清々しく荘厳な花

作者:芦原クロ

 見晴らしが良く、緩やかな傾斜の丘に広がるのは、一面の青い花。
 可憐な青い花、ネモフィラで埋め尽くされた美しい景色が、5月下旬頃まで楽しめる庭園。
「おかあさん、見て! お花さんいっぱいでキレイ!」
 無邪気にはしゃぐ少女と、カメラを構える母親。
 かわいく撮ってね、なんて少し気恥ずかしそうに、ネモフィラと共に写真におさまる少女。
 その真横を、ふわふわと謎の花粉のようなものが漂い、通っていたことに、誰も気づかなかった。
 それにとりつかれたネモフィラは巨大化し、あっという間に禍々しい異形と化す。
 手当たり次第に人々の命を刈り取り、踏みにじる。
「おかあ……さ……助け、て……」
 少女が呼び掛けても、血だまりに倒れている母親はもう動かない。
 ツルで絞殺され、少女もまた、命を奪われた。

「ネモフィラか。透き通った青色の通り、花言葉は、清々しい心。他にも色々有るな、神話も有名だ」
「可哀相だけど攻性植物化してしまったんだよ」
 霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)の説明に、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が言葉を添える。
「カシス・フィオライトさんの調査のお陰で、攻性植物の発生が予知で確認出来た。急ぎ現場に向かって、攻性植物の撃破を頼みたい。放っておけば、多くの命が失われるだろう」

 敵は1体だけで、配下は居ない。
 警察などが一般人の避難誘導を迅速におこなってくれるので、ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃すれば良いようだ。
 戦闘に集中していれば敵の意識も、ケルベロスだけに向けられる。
 開けたやや広いスペースが、戦場となるだろう。
 少しだけ気を付けていれば他の植物も、傷つけずに済む。

「あんたさん達なら、確実に撃破してくれると信じてるぜ。どうか、死傷者の出ない平和を守ってくれ」
 頭を下げ、頼み込んだ。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ


(「まさか俺が危惧していた攻性植物が本当に現れるとはね。この事件は俺が直々に対処してあげるよ」)
 戦場に到着後、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は敵が現れるのを待ちながら、決意を固めていた。
(「ネモフィラですか、可愛い花ですから僕も好きですけど」)
 バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が、青く広がるネモフィラ畑を見て、その美しさに思わず笑みを零す。
 両目を閉じ、静かに、しかし警戒は怠らずに待機していた嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)が、すっと目を開く。
「来たようだな」
 他の植物に被害がゆかぬよう気をつけて戦闘配置につき、槐がそっと告げる。
 ずるり、ずるり、と這いながら現れた、異形。
(「攻性植物になったからには、倒さないといけませんね」)
 植物好きのバジルとしては、いささかツラい決断だが。
 異形は禍々しく、ネモフィラの可愛らしさなどとうに消え失せていたのは、バジルにとって幸か不幸か。
「一般人の避難誘導は、警察の人たちが行ってくれるみたいだし、桜子たちケルベロスは攻性植物の相手に集中しないとね」
 一般人たちのほうへは向かわせまい、と。
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)がメンバーと共に、敵を取り囲むようにして、進行を阻む。
「ええ。私達ケルベロスが相手です」
 頷いた七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)も、これ以上は先に進ませはしないと、立ちはだかる。
 異形は己が排除されると察したのか、獰猛な雄叫びをとどろかせ、威嚇する。
 びりびりと空気が張りつめるが、怯む者は居ない。
(「ネモフィラの、あの淡く青い色合いは好きだったけど攻性植物になっちゃったら、被害が出る前に倒さないとね」)
 桜子は戦場を駆けつつ、桜の花弁状のエナジーを無数に創り出す。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 桜子の手から放たれた花弁は紅蓮の炎へ変わり、敵を焼き払う。
「攻撃を集めるとしようか」
 蒐が敵を攻撃した瞬間、高々に跳躍し、虹をまとった蹴撃を浴びせ、槐は敵の怒りを自分に向けさせた。


(「誰かが取り込まれてないから気兼ねなく攻撃できそう。これ以上被害が広がらないように倒さないとね」)
 メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は素早く武器を構え、時間を凍結する弾丸を撃ち込む。
 敵がわずかに後退した隙を狙って、バジルは黄金の果実を宿す。
「黄金の果実よ、その神聖なる実りよ、仲間を護る力となって下さい!」
 バジルの呼び掛けに応えるかのように、聖なる光が輝きを増し、前衛陣に耐性をつける。
 敵を逃がさないよう注意しながら、後ろへ回り込み、カシスは雷龍の角杖を掲げた。
「雷光よ、迸れ。そして敵を痺れさせよ!」
 杖から雷がほとばしり、敵にダメージを与える。
(「ネモフィラですか、私もこの花は好きですけど……それが人を襲う攻性植物になったからには容赦はしませんよ」)
 敵への攻撃やBS付与に専念するという、自分の役割を決めている、綴。
「身体を巡る気よ、私の掌に集まり敵を吹き飛ばしなさい」
 両の手のひらに気功が収束してゆく。
 狙いを定め、敵に手のひらを向けると同時に放たれた気功が、詠唱通り敵を吹き飛ばす。
(「この季節のネモフィラは綺麗ですが、攻性植物と化した花は、迷惑ですからさっさと倒してしまいましょう」)
 素早く跳躍する、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)。
「まずはその素早い動きを、封じさせて頂きますよ!」
 吹き飛び過ぎた敵が花畑を荒らさぬよう、煌めく軌跡を描きながら、真上から飛び蹴りを叩き込む、タキオン。
 重い一撃は敵を押しつぶし、大地を沈ませる。
 敵は反撃のつもりか、伸ばしたツルで虚空を叩くが、タキオンは既に身を引いている。
 ゆらりと身を起こした敵が、一瞬で光を集め、炎の光線を放つ。
 熱線は槐を庇った李々に直撃し、戦場は燃え、異形が咆哮をあげる。
(「酷いことするじゃない」)
 愛らしく美しい花が変わり果て、異形と化した姿に、八尋・豊水(イントゥーデンジャー・e28305)はそっと溜め息を吐く。
(「でも、私たちが来たからには、誰一人やらせはしないわ。さあ、かますわよ?」)
 豊水の心境を読んだかのように李々がこくっと小さく頷き、ポルターガイストを展開。
「オン・ゴウ・ニン! 止めてあげるわ……あなたの動きも、その掻きむしるような苦しみも!」
 紅い螺旋を全身に纏い、豊水が敵に組み付くと竜巻のような高速回転が掛かり、天高く投げ飛ばされた敵は凄まじい勢いで地面へ叩きつけられた。
「この蹴りを、見切れますか?」
 電光石火の早業で、敵の急所を蹴撃する、綴。
「永劫桜花よ、敵を締め上げよ!」
 桜の枝がツルクサ状に変形し、敵に絡みついて締め上げる。
「出来れば、李々さんの回復をお願いね」
「承知した」
 敵を締め上げながら桜子が頼むと、槐が素早く応じた。
 凄まじい拳圧で、負傷を殴り飛ばし、炎をも掻き消した。
「大丈夫ですか、すぐに治しますね」
 ダメージがまだ残り、完全に回復していないことにいち早く気づいた、メディックのバジル。
 癒しを重ね、バジルは小まめな回復を怠らなかった。


 激しい攻防を繰り広げ、異形が吠える。
 威嚇と、焦りと、怒りと……そして、微かに伝わる、恐れ。
 ケルベロスたちに追い詰められ、異形は彼らを恐れ始めていた。
 だが逃げるという考えは無く、異形はひたすら威力の高い攻撃を繰り返す。
 その度にケルベロスたちは回復やサポートに回り、反撃も忘れない。
『グオオオッ』
 獣のような咆哮を響かせ、大地が揺れる。
 融合した大地は、異形の思うがまま、前衛のケルベロスたちを飲みこんだ。
 庇われ、一足先に脱出したメリルディが、飛び出す。
「一気に行こうかな」
 エネルギー体の氷属性の騎士がメリルディによって召喚され、凍てつく斬撃を敵に浴びせる。
「うんうん、そろそろ終わりにしたいね。さぁ、これで叩き潰してあげるよー!」
 賛同した桜子が、加速と共にハンマーを振り下ろし、敵を叩き潰す。
「回復は忘れずにしておこう」
 蒐が炎を纏って突撃している間に、槐は戦場を美しく舞い踊る。
 花びらのオーラが降り注ぎ、負傷した前衛陣を癒してゆく。
「回復役が一人増えると助かります。皆で頑張りましょうね」
 バジルは槐に感謝しながら、薬液の雨を戦場に降らせた。
 雨に触れた仲間たちが、癒され、力を取り戻してゆく。
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
 エナジー状の光の剣を創造する、カシス。
 罪を浄化する剣は、敵を無慈悲に幾度も斬り刻み、敵の花弁を、ツルを、斬り落としてゆく。
「私でも、やればできるのです! ……最後まで気を抜かずにいきましょう」
 剣の隙間を猛スピードでくぐり抜け、逆側から綴が、強力な一撃を敵に叩きつける。
「私の体術からは逃れられないわよ?」
 綴が飛び退いたと同時に、豊水は敵に接近し、李々と共に重い攻撃を与えた。
「もう少しで倒せそうね。あとはタキオンくん、よろしくね? 任せたわ♪」
 動きが鈍く、吠える気力すら無い敵の様子を見て、豊水が明るい声で味方を鼓舞する。
「任されました。このドリルで、穴を空けて上げましょう」
 タキオンの肘から先が、ドリルのように回転し始める。
 地面を蹴り、敵との距離を一気に詰めたタキオンは、威力を増した特大の一撃を食らわせた。
 のけぞった敵は断末魔をあげ、崩れ落ち、完全に消滅した。


 戦闘で荒れた箇所や、侵食された大地にヒールを掛け、後片づけを終えた頃には、一般人の避難も解除されて平和な日常が戻っていた。
 一般人の無事を特に願っていたバジルは、平和な光景をしばし眺め、ほっと一息つく。
 そこへ、メリルディがポケットから小瓶を出し、仲間たちに声を掛ける。
「手を出して。はい、金平糖。甘いものはみんなを笑顔にしてくれるわ」
 全員に配り終えてから、メリルディは自分の口の中にも金平糖を放り込み、ネモフィラの丘を目指す。
「こうして見てみると青のグラデーションで、空と花の区別がなくなってるようだなぁ」
 爽やかな青色のネモフィラで、埋め尽くされた丘と、空の青さとが、まるで溶け合ってゆきそうな風景。
「すっごく綺麗」
 幻想的で美しい絶景に、メリルディは笑顔を浮かべた。

「お疲れ、李々。あの子達がいない間は地球は僕達が守らきゃね……ん?」
 李々と共にネモフィラ園の散策をしていた豊水は、ネモフィラの花を手渡され、足をとめる。
「もう一つの花言葉は“あなたを許す”……いいんだよ。僕が選んだ生き方だから。それに今更こんな僕、恥ずかしくて他の人には見せられないよ」
 普段の口調は変わり、李々の前でのみ過去の口調で喋る、豊水。
 なにかを感じて真剣に願っているのか、李々も普段の悪戯っ子な面が消え、豊水を見つめている。
「でも、ありがとう」
 李々の頭をそっと撫でてから、豊水はネモフィラを青い空に向けてかざし、澄みきった色に目を細めた。

「地が空と同じ色に染まるのは圧巻だな。他の花を植えないようにするのもひと苦労だし、管理をされる方々の苦労も偲ばれるというものだ」
 蒐を駐輪場に待機させて戻って来た槐は、カーペットのように美しく一面を彩るネモフィラの光景を楽しむ。
「やはり草木の手入れをされる方々は偉大だな」
 管理や手入れが上手く行き届いているのだろうと、感心している槐の耳に、仲間たちの声が響いて来る。
 どうやら、販売所からだ。
 槐もなにか買おうかと、販売所に向かう。
「お土産を買って帰りましょう。ポストカードが良いですね」
 タキオンがポストカードを手に取り、見ていると、桜子が興味深そうに眼差しを向ける。
「わぁ、このカードとっても可愛いなぁ。タキオンくんが買おうとしてるポストカードも、綺麗ね」
「私も何か買っていきたいですね。お二人はネモフィラのポストカードですか」
 無表情だが、タキオンと桜子の買う物に興味を抱いている様子の、綴。
「綴さんは買わないんですか?」
「ネモフィラのポストカードですか。……そうですね、買っていきたいです」
 タキオンの問いに少し考えてから、自分も買おうと決め、選び始める綴。
「これならきっと、皆も喜んでくれそうですね」
 購入したポストカードを、満足そうに見ている、タキオン。
「俺も何か買っていきたいな。ネモフィラの種とかどうだろうか。綺麗な花に育つと良いな」
「僕もネモフィラの種を買いたいですね。こちらのネモフィラは、可愛く育ってくれますように」
 カシスとバジルが言葉を交わしていると、槐が驚く。
「育てられるのか……カシスもバジルも、すごいな」
「槐さんは園芸が不得意なんですか? コツなら教えられますよ」
「花は愛情を掛ければ掛けた分だけ、綺麗に咲いてくれるよ」
 バジルとカシスが優しげな笑顔を見せると、槐は首を横に軽く振る。
「いや、苗や種は私では育てられないだろうから……」
「一人で無理なら、皆で育てればいいよー♪ 桜子も手伝うよ?」
 槐の手を優しく取り、にっこりと笑顔で明るく言い切る、桜子。
「皆の中に、私も入っているのでしょうね」
「桜子さんの事ですから……私も含まれている気がします」
 綴とタキオンが、お互いに頷き合う。
「有り難い申し出だが、今回はポストカードにしておこう。押し花のポストカードを手土産代わりに、旅団仲間に送ってみるとしようか」
「そう? あ、桜子もポストカード買っていこう」
 槐がやんわりと断り、桜子も直ぐに意識を切り替えた。
「綺麗なカードですね……さて、誰に送りましょうか。欲しい人は居ますか?」
 綴が問うと、桜子が大きく片手を挙げ、続いてタキオン、バジル、カシスもノリ良く手を挙げた。
 販売所はしばし、和気あいあいと、活気に満ちていた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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