服従させる斧槍使いと戦う者たち

作者:塩田多弾砲

 金毘羅大学。
 そこの女子槍術部は、日本武術は槍術の部活。
「……奏美に姫香、こないだ試合したらしいけど……何かあったのかしら。二人とも『変な奴に乱入され、ややこしい事になった』とか言ってたけど」
 部長・名野守黒須。
 ラフ女・後藤姫香とウリ女・九条奏美の知人たる彼女は、滝を後ろに、槍の練習中。
 金毘羅大の女子槍術部は、30人近くの部員が在籍している。
 そして黒須と部員たちは今、宝蔵院流のごとき十文字槍の練習中。
 今日は、金毘羅大の道場にて練習していた。
 正確には、武道館に隣接した、屋外の練習場。そこで基本の型と対戦とを何度か行い、休憩を取っていたその時。
「……?」
 藪の中から、何かの人影が這い出て来た。
 それは、大柄で長躯……身長は2m程度か。全身を薄汚い、細長い皮のような包帯をきつく巻き付け、まるでミイラ男のよう。
 顔にも皮包帯を巻き付け、顔立ちは分からない。唯一、目か額のあたりに大きく赤い宝石がはまり、単眼のように見えた。
 そいつは、長柄の斧を握っていた。その柄の長さは、槍にも等しい。斧というより槍、西洋の長柄武器『バルディッシュ』に近いと黒須は思った。
 そして、そいつは。棒術のようにその長柄武器をぐるぐる回し……、突撃し、一番近くの部員に切りかかった。
「うわっ! 何するのよ!」
 練習用の槍で、その一撃を受ける部員。しかし、柄で打ち据えられる。
 そして、部員はそいつの光る『単眼』を見ると……途端に下がり、頭を垂れひざまずいた。
「……ご主人様の、思うがままに」
 そんな事を言う部員に、
「え? ちょっとどうしたのよ……」
「一体、何が……」
 と、戸惑う他の部員たち。しかし彼女らも、怪人に武器の柄で打たれ、その目を見ると……、
「……ご主人様」
「……あなた様の、思うがままに」
 同じく、ひざまずいた。
「?」
 そいつは無言のまま、部員たちを手で指し示すと、彼女らを動かし始めた。
 黒須を逃がさぬよう、部員たちで彼女の周囲を囲わせたそいつは、
「……どういう事? ……ああ、そういう事、ね」
 黒須の前に進み出ると、顔を向け、手の武器を構えた。
 そいつの単眼は、今は光っていない。どうやら……あの妙な技は、単眼が光る時にのみ効果があるようだ。
 黒須に効果が無い所を見ると、どうやら槍と長柄斧槍とで、他流試合がしたい様子。
「奏美たちの言ってた『ややこしい奴』の乱入ってわけか……いいわよ、来なさい!」
 一礼したのち、黒須は槍とともにそいつに突撃。
 敵もまた、武器を構え、突進した。
 そして、数分も経たぬうちに。
 怪人の放った一撃が、黒須の十文字槍を弾き、断ち切り、
 痛めつけられた黒須は、赤い単眼の前にひざまずいていた。

「前に、燈家・陽葉(光響射て・e02459)さんたちが、『邪眼を持つ鞭使い』なエインヘリアルと戦った事件がありましたが。今回もその同類と思しきエインヘリアルが出現します」
 セリカが言う事件とは、女子校の剣道部同士での練習試合に乱入したエインヘリアルの事。
 乱入したそいつ、『ウィップバンガー』は、鞭状の剣で相手を打ち据え、その後で『相手の目を見る』事で、『認識障害』を起こし、服従させる……という能力を有していた。
 そして今回のこいつも、同じような能力を有する様子。今回は鞭でなく長柄の斧だが。
 だがどちらにしろ、このような存在を放置していたらどうなるか、少なくとも良い事は起こらないだろう。
「なので、今回もこのエインヘリアルを倒していただきたいのです」
 場所は、金毘羅大の所有している山の中にある武道場の脇にある、屋外の練習場。
 山と言うより小高い丘のような場所で、標高も低く、周囲には柵が設けてある。柵には自動車が出入りできるほどの広さの正面玄関と、人が出入りするだけの裏門とがあり、基本的に部外者は入れない。なので、無関係の一般人が入り込む心配はない。
 そして現場となる屋外の練習場は、道場となる武道館のすぐ横に位置している。その日は天気が良かったため、屋外で練習が行われていた。
 地面は平たい更地になっており、屋外で練習する時には部員総出で畳50枚を出して敷き詰めて行われる。
 もとより武道の練習場で、屋外。それゆえに戦う場所には困らないだろう。
 問題は、エインヘリアル。
 そいつの携えている長柄の斧は、ルーンアックスの一種のようだが、斧の刃は細長く、長刀のように先端が長く突き出ている。そのため、斧のように切断のみならず、槍のように刺突も可能な形状との事だ。柄も金属製で、棒術のようにも戦える。
 一番近いのが、西洋の長柄武器・バルディッシュ。そのため、このエインヘリアルも『バルディッシュ』と命名。
 身長は約2m程度。顔の額に、拳大の赤い『宝石』をはめ込んでいるため、それがまるで一つ目に見える。
 そしてこの『バルディッシュ』も、以前の『ウイップバンガー』同様に……相手に強力な『認識阻害』を与えるようだと。
 しかも予見の様子からして、認識阻害能力は『ウィップバンガー』と同程度。武器で打ち据え、視線を……この場合は顔の赤い宝石の光……かわす事で、術中に陥ってしまう。
 この『バルディッシュ』の望みは、どうやら『強い武道家と戦い、打ち倒す』『そのうえで、自分の手下にする事』らしい。
 自らの力で倒す事で、自らの自分の勢力に加えて軍団を作る事を望んでいるようだ……と、セリカは言った。
 これを利用すれば、敵を逃がすことなく、戦いに持ち込めるかもしれない。ケルベロスの誰かがその力を見せつけて挑戦するように煽れば、乗ってくるかもしれない。
 その隙に、他のケルベロスが避難誘導すれば、部員たちは助かるだろう。
 認識阻害に関しては、以前の『ウィップバンガー』での対処方法と同様に、『打たれないように戦う』または『打たれたら光を見ない』が有効かもしれない。……確信はできないが。
「ですが、それを確かめる時間的余裕は、おそらくありません。皆さん……どうか、この敵を倒すべく、皆さんのお力をお貸しください」
 放置していたら、この認識阻害能力を悪用する事で、事態はより一層深刻な状況になる事はまず間違いないだろう。それこそ、火器や銃器を有した者を手下にされたら、その結果は火を見るより明らか。
 そうはさせまいと、君たちは立ち上がった。


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147)
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)

■リプレイ

●刺し穿つ死棘のごとき
「どのような槍を、用いているのでしょうか?」
 見学者を装った獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は、部長の黒須から教えを受けていた。
「私たちの流派は宝蔵院流の一派で、用いる槍は『鎌槍』、または『十文字槍』と呼ばれるものです」
 そう言って黒須が見せてくれたのは、先端部が三叉に枝分かれした練習用の槍。
「これが十文字槍。『突けば槍、払えば長刀、引けば鎌』と例えられ、多彩な攻撃ができるのです」
 その近く。隠密気流で潜むは、楡金・澄華(氷刃・e01056)。
 彼女は、仲間たちと部員たちの特徴を観察し、手のひらや手の甲などにメモしていた。
「……銀子さんの服装は……って、汗で文字が消えてるな」
 なんとか書き直し、周囲にも視線を向ける。
 武道館の壁にはガラス窓がいくつかと、水撒き用の蛇口とが隣接。
 空は青空で、雲一つなく太陽が照っている。
「……!」
 そして、その最中。
「……来たぞっ!」
 すぐに澄華は姿を現し、叫び、
「来たかっ!」
 周りに潜んでいた仲間たちに、『知らせた』。
『バルディッシュ』の出現を。

『バルディッシュ』の姿を認めたシフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)は、
「……珍しいタイプですわね。本当に、ミイラのよう……」
 視線に気を付けつつ、挑戦するように立ちはだかる。
 ひょろ長い手足に、全身に包帯を巻き付け、手に握るは斧槍(バルディッシュ)。
「斧というより、長刀みたいだな」
 そいつの後方、逃走経路を塞ぐ位置に立った日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)は、武器を観察した。
 長柄の端には、細長い斧の刃が。磨き上げられた刃は、日光を受け輝いている。
 二人に続き、銀子もまた向かわんと立ち上がった。
「黒須さん、部員の皆さんを連れて逃げて下さい!」
「え? 何を……」
 銀子の言葉に、黒須は驚きを。
「部長。他流試合の殴り込みっぽいです」
「私たちで、やっつけちゃいましょうか?」
 部員らが向かわんとするが、
「待って。あいつの相手は危険だから、離れてほしいな」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)が声をかけ、
「ええ、ここは私達に任せてもらえないかしら?」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)が促す。
「あなたが部長ね。部員たちの先導をお願いできる?」
 ファレの言葉に、
「はい! あとは任せて下さい」
 受け合う黒須。
「さすが頼りになるわね、ありがとう」
 ケルベロス達により、部員らは動き出し、そして……、
「お嬢ちゃんたち、こっちだ。今は逃げの一手だぜ?」
 武道館の建物の陰にて、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147)が誘導し、
「避難は、滞りなく済みそうですわね」
 カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)がそれを手伝う。
「さーてと。御三方、ちょっとの間、頼むぜ?」
 ウォーレンの心配を受けつつ、銀子、蒼眞、シフォルは、
『バルディッシュ』と相対していた。

●香車のごとく突進せよ
 避難誘導と同時に、囮になり直接戦闘を開始した三人は。
 視線を外しつつ、『バルディッシュ』と激突していた。それぞれ得物として、シフォルにはパイルバンカー・ドリルドロル、銀子は如意棒、蒼眞は斬霊刀。
『バルディッシュ』もまた、躊躇する事無く突進。斧槍を投げつけながら、ジグザグに駆け出した。
「……は、早いっ!」
「ですがっ! 足下と足音から、位置はわかりますわっ!」
 斧槍はシフォルと銀子を狙ったのか、そのまま二人をかすめ、水道を破壊し、武道館のガラス窓を破壊した。そのまま斧槍を回収し、敵は再び突撃してくる。
「……エナジープロテクションで、守りを固めて良かった……なっ!」
 切りかかったのは、蒼眞に。しかし彼は躱し、斬霊刀で絶空斬を放つ。
 手ごたえあり。視線を背けつつの一撃だったが、身体への切り込みは感じ取った。
「くっ……地面が……」
「太陽からの光が反射して……」
 先刻に地面に撒かれた窓ガラス、そして破壊された水道からの水が水溜まりを作り、太陽光を反射している。思わず光に目がくらみ……、
「っ! しまった!」
「っ! 不覚、ですわっ!」
 蒼眞とシフォルは打撃を食らってしまった。柄の部分で打たれたのみで、軽傷だ。
 が、すぐに視線をかわし、構え直す。
「まだ、わたくしは奴の目を見てません!」
 蒼眞は、シフォルが立ち直ったのを確認した。
「ああ。俺もまだ見てない!」
 まだ認識阻害は成されてない。蒼眞が回復しようとした時、
 二人の目前に、銀子に追い詰められた『バルディッシュ』の背中が。
『バルディッシュ』は自分たちを気にしていない。絶好の攻撃のチャンスだ。
「もらいましたわ! はーっ!」
 振り向かれる前に突撃したシフォルが、ドリルドロルで『イカルガストライク』を放つ。
 それは、『バルディッシュ』の背中に直撃し……、
 地面に転がし、叩き付けた。
「やった!」
 蒼眞もそれを見て、思わず叫ぶ。『バルディッシュ』は手にした武器を地面に転がし、不様に倒れ、動かない。
「やりましたわ! 銀子さん、大丈夫でして?」
 目前の銀子も、『よくやった』とばかりに微笑みながら頷いていた。
 その手に『斧槍』を持ちながら。

「? まさか……!」
 銀子は、地面に撒かれた水とガラスを怪しみ、『悟った』。
 敵の単眼から放つは『光』。そして、光は『反射』する。
 つまり……! 奴は地面へ視線を『向けさせて』いた?
 が、それを確認させまいと、バルディッシュは矢継ぎ早に攻撃を繰り出してきた。
 斧槍を振るい攻撃に、銀子は視線を外しつつ、ぎりぎりで攻撃をかわしていた。
 立ち上がり立ち直ると、背中にはシフォルと蒼眞が。
 警告を発しようと口を開きかけたが、
「もらいましたわ! はーっ!」
「……え?」
 銀子は次の瞬間、シフォルのドリルドロルで、背中が撃ち抜かれたのを知った。
「やりましたわ! 『銀子さん』、大丈夫でして?」
 気を失う寸前、銀子はシフォルが『バルディッシュ』に対して、そう言うのを聞いていた。

●赤き光に槍は折れ、敵貫く事叶わず
 勝利を確信したシフォルと蒼眞だったが、
「……ど、どういう事……ですの?」
「一体だけ、じゃないのか?」
 武道館の陰から、新たな『バルディッシュ』が『五体』姿を現すのを見た。
 すぐに身構え、駆け出す『銀子』。
 が、そのうち一体の『バルディッシュ』(に見えるカトレア)が、
「まずはその動きを、封じさせて頂きますわ!」
 スターゲイザーで、『銀子』(に見える『バルディッシュ』)の動きを止める。
「ならば、何度でも!」
「ああ、何度でも!」
 シフォルは殴り掛かり、蒼眞は暴走しかけた。
(「あの『バルディッシュ』が一体だけでも苦戦したのに、五体同時に交戦し、認識阻害にかからないなんて、不可能だ! それくらいなら……」)
 勝ち目のない戦いに赴くならば、自身を暴走させて確実に仕留める!
 そう決意しかけたが、漂うサキュバスミストの前に、力が抜け……、
「……え?」
 敵と思っていた相手が、仲間たち、ケルベロスである事を理解した。
「……痛たた……。流石はパイルバンカー、かなり効いたわ」
「待ってて、すぐに治療するわ」
 そして銀子が、ファレの肩を借りて立ち上がる。
「大丈夫……じゃあ無さそうだな、フレンドリーファイアっつうより、そう仕向けられた、ってとこか?」
 ウォーレンもまた、シャウトで銀子を回復。
「わ、わたくし……まさか、銀子さんを?」
「くっ……俺自身も、まんまと引っかかった、のか!」
 いささかショックを受けていたシフォルと蒼眞に、
「謝罪と反省は後! 今は、あいつを倒す事に専念して!」
 叱咤する銀子。
 その間、『バルディッシュ』は澄華とカトレア、陽葉と交戦していた。

「はっ!」
 カトレアが愛刀『艶刀 紅薔薇』から絶空斬を放ち、『バルディッシュ』に当てるが……浅い。
「……参る!」
 続き、二刀流で猛攻する澄華。しかし、『バルディッシュ』はそれを受け止め、逆に切り付け、石突で突く。
 斧槍の刃に反射する光が、まるで嘲笑っているかのよう。
「ぐっ! やりますわね!」
「ちっ!……噂に違わぬ腕だな」
 しかし、そこに僅かに隙が。そこを狙い……、
『狙い……断つ!』
 陽葉が放った、音速の……否、超速の斬撃が襲い掛かる。
『破・残風止水(ハ・ザンフウシスイ)』、放たれた必殺の一刀は……『バルディッシュ』の腕に深い切り傷を刻むも、切断には至らない。
「……こいつ、鞭のあいつより……」
 そして、その代償のように。陽葉の身体にも、袈裟懸けに深い切り傷が刻まれていた。
「……わたくしも、参ります!」
 視線を地面に背け、敵の単眼を直視しないように注意していたカトレアは、
 確信しつつ、紅薔薇の刃を向けていた。……陽葉と、澄華に対して。
「……え!?」
 陽葉は驚愕し、
「貴様!」
 澄華は混乱しつつ、後退して二刀を構える。
 有無を言わさず、そのままカトレアは踏み込み……、
「……ふん、いつ仲間を呼んだのかは存じませんが、わたくしは負けません!」
 澄華へと打ち込んだ。
「そちらも!」
 そして、陽葉にも返す刀で切り付ける。
「『バルディッシュ』の、仲間? くっ、何体出てこようが!」
 陽葉も、気付かされた。今まで隣に並び立っていたのは、実は敵で、『バルディッシュ』の仲間だと。
 そしてこいつらは、『バルディッシュ』以上に危険であり……先に倒さねばならない。根拠は分からないが、本能がそう告げている。それで十分。
 陽葉とカトレアが、互いの首筋を刃で狙わんとしたその時、
「おおっと! そこまでだ! 美女の首筋に相応しいのは、刃じゃなくてネックレスだぜ?」
『死霊』たちが、二人の間に割って入り、刃を受け止めていた。

●槍持つパンサーのように、やってやるぜ
「「!?」」
 驚愕し、一瞬の隙が出来た陽葉とカトレアに、
「二人とも、そこまで!」
「しっかりなさい、自分を見失っちゃ駄目よ!」
 銀子が陽葉に組み付き、気力溜めを、
 ファレはカトレアにサキュバスミストを、それぞれかける。
「ナイスだぜ、お二人さん。さてと、御同輩たちよ。眠ってるトコ起こして済まねェが……もうちっとばかし、力を貸してくれや」
 ウォーレンの『万里涛破の百鬼夜行(ワイルドハント)』により呼び出された数体の死霊が、光を遮るかのようにケルベロスらの前に立っていた。
 今度は、『バルディッシュ』が驚愕している。そして、澄華は迷う様に視線をさまよわせ……、
「目前に『敵』あらば、斬るのみ! 凍雲、仕事だ……!」
 己が喰霊刀、斬龍之大太刀『凍雲』とともに……駆け出し、
 正真正銘、『バルディッシュ』へ、『氷空(ヒョウクウ)』……冷気を纏った空の如き、必殺の斬撃が放たれた。
『!!』
 脇腹を深く切り裂かれ、あからさまに驚愕しうろたえる『バルディッシュ』。
「……手に、『メモ』を書いておいたのが、幸いした。先刻、三人とも認識阻害を受けた時、カトレアさんと陽葉さんを『敵』と認識してしまったし、今もそうだが……この『メモ』が、私を導いてくれたよ」
 致命傷を受けた『バルディッシュ』へ、澄華が言い放つ。
 澄華に続き、シフォルが進み出た。
「先刻は、よくも……。その斧槍と、わたくしの杭打機。どちらの威力が上か、興味ありませんこと?」
 突進してきた『バルディッシュ』に対し、
「世界にあまねく苦痛の刃が……」
 世界に満ちる、苦痛の力。それが……シフォルの元へと集い、
「不死なるを滅す!『黄泉人の刃(ヨミビトノヤイバ)』!」
 刃となりて、『バルディッシュ』を切り裂く!
 だがそれでも、『バルディッシュ』は踏みとどまり、斧槍を構える。
 そいつの前に立ったカトレアは、紅薔薇の鞘を払った。
「……仲間に刃を向けさせてくれた借り。返させていただきますわ」
 気高き赤き薔薇の刃が、空を切り、
「その身に刻め、葬送の薔薇! 『バーテクルローズ』!」
 薔薇の模様が、斧槍使いに刻みこまれ、最後の一突き。
 爆発が『バルディッシュ』の断末魔となり、三途の川へ引導を渡していた。

●槍なだけにやり直し
 事後。
「まさか……斧槍の刃や散布させたガラスや水を、視線の反射に利用してた、とはね」
 銀子は、現場の後始末しつつ、今回の敵の事を思い起こしていた。
 シフォルたちや陽葉らから聞いたところ、今回の敵である『バルディッシュ』。認識阻害を、『自分を『仲間』と認識させる』、『仲間を『敵』と誤解させる』と、前の鞭のヤツとは異なる使い方をしていた。
 おそらく、服従させる事も可能だろうが……改めて、この能力の恐ろしさを思い知る。
「皆さん、ご無事の様で何よりですわね」
 やがて、事後処理を終え。カトレアは部員らを連れて戻って来た。
「貴重な練習時間を削ってしまい、すまなかった。……それで、ついでと言ってはなんだが……試合う事は可能か?」
 澄華の申し出に、
「……ええ、武道家として、私たちもケルベロスの皆様と、お手合わせ願いたいと思います」
 黒須は承諾。そして、
「ええと、獅子谷さん? よろしければ、先刻の続きを……」
「ええ、一緒に汗流して、仲良くなりたいわ」
 銀子も承諾。さらに、
「俺も、鍛え直してェと思ってたんだが。一丁、嬢ちゃんらに稽古をお願いしたいねェ」
 ウォーレンの言葉には、
「男性も歓迎しますよ。変な下心は無しでお願いしますね」
 黒須はそう返答した後、
「……でも、あとで一緒にお茶くらいなら、お付き合いしてもいいですよ」
 小さく、そう付け加えた。
 かくして、三人のケルベロス達は、槍術部と稽古する事に。
「それじゃ、陽葉さん、カトレアさん。私はお先に失礼しますね」
 それを一瞥し、ファレはクールに去っていき、
「……そういえば、他の二人は?」
「先に帰られたのかしら?」
 陽葉とカトレアは、蒼眞とシフォルの姿が無い事に気づいていた。

「あっ……アナタの、槍……太くて、すごい……あああっ!」
「ちょ、ちょっと……積極的、だねぇ……くっ!」
 武道館の中、人気の無い部屋。そこに蒼眞はいた。
 寝転がった上から、女子部員が跨り、腰を動かしている。
(「さっき、避難から戻ってくる時に彼女からモーションかけてきたけど……清楚なのに、結構スキモノだねこの子」)
 などと思いつつ、求められるなら頂きますと、味わう蒼眞。
 隣の部屋では、やはり可憐な大和撫子といった感じの女子部員が、
「はあ、はあ……ああん!」
 シフォルの愛撫を受け、腰をくねらせている。
『振られたラフ女の元彼女に似てる。寂しいから……』と、求められたシフォルは、彼女を愛撫し、
「んっ……くうっ、はあぁ……あっ!」
 逆に彼女からの愛撫も受け、甘い声を上げていた。
 そして、
「「「「あっ、あっ……あああっ!」」」」
 武道館の中、四人の絶頂の声が響いていた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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