第二王女ハール決戦~追い詰められしプリンセス

作者:洗井落雲

●ハールを討て
「最近の皆の活躍は素晴らしいな! 困難な事を次々とやり遂げる……俺もワクワクしてしま……と、すまない、まずは集まってもらって感謝する。今回の作戦の説明を始めようか」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は些か興奮した様子を抑えつつ、ケルベロス達へとそう告げた。
 さて、ケルベロス達は先日、第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、ブレイザブリクを完全に支配下に入れることに成功した。
 このため、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索に着手することができるようになったのだ。
 しかし、エインヘリアルたちが、この状況を座して待っているわけがない。ホーフンド王子勢力からエインヘリアル側に『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告も行われていることは確実であり、ブレイザブリクを奪取する為の軍勢を起こすのは間違いない、と思われるのだ。
 そして、この状況で大阪城方面の情報を収集していた、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんらから、重要な情報がもたらされたのである。
「どうやら、大阪城の攻性植物たちが、侵攻の準備を行っているようなんだ。アビスの調査から、エインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて、大阪城からも攻撃を行う合同作戦の可能性が高いようだな……」
 エインヘリアルと攻性植物。長年の仇敵であったこの両勢力だが、近年は、ケルベロスを共通の敵として、対立関係が緩和していた。
 特に、大阪城のハール王女が、ホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣するなどの工作を行っていたため、この合同作戦が行われる確率は、かなり高いと予測されている。
「だが、皆の調査によって、大阪城側の準備がまだ整っていない……つまり、付け入るスキがあることが判明したんだ。皆には、エインヘリアルとの共同作戦が実行されないよう、複数ルートから大阪城勢力に攻撃を仕掛けて欲しいんだよ」
 攻性植物とエインヘリアルの連携に大きな役割を果たしていると思われるのは、『エインヘリアルの第二王女・ハール』だ。ハールを撃破することができれば、当面の間合同作戦は行えなくなるだろう。
 仮にハールを撃破できなくても、攻性植物勢力側からの『ハール王女への信用を大きく下げることができれば』同様の効果を期待することができるし、場合によってはハール王女を攻性植物勢力の手で排除させることも可能かもしれないのだ。むしろその方、攻性植物勢力がハールを処断した場合の方が、エインヘリアルと攻性植物勢力の対立激化が見込めるため、よい結果が得られるかもしれない。
「ハールはすでに、多くの失態を重ねている。そのため、最前線防衛拠点の守護を任されているようだ。さらに、子飼いの勢力をホーフンド王子への援軍に送ったため、戦力も充分ではない。攻撃するなら、今だな」
 最前線の防衛拠点、『要塞ヤルンヴィド』は、ダモクレス勢力の城塞である。そのため、ハール王女の部隊とは別に、ダモクレスの軍勢も駐屯しているようだ。
「ダモクレスの部隊と、ハール王女を分断する作戦が必要になるな。物理的に距離を取らせるか、心理的な間隙を生み出すか……あるいは、その双方か。詳しい戦い方は、皆に任せるよ」
 まず、前述したとおり、戦場となるのは『要塞ヤルンヴィド』である。ヤルンヴィドは、グランドロン城砦を失った後、大阪城の守りとしてダモクレスによって建造された要塞だ。
 この要塞を攻略するために、ケルベロス達はチームは、戦場ごとに、以下のようにに分かれることになる。
 まず一つ。『『要塞ヤルンヴィド』の中央に攻め寄せて、敵本隊と戦うチーム』。
 ヤルンヴィドの要塞司令官、『インスペクター・アルキタス』をはじめとする部隊と戦うチームだ。このチームの活躍があれば、ハールへの増援を止めることができるだろう。
 要塞の防衛部隊である『炎日騎士部隊』は、ハールの軍勢ではあるのだが、ハールよりもインスペクター・アルキタスの命令を優先するようだ。
 ここに参加するチームがいなければ、ハール王女への増援がすぐに発生する。そのため、ハール王女との戦いが厳しくなってしまうだろう。
 二つ目は、『戦鬼騎士サラシュリと戦うチーム』。
 サラシュリを要塞外に釣りだすなどして、戦闘を行うチームだ。サラシュリは戦闘狂で、いわゆる脳筋と言われるほどに戦闘能力の高いタイプであり、指揮能力はないタイプだ。
 サラシュリを撃破すると同時に、ケルベロス側の戦力を誤認させるような行動ができれば、指揮官の『槍剣士アデル』の指揮を惑わせる事が出来ると考えられる。
 三つ目、『槍剣士アデルと戦うチーム』。
 アデルは要塞内のフェーミナ騎士団を統括しており、要塞の防衛を行っているようだ。アデルは騎士道精神を持ち合わせているため、ケルベロスの大規模な襲撃があった場合は、自ら先頭に立って戦い始めるだろう。
 アデル対策のチームが少なすぎる場合は、後述する『策謀術士リリー・ルビーと戦うチーム』と『エインヘリアル第二王女・ハールと戦うのチーム』もアデルの防衛部隊と戦わなければなりませんので、効率が悪くなるでしょう。
 作戦としては、分散して攻撃して後続する部隊の要塞潜入を援護するか、或いは、アデル撃破を狙うか、になる。
 いずれにせよ敵の陽動は必須なので、陽動に加えて、アデルを撃破するチームを用意するか、と言った戦略が必要になるだろう。
 四つ目が、『策謀術士リリー・ルビーと戦うチーム』。
 リリー・ルビーはハールの腹心で、アスガルドの情報工作も担当している。そのため、ハールを撃破しても、リリー・ルビーが残っていれば、比較的短い時間でエインヘリアルと攻性植物のパイプが復活する可能性がある。同時に、ハールを撃破できなかった場合でも、リリー・ルビーを撃破しておけば、実務を行う担当者がいなくなるため、連携が円滑に進まなくなる可能性もある。
 そのためできる限り撃破しておきたいのだが、リリー・ルビーを見つけ出すには、優れた戦略が必要になるだろう。発見さえできれば、1チームでも撃破は難しくあるまい。
 リリー・ルビーのみを標的として行動するか、あるいはアデル、ハールと戦いつつ可能なら見つけたり、発見を適当な所で切り上げてアデル、ハールと戦うチームと合流するかは、ケルベロス達の戦略に委ねられている。
 最後、五つ目が、『エインヘリアルの第二王女・ハールと戦うチーム』だ。
 ハールのいる戦場に、無傷の3チームを送り込めれば、勝利できる可能性は高いだろう。
 だが、ハールは守りの固い要塞の奥にいるので、そこまで無傷のチームを送り込むのは難しい。多くの戦力を集中させるか、素晴らしい作戦のどちらかが、必要になるだろう。
 アデルを撃破できているかできていないかで、ハールのがいる戦場に到着するまでの難易度は変化するし、その他のチームの戦いの結果でも上下する。戦略を考えつつ、戦力を分配する必要が出てくるだろう。
「エインヘリアルと攻性植物、この共闘が続けば、厄介なことになるだろうな」
 アーサーは、そう言ってヒゲを撫でた。
「東京都民と大阪市民を守るためにも、そして、ハールとの因縁にケリをつけるためにも……君たちの無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した――。


参加者
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●要塞の内へ
 ケルベロス達が要塞の内部へと侵入したのは、既に戦いが始まってから――他のチームが侵入し、その最後の順であった。
「すでに戦闘は始まっている」
 きり、と、気を引き締めて言うのは、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)だった。足元のテレビウム『シュテルネ』もまた、神妙な顔で頷く。
「我々の目標は、ハールだ……それも、可能な限り無傷で到着しなければならない」
 ローレライの言葉に、仲間達は頷く――追い詰められているとはいえ、ハールは強敵だ。万全な状態のチームが到達して、ようやく戦いに持ち込める。
 そのため、露払いとでもいうべき、先導し、敵と戦うチームが他に存在していた。ケルベロス達は、そのチームの先導に従い、ゆっくりと進み始める。
 しばし進み、先導チームが安全を確認し、また進む。慎重に慎重を期した形であったが、こうするしか他に手はあるまい。
「……歯がゆいね。仲間が傷ついているのを見ながら、助けることもできない」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が唇をかみしめるように、そう言った。先導チームも、安全に道を案内しているわけではない。時に発生する戦闘音が、その先で何が起きているのかを如実に想起させた。そうして戻ってくるたびに、彼らに少しずつ、傷が増えていく。
 本当ならば、すぐにでも援護に向かいたい所だろう。だが、自分たちはハールに到達するまで、その刃を少しでも刃こぼれさせてはならないのだ。
「その苛立ちは……ハールにぶつけるしかないだろうね」
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)が言う。今はまだ、力をため込んでおくしかない。その力を発揮する相手は、彼の第二王女だ。
「ハール……第二王女、か」
 静かに呟くのは、ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)だ。その表情は、普段と変わらぬ冷静さを保ったものであったが、僅かな表情との変化と言う物を、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は、見逃さなかったのかもしれない。
「複雑……でありますか?」
 そう尋ねる。
「相手はエインヘリアル……その王族。ボクは叛逆した身でありますし、色々な事情はありますが……そう考えてしまう気持ちも、分かるのでありますよ」
 エインヘリアルとヴァルキュリア、因縁のような関係性があるものだ。ファルゼンは、息を吐くように、うん、と頷くと。
「複雑……そうなのかもしれない。でも、心配はしないで。手心を加えるつもりは、ないから」
 その言葉に、仲間達は頷く。ハールは、揺れる心のまま相対しても、勝てる相手ではないだろう。
 相手は、そう言う存在であるのだから。
 如何な因縁があろうとも――ここで、確実に仕留める。
 その点において、チームの意見は一致していた。
 幾度目かの戦い――それが前方で行われている。ただ、見て、待つだけの、辛い時間が過ぎていく。
 実際には、どれだけの時間がたったのだろうか? 待つだけの身と言うのは苦しい。だが、ケルベロス達は、待った。傷つき、戻ってくる仲間達に、ただ敬意と感謝の意を投げかけながら。
 その長い均衡が、僅かながら、崩れる時が来た。
「もう、限界だろうな……」
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が、悔しげにうめいた。
 戻って来る仲間達、その傷はついに限界を超えているように見えた。苦し気に息を吐くものや、その背を壁に預ける者もいる。
「ここまでだろう。彼らを撤退させて、ここからは私達だけで進むしかない」
 ジークリットの言葉に、仲間達は頷いた。誰の目から見ても、彼らの限界は見えていた。このまま無事に撤退させて、残る3チームだけで進む――。
 と、その時、新たなる敵影の接近を告げる足音が、高らかに響いていた。
 そうして、先導チームが、言ったのだ。
 ここは任せろ、と。
 行け! と。
「皆……!」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が声をあげる。
「……行きましょう」
 イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は、言った。
 悲愴な声ではあったが、その胸には確かな決意を秘めていた。
「ここで、今までの仲間たちの働きを無に還すわけにはいきません。彼らの活躍に答えるためにも、今は」
 行きましょう、と。
 だから、リリエッタも、頷いた。
「わかった。皆のために……行こう」
 3チームのケルベロス達は駆けだした! 目的のみをその目に映して!
 仲間達を鼓舞するかのように、激しい戦闘音が、背後から響いていた――。

●ハール
 ケルベロス達は3チームの内1チームを再び先導とし、消耗を可能な限り避けながら進んで行く。
 だが、他の戦場に向った仲間達の活躍による物だろう、その数、増援は目に見えて減っていき、僅かな戦闘のみで、先に進むことができていた。
 再びの、待ちの時――だが、その時はついに、報われることとなる。
 果たしてケルベロス達の目の前に、その者はいた。
 無数の騎士たちに護られた、王女の姿がそこに在った。
 第二王女、ハール。
「馬鹿な」
 ハールが小さく、うめいた。
「こんな所まで……侵入されたのですか!? 不甲斐ないッ……配下たちは……アルキタスの援護は!? 何をやっているのですッ!」
「見つけた、ハールッ!」
 ローレライが叫ぶ――それを合図にしたように、両陣営は一斉に動いた。フェーミナ騎士たちがハールを守る様に防御を厚くするのへ、2チームのケルベロス達がそれをこじ開ける!
「突破するよ! 目標は、ハールだ!」
 瑠璃が叫んだ。先陣切って飛び出したのは、リリエッタだ!
「ハール……さんざん悪さされたけど、今ここで決着をつけるよ!」
 くるり、と二丁の拳銃――『銃身改造デスバイリボルバー』と、『LC-X4 Type HANDGUN』から、気咬の弾丸が放たれた! 食らいつくその銃弾を、ハールはとっさにルーンを描き、障壁なものを展開して受け止める。走る衝撃に、ハールは顔をしかめた。
「不敬な……あなたたちの目の前に立っているのを、誰だと思っているのです!」
 ハールは叫んだ。
「恐れ多くも、エインヘリアルの第二王女――そしてやがては女王となるハール! あなたたち如き、触れることすら叶わぬ存在なのですよッ!」
 それは、苛立ちと共に、自分に言い聞かせるような言葉だった。追い詰められている――確かなその現実を、否定するかのような思いの言葉だった。
「銀天剣、イリス・フルーリア――――参ります!」
 しゅっ、と『冽刀「風冴一閃」』を突きつけて、イリスは静かに声をあげる。駆けだした。狙うは一刀、最初から加減はせぬ。放つは必殺、銀天剣・弐の斬!
「光よ、かの敵を縫い止める針と成せ!」
 振るわれた刃から、放たれる巨大な針――それが地を縫い付けるように要塞の床に突き刺さり、そこから放たれた鎖が、ハールの足をからめとる!
「――ッ!」
 ハールが息を呑む――捉えた。
「逃がしはしませんッ! ここまでの悪事、その報いを――」
「この程度で! 私を縛れるとは思わないでくださいッ!」
 素早く描くルーンが、鎖を破壊する光を放つ――身軽となったハール、しかしそこにはすでに、ジークリットが接敵している。
「お初にお目にかかる。我が名はジークリット・ヴォルフガング。騎士として、剣士として手合わせ願おう……ッ!」
「騎士……騎士……どうしてお前達と言うのは、誰も彼もそうなのですッ!」
 ジークリットが放つ、構造弱点を貫く一撃が、ハールの展開していたルーンの防壁を破壊した。ハールは忌々し気にルーンを描くと、反撃のグラビティの奔流がケルベロス達を打ち据える。
「騎士だというのなら、首を垂れなさい。私は第二王女、ハールであるのですから」
 絶対的な自信――オーディンを展開できぬほどに弱体化しておきながらも、ハールの戦闘能力は圧倒的であった。
「だとしても……僕たちは負けるわけにはいかない」
 瑠璃が立ち上がり、そう宣言する。その背中には、太古の月の如き輝きが満ちていて、仲間達に次々と降り注いでいた。
「ここまで来るために、傷ついた仲間達のために……そして、僕たちの後に続く仲間達のために! 可能な限りのことは、やらせてもらうよ」
「――♪」
 静かに歌われる、『「寂寞の調べ」』――ファルゼンの歌声が、仲間達の傷を癒す。
「耳障りな――!」
 ハールが再び、破滅のルーンを描く――解き放たれるグラビティの奔流が、ケルベロス達を薙いだ。しかし、ファルゼンは歌う――かき消されぬよう、吹き飛ばされぬように! その爆風をこらえながら、ボクスドラゴン『フレイヤ』もまた、懸命に自身の属性を、仲間達に分け与え続けた!
「ハール! 覚悟するであります!」
 爆風にそのマントを翻らせ、クリームヒルトはドラゴニックハンマーを変形させて、竜砲弾をぶち込む。放たれた砲弾は要塞の床を引きはがしながらハールに到達、とっさに展開したルーンの防壁が、かろうじての直撃を回避する。
「ヴァルキュリアですか……! 配下に恵まれませんね、私も!」
「上司に恵まれなかったのは、此方のセリフでありますよッ!」
 クリームヒルトが再度の竜砲弾を撃ち放つ――合わせて、テレビウム『フリズスキャールヴ』は、主たちを援護するように懸命に、応援動画を配信し続けた。その動画の声援にのせて、竜砲弾が再度ハールへと着弾――ハールは舌打ちしつつ、跳躍、回避。
「アビス様!」
「了解だよ」
 クリームヒルトの叫びに、アビスだ。ボクスドラゴン『コキュートス』の属性インストールを背に受けて、『abs-hail』から追跡の矢を放つ。
「……それじゃあいい加減、表舞台から退場してもらうよ、ハール」
 放たれた矢が、ハールの右手を強かに叩いた。痛みに顔をしかめるハールに、アビスは、
「ガラスの女王、という訳だね。カンギにも見捨てられて、お前はここで果てるんだ」
「カンギ……あのような無能がどうしたというのです」
 吐き捨てるように、ハールは言った。
「エインヘリアルと攻性植物の同盟には、私が必要……にも拘らず、私をこのような前線地に追いやる愚劣さ! 度し難いとはこのことです!」
「我は貴殿を、レリと同じく、誇り高い騎士だと思っていた」
 ローレライが声をあげて、『An die Freude』の砲塔を、ハールへと向ける。
「騎士ならば潔く、己の信をかけて戦うべきだ!」
 同時に打ち放つ、キャノン砲の一斉射。シュテルネも顔面のテレビから閃光を放って、ハールを狙う。それらはハールの展開した障壁と相殺して、次々と爆発が起こる!
「私は騎士ではありません、王女であるのです! レリなどと同一に見るとは……!」
 ハールが放つ、破壊のルーンの奔流が、ケルベロス達を襲った。次々とケルベロス達の身体を焼いていく、そのグラビティ。
「……その程度で倒れるとでも? こっちも、そう簡単に負けてやるつもりは無いんでね……!」
 とはいえ、そろそろこちらも限界か……。アビスは胸中で呟く。
 脱落した仲間達はいなかったが、その分傷は深い。このまま壊滅するよりは後方に下がり、援護に徹した方がいいだろう。ちょうど近くには、別チームの仲間達がいる。
「ごめん、後退させてもらうよ」
 仲間達、そして別チームの仲間達へと告げるため、アビスは声をあげた。
「交代だ。任せておけ」
 別チームの仲間から声がかかり、同時に、ケルベロス達は一斉にハールの前から退く。
 距離は、遠くなった。
 しかし、討伐までの道のりは、確実に近づいていた。

●戦いの終わり
 フェーミナ騎士たちから振るわれた刃。がぎり、と音を立てて、クリームヒルトの盾に食い込んだ。
「てやぁっ!」
 クリームヒルトが盾でフェーミナ騎士の剣を弾き飛ばし、ケルベロスチェインを使って激しく打ち据える。フェーミナ騎士はそのまま地に倒れ伏した。
「ハールの前からは退いた――けれど、戦いはまだ終わりじゃない」
 リリエッタが声をあげつつ、二丁拳銃から跳弾の銃撃を撃ち放つ。襲い来る銃弾に、たまらず足を止めたフェーミナ騎士。
「ジーク」
「任せろ、リリ」
 その騎士へと、とどめを見舞ったのは、ジークリットだ。放たれたアームドフォートの一撃が、フェーミナ騎士を吹き飛ばし、昏倒させる。
「そうだとも。あそこで戦っている仲間達のため……今度は私達が、援護に徹する番だ」
 ジークリットの言葉に、仲間達は頷いた。
 ハールが、着実に追い詰められていっているのは、分かった。とは言え、それも仲間達が、ハールとの闘いに注力できるからこその、危うい綱渡りだ。
 ハールとの闘い、その戦場に、一兵たりとも増援を送ってはならない。
「傷は、僕たちで癒すよ」
 瑠璃が言う。その輝く月光の如き光は、些かも衰えることなく、仲間達を癒し続けていた。
「だから――この戦い、必ず勝とう!」
「かわきをみたせ たらぬみをみたせ そは みたしのあめぞ」
 頷くように、精神集中の詠唱を唱えるファルゼン――降り注ぐ『みたし の あめ』が、仲間達から魔を取り除き、立ち上がる活力を生み出す。
「さぁ、もうひと頑張りだ! 行くぞ、皆!」
 凛々しく――ローレライが叫んだ。応! 仲間達が頷き、一歩を踏み出す。勝利へ近づくために。勝利を勝ち取るために。
 数度の打ち合い。幾度ものグラビティの応酬。やがてその数は少しずつ、確実に少なくなっていた。フェーミナ騎士団は徐々に壊滅の兆しを見せ、ハールは別チームによって追い込まれていく。
「最後まで、気を抜いてはいけませんよ!」
 イリスがが斬撃を繰り出す――フェーミナ騎士が一人、倒れ伏した。何人と対峙したか。何人を倒したか。どれほどの時間――それすらも曖昧になっていくまま、しかし戦う力だけは衰えない。
「もう一息……あと一歩のところまで来てるんだ。だから――!」
 アビスが放つのは、仲間達の力を鼓舞する、背後の爆発だ。その爆発に背を押されるように、仲間達は最後の攻撃に出る。
 リリエッタの銃撃に、ジークリットのフォートレスキャノンの砲弾がのせられて、騎士を吹き飛ばした。
 イリスの刃が騎士の剣を斬り飛ばし、ローレライのキャノン砲がとどめをお見舞いする。
 クリームヒルトは、その盾を以って敵の攻撃を受け止め続けた。瑠璃が、ファルゼンが、アビスが、仲間達を踏みとどまらせるべく回復を重ね続ける。
 そんな中――。
 勝どきの声が上がった。
 その方を見れば。
 ハールが。
 その姿を光の中へと、消していく。
「勝った……」
 と。
 誰かが呟いた。
 誰の呟きだったのか。それは呟いた本人にすら、分からなかっただろう。
 だが――。
 ケルベロス達が勝利した。
 それだけは、事実であった。
 そして、その呟きは。
 やがて歓声へと、変わっていったのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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