荒ぶる変身コンパクト!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 どんな姿にでもなる事が出来るコンパクトを使って、街の問題を解決する魔法少女のアニメがあった。
 そのアニメは女の子向けに作られていたものの、ストーリーがしっかりしていたため、大人にも受けていたらしい。
 その影響で偽物も数多く出回っていたらしく、本物と比べて安価だったこともあり、売り上げを伸ばしていったようである。
 だが、本物と違って不都合が多く、苦情だけが本物を製造しているメーカーに届き、トラブルが続出。
 その結果、メーカー側がブチ切れて、販売を中止してしまったようである。
 そう言った事もあり、コンパクトを製造していた事自体が黒歴史になり、メーカーが所有している倉庫で深い眠りにつく事となった。
 その場所に蜘蛛のような姿をした小型ダモクレスが現れ、コンパクトの中に入り込んだ。
 それと同時に、機械的なヒールによってコンパクトが作り変えられ、家電製品っぽい雰囲気のダモクレスに変化した。
「コン、コン、コンパクトォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した倉庫でダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、廃墟と化した倉庫。
 この場所に放置されていたコンパクトが、ダモクレスと化してしまったようである。
 コンパクトは、一時期話題になった魔法少女が所有していた変身アイテム。
 メーカー側がクオリティを重視したため、本物ソックリの出来栄えであったものの、値段が割高だったため、売り上げは偽物の半分以下だったようである。
 一方、偽物が重視したのは、コンパクトの見た目だけ。
 その分、必要な機能がついておらず、全体的にガッカリアイテムだったらしい。
「ダモクレスと化したのは、コンパクトです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティ・チェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、グラビティ・チェインを求めて攻撃を仕掛けてくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
姫神・メイ(見習い探偵・e67439)
静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ

●都内某所
「まさか俺が危惧していたダモクレスが本当に現れるとはね」
 カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は複雑な気持ちになりながら、仲間達と共にダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 倉庫はしばらく前から廃墟と化しており、窓ガラスが割れて、壁の塗装が剥がれていた。
 その隣には玩具メーカーの事務所があるものの、同様に廃墟と化して酷い有り様になっていた。
 幸い、辺りに人気がないものの、念には念を入れて、辺りを見回った。
 倉庫のまわりには、他にも建物が建っていたものの、まるでこの場所だけ時代に取り残されてしまったかのような場違い感があった。
「コンパクトのダモクレスか。もう何でもダモクレスになってしまう気がするね」
 四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)が、事前に配られた資料に目を通した。
 どうやら、偽物の方が安価で手軽に手に入れる事が出来たため、本物の売り上げが良くなかったようである。
 しかし、偽物のクレームまで、本物の変身コンパクトを製造しているメーカーに届いてしまったため、社長がブチ切れて販売中止になってしまったようだ。
 それでも、偽物が売られ続けていたため、メーカー側では変身コンパクトの存在自体がタブーと化していたらしい。
「これまた変わった物がダモクレスになったものね。まぁ、黒歴史になってしまったことはご愁傷様だけど……」
 姫神・メイ(見習い探偵・e67439)が、深い溜息を洩らした。
 資料には、偽物の写真も添付されていたが、見た目だけなら本物と見紛うモノばかり。
 メーカー表記も一文字違っていたり、似たようなデザインであったりしたため、本物と間違っても仕方が無いように思えた。
「でも、コンパクトって、変身できる道具だったんでしょ? それがこんなことになるなんて、実に皮肉だけど、ダモクレスになった物は願い下げね」
 静城・依鈴(雪の精霊術士・e85384)が、ゲンナリとした様子で、自分なりの考えを述べた。
「コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その言葉にイラッとしたのか、ダモクレスが倉庫の壁を突き破り、ケモノの如く咆哮を響かせた。
 その姿はまるで蜘蛛の脚が生えた貝。
 ダモクレスと化した事で、変身コンパクト本来の美しさが失われ、無駄にグロテスクな要素が際立っていた。
「一般の人に被害は出させないわよーっ、狙うならあたしを狙いなさい!」
 すぐさま、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がダモクレスの前に陣取り、必要以上に挑発した。
「コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 その挑発に乗ったダモクレスが殺気立った様子で、レイに向かって突っ込んできた。

●ダモクレス
「……って! ちょっと待って! 違うから! そ、そう言う意味じゃなくて、ビームよ、ビーム! 別に死にたい訳でもないし、怪我をしたい訳でもないから……!」
 レイがハッとした表情を浮かべ、ダモクレスの特攻を避けた。
 だが、ダモクレスは容赦なし!
 まるで親の仇の如く勢いで、執拗にレイを狙って、特攻を仕掛けてきた。
「だから、ビーム! ビームよ、ビーム! それ以外は別に喰らいたくないから! ほら、バーンと! ほらほらほら!」
 それでも、レイが諦める事なく、一定の距離を保ちながら、ダモクレスを挑発した。
「コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
 次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、ケルベロス達にビームを放ってきた。
「そうそう、これよ、これ!」
 その途端、レイが興奮した様子で、ダモクレスが放ったビームを全身に浴びた。
 その影響でレイの身体が光のヴェールに包まれ、魔法少女風の恰好になった。
「かわいーフリル! PopでHappyな色づかい! はぁー、やっぱ魔法少女って……な、なんでもないんだからっっ」
 レイがハッとした表情を浮かべ、恥ずかしそうに言い訳をした。
 だが、思った以上に可愛かったため、隙を見て、クルリと一回転。
 何処かに全身を映し出す事の出来る鏡があれば、その場でポージングを繰り出してしまう程、テンションがアゲアゲだった。
「このビームは……違う意味で危険のようだね」
 カシスが魔法少女の恰好になった自分を思い浮かべ、乾いた笑いを響かせながら、ライトニングウォールを展開した。
 魔法少女風の姿になる事も問題だが、それ以上にその恰好のまま戦いを強いられる事を考えると、色々な意味で避けるべきである。
 例え、それがビジュアル的に悪くなかったとしても、ノリノリで戦う自分を想像する事が出来なかった。
 そういった意味でも、全力でビーム攻撃を防ぎたいという意志の方が勝っており、そこに迷いはなかった。
「だからと言って、ビームばかり避けていたら、ダモクレスに逃げられてしまうわよ」
 メイが覚悟を決める様子で、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
 最悪の場合、ダモクレスのビームを浴びるかも知れないが、その時は、その時。
 万が一、魔法少女風の恰好になったとしても、何の躊躇いもなく戦える……はず。
 少し恥ずかしい気もするが、戦闘に集中している間は、大丈夫なはずである。
 それでも、脳裏の片隅にチラつく魔法少女風の恰好をした自分に気づくたび、『……無理ね』と自分自身に駄目出しした。
 それは似合う、似合わないかではなく、そんな恰好で戦う事自体、あり得ない。
「確かに、そうだね。まあ、ビームが当たったとしても、死ぬわけじゃないし……」
 司が何やら察した様子で、ダモクレスの行く手を阻んだ。
「ヘ、ヘ、ヘ・ン・シィィィィィィィィィィィィィィィン!」
 それと同時にダモクレスがビームを放ってきたものの、司が素早い身のこなしで横に跳び、間一髪で最悪の事態を回避した。
「まずは素早い動きを、封じてあげるわよ」
 次の瞬間、依鈴がスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをダモクレスに炸裂させた。
「コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォォォォォォ」
 その一撃を喰らったダモクレスが苛立った様子で、奇妙なアームを伸ばしてきた。
 そのアームは先端がコンパクト状になっており、それをカスタネットの如くパクパクさせながら、ケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「……これは地味に痛いね」
 カシスがダモクレスの様子を窺いながら、ウィッチオペレーションで仲間達の傷を癒した。
 ダモクレスは背中から幾つもアームを伸ばしており、それを絡ませる事なく器用に動かしていた。
「そう言う悪い子は、御仕置きだからね! ……って、別に魔法少女になり切っている訳じゃないから……! これは偶然であって……意識してそれっぽく言ったわけじゃないからね!」
 レイが可愛らしくポーズを決めた後、ハッとした表情を浮かべて、言い訳をし始めた。
 そんな事をしたところで、無駄な事は自分でも分かっていたものの、何か言わなければ恥ずかしい気持ちが溢れそうになった。
「……何も気にしなくていいよ」
 司が何やら察した様子で、ダモクレスにデスサイズシュートを放ち、鎌を回転させながら投げつけ、不気味に蠢くアームを刈り取った。
「コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォ!」
 それでも、ダモクレスは怯む事なく、別の場所からニュルニュルと、新しいアームを伸ばしてきた。
「今度は牙付き? 此処まで来ると、変身コンパクトと言うより、単なる凶器ね」
 メイが軽く皮肉を言いながら、血装刺突法で染み付いた血を硬化させ、包帯を槍の如く鋭く伸ばして、ダモクレスのアームを破壊した。
「最近の魔法少女って肉弾戦も出来るんだからっ。べ、別に詳しくなんて……日曜日の朝にテレビの前で座ってたりなんてしないんだからねっ!!」
 続いて、レイが恥ずかしそうにしながら、ダモクレスにスターゲイザーを仕掛け、奇妙な形のアームをへし折った。
「せっかくだから、華麗なる薔薇の舞を、見せてあげるよ」
 それに合わせて、司が薔薇の剣戟を発動させ、幻の薔薇が舞う華麗な剣戟で、次々とダモクレスのアームを破壊した。
「コ、コ、コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォォ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが、コンパクト型のミサイルをぶっ放した。
 コンパクト型のミサイルはアスファルトの地面に落下すると爆発を起こし、大量の土煙が舞い上がって、ダモクレスの身体を包み込んだ。
「みんな気を付けて! 土煙に紛れて、攻撃してくるようだから……!」
 カシスが、ただならぬ気配を感じ取り、仲間達に対して警告した。
 ダモクレスは土煙の中を駆け抜け、こちらに迫っているらしく、刃物の如く鋭い殺気がケルベロス達に向けられていた。
「そんな事をしたところで、私の眼は欺けないわよ……」
 すぐさま、メイが探偵の眼力(タンテイノガンリキ)を発動させ、探偵の経験によって培われた鋭い視線を相手に飛ばし、ダモクレスの動きを封じ込めた。
「スライムよ、敵を捕食してしまいなさい!」
 次の瞬間、依鈴がレゾナンスグリードでブラックスライムを捕食モードに変形させ、ダモクレスを丸呑みしようとした。
「コ、コ、コ・ン・パ・ク・トォォォォォォォォォォォ!」
 その事に危機感を覚えたダモクレスが近距離からビームを放ち、ブラックスライムを魔法少女風にした。
 それでも、ブラックスライムがマジカルテイストで、ダモクレスを丸呑みすると、げふっと息を吐き捨てた。
「それ……誰需要?」
 その途端、依鈴がブラックスライムをマジマジと見つめ、冷静にツッコミを入れた。
 見方によっては、可愛い気もするのだが、とても需要があるとは思えなかった。
 それでも、似合っていないと言ったら嘘になるため、余計に訳が分からなくなっているようである。
「みんな、怪我はない? もしも、何処か怪我をしているようなら、遠慮なく言ってね」
 カシスが心配した様子で、仲間達に駆け寄った。
 仲間達の大半は軽傷であったものの、ダモクレスとの戦いで怪我をしていた。
「コンパクトが売れていれば、こんなダモクレスにならなくて済んだのにね」
 その治療を受けながら、メイが複雑な気持ちになりつつ、ダモクレスがいた場所を眺めた。
 おそらく、ダモクレスにとっては、望まぬ結末。
 どんな姿になる事も出来るという設定の変身コンパクトが、自分の望まぬ姿になって暴走していた事を考えると、実に皮肉な話である。
「……ゴスロリもいいけど、やっぱり魔法少女もいいわね」
 そんな中、レイが改めて自分の恰好を確認した後、まんざらでもない様子で、ほんのり頬を染めるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月8日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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