夜桜と満天の星

作者:芦原クロ

 何枚もの花びらが幾重にも重なって咲く、ヤエザクラ。
 ピンクの色が薄いものや、逆に濃いものなど、違いが有り、見る人の心を楽しませ、和ませる。
 強い光が届かない夜に見るヤエザクラは、月明かりにほんのりと照らされ、幻想的だ。
 天体観測の為に集まった一般人たちも、時折、周囲の夜桜へ目を向けて花見を楽しんでいる。
「流れ星、見れる?」
「運が良ければな」
 双眼鏡と星座早見表を交互に見ている少年が、父親に問う。
 天体望遠鏡を設置しながら、笑って答える男性。
 少年の頭をわしゃわしゃと雑に撫でていた、ほんの数秒。
 謎の花粉のようなものがとりついたヤエザクラの木が1本、異形と化した。
 異形は一般人たちに迫り、鋭くなった枝で次々と一般人を刺し殺し、公園内はあっという間に、血だまりと死体とで見るも無残な光景となった。

「天体観測に適したこの公園で、攻性植物が発生することが予知出来た。元永・倭さんの調査のお陰だ」
 元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)に礼を言う、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。
「放っておくと、多くの死者が出る。急ぎ現場に向かい、攻性植物の撃破を頼みたい。あんたさん達にしか、出来ない事だ」
 ケルベロスたちに、頭を下げた。

 攻性植物は1体だけで、配下は居ない。
 一般人の避難誘導については、警察などがおこなってくれる。
 ケルベロスたちは公園内で、攻性植物を迎撃する形となる。
 戦闘に集中していれば、敵の意識も、ケルベロスだけに向けられるだろう。

「運が良ければ流星が見れるようだな。討伐後は、キレイな夜桜や星空を眺めて、休息してみたらどうだろうか」
 討伐の成功を祈っている、と付け足して締めくくった。


参加者
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)
姫神・メイ(見習い探偵・e67439)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ


「グッヅを用意して……夜の星花見といこうか」
 安全と判断した公園の入り口に、荷物を置く、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)。
「ふふーん、ホークアイと呼ばれた、あたしよっ。この程度は暗いに入らないわ!」
 自称ホークアイの佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)は、そう言いつつも、ちゃっかり懐中電灯を持参している。
(「夜桜に天体観測か、俺はどちらかと言えば夜桜に興味があるね。楽しい思い出を作るように、頑張ろう」)
 警戒しながら、メンバーと共に公園の奥へ進む、カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)。
(「まさか、僕の調査で本当に事件を予知できたのは驚きだね」)
 元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)は、レイの懐中電灯の灯りを頼りにしながら、思案を続ける。
(「ともあれ月明かりに照らされた夜桜か、とても趣があって楽しそうだね」)
 程なくして、月明かりにより、ほんのりと明るくなった広めの場所に出た。
 満開の桜が幾本か並び、美しく咲きほこっている。
(「夜桜に天体観測ですか、どちらも風流な感じがして素敵ですね」)
「ふむ、夜桜に星か。風情があっていいな」
 綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)が胸中で思いを並べると、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が目元を微かに緩め、夜桜に見入った。
 そして聞こえ始める、なにかが這いずり回る音。
「なればこそ、それを荒らす攻性植物は無粋というほかない。切り倒してやろう」
 異形と化したヤエザクラは、邪悪な塊でしかなくなっていた。
 熾彩の微笑みは消え、戦闘態勢に入る。
(「思いっきり楽しむために、攻性植物は倒してしまいましょう」)
 玲奈は敵を取り逃がさないようにと、細心の注意を払い、敵を取り囲むようにメンバーへ声掛けを行なう。
「避難誘導は無し、か」
 メンバー以外、人の気配が無いのを素早く確認後、ディークスは臨機応変に対応出来るよう、心構えする。
「私はスナイパーを担当し、敵に攻撃する役を担うわね」
 姫神・メイ(見習い探偵・e67439)が自分の役割を告げたのち、異形が大きな咆哮をあげた。


「……手は抜かないが、楽しませて貰おう」
 ディークスが放ったのは、目に見えぬ虚無球体。
 敵に直撃し、蠢いていたツルが跡形も無く、消滅する。
「延髄蹴りっ、うりゃ!」
 攻撃の命中率が低い仲間の為に、と。
 レイは煌めきの軌跡と共に飛び蹴りを浴びせ、敵の機動力を奪う。
「雷の障壁よ、仲間を護る力となれ!」
 カシスが雷の壁を構築し、前衛陣の異常耐性を高める。
「私の眼は、欺けないわよ……」
 探偵の経験によって培われた、メイの鋭い視線が飛ぶ。
 敵は畏縮し、動きが封じられた。
「さぁ、行きますよネオン。サポートは任せますね!」
 ネオンが回復支援をつとめている間に、玲奈は拳を思い切り握る。
「オウガメタルよ、私に力を貸してください!」
 一気に敵に接近し、鋼の鬼と化した拳を打ち込む、玲奈。
「奥の手を使わせてもらうね。これで仕留めてあげるよ」
 抜刀の構えをとり、倭は己の心を静まらせる。
 次の瞬間、目にもとまらぬ速さで鞘から刀を抜き放ち、破壊の衝撃波が敵を襲う。
 怒りの咆哮をあげ、敵は体の一部を大地に融合。
「催眠攻撃が来ます!」
 その攻撃には特に注意をしていた玲奈が、いち早く気づき、メンバーに声を掛ける。
 侵食された大地は震動し、前衛陣を飲み込んだ。
 ディフェンダーとして、仲間を守ろうと心掛けていた熾彩はディークスを庇い、倭も咄嗟に玲奈を庇った。
「あぁ、助かった」
 催眠対策は仲間に任せ、ダメージを与える役割につとめていたディークスは、熾彩に礼を言う。
「大丈夫ですか? 小まめにキュアやBS耐性などで対処しましょう」
 よろめく倭に手を貸し、仲の良い相手なだけに倭を心配する、玲奈。
「ありがとう。倒されない様に気を付けるね」
 敵の高い攻撃力に注意し、自身が食らったダメージには、常に気を配っていようと、決めている倭。
 急いでシャウトした熾彩は、自らに掛かった厄介な催眠を、掻き消した。


「どカーンと一撃いれたい時は、ペイントラッシュね。他の綺麗な八重桜に被害がいかないように注意しながら、ドバーッとぶちまけてやるんだから」
 仄暗い中、月明かりに照らされながら、異形との攻防が繰り広げられる。
 レイが激しく塗料を敵に飛ばしている間に、回復行動に回る仲間たち。
「大丈夫か、すぐに治してあげるからね」
 ダメージを受けては、こまめに回復し、しのぎを削る激戦の中、カシスの声が響いた。
「撃てば舞い散る花弁の嵐……少し勿体なく感じるな」
 ケルベロスたちから攻撃を受ける度に、桜の花びらが散ってゆく。
 それを惜しむ、ディークス。
「他にも桜はあるなら、一本ぐらいどうとでもなるか」
 被害も無く、無事に咲いている美しい桜を横目に、ディークスは呟く。
 今まで連携を重視していたディークスが、自分の行動を後回しにした。
「……凍て付き、眠れ」
 熾彩が凍結竜言を発動すると、敵は瞬く間に氷に閉ざされた。
「しぶといね。でも、後もう少しな気がするね」
 味方の負傷を大幅に癒しながら、カシスは仲間たちを鼓舞。
「ふれーふれー! ファイトよー」
「一般人の為にも、僕たちで頑張ろう」
 レイも応援の声をあげ、倭が頷くと、ネオンが属性インストールで回復してくれる。
 まだいけそうだ、と。
 倭は全身に力を入れ、オーラで弾丸を形成する。
「オーラの弾丸でも、食らいな!」
 ありったけの魔力を注いだ弾丸は、敵を撃ち抜き、胴を貫通した。
「呪われた血の包帯を受けてみなさい」
 メイは頑張ってクールに言い放ち、染み込んだ純血を硬化。
 包帯が槍の如く鋭きものと化し、敵に突き刺さった。
「得意の早撃ちよ! メイドの土産にさせてあげるわ!」
 拳銃を構えたレイが、高速の弾丸で敵を撃つ。
「呪われた斬撃を受けてみなさい!」
 玲奈は呪われた刀を振るい、敵を刺し貫いた後、刃から呪詛を伝わせて敵の魂までも汚染する。
(「……花迄は凍らせたくない物だが……出力の加減は出来ないもの、かね」)
 蓄積したダメージに、敵も瀕死の状態で。
 玲奈の攻撃に合わせるようにディークスは飛び出し、高威力を誇る凍結の一撃を放つ。
 それがトドメとなり、敵は完全に消滅した。


 破壊の跡をヒールで修復し、一般人の避難も解除され、ようやく平和な夜を取り戻す。
「一般人にも桜にも、被害を出さずに終えましたね」
「一般人が無事で何よりね」
 玲奈とメイは頷き合い、ほっと胸をなでおろす。
 その間に、公園の入り口に置いた荷物を持って、戻って来るディークス。
 荷物の中身は、酒と肴やジュース類だ。
「俺は夜桜を堪能しよう」
 月明かりに照らされた、幻想的なヤエザクラを見上げる、カシス。
「共にどうだ」
 星見と花見を一緒にと、仲間たちを誘う、ディークス。
「星もイケメンと見るなら面白いんだろうけど……あーあ、はやく兄貴と会いたいわぁ」
 レイがディークスからジュースを受け取り、ぐびぐびと飲みまくりながら、愚痴を零す。
「僕も夜桜を見て楽しみたいな」
 のんびりとした休息を求め、夜桜を眺める、倭。
「ヤエザクラか、こういう夜の時間に見る桜は格別だね」
「この綺麗な景色、頑張った甲斐があったね」
 カシスと倭がお互いに笑顔を浮かべ、笑い合う。
(「星空を眺められるなんて、とても風情があっていいわね。この際だから、色々と星空を眺めて帰りましょう」)
 夜の空一面に、光り輝く星々を見上げ、美しさに息を吐くメイ。
「折角だ、夜桜と星空を堪能していこう」
「私も天体観測を堪能します」
 熾彩の言葉に、玲奈が反応した。
「天体観測を楽しみたいわね。私は、星座早見盤を見ながらするわ」
 メイが星座早見盤を持って夜空にかざすと、興味津々に集まる女性陣。
「何か温かい飲み物もあるといいよな。定番はお茶、紅茶、コーヒーあたりか? 欲しい人がいるなら配ろう」
 熾彩は飲み物を配り、全員に渡してから合流する。
「この季節は、どんな星座が見られるのかな?」
「春の星座ですか、北斗七星はどちらの方角なのでしょうかね?」
 メイの問いに、同じく星座にあまり詳しくない玲奈が、小首を傾げる。
「ちょっとこの星座早見盤って不良品じゃないの!? 星に線なんて引いてないじゃないっ!! もーっ、もっとわかりやすく動きなさいよ~」
 レイは正しい使い方が分からず、夜空と星座早見盤とを交互に、恨めし気に見ている。
「いや、実際の星空に線が引いてあったら大問題だよ」
 星空好きの倭が思わずツッコミを入れ、見つけやすい星を教えようと、夜空を指差す。
「あの三つの星を繋げれば春の大三角。目印にすると、他の星座も見つけやすくなるよ。あれが北斗七星……あ、今、星が流れたの見えたよね?」
 倭の説明に、全員夜空を見上げていたので、貴重な流れ星を見逃さなかった。
「そういえば流れ星に願えば叶うって言うわよね。よーしタイミングをはかって……」
 ふと、レイがなにかを思いつく。
「どうか年収がっつり顔はバッチリ身長高くて男性らしく気品と奔放さを兼ね備えた王族の血筋を……」
 延々と続く、レイの願い事。
「そこは普通に、お兄さんに会えますように、じゃないんですか」
 驚いた為、素が出る熾彩。
「また流れましたよ、流れ星が見られるなんて素敵ですね」
「……良い夜だ」
 玲奈が微笑むと、ディークスは星だけではなく桜も見ながら酒を楽しみ、一言呟く。
 仲間たちは星空を見上げながら相づちを打ち、暫し時間を忘れそうな美しい世界を堪能した。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月25日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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