吹き抜ける風に華やかな香りが交じる。
それに誘われるよう視界をめぐらせれば、見えるのは彩り豊かな花々だった。
気品のある芳香を鮮やかな色から生むのは、開いたばかりの紅薔薇。仄かに甘い匂いに、爽やかさを混じえるのは白薔薇。
歩めば碧に紫、橙に黄色と、グラデーションを為す花が望めるそこは──薔薇園。石畳の散歩道から見える美しい景色を人々がのんびりと眺めて愉しんでいる。
園内にはカフェもあり、薔薇を使ったケーキにクッキー、ショコラにソフトクリーム、ローズティーと豊富な品が人気。
併設されている売店も、花弁を使ったジャムにシロップ、花飾りに香水とお土産も数多く。味に薫りにと、多くの人が訪れて賑わいを成していた。
けれど──そんな色彩の園に踏み入る、招かれざる咎人が一人。
「右にも左にも、命。最高だ。狩られるのを待ってる命が、ここには犇めいてやがる」
それは獰猛な嗤いに喜色を滲ませる、鎧兜の巨躯──エインヘリアル。鋼の塊の如き大剣を抜くと、人々を見下ろしながら高々と振り上げていた。
「全て、俺のもんだ」
そして言葉と共に躊躇なく、刃を振り下ろす。
悲鳴が劈けば、それすら快さげに。哄笑を響かす罪人は人々の命諸共、咲き誇る花々までもを裂き潰していった。
「集まって頂きありがとうございます」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのは、エインヘリアルです」
市中に彩りを添える、薔薇園があるのだが──そこへ踏み入り人々を狙うようだ。
現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
「これを放置しておけば人々の命が危険です。現場に向かい、撃破をお願いしますね」
戦場は園内に伸びる散歩道。
花の景色の中ではあるが、その道自体は幅もあって広いので、戦いには苦労しないだろう。
「今回は警察の協力で人々も事前に避難します。こちらが到着する頃には皆が逃げ終わっていることでしょう」
こちらは到着後、戦いに集中すればいいと言った。
「それによって景観の被害も抑えられるはずです。なので、無事勝利できた暁には──皆さんも園内で過ごしていってはいかがでしょうか?」
色とりどりの花を眺められるばかりでなく、カフェや薔薇を使った製品を売っているところもある。甘味にお土産にと、様々な形で薔薇を楽しめるだろう。
「そんな憩いの為にも──ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」
参加者 | |
---|---|
ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243) |
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529) |
ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527) |
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400) |
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547) |
●花の道
深い紅に清廉な白、園に咲き誇る花が晩春の風に揺れる。
さらさらと耳を撫ぜる音と共に、気品のある香りも漂って。ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)は快さげに見回していた。
「綺麗なお花畑ですね」
「ああ、どこを見ても華やかなものだ。見ていて飽きないな」
と、緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)も瞳を巡らせる。優しい涼しさの吹き抜ける眺めは、五感に心地良くて。
リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)もそっと頷き花を見つめていた。
「私、薔薇は大好きですよ」
綺麗ですから、と。
素直な声音で言えば、ネフティメスも同じ心で肯く。
「後で見て回りたいですし、何よりお花達のために──守らないといけませんね」
そう言いながら、視線を遣る道の先。
そこに地を踏みしめて歩み入ってくる巨躯の姿が見えていた。
鎧兜の罪人、エインヘリアル。
その獣じみた眼光に、リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は仄かに目を伏せる。
「たまにはお花が好きなエインヘリアルが居たっていいと思うのだけど……でもきっと、そうじゃないから罪人になんてなっちゃうのね」
声音に憂いはある、故にこそ戦う気持ちに変わりなく。
「ムスターシュ、今日もがんばろね!」
リュシエンヌの言葉に翼猫が元気よく鳴けば、それを狼煙とするよう、結衣も獄炎の剣を握りしめていた。
「では、花々を傷つける前に手早く片づけよう」
「──そうだね」
行こうか、と。
星彩の髪を靡かせて、戦いの間合いへ奔るのはラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)。
風に残す声音は涼やかに、一瞬後に敵を見据える視線は鋭利に。跳びながら靴に月光の軌跡を描かせ、苛烈な蹴撃を叩き込んでいた。
罪人は後退しながらも、此方を見て笑みを作る。
「……、はっ、やっと見つけたぜ。狩られるのを待つ命をよ」
「その命とは──どちらのことだろうな」
と、巨躯の視界に炎が滾った。
結衣が蛇腹の刃を伸ばし、燃ゆる剣閃を描いて罪人を穿っていた。
「理解できないなら、エインヘリアルには余程学習能力が無いらしい。捨て石ならまだ役割もあるが、それすらもない塵は排除されて終わるだけなのだからな」
「……っ!」
驚きを浮かべる罪人へ、結衣は刃伝いに轟炎を送り込み──体内で炸裂させて。烈しい爆炎で臓物を灼いていく。
よろめく巨躯へ、結衣は見下す視線を隠しもしなかった。
「いっその事お前たちで列を作って待っていてくれないか。順番に消してやるよ」
「……侮辱してくれやがる!」
投げ捨てられた言葉に、罪人は忿怒の焔風を返してくる、が。
「大丈夫、これくらいなら」
直後、前衛を襲う熱量が声と共に六花の結晶に冷まされてゆく。
宙に冷気を踊らせて、氷の煌めきを瞬かせるのはラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)。
剣先で星座を描くことで、冬の夜空の冷たさを呼び込んで。皆を蝕む炎熱を癒やしながら護りも与えていた。
「じゃあ次を」
と、目を向ける先は同じ戦場を重ねる仲間──リュシエンヌ、そしてキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)。
リュシエンヌが応じて治癒の魔法円を描くと、キリクライシャもふわりと翼を撓らせて。
「……照らして」
微風に溶ける声音で『陽光の珠』──太陽から雫を零すように。明るい浄化の光を仲間へ与えて後方に護りを広げていく。
時を同じく、七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)は腕を靭やかに広げ、花吹雪のように小型機を宙へ舞わせていた。
清らかな花風が前衛を包めば防護が向上すると共に体力も万全。
「これで皆、平気よ」
「ああ、助かった」
応えた結衣は既に攻勢。刃を曲げて巨躯を縛り付けている。
するとその好機を汲み取ったネフティメスも炎雷の刃を赫かせていた。
「合わせますっ!」
瞬間、奔らせた剣先で罪人を突き上げると、そのまま大きく振り回して。結衣の力も借りて巨躯を地へと叩き付ける。
罪人は唸りながらも間合いを取ろうと這い上がる、が。
蒼の髪を優美に棚引かせ、リンネが高々と跳躍していた。
「行きますよ氷雪。サポートは任せますからね」
ちらりと横に言えば、羽ばたく翼猫が風を送り、中衛の護りも厚く保っている。そのままリンネ自身は廻転しながら脚を伸ばして──。
「まずはその動き、封じてあげます」
叩き下ろす蹴撃で巨躯の鎧を貫いてみせた。
●決着
罪人は倒れ込みながらも、毒づく言葉を減らさない。
「俺は、負けねぇ……こんなに命が溢れてるんだ。全部、引き裂いてやる」
「……エインヘリアルと言うモノは相変わらず品がないね」
と、ラグエルは怯むでもなく、静かな呆れを零すのみ。
さくらも薄紅の瞳を景色へ向けて。
「たくさんの命が暮らすこの星は、確かに最高だけれども。でも──あなたに狩られる為の命は、何処にも無いわ」
「ああ。人も花も、この季節は全て色鮮やかに咲き誇っている」
ラウルは鋒のような言葉を向けて。
「残念だがお前に奪わせるものは何一つない」
「そう、わたし達が全部、守ってみせる」
さくらも言葉と共に『紅絆』──紅の糸を巨躯の傷に結び縫い止めた。
そこへラウルが『弥終の花』を降らせて色を重ね、動きを封じてしまえば──。
ぱり、ぱり、ぱり、と。
ラグエルが無数の氷を成長させていた。
あまり派手に暴れれば、ガス抜きしたはずの狂気が刺激される自覚はある。だから奔り過ぎず、さりとて手心は加えず。氷棘を注いで巨体を穿つ。
「皆も攻撃を」
「ええ」
リンネは既に蒼い氷の如き刃を翳していた。
「このナイフをご覧なさい、貴方のトラウマを想起させてあげます」
刹那、罪人の視界に刀身が明滅し、ぐにゃりと歪んだ景色が闇色の悪夢となる。
罪人は苦悶しながらも、剣を振り回した。が、さくらが防御すれば──リュシエンヌが美しい白光を顕現。
柔らかな羽根で撫ぜるような感覚を与えて傷を癒やす。
「あと少し……お願いしますっ!」
「……ええ。リオン」
するとキリクライシャの呟きに応じ、テレビウムのバーミリオンが動画を見せて治癒を完遂した。
敵は連撃を狙う、が、キリクライシャが許さない。
(「……折角の香りに、鮮やかな色に」)
余計なものを散らし過ぎないようにと。狙い澄ました蹴りで剣を弾き飛ばした。
結衣はそこへ双剣を構える。
咎人のエインヘリアルなどに同情はない。
同時に力ある個体ではあるから──ただ戦いを気軽に楽しめる標的として。
「行くぞ」
「はいっ!」
結衣に応えたネフティメスは、刃を制御していた雷を解除し獄炎を解放、自身の翼を新たな核として同化させ──眩き光で剣を再構成していた。
己が力と性質を付与し刃を成すそれは『ウイングセイバー・ヴィドフニル』。
結衣の技を自分なりに解釈し、己が能力と成して。神速の一閃、巨躯の半身を斬り裂いた。
焔に包まれ倒れゆく巨体へ、結衣は突進している。
そのまま双剣に炎を迸らせ斬り上げながら、火柱で空へ打ち上げると共に自身も高くへ跳躍、刃を振り上げて。
「散れ」
鳳翼<炸裂する太陽>──落下速度を上乗せした斬撃で、巨体を灰に散らせていった。
●花園
花の香りに、和やかな人々の声が交じる。
戦場を癒やして人を呼び戻すことで、園には平和が帰ってきていた。番犬達もそれぞれの時間を過ごし始める──その中で結衣は暫し佇んでいた。
「いつも簡単に守れるのなら楽なんだが」
迷いなく、ただ悪しきものを裁くだけで、と。
それでも無意識に瞳を閉じる。
きっとそうでないからこそ戦う意味があるという事なのだろう、と。
「では結衣さん行きますよ~♪」
と、不意に腕が引かれて結衣は気づく。笑顔のネフティメスが散策に向かおうとしているところだった。
「──ああ」
結衣は自然と歩み出し、共に花を眺める。ネフティメスは見回して感心の声音だ。
「赤に緑に紫に、どれも綺麗ですね」
「そうだな」
「なんだかんだ一緒にはいますけど、こういうとこに来るのは結構久しぶりじゃないですか?」
ふふ、と少し微笑んで。
愉しげに前を指してみせる。
「お花を見て回って、向こうのカフェにも寄って、その後はどうします?」
「ひとまず、カフェに行ってから決めるか」
言われると少し逡巡してから結衣は応えた。
ネフティメスはふとその瞳を覗き込む。
「それとも、隣にいる満開のお花をずっと見ていてくれてもいいですよ?」
「……、ああ」
と、結衣は軽く息を吐いて……仄かに声音を和らげた。
「こういう時つくづくお前がいて良かったと思うよ、ネフティメス」
お蔭様で余計な事を考えているのが馬鹿らしくなるから、と。
言って歩みを再開する。
「俺にとっては花もお前も似たようなものだよ。棘は無いけれどな」
「そうなんですか?」
ネフティメスは言いながら、結衣を見てまた笑った。
最近、結衣が少しばかり思いつめたように見える時があったら……少しでも元気づけられたらと思っていたから。
ただ、それは態度には出さずに。
「私の笑顔は薔薇にも負けてないつもりですよ?」
「そうかもな」
結衣が言うと、ネフティメスはそうですよ、と軽い足取りで。並んで二人で、道を辿ってゆく。
翠の葉の合間に咲き初める、優しい真珠色に薄桃色。
様々な彩に満ちた庭園を、ラウルは燈・シズネと共に歩く。
「キレイだなー」
「うん」
愉しげな声にラウルは頷いて。甘香を纏い蜂蜜色に染まる──そんな薔薇のアーチが続く光景にくるりと振り返った。
「まるで、別の世界に迷い込んだみたいだね」
「別の世界……そうだな!」
瞳緩ませ柔く笑むその顔に、シズネも応えて。アーチを潜って見える世界が変わる度、目が合う度に笑みを交わしてゆく。
「ねえ、シズネ」
と、ラウルは幾つもの色を見回していた。
「薔薇は咲かせる花色によって込められた意味が違うんだよ」
「そうなのか?」
「例えばこの淡い橙の薔薇は『無邪気、爽やか』。シズネに似合う彩りだね」
言って花を示すと、シズネは感心しながら……同時にその色が自分にぴったりで。自身が褒められたわけでもないのにえへんと自慢げな顔になる。
柔く瞳を細め、ラウルは続けた。
「相手に贈る数にも意味があって、俺だったら……シズネに5輪の薔薇を贈るかな?」
「……それはどんな意味があるんだ?」
ラウルのことだから何か意味があるのだろうと、シズネは確信して彼の顔をジッと、穴が開くくらい見つめる。
けれどラウルは悪戯めいた瞳で微笑み。
「ふふ、それは秘密だよ」
気が向いたら教えてあげる、と。
そんな囁きを残すから、シズネはぷくぷくと頬が膨らむのを止められない。
「むぅ、いじわるだ」
それでもラウルは笑むばかりだから、シズネは帰ったら速攻で調べてやろうと決心して。それを楽しみに歩み出した。
そしてラウルもまた隣で肩を触れ合わす。
(「そこに籠められた想いを、大切な君が知ったら──」)
どんな顔を見せてくれるかなと、期待を抱きながら。
花の道を歩んで、さくらは待ち合わせの場所へと向かう。
──まずは薔薇園をお散歩しようかしら。
家でも薔薇の香りを楽しみたいし、ジャムや香水から見に行こうか、と。
薔薇色のデートに心を踊らせていると、ヴァルカン・ソルの姿を見つけて。
「お待たせ!」
「では、行こうか」
彼が導いてくれれば、まずはやっぱり、カフェで甘いものを食べながら甘やかしてもらおうと決めて──花を望めるテラス席の一角についた。
そこでさくらが頼んだのはパンケーキ。一口食べると、ふわふわの生地に、艶めく薄紅の薔薇ジャムが甘く蕩けて。
「……んんっ、美味しい」
紅茶を飲んで一息、穏やかに笑む。
「綺麗な花と、あなたの幸せそうな笑顔を眺めながら頂く甘いものは──格別だわ」
「そうか。来て良かった」
と、ヴァルカンもまた、目の前の幸せそうな表情を見つめて応えていた。
それから自身のケーキを一切れ掬って。
「こちらのケーキも、美味いだけでなく香りもよいぞ」
食べてみぬか、と妻の口元へ。いつもやられてばかりの俺ではないぞと、ふふふと悪戯っぽい笑みも交えて。
それに恥ずかしげなさくらではあったけれど……甘い香りには抗えず。
「あーん」
あむりと一口。香るクリームの甘みを堪能する。
「折角だし、さくらのも食べてみたいな」
と、ヴァルカンがねだればさくらは勿論、とジャムたっぷりの一切れを差し出した。
ヴァルカンとて互いに食べさせ合うのは恥ずかしい。けれどさくらが恥じらったり、喜んだりする様子を見たいという欲が勝ってしまうから。
「ん、美味だな」
「……ねぇ わたしのキスと、どっちが甘いかしら?」
さくらが囁くと、ヴァルカンはにやりと笑って。
「……ふむ、帰ったら確かめてみようか」
そう応えて、甘い楽しみと共に時間を過ごしていく。
花垣の色が虹を描く散歩道。
その景色を、キリクライシャは眺めながら進んでいく。
甘味は勿論楽しみで、バーミリオンもそわそわとしていたけれど──しっかりと見ておきたい薔薇もあったから。
「……見つけた、わ」
目を留めるそれは紫の薔薇。
見つめる程に艷やかで、けれど上品で。
「……青はまだ普及量も少ないのかしらね」
その色は見えなかったけれど、今薫るその彩だけは、目に焼き付けていた。
それから共に、カフェへ。
花に面したテラスでローズティーと、一緒に薔薇ジャムも注文。仄かに花香る紅へ、更に甘い薄紅を加えて一口。
「……ん、美味しいわ、ね」
咲き誇るままの瑞々しい芳香とはまた違うけれど、甘さが強くなった香りで。
「……見て楽しんだあとに楽しむ、最高の贅沢ね」
それには、ケーキを頂くバーミリオンも肯定の頷きを見せていた。
食後にはお店でジャムを購入。
更にお菓子の香りづけに使える、綺麗な小瓶入りのエッセンスも買って……キリクライシャは静かな満足の面持ちで。
風に揺れる花を見ながら、ゆっくり帰路についていった。
まるでひとつとして同じ色がないように、薔薇の彩は多様だった。
「近くで見ると、一層綺麗ですね……」
呟きながら、リンネは散歩道を行く。
清楚な声音にも、愉しげな風合いが滲むのはそれだけ瞳に映る色が美しいから。
赤薔薇だけでも、薄い色合いから燃えるように鮮やかなもの。一重咲きから八重咲きまでが揃っていて──芸術品を眺める心持ち。
「ここまでのものは、中々見られなさそうです」
思わずひとりごちると、カメラを構えてその彩を写し。
白薔薇の咲く場所があれば、そこでも嫋やかな純白からクリームがかった柔らかい色までを目で楽しみ、ファインダーにも収めていた。
様々な色が交じる花垣からは、華やかな香りが漂って……氷雪もご機嫌そうに、ぱたりと翼を動かす。
「そろそろ、休みますか?」
一通り巡ってリンネが聞くと、氷雪が可憐な鳴き声を返すから。
「では行きましょう」
傍にあったカフェに一緒に入り、薔薇が香るショコラと紅茶を注文。優しくも芳醇な甘みと香りを楽しんで──またゆったりと花園を眺めていた。
「ムスターシュ、今日もがんばったね」
ふわもこの体を抱っこしてあげると、喉をゴロゴロ鳴らして応える──そんな翼猫と一緒に、リュシエンヌは薔薇園を歩み始めていた。
鮮麗な紅に宝石のような碧。
彩りの麗しい景色では、どれでも見惚れてしまいそうで。中でも香りのいい、真っ白な大輪を見つけると足を止める。
「この薔薇、うりるさんに似合いそう……苗は売ってないかしら」
呟きつつ、心に浮かべるのは愛する旦那さまの姿。
そのまま販売所へ行こうかと方向を変えて進むと──ふとその中途でもまた、花に目を奪われた。
それは美しい真っ赤な薔薇。
「これ……うりるさんがくれた薔薇!」
言って想うのは、やはりその人のことで。
リュシエンヌは踵を返すと、ぎゅっとムスターシュを抱きしめる。
「ムスターシュ、やっぱり早くお家に帰ろ! うりるさんに会いたい」
薔薇を贈りたい気持ちもあったけれど。
きっと自分が早く帰る方が、喜んでくれる。
ムスターシュも帰路に向けて真っ直ぐ鳴いて応えるから──リュシエンヌはラウンドトゥを軽やかに鳴らし、帰る場所へと急いだ。
艶のある黄色の薔薇を見ると、何となく似ているなと思いながら。
ラグエルは散歩道を漫ろ歩いている。
「彩り豊かだね──」
歩むほどに、鼻先を擽る香りも風合いが変わっていくようで。色に芳香に、華やかさを楽しみつつ……店を見つけると寄っていくことにした。
「アイスエルフらしく、と言うのもちょっと変かもだけれど」
外気も中々に暑くなってきた時分、ソフトクリームを買うことにする。
受け取ったそれは、淡い薔薇色が綺麗な一品。香りは確かに薔薇のようで、そこに甘やかさが含まれた食欲を唆る匂いだ。
一口食べると、滑らかな甘みと共に爽やかさを感じて美味。ほんのりとした酸味も気温に丁度良かった。
「後はお土産かな」
と、最後に寄るのは売店。
並ぶ薔薇製品を眺めて、何か一緒に楽しめるものはないかと探しながら。
「ローズティに、ジャム……この辺りかな」
たっぷりの花が含まれた茶葉と、紅色が鮮やかな瓶。
その二つを手にとって、ひとつ頷いて。
「うん」
少しだけ、心に期待を含みながら──帰り道へ歩き出した。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年5月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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