カメラの目は君を見ていた

作者:土師三良

●写真のビジョン
 深い森の奥のそのまた奥に墓場があった。
 もっとも、そこで屍を晒しているのは生き物ではない。テレビ、冷蔵庫、クーラー、パソコン……などなど、不法投棄された家電たちだ。
 その無惨な墓場を後にして、一つの影がのそりのそりと歩いていく。
 遠目には銀色の獣に見えないこともないそれは単眼で四つ足のダモクレスであった。
 何故に単眼なのかというと、頭部がデジタルカメラだからだ。かつてはコンパクトだったのだろうが、異形の頭と化した今はドッジボールほどの大きさになっている。
 そのレンズの瞳で前方を見据えて、ダモクレスは口なき顔から電子音声を発した。
「ハイ、ちーず!」

●あかり&ダンテかく語りき
「『はい、チーズ』なんて、もう死語っすよね。今時、そんなこと言って写真を撮る人はいないんじゃないっすか」
「……なんの話?」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテの前で、新条・あかり(点灯夫・e04291)がきょとんとしていた。
 毎度おなじみのヘリポート。あかりの他にも何人かのケルベロスがダンテの話を聞いていた(そして、同じようにきょとんとしていた)。
「いえね。『はい、チーズ』が口癖というか、それしか言えないダモクレスの出現を予知したんすよ。その口癖から察しがつくとは思いますけど、そいつはデジカメがダモクレス化した存在っす。パッと見は、デジカメの頭がついた虎とか豹とかの猛獣型メカって感じっすかね。なので――」
 得意げな顔をして胸を張るダンテ。
「――『カメライガー』と名付けたっす。かっこいいでしょ?」
「……う、うん」
 あかりは頷いた。
 頷きたいわけではなかった。
 しかし、頷くことしかできなかった。
 誰が彼女を責められよう?
 その『うん』が限りなく『いいえ』に近いことに気付いていないらしく、ダンテは得意げな顔を崩さなかった。いや、それどころか、『ドヤ顔度』とでも呼ぶべきものを更に上昇させた。
「『デジ仮面』という候補もあったんすけどねー。仮面の要素がないから、断念したんすよ」
 当のダモクレスがこれを聞いたら、仮面を付けずに生まれた幸運に感謝していたかもしれない。
「カメライガーは出自がちょっと特殊でして……どうやら、貸衣装屋さんで撮影用に使われていたみたいっす」
「じゃあ、結構ハイスペックだったりするのかな?」
「いえ、撮影サービスのあるお店が必ずしもハイスペックなカメラを使うわけじゃないみたいっすよ。それにカメライガーが現役だったのはずっと昔のことですから、当時はハイスペックだったとしても、今はもう型落ちどころじゃないレベルだと思うっす」
 型落ちどころではないカメラが捨てられていたのは、埼玉県の山中。現在、カメライガーはその地を徘徊し、獲物となる者を探し求めているという。
「元が貸衣装屋さんのカメラですから、カメライガーは非日常的な衣装に引きつけられる性質があるらしいっす。だから、皆さんもそういう格好をして山に入れば、カメライガーを簡単に誘い出すことができると思うっすよ」
「非日常的って衣装って――」
 あかりは首をかしげた。
「――ハロウィンとかの仮装みたいな感じ?」
「そういうのも含まれてますけど、メモリアルな衣装という路線もアリじゃないっすかね」
「めもりある?」
「人生の節目というか晴れの日というか、マイホームパパが張り切ってカメラを構えそうなシチュエーションというか……ほら、七五三の晴れ着だの、花嫁さんのウェディングドレスだの、卒業式のアカデミックガウンと角帽だの、還暦祝いの赤いちゃんちゃんこだの、そういうノリっすよ」
「ちゃんちゃんこを着て戦うのは様にならないなぁ……」
 あかりは苦笑した。
 すると、ダンテも笑った。こちらは苦笑ではない。
「では、ヘリオンに乗ってしゅぱーつ! ……する前にお好みの衣装を用意してくださいっす!」
 実に楽しそうであった。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
シャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)

■リプレイ

●COME ROLL WITH CAMERA
 昼なお暗い森の奥で赤ん坊の泣き声が谺する。
 ……などと言うと、なにやらホラーめいているが、そこで繰り広げられている光景はホラーには程遠いものだった。
 なぜなら、泣き声の主は――、
「んなー! んなー! んなー!」
 ――本物の赤ん坊ではなく、産着に包まれたウイングキャットなのだから。
 偽の赤ん坊は偽の母親に抱かれていた。演じるは黒豹の獣人型ウェアライダーの玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)。体格のいい獣人の男が女装しているというだけでも正視に耐えないが、その点を差し引いても正視するには勇気がいる。不機嫌極まりない顔をしているからだ。
「よしよし」
 と、陣内の横で赤ん坊をあやしている偽の父親は新条・あかり(点灯夫・e04291)。地味なスーツ(サイズが大きいため、袖と裾が何重にも折られていた)を着て、伊達眼鏡をかけている。まだ中学生ということもあって、学芸会のごときチープさが漂っているものの、それ故に愛らしく見えた。
 愛らしい父親は赤ん坊から妻に視線を移し、微笑みかけた。
「今日も綺麗だよ、陣子」
「まあ、あか雄さんったら……」
 妻は表情を甘ったるいものに変えた。
 この時点で既にカオス特盛りの疑似家族ではあるが、これでもまだ足りぬとばかりに――、
「あらあら。こんなにぐずっちゃってぇ」
 ――女物の着物を纏ったヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)が夫婦の間に割り込んできた。
 夫の母を演じているのだ。
「陣恵さんってば、赤ちゃんの抱き方がヘタなんじゃない?」
 夫の母は嫁をじろりと睨みつけた。古今東西の姑たちの集合的無意識が乗り移ったかのごとき憎々しげな眼差し。
「あか郎も小さい頃はよくぐずってたけど、あたしが抱いてあやしてあげれば、ピタっと泣き止んだものよ」
「ソウデスカ」
 夫に見せていた甘い顔つきを能面のような表情に変えて、妻は姑の攻撃を受け流した。古往今来の嫁たちの集合的無意識が取り憑いたかのごとき冷ややかな対応。
「二人とも仲良くしてよ。せっかくのお宮参りなんだから……」
 ひきつり気味の笑顔で夫が嫁姑の仲裁に入った。そう、この疑似家族は『次男のお宮参りに来た』という設定でことに臨んでいるのだ。ちなみに長男役はオルトロスのイヌマル。夫の足下で楽しげに尻尾を振っている。
 お宮参りであるからには舞台は神社でなくてはいけない。
 そして、神社であるからには巫女が必須である。
「こんな感じでいいのかな?」
 そう言って、疑似家族の前でシャドウエルフのリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が神楽舞を始めた。もちろん、彼女も本物の巫女ではない。巫女の衣装も正式なものではなく、脇などが露出した『サブカルチャー仕様』とでも呼ぶべき代物だ。
「んなー!」
 赤ん坊が産着から手(前足)を突き出した。リリエッタが振っている神楽鈴にじゃれつこうとしているらしい。
 その微笑ましい光景を別のウイングキャットがどこか尊大な目で眺めている。
「なおーん」
 点心という名のそのウイングキャットは豪奢な衣装を着て、山と積まれた菓子の上に鎮座していた。お菓子の国の王様に扮しているのだ。
「堂に入った王様振りだねえ」
 菓子の山でふんぞり返る点心を見て、金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)が微笑した。彼女が演じているのはお姫様。ウエディングドレスに似た衣装に身を包んだ姿は艶やかにして煌びやかだった。本当にどこかの国の姫君だと言っても……いや、言わなくとも、そう思い込む者が出てくるかもしれない。
「小唄、よく似合ってるよ」
 神楽舞を終えたリリエッタが小唄を褒めそやした。声に抑揚がない上に無表情だが、その言葉に嘘偽りはない。
「ええ、本当に綺麗ですわー。ちょっと写真を撮らせてくださいな」
 と、小唄にカメラを向けたのはサキュバスの琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)。
 その身に纏うは女子高の制服。
 実によく似合っている。
 微塵も違和感はない。
『今年で二十六歳』という事実に目を瞑りさえすれば。
「衣装だけじゃなくて、小道具にも凝りましたのよ。ほら、こんなに可愛いらしいぬいぐるみを鞄につけたりして」
 ドラゴニアンの娘を模したぬいぐるみを皆に見せびらかす淡雪。その足下から小さな影がそっと離れていく。テレビウムのアップルだ。主人に見切りをつけたらしい。
 そうとも知らずに淡雪は衣装のアピールを続けた。
「本当はルーズがよかったんですけど、調達できなかったんです。どこの店に行っても売ってなくて……」
「るーず? なにそれ? ルーズリーフとか?」
 あかりが首をかしげた。なにをもってしても埋められないジェネレーションギャップ。
「淡雪、可愛いよ」
 と、いろんな意味でルーズな二十代の女子高生にリリエッタが讃辞を送った。小唄の時と同様、その言葉に嘘偽りはない。だからこそ、逆に残酷だとも言えるが。
「ありがとうございます」
 悪意なき残酷さに胸を抉られながらも、いい笑顔で礼を述べる淡雪。
 その視線が横に動いた。
 新たに視界に入ったのは同族のパトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)。この場合の『同族』とは種族(サキュバス)のことである。『なんか残念なヒト』という括りではない。決して。
「パト様……痛々しいですわね」
 いい笑顔をキープしたまま、淡雪は忌憚のない意見を口にした。
『痛々しい』と評されたパトリシアの衣装はウエディングドレス(淡雪からの贈り物である)。妙齢(+α)の美女なので、その姿は絵になっている。しかし、淡雪が言うように痛々しい。そして、もの悲しい。本来の用途で着る予定が近々にないからだろうか? いや、近々どころか、この先ずっと……。
「それ以上、言ってはダメ! 私のヒットポイントまでゼロになってしまいますわー!」
 と、淡雪が天を仰いで誰かを止めた。
 その様子をじっと見つめるパトリシア。先程までの淡雪と同じようにいい笑顔をして、静かに呟いた。
「きっつ……」
「聞こえましたわよ、パト様!」
「静かにして」
 と、比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)が淡雪を注意した。
「ここは故人を悼む場なんだから」
 目を伏せるアガサ。アップにまとめられた髪から覗く獣の耳(彼女はイリオモテヤマネコの人型ウェアライダーなのだ)も力なく伏せられている。身に着けているのは黒い和服、手にあるのは数珠。そう、『夫を亡くしたばかりの妻』という設定なのだ。
「さすが、アガサさん。着物姿も素敵だなあ」
 あかりが役柄を忘れて、アガサに見とれている。
 一方、陣内は複雑な顔をしていた。
「未亡人というよりも『極道の妻』なんじゃないか」
「は? なんか言った?」
 と、アガサが陣内に詰め寄ろうとした時――、
「おおう!? なんと見目麗しい!」
 ――ひときわ濃いキャラが現れた。
 白馬に乗った王子のごとき衣装を着たシャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)である。いや、『黒馬と同化した王子』と言うべきかもしれない。彼は青鹿毛のセントールなのだから。
 蹄の音も高らかにプリンス・シャムロックはプリンセウ・コウタの前に進み、花束を差し出した。
「名も知らぬ姫よ。どうか、この私と添い遂げてください」
「まあ!」
 赤く染まった両頬に手をあてる小唄。シャムロックの求愛の言葉はひどい棒読みだったのだが、それはマイナス要因にならなかったらしい。
(「このプロポーズは来たるべき本番のための予行演習ってところっすかねえ」)
 花束を差し出した姿勢のまま、シャムロックはそんなことを考えていた。
(「『来たるべき』とか言いながら、相手はまだ見つかってないっすけど……でも! いつか! きっと! 必ず!」)
 その胸中をテレパス並みの勘で読み取り――、
(「判る! 判るわ! その気持ち!」)
 ――拳をぐっと握りしめて何度も頷いた者がいた。
 パトリシアである。

●SHUT UP, SHUTTERBUG
「それにしても、こんなことで本当に……カ、カメライガーをおびき寄せることができるんすかね?」
 王子様(シャムロック)が素に戻った。『カメライガー』という名を言い淀んでしまったのは致し方ないだろう。
「心配御無用。ほら――」
 未亡人(アガサ)が王子様の肩をつつき、森の奥を指さした。
「――もう来てるよ」
「ハイ、ちーず!」
 と、未亡人の指先の向こうで、デジタルカメラの頭を持つ四足獣型ダモクレスが電子音声の咆哮(?)をあげた。
 しかも、その咆哮は一度では終わらなかった。
「ハイ、ちーず! ハイ、ちーず! ハイ、ちぃぃぃーっず!」
「テンション、高いね……」
『はい、チーズ』の連呼に気圧されながらも、夫(あかり)がライトニングウォールを築いた。
「そりゃあ、テンションも上がりますわ」
 桜の花が舞い散るグラビティで仲間たちの防御力を上げつつ、女子高生(淡雪)が花嫁(パトリシア)をちらりと一瞥した。
「こんなにユニークな被写体が揃ってるんですから」
「その『ユニークな被写体』の筆頭はアワユキでしょ」
 と、女子高生に言い捨てて、花嫁はカメライガーに突進した。
「勘違いしないでよ! 私は婚期を逃してなんかいない! ただ――」
 言っても詮ない主張とともに放たれた技は旋刃脚。
「――婚期が遅れているだけ!」
「ハイ、ちーず!?」
 蹴りを受けて悲鳴をあげた(いや、悲鳴ではなく、『どう違うんだよ!?』もしくは『俺に言っても知らんがな!』と叫んだつもりなのかもしれない)カメライガーであったが、すぐに反撃に転じた。
「ハイ、ちーず!」
 頭部のどこかに備わっているフラッシュが閃いた瞬間、前衛陣はダメージを受けた。
 同時に羞恥心を植え付けられた。
「リリなんかよりも――」
 リリエッタがフォーチュンスターを見舞った。あいかわらず無表情だが、羞恥心を覚えてないわけではないらしく、頬がほんのり染まっている。
「――もっと可愛い娘を撮るべきだよ」
「おーほっほっほっ!」
 と、高笑いを響かせたのは『もっと可愛い娘』かもしれないお姫様(小唄)だ。
 王子様が展開したサークリットチェインの内側で、彼女は後ろ向きに立っていた。
 そして、ゆっくりと振り返り――、
「可愛く撮ってね?」
 ――カメライガーにウインクを送った。
「ハイ、ちぃぃぃーっず!?」
 カメライガーがまたもや悲鳴をあげた(今度は間違いなく悲鳴だ)。
 無理もないと言えよう。
 お姫様だったはずの小唄がゴリラに変わっていたのだから。
 ゴリラに変わっていたのだから。
「うぉぉぉーっ!」
 カメライガーの悲鳴に対抗するかのようにドレス姿のゴリラが吠えた。それはハウリング。そう、小唄はウェアライダーなのだ。先程までは人型。今は獣人型。
「ハ、ハイ……チーズ!」
 小唄の雄叫びに苦しみ悶えながらも、カメライガーはまたフラッシュを焚いた。もっとも、今度のそれはグラビティではない。普通に写真を撮っているだけだ。
 だが、妻(陣内)はその『普通』を受け入れることができなかった。
「普段だって、写真に撮られるのは嫌いなのに――」
 カメラの射線を避け、死角に素早く回り込む。両手に抱いた産着の中で赤ん坊(ウイングキャット)が体色を紫に変化させ、妖艶な眼差しによるグラビティでカメライガーにダメージを与えた。
「――こんな格好をしているところを撮られてたまるか!」
「だったら、別の格好にすればよかったじゃない」
 もっともなことを言いながら、未亡人が短機関銃を……いや、バスターライフルを発射した。動きやすいように草履を脱ぎ捨て、片肌を脱いで。
 露出した肩に刺青こそないものの、妻が言ったように『極道の妻』のごとき迫力がある。
 いや、『の妻』の部分はいらないかもしれない。

●HOT SHOTS OF PHOTO SHOOT
「うー……」
 激しくも珍妙な戦いが続く中、あかりが不思議な動きを見せた。顔を紅潮させ、嘆息に似た呻き声を漏らしながら、ぶかぶかのスーツに包まれた体をくねらせている。
 ダンスのグラビティで仲間たちを癒しているのだ。
 それによって状態異常をキュアされたリリエッタが自動拳銃を敵に突きつけ――、
「素敵なダンスだね、あかり」
 ――荊状の魔力を帯びた弾丸を撃ち込んだ。銃を持ってないほうの手は、眼鏡をかけたサキュバスの残霊の手を握っている。残霊と自分の魔力を循環させて攻撃力を高めるワイルドグラビティなのだ。
「うー……」
 呻き続けながら、あかりは踊るのをやめた。顔はまだ赤いままだが、それは敵の攻撃で羞恥心を植え付けられたからではない。お世辞にも完成度が高いとは言えないダンスを披露したのが恥ずかしいからだ。こればかりはキュアでも癒せない。
「あーら、陣美さん。あか之だけに恥ずかしい思いをさせていいの? こういう時は夫婦揃って踊るべきでしょお」
「ソウデスカ」
 姑の攻撃を能面フェイスで受け流し、陣内が斬殺ナイフを一閃させた。念のために言っておくと、ナイフで斬りつけた対象は姑ではなく、カメライガーである。
「ハイ、ちーず!」
 と、カメライガーは怯まずに写真を撮り続けたが――、
「ちょっと! ポーズを決めてないうちに無断で撮らないでよ!」
 ――小唄の怒声とバリケードクラッシュを同時に浴び、思わず頭を伏せた。
 その隙をついて、点心が猫ひっかきを見舞う。
「にゃー!」
 先程まではお菓子の王様に扮していた点心ではあるが、今はただの王様だった。小道具のお菓子は一つも残らず消えている。
 食べ尽くしてしまったのだ。
「……げっぷ」
「小唄様も点心様もマジカワですわー! もうチョベリグゥーッ!」
 死語で仲間たちを絶賛しながら、淡雪が禁縄禁縛呪でカメライガーを戒めた。
 続いて動いたのはパトリシア。御業に拘束されたカメライガーめがけて、御霊殲滅砲を発射した。
「やっぱり、きっつ……」
「聞こえましたわよ、パト様! また『きっつ』って言いましたよね!?」
「言ッテナイヨー」
 淡雪に詰め寄られ、機械的にかぶりを振るパトリシア。
 そんな女子高生モドキとシングル花嫁から距離を取りつつ、アップルとライドキャリバーが敵を追撃した。人語を話すことができるなら、この二体は愚痴を言い合い、慰め合っているかもしれない。『なぜ、僕たちはあんな主人の元に生まれたんだろうね?』と……。
「お二人ともイタくもありませんし、キツくもありませんよ!」
 淡雪とパトリシアをフォローしながら、シャムロックがカメライガーの横を駆け抜けた。グラビティを有した蹄の音が鳴り響き、敵の傷をジグザグ効果で悪化させていく。
「もっとも、ある意味では痛いと言えますね。そう、女神もかくやという美しさが目に痛いです」
 シャムロックの『棒読み度』のゲージの針は今まで以上に高い位置にあった。それは彼が気障なキャラを演じることに慣れていないからであり、自分の言葉を微塵も信じていないからではない……のだろう。たぶん、おそらく。
「ハイ、ちーず!」
 空々しい世辞を真に受けたのか、カメライガーが頭を上げ、『女神もかくやという美しさ』を持つ二人のサキュバスにレンズを向けた。
 しかし、彼女たちを写すことはできなかった。
 仁王立ちする影――アガサが射線を遮ったからだ。
「……」
「ハ、ハイ、ちーずぅ!?」
 無言で凄む女組長を前にして、さすがのカメライガーも動揺を見せた。
 そして、次の瞬間には吹き飛ばされていた。短機関銃を……いや、気咬弾を食らって。
「ハイ、ち~~~ず!?」
 カメライガーの体が宙で弧を描き、地に落ちて跳ね上がり、またすぐに落下し、何メートルか転がった末、木にぶつかって止まった。
 そこにあかりが近付き――、
「沢山の素敵な瞬間を切り取ってきたんだよね」
 ――静かに語りかけた。
「ハイ、ちーず」
 カメライガーは顔だけを動かし、レンズをあかりに向けた。
「今日が最後だから、皆いっぱいお洒落してきたんだよ」
「ハイ、ちーず」
「皆の素敵な姿、瞳というかレンズに焼き付けてくれた?」
「ハイ……ちー……ズ……」
 カシャリというシャッター音が響いた。

「リリは機械に詳しくないから、よく判らないんだけど……カメライガーの撮ったリリたちの写真はメモリとかいう物の中に残ってるの?」
 カメライガーの残骸をかたづけながら、リリエッタがシャムロックに尋ねた。
「そうっすよ。カッコよく撮れている写真があったら、持ち帰りたいっすね」
「うーん」
 と、首をひねったのはアガサ。
「消去したほうが世のため人のためなんじゃないかって気がするけど……」
「せっかくだから、カメライガーの写真とは別に――」
 パトリシアがスマートフォンを取り出した。
「――皆で集合写真を撮りましょうよ」
「断る」
 と、写真嫌いの陣内がマッハの速度で答えた。
 しかし、数分後には皆と肩を並べてパトリシアの前に並んでいた。あかりに上目遣いで懇願されたのだ。
「じゃあ、撮るわよー」
 パトリシアはスマートフォンを構えた。
 そして、太古の昔に忘れ去られたフレーズを口にした。
「いちたすいちはー?」
「にっ!」
 と、笑顔で応じたのは五十路のヴァオだけであった。なにをもってしても埋められないジェネレーションギャップ、再び……。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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