決戦! 螺旋業竜~蒼き星へ

作者:廉内球

 漆黒が支配する空間、宇宙。そこに突如として色が出現した。
 巻物が巻き付いたような奇怪なドラゴン、そしてその周囲を固めるように、白色の慈愛龍をはじめとした数多のドラゴンがその姿を現す。彼らは一様に、宇宙空間から地球を、その海に浮かぶ小さな島国……日本を睨む。
 飢えは常にその身を苛んでいる。ドラゴンロード・ジゴワットとて例外ではない。度重なる竜業合体を生き延び、螺旋業竜スパイラスを利用した過酷な移動にも耐え、ついに地球の目前までやってきた。あとはかの忌々しき存在――ケルベロスが集う日本を強襲し、その全てを喰らいつくし、力を取り戻すだけだ。
 青き鱗を持つ竜、ジゴワットは大きく吠えた。その咆哮に往時の力はもはやない。グラビティ・チェインの不足は深刻だ。それでも、長きに渡り惑星スパイラスに押し込められるという屈辱を与えた仇敵を滅ぼす、起死回生の一手に向けて、ジゴワットは吼えずにはいられなかった。
 宇宙から見るかの島国の、なんと小さいことか。だが油断はもはやない。ドラゴンロード・ジゴワットは日本への落下軌道へと微調整を開始する。

「まずは、第二王女ハールの撃破と、大阪上地下の探索、よく頑張ったな」
 ケルベロスたちをねぎらうアレス・ランディス(照柿色のヘリオライダー・en0088)。第二王女を撃破したことにより、懸念されていた。エインヘリアルと攻性植物の合同作戦はひとまず潰えたと言えるだろう。一方で、大阪城の地下に向かったケルベロスより、竜業合体によるドラゴンの地球襲撃の情報がもたらされている。
「本星の連中も地球襲撃は狙っているようだが、もう一か所、ドラゴンが大量に集まっていた場所がある。覚えているか?」
 それは、惑星スパイラス。かつてドラゴン達が螺旋忍軍のゲートを用いての侵略を試み、ケルベロスたちに阻止され……結果的に、スパイラスに閉じ込められたのがスパイラル・ウォーでの出来事だ。
 サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)はこのスパイラスに取り残された戦力が竜業合体により地球に現れることを警戒していた。そしてそれは、残念ながら現実となってしまったのだ。
 しかしケルベロスたちはこの襲撃に対し、手をこまねいているばかりではなかった。黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)が協力を要請していた天文台からの情報、および死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)の注意喚起を受けたNASAの解析により、敵の詳細な情報を得ることができている。
「慈愛龍の軍団は、無理な竜業合体でその数を大きく減らしている。しかも残ったドラゴン達も、移動の疲労とグラビティ・チェインの不足でかなり弱っているようだ」
 だが朗報ばかりでもない。慈愛龍の狙いは、惑星スパイラスそのものを竜業合体して誕生したドラゴン、螺旋業竜スパイラスを日本へと落とし、その力で殺害することになる数多の人間のグラビティ・チェインを奪うことで力を取り戻そうという魂胆だというのだ。
 そうなれば、地球は今度こそ終わりだ。
「幸い、連中の出現するポイントは割り出してある。お前たちにはそこへ向かい、慈愛龍らの戦力を撃破したうえで螺旋業竜スパイラスを破壊してもらいたい」
 このチームが担当することになるドラゴンの名は、ドラゴンロード・ジゴワット。その名の通り強力な雷の力を喰らったと思われる。体を痺れさせる雷のブレスを操る一方、鋭い爪と太い尾での攻撃も侮れない。弱っているとはいえドラゴンロードと呼ばれるだけの実力はある。
「こいつを倒した上で螺旋業竜スパイラスも破壊しなくてはならんからな、こいつにかけられる時間は……おおよそ十二分、といったところか」
 首尾良くドラゴンロード・ジゴワットを撃破した後、螺旋業竜スパイラスをも撃破する必要がある。スパイラス事態には戦闘能力が無いとはいえ、巨大な質量を持つ敵だ。その落下を防ぐには多くのケルベロスが全力のグラビティ攻撃を放ち、スパイラスを粉砕せねばならない。
 戦闘開始から十二分を過ぎてしまうと、スパイラス破壊のための時間が無くなってしまう。スパイラス攻撃に加われないチームが増えれば増えるほど、地球への被害は甚大となるだろう。
「敵の居る宇宙へは、俺が宇宙装備ヘリオンで連れて行く。お前達は戦うことだけ考えてくれればいい」
 無重力空間とはいえ月での戦闘経験もあるケルベロスだ、戦闘自体に問題は無いだろう。
「ドラゴンにも後が無いんだろうな、だがそれは俺達だって同じだ。作戦が失敗すれば、地球は終わりだからな」
 それだけは、阻止せねばならない。弱っているとはいえ強力なドラゴン達相手に勝利し、なんとしてもスパイラスを破壊せねばならない。地球の未来は今、ケルベロス達に託された。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
村崎・優(黄昏色の妖刀使い・e61387)

■リプレイ

●真空世界での戦い
 光も温度も重力も無い世界……宇宙。その空間に対応する装備を備えたヘリオン三十一機が無限の闇に浮かんで見える。彼らの背後には蒼き母星、地球。そして目の前には三十二のドラゴンが、日本に滅びを与えるべく飛来している。
 ケルベロス達はヘリオンのドアを臆さず開け放つと、各々の担当するドラゴンへと向かっていく。そしてこのヘリオンに乗っていた八人もまた、己が敵であるドラゴンロード・ジゴワットの姿を認め、タイマーを十二分に合わせると戦いを挑むべく飛び出していった。慣れぬ宇宙に慌てる者、淡々と敵に向かう者、そして。
「邪魔だ! そこをどけ、クソトカゲ!!!」
 右目から紫炎のオーラを吹き出しながら、村崎・優(黄昏色の妖刀使い・e61387)は刀身を青く変じさせた【我零刀『織心』】を構えて稲光の如く突き進む。牙零天伐・電煌之太刀(ガレイテンバツデンコウノタチ)、その切っ先はジゴワットの青い鱗を貫き、呪詛を流し込んで敵の体を痺れさせる。
「こちらの台詞だ、ケルベロスども。退けば、日本と運命をともにすることも叶うだろう」
「お断りします。これから大物が待っているので前座も良い所ですよ、あなた。早々にお引き取り願います」
 マリオン・オウィディウス(響拳・e15881)は普段通りの無表情で、フェアリーレイピアから花の嵐を巻き起こしてその牙を、爪を、尾を封じにかかる。
「前菜如きが生意気な!」
 直後、ジゴワットのブレスが前衛陣に襲い掛かる。宇宙の闇を切り裂く強烈な光に、ケルベロスたちは思わず轟音を覚悟する。瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)を田吾作が守るが、ただ一撃が重い。
「なんて攻撃的な……防御を固めましょう」
 源・那岐(疾風の舞姫・e01215)が警告する通り、長期の移動があったとはいえ敵の攻撃は苛烈だ。その勢いがこの先衰えるとも思えない。制限時間付きの戦いを攻撃的な布陣で固めた代償として、ケルベロスたちもいくらか脆い。熾烈な削り合いを制するのはどちらだろうか。
「……ところで、大丈夫ですか?」
 初めての宇宙に戸惑いを覚えるセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)に、那岐はドラゴニックハンマーを構えながら声をかける。
「もう大丈夫っす、こっから攻めていくっすよ!」
 セットもドラゴニックハンマーを砲撃形態へと移行させ、二人がかりの轟竜砲がドラゴンの足の鱗を砕く。ドラゴンの背後には螺旋業竜スパイラス。そのあまりに不気味な姿から視線を外し、セットは目の前のドラゴンロードへと意識を集中させる。
「苛烈な攻撃にはまず、盾じゃな」
 クライス・ミフネ(黒龍の花嫁・e07034)がヒールドローンを展開し、前衛の回復と防御強化にかかる。この盾がこの先何度砕かれようとも、幾度でも掲げて耐えねばならない。ここで倒れては、愛する者が待つ地球を守れはしないのだから。
「光の強さなら負けませんよ……! ほら、僕らの生きる世界はこんなにも輝いている!」
 背負った青の輝きはどこまでも美しく、ドラゴンロードの雷光とは異なる優しい光を帯びる。ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)の歌はその美しさをグラビティに乗せ、震わす空気が無くとも魂を直接揺さぶり味方を鼓舞していく。灰のウイングキャット、夜朱のサポートもあって、ブレスを受けたケルベロスたちの痺れはすぐさま完全に取り除かれた。ここで手数を減らされるわけにはいかない。
「ワタシも負けない多分。ギョルソーちゃんといる? んじゃ回復しといてね」
 サーヴァントであるボクスドラゴンに雑に指示を出したトリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は勢いをつけて敵へと蹴りかかる。
「飛ぶ星も落とすいきおい! 敵は飛んでる星!! 勝った!!!」
 雰囲気でケルベロスをしていると自称するトリュームも、そのグラビティの威力は雰囲気では済ませない。確実にジゴワットの腹に蹴りを突き刺してから距離を取る。
「こっちもこっちで命掛けなんだ、十二分で倒し切る!」
 灰は必殺の矢を番え、放った。それは回避を試みるジゴワットをどこまでも追いかけて傷を負わせる。怒りとともにジゴワットが吼えるが、ケルベロスたちも怯みはしない。蒼き星の命運を、背負っているのだから。

●ドラゴンロードの名を持つ者
 戦いは熾烈を極めた。サーヴァントの献身もあり、ケルベロスたちの人員に欠けがないまま戦局は進むが、自己回復手段を持たない田吾作は、防御に走るを目障りと見られたか、ドラゴンの爪を受けて消滅している。
「こうなったらギョルソーに頑張ってもらおうそうしよう、あと一分くらいで総攻撃だしアタッカー守ってねー」
 変わらず適当に、エクスカリバールでばしばしとドラゴンロードをひっぱたくトリュームだが、彼女自身もいくらか傷を負っている。回復役となった夜朱が癒しの風を懸命に送り、その傷を癒すが……癒しきれない傷も、蓄積している。
 その時、クライスのアラームが震え、総攻撃の直前を知らせた。
「あと一分じゃ、敵は……」
 ドラゴンロード・ジゴワットの体力は未だ衰えないように見える。その瞳には憎悪が滾り、今にもケルベロスたちを喰らいつくさんとしているかのようだ。それでも、幾多の傷をつけられたジゴワットは守りもままならないはずだ。
「おのれケルベロス、どこまでも邪魔をしてくれる! 大人しく我が牙にかかればよいものを!」
 ドラゴンロードの怒声が届く中、クライスは【宵ノ三日月・黄昏ノ銀輪】に静かに触れて目を閉じる。そして再び開かれた赤い瞳には、確かな理性の色が宿っていた。
「敵はあの調子じゃ、わしが飲まれるわけにはいかんのう」
 総攻撃に備え、オウガ粒子を展開。冷静な判断力がわずかでも急所を穿つ可能性に賭ける。
 マリオンもまた、頷いて敵の攻撃に備えた。ギョルソーまで消滅しては自分が最後の砦だ。攻撃に回る余裕は、正直無い。それでも、盾として攻撃役を最後まで守るべく、ありったけの気合で立ち続ける。
 だが。
「いい加減に失せよ!」
 ドラゴンロードの巨大な尾が、前衛を襲う。マリオンは素早く敵味方の位置取りを確認。田吾作はもういない。ギョルソーは間に合わないだろう。ならば。
「……ッ!」
 マリオンは迷うことなく灰の前に出る。文字通り雷にでも打たれたかという衝撃が全身を駆け抜け、宇宙空間を吹き飛ばされるマリオン。その体に、鋭い牙の追撃が迫る。
「マリオンさん!」
 薄れゆく意識の中で、マリオンは悲鳴のような声を聴いた。そしてぐいと引っ張られる感触を最後に、意識が途切れる。
「……危なかったっすね、ナイスっすよ、那岐さん!」
 セットが見た通り、マリオンを救ったのは那岐だった。その体を危ういところで引き寄せると、後方のヘリオンへ向けて投げる。あとは、上手く回収されることを祈るだけだ。那岐は反転すると、刀を構えて鋭い突きを繰り出す。セットもまた、即座の演算により敵の弱点を見抜き、的確な砲撃で破壊にかかる。
「マリオンさん……盾を展開します!」
 ロージーはマリオンの無事を祈りながらも、ヒールドローンを飛び立たせ、ドラゴンの攻撃を阻害しようと試みる。回復するのはこれが最後。次の二分間は、回復役のロージーさえ攻撃に回る。なんとしてもここで倒してしまわねば。そうでなければ地球が大変なことになってしまう。
「そんなことは、絶対に阻止しませんと!」
 このドローンが皆を守るよう、祈るような気持ちでロージーはチェーンソー剣を握った。
「ぉおおおおおおっ!」
 狂ったように戦い続ける優は、【喰霊刀『暗牙』】と【我零刀『織心』】の刃をこすり合わせると、狂気に呼び寄せられた亡霊をその刀に纏わせて切りつける。デウスエクスの身を怨念と狂気の毒が一気に汚染して、体力をじわりじわりと削っていく。
「さあ、総攻撃だ! みんな準備はいいか!」
 オーラの弾丸を放ちながら、灰は皆に声をかける。次の一分ですべてを決める。ケルベロスたちは各々最大威力の攻撃を以って、最後の一撃とすべくグラビティを繰り出す!

●総攻撃、死力尽くして
「いくら力を尽くしても無駄だ! 螺旋業竜は誰にも止めさせぬ!」
 最も脅威と見た灰を、ジゴワットは薙ぎ払う。
「灰さん……それでも!」
 回復してやりたい気持ちは確かにある。それでも取り決め通り、総攻撃を行う時刻なのだ。ロージーは今だけ心を殺してチェーンソー剣を振りかぶる。切り広げた傷口から呪詛の類が増殖し、ドラゴンロード・ジゴワットの体を蝕む。これが僅かでも、撃破に繋がれば。
「決着の時じゃ! 皆、手を緩めるでないぞ!」
 クライスは【龍殺大刀・星列刀皇】を構え、ありったけのグラビティを注ぎ込む。
「森羅万象の理、、万物全てを征す!一天四海を絶ち、神仏閻魔、、龍の軛を挫く!!」
 振るうは一瞬、剣閃は瀑布の如く、僅かな時間に無数の刃がジゴワットへと襲い掛かる。終ノ型の極みとされる絶技は持てる火力を余すことなくデウスエクスへと叩き込む。クライスにもはや迷いはない。
「これで終わらせるよ!」
 セットの全力の蹴りは宇宙に相応しい流星の如く。初めの慣れぬ様子はもうどこにもない。狙いは翼。威力を重視したグラビティを選定しつつ、機動力を奪い、後続へと続けるのだ。
「はい、ビリビリパーティーおわりー、これでしゅうりょー」
 トリュームは自称(?)極めて安全な児童用の玩具「ZigZag-Zapper」をジゴワットに向ける。研ぎ澄まされた感覚から放たれるビリビリビーム!(ジグ・ザグ・ザッパー)は過たずドラゴンロード・ジゴワットを狙い撃った。
「ビリビリはそっちだけじゃないんだよねー、どう?」
 自慢げに玩具を掲げるトリュームだが、その威力は正直えげつない。グラビティなのだから当然かもしれないが。
「ぅあああぁぁぁぁッ!」
 さらに、優の狂い切ったかのように見える斬撃の数々がジゴワットの体を刻んでいく。だが熟練のケルベロスたちには分かる。これは狂気に、あるいは怒りに任せて好きなように斬っているのではない。急所のみを的確に狙う暗殺を司るシャドウエルフ特有の暗殺術、その神髄だと。
「押し切りましょう……! さて披露するは我が戦舞の一つ。風よ、斬り裂け!!」
 那岐が舞えば、風なき宇宙にグラビティの風が生まれ、その一つ一つが藍色の刃となってデウスエクスへと襲い掛かる。その隙に、灰は態勢を立て直した。
「くっ……負けられるか! こいつはここで倒す、ここから下へ、地球の空には行かせない!」
 灰は目にもとまらぬ連撃を繰り出して、ジゴワットを追い詰めていく。無残(ムザン) の名の通りのグラビティは、命中を度外視した全力の連続攻撃だ。それが、仲間たちの加護と守りによって研ぎ澄まされた感覚から繰り出されれば、当たりづらさの欠点が消える。
「おのれ、おのれケルベロス……!」
 その連撃によってジゴワットの姿は徐々に砕け……最後には呪詛とともに宇宙の星に紛れ、光となって消滅した。

●砕け、螺旋業竜スパイラス
「やったのう! 時間は……むう、もう一分もなさそうか」
 クライスは時計を確認する。だがこれで終わりではない。眼前のスパイラスを破壊せねばならないのだから。
「今から向かえば、間に合うよね」
 戦いを一度終えた優は皆に確認を取ると、頷きあってスパイラスへと向かう。
 そうして宇宙を移動することしばし。しかしケルベロスたちは困惑する。スパイラスへは一向に取り付ける様子がなく、その大きさも少しも近づいて見えないのだ。
「もしかして……スパイラスが大きすぎて遠くにあるのに近くに見えてるのかな?」
 セットの疑問はやがて確信に変わる。地球へ向かって猛スピードで落下しているスパイラスに追いつくには、時間と推力が足りないのだ。間近まで迫ることはできそうにない。
「仕方ありません、ここから全力のグラビティを撃って、破壊しましょう! 大きくても、遠くても……たかが惑星一つ! ケルベロスの総力なら撃ち壊せるはずです!」
 ロージーは決然と叫ぶと、アームドフォートを構える。砲撃であれば届くはずだ。
 ロージーが撃った砲弾が光の筋となってスパイラスへ吸い込まれていく。同時に別方向からも幾筋もの光が、闇が、あらゆるグラビティがスパイラスへ撃ち込まれ、次々と爆発が起こり始める。
「とーいけど……ちきゅーがダメになるかならないかなんだし、やってみる価値はあり寄りのありって誰かが言ってた」
 トリュームも、ロージーに倣って攻撃を開始する。ボクスドラゴンのブレスなら届くかもしれない。諦めることなく、トリュームは相棒とともに突撃する。
 灰もまた、ドラゴン相手に深手を負い、その傷を癒す時間さえなかったが……それでも、攻撃を、スパイラスの破壊を諦めてはいない。
「あれだけ大きい相手なら……それでも! かけらも残さず砕け散れ!」
 ケルベロスたちのグラビティは周囲の者たちが放ったそれと合流して、次々と螺旋業竜スパイラスを破壊していく。その破片から身を守るべくシールド装備のドローンを展開しながら、セットは全速でスパイラスを追い、グラビティを叩き込む。
「相手はどこに撃っても当たるっすから、威力重視でいくっすよ!」
 徐々に小さくなり始めたスパイラスに、セットもまた力の限りのグラビティを叩き込んでいく。飛び散った破片をドローンで受けて、それでもセットはひるまず手を止めず、攻撃を続けていった。
「これが最後……!」
 声ともとれぬ叫びをあげて、優もまたグラビティを叩き込む。右目から炎のようなオーラが噴き出すのは、彼が全力である証。そのグラビティで、徐々に破壊されていくスパイラスに追撃を加える。
「だいぶ小さくなってきたのう……! だがまだまだじゃ!」
 クライスが影の弾丸を撃ち込み、さらにスパイラスを破壊。砕けたスパイラスの一部は地球へと飛ぶが、大きさからして大気圏で燃え尽きて消えるだろう。その大きさまでスパイラスが至るのも、あと少し。
「これが……最後の舞です!」
 藍の風の刃がスパイラスへと至り、同時にケルベロスたちの攻勢が勢いを増す。そうしてついにスパイラスの中央が爆発して砕け、ケルベロスたちから見ればほんの小さな破片となっていく。距離感すら錯覚するほどの大きさだった惑星は今や、小さな隕石群にすぎなくなった。
 それが、スパイラス・ウォーから続いた、慈愛龍率いるドラゴン族の策謀の終わり。彼らの餓えも、怒りも、憎しみも、そして螺旋忍軍の故郷、スパイラスも。全てはケルベロス達の手により千々に砕かれ、重力に惹かれ、光の雨となって――蒼き星へ。

作者:廉内球 重傷:マリオン・オウィディウス(響拳・e15881) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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