決戦! 螺旋業竜~マジェスティックワーム

作者:八幡

●軌道衛星上
 煌めく星々の中にあって、一層青く輝く星。

 ようやく――ようやくたどり着いた。
 青き体躯を持つドラゴン、マジェスティックワームは万感の思いを噛み締めるように、青く輝く星……地球を見つめる。
 それから、グラビティ・チェインの枯渇に耐えながらの長い旅を思い返すように、背後を振り返れば、そこにあるのは星のように巨大なドラゴン。
 星のようにと表現するのは語弊があるだろうか。
 何故ならこのドラゴン、名を螺旋業竜スパイラスと言い、惑星スパイラスの全てを喰らい、竜業合体を行い誕生したドラゴンなのだ。
 星そのものと言っても過言ではない。

 過程はともかく、ようやくこの場所に辿り着いた。
 全盛期に比べれば見る影も無くなった我が身なれど。
 まだこの体は飛ぶことができる、まだこの腕は敵を切り裂くことができる、まだこの牙は獲物を屠ることができる。
 ならばやることは一つ。
 全ての生命に影を落とし、切り刻み、喰らいつくしてやろう。

●螺旋業竜スパイラス
「第二王女ハールの撃破と、大阪上地下の探索、お疲れ様なんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)は集まっていたケルベロスたちに凄かったね! と目を輝かせる。
 先の作戦……第二王女ハールと、大阪上地下の探索の同時作戦。
 その作戦で第二王女を撃破し、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機を回避できたのは、僥倖だったと言える。
 それに、大阪地下ではドラゴン勢力から、本星のドラゴン軍団が、竜業合体によって地球に到達しようとしているという情報も得られたのだ。
 情報が得られれば打つ手を考える時間もあるのだが……、
「でも……地球に迫っているドラゴンは、本星のドラゴンだけでは無かったんだよ」
 目を輝かせていた透子は一転、難しい顔になる。
 予知によれば、サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)が警戒していた、スパイラスに遺されたドラゴンたちが竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上に出現するらしい。
 しかもこの予知は、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)が協力を要請していた天文台からの情報。
 さらには、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が注意を喚起していたNASAによる解析によって、より詳しい情報が確認されている。

 星と合体……またとんでもない作戦に出たものだが、
「無茶な竜業合体で、慈愛龍が率いていたドラゴン軍団はほんとど居なくなって、残ったドラゴンたちも、グラビティ・チェインが足りなくて大分弱くなっちゃってるらしいんだよ」
 ドラゴン一体でも厄介な相手だ。
 それが星の規模となれば、想像もつかない。
 とは言え、ドラゴンたちにとっても星を渡るたびは過酷なものだったのだろう。
「でもね。慈愛龍は竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを、衛星軌道上から日本に落として、日本のみんなのグラビティを略奪して、失った力を取り戻そうとしているんだよ」
 弱っているのならばなんとか……と考えるケルベロスたちにを前に透子は目を伏せる。
 衛星軌道から星そのものと言えるスパイラルを落とす。
 何と効率的でおぞましい作戦だろうか……万が一実現した場合、地球は終わってしまうだろう。
 故に、何としてでも阻止する必要がある。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上の位置はもうわかっているんだよ! だから、みんなには何が何でも螺旋業竜スパイラスの破壊をお願いしたいんだよ!」
 透子は伏せていた目を上げて、ケルベロスたちを真直ぐに見つめ、どうか助けて欲しいと口にした。

「みんなが戦うことになるドラゴンは、マジェスティックワームって言うドラゴンだよ」
 自分の話を耳を傾けてくれたケルベロスたちに、透子は話を続ける。
「このドラゴンは三階建ての家くらい大きくて、毒を吐いて周囲を毒で満たし、体全体を鞭のようにしならせて周囲一帯を薙ぎ払ってくるよ」
 三階建ての家くらいと言うと10メートル程度の大きさだろうか。
 ドラゴン独特のブレスに加えて、その巨体での薙ぎ払いとなれば相当に強力なものだろう。
「それで、弱っている人が居たら、強大なハサミで確実にとどめを刺しに来るんだよ」
 それだけではなく、強力なハサミも持っている。
 しかもそのハサミの威力に相当な自信があるのか、とどめを刺すときに使ってくるようだ。
 使われないように策を練るか、あえて使わせるようにするか……考える必要がある。
「あ、あと戦う場所は軌道衛星上になるよ! でも、ケルベロスのみんなは問題なく戦えるから安心してね!」
 考え込むケルベロスたちに、透子は付け加える。
 宇宙だろうが水中だろうが、ケルベロスの戦闘能力は変わらない。
 変わらないのだが、もし何か心配ならば大運動会でお馴染みのジェットパッカーなどを用意することも可能だ。
 一通りの説明を終えた透子は、ケルベロスたちを真直ぐに見つめ、
「大変な作戦だけど……どうか、どうか地中を守って!」
 祈るように胸の前で両手を合わせたのだった。


参加者
深月・雨音(小熊猫・e00887)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
サイファ・クロード(零・e06460)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)
サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)

■リプレイ


 満天の星空。
 そう表現するに相応しい光景が目の前に広がっている。
 否、空ではないだろうか……空は今、自分達の背後にあるのだから。
 背後で輝く青き星、地球を金色の目で見つめていた、サイファ・クロード(零・e06460)は再び正面……星の海へと向き直る。
 と、サイファの目に、やれやれと肩をすくめる黒ずくめの男の姿が入った。
 男の名前は、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)。何処か胡乱な雰囲気を醸し出している男。
「ん? ああ、ちょっとした占いをな」
 どうしたのかと、少年じみた好奇心の視線に気づいた泰孝は口元を緩めて答える。
「へぇ、結果はどうだったの?」
 占いと聞けば結果が気になるの、サイファは当然その結果について聞いてみるが、
「御覧の通りさ」
 ふっと息を漏らした泰孝が、手のひらで示せば、その先には回り続けるコインがあった。

「うん、そうだよね」
 何となく分かっていた結果に、にやりと笑い合うサイファと泰孝を見つめ、千手・明子(火焔の天稟・e02471)は己の胸に手を当てる。
 手のひらを通して伝わる鼓動。とくとくと脈打つ己の鼓動。その音がやたら大きく聞こえる。
 どこぞの航空宇宙局から渡された物体の振動を音として認識する装置により、普通に会話をする程度は困らない……実際に泰孝達の会話も聞こえていたのだから。
 だが、それでもこの場所は静かすぎる。そして静けさは、言い知れぬ不安を煽ってくるのだ。
「じ・あーす・ワズ・ウサチャン!」
 くるのだが、膝を抱えた、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)が泰孝のコインよろしくくるくると回り、
「こうにゃ! こんな感じにゃ!」
 深月・雨音(小熊猫・e00887)が、支給された宇宙空間で自由に動くための装置を使った、ご自慢の尻尾の活用方法について素振りしている姿などを見れば、そんな不安など吹き飛んでしまう。
「芙蓉は、何をしているのかしら?」
 雨音はまだ分かるとしてと、目を細めつつ明子は疑問を口にする。
「フフフ、地球を体現してみたわ! 可愛すぎたかしらね?」
 明子の疑問に芙蓉は答える。地球はウサギだった。つまりはそういう事らしい。
「宇宙空間ならではね! ……あ! そういえば、わたくしは宇宙、初めてよ!!」
 変わらずくるくる回りながら、帰ってきた芙蓉のいつも通りな答え。その答えに明子は満足そうに頷いてから、改めて初めての宇宙を全身で味わうかのように浮遊感に身を預ければ、
「雨音もにゃ!」
 明子の姿を見た雨音も、両手を目一杯に伸ばして……この広大な空間を味わってみた。

 くるくると回る芙蓉の紫の瞳には、雨音達の姿と……それから地球の姿が交互に映される。
「……隕石落としやコロニー落としなんてのは聞いたことがありますが」
 膝を抱える手にほんの少しだけ力をこめた芙蓉の横で地球を見ていた、旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)は小さく息を吐き、
「まさか星自体を落としてくるとは、想像もしませんでしたね」
 星そのものを落としてこようとは考えもしなかったと首を横に振る。
「うん、来るとは思ったけどここまで派手だとはね」
 そして、正直な感想を漏らす嘉内に、サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)も同意を示す。
「冗談みたいな規模の相手だけれど、ビビっていられない」
 星を落とすなどと狂人の戯言のような話だが、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)の言うように、何であれ引くわけにはいかないのだ。
 そう言って、腕を組み、真直ぐに宇宙を見つめる銀子の背には、地球の姿があって、
「向こうもこっちも背水の陣、地球の皆のお祭りを守る為にも、ワッショイアンドワッショイニング!!」
「ええその通りです。向こうも後がないのでしょうが、こちらとしてもやらせるわけには行きません」
 その地球には一歩も踏み入らせないと、サリナは大きな団扇を肩にかけ、嘉内もまた大きく息を吸い込んで己が得物を持つ手に力をこめる。
「さぁ、まずは目標の敵をマットに沈めるわよ」
 それから銀子がぐっと引き締まった腹に力を入れれば、その黒い瞳が巨大で歪な竜の姿を捉えるのだった。


 猛烈な勢いで突撃してくる水色のドラゴン、マジェスティックワームはケルベロス達を射程に捉えた瞬間に紫色のブレスを吐き出す。
 コップの中に満たした水の中に、墨を垂らしたかの如く眼前で広がるブレスを、前衛に立つ銀子達は両手を盾に防ぐが……触れた先から崩れ落ちていくかのような激痛に襲われる。
 だがそれも一瞬の事、ブレスが広がるのを見た芙蓉がすかさず両手を広げれば、芙蓉の周りに真っ白いうさぎが現れて、
「おもにこういった真似をするわー!」
 そのうさぎで何をするつもりなのかと、問われるまでもなく宣言すると、ぴょんと跳ねたうさぎ達が銀子達の肩や頭にくっつき、その体から発せられる御業によって銀子達の傷が癒される。
「今度はこっちの番にゃ!」
 芙蓉の癒しに背中を押された雨音はいくにゃ! っと目の前の毒に身を躍らせようとするも……その真横を閃光が走る。
 反射的にちらりと目を後ろへ、閃光の元へと向ければ、そこには砲撃形態にした白月を構える明子の姿があった。

 明子が放った竜砲弾は、毒のブレスを打ち払って竜の体に命中する。
 我が身を焦がした閃光に、竜は移動を止めて忌々し気に明子を睨みつけるが、
「余所見をしていて良いのかしら?」
 当の明子はくすりと目を細める。
 竜の足元には、竜砲弾を追うように突っ込んだ雨音と芙蓉のテレビウムである帝釈天・梓紗が肉薄しているのだ。
 竜は明子の表情の意味をすぐさま察するが、すでに遅い。
 雨音は獣化した手に重力を集中し、竜の足元を通り抜けざまに高速かつ重量のある一撃を胴体に叩き込み、梓紗は手にした凶器で正面から殴りつける。

 尻尾をくるくる回しながら抉り取った竜の肉を宇宙に放り捨てる雨音を目の端に収めつつ、泰孝は右の手のひらに魔力でトランプを作り出す。
「子供じみた遊びだが……コイツはちっと厄介だぜ?」
 そしてトランプを竜へ投げつければ、トランプは違わず竜の体を抉り、その中へと消えて行った。
「さてと、あとどのくらい遊べるかね」
 竜の体躯から見れば受けた傷など些細なものだろう。だが、些細なチップも重ねて行けば取り返しのつかないものになるのだ。
 そこで、どんと大きく賭けに出る。するとどうなるだろうかと、泰孝は口の端を吊り上げる。
「お前の本当の敵は誰だ? ――疑え。考えろ」
 悪役のような表情を見せる泰孝に小さく息を吐いて、サイファは囁く。囁き声は距離を超え、竜の耳元で言葉となる。それは疑問の投げかけ、心を揺さぶる不信の種。
「せっかく長い旅をして地球くんだりまで来たんだ。楽しんでいってくれよ」
 種はすぐに芽吹き、竜の思考を鈍らせるだろう……だから精々その不信と恐怖を味わっていくれよと、サイファもまた口の端を上げて挑発して見せた。

 どこかぎこちない笑みのサイファを横目に、銀子は竜の真下から潜るように近づく。
「真っ向からの殴り合いだ! 行くぞ、マジェスティックワーム!」
 銀子とは対照的に、竜の正面から殴り掛かるのは、嘉内だ。サイファの囁きにやられたせいか、竜が小さく頭を振っている間に腹の前まで移動すると、そのどてっぱらにバトルオーラに包まれた拳を叩き込む。
 高速演算で見抜いた、竜の鱗の構造的弱点に向けて撃たれた嘉内の一撃。その強烈な一撃は竜の鱗を宇宙空間の彼方へと弾き飛ばし、拳と同じ大きさの穴を空けて見せる。
 竜の体躯から考えれば人の拳程度の傷なんて事は無いのだろうが、それでも痛いものは痛いのだろう。竜は自分の腹に穴を開けた嘉内へ鎌首をもたげるが、
「私が、お相手してあげるわ。嬉しいでしょう?」
 その首に銀子の両足が絡みつく。組みつかれた竜は忌々し気に首を振るうが、蟹ばさみのように組み付いた銀子の脚は――鍛え上げた頑強な鞭のごとき脚は竜から外れる事は無い。
「気張って行こう! ワッショイ!」
 振り回されてもなお離れない銀子にに、サリナが大団扇を扇げば、全身から放出された光り輝くオウガ粒子が団扇でおこされた風に乗るように銀子達の体を包んでいくのだった。


 銀子を振り払おうとしていた竜の首が、大きな放物線を描いて嘉内達に迫りくる。
 それは明らかな攻撃の意図。振り回された薙刀よろしく首で前衛を一閃すれば、嘉内達の体が地球側へと吹き飛ばされる。
 だがそれでも倒れるものなど居ない。嘉内に攻撃が当たる瞬間、梓紗が竜との間に割って入り、振り回される勢いを利用した銀子が雨音の前に立つ事により致命的な負傷を避けたからだ。
 そして、それが出来たのは先に泰孝が仕込んでいたトランプにより発動した7を示す障壁があった事も大きかっただろう。
「まだまだ増やすわー!」
 致命傷を避けたとは言え、傷は浅くない。サリナに目を配らせつつ芙蓉は再びうさぎを呼び出して、銀子達の傷を癒す。
「オイオイ、弱りきっててこの威圧感かよ……」
 吹き飛ばされた銀子達は上手く制動して立て直したようだが、目の前で振るわれた一撃の威力にサイファは呆れたように息を吐く。こりゃ簡単にはやられてくれそうにねぇなと。そりゃぁそうかと、サイファは竜を睨みつける。ドラゴン達が生きるために必死で足掻いてるのはわかってる。だが、それに心打たれて、「そうか、じゃあたんとお食べ」と言うわけにはいかない。サイファとて、そこまでお人好しじゃないし、自分達だって生きるために此処まで来たのだ。
「悔いのないように喰い合おうぜ!」
 ならばもう喰い合うしかない。サイファが右足を振り上げれば、ローラーダッシュの摩擦から生み出された炎が竜に向かって伸びて行く。
「存分にね!」
 良い事を言ってやったと、どや顔を見せるサイファに優しい笑みを浮かべた明子は、その炎を追って竜へ飛び込み……流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを腹に捻じ込んだ。明子がそのまま腹を蹴って後ろに下がると、入れ替わるように銀子が竜の真上へ飛行する。そして、緩やかな弧を描く斬撃を脳天に打ち込んで、
「ドラゴンが女の子一人潰せないのじゃ相当お疲れよね」
 片手で手招きするように挑発して見せたのだった。

 切り結ぶこと幾度目か。
 繰り返される激突に、お互いの体には隠し切れない傷がつき、拭えない血潮が肌に赤い痕跡だけを残している。我知らず荒くなっていた息を鎮めるように、雨音が肺に力を籠めれば……それを待っていたかのように竜から毒のブレスが吐かれた。
「まげすちっく? わーむ? だっけ?」
 だが雨音は目の前に広がる毒の海など気にもしないように突っ込み、それに先んじて芙蓉が付けたうさぎ達が飛び出して道を作る。
「邪魔しないでさっさとあの世にいけにゃ!」
 そして、うさぎの力を借りた雨音が毒の海から顔を出せば、そのままきしゃああと空の霊力を帯びた凛月を振るう。雨音に斬られた竜は苦しむように顔を上げるが、ドラゴニック・パワーを噴射しながら一気に距離を詰めた嘉内が、待ってましたとばかりに加速したハンマーを、その顔面に叩きつけ、
「仲間の為にとか自己陶酔甚だしいねぇ、本質は暴れたいだけの癖によ」
 今度は強制的に下を向かされた竜の脳天に、泰孝が釘を生やしたエクスカリバールをフルスイングを決める。脳天を殴られた竜は怒りに満ちた視線を泰孝に向けるが、泰孝は鼻で嗤いながら下がる……と、その横をサリナが放った光の蝶が通り抜ける。
「まだまだ戦えるよ!」
 そして、その蝶が雨音の体に吸い込まれるように消えると、その傷を癒すのだった。

 切り結んだ数は如何ほどか。
 意識は朦朧とし、一瞬でも気を抜けばこの暗闇の一部に混じってしまいそうだ……だがそれでもケルベロス達は倒れない。そして、アラームが鳴り響く。
「時間よ! でも大丈夫! 押し切れるわ!」
 芙蓉が声を上げる。竜もそうとう傷ついている。見ればまともに鋏も震えてないではないか。押し切れるはずだと半透明の御業を呼び出し、
「一気に行こう!」
 芙蓉の動きを見たサリナもまた団扇で空を切るように振り上げ、竜を象った稲妻を放つ。
「此はデウスエクスの闇を祓い、未来を導く希望の翼――」
 芙蓉の御業が放った炎弾とサリナの稲妻が竜の表皮を焼くのと同時に、嘉内は魔法によってエメラルド色に輝く翼の幻像を作り出し、
「その羽ばたきは、何人たりとも逃しはしない!」
 幻像がその翼を羽ばたかせると無数の羽が周囲に展開し、竜に向けてビームを放つ。
「さくさく・くろー・すらっしゅ!」
「風、いかめしう吹きしをらせよ」
 雨あられと降り注ぐビームの中に紛れるように近づいた、雨音と明子。雨音は獣化した両手の爪を長く伸ばし、鋭い爪で素早く引っかいて竜の腹を削り、明子は抜き放った名物『白鷺』を一閃する。そして続けざまに雨音は尻尾を振り回す勢いでぐるりぐるりと回りながら竜の腹を抉り続け、明子は二つ三つと吹き荒れる嵐のごとく刀を振るい竜を抉っていく。
「獅子の力をこの身に宿し……」
 銀子は身を削られる痛みに吠える竜の目の前に立ち、胸元を中心として全身に紋を刻む。それから爆発的に向上した身体能力に任せて、獣のごとく竜の顔面に拳を叩きこむ。
「さあ、ぶっ飛べっ!!」
 そして最後に渾身の一撃を竜の顔面に叩き込むと――ピクリとも動かなくなった竜は宇宙の暗闇に消えていったのだった。


 竜が消えて行く様を見送った泰孝は、ふと近くで浮いているコインに気が付き、それを手にする。
「で、結果はどうだったの?」
 泰孝の様子に気づいたサイファは、賭けの結果を問うてみるが、
「御覧の通りさ」
 泰孝は肩をすくめ、見てみろよと両手を広げる。泰孝に促される様に周囲を見れば、各々が相手取るべき竜に勝利した多くのケルベロス達が、近づきつつあるスパイラスに向き合っているところだった。
「地球を守りましょうね。このチームだけじゃない、全員で」
 サイファ達と同じように周囲を見回していた明子は、両手を胸に当てながら目を細め、
「これだけのケルベロスが居れば、星でも砕けますよ。いえ、砕いて見せましょう!」
 嘉内は力強く答えてみせる。
「当然ね!」
「この拳に砕けないものなど無いわ!」
「さっさと倒して、帰って晩御飯を食べるにゃ!」
 そんな二人に、芙蓉と銀子、それから雨音は当然だと頷いて見せ、
「さぁ! やろう! みんな準備は良いかな?」
 最後にサリナがお祭りにでも行くかのように仲間達に問えば、全員がスパイラスへ各々の得物を構え――一斉に攻撃を放つのだった。

 各所から放たれた攻撃は、無数の光の筋となってスパイラスへ突き刺さり、その攻撃を受けたスパイラスは、各所で大きな爆発が起こして徐々に崩れていくのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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