クロートの誕生日~爽快、ストライクゲーム!

作者:雷紋寺音弥

「お前達の中に、身体を動かすのが好きな者はいるか? 運動といっても、そんなに激しいものじゃない。室内で遊べて、誰にでもできるものだ」
 そう言ってクロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)がケルベロス達に告げたのは、郊外にあるボーリング場で遊ばないかというお誘いだった。
「実は、そこの店主とは少し知り合いでな。なんでも、店を改装工事するらしく、数日間は休業する予定だそうだ」
 その休業に合わせて、1日だけ店を貸し切らせてもらった。よって、ボールもレーンも使い放題。他の客はいないので、個人で楽しむのもチームで楽しむのも自由にできる。
「ゲームに必要な道具は、全て店が用意してくれるからな。だが、敢えて自分のマイボールを持って行きたい者がいれば、それも構わないぞ」
 また、普通にゲームをするだけでなく、敢えてピンの数を減らした状態でトリッキーなストライクを狙う、曲芸的なゲームを楽しんでも良い。そこまでやると、もはやアマチュアではなくプロボウラーのレベルだが、腕に自信のある者は、チャレンジしてみるのも一興だ。
「ダーツにビリヤードに、そしてボーリング……。どれも、ガキの頃に、親父から教わったものだ。ダーツやビリヤードは敷居が高いが、ボーリングなら、子どもから大人まで楽しめるだろう?」
 ちなみに、世間一般では、これらの競技は『ダンディースポーツ3将軍』と言われているとか、いないとか。要するに、大人の男の遊びということで……この機会にボーリングだけでも極めれば、女の子にモテるかもしれないぞ?


■リプレイ

●昨年に続けて
 改修を控えたボーリング場で、今日は貸し切りボーリング。普段は楽しめない遊び方も存分に楽しめるとなれば、期待して集まる者がいるのも当然だ。
「女の子にモテると聞いて!」
「ダンディーな遊びと言えば、ルルの出番かな?」
 ボールではなく、何故かモップ片手に現れたのは、チロ・リンデンバウム(ゴマすりクソわんこ・e12915)とルル・サルティーナ(タンスとか勝手に開けるアレ・e03571)の二人だった。その後ろでは、なんとも申し訳なさそうな表情をしつつ、お目付け役のルイス・メルクリオ(キノコムシャムシャくん・e12907)も立っていた。
「悪いね……今年もこいつら来ちゃったよ……」
「別に構わないぞ。そもそも、ボーリングは大勢で楽しむものだからな」
 クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はサラっと流していたが、しかしルイスは気が気ではない。なにしろ、この二人、昨年はカジノ喫茶でポーカーのルールを雑に殺し、ディーラーそっちのけで謎のTCGバトルを繰り広げたのだから。
「……ポーカーのルール……良い奴だったのに……」
 どこか遠くを見ながら、チロが何かを呟いている。どうやら、彼女の前には謎のオッサンの幻影が、ぼんやりと浮かんでいるようだ。一応、昨年のポーカーに対して、弔い合戦をするつもりはあるようで。
「ぼ、ぼりーんぐなら、ルルも何度もテレビで見たからね! 堅い球がシャーッと滑っていくところをモップでごしごしして、『そだねー!』って言いながらもぐもぐする遊びだよね!」
 なお、ルルは既に何かを勘違いしているようで、早くも不穏な空気が漂っていた。そこへ、更に追い打ちをかけるように、チロが持っていたモップを高々と掲げた。
「知ってる知ってる! 道具だってほれ、そこのホームセンターで買ってきたからな!」
 ああ、もうこいつら、絶対に何か勘違いしているよ。大きな溜息を吐きながら、顔を手で覆うルイスだったが、クロートは苦笑しつつ3人をレーンの場所へ案内した。
「クロートさん、お誕生日、おめでとうございます! 去年に今年も父親から学んだ遊びを誕生日に嗜む、いいものですな」
 使用するレーンは二組。その内のひとつには、既にイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、相棒のミミックである相箱のザラキと共にスタンバイしていた。
「今日は、ボーリング? 楽しませてもらうね。リリ、普通のボーリングは初めてだよ」
 同じく、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)もボール片手に待っていたが、初めてのことなのか、どこか不安そうだ。
「心配するな。基本のフォームは教えてやるから、少しずつ慣れて行けばいい」
 誰でも、最初は上手く行かないものだが、直ぐにコツを掴んで慣れるはず。デウスエクス相手に日夜奮闘しているケルベロスの身体能力なら、特に難しいこともないだろう。
 そう言って、クロートが機械に参加者の名前を入力すると、いよいよ最初のゲームが始まった。

●スーパープレイ?
 人生初のボーリング。基本の動作を軽く習ったリリエッタは、周りの者のフォームも真似して、とりあえずボールを投げてみた。
 完全に見様見真似な投げ方。狙いは良かったが、しかし勢いよく投げ過ぎてしまったのか、ボールは盛大に宙を舞って、大きな音を立てて着地した。
「……むぅ、みんなは静かに投げてるのにリリだけ変だね」
 初心者のリリエッタにも、これは明らかに拙い投げ方だということが分かったようだ。そもそも、こんな固い球を床に投げ落としたら、それだけで床がボコボコになってしまいそうだ。
「もっと、ゆっくりでも大丈夫だぞ。力を抜いて、正確に狙え」
 ついでに、その球も少しばかり変えた方がいい。あまり重過ぎても手に余ってしまうが、軽すぎても球に重さがないのでピンを上手く弾けないと、横で見ていたクロートが告げた。
「うん、わかったよ。それじゃ……」
 今度は、戦いの中で敵の急所を狙う時を思い出して、リリエッタは意識を研ぎ澄ませボールを投げる。先程に比べれば、随分と様になった格好だ。狙撃手として、普段から銃を愛用しているからだろうか。
「あ! ……当たったよ!」
「ほぅ……初めてなのに、なかなかセンスがあるな」
 一回の投球で7本のピンを纏めて倒したのを見て、クロートは感心した口調で言った。ストライクまでは至らないものの、かなり正確に真ん中を狙えているようだ。
「いやはや、皆さんなかなかお上手ですな。……どれ、それでは私も……」
 続けて、イッパイアッテナが投げるものの、端のピンだけが残ってしまった。あれを狙うのは難しく、案の定、二投目は何もない空間をボールが突っ切るだけだった。
「やはり、ああいう端を狙うのは、なかなか難しいですね」
 ふと、そんなことを言いながら横を見れば、相箱のザラキもエクトプラズムで作った腕を利用して、なんとかボールを投げていた。
「あ、箱が投げたの、全部倒したよ」
「フッ……こういうミラクルが起きるのも、ボーリングの醍醐味さ」
 持ち前の腕が全てを決めるとは限らない。勝負は最後まで分からないのが面白いのだと言いながら、クロートも自分のボールを投げる。
「……おっと、少し力を入れ過ぎたか」
 だが、彼のボールはピンの中心を捕らえはしたものの、勢いが付き過ぎていたのか、端のピンを倒すことなく突っ込んで行ってしまった。
 残るピンは右に1本、左に2本。スプリットという状態だ。どちらか片方に固まっているわけではないので、これを全て倒すのは殆ど不可能と言ってよい。
「むむ、困りましたね。これは、スペアを狙わず手堅く行った方が……」
「いや……まだ、分からないぞ」
 左の2本を狙うべきだと言うイッパイアッテナに対し、クロートは未だ諦めない様子で、再びボールを手に取った。そのまま狙いを定め、左ではなく右のピンを狙ってボールを投げる。ボールはピンの端すれすれに触れて吹き飛ばし、そのまま脇の溝へと落下してしまったが。
「おお、これは凄い!」
 目の前の光景に、思わず拍手するイッパイアッテナ。弾き飛ばされたピンが左のピンに接触し、そのまま薙ぎ倒してしまったのだ。これが、クロートの言っていた曲芸プレイか。なるほど、確かに不可能を可能にするという点では、スーパープレイと言っても過言ではないのかもしれないが。
「……そう、誉められるようなものでもないさ。残念だが、今のは失敗だ」
 苦笑しながら、クロートは最後の1本のピンを指差した。どうやら、吹き飛ばしたピンを2本のピンに当てることはできず、1本を倒すのがせいぜいだった模様。いくら得意な遊びとはいえ、アマチュアのレベルではこの程度が限界か。
「そもそも、スプリットを出している時点で、俺もまだまださ。できれば最初からストライクを狙って行かないとな」
 そう言いながら、再びリリエッタにバトンタッチ。今度は最初からしっかり狙うように告げ、リリエッタもそれを聞いて意識を集中し。
「敵の急所を狙うような感じだよね……よし!」
 言われるままにボールを投げれば、先程よりも更に多い、8本のピンを倒していた。
「惜しいな。後少し左に寄らせていれば、もしかしたらストライクだったかもしれないが……」
「そうだね。でも、さっきよりは上手くできたから、リリはそれでも満足だよ」
 このまま続けて行けば、ゲームが終わる頃にはコツを掴んでいるはずだ。だんだんと調子が出て来たのか、リリエッタの表情からも、幾許か緊張の色が消えていた。

●ルールの破壊者達
 イッパイアッテナやリリエッタ達が、それぞれにボーリングを楽しんでいる頃。
 準備を終えたルイスもまた、別のレーンでルルやチロ達と一緒にゲームのスタンバイを終えていた。
 なんのことはない、1つのレーンに4人しか名前を登録できないので、彼らは別のレーンを使っていたというだけの話だ。ついでに、自分も初心者なので、クロート達のプレイを見た後で、じっくりとフォームを頭に叩き込んで遊びたかったのである。
 まあ、最悪の場合、自分の目の前であればルルやチロが滅茶苦茶しても、直ぐに止められるとも思っていた。そんなことを考えつつ、満を持してルイスはボールを構えたのだが……目の前の光景に、思わず唖然としたままボールを落としてしまった。
「お前ら、何でレーンの中に居るんだよ!」
 なんと、ルルとチロの二人は、他でもないレーンの中にいたのである。
「よっしゃこーい! ばっちこーい!」
「さぁ、早速投げてみろ!」
 何を勘違いしたのか、二人はモップ片手にやる気満々。早くボールを投げてくれと、ルイスに目線で催促する始末。
「モップ片手に、期待に満ちた視線でこっち見んな! 何かと勘違いし……カーリングか! お前らそれ、カーリングだよ! ゲームが違う!」
 ここに来て、ルイスはルルとチロがボーリングとカーリングを勘違いしていることに気が付いた。昨年のポーカーに続き、これは酷い。
 おのれ、お前達のせいで、ボーリングのルールも破壊されてしまった! どこからともなく、そんな感じで眼鏡をかけた謎のオッサンの声が聞こえてきそうだったが、それはそれ。
 こうなったら、もうボールを投げるしかない。雑念を捨て、球に意識を集中させ、ルイスは真正面から流れるようにして投げた。勢いのついたボールは、そのままルルとチロの前を素通りし……そして、彼女達の後ろにあるピンを、盛大に転倒させて行った。
「……って、ちょ……早い! 早いよ! モップでシャッシャする時間が無いよ!」
「……早いわ! 早いよ! 球すっ飛んでったわ! 後ろに並んでた変な棒も全部ふっ飛ばされて、木っ端微塵だよ!」
 抗議の声を上げるルルとチロだったが、そんなことは知ったことか。これが正しいボーリングのルール。というか、お前らさっさとレーンから出ろよ!
「何だよこのゲーム! 怖いよ! お前、チロさんを殺す気か!」
 相変わらず文句を垂れているチロだったが、そんなことは気にせずに、ルイスは戻って来たボールを構え、再び投げた。放たれた球は残るピンに見事命中し、綺麗に全てを倒して行った。
「あの……クロート……今年もごめんな……」
 脱力した様子でクロートに謝罪するルイスだったが、クロートは苦笑しつつ「気にするな」とだけ彼に伝えた。もっとも、レーンの上を靴で歩き回ってしまうと、折角磨いたレーンの環境が変わってしまい、正しく遊べなくなるとも告げ。
「そういうわけで、そこの二人。お前達は、自分の踏んだレーンを、そのモップで丁寧に磨きながら戻ってこい。二人とも、床を磨きたかったんだろう? ちょうどいいじゃないか」
 要するに、自分達で汚したレーンは、自分達で綺麗にしろということである。だが、いくら床を磨けるとはいえ、ボールもなしに磨いているだけでは、チロとルルにとってはあまり面白くはなかったようだ。
「うぅ……な、なんでチロ達がこんなこと……」
「ボールがないのに、モップでシャッシャしてもつまんないし……」
 しょんぼりと項垂れながら、二人はモップで床を磨きながら戻って来た。なお、文句を言いながらも必要以上に磨いたため、今度はボールの滑りが良くなり過ぎてしまい、軽く投げるだけでも凄まじいスピードで吹っ飛んで行くようになったという。

●スコアの程は?
 かくして、途中に多少のトラブルを挟みながらも、ゲームは楽しく進んで行った。
「ん……だんだん、コツがつかめてきたよ」
「まあ、慣れればこんなものだろうな」
 初心者ながらも、リリエッタやルイスはだんだんと点数を伸ばし、最後の方にはストライクやスペアも1回くらい出せるようになり。
「やるじゃないか。どこかで、ボーリングを習ったことがあるのか?」
「まあ、嗜み程度にですが。それよりも……あちらの二人は、大丈夫でしょうか?」
 互いにストライクを重ねつつ、イッパイアッテナがクロートに問い掛ければ、その視線の先にいたのはルルとチロの二人だ。
「うわわ! 指が抜けな……助けて~!!」
 投げる際に力が入り過ぎてしまい、ボール諸共にルルが盛大にレーンの上を吹っ飛んで行ったり。
「よ~し、チロさんは、この特大サイズのボールで全てを薙ぎ倒してや……ひゃぁっ! なにこれ! 重すぎるよ! 後少しズレてたら、足の指が粉々になるところだったわ!」
 どう考えても体格に合わない最大サイズのボールを投げようとして、それを足元に落としたチロが慌てふためいていたり。
「こら、お前達! 真面目にやれ!」
 思わず叱るルイスだったが、ルルとチロにしてみれば、これでも大真面目にやっているのだから、仕方がない。
 そうこうしている間に、ゲームは終了。スコアとしては、やはり経験者の成せる業か、クロートとイッパイアッテナは余裕の高得点。
「まあ、久しぶりだし、こんなものだな」
「そうですね。感を取り戻せば、もう少しストライクが出せるかもしれません」
 なんというか、大人の余裕である。休憩中に、その辺の自動販売機で買って来た、ブラックコーヒーを飲んでいる姿が様になる。
「リリ達も、まあまあな得点だったね」
「ああ、そうだな。……あそこの二人に比べれば、な……」
 同じ初心者組としてリリエッタから声を掛けられ、ルイスがなんとも微妙な顔をした。二人とも、点数的には100点に少し届かない程度だが、ストライクも出せたことだし悪くはなかったのだが。
「うぅ……なんか、ルル達、物凄く点数低くない?」
「く、くやしい……ってか、あそこの箱にも負けるとか、許せん!!」
 ズタボロのスコア表を見て、歯噛みしながら震えているルルとチロ。まあ、あんな滅茶苦茶なプレイをしていれば、点数だってお察しである。
 ちなみに、相箱のザラキは大当たりか大外れしかない極端なスコアでありながら、ルルやチロよりも少しばかり上の点を出せていた。この辺り、二人がどれだけ無茶苦茶なプレイをしていたのかを、如実に物語る結果なわけで。
「くっ……! だが、負ける訳にはいかない……ルルたちの挑戦は始まったばかり!」
 それでも、何故か対抗心剥き出しに、再びボールを持って立ち上がるルル。そんな彼女のやる気に負けたのか、クロートもまた立ち上がり。
「さて、慣れて来たところで、もうワンゲーム行くか?」
 今のは練習。本番はここからだ。そういうわけで、まずは水分補給でもするか。どれでも好きなものを奢ってやると、自動販売機の前で言ったところで、ルルとチロの瞳が途端に輝いた。
「おお、ドワーフのおっちゃん、太っ腹~!」
「ジュースが飲める!? だったら、チロはその端のやつから、向こうの端のやつまで、ぜ~んぶ飲むんだぞ!」
 もはや、ボーリングなど完全に忘れ、二人の頭の中はジュースのことでいっぱいだ。調子の乗るなと叱るルイスだったが、この程度で反省する二人なら、苦労はしない。
「いやはや、賑やかな方々ですな」
「ん……でも、こういうの、ちょっと楽しいかもね」
 遠間から、そんな彼らの様子を眺めているイッパイアッテナとリリエッタ。頼むから、見ていないで助けて欲しい……とは、なかなか言い出せないのがルイスの辛いところ。
「おお、クリームソーダが売ってる! しかも、なんかボタン押したらコップが落ちて来た!?」
「チロさんは、こっちの缶ジュース飲むんだ……ぶわっ! なんか、振ったら中身飛び出したぞ、なんだこれ!?」
 相も変わらず、ジュースを飲むだけで大騒ぎな二人。彼女達のお目付け役をする限り、ルイスの受難はしばらくの間、続きそうだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月19日
難度:易しい
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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