チョコ料理こそ至高である!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「俺は常々思うんだ! チョコ料理こそ至高である、と! 何故なら、チョコこそ最高の調味料! チョコをかければ、何でも美味い! それを理解していない奴等は、チョコの可能性を知らない愚か者だけだ! 故に、俺は此処で断言をする! チョコ料理こそ至高である、と!」
 ビルシャナが廃墟と化したレストランに信者達を集め、自らの教義を語っていた。
 信者達はビルシャナによって洗脳されており、出来立ての料理にチョコをぶっかけ、美味しそうに頬張っていた。

●セリカからの依頼
「皇・絶華(影月・e04491)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ビルシャナが確認されたのは、都内某所にあるレストラン。
 この場所にビルシャナが信者達を集め、みんなでチョコ料理を堪能しているようである。
 どうやら、信者達は洗脳された事によって、味覚がおかしくなっており、チョコで味付けしていなければ、美味しくないと判断してしまうようである。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 信者達は何でもチョコが掛かっていれば美味しいと思い込んでいるものの、その間違いに気づく事で、味覚が元通りになる可能性が高いようである。
 もしくはビルシャナをボコっておけば、洗脳の力も弱まるため、あまり難しく考える必要はないようだ。
「また信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくお願いします」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ビルシャナの退治を依頼するのであった。


参加者
皇・絶華(影月・e04491)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
トート・アメン(神王・e44510)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ

●都内某所
「こ、これは……なんという素晴らしい教えだろう。是非ともその教えに更なる圧倒的なパワーを与えねばな!」
 皇・絶華(影月・e04491)は廃墟と化したレストランの前に立ち、感動した様子で瞳を潤ませた。
 この場所は、まさに理想郷。
 絶華が思い描いた世界。
 それを教義として実践しているのだから、素晴らしい以外の言葉が出ない!
(「こ、これは間違いなく、死亡フラグを招き危険な教義ッ! ワシは逃げるぞ! 絶対に逃げる!」)
 それとは対照的に、コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)が危機感を覚え、廃墟と化したレストランの見取り図をガン見した。
 その姿は、まるでループ物の主人公。
 何度も失敗をしながら、そのたび死に戻りをした主人公の如く、頭の中で幾つもの結末をイメージし始めた。
 これもダメ、あれもダメ、それもダメ。
 そうやって消去法で死亡フラグを回避しつつ、行き着いた結論は……絶華をチラリっ!
(「いや、無理! 元から断つのなんて、絶対に無理! 返り討ちに遭って、死ぬのがオチじゃ!」)
 その結論に行き着いた時、コクマの瞳から溢れたのは、大量の涙ッ!
 『あ、ワシ……泣いている』と思った時点で、思考停止状態。
 出口を探していたはずが、袋小路に迷い込んでしまったような感覚に陥り、膝からガクリと崩れ落ちた。
「何やら焦っているようだが、案ずる事はない。余がいる限り、敗北の二文字など存在しないのだから……」
 そんな空気を察したトート・アメン(神王・e44510)が、自信に満ちた表情を浮かべた。
 だが、王たるトートの心眼は、これから起こるであろう災いを予見し、警告を発していた。
 それはビルシャナがいる廃墟と化したレストランではなく、背後から感じられた。
 しかし、背後にいるのは、絶華のみ。
 ならば、警戒すべき相手は……と言う考えに至ったのと同時に、トートが気持ちを切り替えた。
「そうそう、もっと気楽に考えなきゃ。あたしもチョコは大好きだけど、チョコばっか食べてたらダメだと思うし。ちょっと、お説教しておかないと!」
 そんな中、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)がアホの子バリアを展開しつつ、怯えるコクマを励ました。
 どうやら、アホの子バリアのおかげで、ビルシャナ以上に危険な存在が、自分の傍にいる事に気づいていないようである。
 そのおかげで、仲間達と違って危機感が薄いものの、ビルシャナを倒そうと思う気持ちは、誰にも負けていなかった。
「と、とにかく、ワシは一般人が迷い込まないように周囲の封鎖をする! 先にお前達が行くが良い!!」
 一方、コクマは『我慢の限界!』と言わんばかりの勢いで、クルッと踵を返して、一回転。
 気持ちが昂っていたせいで、勢いを止める事が出来ず、絶華の前でピッタリ停止!
「……行くか」
 そのまま絶華にズルズルと引きずられ、ドナドナモードで廃墟と化したレストランに入っていった。

●廃墟と化したレストラン
 室内に漂っていたのは、美味しい料理の香りと、チョコレートの匂いであった。
 だが、異なるニオイは共存する事なく、互いに主張しながら、殴り合いの喧嘩を始め、最終的にはチョコレートが数にモノを言わせ、料理の匂いを掻き消しているような感じであった。
「いいか、お前ら! どんな美味い料理であっても、チョコが掛かっていない時点で、下の下! 残飯にも等しいモノ。しかぁーし! チョコをかけてだけで、高級料理に大変身ッ!」
 そんな中、ビルシャナが出来立ての料理にチョコを掛け、信者達に振る舞っていた。
 信者達は何かに取り憑かれた様子で、料理を口まで運んでいき、物凄くイイ笑顔を浮かべて頬張った。
(「やはり、このビルシャナは……脅威とは言えない……。だとしたら、警戒すべき相手は……」)
 トートがすべてを悟った様子で、絶華の顔をチラリと見た。
「……すまないな。私はこの教えには賛同してしまう。故に……あちら側に行ってしまう私を許せ!」
 その途端、絶華が瞳を目薬で潤ませ、仲間達に背を向けた。
 それは仲間達との決別、新たな魔王の誕生。
 それでも、ビルシャナ達は大歓迎。
 信者達も盛大な拍手を送って、歓迎ムード。
 ビルシャナ側は、誰ひとりとして絶華の恐ろしさを理解していないため、みんなイイ笑顔を浮かべていた。
「おい、ふざけんな! なんでチョコで悟る!? 貴様らは、どれ程恐ろしい事をしているか分かっているのか!? 貴様らの行為はとてつもなく恐ろしいモノを呼び寄せてるとわかっているのか!」
 それを目の当たりにしたコクマが、ビルシャナの胸倉を掴む勢いで迫っていった。
「まあ、落ち着け。確かに、見た目はアレかも知れないが、味は保証するぞ? 嘘だと思うんだったら、食べてみるとイイ」
 ビルシャナがまったく悪びれた様子もなく、ケルベロス達にチョコ料理を勧めた。
 しかし、どの料理もチョコが掛かっているせいで、すべて台無し。
 見た目はオシャレであっても、美味しさに繋がってはいない感じであった。
「それじゃ、食べてみるね。まずは、ぶどう。……んー、チョコはいらないかな。……と言うか、酸っぱ過ぎだし! チョコの甘さで、ぶどうの酸っぱさが際立っているし! しかも、このイクラ丼なんて、もっと最悪! 魚の生臭さとチョコの甘ったるさのせいで、胸がムカムカするし! お米もチョコと混ざって、美味しくない!」
 レイがムッとした様子で、ビルシャナに丼を突き返した。
 一言で言えば、美味しくない。
 もっとハッキリ言えば、激マズ。
 料理と呼ぶのも嫌悪してしまう程のマズさであった。
「さすがに、それは言い過ぎだろう。そもそも、チョコとは甘くて美味しいものだろう? そうそうおかしい味にできるわけはないはずだが……」
 その言葉に違和感を覚えたトートが、チョコが掛かったステーキを食べた。
 それと同時に、口の中に広がったのは、濃厚なチョコレートの甘みと、肉の食感。
 一瞬、悪くないと思ったが、まるでチョコレートとステーキが領土争いをしているような感覚で、互いに自己主張しているせいか、美味しいというより、マズイ方が勝っていた。
「そ、そんな訳がないだろ。その証拠に信者達は、誰ひとりとして……ん?」
 そこでビルシャナは、気づいた。
 信者達の口にチョコ料理が押し込まれている事を……。
 それは、どれも作った覚えのないチョコ料理ばかり。
「……喜ぶがいい! 多くのお前の仲間は皆私のチョコで圧倒的なパワーを得て歓喜の叫びをあげてきた! さぁ! あふれる圧倒的なパワーに喜びの声をあげるのだ!! さぁ、さぁ、さぁ、さぁ!!!!!」
 その視線に気づいた絶華がハイテンションで、何故かスライドショーのように、今までチョコを喰らったビルシャナ達の姿を流し、禍々しいオーラを放つチョコ料理を持って、ジリジリと距離を縮めていた。
 その背後には、絶華のチョコ料理を食べ、ブクブクと泡を吐く信者達の姿があった。
「あ、いや、その……」
 そして、ビルシャナは、悟った。
 この後、自分の身に降りかかる最悪の事態を……。
 だが、逃げる事は出来ない。
 両足が竦んで、身動きが取れない。
 その事実に気づいた時、ビルシャナの瞳から、ぶわっと涙が溢れた。
「だから言っただろうが! ワシは帰るぞ! 帰らせてくれ! さらば……って、誰じゃワシの腕を掴むのは! ワシは帰る! おうち帰って未来少年的な物を見るんじゃぁぁぁぁ! だから……こんなところで死にたくないのだぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
 次の瞬間、コクマが屠殺場に送られる家畜の如く勢いで泣き叫び、絶華の手を振り払うため、必死になった。
 それは仲間達だけでなく、ビルシャナさえも、同情してしまうレベル。
 しかし、絶華は全く気にせず、カカオ濃度300%&虫&漢方を混ぜたチョコ料理を、コクマの口に押し込んだ。
「……!!」
 それと同時に、コクマが悲鳴を上げた。
 悲鳴にならない悲鳴を……。
 魂の叫びと共に……。
「これは……なかなか……破壊力がありそうだな……」
 トートが同情した様子で、コクマに視線を送った。
 コクマは絶華のチョコ料理を食べ、生きながら地獄を味わっているような感じになっていた。
 そのため、今にも『コロ……シテ……コロ……シテ……』と聞こえてきそうなほどの勢い。
 流石に大袈裟過ぎると思ったが、演技とも言えない感じであった。
「あ、あたしは変なものなんて食べないんだからねっ! こ、これはフリじゃなくて、本当にダメって意味だから! ほ、本当に嫌だからね。でも、普通のチョコなら……食べる!」
 レイは至っては危機感全開で、先手必勝とばかりに、傍にあったチョコレートを頬張った。
 それは何処にでもある普通のチョコレートであったが、今まで食べたどのチョコレートよりも美味しく、涙が込み上げてくるほどのモノだった。
 そのおかげで、追いチョコレートをされる事もなく、完全スルー。
 小動物のように身を強張らせ、チョコレートをハムハムしているだけで、生きている事に幸せを感じる程だった。
「さて……、先程から死んだフリをしているようだが、これに懲りて考えを改めるつもりはないか? 何……そなたら……程よく……チョコ料理に『飽きて』おろう? 何より……ひとつにこだわる必要はあるまい。同じ料理は人にストレスを与える。味覚が発達したものは同じものを食べ続ける事に耐えられぬのだ。とりあえず……おぞましい物を食べさせられる前に、こちらに来るが良い」
 一方、トートは信者達に語り掛けながら、コシャリ、ターメイヤ、ムルキーヤなどの料理をテーブルの上に並べていった。
「あ、ああ……そうだな」
 その料理にすがりつく勢いで、信者が考えを改め、トートの傍に駆け寄った。

●ビルシャナ
「ちょっ、ちょっと待て! まさか、俺は……俺の考えが間違っていたというのか!?」
 その途端、ビルシャナは絶体絶命のピンチである事を悟り、少しずつ後ずさりつつ、絶華と距離を取った。
 だが、自らの教義が正しいと訴える限り、絶華が作ったチョコ料理から逃れる事が出来ない。
 だからと言って、教義を否定する事は、自己を否定するのと、同じ事。
 故に、出来ない。
 例え、どんな状況であったとしても……。
 それでも、震えが止まらないのは、絶華が禁断の森に棲む魔女の如く、チョコ料理を作っているため。
「……」
 その間もレイはハムスターの如く、チョコレートを齧り、地獄のような時間が過ぎていくのを、心の底から祈っているような感じであった。
「さて……、ようやく料理が完成したぞ。バレンタインチョコを使った特製のチョコ料理だ! さあ、遠慮せず、その身にあふれる圧倒的なパワーに喜びの声を上げるがいい! もちろん、お代わり自由だ!存分に食すがいい! 遠慮は不要だぞ!!」
 次の瞬間、絶華がビルシャナの懐に潜り込むようにして腹パンを食らわせ、クチバシが開いたところでチョコ料理を押し込んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 それはビルシャナにとって、地獄の瞬間。
 既に、美味しい、美味しくないの問題では無い。
 生きるか死ぬか。
 いや、いつ死ぬかのレベルであった。
 その苦しみから逃れるようにして、ビルシャナの意識が吹っ飛び、魂がひょろりと抜けた。
「……随分と呆気ない最後だったな。ところで、絶華と言ったか。貴様のチョコは中々に話題に上ってるようだが、そこまで凄いモノなのか。さすがに、みんな大袈裟だと思うのだが……」
 トートが興味津々な様子で、絶華の作ったチョコ料理を口に運んだ。
 それと同時に、トートの全身を駆け巡ったのは、大量の……虫!
 まるで身体中に虫が這い回っているのではないかと錯覚してしまう程、寒気が走る味だった。
 そのため、トートは自らの身を守るようにして、意識を深い闇の中に沈めていった。
「よ、よし! ワシは不要不急の外出を控えるために、今日は帰る! か、帰るのだぁぁぁぁ!! うあああいやだいやだ嫌だぁぁぁぁぁ!!!!!」
 その隙をつくようにして、コクマが脱兎の如く逃げ出そうとしたものの、絶華に首根っこを掴まれ、ドナドナモードで椅子に座らされ、チョコ料理を流し込まれた。
 しかし、悲鳴は聞こえない。
 その悲鳴ごと胃袋にチョコ料理が流し込まれているせいで、まったく悲鳴が聞こえなかった。
「そ、それじゃ、あたしはチョコでも買ってこようかな。ほ、ほら、ここにあるだけじゃ足らないし……」
 そう言ってレイがぎこちない笑みを浮かべつつ、その場から退散するのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月29日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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