決戦! 螺旋業竜~星海を渡る邪竜

作者:椎名遥


「く……は、はは!」
 宇宙の闇の中に声が響く。
 隠しきれないほどの消耗を滲ませながらも、その声だけで空間を揺らがせるほどの力と共に。
 慈愛龍率いるドラゴン軍団の一体、鷲龍ザハラは哄笑する。
 かつて繰り広げられたスパイラル・ウォーの戦いの果てに、彼らは惑星スパイラスに閉じ込められた。
 ――だが、
「敵を喰らい、同胞を喰らい、星を喰らい。過去も未来も喰らう竜業合体の果てに、星の海を渡り――そして、我らはたどり着いた」
 闇の中、言葉と共にその瞳が輝きを宿す。
 見下ろす先にあるのは、宇宙の闇の中で青く輝く水の星『地球』。
「さあ、全てを喰らい、終わらせよう。ケルベロスもデウスエクスも取るに足らない有象無象も、我らがここにたどり着いた以上、抗える存在などありはしないのだから」


「皆さん、お疲れさまでした」
 集まったケルベロス達に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
 ケルベロス達が達成した第二王女ハールの撃破と、大阪城地下の探索。
 第二王女を撃破した事によって、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機は防がれ。
 大阪城地下の探索の結果、本星のドラゴン軍団が『竜業合体』によって地球に到達しようとしているという情報を得ることができた。
「ですが……地球に迫り来るドラゴンは、本星のドラゴンだけではないことが判明しました」
 表情を厳しくすると、セリカは空を指さす。
「スパイラスに遺された慈愛龍のドラゴン軍団が竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上に出現する事が予知されたのです」
 サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)の警戒を受けて注意を払っていた結果、手遅れになる前に予知することはできた。
 だが、それでも対処できるかはギリギリの戦いとなるだろう。
 かつてのスパイラル・ウォーでは、召喚された時点で『終わり』だとまで言われた程の力を持つ慈愛龍のドラゴン軍団。
「無茶な竜業合体によって慈愛龍が率いていたドラゴン軍団は殆どが失われており、残ったドラゴン達も、グラビティチェインの枯渇によって力を大きく損なっています。ですから――勝機があるのは、今、この時だけです」
 予知されている情報では、竜業合体した惑星スパイラス――螺旋業竜スパイラスを衛星軌道上から日本に落下させることで、その衝撃で数百万数千万の人間を殺害し、そうして奪った膨大なグラビティチェインによって力を取り戻すという計画も判明している。
 そうなってしまえば、全てが終わる。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントは既に割り出しています。そこまでは宇宙装備ヘリオンで送りますので、皆さんはドラゴン軍団と、その先にいる螺旋業竜スパイラスの破壊をお願いします」
 螺旋業竜スパイラス自身は、竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力は持っていない。
 その為、対処しなければならないのは、その前に立ちはだかるドラゴン軍団となる。
 そう語ると、セリカは予期される敵の説明に移る。
「皆さんに向かっていただく場所では、『鷲龍ザハラ』と名乗るドラゴンと戦うことになります」
 示されたスケッチに描かれているのは、灰と黒の羽毛に身を包み、鋭いくちばしを備えた、鳥に近い姿をしたドラゴンの姿。
 ドラゴン軍団の中では小柄とはいえ、その身は優に10メートルを超える程には大きく、その身に秘めた力もまた強い。
「疑い深く、臆病な性格からか、戦いとなっても搦め手を主体とした戦い方をとるようですね」
 広域に放たれる石化、催眠、トラウマ。
 対抗手段を用意しておかなければ、その時点で敗北は必至だろうが――それは戦いの舞台に上がるための前提条件でしかない。
「その上で、純粋な戦闘能力だけを見ても、ザハラは高いものを持っています」
 搦め手に対処しただけで勝てるほど、慈愛龍のドラゴン軍団は甘くは無い。
 ここまでの消耗を癒す手段がないために、逃げを打つことこそ無いものの――それだけ消耗してもなお、ケルベロス達を相手取って有利に戦えるだけの実力を備えているのだ。
「皆さんには、これまで以上に重いものを背負わせることになります」
 勝てるとは限らない強大な敵。
 負ければ失われるのは地球の全て。
 それでも、逃げるわけにはいかない。逃げる場所などありはしない。
「この戦いに地球の命運がかかっています。皆さん――ご武運を」


参加者
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
安藤・優(名も無き誰かの代表者・e13674)
美津羽・光流(水妖・e29827)
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

 アラームをセットし、合図用のライトを括りつけ。
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)はそっと息をつくと、知らず力を込めてた手を緩める。
(「こんなに大きな戦いに参戦するのは初めてだから、とっても緊張するの」)
 襲来したドラゴン勢力から地球を守る大一番。
 肩にかかった色々な重みは、気にせずにはいられないけれど……。
 隣を見れば、ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が笑みを返し。
 彼女のウイングキャット『ムスターシュ』も、安心させるように頬に頭を摺り寄せる。
(「だいじょぶ、うりるさんとムスターシュといっしょだもの」)
 大事な人が、仲間達が。
 同じ場所で、離れた場所で戦っている。
 そして――背後を振り返れば、そこにあるのは青い地球。
 帰るべき場所。
「きっと勝ち抜いて、地球を……ルル達の帰る、大切なお家を護るのよ!」
「大切な人がいる地球を滅ぼさせはしません!!必ずここで食い止めます!!」
 決意も新たに拳を握るリュシエンヌに、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) もまた頷きを返し。
(「地球を守れるように頑張るぞ! ……やれる範囲で」)
 安藤・優(名も無き誰かの代表者・e13674)も、若干の弱気と共に拳を握る。
 そして、
「なりふり構わずか……哀れだね」
 呟くウリルの視線の先。
 闇に満ちた宇宙の中に浮かび上がる巨大な影――『螺旋業竜スパイラス』。
 敵を喰らい、仲間を喰らい、命をなげうってでも仲間の未来を創ろうとする。
 なりふり構わないドラゴンの姿にウリルの胸中に浮かぶのは、哀れみと――共感。
(「哀れではあるけれど……ただ、愛する者のためなら命を賭してもいいとは思えるかな」)
 傍らのリュシエンヌにちらりと視線を送ると、ウリルは漆黒の刃を抜き放つ。
 直後、
『どこまでも邪魔をするか――ああ。煩わしい、苛立たしい』
 空間を揺らがせ、怨嗟の言葉がケルベロスへと叩きつけられる。
 それを発したのは、スパイラスの前に立ちふさがる――スパイラスに比べれば数段小さくとも、優に10メートルを超える猛禽の如き姿のドラゴン『鷲龍ザハラ』。
「さてさて厳しい戦いとなりそうじゃのぅ」
 声が持つ精神を揺さぶるほどの圧を、ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)は、ふっと息を吐いて振り払い。
「そっちから来てくれるとか好都合や。粉々にぶち砕いたる」
「ああ、今はただ斬るのみさね。それがドラゴンでも惑星でもさ」
 美津羽・光流(水妖・e29827)と三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)は、向けられる敵意に笑みを浮かべて斬霊刀を抜き放ち。
 リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)もまた、手にした歯車をモチーフとした鎌『Deathscythe Hell』を天へと掲げる。
「さぁ、地球の運命をかけた戦いだ! 全力で行くぞ!」


「さあ――」
 優がエクトプラズムを呼び出し、ウリルがエレメンタルボルト『Spirale』を構え。
 共に、仲間達へと守りの加護を与え――、
『――邪魔だ。矮小な痴愚ども』
 それよりも早く、ザハラのブレスが虚空を薙ぐ。
 余波でさえも、肌を焼くほどの力を宿した極光は、しかし、散会したケルベロス達を掠めて過ぎ去るのみ。
「無事かい?」
「うん!」
 その威力に戦慄を覚えながらも、ウリルのかざす螺旋の鍵から呼び出す力がリュシエンヌを包み込み。
 その加護と共に、リュシエンヌはリーズレットと宇宙を駆ける。
 浮かぶ小岩を足場として、一歩踏み出すたびに力を込めて、より早く、より鋭く。
「行きますっ……!」
「ああ!」
 身をひるがえし、距離をとろうとするザハラを逃すまいと、さらに踏み込み追いすがり、
『舐めるな!』
 その接近を、横合いから振るわれる尾が阻む。
 石化の呪いを纏う竜尾が縦横に走り、間合いへの最後の一歩を退ける。
 けれど、
「ゼー先輩」
「うむ。任せよ」
 光流の呼び出す無数の幻影を纏い、ゼーは視線を鋭くして砲撃形態に変形させた得物を構える。
 尾の動きを見据え、タイミングを計り――放つ轟竜砲は、切り返しで速度を落とした尾を弾いて逸らし。
 その機を逃さず尾を潜り抜け、リーズレットはさらに一歩を踏み込み――、
『舐めるな、と言ったぞ』
「――くっ」
 踏み込む彼女を、ドラゴンの目が見据える。
 逃れられないほどの至近距離から、龍の邪眼が光を放ち、
「させないよ」
 その光を、割り込む千尋が受け止める。
 邪眼の光は防御の上からも彼女の意識を揺らがせてくるけれど、
「っ――アタシらも、舐めてもらっちゃ困るさね!」
 気合と共に高めたオーラが呪縛を祓い。
 同時に、最期の一歩を踏み込むリーズレットのスターゲイザーが、ザハラの胴に突き刺さる。
 巨体が揺らぎ、後ろへと退き、
『貴様ら――』
 両翼が羽ばたき、直後に打ち込む沙耶のフォーチュンスターを置き去りにして、ザハラの巨体が闇を駆ける。
 ダメージなど無いかのように攻撃をかわし、見据える眼光は呪縛と共に距離を詰めようとするケルベロス達の足を退け阻む。
「――っ」
 前衛を呪う眼光の衝撃と呪縛を、優が巻き起こす癒しの風が拭い去り――その直前、ザハラを癒しの光が包みこむ。
「ぬぅ、リィーンリィーン。気を確かにせよ!」
『くくっ。癒し手が多いとは、有難いものだな』
 仲間を庇ったゼーのボクスドラゴン『リィーンリィーン』を眼光で惑わし、受けた抗魔の加護にザハラは嗤う。
 しかし、
「それは、だめっ……!」
『ちっ――鬱陶しい!』
 その加護が力を発揮するよりも早く、リュシエンヌのハウリングフィストが加護を砕き。
 直後、振るわれる尾が、割り込むムスターシュもろともにリュシエンヌを弾き飛ばす。
『思い上がるな、ケルベロス!』
 叩きつけられる敵意と殺意。そして相対するだけで魂を揺らがせるプレッシャー。
 ケルベロスの本能が告げる。
 この相手には敵わないと。例え10倍の人数がいたとしても、相対すべき相手ではないと。
 ――本来であれば。
「おお!」
 優が呼び出すボディーヒーリングの加護を受け、残像を残してレイピアを繰り出すリーズレットが、ザハラの尾と打ち合い追いすがり。
 強引に加速してリーズレットを振り切り、身をひるがえしてザハラの放つブレスは、千尋が展開するマインドシールドを貫いてケルベロスへと襲い掛かるも、
「ルル、合わせて」
「うんっ、うりるさん!」
 視線を交わし、心を重ね。
 ウリルとリュシエンヌが同時に撃ち出すグラインドファイアが、迫るブレスを正面から撃ち砕き。
「降り止まぬ雨よ」
 ゼーの声に応え、飛沫となったブレスの欠片をかき消すように、宇宙空間に雨が降る。
 Einregnen。
 降りやまぬ雨が、悲しみが、戦場を濡らし。
 降りかかる雨に打たれて動きを鈍らせたザハラを正面にとらえ、光流は胸の前で波を描く。
「西の果て、サイハテの海に逆巻く波よ。訪れて打て。此は現世と常世を分かつ汀なり」
 続けて腕を振るい、空間を切り裂けば、そこから溢れ出るのは仄暗く冷たい海水。
 荒れ狂う波と降り注ぐ雨が宇宙空間を塗りつぶし、生み出される局所的な大嵐がザハラを打ち据えて動きを抑え込む。
 本来であれば足元にも及ばないほどの強者であっても、グラビティチェインの枯渇で弱体化している今ならば、その膝元までは手が届く。
 そして、そこまで届けば、後は全力を尽くすのみ。
 嵐を裂き、迎撃の尾を潜り抜け、距離を詰めた沙耶の繰り出す斉天截拳撃が、再度ザハラの胴を打ち抜きその巨体を揺らがせる。
「大切な人がいる地球を滅ぼさせはしません!! 必ずここで食い止めます!!」


 ウリルの稲妻突きを尾で受け流し、体勢を崩したウリルへとザハラが視線を巡らせて口を開き――。
 追撃のブレスを放つ直前、身をそらしたザハラの目の前を掠めてリュシエンヌのグラインドファイアが走り抜け、同時に、炎に並走したゼーのアイスエイジインパクトと沙耶のドラゴニックスマッシュが挟み込むようにザハラを打ち据えて。
 続く千尋と光流の絶空斬を、翼を羽ばたかせてかわし距離をとるとともに、撃ち出すブレスはリーズレットを飲み込むも、
「まだだ!」
 優の気力溜めで傷を癒し、ブレスを突っ切るリーズレットのドレインスラッシュが、ザハラを切り裂き生命力を奪い取る。
 一進一退。
 否、戦いが続くにつれて、少しずつ戦況はケルベロスへと傾いてゆく。
 作戦と連携と魂と。
 相手の術に備え、連携をとり、自分にできる全てを一つ一つ確実に。
 繰り返す積み重ねは、いつしかドラゴンとの戦力差を埋めるまでに至る。
 ならば、後は――、
「時間、ですね」
「うむ。このまま一息に、終わらせようかのぅ」
 アラームの振動を感じ取った沙耶に頷き、ゼーは腰につけた青のライトを点灯させると手にしたハンマーに混沌を纏わせる。
 スパイラスを迎撃するために、許される時間は残り二分。
 故に、ここからは一斉攻撃。
 傾いた天秤のままに、決着を。
「ゆくぞ、リィーンリィーンよ」
「――!」
 ゼーのカオススラッシュとザハラの尾がぶつかり合い、弾き合い、その隙間を埋めるようにリィーンリィーンとムスターシュがザハラへと肉薄する。
 それまでは主に回復支援を行っていた二体も、ここからは攻め手へと回る。
 ここに至れば、求められるのは少しでも多くの攻撃なのだから。
 ――だからこそ、
『その攻め手、抑えさせてもらうぞ』
 三人の連携を強引に振り切り、追撃をかけようとするケルベロス達を見据えてザハラは邪眼を開く。
 大勢は変わらずとも、決着が一手でも二手でも遅れたならば、それだけスパイラスの迎撃には間に合わなくなる可能性は高まる。
『我が滅ぶとしても、一人では死なぬ。貴様らの帰る場所も道連れにしてくれるわ!』
「ちっ――」
 渾身の気迫と共に放たれる眼光を受け止めて、千尋の口から声が漏れる。
 かざす無銘の斬霊刀を越え、届く光の衝撃は彼女の心も塗りつぶそうと浸食し――、
「―――三本目の刃、受けてみるかい?」
 光の浸食を魂を燃やして抑え込み、浮かべた笑みと共に千尋の右腕に光が生まれる。
 光剣抜刀電鋼雪花。
 右腕部に搭載されたレーザーブレードユニットから生み出す光の刃を手刀とし、瞬時に振るわれる刃が虚空を切り裂く。
 空振り――否、
「くく、アタシが斬るのは形あるものだけじゃない。魂? 心? いいや迫る危難を斬り、未来を拓くって奴さね」
「生き汚いのは嫌いやあらへんけどな、それやったらこっちが上や」
 その刃が切り裂くのは、ケルベロス達を抑え込むザハラの眼光。
 直後、光流の空の霊力を纏う一閃が、その邪眼を切り裂いて封じ込め、
「さあ行っておいで。アタシが倒れてもアンタが仕留めれば、それはアタシ達の勝利だろ?」
「ええ!」
 切り開かれたザハラへの道へと手をかざし、沙耶が行使するのは運命を進む為の力。
 勇猛果敢に戦場を駆ける赤銅色の戦車。
「これで勝利の運命を切り開きます!!」
 眼光の残滓を蹴散らし、苦悶の声を上げるザハラへと戦車が突き刺さり。
 その衝撃に巨体を揺らがせるザハラへと、左右から回り込んだリーズレットとリュシエンヌが手をかざす。
「我が生み出すは青藍の薔薇 常闇より出し無数の薔薇よ、鋭い棘で彼の者を切り刻み、その蔦で薙ぎ払い束縛せよ」
「もう動かないで」
 地球で帰りを待つ大切な人の残霊と共に、リーズレットが呼び出す青藍の薔薇がザハラに絡みつき、拘束し。
 同時に、リュシエンヌの声に応えて降り注ぐ煌めく光の粒子が、その影を縫い留めて。
 巨体を縛られ、影を縫い留められ。動きを完全に封じられたザハラを見据えて、ウリルは静かに息を吸い込む。
「さあ燃えろ」
 そこから放たれるのは、黒き竜の咆哮。
 始まりを告げる鐘の音と共に、走る焔は檻となってザハラを囲い閉じ込める。
 地獄を顕現するセンメツノオトから逃れる事が敵うのは……灰になった時のみ。
 そして、それだけの時間を与えるつもりは、ケルベロス達には無い。
(「逃すもんか……」)
 炎の檻の中で苦悶の声を上げるザハラを見つめて、優の掲げる左手に蒼き光が収束されていく。
 それは、迷わぬ力、絆の具現。
(「この手には星の輝き、煌き集うは人の願い。その身に刻め『死の宿命』を 」)
 思いに応えるように、その光は優の手の中で輝きを増し。
「闇を斬り裂け、銀の流星!」
 撃ち込む最果てに至る蒼き閃光が、星海を渡る邪竜の旅に終わりを告げた。


「時間がありません、急ぎましょう!」
 崩れ去るザハラの消滅を見届けることなく、沙耶は仲間達と共に衛星軌道上へと急ぐ。
 立ちふさがる邪竜を倒しても、この戦いは、まだ終わっていないのだから。
「間に合いましたな」
 衛星軌道上から頭上を見上げて、光流は小さく息をつく。
 そこにあるのは、地球へと降下を進めている螺旋業竜スパイラスの姿。
 あまりに巨大であるために、ゆっくりとした動きと見誤りそうになるけれど――その速度は、すでにそれ自体が地上を薙ぎ払うだけの力を備えた武器と化している。
 一方で、激戦を乗り越えて、自分も仲間も満身創痍。余力はほとんど残っていない。
 ――けれど、
「まだだ、笑えっ! 天高く吠えろ!」
 己を鼓舞して武器を握りしめ、リーズレットは天を見上げて咆哮する。
 まだ終わりではない。
 まだやれることは残っている。
「行こう、ルル」
「がんばろうっ、うりるさん」
 すぐそばにいる大切な人が、リュシエンヌに力を与え、
「君の居場所は俺が絶対守るて誓ったからな」
 胸に抱いた大切な人への思いが、一時、光流の腕から疲れを忘れさせる。
「大切な人と世界の為に、全力でやるべき事を」
「うむ。この地を失うわけにはいかぬのじゃ」
 沙耶も、ゼーも、誰もが限界が近く――そして、誰もがその眼に力を宿し。
「さぁて、もう一仕事といこうかねぇ」
(「あともう少し……やれる、と思う!」)
 右手の光刃をかざす千尋と並び、優は左手に蒼き光を収束させ、
「「切り裂け!」」
 二人が手にした光を解き放ち。
 同時に、光の粒子が、戦車が、砲弾が、荒れ狂う波が。
 さらに、炎が、氷が、雷が。衛星軌道上へと集ったケルベロス達が撃ち出す多種多様なグラビティがスパイラスへと突き刺さり、無数の爆発を巻き起こし。
 そして――、
「おつかれさん」
「さっすが私のこんにゃくしゃ」
 パン、と千尋とリーズレットが手を打ち合わせて笑い合う。
 爆発が消えた時、そこにはすでにスパイラスの巨大な姿は無く。
 その存在を物語るのは、無数に残った破片のみ。
 重力にひかれ、流星雨となって燃え尽きてゆく破片を、ウリルとリュシエンヌは寄り添って静かに見送る。
「護れたんだね」
「ああ。俺たちの勝利だ」
 並んで見つめる視線の先。
 青い地球は変わることなく、そこにあり続けていた。

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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