荒ぶる給茶機！

■リプレイ

●都内某所
「つい先日八十八夜のニュースを見たわ。新茶の季節に再起動するなんて、なかなか風流な給茶機じゃないの」
　ヒルデガルダ・エメリッヒ（暁天の騎士・e66300）は仲間達と共に、廃墟と化したビルにやってきた。
　廃墟と化したビルは、まるで巨大な墓標の如く、ケルベロス達の前に建っていた。
　次の瞬間、ケルベロス達を手招きするようにして、生暖かい風が頬を撫でた。
「ちょっとエモいところあるじゃん。まあ、チャ・チャ・チャと鳴いたところで、踊ったりはしないと思うけど……」
　山科・ことほ（幸を祈りし寿ぎの・e85678）が、念のため立ち入り禁止の立て札を立てた。
　今のところ、辺りに人気はないモノの、万が一の事を考えると、注意をしておく必要がありそうだ。
　最悪、無関係の一般人がダモクレスに襲われ、グラビティ・チェインを奪われてしまうため、それだけは何としても阻止する必要があった。
「あー……でも、入ってるのは、いつのかわからないお茶っ葉かぁ……。そんなモノを浴びたら調子が悪くなりそう……」
　ヒルデガルダが事前に配られた資料に目を通し、ゲンナリとした表情を浮かべた。
　事前に配られた資料を見る限り、給茶機が捨てられたのは、数年前。
　そのまま御湯が残っていた場合は、完全に腐っているため、違う意味で気を付ける必要があった。
「……とは言え、給茶機自体、結構お高い備品だと思うのですが、資産として処分できず置いていくほど突然の閉鎖だったのでしょうか？　リース契約なら持ち主の会社が引き上げたりしますし、うーん……。細かいことが気になってしまうのが、悪い癖ですね」
　そんな中、伊礼・慧子（花無き臺・e41144）が殺界形成を発動させ、何やら考え事をし始めた。
　その脳裏に浮かぶのは、事件が起こった時の瞬間の映像。
　その事件を目撃したのは、給茶機……のみ。
　だが、給茶機には、口が無い。
　故に、『……暇か？』と呟くオジサンがやってきても、真実を語る事が出来なかった。
　すぐ傍に事件を起こした犯人がいるにもかかわらず……。
　……と言う映像が脳裏に浮かんだものの、放っておくと第２、第３の犠牲者が出てしまう感じの流れであったため、考える事を止めた。
「チャ・チャ・チャ・チャ・チャァァァァァァァァァァァァァァ！」
　次の瞬間、ダモクレスと化した給茶機が、赤子の産声の如く勢いで鳴き声を響かせ、廃墟と化したビルの壁を突き破った。
　それはまるで卵の殻を割る雛鳥のようでもあったが、その姿は不気味そのもの。
「チャッチャカチャッチャッ・チャッ、チャッ、チャッ、チャッ！」
　異形と化した給茶機から何本も脚が生えているような姿をしており、サンバのリズムに合わせてダンスを踊るようなノリで、ケルベロス達に迫ってきた。
「今まで一生懸命がんばってきたモノが棄てられてダモクレスになっちゃうなんて、ちょっとだけ悲しいと思うけど……。こうなった以上、やるしかないわね」
　そう言って佐竹・レイ（ばきゅーん・e85969）が、覚悟を決めた様子でダモクレスに攻撃を仕掛けていった。

●ダモクレス
「チャッチャッチャッチャ・チャ・チャッ！　オチャオチャチャッチャ・チャッ・チャッ・チャアアアアアアア！」
　その間もダモクレスは陽気にダンスを踊るようにして、前後左右に飛び跳ねた。
　それはケルベロス達に対する挑発のようであり、求愛のようでもあった。
　そこに、どんな意図があるのか分からないが、とにかく楽しく、イキイキとしている印象を受けた。
「なんかノッてきちゃうわね　ロマンシングな気分になっちゃいそう！」
　その動きに合わせて、レイも楽しそうにダンスを踊った。
　その光景は実に奇妙であったが、ダモクレスも何処か楽しそうであった。
「チャ・チャ・チャアアアアアアアアアアアアアアア！」
　だが、楽しい一時も、一瞬にして終わりを告げた。
　ビームのチャージを終えたダモクレスが、奇妙な鳴き声と共にビーム状の熱湯を飛ばしてきた。
　そのビームは、とても強力で、ビルの壁を突き破るほどの破壊力があった。
「さっきまで楽しそうに踊っていたのに、いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて……ちょっと性格が悪くない？　それとも、ビームをチャージするために必要な踊りって事？　もうワケが分かんないし！　……と言うか、どっちにしても、いきなりは良くない！」
　ことほがムッとした様子で、プラズムキャノンを放ち、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスにぶち当てた。
「チャ・チャ・チャ・チャ・チャアアアアアアアアア！」
　その一撃を喰らったダモクレスがバランスを崩し、大量の御茶が何処からか漏れた。
　しかし、その御茶は妙にぬめっており、刺激臭が漂っていた。
「ニオイますね、この御茶は……。これは事件の香り……ではなく、だいぶ悪くなっているモノ。こんなモノを出すなんて、給茶機にあるまじき行為です。……恥を知りなさい！」
　その事に気づいた慧子が、ダモクレスを叱りつけ、緩やかな弧を描く斬撃で、ダモクレスの脚を斬り裂いた。
「オ・チャ・チャ・チャ・チャアアアアアアアアアアアアア！」
　その影響でダモクレスがバランスを崩し、不自然な感じでユラユラと踊り始めた。
　だが、肝心の脚を失ってしまった事で、踊りもぎこちなくなっており、見ているだけで気持ちが悪くなってきた。
「それじゃ、動きづらいでしょ。私がバランスを取ってあげるわ。ほら、これで、どう？　ただし、苦情は受け付けないわ」
　すぐさま、ヒルデガルダがフォートレスキャノンでアームドフォートの主砲を一斉発射し、ダモクレスの脚を撃ち抜いた。
「チャ・チャ・チャ・チャアアアアアアアアア」
　そのおかげで先程よりもバランスが取れたものの、ダモクレスは何処か不満げ。
　その不満を解消するため、フレキシブル管型のアームを伸ばすと、盆踊り感覚でクネクネクイっと踊り始めた。
「あの踊りに、どんな意図があるのか分からないけど、暗い気分で戦うなんて、あたしらしくない！　せっかくだから、楽しく……陽気に戦うよ！」
　その踊りを眺めながら、レイがサクっと気持ちを切り替え、ノリノリで踊りつつ、ヴァルキュリアブラストで光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えてダモクレスに体当たりを食らわせた。
「チャ、チャ、チャアアアアアアアアアアア！」
　それでも、ダモクレスは怯む事なく、フレキシブル管型のアームで、レイに反撃を繰り出した。
　それは、まるで駄々っ子パンチのようであったが、地味に痛く……イラッとした。
「そのアームも邪魔ですね。意味もなく殴られるのも、イラッとしますし……。そして、それ以上に……不味い御茶を出した罪は重いですよ」
　すぐさま、慧子が間合いを詰め、シャドウリッパーを仕掛けると、影の如き視認困難な斬撃を繰り出し、フレキシブル管型のアームを斬り落とした。
「……と言うか、踊りは御終い！　何だか、こっちまで踊っちゃいそうだし、油断をするとドカンと来そうだから……！」
　それに合わせて、ことほが縛霊撃を仕掛け、ダモクレスを殴りつけたのと同時に、網状の霊力を放射して緊縛した。
「チャ・チャ・チャアアアアアアアアアアアア！」
　その途端、ダモクレスが激しく暴れ、カセットタンク型ミサイルをぶっ放した。
　そのミサイルは地面に落下すると爆発し、大量の御茶をぶち撒けた。
「ちょっ、ちょっと！　何よ、それ！　もう少し、やり方ってものがあるでしょ！　ちょっと臭うし、最悪じゃない！　それとも、まさかケンカを売っているの？　だったら許さないんだから……！　……って、聞いてる？　まさか聞こえてないの？　まったく、もう！」
　レイが大量の御茶から逃れるようにして、ダモクレスに文句を言いつつ、物陰に飛び込んだ。
「藍ちゃんも御茶が入らないように気を付けてね」
　その間に、ことほがライドキャリバーの藍と連携を取りながら、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
「チャ・チャ・チャアアアアアアアアアアアアアアア！」
　その攻撃に対抗するようにして、ダモクレスが苛立った様子で、再びビーム状の御茶を放ってきた。
「そんな腐った熱湯よりも、こっちの方が強いって証明してやるわ。……覚悟しなさい！　いまさら謝ったところで許しはしないわよ」
　即座にヒルデガルダがバスタービームを発動させ、バスターライフルから魔法光線を発射し、ビーム状の御茶ごとダモクレスを攻撃した。
「チャチャチャァァァァァァァァァァァ！」
　その途端、ダモクレスが悔しそうに身体を揺らしたが、先程の攻撃でカセットタンク型のミサイルが尽きたため、反撃する術が無くなっていた。
「いい加減にしてください。そもそも、紛らわしいんですよ。機種によって１回押したら定量のお茶が出てくるのと、押しっぱなしの間しかお茶を出さないのがあるのも不自然ですし、腐った御茶を出すのなんて、論外です。そう言った事も全部まとめて反省してください！」
　次の瞬間、慧子が八つ当たり気味にダモクレスを叱りつけ、無防備に露出していたコア部分を破壊した。
「オチャアアアアアアアアアアアアアアアア！」
　それと同時にダモクレスが断末魔を響かせ、大量の御茶を血の如く撒き散らして、すべての機能を停止させた。
「給茶機自体はヒールで直せそうだけど、中身は入れ替えた方が良さそうね」
　そんな中、レイがダモクレスだったモノの中から給茶機部分を取り出し、ヒールを使って何となく修復した。
　気のせいか、イメージしていた形とは異なっている気もするが、きちんと御茶を出す事が出来るようである。
「せっかくだから、みんなで御茶でもしない？　もちろん、もしよければ……だけど」
　そんな空気を察したヒルデガルダが、仲間達を御茶に誘った。
「それなら、今から出かけよう。女子会ってやつだね、これ」
　その誘いに乗ったことほが、笑顔で答えを返すのだった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年5月6日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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