意外と身近なレジスター

作者:baron

 チンチンチーン。
 金が鳴るような音を立ててシャッターが割れていく。
 コンビニからさほど離れていないシャッターの降りた商店から、ナニカが現れた。
『グラビティの収集源の個体数、カウント開始』
 そいつはコンビニの中に居るお客の数から、駐車場に居る車まで素早く計算。
 まずは逃げる事の可能な車に向け、コインのような無数の弾丸を放った。
『3・2・1.カウントダウン終了。収穫を終えましたので、次なる集積所に向かいます』
 そして店の中に居る人々を虐殺すると、犠牲者を求めて他の場所に求めて向かったのである。


「郊外のコンビニに廃棄家電を乗っ取ったダモクレスが現れるという予知がありました」
 セリカ・リュミエールが地図やカタログを手に説明を始める。
「幸いにも予知のタイミングまで時間がありますので、まだ間に合います。現れたところを迎撃してください」
 場所はシャッター商店街のどこかなのだが、目指す場所は近くにあるコンビニなので判り易い。予めコンビニか隣の喫茶店で待機しておけば問題ないだろう。そうすれば多少の時間のズレがあったとしても確実だからだ。
「この相手は使われなくなったレジを元にしています。随分と古い型なのでどこか壊れていたのでしょうね」
「うわ。レシートが印刷されないタイプとか。しかも反対側から金額見えないし」
「地方の商店だといまだに見かけることもあるけどね」
 セリカが見せてくれたのはいわゆるレジスターのカタログだ。
 とてもシンプルで、玩具のレジよりも多少複雑な程度である。
「攻撃はコインの弾丸を飛ばして来たり、お金に関する幻影を見せたりします。また挟み込むような攻撃も行うと推測されます」
「ああ、そこを手の代わりに格闘に使うんだ。まあダモクレスだしな」
 あくまで形状は参考にしているだけなのか、妙な形のわりに能力は色々と備えている。
 腕はないが格闘は可能だし、もちろん移動も可能。もしかしたらヒールも可能なのかもしれない。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは許せません。今ならば間に合いますので、よろしくお願いしますね」
 セリカはそう言うと出発の準備に向かうため、ヘリオンへと向かうのであった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ


 お客が出ていくために木の扉が開くと、カランカランと添えつけられた鐘が鳴った。
 この喫茶店はモーニングの時間が終わり、ランチまでの間は滅多に人が来なくなる。
「町の喫茶店ならもう少し人が居るのでしょうけれど……。まあ、ここは好都合と考えましょうか」
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は少しだけ寂しく思いながらも、顔を振って気分を入れ替えた。
「ケルベロスです。今の内に避難していただけますか? ダモクレスから商店街も、コンビニにいる方々もお守りしますわっ」
 ちさはそう言って年老いた店主を送り出し、ついでにオススメを聞いておいた。
 ダモクレスを倒せばみなで食べに来ようと思う。
「ええと、コレください。それとアレも」
 コンビニで商品を探していたエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)は、胸元に注目が集まっていることに苦笑しつつ適当に買って外に回ることに。
 注目を集めているなら誘導しようという事だが、……せっかくなので友人宅に持ち込める物にでもしようと思う。
「こっちも減って来たし、そろそろ人数調整かな?」
 立ち読みしていた霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は雑誌を畳んでラックに戻した。
 そして直ぐに消費できる飲み物だけを購入して、駐車場で屯する者たちに声を掛けに向かう。
「そうだね。こちらは店内を確認しておこう」
 小柳・玲央(剣扇・e26293)は新商品を見比べる手を止め、トイレを借りると称して裏手に向かった。
 トイレに誰かいれば他の場所に移動するように伝えるし、裏口で作業する店員が居れば同様だ。

 そして同じようにコンビニの外でも人々を遠ざけようとする者が居た。
 当然ケルベロスであり、ここに来る予定のダモクレスから人々を守ろうとしているのだ。
「はい、ちょっと待ってね。俺たちはケルベロスだ。もう少ししたら戦闘になるから、少し待っててくれるかな? 二じ……いや。戦闘始まってから10分もあれば問題ないと思う」
 新たにコンビニ方向に向かう人に向けて、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は声をかけた。
 そして安全になる時間を告げようとした時、見知った顔が見えたので思わず見栄を張ってしまう。
「こっちも完了。いつでも行ける」
「じゃあ早めに戦闘に入っても良いかもしれないわね。アレじゃないかしら」
 反対側の道で長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)が近づく人を遠ざけたころ、コンビニ前で待機していた心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が道の一つを指さした。
 ナニカがゆっくりとこちらに向かっているので、途中で迎撃しにいくことも、此処で戦うこともできるだろう。
「駐車場の方が広いので巻き込まずに済むでしょう。ここで戦うべきですわ」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)はそういって待ち構える事にした。
 そして剣を眼前に掲げ、戦いに向けて意識を集中させる。

 そこには形状としては見慣れた……それでいて見慣れているはずのパーツが少ない機械が存在する。
「あー、俺このタイプのは見たことないかもしれない。こういうやつが使われてた時代もあるんだな……」
「レジスターですか、シンプルイズベストとはよく言いますけど、こういう機会はシンプルだと逆に使い勝手が悪いのですわよね」
 千翠とカトレアは油断なく敵の姿を確認。
 ゆっくりと歩み寄りながら距離を詰めていった。
 そして千翠は自分達ケルベロス側の方が速いと理解して、途中から足を留め攻撃態勢に移り、カトレアも速度を速めて一気に走り込んだ。
「ダモクレスになって初めて存在を知るのもなんか癪だな。……絡め捕れ。焦がし尽くせ」
 千翠は自身を蝕む呪いを枷に変え、いくつもの鎖として解き放った。
 その力は肉に絡み心に縋り付き、愛と呪いは表裏一体であるかのように襲い掛かる。
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 やや遅れてカトレアは踏み込み、斬撃と共に周辺を切り裂いていく。
 そこには彼女だけではなくその恋人をグラビティで再現し、二人は踊る様に切り刻んでいった。
『敵性体を確認。反撃を開始』
「反応が少し遅いのではないか? まあ好都合だがな」
 玲央は星剣を引き抜くと、軽く振って星の加護を仲間たちの元に届けた。
 そして逆手で巨大な大剣を担ぎ、その双剣のバランスを取ることで力に寄らず剣舞のような動きで挙動を制御する。
「カウントする音は聞こえれど、表示はまるで見えません。金額表示やレシートは取引をする上で必要ではないのですか?」
「古いのはこんなものよー。昔は注文票にも『正』の字で注文数を書いていただけで金額は分からないし、レシートも無ければ金額表示もお客からは見えないっていう、今考えると信用ありきの凄い時代だったわねー」
 姿を確認しながら星剣を振るったエレスの問いに、括は頬を抑えて昔を思い出していた。
 その当時は計算ができる事が重要で、帳簿の参考にできるだけで凄かったのだ。
「ロール紙のレシートには印字できなくとも、領収書などの紙片を挟むと数字を印字できるタイプもあるらしいですね」
 二人の会話に右院は口を挟んでしまった。
 そんな余裕はないと知りつつも、調べたことを思わず口にしてしまったのだ。
「圧倒的に手で書いた方が早そうだけど、当時としては印字すること自体がかっこよかったのかも。さて、と。いきますよっと!」
 その未熟を吹き払うように、右院は急速に走り出す。
 そして翼を広げて滑空しながら飛び蹴りを浴びせた。
「矯正のお時間ですよー」
「あら、ありがとう。コルセットは必要ないと思いますけれどね」
 その間に括は胸元から包帯を取り出し、カトレアの腹に巻いてみた。
 体の動きを調整することで、最後まで戦い抜けるようにしたのだ。
「こんなレジあったんですね。俺のクレカをピッと読み取ってくれなさそう。それでも廃棄品らしく空気は読みとってゴミ山に居てほしかったんですが、ダモクレスなら仕方ない」
「今にも攻撃して来るそうですわ。その前に攻撃してしまいましょうっ」
 マイペースにのほほんと眺めていた裁一も、ちさの忠告で動き出した。
 そして愛を食らって悪を斬る刃を引き抜く。
「大丈夫だとは思いますが、空気を読んで進路を塞いでおきましょうかね」
 そして他の道につながる方向を塞ぎつつ、衝動のままに刃を振るう。
 別にダモクレスのことなど難くはないが、カップル向けの商品を販売していたとしたら、坊主難けりゃ袈裟まで憎いと同様の怒りを向けることができた。
 もはやそれは怨念で斬る行為と言えよう。
「エクレアはみんなをお願いしますね。よいしょっと、オウガメタルさ~ん」
 ちさは翼猫のエクレアを引き連れて仲間たちを守る壁となった。
 そして殴りつける際に流体金属にお願いし、拳の保護を兼ねて鉄拳を作り上げてもらう。

 その時、地獄の蓋が開いたかのような衝撃を感じた。
 ゴゴゴと敵が唸り、チーン! という澄んだ音と共にナニカが吐き出されていく。
『敵性体沈黙までの間、限定的にグラビティ放出開始。カウントダウン、三、二、一!』
 ジャラジャラとどころではなく、丸で津波の様にコインが溢れた。
 それは猛然と押し寄せケルベロス達を飲み込まんとする。
「きゃあ!? お金がこんなに?」
「くっ。何やら釈然としないが、この勢いはたまらないな。何とか態勢を立てなおさないと……」
 ちさは殴り掛かった態勢のまま押し返され、玲央は助けたいとは思いつつも攻撃役の仲間のカバーに入った。
 大剣を扇の様に掲げて、自らの体と共に盾にする。
「壊れたわけじゃないなら、まだ役目を全うしたかったってことなのかな……。是非教えて欲しいな、君の愛した仕事を。覚えておくつもりだから」
 玲央は溢れかえるコインの中で剣を支えに立ち上がる。
 そして自らを回復するのではなく、後ろに居る仲間を守る為にこそ星の加護を祈って結界を敷いた。
「何だか判りませんが、物凄い勢いでしたね。大丈夫でしょうか?」
「あ、えええ。何とか。暫くはお金を数えたくないです」
 エレスはちさを吹っ飛ばしたグラビティの波は見えたが、どうやら対象しか見えない幻影だったらしく詳細は判らない。
 そこでオーラで覆う事で、ちさの周囲から悪影響を吹き払い押し返そうとしたのである。
「仲間の仇だ!」
「まだ死んでおりませんわ!」
 その間に右院は刀を抜いてダモクレスに迫り、敵討ちだとばかりに切り掛かる。
 ちさは当然死んでないので、とっておきのマカロンを咥えながら立ち上がった。
 本当は仲間の女の子を助ける時に上げるつもりだったが仕方ない(なお、男の子はトーストで済ませる気満々の模様)。
「こっちより足が遅いなら動き出す前に潰すだけだ!」
「その通りですわ! 傷口を、更に広げてあげますわよ!」
 千翠は体当たり気味に膝蹴りをぶつけ、そこへカトレアが迫る。
 重力の発生によって縫い留められたところへ、空を咲くような斬撃で動きを止めたのだ。
「高まる嫉妬をこの一撃に! 爆発しろ!特にリア充!!」
 裁一の嫉妬は留まるところを知らない。押せば命の泉すら湧くだろう。
 高めた嫉妬は父の厳しき愛にも似ている。大人げない程の速度でダモクレスに急接敵して……自爆を行ったのだ!
 我が身を省みぬとは! 相手も自分も爆発四散……に見せかけて自分にはダメージが無い。まあグラビティなので当然だが、ちなみにカップルに使っても威力は上がらないので注意しよう。
「自爆までするなんて……。大丈夫? デウスエクスを倒す為といっても、そんなに思い詰めたらだめよ?」
「はっ!? どことなく良い香りが!?」
 括の撒いた包帯によって裁一は思わず目が覚めそうになった。
 女性と一定距離に近づいたからかもしれないし、一緒に協力してダモクレスを倒そうという状況だからかもしれない。
 なお嫉妬パワーは自分には適用されないので、自爆したりはしないので安心しよう(そもそも協力してくれるだけだしな)。

 こうして戦いは過ぎ、佳境を越えて終盤へと至る。
 やはり精鋭が揃えっていることもあり、全員が敵よりも先に攻撃できるのが大きいだろう。
『全倉庫開け。ボーナス商戦開始。売って撃って売りまくれ!』
 ドンドンドンと次々に撃ち出されるコインの雨あられ。
 砲弾にも等しい一撃へ盾役が割って入った。
「やらせないよ」
「銭を飛ばすのは時代劇で見ましたけど、この勢いだと何度見ても、あぶなっ!」
 玲央が大剣を斜めに掲げてコインを弾き飛ばす陰で、裁一はスタコラさっさとターンした。
 うろちょろしながら敵の攻撃にはあたらないように、逆襲を仕掛けていく。
「ええい、せめて幻じゃなければ儲けなんですが!爆散するべし!デストローイ!」
 我が身を犠牲に(してないけど)裁一が特攻し、強烈なダメージを与える事に成功した。
 既に深く傷ついている敵である、仲間たちはこの隙を逃さずに攻勢をかける。
「みんなー頑張ってー」
「炎よ、高く昇りなさい!」
 括が爆風を吹かせて支援すると、カトレアはその風に乗ってダッシュ。
 ダモクレスに対してスライディング気味の勢いでせまり、摩擦熱で炎すら挙げて蹴りつける。
「ええと、ここまで来たら攻撃してしまった方が速いかもですわね」
「回復はこちらでやっておきますので、お気になさらず」
 ちさは様子を見るのを止めて飛び出すと、回し蹴りを浴びせて体制の崩れた敵を更に吹っ飛ばした。
 その間にエレスが回復することで、盾役たちが援護に回らずとも心配ないように傷が治っている様に幻影で覆いつつオーラで治療したのだ。
「そういうことなら私も攻撃に専念させてもらおうか。君の事を教えてもらうね♪」
 玲央もう攻勢に参加し、炎を浴びせつつダモクレスのデータをダウンロードし始めた。
 秘密を奪うのか、それとも大切な思い出を回収するのか。それは彼女にしか分からない。
「そうら、凍らせてやる! トドメは任せた!」
 千翠は鉄杭を突き立てると、杭越しに凍気を流し込んで凍らせてしまった。
 そして杭を突きさしたまま、仲間の方に放り投げたのだ。
「え? ああ。そうだね。……濡れるもまた風情」
 右院は少しだけビックリしたが、ここで引き下がるなどありえない!
 刃を水の霊気で濡らせて振り抜くと、切りつけた場所を冥府の冷気で覆ってしまった。
 ピキピキと周囲が凍り付くさまは、まるで氷の華であったかのようだったという。

「これで終わりかしら? せっかくですし、喫茶店に寄っていきません? 季節のケーキやジャムを載せたスコーンが美味しいそうですわ」
 周辺の修復も終わったところで、ちさは仲間たちをお茶会に誘った。
「そうですわね。ただ帰還するのも芸はありませんし、少し愉しんでいきましょうか」
 カトレアは素直に頷くと、喫茶店の前に置いてある黒板に目を通した。
 お勧めのケーキはどんな果物を使った物なのだろう?
「コーヒーとケーキが美味しいらしいわねー」
「最近はコンビニでもケーキや珈琲を扱ってますが、それでも潰れない喫茶店……美味しさに期待ですね」
 括の言葉に頷きつつ、エレスは周囲のシャッター商店街を眺めた。
 コンビニに追いやられた店も多い中、元気に営業しているという事はかなり期待できるだろう。ここで食べて美味しければ、みんなにお土産というのも良いかもしれない。
「珈琲が美味しいなら是非楽しみたいね。ブレンド後の豆で売ってないかな?」
 玲央もその気なようで、ダモクレスを弔うとどんなものがあるのか思案を巡らせ始める。
 コンビニでチェックした新作も買って帰りたいので、時間配分を考えているようだ。
「カフェオレ用の白猫に、ブラック用の黒猫ってのがあるみたいだね。俺は紅茶党だからお土産用かなあ。そっちは?」
「珍しいな。似たような名前だけど、お勧めのブレンドに牛乳を入れただけじゃないのか。俺は腹にたまるモノが欲しいからな。ランチ一択だ」
 コーヒーが苦手な右院は紅茶派ということにして話題をかわしつつ、仲間たちに話題をスルーパスした。
 千翠はパスタを中心に据えた、サラダから食後のアイスまでフルセット(800円)を選ぶことにしたようだ。
「貴方は?」
「あ、俺はパス。今週で最終回の漫画がですね。どうしても気になりまして」
 最後に残った裁一はニコリと笑って、コンビニに立ち読みに戻ることにしたそうです。
 こうしてケルベロスたちはダモクレスを倒し、それぞれのペースで帰還したという事である。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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