復讐のワードプロセッサー！

■リプレイ

●都内某所
「今回は荒ぶってるんじゃなくて復讐かぁ。……重いなー」
　山科・ことほ（幸を祈りし寿ぎの・e85678）は複雑な気持ちになりながら、仲間達と共に廃墟と化した倉庫にやってきた。
　倉庫の壁には独特なセンスの絵が描かれており、オラオラ系の不良がたむろしていそうな場所であった。
　幸いな事に、いまはまったく人気がないモノの、あまり戦闘に時間を掛けてしまうと、野次馬が集まってきそうな感じであった。
「耐用年数や、専用消耗品の収益率を鑑みた販売期間の都合で、幅広い種類の用紙にインクで打つアンティークなタイプライターに劣るとは皮肉なものだが……。しかし、この国は使う文字が膨大だから、こういう発明をしなければならなかったのかも知れないねぇ……」
　ディミック・イルヴァ（物性理論の徒・e85736）が、何処か遠くを見つめた。
　金属製品であれば鋼鉄型のグランドロンとして親近感が湧くため、割と詳しかったりするのだが、バブル期のワードフロセッサーの場合は、強化プラスチックに、モノクロ液晶であるため、いまいちピンと来ないようである。
「それに、ほら……なんかキーボードのついた機械から、ビーって出力してるやつあるじゃん？　それに魂（ソウル）が受け継がれてると思うんだけど……。ひょっとして、あれ……ワードプロセッサーじゃなくて、ラベル専用機だったりする？　えっ？　あれ？　ん？」
　ことほが何処かの迷宮に迷い込んだような錯覚に襲われ、沢山のハテナマークを浮かべた。
　似ているようで、何か……違う。
　違うようで、まったく……違う。
　何やら、よく分からないが、そんな感じのアレである。
「ところで、ワープロと、パソコンのワープロソフトって違うのですか？　ちょっとスマホで調べていいですか？　どれどれ……、表計算ソフトやWEBブラウザが入ってないだけかと思ってたら全然違うようですね。そう言えば、昔はネットも無かったんですもんね」
　そんな中、伊礼・慧子（花無き臺・e41144）が殺界形成を発動させ、スマホを使ってワープロとワープロソフトの違いを調べ始めた。
　一瞬、同じものかと思ったが、調べてみれば、別のモノ。
　だが、先程まで、ことほと一緒に迷宮の中を彷徨っていた慧子にとって、それは一筋の光明であった。
　調べれば、調べる程、ワープロと、ワープロソフトの違いが分かり、いつしか一筋の光が、慧子を包む光となった。
「ワ、ワ、ワ、ワードプロセッサァァァァァァァァァァァァァァァァァァ！」
　次の瞬間、ダモクレスがケモノにも似た咆哮を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破ると、ケルベロス達の前に姿を現した。
　ダモクレスはワードプロセッサーから、蜘蛛のように脚が生えており、ガシャガシャと音を立てながら、何かを印刷しているようだった。
　それが何なのか分からないが、紙には文字がビッシリ。
　まるで文字が波のように押し寄せてくる印象を受けたため、何やら近寄り難い雰囲気が漂っていた。
「……予想と違う形状なのだけど？」
　その途端、キリクライシャ・セサンゴート（林檎割人形・e20513）が、驚いた様子で目を丸くさせた。
　テレビウムのバーミリオンも、驚いた様子でビックリしたときの顔文字を表示させた。
　どうやら、ふたりともダモクレスと化したのが、ワードプロセッサーではなく、フードプロセッサーだと思い込んでいたようである。
　そのため、投げつけようと思っていたリンゴをしまい、何事もなかった様子でダモクレスを睨みつけた。
「……まあ、大した違いじゃないわね。……どうせ倒してしまうのだから……」
　そう言ってキリクライシャがサクッと気持ちを切り替え、ダモクレスの前に陣取った。

●ダモクレス
「ワ、ワ、ワードォォォォォォォォォォォォォ！」
　その途端、ダモクレスがケルベロス達を敵として認識して、ケモノのような咆哮を響かせた。
　ダモクレスの咆哮から伝わってきたのは、溢れんばかりに悲しみだった。
　その悲しみがケルベロス達にも伝染し、胸がズキリと痛み始めた。
　それは捨てられていくモノの哀しみ。
　そして、役目の途中で見限られたモノの絶望でもあった。
「……まだ使えるのに捨てられた事には同情するけど……。……それは、それ。……これは、これよ……。……とはいえ、ダモクレスと化した以上、放っておく事なんて出来ないわ。……恨むのなら、ダモクレスと化した自分の運命を呪いなさい」
　キリクライシャがエナジープロテクションを発動させ、『属性』のエネルギーで盾を形成した。
「それじゃ、行きますよ」
　それに合わせて、慧子が一気に間合いを詰め、ダモクレスに月光斬を炸裂させた。
「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァドォォォォォォ！」
　その一撃を喰らったダモクレスがイラついた様子で、ケルベロス達を狙って、文字型のビームを放ってきた。
　それはまるでメッセージ。
　異なる文字がビームとなって、ケルベロス達の身体に命中すると、焼き印の如くジュッと煙を上げた。
「こ、これは興味深い攻撃ですね」
　その途端、慧子が腕に刻まれた文字を読んだ。
　それはダモクレスからのメッセージ。
　そこにはカタカナで『タ・ス・ケ・テ』と書かれていたが、ダモクレスと化した以上、救う方法はただひとつ。
　ケルベロスの力を駆使して、破壊のみ。
　それがダモクレスと化したワードブロフェッサーにとって救いになるのか分からないが、自分の意志に反してダモクレスと化したのであれば、結果的に救いである。
「か、感心している場合じゃないと思うけど……！　こ、これ……消えるのかな？　き、消えるよね？」
　ことほも同じようにビームを利き腕に浴び、心配した様子で汗を流した。
　そこに何が書かれていたのか分からないが、ことほの表情を見る限り、残っていると恥ずかしい気持ちになってしまう言葉のようだ。
　その言葉にどんな意図があったのか分からないが、ことほは理解したくないような感じであった。
「とりあえず、消えるようだね」
　ディミックがビームを浴びた部分をゴシゴシと擦り、ことほに消える事を証明した。
　油性インク程ではないものの、身体に文字が焼き付いてしまうため、落とすだけでも、かなりの労力を必要としそうな感じであった。
　しかも、ダモクレスのビームを浴びるため、身体に文字が焼き付いてしまうため、耳なし芳一チックな外見になっている仲間もいた。
「……とは言え、喰らったところで、気持ちいいモノでもありませんし、出来るだけの事はしておきましょうか」
　そんな空気を察した慧子がステルスツリーを発動させ、足元から魔法の樹を呼び出した。
「ワ、ワ、ワ、ワードォォォォォォォォォォォォォォ！」
　それを目の当たりにしたダモクレスが、ワードプロセッサー型のアームを伸ばし、ケルベロス達に迫ってきた。
「……私達を紙か何かと勘違いしているのかしら……？　……だったら、余計に好き勝手な事をさせる訳にはいかないわね」
　キリクライシャが黄金の果実を発動させ、黄金の果実を宿す収穫形態に変形すると、その聖なる光で仲間達を進化させた。
「これ以上、身体に文字を焼き付けられても迷惑だしね」
　それに合わせて、ディミックがホーミングアローを発動させ、妖精の加護を宿した矢を放った。
　その矢は何処までもダモクレスを追いかけ、次々と突き刺さって、容赦なくボディを貫いた。
「だったら、これはいらないよね？」
　続いて、ことほがルーンディバイドを発動させ、光り輝く呪力と共に斧を振り下ろし、ワードプロセッサー型のアームを破壊した。
「ついでに、機動力も削いでしまいましょう！」
　慧子もダモクレスの死角に回り込み、溜め斬りで脚部を破壊した。
「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァドォォォォォォォォォ！」
　その事に腹を立てたダモクレスが、インクリボン型ミサイルを放ち、雨の如く降らせてきた。
　それがアスファルトの地面に落ちるたび、真っ黒に染まっていき、インクリボン独特のニオイが辺りに漂った。
「さすがにこれは色がついたら、汚れを落とすのは難しそうだねぇ」
　ディミックが色々な意味で危機感を覚えつつ、インクリボン型のミサイルから逃げていった。
　だが、インクリボン型のミサイルが爆発するたび、インクが染み込んだ織布が舞うため、それがいくつもボディに張りついた。
「藍ちゃん、頑張って！　あんまり汚れちゃうと、掃除をするのが大変だから！」
　ことほがライドキャリバーの藍を囮にしながら、インクリボン型のミサイルから逃げていった。
　その間も、インクが染み込んだ織布が風に乗り、辺りを漆黒の闇に染めていった。
「……さすがに、あのミサイルを何度も撃たれたら面倒ね」
　キリクライシャがテレビウムのバーミリオンと連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
　それに合わせて、バーミリオンが凶器攻撃で、ミサイルの発射口をボッコボコにした。
「これで安心して、近づく事が出来そうですね」
　慧子がホッとした様子で、ダモクレスに呪怨斬月を炸裂させた。
「ワ、ワ、ワ、ワァァァァァァァァァァァァァ！」
　その途端、ダモクレスが痙攣にも似た動きで震え、大量の血がオイルの如く飛び散った。
「……これで終わりよ。……黙りなさい」
　次の瞬間、キリクライシャがスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスの機能を停止させた。
「ワ、ワ、ワド、ワ、ワ、ワ……」
　その一撃を喰らったダモクレスがブスブクと煙を上げ、アスファルトの地面に沈むようにして動かなくなった。
　だが、その姿はまるで眠っているかの如く、安らかに見えた。
「みんな無事のようだけど、やっぱりミサイルでついた汚れは、擦った程度じゃ落ちないようだねぇ」
　ディミックが仲間達の無事を確認した後、残念そうに肩を落とした。
「藍ちゃんは……元々そんな色だって事じゃ……駄目？」
　ことほが藍の汚れに気づき、愛想笑いを浮かべた。
　だが、藍は夜のハイウェイで綺羅星の如く輝くノリで、雰囲気が変わってしまったため、とても不満そうな感じであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年5月5日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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