高空の翼

作者:崎田航輝

 小さな花々が絨毯のように咲く林の中。
 緑に溢れた空間は枝葉と花がさらさらと揺れ、何処かから鳥の囀りも聞こえて静かな協奏を響かせる。
 木漏れ日が差す、麗らかな自然の空間──けれど、そよぐ植物の間に唯ひとつ、横たわっている人工物があった。
 一見野鳥のようにも見えるそれは、鳥型のラジコン。モーターで翼を動かして翔ぶことを可能にする、軽い素材で出来た玩具。
 嘗ては鳥のように空に羽ばたいていたものだろう。だが今はもう、その翼も動力も壊れてしまっている。
 市街から遠くないこの一帯は、時折子供や親子連れが散策に来ることも多い立地。おそらくは過去に誰かがここで遊んでいる内に墜ちて──見つからぬまま放置されたのだろう。
 月日も経過しているのか、それは既に塗装も朽ちかけていて、誰にもみとめられずに眠るばかりだった。
 けれど──かさりかさりと、そこに這い寄る影がある。
 それはコギトエルゴスムに機械の脚が付いた、小型ダモクレス。
 林の間を抜けてラジコンに辿り着くと、その内部に入り込み一体化。ぴくりと動いたかと思うと──爪先で地を咬んで立ち上がっていた。
 大きく草木がそよいだのは、直った翼が体と共に巨大化していたから。
 まるでどんな鳥よりも優美に、大きく羽ばたこうとするかのように。そしてもう誰からも見失われまいとするかのように──命を得た機械の鳥は林を抜け出す。
 翔ぶ方向にあるのは、市街地。
 真っ直ぐにそこを目指すよう、大きな翼は風を泳いでいった。

「集まって頂いて、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
 曰く、とある林にてダモクレスが出現してしまうという。
 いつから放置されていたのか判らない、鳥型のラジコンがあったらしく──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化したものらしい。
「このダモクレスは、林を抜けて市街を目指そうとするでしょう」
 放っておけば、多くの人々の命が奪われてしまうだろう。
 そうなる前に撃破をお願いします、と言った。
「戦場は林と市街地の間の一帯となるでしょう」
 その辺りはなだらかな丘がいくつもある地形となっている。
 一般人の姿は無く、開けた環境なので戦うのに苦労はしないだろう。
「敵は人を超える程の大きさになっているようです。体躯を活かした攻撃もしてくるので、警戒をしておいてください」
 嘗ては人と共にあった機械ではあるだろう、けれど敵となった以上は討たねばならないものでもあるから。
「ぜひ、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう皆へ言葉を贈った。


参加者
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
シャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)

■リプレイ

●翼
 澄んだ空から蒼風が吹いて、春の匂いを運んでくる。
 翠の丘は自然の息吹を感じさせて美しく──傾斜を登るネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)は柔らかな声を零していた。
「静かでいい所ですね」
「ああ」
 頷くレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)も、伸びをするように空を仰いでいる。
「うーむ、イイ天気だこと」
 曇りなき晴天は暖かな日差しを遮らず、眩い程に草花を照らしてくれていた。
 故にこそ──空を羽ばたく影もよく目立つ。
「こんな絶好なロケーションを前にしちまったら、翼を持つものなら自由に飛び回りてーもんかも?」
 言ってレンカが見据える先。
 空を翔ぶ巨鳥の姿が見えていた。
 それは樹脂と金属で出来た、嘗ての玩具のダモクレス。
「ラジコン飛行機かぁ」
 と、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は懐かしさを覚えるように呟いている。
「私も子供のころは熱心に遊んだなぁ」
「この春の陽気に飛び立とうなんて、わかっているじゃない!」
 あらあらまあまあ、と。
 空へ揚々とした笑顔を見せるのは片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)。
 声音は何処か歓迎するかのように。それでいて、丘の高台から腰に片手を当てて、立ちはだかるようにぴしゃりと指差して。
「でも不許可よ!」
「そうだね。人々に危害を加えるなら、成敗するよ」
 宣戦に氷花も頷き、すらりとナイフを抜いていた。
 すると機械の鳥は此方を捉えて啼き声を響かせる。敵意の発露だろうか、風を除けて加速し始めていた。
 けれどその威容に怯む緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)ではなく。
「あまり自由に飛び回られても困るからな」
 先ずは機動力を削がせてもらう、と。
 呟くと微かな跫音を残し空へ跳んでいる。
 刹那、膝下からつま先へ脚部武装のビームブレイドを発現。宙で体を返しながら空に光の流線を奔らせていた。
 撓りを伴った鮮烈な衝撃が、機械の躰へも鋭い傷を刻み込む。同時にその胴体を蹴って飛び退きながら、結衣は視線を下方へ遣った。
「今だ、ネフティメス」
「はいっ!」
 その機を後方で待っていたネフティメスは、短刀を抜き放ち。
「暴れるなら、仕置きですからね」
 下がってきた鳥とすれ違いざまに焔色に輝く斬閃を見舞っていく。
 鳥の動きが僅かに鈍れば、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)もその瞬間を逃さず跳躍している。
 巨体の零距離に迫ることに躊躇はない。仮面の奥の切れ長の瞳に迷いはなく。在るのはただ、ダモクレスという種への深い憎悪。
 その翼が嘗てどんな時間を歩んできたのかは、知る由もないが──。
「殺人機械がお天道様の下で堂々としていい訳がない」
 そのまま鳥の頭上を取ると躰を翻して。
「テメェには青空よりも墓石の下がお似合いだ」
 鋭利な殺意を込めた蹴撃。叩き下ろす一撃に、鳥は高度を落とした。
 ただ、旋回して放ってくる風圧は嵐のようで──芙蓉は目を細めながら見上げている。
「……本当、空を飛ばれると厄介よねえ。羨ましいったら」
 けれどフフフと笑むのは、うさぎも負けていないと自負があるから。跳ねて跳んで、朗らかに癒やすならこちらのフィールドだと。
「お前たち!」
 呼びかけると仔うさぎのエネルギー体が解き放たれていた。『うさぎ派遣サービス』──仲間に跳びつくその群れが傷を食んで前衛を癒やす。
「これでひとまず大丈夫よ!」
「では、私は準備を整えておきますね」
 と、柔風に清楚な声を交えるのは兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)。
 美しき花を咲かせる蔓を伸ばすと、まるで楽園を作り出すように翠の天蓋を頭上へと広げていた。
「奇跡の実りよ、その豊穣の恵みよ──!」
 同時に祈りを込めれば、それを受け入れた植物が燦めく光を結実させて。黄金の祝福を燦々と注がせ後方へ護りを広げていた。
 巨鳥は連撃を狙おうと青空から滑空し始めている。
 が、そのさらに上方から冥い夜が舞い降りた。
 艶めく髪を風に波打たせ、仄かな宵の香りと共に空へ踊っていたシャーリィン・ウィスタリア(千夜のアルジャンナ・e02576)。
「そんな姿へ変えられる前は、小さな愛らしい姿で空を駆けていたのでしょうね」
 鳥に似つかわしくない巨体へ、向ける月彩の瞳には静かな感情。
 過ぎた夜の如く運命は不可逆。故に壊さず、ということは叶うまい。
 だからせめて元の姿を想い留めておくと心に決めながら──靭やかに、ウェッジソールの一打を与えた。
 宙でよろめく鳥へと、レンカはハンマーを向けて。白色に燦めく魔力砲で胴体へ灼ける衝撃を抉りこんでいる。
 巨体が下方へ墜ちてくれば──氷花は跳びながらくるりと回り、空中で軽やかに『血祭りの輪舞』を踊ってみせていた。
「これで、真っ赤に染めてあげるよ!」
 冷気を纏った刃を滑らせ、無数の裂傷を描いていく。そうしてひらりと廻転して降りながら、瞳を紅葉へ向けた。
「今がチャンスだよ」
「分かりました」
 紅葉は入れ替わるように足に力を込めて跳び上がる。鳥は横へ逸れようとするが、紅葉も躰を捻って対応して。
「その素早さを、限界まで封じ込んであげます──!」
 螺旋軌道を取る、斜めの蹴撃。捩じるように鳥を叩き落とし、地面へ衝突させた。

●空
 風が草花を煽り、轟々と音を鳴らす。
 巨鳥は大きく羽ばたいて低空へと舞い戻っていた。
 けれど躰の一部は軋み、異音を零している。そこに交じる啼き声は何かを訴えるようでもあったろうか。
「機械仕掛けの玩具でも孤独は嫌いか」
 結衣は呟きを向ける。
 だが炎を纏った剣を抜くその手を、下げることはしない。
「忘れられ朽ち果てたその境遇には同情する。だが──見逃すわけにもいかないのでね」
 風に滾る焔のように、怜悧な声音の中に消えぬ戦意を宿して。
「代わりにもう一度だけ遊んでやるよ」
 ──そして今度は責任をもって、最期の時まで見届ける。
 言葉に体現するように、振り抜く一刀で炎波を飛ばして外面を灼いていった。
 鳥は旋回して間合いを取ろうとしている。レンカはその姿を見上げつつ、ふと呟いていた。自由だな、と。
 それからシャーリィンへ目を向ける。
「どう? 空を飛ぶってのは、気持ちイイもんか?」
「……そうね」
 もう少し昏ければ、と。
 シャーリィンは声を紡ぐ。晴空は眩しくて、陽射しの中で戦うのが苦手な宵の娘には、快い戦場とは言えないから。
 それでも、苦闘するかどうかは別の問題。
 頼もしい仲間が共に居るのなら、負ける未来は見えない。今は陽光だって──大切な人から貰ったマリアヴェールが緩めてくれるから。
 シャーリィンは風の一部となるよう翔び上がり、深色の杭を鳥の首元へ突き刺した。
 揺らぐ巨体が下降する。
 それをキルロイは短い時間、見つめていた。慈悲を与える為ではなく──呪いをかけて魂を蝕むために。
 空気が歪み、機械の瞳にだけ映る靄が体内へ入り込む。
 それは自由を奪う呪縛。内部から鳥を食いつぶすように、腐食を誘っていた。それを確認しながらキルロイは横へ声をかける。
「今ならろくに動けないはずだ。行けるか?」
「はい、私にお任せを」
 応える紅葉は素早く駆け出し、傾斜を登って鳥への距離を詰めていた。
 大きな翼を持っていたとて、攻撃が届く程に迫れるのならなんらの問題はない。仲間が好機を作ってくれるのならば、尚更だ。
 瞬間、長い時間をかけて体内に篭もった魔力、その一部を切り出して衝撃塊にして。上方へ蹴り出し、紅葉の如き紅蓮の氷気を弾けさせて鳥を穿った。
 威力に煽られ、鳥は後退する。
 それでも再び翼を動かし反撃体勢を取った、が。
「フフフ、お前なら相手の大砲も耐えられるわね?」
 芙蓉の声に応ずるように、テレビウムの帝釈天・梓紗が前面へ。巨鳥の攻撃を正面から受け止めていく。
 傷は浅くない、が、直後には紅葉が包帯へ治癒の血流を伝わせて。
「すぐに治しますね!」
 暖かな温度と治癒の魔力を注ぎ込んで負傷を濯ぐ。梓紗自身も画面を光らせ自己治癒すれば──芙蓉は白く耀く粒子を後衛へ。
「さあレンカちゃん、これで準備万端よ」
「Danke.じゃ、やるか」
 レンカが頷くと、合わせて氷花も奔り出していた。
「私が、上手く調整してみせるね」
 ふんわりと桃色の髪を揺らしながら、空を見ると──鳥は再び間合いを取ろうと離れ始めている。
 氷花はそれを許さず、ステップを踏むようにして脚に焔を抱いて。
「炎よ、高く昇れー!」
 華やかな紅を直上へ撃ち上げて鳥を急襲していた。
 鳥が傾ぐと、氷花はそのまま跳んで肉迫し、連撃。
「雪さえも退く凍気で、その身を凍結してあげるよ!」
 パイルバンカーより魔氷の杭を発射して、巨体を氷に蝕みながら此方側へと飛ばしてきていた。
 そこへレンカが魔力の猟銃を生み出して、銃口を向けている。
「お楽しみはここまでだな。その翼、手折らせてもらうぜ」
 狙いは違わず、弾丸は一直線に飛翔する。『反撃の赤き少女』──その一撃が機械の片翼を貫き粉砕させた。
「偽りの翼で高く飛んだら哀れにも落ちちまう……有名な話さ」
 だから落ちるんだよ、お前も、と。
「Tut mir leid(お気の毒さま)──」
 レンカが呟く頃には鳥は地面へ墜ち始めている。
「やったわね!」
 と、芙蓉がそれにガッツポーズをしてみせると、梓紗も跳ねながらもドヤァ、と妙に誇らしげな顔を映し出していた。
 ただ鳥への攻撃はまだ終わらない。結衣が焔の大輪を描くよう、跳びながら斬撃を見舞って残る翼も斬り捨てていく。
 すると鳥は錐揉みの軌道でネフティメスの方へ落下速度を速めた。
 無論、結衣の狙い通り。強くなりたいと言っていたネフティメスへの──謂わば訓練の延長だ。
 ネフティメスもそれを判っているから、鳥の姿をしっかりと捉えていた。
(「戦いながら慣れろってことですよね」)
 結衣と同等の武器を操れるようになって、その戦い方も教わっている。ならば重要なのは実戦を経ることだと。
 獄炎を雷で覆った被実体の剣を握り、狙いを定めて。蛇腹の刃を奔らせ、間合いがある内から巨体を的確に突き通した。
 地へと投げ出されながらも、鳥は身じろいで藻掻く。
 けれどそこへ、キルロイが氷色に燦めく光線を閃かせて下方へ煽ると──追い打ちをかけるようにシャーリィンが小さな影を差し向ける。
「ふふ、わたくしの毒蠍はなんだって噛み付くのよ。猛毒は鋼の身体ですらも……」
 何なら癪に障る小さな核ですら、と。
 忌血に溶けた魔力が成すそれは『狂食の毒蠍』──異形の魂の中枢にまで届いたその針が、深い死毒で動きを奪って鳥を地面へ墜落させた。

●風
「フフフ。つよーいお迎えが来た気分はどうかしらっ」
 翼を失った巨鳥へ、芙蓉は仁王立ちで声を張ってみせていた。
 言葉に対し、鳥は足掻くように脚を動かして変わらぬ戦意を見せるばかり。その姿を、芙蓉は微かにだけ見つめる。
 永劫の命を与えられ、兵器と変えられた機械。
(「こうなってしまう前は……人と一緒にいた頃には、せめて良い時間があったと思いたいけど──」)
 無論、今この時敵であるならば躊躇するつもりはないから。
「行きましょ!」
「ああ」
 頷くレンカは白妙に耀く鋼を拳に纏い、腕を突き出して魔力の塊を撃ち当てる。
 よろける鳥が、抵抗しようとも──氷花が一足飛びに距離を詰めていた。
「させないよ!」
 こつりと靴を鳴らし、脚を軸に回転。愉しげに輪舞を踊ってみせながら十重二十重に剣閃を刻みつけていく。
「皆も、続いて」
「はいっ……!」
 紅葉は傾斜を駆け上がり、勢いのままに跳躍。高空から跳び下りるように重力加速度をつけ、流星の如き光を刷く蹴撃を打ち込んだ。
 後退する鳥は、そのまま斬撃の檻に閉ざされる。
 結衣が奔らす焔の剣線が、空間に記憶となって留まり続けていた。桜火<消えぬ傷痕>──無数の斬牙が桜吹雪の如く舞いながら巨体を刻みゆく。
「こんなものだろう」
「では、いきますっ!」
 と、結衣が下がればネフティメスが短刀を輝かせ焔より幻影を生んでいた。揺らぐ幻は斬閃の舞いに交じり、無限の剣撃となって鳥を内部から斬り裂いていく。
 鳥は揺らぎながらも爪撃を放つ、けれど一撃を受けたシャーリィンへ、芙蓉が即座に治癒の光球を与えていた。
「さあ、今よ!」
「──ええ」
 シャーリィンはその機械へ刃を翳して。
「あなたが羽ばたく姿は、いつの日か誰かの笑顔になっていたはずよ」
 ありがとう、ね、と。
「空へ羽ばたけるあなたは、まごうことなき、小鳥で在ったわ」
 だからその在るべき姿を忘れぬよう、心に留めながら──闇の剣撃で躰を裂く。
 倒れゆく機械に、キルロイは迫りながら剣を握る手を引き絞っていた。
「砕いてやる」
 最後まで、一切の手心は加えない。
 刃を真っ直ぐに突き立てると、そこへ直接グラビティを伝達。焔の奔流を生み出して体内で暴熱を爆裂させていた。
 『断罪の劫火』──それはキルロイの意志を体現するように。閃光を伴って膨大な衝撃を与え、機械の鳥を四散させていった。

「終わったか」
 静けさの戻った丘陵。
 涼風の中でキルロイが武器を収めると、皆も頷き戦いの態勢を解いている。
 氷花は周囲をぐるりと見回していた。
「少しだけ荒れたかな。ヒールしておこうか」
「私も手伝います。すぐに、終わりそうですから……」
 と、紅葉も修復を始める。
 言葉通り、傷がついたのは地面のほんの一部で、痕も残らず癒せそうだ。
 だからレンカはそちらは任せつつ──自分は機械の残骸を集めた。
 別段、他意はない。
 感傷を抱く性格でもないし、手持ち無沙汰だったからにすぎない──ただ。
「次、目覚める時は柔らかい羽を持った本物の鳥になれるとイイな」
 その時はジャマしねーから、と。
 呟く言葉は純粋に、心の内から零れたものだった。
 集まった欠片をネフティメスは見つめる。
「これだけバラバラだと、きっと直らないですね……」
 グラビティで動く、ラジコンならぬグラコンに──等とも考えていただけに声音は少しだけ淋しげでもある。
 結衣はそんな姿を見守りながら、周囲にも棄てられた物がないかと確認していた。
 デウスエクス化も問題だが、それを抜きにしても無視できたものではないと思っていたから。だが一先ずそういったものはここにはないらしい。
「……なら、やるべきことは終わりだな」
 その声を機に、皆もそれぞれの道を歩み始める。
 シャーリィンは少し疲れたように頬に掌を当てていた。
「たくさん動いたらお腹が空いたのだわ。ねぇレンカちゃん、芙蓉ちゃん、何か美味しいものを食べて帰りましょう?」
「良いわね!」
 芙蓉が応えると、レンカもそーだな、と頷いて歩み出す。
 皆が去る丘を、ふわりとした気流が撫でる。それは柔らかで春の香りを帯びた、何処か穏やかな風だった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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