決戦! 螺旋業竜~宙より来たるは螺旋の竜

作者:波多蜜花

●宙より来たる
 その日は多少の雲はあれど月明かりは控えめで、夜空に輝く星々が肉眼でもよく見え、流れ星も幾つか見える――そんな天体観測に持ってこいの夜だった。
 地球の衛星軌道上、日本へ直撃する落下軌道に突如巨大な何かが現れたのは。そして、まるでそれを守るかのように次々と何かが数を増やし、星の光りを遮っていく。
 その正体はドラゴニアから慈愛龍に率いられ惑星スパイラスに移動し、スパイラルウォーの敗北によりスパイラスに隔離されてしまったドラゴン達。正確に言えば、スパイラスに遺されたドラゴン達が竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、螺旋業竜スパイラスとなった姿と、それを利用して生きたままここまで到達した上位のドラゴン達であった。
『あれが地球か』
 その中の一体である螺旋竜スパイラが地球を宙から見下ろす。初めて目にする、青く光り輝く星。あれを壊せば、大量のグラビティ・チェインが手に入る――。
 過酷な竜業合体による移動と、グラビティの枯渇により弱体した身には何よりのご馳走に見えた。
『我らの未来はあの地にあるのか』
 大きな螺旋型の角を持つ竜が吼える。そして、地球にあるグラビティ・チェインを奪う為に動き出すのだった。

●ヘリポートにて
「急に呼び立ててしもたけど、集まってくれてありがとうな! まずは第二王女ハールの撃破と、大阪城地下の探索に成功したんは皆も知ってると思うんやけど」
 あ、戦場に向かってくれた人らはお疲れ様やよ、と笑って撫子が続ける。
「第二王女を撃破できたことで、エインヘリアルと攻性植物による同時侵攻の危機を回避できたんは何よりの成果やったと思うんやけど、大阪地下に向かったケルベロス達からも有益な情報が上がっとるんよ」
 情報は様々あるのだが、今回の話に関係あるのはドラゴン勢力から聞き出せた、本星のドラゴン軍団が竜業合体によって地球に到達しようとしているという情報だ。
「なんやけど、地球に来ようとしてるんは本星のドラゴンだけとは違っとってな」
 それはサリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)が警戒していた、惑星スパイラスに遺されたドラゴン達だ。彼らも竜業合体によって惑星スパイラスと合体し、地球の衛星軌道上に出現する事が予知により判明したのだ。
 この予知は、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの・e27269)、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)の両名が協力を要請していた天文台からの情報、そして死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が注意喚起を行っていたNASAによる解析によって、より詳しい情報が確認されているという。
「これによってな、詳細な予知がでたんよ。どうもこの惑星スパイラスからやってくるドラゴン達は無茶な竜業合体を繰り返しとったみたいでな? 慈愛龍が率いとったドラゴン軍団の殆どが失われとるみたいなんよ。それで残ったドラゴン達もグラビティ・チェインが大分と枯渇しとるようでな、戦闘力を大きく損なっとるんや」
 簡単に言ってしまえば、通常の状態のドラゴンよりも弱体化しているということだ。
「せやけど、ドラゴン達もそれはようわかっとるんやろな。慈愛龍は竜業合体した惑星スパイラス……螺旋業竜スパイラスを衛星軌道上から日本に落下させようとしとるんや」
 それが実現してしまえばどうなるか、聞かずともわかるとケルベロス達が目を見張る。衛星軌道上からそんなものを落とせば、その衝撃で数百万、数千万の人間が死んでしまうだろう。そして、そのグラビティを略奪する事で、ドラゴン達は失った力を取り戻してしまうに違いない。
「これが実現してしもたら、間違いなく地球は終わるやろな」
 その為にも、と撫子がケルベロス達を見る。
「ドラゴンが出現する衛星軌道上のポイントは、既に割り出しが終わっとる。せやよって皆にはグラビティ・チェインが枯渇しとる状態のドラゴンを撃破し、螺旋業竜スパイラスの破壊を頼みたいんよ」
 まず、迎撃場所は衛星軌道上となる。そこまでは宇宙装備のヘリオンで移動する事が決定していること、無重力空間での戦闘となることが伝えられる。
「ケルベロスの皆には、無重力空間であっても戦闘に支障はあらへんよって、そこは心配せんとってな」
 ジェットパッカーなどの移動用装備を持っていくことは可能やよ、と撫子が付け加えてから話を続ける。
「螺旋業竜スパイラスは竜業合体によって地球に移動する以外の戦闘力はあらへんのよ。せやけど、その巨大な質量を破壊するには作戦に参加したケルベロス達が最大出力のグラビティで一斉攻撃するくらいやないと破壊できへんと思ってや」
 ただし、と撫子が眉間に軽い皺を寄せて再び口を開く。
「宇宙に上がってすぐに螺旋業竜スパイラスに向かうんは無理や、少数とはいえ慈愛龍が率いるドラゴンがそれを守っとる」
 まずはこのドラゴンを倒さねばならないのだ。
「ウチらが担当するんは螺旋竜スパイラっていうドラゴンでな。人のような二足歩行タイプのドラゴンや。惑星スパイラスで何をしとったんかまではわからんけど、螺旋の力をある程度身に付けとるみたいやわ」
 使用するのはドラゴンブレス、それと手にした巨大な手裏剣を使った技などがあるようだ。
「それと、こっからが重要なんやけどな。迎撃を開始してから12分以内に螺旋竜スパイラを撃破できへん場合は、スパイラス落下阻止の攻撃が間に合わんくなってしまうんよ」
 また、ドラゴンに敗北、あるいは時間切れによりスパイラスに攻撃することができないチームが5つ以上になった場合、戦力不足によりスパイラスの落下を完全に防ぐことが出来なくなるのだという。
「足りへんチームの数によっては、地上の被害は変わるやろけど……それなりの損害になるんは覚悟せなあかん」
 伝える情報は全て伝えたと、撫子が手帳に落としていた視線をケルベロス達に戻す。
「これはかなり危険な状況や。せやけど、皆の力で食い止めることができる、ウチはそう信じとるよってな!」
 そう伝えると、撫子はケルベロス達を無事に宇宙空間へ送り届けるべく、ヘリオンへと向かった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)

■リプレイ

●宙より
 宇宙に上がるのは何度目だったか、と藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)がヘリオンの窓から宙を覗く。
「何度来ても慣れるものではないですね」
 思わず漏れたのであろう景臣の呟きにゼレフ・スティガル(雲・e00179)が僅かに笑んで、誰に返すとでもなく言う。
「思っていたよりもあっさりと来られるものだね」
「それはそうなんだけどさ、ケルベロスだったら宇宙空間でも支障無いって言われても~? ふつーに怖くない?」
 宇宙空間で迷子になったらどうしよう、とクロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)が己の身体を抱き締めると、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)がこくんと頷きつつも、前を見た。
「でも……地球が滅亡したらもう誰も巻き戻せないので、此処で絶対に阻止です」
「さすがマロン、よくできた娘……っ!」
 実の娘ではないけれど、娘のように可愛がっているマロンの言葉に霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)が頼もしいと小さく拍手を送ると、ヘリオンがその速度をゆっくりと落としていくのを感じてミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)が声を掛けた。
「皆さん、そろそろのようです」
 準備はいいかですか? という問い掛けに、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が静かに頷く。
「ここで勝てないと寝覚めが悪いですからね……やりましょうか」
「宇宙を渡ってくる執念には恐れ入るが、その企み……惑星もろとも打ち砕く……!」
 天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)がボクスドラゴンのレイジを伴って立ち上がる。同じようにケルベロス達が立ち上がり、宙へ向かうハッチへと向かった。
 全員が揃ったのを確認したかのように、ゆっくりとハッチが開いていく。
「あれが螺旋業竜スパイラス、ですか」
 数多のドラゴンが複雑に絡み合う、惑星のようにも見える巨大なその姿に景臣が掛けていた眼鏡を外し、幽かに揺らぐ紅炎越しに見据える。
「それから、あっちがスパイラル? スパイラ? ううん、ややこい!」
 クロノが両手に手裏剣を持つ竜を発見し、指をさす。
「螺旋業竜スパイラスと名前が似ていて紛らわしいですが、螺旋竜スパイラ……ですね」
 両腕に白い鎖、縛神白鎖『ぐlei伏ニル』を巻き付けてシフカが倒すべき竜を睨んだ。
「……竜業合体で意志と命を託す中で最後に愛を囁き合ったドラゴンが居るのでは?」
 気が付いてしまった、という顔で裁一がスパイラスを睨む。
「爆破!」
「お父さん、スパイラスを爆破するのは最後です」
 じゃあ最後に爆破しよう! と張り切る裁一にマロンが頷いた。祇音が漆黒の鎧をひと撫でし、完全に開いたハッチの先にある宙を見た。
「短期決戦で参りましょう」
 スパイラスが地球に落とされるまでの時間に猶予はない。十二分だとタイマーをセットしたミスラが二刀一対の妖刀を構える。
「頑張ろうね!」
 先程までの緩やかな雰囲気を戦場に赴く者のそれへと変え、クロノが剣を持つ手の甲にキスを落とすと、ひゅん、と風切り音を鳴らして【彩雲剣】アルヴァーレを振るい、真っ直ぐに前を向いた。
「陸でも宙でもやることは変わらないからねえ。皆も準備は良さそうだね、じゃあ――」
 行こうか。チームの盾役を担うゼレフが同じく盾役を担う景臣に柔らかな視線を遣って、宙へ足を踏み出す。それに続くかのように、ケルベロス達が戦場となる宙へ飛び出した。

●螺旋に挑む
 宇宙空間であってもケルベロスに影響はない――事前に聞いていたその言葉通り、宙へと出たケルベロス達の動きは変わりなく、螺旋竜スパイラを眼前に捉える。
「時間の合わせはいいかな?」
「ばっちり、問題ないよ」
 タイムキーパー役を請け負うゼレフとクロノが時計を合わせると、マロンが動いた。
「では、ドラゴン退治の始まりです」
 攻撃を担う仲間の命中精度を上げるべく、光り輝く粒子を前に立つ仲間に向けて放つ。その光を受け、シフカがスパイラに向かって白鎖を振るう。
「今すぐ此処で死に絶えろ……! 殺技肆式、『鎖拘・Ge劉ぎャ』!」
 シフカの攻撃により、スパイラの意識がこちらへと向けられる。その竜の視線を感じながら、ミスラが然りとスパイラを睨み付ける。
「彼等も種族の存亡を掛けて、このような蛮行を起こしているのでしょう。――ですが、私達の後ろにも77億もの護るべき人々がいる、今私達が退いたら、その人達を見殺しにする事になる!!」
 だから、ここで倒すと言外に言い放ちながら、ミスラがシフカと祇音に向かって祝福を込めた力の加護を与えるべく祈りの言葉を紡いだ。
「報復には許しを 裏切りには信頼を 絶望には希望を 闇のものには光を 許しは此処に、受肉した私が誓う “この魂に憐れみを”」
 憐れみの賛歌(キリエ・エレイソン)、柔らかい加護を受けた二人の横を抜いて、裁一が飛び出していく。
「デストローイ!」
 暗闇にあっても煌くその一筋が、スパイラに向かってお前もリア充! と言わんばかりの飛び蹴りを炸裂させた。
 スパイラスを地球に落とす邪魔になると判断したスパイラが、その口を大きく開き咆哮を上げる。それはぴたりとシフカと祇音を狙って凍てつく竜の暴息を吐き出す。眼前に迫るその苛烈なまでの息吹に、咄嗟に防御姿勢をとった二人を庇うように武器を構えた景臣とレイジが前に出る。
「……っ!」
 その重さと威力に、受け止めきれず景臣の刀が横へと流れた。弱体化しているとはいえやはり竜種、強い……そう思いながら此咲を構え直し、繊鎖を操り自身を含む前に立つ者へ守護を与える魔法陣を描く。続いて景臣を支えるかのように横に立ったゼレフが、士気を高めるべく鮮やかな色の爆煙を起こした。
「さぁ、いつも通り」
「ええ、滞り無く」
 交わす言葉は短くとも、盾として最後までこの場に立つ。そうお互いの意思を感じさせる言葉を交わし、スパイラの些細な動きさえ見逃さぬようにと前を向いた。
「助かる、まだ行けるな?」
 祇音の問い掛けに、レイジが翼を羽ばたかせて応える。
「行くぞ!」
 オウガメタルである金山姫が祇音の意思を組み、拳に向けて厚みを増す。その拳をスパイラに叩き付けると、レイジが追うようにブレスを吐いた。
「絶対にここで、ぶっ倒してやるわ!」
 クロノが極限にまで集中させた精神をスパイラにぶつけ、爆破を起こす。タイマーをチェックすると、丁度1分が経過しようとしていた。
 時間との勝負、1秒だって無駄にはできないとマロンが稲妻を帯びた槍を突き穿てば、シフカがその傷痕を狙うかのように斬り広げていく。
「まだこちらは大丈夫ですね、ならば」
 盾役の負傷はまだ軽いものと判断し、ミスラが攻撃手の命中精度を上げるべく己の二刀が捕食した魂のエネルギーを祇音へと与えると、裁一が緩やかな弧を描く斬撃を放った。
『邪魔を……するな……!』
 スパイラが腹の底から響くような声を発し、両手に持った黒い手裏剣を放つ。それは無数の手裏剣に分裂し、ミスラと裁一の頭上へと降り注ぐ。
「邪魔をするのが仕事でね」
 ゼレフがミスラを庇うように頭上に降る手裏剣を冬浪で弾く。弾ききれないそれはゼレフの身を削ったが、体力の半分を削る程の物ではない。
「リア充の癖に重い一撃すぎませんかね!?」
 ズタズタですけど! と叫ぶ裁一を下がらせ、景臣がスパイラを睨み付ける。
「あなた方にとっての希望の種……此処で摘み取らせて頂きます」
 スパイラに一刀を入れる為に景臣が振り被ると、並び立ったゼレフが裁一の士気を高めるように鼓舞し、祇音が雷鳴の指輪から具現化した光の剣で斬り付けレイジが回復を担う。
「そこね!」
 高速演算によって導き出した軌道にのせ、クロノが凄烈な一撃を放つ。残り10分、この残り時間でスパイラを討つ。その思いを胸に番犬達がスパイラに牙を剥く――!

●持てる力、その全てを
 5分、7分と時間が経過していく。スパイラに向けて確かな傷を負わせている手応えはあるが、その分こちらの傷も深い。しかし、いくら弱体化しているとはいえ自分達が相手にしているのはドラゴンなのだ、それは想定内のこと。癒し手であるミスラが仲間の負傷具合に細かく気を配り、優先順位を決めて的確な癒しを行う。そして、それだけでは足りないと判断したクロノが仲間を癒す為に花びらのオーラを舞い散らせた。
「残り、3分!」
 クロノのカウントに、マロンがふわりと光を操りスパイラへとそれを向ける。
「今宵のトップ・スタアは……其処の貴方です!」
 巨大な竜を照らし、マロンのOp.Η【Raudonas balionas】が赤い光と音、そして視覚的概念をもってしてスパイラを襲う。
「噂には聞いていましたが……ここで相まみえるとは思いませんでしたね」
 本当に聞いた程度ですが、そう思いながらシフカが残像を伴うほどの高速の連撃をスパイラに見舞うと、ミスラが景臣とゼレフに向けて憐れみの賛歌を歌い上げる。
「風通しよくしてあげますからねー! 風穴プレゼンツ!」
 頭のサバト頭巾をドリルのように回転させ、裁一がリア充を風通しの良い体にリフォームしてやるという執念のままにスパイラへと突進していく。
『通させは、せぬ……!』
 我らの希望なのだ、と吼えたスパイラの顎から凍てつく竜咆が吐き出される。狙うはシフカと祇音、だがそれは景臣とゼレフが見切っていた。
「く……っ」
「……っ!」
 攻撃手を庇う二人の身体は多くの傷を負っていた、それでも引くことを選ばないのは二人の誇りと信念だ。息の合った動きで、防御姿勢から攻撃へ転じていく。
「天罰、執行」
 右半身に黒い文様を浮かべ、祇音が神を降ろしその力を以て強烈な打撃を打ち込むと、レイジが癒しの力を景臣へ振るう。攻撃か回復か、瞬時に判断しクロノが今一度宙で軽やかなステップを踏む。ファーとリボンの付いた白いショートブーツから、白い花びらを模ったオーラが盾となる彼らに降り注がれた。
「10分! 皆、もう後がないわ!」
「時計の狂い無し、残り二分だ。ここで決めるとしようか」
 クロノの呼び掛けにゼレフが答えると、番犬達の顔付きがより研ぎ澄まされたものに変わる。残り2分でスパイラを仕留める、それは――回復を捨てるということ。
 マロンが放電を繰り返す槍を突き立て、シフカが握り締めた拳でスパイラを殴り付け、更に爆発を起こして追い詰める。そして、ここまでほぼ回復を担ってきたミスラが虚空ノ双牙、陽と陰を握り締める。
「暴れましょう、虚空ノ双牙」
 二振りの喰霊刀を暴走させてその力を放つと、裁一がジグザグに変形したナイフを穿った。
『おのれ、ケルベロス共……!』
 スパイラの巨大な尻尾が唸りを上げる。
「ドラゴンテイル、来ます」
 幾度か見たその動作に、景臣が注意を促す。ここで攻撃手を落とさせるわけにはいかないと、襲い来る尾を受け止めるべく景臣とゼレフがシフカと祇音の前に出た。
「先に倒れた方が奢りで、両方立ってたら――宴会だ」
「おや、それならば――」
 どん、と全てを薙ぎ払うような尾の一撃が二人を襲う。肋骨に罅でも入ったか、と唇を歪めながら景臣がゼレフに答える。
「お互い食べたい物を考えておかねば、ですね」
 唇から溢れた血を乱暴に拭い、ゼレフが笑う。
「なら、派手にやろう」
「良いですね、暴れるのは得意です」
 残り時間、立っていられるだけの気力と体力はまだ充分だとばかりに、二人がスパイラに向けて抜きを構える。
「――さあ、」
「逃がさない」
 景臣の地獄の彩【鎖檻】が燃える。それはゼレフの刃【白化】と共にスパイラへと奔る。突き立てられた刃から生じる螺旋の炎に絡み、スパイラを襲った。
 祇音が金山姫を纏った拳を叩き付けると、レイジがブレスを吐き出しスパイラの傷を深める。それに続き、クロノがアルヴァーレを構えて卓越した技量の載せた一撃を放つ。
「残り、1分!」
 目の前のドラゴンは今にもその体躯を保てぬほどに消耗している、畳み掛けるならば今だとマロンがエクスカリバールさんを手にして裁一を呼ぶ。
「お父さん!」
「行きましょうかマロン! これぞ! 嫉妬と家族愛の合体的な!」」
 釘を生やしたエクスカリバールをスパイラ目掛けて振り被るマロンと、サバト頭巾に赤黒いオーラを纏わせた裁一が共にスパイラへと突撃していく。それを追うように、シフカの渾身の斬撃が残像を生むほどの速さでスパイラに傷を負わせた。
『我らの、ドラゴンの未来の為にィ……!』
 スパイラが残る力の全てを込めて、スパイラスへの攻撃を阻止する為にマロンとクロノに向かって漆黒の手裏剣を放つ。無数に降り注ぐそれを、景臣とゼレフが二人を庇いながら手にした武器で弾く。けれど、弾く数にも限度があるのも事実。残りの手裏剣をその身で受け、二人の身体が支え合うように崩れ落ちた。
「ゼレフさん! 景臣さん!」
 クロノの叫びにも反応はない、駆け寄って助け起こしたい気持ちをぐっと堪え、もう一撃で倒れそうなスパイラに向かい、祇音と共に駆けた。
「天罰、執行!」
 本来であれば連発は避けるべき技だが、今はそんなことを言っている場合ではないと祇音が【天津罪】を渾身の力で打ち込み、レイジが体当たりを仕掛ける。その勢いのままにクロノがアルヴァーレを構え、自身が起こした風に身を任す。
「風よ! 私を導いて! ロンドバルデュリアー!!」
 風の加護を受け、避けることも叶わぬ速度を以てしてスパイラに尖撃した。

●竜を撃ち落とす
 スパイラが完全に沈黙したのを確認すると、動ける者がその後ろに控える螺旋業竜スパイラスを破壊する為に狙いを定める。
「これで、最後です! スパイラスを……撃ち落とします!」
「ではスパイラス他ドラゴンども、リア充諸共爆発しろぉ!」
「爆発、です」
 シフカが叫ぶように殺技肆式『鎖拘・Ge劉ぎャ』を叩き付け、マロンと裁一が構えた武器から氷の弾丸を精製し共に撃ち放つ。
「ここで、止めるわよ!」
 即座に集中させたそれを、クロノが迷いなくスパイラに向かって爆破させる。その場に立っているすべてのチームのケルベロス達が、それぞれの想いを込めてグラビティを撃ち放つ。それはまるで一つ所に光が集まるかのようで――。
「綺麗、です」
 思わずミスラが呟くと、祇音も小さく頷いた。
 螺旋業竜スパイラスは砕け散り、大きな破片も爆発から小さな破片となって大気圏へ落ち、流星雨となって地球に降り注ぐ。
「ヘリオン、迎えに来てくれたみたいです」
 自分達へ向かってくるヘリオンを、マロンが指さす。
「あっ! ゼレフさんと景臣さん!」
 動くこともままならない彼らも、一緒に回収してもらわなくちゃ! とクロノが二人が待つ場所へと向かう。
 斯くして、地球を守り抜いたケルベロス達は誰一人欠けることなく、青き星へと帰還する――。

作者:波多蜜花 重傷:藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) ゼレフ・スティガル(雲・e00179) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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