです! ねむが食べたいのはカレーライスなんです!!」
 互いに目を合わせてなんか意気投合するアリッサム&ねむ。
 その流れで5秒ぐらいハイタッチ合戦をやりだしたが、猟犬たちがめげずにガン見していると、やがてねむは気を取り直して咳払い。
「信者の人たちはカレーをゴクゴク飲んじゃってる状態ですけど、カレーには飲まなくても美味しいと主張すれば恐らく正気に戻るはずです! そのためには彼らの目の前で、みんなが美味しくカレーを食べることが一番です!」
 飲む以外の方法でカレーを実食して、美味しいリアクションを披露してやる。
 そうすればサクッと信者は目を覚ます、とねむは断言した。
 それを聞いて猟犬たちはすべてを察するのだった。
「ビルシャナのおうちには手間暇かけて作られた秘伝のカレーがありますけど、残念ながら飲みやすくするために具が入ってないです! だからお肉とかお野菜とかは各自で用意してください! 途中でスーパーに寄ってもいいです!」
「秘伝のカレー……なんだかとても楽しみですね」
 いそいそヘリオンへ走ってゆくねむに、微笑みを浮かべながらついてくアリッサム。
 かくして、猟犬たちは鳥さん秘伝のカレーをご馳走になりに行くのだった。


参加者
進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)
アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)
大森・桔梗(カンパネラ・e86036)

■リプレイ

●訪問マナー
 鳥さんの家へと向かう機内。
 進藤・隆治(獄翼持つ黒機竜・e04573)とセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)はまったりしていた。
「我輩もカレーは飲み物だと思うが、具がなければつまらないと思うのだがな……」
「隆治さんはカレー飲むっすか……まぁ、ある意味ではそうかもしれないっすね。液体なら飲むという行為自体は可能っすから」
「ってか、具なしって薬膳スープみたいな感じになる……のか?」
「さぁ……」
「具がないカレーがどうだとか、そういうのはいいじゃない」
 向かいに座る秦野・清嗣(白金之翼・e41590)が微笑む。
 そして急に真顔になる。
「そんなことよりも問題は! ビルシャナ化しちゃったら! もうどんな美味しいカレーも広めることが不可能だっていうことだよ!!」
 唐突なる叫び。
 さらに勢いのまま立ち上がっちゃう清嗣。
「何考えてるんだよ!!! 勿体ない!!! 引っぺがす方法がないのが悔しいですな!!!」
「う、うん」
「く、悔しいっすね」
「結構な才能が失われていくのは忍びないよ。ね、響銅……」
 飛ぶ毛玉もとい響銅(ボクスドラゴン)をもふもふする清嗣。およそ55歳とは思えぬ気迫に隆治とセットが軽く引いたのは言うまでもない。
 一方、女性陣は賑やかトークしていた。
「カレーの材料、たくさん買えましたね」
「ねー。スーパーを梯子した甲斐があったねー」
「窯焼きナンなるものまで市販されているとは知らなかった……」
 大量の袋に囲まれているのはエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)とアリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)、そして嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)である。
 何軒ものスーパーで買ってきた具材やら何やらは(だいたいエヴァリーナのせいで)もはや機内スペースを圧迫するほどだ。
「いっぱい買える。流石ヘリオン……!」
「これだけあれば楽しいカレーパーティーになりますね」
「カレーパーティー……」
 期待に胸を膨らませる3人。
「ま、その前にきっちり信者の連中は正してやらないとね」
 釘を刺すかのように言ったのは、アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)。
「カレーの食べ方を限定しちまうのは勿体ない話だからね。アタシなりの楽しい食べ方、見せてやるよ!」
 豪快に言い放ったアリアナが、機体のドアをひらく。
 吹きこむ風。眼下を見れば住宅地。もう鳥さんの家に到着していたのだ。
「さぁ、行くよ!」
「はい! ケルベロスの仕事を全うしましょう!」
 アリアナに呼応して空中に飛び出す大森・桔梗(カンパネラ・e86036)。
 高空からひゅるるーっとダイブした桔梗は、ちょうど玄関前に着地。
 そして――。
「こんにちは! 秘伝カレーを作った方の家はこちらですか?」
 正面扉を堂々と開け、きっちり玄関に脱いだ靴を揃えてから居間に突入したァ!!

●食いざまを見せつけ隊
「だ、誰だ!?」
「我らがドリンクパーリィを邪魔するとは!」
 警戒心を露にして立ち上がる鳥と信者たち。
 セットは食卓に乗ったカレーグラスのひとつを取った。
「なるほどカレーは飲み物という主張には一理あると思うっす。しかしあえて言わせてもらうっす。カレーは飲み物ではないと!」
「なっ!?」
「え!?」
「……!?」
 カレーを飲んでいた者たちが一様に驚愕の表情を浮かべる。その中にはエヴァリーナと隆治もいたが、今はそれはとりあえずどうでもいい。
「戯言を! カレーは飲み物だ!」
「いや飲み物ではないっす!」
「飲み物だって!」
「違うっす!」
 平行線をたどるセット&バード。
 そこへ、アリアナが進み出た。
「そこまで言うんだったら、少し飲んでみようか」
 手つかずのカレーをスプーンですくい、一飲みするアリアナ。
「ふむ飲みやすいカレーだ。これを作るのに相当研鑽は必要だったろうね」
「ふっ、まあな」
 腕組みして鼻を伸ばす鳥さん。
 だがスプーンを置いたアリアナは、巨体を揺らして大笑いした。
「アンタの努力は認める! だからアタシも敬意をこめて、アタシが思う至高のカレーを見せようか!」
 大皿を卓上にどかっと乗せたアリアナが、流れるような手際で食材を盛る。
 ブロッコリーを混ぜたライスを島に見立てて、そこに人参の貝とヒトデ。
 揚げた南瓜で作ったバナナボートにはオニオンフライとライスのプードルがちょこん。
 さらにカツのイカダにはライス製の熊が寝そべっている。
 そこにカレーを流して海を作れば――ファンシィな楽園島の完成である!
「す、すげええええ!!」
「これがアタシのデコカレーさ。見ても食べても楽しめるように工夫してあるよ。アンタらもシェアしてみないかい? その為の大盛りさ!」
「シェア……」
 アリアナの大作を前にして早くも心揺らぐ信者たち。
 鳥さんは即座に、パンパンと手を叩いて意識を引いた。
「惑わされるな! カレーは飲み物だと言ってるだろ!」
「……あら? 喉越しが良くて飲み易く、スパイスの香りと絶妙な辛さがあとを引きますね」
「ほら! こっちの人もそう言ってる!」
 さりげなくカレーを試飲していたアリッサムを指差す鳥さん。
 つられて信者たちもアリッサムを見た。しかし彼女がキッチン帰りであり、手作りカレーの鍋を持っていたのが鳥の誤算だった。
「そのカレーは?」
「飲むカレーの美味しさは確かにわかりました。ですが皆様はお忘れではありませんか? カレーと、皆様が初めて出会った日のことを……」
「初めて……?」
「そう! 家で母親が作る、お肉とお野菜がゴロゴロしたカレー! これこそが不動の国民食たる、母なるカレーの原点なのです!」
 鍋を置くなり、アイテムポケットから炊飯器を出すアリッサム。
 皿にほかほか白米を盛り、そこに具材ごろごろカレーを注ぎこむ。ついでにカツとか乗っけちゃえば――。
「うふふ、今日は贅沢にカツカレーです」
「カツカレー!!」
「トンカツもサクサクで美味しいです……」
「くそっ! 顔がとろけてやがる!」
 これ見よがしに食べちゃうアリッサムの表情に、信者たちがごくりと喉を鳴らす。
 すると、だ。
 彼らの後ろで、かちゃかちゃと食器が鳴った。
 振り返ったそこには――。
「うん。やはりカレーには白米が合う」
「そうっすね。やっぱりカレーライスっすよね」
『もう食ってる!!!!』
 隆治とセットがばくばくとカレーライスを食っていた。
 カレーはアリッサムのと違って具がない。鳥さんのカレーを流用しているのだろう。
「わ、私のカレーを……貴様らッ!」
「うまうま」
「カレーにはライスっす。そしてトッピングがあればさらにおいしいっす! このおいしさの波状攻撃に反論するすべはあるっすか!」
「なっ!?」
 無心でカレー食ってる隆治の横で、セットが揚げたてのトンカツとチキンカツをカレーライスにぶちこんだ。ボリューミーなカツにやはり信者たちの生唾が止まらない。
「がんばればライスを混ぜて飲むことはできるかもしれない……しかしこのカツを入れた状態で飲み物と言い張れるか! っす!」
「そ、それは……!」
 びしーっ、と指摘された信者たちが口籠る。
 隆治はそんな彼らを口をもごもごさせつつ見ながら――うどんが入った丼を出した。
「カレーうどんでも食うか」
「あぁーーっ!?」
 どばどばとカレーを注ぎ、うどんと絡める隆治。
 そしてずるずるっと音を立てて啜れば、顔には恍惚の色が浮き上がる。
「白米もいいけどうどんもいいな。お前らも食うか?」
「こ、この野郎ォォーー!!」
 悔しげに叫んだ信者たちは隆治に詰め寄り――。
 続々と着席して、ずずずっとカレーうどんを啜った。

●限度がある
 もぐもぐ、と。
 エヴァリーナはカレーを食いまくっていた。
「カツカレーおいしー」
「カレーうどんもなかなかだ」
 ちゅるちゅると麺を啜り上げるのは槐。
「デコカレーは食べていいものか悩みますね……」
「何言ってんだい。食べるために作ったんじゃないか」
 アリッサムが躊躇いがちにスプーンを伸ばしているデコカレーを、景気よくスプーンで崩壊させるアリアナ。
 猟犬たちはなんかもう普通にカレー食ってた。
「くっ! どうして団欒の食卓になってるんだ……!」
「鳥さん、追いカレーちょーだい! 鳥さーん!」
「はーい!」
 食卓を占領されてることに納得いかない鳥さんだが、彼はキッチンから動くことができなかった。エヴァリーナがめっちゃカレー要求してくるから。
「忙しそうだね。頑張って」
「ああ……てゆーかどうして普通にキッチンいるの君?」
 コンロ前で並び立つ清嗣に、首を傾げる鳥さん。
「まぁ、気にしないで」
「気にするよ!?」
「じゃあね」
「答えないまま!?」
 ぽむ、と鳥の肩を叩いて、鍋を持って居間へ旅立つ清嗣。
 炊きたての米とともに食卓にやってくると、清嗣は米の香りを信者たちへ振りまいた。
「ほぉ~ら、ごはんの追加だよぉ? 強情を張ってないで食べてみない?」
「炊きたてのお米……!」
 米と自作のインド式カレーを置く清嗣。
 最高級素材を用いたカレーがスパイスの香りを昇らせる中、おじさんは遠い目をした。
「あとさ……そもそも発祥のインドにはカレーって料理はないんだってさ。そしていま世界に広がるカレーもインドから言えばカレーじゃないってよ? ……正式にはカレーなんてない……のかもね」
「な……に……?」
「カレーなど存在しない……?」
 急に哲学チックになってきて信者たちの顔が呆ける。
 そこへ、桔梗がすすっと顔を出した。
「具も何もなくても美味しいカレーも、確かに良いです」
 鳥さん印のカレーを飲んだ桔梗が、グラスを置く。
「ですが、それ自体が極上なら何かを足せば更に旨くなるはずです。野菜や肉や……ヨーグルト、スパイスを追加したり……ごろごろ夏野菜のカレーとかキーマカレーも美味しいですよね」
「夏野菜かぁ」
「キーマカレーもいいね」
「野菜もキーマも飲めるよね……?」
「隆治さん、今は抑えるっす!」
 桔梗が説得する横でごくごくカレー飲んでる隆治を、セットが羽交い絞めにして引っ込めさせる。あぶねぇ色々と台無しになるところだった。
「カレーは飲まなくても美味しいと思います」
 気を取り直した桔梗が、炊きたての米に鳥カレーを乗っける。さらに具材と福神漬けとゆで卵を添え、グリーンサラダまで追加する。そこにケーキも加えれば――。
「さあ、召し上がれ」
「セットメニューが来た!?」
 手際の良さに目を見張る信者たちである。
 だがスプーンは動かない。ギリギリで鳥の教えを信じる心が働いているようだ。
 ならば、と槐は一皿を出した。
「キーマカレーとナンだ。これを見ても食べずにいられるか?」
「ここでキーマカレーが……!」
 絶好のタイミングで出てきたキーマカレーに動揺する信者たち。細かな野菜と肉とルゥが一体となったカレーと、こんがり焼かれたナンが胃袋を鷲掴みにしてくる。
 彼らが見ている前で、槐はナンとキーマカレーを食べた。
「ナンと取り合わせて食べれば普通に美味しいし、飲んだ場合に必ず器に残ってしまう分をナンで拭きとるように掬ってしまえば洗い物も少なく済むだろう。日本人的にはお行儀が悪いかもしれないがこういうのも生活の知恵だ」
「美味い上に洗い物も少なく!?」
「グラスは洗いづらいだろう。普通にカレーライスを食べたほうがいいのでは?」
「普通に食べたほうが家事にもやさしいとは……!」
 槐の主張を聞いて、とうとう信者たちが頭を抱える。
 苦悩する彼らを横目に、エヴァリーナは静かに告げた。
「カレーは飲み物だよ」
 きっぱりと言いながら、鍋からお玉でカレーをすくう。
 ごろごろの野菜と肉と加えて、すりおろしたジャガイモまで入れた鳥カレーはどろっどろで濃厚。それを山盛りにしたご飯にかけて、カツから唐揚げからハンバーグに揚げ野菜とこれでもかと盛ってゆく!
 その姿は、さながら世界最高峰チョモランマのごとく!
「どう見ても飲み物では……」
「何言ってるの? 具もないルゥだけ飲んで『カレーは飲み物』なんてただの甘えだよ?」
 がっ、と大皿を両手で持つエヴァリーナ。
 持ち上げたそれを口に運ぶと――チョモランマは3秒で消滅していた。
「ええええぇぇぇぇ!!?」
「さぁ、みんなもれっつドリンク……!」
「いや待って待って!?」
「あれ? 飲み込めないの? 飲み物なのに?」
「ぐぬっ……!」
 小首を傾げるエヴァリーナに反論しようとする信者だが、何を言えるはずもなく。
 数秒が経った頃には。
「さすがに飲み物じゃないな」
「そうだな、うん」
 鳥さんの教えは綺麗さっぱり抜けていました。

●パーリィだ!
 数分後。
「わーいカレーっすー! ビルシャナからよこどりっすー!」
「たくさん……たくさん食べよう……!」
 食卓では、セットが鳥さんのカレーをライスにかけてむぐむぐ食べ、エヴァリーナが散々食ったくせにまだ食っていた。
 鳥さんを殺ってからの皆の動きは、そらもう迅速だったんや。
「んー。キーマカレー美味しいなぁ。あ、響銅も食べる?」
「清嗣の本格インド式も美味いな。ナンともよく合う」
 もむもむ、と忙しく口を動かしているのは清嗣と槐だ。仕事が済むなり皆のカレーを食べ始めた2人の前には、多様なカレーが並んでいる。そこからあれこれ選んで食べられるのは実に幸福な時間だった。
 と、そこへ新たな香りが漂う。
「お待たせしました。鳥さんのカレーでカレーパンを作りましたけど、皆さん食べますか?」
「もちろーん」
「私も食べさせてもらおう」
 桔梗がトレーで持ってきたカレーパンに、すぐさま反応する清嗣と槐。
 揚げたてのパンを齧れば、挽肉と微塵切りの玉ねぎと合わさったカレールゥが覗く。ピリッとスパイスの効いた味わいが紛れもなく絶品だった。
「美味しい……」
「カレーパンも良いですね……」
「自前で作れるものなのだな」
「こんな料理もできるなんてやるじゃないか」
「お口にあってよかったです」
 清嗣やアリッサム、槐やアリアナの感想に少しばかり照れ照れする桔梗。
 一方。
「このカレー……もしかして具が入っていないのではなく、具が煮込まれて形がなくなったのか?」
 隆治は真剣な顔で鳥さん印のカレーを分析していた。
「まぁ食感が欲しいから具は入れるけどね。人参ジャガイモ玉ねぎー」
 どぽどぽ、と具材をぶちこむ隆治。それをライスやうどん、ナンと合わせて喰らえば、ドラゴニアンは渋い声で唸っていた。
「さすがビルシャナのカレー……これはいくらか持ち帰らないと」
「あっ、そうですね。いちおう鳥さんから(葬る前に)秘伝のレシピは教えていただきましたけど……実物もあったほうがいいですよね」
 いそいそ、と鳥さんのカレーをタッパーに詰め詰めする隆治&アリッサム。
 鳥邸を去るときの皆の顔は、それはそれはホクホクでした。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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