この強襲も計算のうち……?

作者:なちゅい


 滋賀県大津市。
 日本一の面積を誇る琵琶湖を北東に臨むこの街は天智天皇が近江大津宮に遷都してから、1300年以上の歴史を持つ古都だ。
 風光明媚なこの地だが、以前は攻性植物の侵略地点であり、ケルベロス達が出動して全体作戦を決行した過去もある。
 そんな大津市の市街地にあるゴミ集積場で、放棄されていた壊れた電卓。
 それに対し、コギトエルゴスムにクモの足を思わせるような機械の部位が付いたような小型ダモクレスが近づき、内部へと入り込んでいく。
 直後、機械的なヒールが機体を包み込み、急速に作り替えてしまう。
 程なくして、巨大化した電卓の側面と下部に手足が生え、ダモクレスへと変貌が完了する。
「1+2+3+4=?」
「235ー48=?」
 電卓に手足が生えたような姿をしたそいつは画面に計算式を表示させつつ、周囲に大声を上げながら市街地の方へと向かっていくのだった。


 ケルベロスの活躍は目覚ましく、デウスエクスへの攻勢も強まっている昨今だが、まだ機を見て事件を引き起こす者が存在しているらしい。
「市街地に現れたダモクレスの討伐を願いたいんだ」
 ヘリポートに集まるケルベロスへと説明を行うリーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)の話によると……。
 きっかけは機理原・真理(フォートレスガール・e08508)のこんな一言。
「計算問題で攻撃してくる電卓ダモクレスもいそうですね」
 その情報を元に、リーゼリットが予知したところ、今回の事件を事前に予知できたのだ。
 現場となるのは、滋賀県大津市の市街地。
 とあるゴミ集積場に捨てられていた電卓がダモクレス化し、市街地を襲い始めるようだ。
「人的被害が起こってしまう前に、ダモクレスの討伐を頼みたいんだ」

 ダモクレスとなった電卓は全長3mほどに大型化し、機械の手足が生えている。
 計算式を画面に表示し、同時に言葉としても言い放ちながら、ジャマーとして加減乗除に該当するグラビティを使用してくる。
 その際は腕を刃や鈍器へと変化し、攻撃を行うようだ。
「基本的には、相手の動きを止めるよう立ち回るみたいだね」
 事件が起こるのは夕方。
 ダモクレスが街で暴れ始めるとすぐに警察隊が駆けつけ、周囲の封鎖をしつつ避難勧告を出してくれる。
 その為、ケルベロスとしては人払いのみ手早く行い、ダモクレスの抑え、討伐へと当たりたい。

 ダモクレスを討伐し、修復作業を終える頃には日も暮れているはずだ。
「折角だから、夕食に近江牛なんてどうかな」
 丁度、お腹も減っていることだろうから、お腹いっぱい食べて英気を養うといいだろう。戦いで消費したエネルギーを補うことができるはずだ。
「そうね。それじゃ、少しだけ頂こうかしら」
 参加を考えていたユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)にも笑顔が浮かぶ。美味しいものがご褒美として待っていると、顔が綻ぶのは仕方ないことだ。
 焼肉は鉄板でも金網でも行けるらしいので、選んで食べるといいだろう。
 どの部位を食べようかと楽しそうに語り合うケルベロスを見て、リーゼリットはくすりと笑って。
「それじゃ行こうか。ダモクレスの討伐、よろしく頼んだよ」
 彼女は最後にそう呼びかけ、参加するメンバーを自らのヘリオンへと招き入れるのである。


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)
佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)
 

■リプレイ


 滋賀県大津市。
 日暮れ時にこの地へと降り立ったケルベロス達はすぐさま、市街地に現れるはずのダモクレスを探して移動を始める。
 その間、真珠の銀髪に赤いアネモネを咲かせたオラトリオ、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)は、ウェーブのかかった金髪に黄梅らしき花を咲かせたユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)へと話しかける。
「メディックで行動をお願いね。あと……余裕があればだけど、エレキブーストで皆に壊アップを付与してもらえるとありがたいわ」
「ええ、頑張るわね」
 なお、彼女は先程、クールな銀のおかっぱ少女、マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)にも異常回復に回ってほしいと頼まれていたようだ。
 ともあれ、街にダモクレスが現れていたようで、その姿を尻目にケルベロス達は逃げる人々に着目する。
 すでに、黒髪の一部が赤いメッシュとなった機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が軽く避難を呼びかけていたのを、金髪ツインテールのヴァルキュリアの少女、佐竹・レイ(ばきゅーん・e85969)が目にして。
「まず、一般の人達に声かけね!」
 比較的、ダモクレスに近い場所で避難が遅れている人を確認し、レイは保護に当たっていた。
 こちらへと近づいてくるパトカーの音を耳にし、キリクライシャは拡声器を使って周囲の人々へと避難の呼びかけを行う。
「……警察の方達の誘導に従って、速やかに離れていてほしいわ」
 キリクライシャは向かい来るダモクレスの方へとテレビウムのリオンことバーミリオンを向かわせ、自身もすぐ間に入って一般人を庇えるできるよう構えていた。
「住民の避難誘導は警察に任せて、私たちは敵が現れたら即座に迎撃する方向でいきますか」
「そうね、マリー」
 マリーことマルレーネの言葉に応じた真理も、一般人や警察の位置に注意しつつダモクレスの対処へと移っていく。

 改めて、ケルベロス一行の前方、市街地で暴れていたのは、巨大な電卓の形をしたダモクレスだった。
「13+26=?」
「456-287?」
 敵は計算式を自身の身体の画面に表示させ、声に出して問いかけながら対応するグラビティを使って破壊活動を行ってきている。
「計算問題を出しつつ攻撃してくるダモクレスとは、面妖な」
 脚にまで届く長い黒髪の人派ドラゴニアン、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)は素直な感想を口に出す。
「算数嫌ぃ……あたしは問題を解く役に立ちそうにないわね」
 到着した警察に人的避難を引き継いで戦線へと駆けつけたレイは、ばっちりと仲間の援護に回る構えだ。
「……気を散らす作戦だとすると、確かに有効ね」
 妙に、敵の計略にキリクライシャは納得してしまう。
「今ではスマホで計算もできるし、……算数なだけマシだよね」
 マルレーネもこれが数学の計算式だったならちょっと手に負えなかったかもと語ると、真理が微笑ましげな表情を彼女へと向けていた。
「まぁいい、ケルベロスは教養もしっかりしている集団だということを教えてやろう」
 冷静に仲間達へとそう促してから、熾彩は敵へと攻撃を仕掛けていく。
 彼女に合わせ、他のメンバー達もまたダモクレス討伐へと乗り出すのである。


「238×46=?」
「693÷21=?」
 ダモクレスはただただ計算問題を口にしながら、破壊活動を続けていたが、人を発見すればグラビティ・チェインを求めて襲い掛かってくる。
 発射した大量のミサイルを浴びせかけ、ハンマー状になった腕で叩き割ろうとした。
 それらの攻撃を一般人や警察へと及ばぬよう、真理やテレビウムのバーミリオンがカバーに当たりながら、戦いを進めていく。
 炎を纏ったライドキャリバー、プライド・ワンがヘッドライトを赤く点滅させながら突撃する。
 それに合わせ、敵の弱点を即座に見抜いた真理がエアシューズの一撃を敵の中央かつキーとキーの枠部分目がけて叩き込む。
「23+45+67=?」
「135!」
 それに耐えた真理が暗算で即答してみせたのは、さすがレプリカントといったところ。
 ただ、ダモクレスは合っていようが答え合わせすることもなく、真理を含む前線メンバー目がけて加速し、刃となった腕で薙ぎ払ってきた。
 傷つく前線メンバーから、マルレーネがバッファーとして援護に当たる。
 まず、マルレーネは攻性植物から収穫した黄金の果実で仲間達を順に前線メンバーから照らし、さらに持ち替えたゾディアックソードで地面に描いた守護星座を煌めかせて味方の守りを固めていく。
 相手の攻撃はほとんどがこちらの動きを止めてくるグラビティばかり。
 それだけに、回復役を任されたユリアは、少しでも仲間達の動きが鈍れば雷の壁を張り巡らすのと同時に、治癒の力を働かせて万全の状態で戦えるようにサポートへと当たっていた。

 攻勢には残りのメンバーが当たる。
「2457-985=?」
「……1472」
 キリクライシャがぽつりと答えれば、それと同時に盾となるテレビウムのリオンこと、バーミリオンの画面にも同じ答えが表示されていた。
 減法は鉤爪状にした腕で引っかき、こちらの体力を奪ってくる。
 リオンが抑えてくれる間に、跳び上がったキリクライシャが流星の蹴りを叩き込み、ダモクレスの動きを若干だが鈍らせる。
 直後、リオンは応援動画を流し、主に傷つく前線メンバーの癒しに当たってくれていた。
「ばんばーん!」
 レイもまたエアシューズで蹴りかかり、逆にダモクレスの動きを止めようとする。
「23×4=?」
「二桁の計算なら楽勝よ! ……電卓は使うに決まってんでしょっ」
 算数は苦手と言っていたレイだったが、合間に彼女は律儀に応えようとしていたようだ。
 乗法は唯一、後方メンバーを狙って飛んでくるグラビティ。
 しっかり身構えてミサイルに耐えたレイは反撃として、背中に出現させた光の翼を暴走させてダモクレスへと突撃する。
 光の粒子と変わったレイの攻撃を喰らいながらも、敵は更なる計算式を提示して。
「1+2+3+4+5+6+7+8+9=?」
「えっとえーっと、1+2+3+……あ、画面変えるんじゃないわよ! まだ途中なのっ」
 慌てて、自前の電卓を叩こうとするレイの手前で熾彩が動く。
「45。……舐めるなよ、こちとら長い間寝たきり生活で、勉強は寝たきりでも出来る数少ないことの一つだったんだ」
 寝たきり生活だった過去を持つ彼女は氷結輪を飛ばし、ダモクレスの胴を切り裂く。
 更なる攻撃をと、熾彩は力ある竜の言霊で敵を凍らせようとした……のだが。
「46+25=?」
「61……違う、71だよ!」
 思わず簡単な問題でケアレスミスしてしまい、焦った熾彩は少女のような素の表情を見せてしまっていたのだった。


 その後も、電卓ダモクレスの出題とグラビティのコンボは止まらない。
 真理は一度、敢えて間違った答えを告げてヘイトを稼げないかとも考える。
 近距離攻撃メインな相手とあって、被害が後衛に及ぶことは少なかったが、それでも一定の効果は見られ、僅かだが真理の方を狙う頻度が上がっていたようだった。
 一方で、ケルベロスの勢いが若干上回っていることもあり、ダモクレスの全身がボロボロになってきていた。
 激しい敵のグラビティにさらされる仲間を助けるべく、リオンの応援動画が流れる前線メンバーを気にかけるキリクライシャ。
 ライドキャリバーのプライド・ワンが激しくスピンを仕掛けた直後を彼女は狙って。
「……更に抵抗を奪いましょう」
 グラビティによって真っ赤な林檎を産み出し、敵の頭上へと叩き落とす。
「……!?」
 その時、衝撃を受けたダモクレスの画面表示がおかしくなり、妙な機械音を発し始める。
 すかさず、ユリアがライトニングロッドを振るい、電気ショックがチームの火力役である熾彩を賦活して。
「そろそろ授業は終わりとさせてもらう」
 先ほどミスして可愛らしいところも見せた熾彩だったが、その後は淡々と正答を重ねつつ、攻撃を加えて。
 熾彩が取り出したガネーシャパズルから竜を象った稲妻が放たれ、敵の体を貫いていく。
「………………!!」
 感電して刹那動きを止めた敵の隙を、レイは見逃さない。
「あたしに算数の問題なんてみせた報いなんだからっ」
 レイは思った以上に鬱憤が溜まっていたらしく、リボルバー銃を素早く撃ち放ち、相手を追い詰める。
 仲間達がなんとか回復を間に合わせているうちに、一気にレイは勝負をかけた。
「撃ちまくってやるわー!」
「675-……265=?」
 ダモクレスの機械的な音声がとぎれとぎれになってきていたのを見て、マルレーネが飛び込む。
「410。近江牛が待ってる。さっさと退場しろ」
 出来る限り、敵の出題を解きながら戦おうとしていたマルレーネ。 それは計算するという敵の……電卓の使命を果たしたいのだろうというせめてもの彼女の配慮なのだろう。
 ただ、ダモクレスとして破壊活動を行うのであれば、止めねばならない。
 丁度、真理が攻撃を合わせてくれるのを確認し、マルレーネが桃色の霧を展開していく。
「答えを出すべき電卓が問題を出すんじゃないっ。霧に焼かれて踊れ……!」
 強酸性の桃色の霧で相手を包み込まれたダモクレスへ、息を合わせたかのように真理が神州技研製アームドフォートからダモクレスへと砲弾を撃ち込んでいく。
「424÷……8=……?」
 さすがの電卓ダモクレスも、ケルベロスの力までは計算外であっただろう。
「53……降参という意思表示でしょうか」
 真理の言葉が正しいと言うように、ダモクレス内で何かが小さく爆ぜ飛ぶ。
 光に包まれたダモクレスの身体は見る見るうちに縮んでいく。
 その輝きが収まった後、ひび割れた道路の上に壊れた電卓が転がっていたのだった。


 電卓ダモクレスを討伐して。
 ケルベロス達は手早く戦場となった市街地のヒーリングへと当たる。
 真理が陣形を組ませたドローンによって戦闘の影響を受けた建物や道路の補修へと当たり、キリクライシャはバーミリオンの応援動画を主として修復作業を進める。
 熾彩も黄金に輝かせた掌を破壊箇所へと翳し、各所にできた亀裂を幻想で埋めていった。
 ある程度作業を進めれば、すっかり日も暮れてしまう。
 空腹を覚えるケルベロス達はそのまま夕食を食べに、近場の焼肉店へと入っていく。

 店内に立ち込める焼けたお肉の匂い。
 それだけで、ケルベロス達の雰囲気も明るくなる。もっとも、普段から無表情のメンバーもちらほらといたが。
 半数が金網で焼くのを希望し、早速その上へと近江牛を並べていく。
 肉が焼ける度にぽたり、ぽたりと金網から滴る肉汁は食欲を煽る。
 香ばしく焼けたところで、熾彩は早速一口。
 程よく焼けた肉が舌の上で主張し、噛みしめる度に口の中に上品な脂の味が広がっていく。
「これが近江牛か……おいしいな」
 彼女はいくつか並べられたタレも試しつつ、その味を堪能する。
 甘口のタレにしていたキリクライシャはタンやロースをメインに焼きつつ、皆が食べるモノを気にして。
「……ユリアさん、どんな味付けが好みなのかしら?」
 さながら女子会のような……実際、女性ばかりのメンバーではあるのだが、そんな中でユリアはマイペースに少し考えて。
「そうね。味付けが濃くなければ」
 そう言いつつ、彼女はごまだれなどを好んで使っていたようだ。
「……追加で何か頼む?」
 キリクライシャはそこで、焼くための茸やサラダを頼もうとメニューを開くと、端にデザートメニューがあるのを発見してしまい、じっくりと眺める。
「……林檎シャーベット一つ、頂けるかしら」
「あたしも! あと、これとこれも、トッピング鬼盛りで!」
 一緒になって、レイがデザートを頼む。
 なんでも、お肉は胸がムカムカしてしまうそうで、レイはデザート専門で口にしていた。
「焼肉屋さんの安いアイス好きーー、いくらでも食べられちゃうわ! ……いっただきまーす」
 頼んだトッピングてんこ盛りのアイスを、レイは嬉しそうに頬張っていた。
 そして、別のテーブルには真理とマルレーネの姿が。
 彼女達は鉄板焼きを希望したので、別テーブルだったのだが。
 フィレ肉を焼いていた彼女達は互いに食べさせっこしていて。
「はい、あーん」
「あーん……、うん、美味しいです」
 そして、今度は逆に真理がマルレーネへと交換して差し出す。
「あーん」
「うん、真理が焼いたものだから一段と美味しい」
 鉄板よりもあつあつな2人は、見ているだけでごちそうさまと言いたくなるような世界を作っていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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