大阪地下潜入作戦~選ぶべき道

作者:八幡

「エインヘリアル本星に繋がるアスガルドゲートの探索が始まったんだよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)は意気揚々と話を始める。
 先の戦いでケルベロスたちは第九王子サフィーロとの決戦に勝利し、ブレイザブリクを完全に支配下に入れたことで、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が開始された。
 ゲートの探索。それは大いなる前進……だけれどと、透子は声色を下げる。
「エインヘリアルが、この状況を黙って見ているはずはないんだよ」
 当然こちらの前進は向こうにとっては脅威である。それを座して待つなどありえないことだろう。
 また、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)などの報告で、ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という情報もあり……エインヘリアルがブレイザブリクを奪取する為の軍勢を起こすのは間違いないだろう。
「それに、大阪城方面の情報を収集していた、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんから大阪城の攻性植物勢力が、軍勢を整えて侵攻の準備をしているって報告があったんだよ」
 さらに報告ではエインヘリアルのブレイザブリク侵攻に合わせて、大阪城からも侵攻を行う合同作戦が行われる危険性が高いという。
 それは大阪城のハール王女が、ホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣するなどの工作も行っていたことなどからも想像できることだろう。
 このままでは二方面からの敵に対処しなくてはいけなくなるが……、
「でもね! たくさんのケルベロスたちの調査で、大阪城側の準備がまだ整っていないことが判ったんだよ! だからみんなには複数のルートから大阪城勢力に攻撃を仕掛けて、エインヘリアルとの連携をとれないようにして欲しいんだよ!」
 透子は言う。大阪城側にはまだ付け入る隙があると。準備が整う前に仕掛ければ目はあると。

 付け入る隙があるのならば付かない手はない。
 自分の話を聞いていたケルベロスたちに大きく頷いてから透子は話を続ける。
「大阪城の勢力は、プラントワーム・ツーテール事件で確認された地下拠点で侵攻準備を行ってるみたいだから……これを叩いて、侵攻準備を遅らせるんだよ!」
 単純に侵攻準備をしているところを叩けば相手の出鼻をくじくことができる。
 また、この大阪城地下への攻撃は、別のチームが攻撃するハール王女に対する大阪城からの増援を阻止するという意味もあり、重要な作戦といえるだろう。
 作戦の本命は、要塞拠点のハール王女の撃破となるが、王女の撃破に失敗しても、破壊活動が成功していれば、エインヘリアルと攻性植物の共同作戦の実施を遅らせる事が可能になるからだ。
「……ただ、この侵入作戦は敵拠点を叩く作戦だから、あまり深入りしすぎると帰って来れなくなっちゃうかもしれないんだよ。だから気を付けてね!」
 敵陣に深く踏み込めばそれだけ帰還は困難になる。当たり前の話だが、その当たり前を踏まえた上で、撤退可能な範囲を考えつつ有力な情報を得たり大阪城勢力に更なる打撃を与えることが出来れば、大成功と言えるだろう。

「敵と拠点の情報についてだけど、沢山のケルベロスたちから情報があって……こんな感じになっているから読んでおいてね!」
 作戦の方針を説明し終えた透子は、概要について書かれたメモ用紙をケルベロスたちに配る。
 内容は以下のようになっていた。

『(1)ドラゴン勢力』
 定命化で弱っていたドラゴン達は、現時点でも完全な回復には至っていない。
 しかし、攻性植物の力を取り入れ、今回の侵攻作戦に加わるべく準備を進めている。

『(2)ダモクレス勢力』
 前線の要塞にも戦力を送っているので、戦力を集中させれば、ジュモーと直接戦って撃破するチャンスもあるかもしれない。
 大阪城に集まった多くの勢力の技術を利用したダモクレスの開発を行っており、前線に配備されている。

『(3)螺旋忍軍』
 残党の螺旋忍軍が、屍隷兵技術、ダモクレスの機械化技術、攻性植物の寄生技術などを利用して、螺旋忍軍の復興を目指している。

『(4)レプリゼンタ・ロキ』
 ロキ側にケルベロスと命がけで戦う理由が無い為、一定以上の戦力で接触した場合、戦闘になる前に撤退していく可能性が高い。

『(5)レプリゼンタ・カンギ』
 レプリゼンタ・カンギを撃破する方法についてはガネーシャパズルが大きな役割を果たすと分かっているが、護衛を務めるカンギ戦士団は精強で、今回の撃破は難しい。
 だが少なくとも、カンギを長時間足止めする事ができれば、他のチームの援護になる。

『(6)ドリームイーター』
 ドリームイーターは勢力としては壊滅しているが、大阪城にはパッチワークの魔女の勢力が合流して生き延びている。

『(7)攻性植物ゲート』
 かつての大阪城ユグドラシル地下での戦いで大体の位置は判明しているものの、他種族も受け入れ数年を経て、大幅に地形が変わっている可能性も予想さる。
 ゲート周辺は、厳重な警備が敷かれている筈だが、多くの戦力を投入する事で、警備網を突破して、ゲートの位置を特定する手掛かりが得られるかもしれない。

『(8)堕神計画について』
 リザレクトジェネシスで、死神のネレイデスが画策していた『堕神計画』を利用して、攻性植物が『十二創神』に関する何かを手に入れた可能性がある。
 調査によれば、聖王女に替わる何かである可能性もあるだが……。
 ある程度会話が通じる少女型の攻性植物が護衛として配置されているようだ。

『(9)大阪湾について』
 攻性植物が大阪湾から瀬戸内海に出る可能性について指摘されている。
 大阪城地下から、瀬戸内海の海底に向けて、何か工作が行われているのならば、その早期発見が必要かもしれない。

 メモ用紙を読み終わった様子のケルベロスたちを、透子は真っすぐに見つめて、
「みんなが頑張ってくれたおかげで、大阪城に潜入できる……だから、絶対この作戦を成功させて欲しいんだよ!」
 あとのことを託すように、両の拳をぐっと握りしめたのだった。


参加者
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
浜本・英世(ドクター風・e34862)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)

■リプレイ

 ひたりひたりと、息を殺しながら薄暗い穴蔵を進む。
 否、穴蔵……と言うと少し語弊があるだろうか。
 何故なら、この穴蔵は上下左右を緑色の植物に囲まれ、ご丁寧にも視界を確保できる程度の明るさまで用意されているのだから。
「それにしても随分とあっさり入れたわね-」
 充満する緑と土の匂いにどこか懐かしいものを感じつつ、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)は自分たちが通ってきた道を振り返る。
 それから振り返った先……どこまでも続く上り坂に、白い狼の耳を立てて何かを聞き取ろうとするも、その先には動くものの気配すらない。
 何の気配もない穴蔵の様子に、いくらなんでも簡単すぎやしないかしら? と、小首を傾げながら、えにかが再び進行方向へ目を向ければ、
「HAHAHA、忍ぶ必要も無かったでござるな」
 もともと忍ぶ気など無さそうな螺旋忍者こと、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)の石榴石を思わせる目と視線が合う。
 しかしそれも一瞬のこと。一見朗らかに笑っている表情とは裏腹に、油断なく周囲を見回すカテリーナの視線はトンネルの遥か先に向けられたからだ。
「うん。でも……こんなに簡単に入れるなんて、罠かも……」
 そんなカテリーナの視線を追うように、トンネルのあちこちを見つめつつ、夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)は呟く。
 あっさり侵入できたとは言えここは敵の本拠地……これが罠である可能性も……ぞっとしない想像に、璃音は青空と霧を思わせる翼を小さく揺らす。
「その可能性あるね。あとは、連合軍の欠点と言う線かな」
 ついつい後ろ向きに考えてしまいがちな璃音の考えを肯定しながらも、浜本・英世(ドクター風・e34862)は、より現実的な可能性を示す。
「欠点?」
 はてと首を傾げる璃音とえにかを見つめ、英世は顎に手を置く。どう言葉を選べば判り易いかを考えているのだろう。
「本来相容れない勢力を一つの場所に集めた状況を考えれば判るかな?」
「それぞれで固まっちゃう……かな?」
 藍色の目を伏し、リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)は考える。
 絶対的な一つの目標があってこその連合。だがそれを成し、維持するのが困難なことは容易に想像できるだろう。ましてや水と油どころか、象と猿に竜まで混ぜている状況なのだから。
 ぞれぞれの軍がどれだけ強かろうと、それらを巧く混ぜ合わせなければ綻びは生まれてしまう。
 そう考えると、あっさりと侵入を許してしまうようなずさんな防衛網についても説明がつくように思えた。
 目を上げてちらりと英世を見やれば、眼鏡の奥に見える眼が正解と告げるように僅かに細められ、
「まさに穴だらけでござるな」
 カテリーナは上手いことを言ってやったと言わんばかりに胸を張っていたのだった。

「暫くはこのまま続きそうだな」
 後ろの方で何やらわちゃわちゃしているのを背に、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は念のために暗視ゴーグルで前方を確認する。
 敵勢力下とは言え、常に気を張っていたのでは身が持たない。抜けるところは抜いておいた方が良いだろう。
「ああ、大阪湾まで距離もあるからな」
 晟の言葉に、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は頷く。
 方向と歩行距離から把握できる自分たちの位置を考えれば、目的地である……敵勢力が居ると思われる大阪湾までは結構な距離がある。
 念のため二重に位置確認を行っている英世へ目を配れば、彼もまた頷き、同じ見解であることを示す。
 言葉少なく意思疎通を行っている男たちに、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は防水小型カメラを向ける。瑛華としては道中の様子も撮影しておけば後あと何かの資料になるかもしれないと考えているのだが……、
「まだ時間がかかるのであれば荷物もありますし、小休止を挟むのも良いでしょうか」
 今のところ撮れている絵は穴倉の様子と、真面目なやり取りに紛れてしれっと、気付かれないように璃音の小物入れに自分の荷物を詰め込もうとしていた陣内の姿くらいだろう。
 アイテムポケット付きとは言え人の小物入れに荷物を突っ込もうとする。そんな陣内に瑛華が小さく頭を振れば、背中にまとめた艶やかな銀髪がゆらゆらと揺れて、
「このくらい何ともないだろう」
「頼もしいです」
 黒い尻尾をぴんと立たせてから、ゆれゆらと同じような速度で揺らしつつ陣内が答えれば、瑛華は口元を緩める。
「さて、気を抜かずに進むとしようか」
 そして少し先を歩いていた晟が招くと、瑛華たちはこくりと頷いて――蒼く大きな背中を追うのだった。

 ぴちゃりぴちゃりと、トンネルを進む。
 大阪城から離れている影響だろうか……緑色の植物はまばらになり、地面の色が目立つようになってきた。
「これ……海水だよ」
 そして何よりも変わった点と言えば、多量の水を含んだ土だろう。何故水を含んでいるのかと、壁から染み出す水を指でなぞったリューインは、その水の正体に気が付く。
「そういえば大阪城の辺りは大昔は海だったらしいね」
 海水と聞いて、ふと思い出したかのように英世は言う。
 この土が海水を含んでいる理由は大昔に海だったからと言う訳ではないだろうし、海が近ければ海水が染み出してくることもあるが……果たして、これはそのせいだろうかと英世は考え込む。
(「……ドラゴンも気になるけど、他にも気になることはいっぱいある……」)
 考え込んでいる英世の横。彼の口から出た大阪城という言葉に、璃音はかすかに肩を震わせる。
 大阪城に居るドラゴン。もしかすると、今回はドラゴンを討つ機会だったのかもしれない……あるいは戦力を集中させれば……脳裏をよぎったそんな考えを振り払うように璃音は首を振って、正面を見据える。
 ここにドラゴンは居ないのだ。今自分たちがすべきことに尽力しようと。
「海か……攻性植物が海中を拠点として利用するとは考えにくい。ならば目的はその先にある陸上だろうか」
 璃音が見据えた先にある大岩の如き巨体。その巨体の持ち主たる晟は慎重に歩を進めながらも、攻性植物の目的について考えてみる。
 こうしている間にも周囲の緑色は徐々に消えている。と言うことは、海中にまで根を伸ばして拠点にするわけではなさそうだ。
「淡路島か、瀬戸内海に隣接する県にある何かか……」
 そうなると海を抜けた先に何らかの目的があるのかもしれないが、
「分からないことだらけだよね……」
 後ろから聞こえた声に晟が振り返ると、璃音が両手を胸元に重ね、悩まし気に眉を寄せていた。
「ああ、そうだな。分からない。だから調べるしかないな」
 晟は璃音の様子に、少し気まずそうに頭をかいてから……分からないから調べるのだと力強く言い放つ。そのために自分たちはここに居るのだからと。
「そう、だね」
 頭上から覗く蒼玉の瞳に、璃音は目を細めるのだった。

 かつんかつんと、トンネルを進む。
「随分と人工的になってきたでござるな」
 緑色の部分は消え去り、代わりに人工的に加工され始めた壁に手を置いて、カテリーナは何か仕掛けが無いかを探る。
「歩きやすくなってきたのは良いのですが、いよいよ敵が近いのでしょうか」
 カテリーナの様子に気づいた瑛華は、どうですか? と声をかけながらその様子を撮影する。地面などが整備されているということは、この場所まで何者かが来る可能性は高いと言えるだろう。
「敵が海へ向かう工作を進める間にどんなものを掘り当てていてもおかしくはない。慎重に行こうか」
 それに地下にあった何かを掘り当てている可能性もあるのだ。向けられたカメラに手を振るカテリーナごしに、トンネルの奥へと目を向けた英世が言えば、
「ええ、確かにそうです。さて、何が出てきますかね。出来れば陸、こちらのフィールドで戦いたいものです」
 瑛華は小さく頷く。
 海で何かをするつもりなら、敵は海に適した存在の可能性が高い。ならば、できれば自分たちのフィールドの方が戦いやすい。例え気分の問題であってもだ。それに、
(「地下から繋がっている海はきっと、寒くて、暗いでしょうから」)
 暗い昏い、海の底。凍えるような水の中。何処かに似たそれを想い、瑛華は目を伏せた。
「水中適正の敵っていうと何かしら。水草からメカに何でもいそう」
 愁いを帯びた瑛華の様子に、小首を傾げつつえにかは心当たりのあるデウスエクスは……と思い出してみるが、あまりにも思い当たるデウスエクスが多すぎた。
「それにしても、随分と大掛かりな工事をしているわね」
 記憶から敵を想定するのは難しそうだとあっさり諦めたえにかは、今度は周りを見回して――、
「あれ? 向こうの方が光ってない?」
 進行方向から少し横にずれた場所に妙な輝きを発見したのだった。

 輝きの正体は、水面に反射する光だった。
「これは……大きな水たまり? かな?」
 水たまりと言うよりは池に近いだろうか、リューインはその水たまりを前に唸る。
 唸るリューインの横で片膝をついて、陣内がその水面を覗き込めば、
「水底に貝と魚がいるな」
 水の底に見慣れた生物がいることに気づく。
 それから陣内がどこどこ? と並んで覗き込んできたえにかに、指で貝などの居場所を教えてやってから立ち上がると、
「化石、じゃないよね?」
 それを待っていたようにリューインが問いかけてみる。先刻、英世が昔の話をしていたのが引っ掛かったのかもしれない。
「間違いなく生きているな」
 リューインの問いに陣内ははっきりと答える。このトンネルの中に生きた貝や魚が、しかも見慣れているものがいる理由など考えるまでも無いだろう。
「大阪城地下から大阪湾まで掘りぬく地下トンネルが存在するということだね」
 大阪湾から流れ込んできたのだ。
 そして、大阪湾から流れ込んできたのならば、そこまでの地下トンネルが存在するはずである。
「その規模と、トンネルを掘った理由が知りたいが……」
 自分を見上げるリューインに頷いてから、陣内は周囲を見直す。
 理由が分かれば相手の目的を潰すことができるかもしれないし、規模が分かればトンネル自体に何か細工ができるかもしれない。
「進んでみるしかなさそうだな」
 だが、いずれにしてもこの場所では何もできない。陣内は大きく息を吸い込むと……トンネルの先へと目を向けるのだった。

 徐々に広く、整備されていくトンネルを進むと、開けた空間が見えてくる。
 ゆっくりと慎重に歩みを進めれば、徐々に空間の全容が見えてきて――、
「着いたようだな」
 トンネルと空間の狭間に立ったところで、晟は足を止める。
 眼前に広がるのは海沿いのコンテナエリアのような光景……とでも言えばいいだろうか。
 大小さまざまな機械的物質が規則的に並び、その向こうには海が……否、正確にいうならば巨大な地底湖が広がっていた。
「はー、よくこんなもの作ったわねー」
 地下の秘密基地とはこうあるべきを再現したかのようなこの場所に、えにかは感心したような、それでいて呆れたような感想を漏らす。
 掘るだけじゃすまない大掛かりな工事をしているとは思っていたが、大掛かりどころではなかったようだ。
「あれは、ビックホエールでしょうか?」
 そして、地底湖に浮かぶ鯨のような戦艦に瑛華は目を凝らし、
「ここからではよく見えないでござるな。近づいてみるでござるか?」
 カテリーナも目の上に掌をかざして凝視してみるが、分かるのはあれがビックホエールっぽい何かであることくらいだ。
「そうだな。回り込みながら近づいてみよう」
 ここからで分からないのならば近づくしかない。晟がカテリーナに頷くと、一行は慎重に移動し始めた。

「『B01N96』と読めるね」
 コンテナに隠れつつ、ある程度近付いたところで英世はビックホエールの胴体に書かれた文字を読む。
「内部で色々やってるみたいだよ」
「怪しいね」
 そして、英世の横から顔を出してリューインもビックホエールに目を向け、璃音はカメラで映す。
 ビックホエール内部では、ドリルの腕を持つダモクレスがあちこちで何らかの作業をしているようだが……流石に何をしているのかまでは分からない。
 あと少しだけ近づければ、それも分かりそうだがと、英世とリューインが顔を見合わせた次の瞬間、不愉快な音が周囲に鳴り響く。
「警報!?」
 そして同時に眩いばかりの照明が一斉にケルベロスたちに向く。
「気づかれたか」
 確かめるまでもないこの状況に陣内は小さく息を吐く。そして、照明の向こう側、ビッグホエールの近くに金色の髪を持つ船長のようなダモクレスの姿を見つける。
 あれが指揮を執っているのだろう。こちらを指さすと同時に、ドリルを持ったダモクレスたちが一斉に近づいてきて、
「あの数は……無理だよ! 退こう!」
 その数を見た璃音は迷わず撤退を宣言する。璃音の判断は正しい、敵の数は多く八人でどうにかなる数ではない。問題はどこに逃げるのかだが――、
「今の時期の大阪湾ってどんなのがいるんだろ」
 ふむと自分の顎を撫でてから陣内は晟にそんなことを問うてみる。
「チヌとかだな」
 敵の動きから目を離さずに、晟は陣内の問いに答え、
「ついでだから捕まえてくか」
 陣内は海の方をじっと見つめる。
「そいつは名案だ」
 敵はコンテナの方から近づいてくる。ならば逆側、海に逃げるのが最も確実な逃走経路だろう。
「HAHAHA、ドロンでござるな!」
「準備してきて正解でしたね」
 陣内が言わんとしていることを察した、晟が目の前のコンテナに体当たりをすると同時にカテリーナと瑛華が海に飛び込む。
「ついで敵が空けた穴を見てくるとしよう」
 ごろんと大きな音を立てて転がったコンテナに、反撃の意思があるのかとダモクレスたちの足がほんの少し緩み、その間に英世とえにかも飛び込む。
「ほら急ぐぞ」
 そして最後に陣内たちが海中に身を躍らせて――一行は、ダモクレスが作った瀬戸内海側の出口を通って撤退したのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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