葉桜見物に桜餅のコンビは最高!

作者:神無月シュン

 桜も見頃を過ぎ、一面薄紅色に彩られていたこの公園も、今は花も散り緑色へ変わっている。
 見向きもされなくなった桜の木の下で、羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、信者を集め自らの教義を力説していた。
「桜の花が散り、だれも見向きしなくなった葉桜も、桜餅片手に見上げるとまた違った風情があって最高ではないか!」
 こうして、ビルシャナと信者たちの葉桜見物会が始まるのだった。


「鎌倉奪還戦の際にビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまった人間が、事件を起こすと予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の説明を聞いていたキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が口を開いた。
「……私たちで止めないと」
 ビルシャナが周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やす前に乗り込んで撃破するのが今回の作戦の流れとなる。
「ビルシャナの言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は配下になってしまいます」
 それを防ぐには、ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行う事だ。
「配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナと共に戦闘に参加してきます」
 ビルシャナさえ倒せば元に戻るが、配下が多いほど戦闘では邪魔な存在になるだろう。

「配下となりそうな信者の数は5人で、ビルシャナ自身の戦闘力はそれほどでもないようです」
 他の一般人はビルシャナの姿を見て、すぐに逃げ出していて周囲には信者しか居ないようだ。
「……葉桜に桜餅。林檎じゃダメかしら?」
 キリクライシャの言う様に別の食べ物を使って説得するのもいいだろう。
「葉桜と桜餅の組み合わせに、こだわりがあるみたいですが、どちらかに対して説得するのもいいですし、全く違ったものへ興味が移るような内容も面白いかもしれませんね」

「教義を聞いている信者たちは、ビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは難しいでしょう。言葉以上の何かがあれば、上手くいきやすいかもしれません」
 作戦会議が終わると、ケルベロスたちは説得方法についての相談を始めた。


参加者
内牧・ルチル(浅儀・e03643)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)

■リプレイ


「虫がたくさん降ってくるじゃないですかっ!?」
 事件の起こる公園の前へとやって来たケルベロスたち4人。そのうちの1人、内牧・ルチル(浅儀・e03643)の叫びが響き渡る。
 虫が嫌いな彼女にとって虫が居そうな木の下で食事をするなんて、想像しただけでも尻尾の毛が逆立つ。
「……そんなこと、ここで叫ばれても」
 ルチルの横では、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が携帯端末で何やら調べ物をしていた。
「ところで、キリクさんは何を調べているの?」
「……ちょっと説得に使う情報をね」
「なになに、林檎の花の開花情報? キリクさんは本当に林檎好きだね」
「……林檎教を布教するチャンスね」
 キリクライシャはルチルと話しながらも、必要な情報を集めていった。
「信者の中に兄貴が居たりしないかな?」
 兄を探している佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)はそう言い、信者たちと会う事を楽しみにしている。
「そろそろ、ビルシャナちゃんが、行動を、起こすころ、ね。私たちも、向かい、ましょう」
 涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)がゆっくりとした口調で、皆に突入を促す。その言葉に皆も表情を引き締めると、公園の中へと足を踏み入れた。


 突入した公園の桜の木の下、葉桜を見上げながら自らの教義を力説している真っ最中のビルシャナの姿がそこにはあった。
「毛虫がいつ降ってくるかが怖くて、葉桜見物は心穏やかではいられません。害がない虫かもしれなくても、本能的に駄目なんです」
 ビルシャナの教義に物申すと、ルチルが割って入る。自身の言葉を中断され、ビルシャナが苛立たし気にルチルを睨む。
「虫が降ってくる方が珍しいだろう! 心配なら先に虫が付いていないか確認すればいいじゃないか。虫を見つけたら他へ行けばいいのだ!」
「みつけたら? 滅・殺! 決まってるじゃないですか……!」
 ルチルの反応に、それなら別に虫が居ても居なくてもいいのではと思うビルシャナだったが、ルチルの雰囲気に押され言葉を飲み込んだ。
「でもそこの鳥は是非、その羽置いてってくださいね?」
「なんだって!?」
「私、鳥がとっても好きなんですよね。外見を愛でてよし、羽毛は布団によし、肉こそ食べてよし! 本当、美味しそう……」
 じゅるりと垂れるよだれをすすると、手の甲で口元を拭うルチル。このビルシャナが元は人なのは理解している為、実際に食べるつもりはないのだがその仕草にビルシャナに怯えの色が見える。
「お、お前たち。私は急用を思い出した。先に用事を片付けてくるから、その間にそいつらを追っ払っておいてくれ」
 そそくさとその場を立ち去ろうとするビルシャナ。
「逃がすわけないよ」
 その後ろを尻尾を左右にブンブンと振りながら、ルチルが追いかけていく。

「桜餅って、種類があるよね。お餅って名前についているのに、小麦粉を使って焼いた皮、だったり、もち米を使っているけど、ついたものじゃなかったり、みんなはどっちが好き、かな?」
 ビルシャナの事はひとまず放っておいて、茜姫は信者たちに質問をし始めた。
 地域によって違う桜餅。住んでいる場所によって思い浮かぶ形も様々だ。聞いていると信者たちの好みもバラバラの様子。
「そういうあんたはどっちが好きなんだ?」
「私、あんこがこしあんならなんでも好き、かな」
「あんな質問してきておいて、そりゃないだろー」
 茜姫の返答に質問した信者は呆れた顔をするのだった。
「そもそも桜餅って美味しい? 私、あの桜の臭いが無理なのよねぇ。苦いっていうか青いっていうか……」
「それは君がお子様だからなんじゃないか?」
 レイの言葉に信者の一人が鼻で笑う。そのことに腹を立てたレイは信者に詰め寄っていく。
「あんたたち葉っぱも食べるの? まさか『おこだわり』とか言っときながら葉っぱ剥がすんじゃないでしょうね、好きって言うなら食べなさいよ、しっかりと!」
 近くの桜の木へと手を伸ばし、葉っぱをむしると信者の口へと放り込む。
「むぐっ!?」
「レイちゃん、桜の葉っぱは生じゃ、ちょっと美味しくない、よ」
「だって、あいつが!」
 暴れるレイを宥める茜姫。
「ビルシャナちゃんは今、桜餅を持ってるんだよ、ね? 今って、ほとんどお店に売ってない、と思うんだけど、その桜餅って、どこで手に入れたんだろ……?」
 その最中、茜姫はふとそんな疑問を抱く。考えても答えは出ないと思い、直接聞いてみることにした。
「ビルシャナちゃん、桜餅、自分で作ってるの? それともこれから作るの?」
「はぁはぁ……。そんな、の。作るところ、から……。皆でやるに、決まっている、ではないか。そのほうが、何倍も、葉桜見物会が、楽しめるというもの、だ」
 追いかけられながらも律義に疑問に答えてくれるビルシャナ。その答えに満足した茜姫は信者の方との話を再開した。
「でも今って柏餅の季節だよ、ね。お餅の種類とあんこの種類、組み合わせでもっといっぱい選べる、よ」
 普通の餅に、ヨモギ餅、あんこではつぶあん、こしあん、みそあんなんてものもある。
「お店にいっぱい並んでると思うし、これから一緒に買いに行かない、かな?」
「確かに……柏餅も時期的にありだな」
 茜姫の誘いに、信者たちも興味を示す。
「ふんっ! 私のおススメはおにぎりねっ、ジャパニーズソウルフードなうえに具材を選べばインターナショナル! そ・れ・にぃ、巻いてある海苔も美味しく食べられるんだからっ。はいっ、よーく味わって食べなさいよっ」
 レイが差し出したおにぎりは、形がちょっと崩れていて一目見るだけでそれが手作りな事が分かる。
「わざわざ作ってくれたのか?」
「ななっ、べ、別に。あ、あんたたちのために握ってきたんじゃないんだからねっ!」
「中々美味しいじゃないか」
「お、美味しい? と、とーぜんよねっ! この私が作ったんだから、感謝して食べなさいよっ!」
 信者たちの反応にレイが叫ぶが、その顔は嬉しそうに笑っていた。

 茜姫とレイが説得を行っている中、信者2人がただじっと桜の木を眺めていた。
「……今、林檎が開花時期なのよ。……この淡い色、美しいと思わない?」
「え?」
 キリクライシャが話しかけると、2人は驚いたようにキリクライシャへと目を向けた。キリクライシャの手元には先程調べていた、林檎の花の画像が映し出された携帯端末の画面。
「綺麗ね」
 その画像を見た信者が言葉をもらす。その様子にキリクライシャは嬉しそうにしながら話を続ける。
「……今ならここが見頃よ、今すぐ行くべきだと思わない?」
「そうね……それもいいかもしれない」
「……一緒にアップルパイや林檎ジュースを楽しむ……素敵」
 桜餅と葉桜の組み合わせがいいのならば、林檎の花と林檎の料理や飲み物の組み合わせもいいはず。
「……桜餅、店に並ぶ時期が短いわよね。アップルパイは年中食べられるのに……」
「だからこそ風情があるんじゃないかな」
「……旬ではない時期のものでは意味がないってこと? ……桜餅の葉だって、結局は前年までの物よね、そう変わらないと思うわ?」
 キリクライシャに言われ、信者たちが考え込む、そして。
「確かに、そうね。あなたのおすすめの場所に行ってみることにするわ」
 そう言うと2人は公園を後にした。

「ぜぇぜぇ……信者たちは、どこへ行った!?」
 長い追いかけっこが終わり、息を切らしながら辺りを見渡すビルシャナ。見える範囲に信者の姿は居ない。
 それもそのはず。ある者は柏餅とおにぎりに興味が移り、ある者は林檎の花を見る為に去っていったのだ。
「私の教義が負けただと……特にお前!」
「……私?」
 ビルシャナに指差されキリクライシャが驚き身構える。
「そのような教義を持ちながら、何故ビルシャナにならない!?」
 他人に自身の好きなものを勧めている点で、同類だとビルシャナが騒ぎ立てる。
「……それは」
「それは……?」
「……私がケルベロスだからかしら?」
「な、なんだってー!? ってそんなわけがあるかっ!」
 バカにするなと怒り出すビルシャナ。
「ふう。運動の後はビルシャナ退治です!」
 少し遅れて戻ってきたルチルは、惨殺ナイフを取り出すとビルシャナへと突きつけた。


 戦闘開始と同時、空へと跳び上がったキリクライシャ。空中で体制を整えると流星の如き蹴りをビルシャナに浴びせる。
 ビルシャナが上空に気を取られていたその下では、彼のテレビウム『バーミリオン』がビルシャナの足元にまで移動していた。キリクライシャの攻撃に怯んだ瞬間を見計らって取り出した凶器でビルシャナの足を攻撃した。
「見通すための力、今すぐ届けますっ!」
 ビルシャナの攻撃をものともせず、ルチルは霊力を編み上げ水晶の様に透き通った照準器を作り出した。作り出された照準器はすぐにルチルたちの持つ武器に溶け込み消えていった。
 茜姫が紙兵を大量散布する。その隙を補う様にボクスドラゴンの『崑崙』がビルシャナに体当たりし吹き飛ばす。
 レイが如意棒『ブラッドポール』を伸ばし、吹き飛んだビルシャナへと追い打ちを加えた。
 ビルシャナの威勢は最初だけで、3分もすると余りの実力の差に全身傷だらけになり息も絶え絶えの状態だ。
 それでも油断することなく、ルチルは空の霊力を帯びた惨殺ナイフを振るい、傷跡を正確に切り裂いていく。
 もう支援に回る必要も無いと判断した茜姫もビルシャナとの距離を詰めると拳を叩き込んだ。
 全身血まみれで倒れ込むビルシャナ。その上からレイは塗料を飛ばし桜餅の色に塗りつぶしていく。
「どう? 桜餅になった気分は?」
「ただ色を塗っただけじゃないか……頼む、同類のよしみで見逃してくれないか?」
 そう言うと、勝ち目がないと判断したのか、ビルシャナはキリクライシャの方へ目を向ける。
「……あなたの教義と、林檎教を一緒にしないでよ」
 無表情で爆破スイッチを押すキリクライシャ。するとビルシャナに貼り付けられていた見えない爆弾が一斉に爆発し、ビルシャナの体は跡形もなく吹き飛んだのだった。


「キリクさんこっちは終わったよ」
「……こっちも終わったよ。リオンもお疲れ様」
 戦いが終わり、辺りの修理を行っていたルチルとキリクライシャと『バーミリオン』。
 修理を終え戻ってくると、なにやらレイの叫ぶ声が響いている。
「あなた、よく見たら私の兄貴じゃない? ほらっ! 一緒に帰りましょ」
「は? 俺に妹なんていないよ。人違いだろう」
 逃げていく男性の背を見つめ、レイが肩を落とす。
 かっこいい男性を見ると勝手に兄認定し、連れ帰ろうとするレイ。もちろん成功したことは一度もない。
「柏餅、お土産に買って帰え、ろ」
 茜姫の提案に、皆が頷く。
「崑崙、道案内お願い、ね」
 そう言うと茜姫は改造スマートフォンを取り出し『崑崙』へと渡す。『崑崙』は仕方ないなといった表情で器用に改造スマートフォンを操作すると、先頭に立って移動を始めた。
 その後を追うようにケルベロスたち4人も、公園を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月4日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。