第九王子サフィーロ決戦~藍軍師アクリウムの隙をつけ

作者:青葉桂都

●知将の隙
 磨羯宮ブレイザブリクを守護するエインへリアルの第九王子サフィーロは、四方より迫る死神の死翼騎士団に対して、軍を四方に配置して守護を行っていた。
 激戦が続く戦場の一方面。サフィーロ軍を指揮しているのは、エインへリアルにしては小柄で、まだ幼くも見える軍師だった。
「状況はよくないな」
 藍軍師アクリウムは羽扇をコマが乗った地形図に向けて呟く。
 彼は死翼騎士団・知将と、一進一退の戦術戦を繰り広げていた。
「知将の布陣には一分の隙もございません。敵ながら見事というしかありませんね」
「……否。隙を作らぬことなど不可能だ。ただ、優秀な軍師はそれをうまく覆い隠す。敵からも、味方からもな」
 地形図を扇でなぞり、彼は無言で思考を始めた。
「たとえば……そう、ここだ。布陣の妙で補っているが、戦力は少ない。ここを突破することができれば……」
 それはアクリウムの戦術眼があって始めて見抜くことができる隙だった。
「だご、ここに大戦力を向ければ知将はすぐ対応してくるだろう。とすれば、本隊はこのまま正面から当たらせる。ここには僕自身を含めた精鋭で攻撃をしかけて……挟撃する形になれば……」
 アクリウムが決断を下すときを、側近のエインへリアルたちは静かに待ち続けていた。

●サフィーロ軍を討て
 集まったケルベロスたちを、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はゆっくりと見回した。
「先日行われたエインヘリアルの第八王子強襲戦は成功に終わりました」
 ホーフンド王子は生き延びたものの、アスガルドに逃げ帰ったようだ。
「さらに皆様の作戦によりサフィーロ王子が裏切ったという情報がアスガルドに伝わりました。結果、エインヘリアルはサフィーロ王子からブレイザブリクを奪還しようとしています」
 これは素晴らしい結果と言える。
 そして、この好機を生かすためにか死神の死翼騎士団は総力を挙げてブレイザブリクの攻略に軍を送り込んでいるようだ。
「死翼騎士団が動いたことで第八王子強襲戦からの撤退は容易にできましたが、このままブレイザブリクが死神の手に落ちるのを見過ごすわけにはいきません」
 あえて死翼騎士団と敵対する必要はないが、サフィーロ王子を撃破してブレイザブリクを制圧するのは、ケルベロスが行うべきことなのだ。
 現在ブレイザブリクでは、死翼騎士団の軍勢がサフィーロ王子率いるエインヘリアル軍を四方から攻撃している。
「サフィーロ王子は、有力な部下である藍軍師アクリウム、瑠璃将ラズリエル、石榴将グラナートの3人と分担してそれぞれ一方向ずつ防衛を担っています」
 戦力としてはサフィーロ軍がいくらか劣勢のようだ。
 王子は本国に援軍を要請し、それを頼りに防衛を行っているが先述の通りサフィーロは裏切り者と目されているため援軍は来ない。
「今回の作戦目標は、この戦場に介入してサフィーロ軍の有力なエインヘリアルを撃破していただくことです。皆さんに担当していただくのは藍軍師アクリウムになります」
 アクリウムは死翼騎士団の知将が率いる軍からの攻撃を守っている。
 とはいえ、数百から千近い数のデウスエクスが入り乱れる戦場に正面から突撃してもアクリウムのもとへたどり着くことはできない。
 見つからないように戦場の状況を確認し、機を見て奇襲をかける必要がある。
 あるいは秘密裏に介入して機を作り出すか。
「たとえば少数の部下を率いて出撃するような作戦を行うことがあれば、襲撃のいい機会になるでしょう。アクリウムを目標とするチームは皆さんの他にもう1チームありますので、うまく協力して動いてください」
 全体の状況として死翼騎士団側が優勢なので、アクリウムさえ撃破することができれば残ったエインへリアルたちは死神が倒してくれるだろう。
「ただし、そのまま撤退すると死翼騎士団がブレイザブリクを制圧してしまいます。死神は現時点でのケルベロスとの全面対決は望んでいませんので、知将との交渉に持ち込めば退いてくれる可能性があります」
 彼らの目的はブレイザブリクそのものではなく『死者の泉』を奪還することだからだ。
 知将は名のごとく頭がいい。状況を理解すれば現状でのケルベロスとの戦闘は避ける可能性は高いだろう。
 とはいえケルベロスだけが利を得るようでは不満を感じて交戦に踏み切る可能性もある。今後の関係も考えて、うまく状況を説明できればより望ましいだろう。
 互いに利のあるように見せかけられたなら、この機会に情報を引き出すこともできるかもしれない。

「死神ともいずれは決着をつけなければなりませんが、今はエインへリアルを打撃を与え、東京焦土地帯を取り戻すいい機会です」
 アスガルドのゲートを破壊するまでは、うまく利用したいところだと芹架は言った。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)

■リプレイ

●番犬たちの偵察
 磨羯宮ブレイザブリクの周囲では、死神たちの軍とエインヘリアルたちの軍がぶつかり合っていた。
 その戦いの現場へと、ケルベロスは少しずつ接近していく。
「いやー、まったくすごい数のデウスエクスよね!」
 トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)が、彼女にしてはいくらか抑えた声で言う。横ではボクスドラゴンのギョルソーが頷いている。
「こんな大規模な戦闘に巻き込まれたら、ケルベロス8人……いえ、16人じゃひとたまりもないね」
 モモ・ライジング(神薙桃龍・e01721)は、言葉と裏腹に目を輝かせている。
 もっとも動きは冷静そのものだ。肌を露出しない服のポケットから、チョコをひとかけら取り出して彼女は口に放り込んだ。
「気づかれないよう、気をつけなくちゃね」
 迷彩柄のポンチョと丸天帽子を身に着けたガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)が言う。
 全員が身を隠す気流をまとい、さらにカモフラージュになる装備を身に着けていた。
「けど、作戦に成功すればエインヘリアルの王族の1人とその軍を壊滅させた上でブレイザブリクを占拠できる。だからオレ達も役割をきっちり果たそうぜ。グズグズしててもしょうがねえしよ」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が言った。彼も自慢の筋肉を外套で隠している。
 同じ戦場を担当するもう1つのチームと、ハンドサインで連絡を取り合いながらケルベロスたちは偵察を続けた。
「まさかエインヘリアルと死神の間に入ることになるなんてちょっと不思議な感じかな。できたら三つ巴は避けたいところだし、慎重に行かないとだね」
 スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)が、光の反射に気をつけながら双眼鏡で敵軍を観察する。
「死神ねぇ……まあ、正直不思議な奴らだよねだぜ。何というかいつも戦力増強ばっかりしてるイメージ……ま、その辺はそのうちなのだぜ。今はこの状況乗り越えないとねだぜ」
 仮面の奥からタクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)も敵をじっと見ていた。
「動きがあったみたいっすよ。エインヘリアルの一部が死神を別方向から攻撃しようとしてるみたいっす」
 神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)が身を乗り出すと、ツインテールにした黒髪が揺れる。エインヘリアル側は挟撃を狙っているようだ。
「アクリウムが加わっている。だが、動きが早いな」
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は狙うべき敵……藍軍師アクリウムの姿を挟撃部隊の中に見つけていた。
 彼に前後して、他の者たちも同じく敵の存在に気づく。
 もう1つのチームもハンドサインで同じ情報を送ってきた。
 好機だ。

●挟撃
 藍軍師アクリウムが、本隊とは別行動を始めた。
 状況を確認し、2チームのケルベロスたちもそれぞれに動き始めた。
 偵察の時から変わらず、身を隠す気流をまとって8人のケルベロスとサーヴァントたちはアクリウムの元へと移動していく――。
「何者だ、貴様ら! 知将の部下か!」
 だが、先ほどより近くまで接近したケルベロスを敵は見過ごさなかった。
「見つけられちゃったか。精鋭だから……ううん、それ以上に、配置に隙が少ないからだね」
「でも、ここで退くわけにはいかない。みんな、突っ切るぞ!」
 スノーエルの言葉に、凛々しい言葉でガートルードが応じる。
 得物を握り直して、ケルベロスたちは一気にエインヘリアルの群れへと踏み込んだ。
「動きが早い上に、統制がとれてる。指揮官が優秀だと兵士の動きも違うね」
 冷静に告げたモモが、また1つポケットから口にアメ玉を放り込む。
「ああいう手合いは生き残らせると面倒っすね。軍師の指揮の有無によって敵軍の動きがガラッと変わる。敵の大群も指揮する頭がなければ烏合の衆。ここで確実に仕留めて、戦闘を優位に進めるっすよ」
 結里花が雷を身に纏う。そのかたわらに現れるのは、彼女の友である銀髪のエルフ。
「二人心を合わせれば、その一撃は金を断つ!! 連携奥義断金一式!! 疾風迅雷!!」
 シャドウエルフの技が風を呼んで、結里花の雷がその風に混ざりあう。
 雷をまとった竜巻がエインヘリアルたちを薙ぎ払った。
「――邪魔をしないでください。あなた方の相手をしている暇はありません」
 一瞬前とはガラリと口調を変えて、結里花は告げた。
 スノーエルの矢で祝福を受けたモモが、『玄夢』ナユタの鍵で行く手を阻む配下の1体を打ち砕く。
 他のケルベロスたちも藍軍師旗下の軍を突破すべく攻撃を繰り出していた。
 エインヘリアルの群れを突っ切る間に、もう一方のチームがアクリウムへと攻撃をしかけているのが見えた。
 アクリウムの注意がそちらに向いている間に、こちらも突破に成功する。
 状況は優勢とは言えないようだ。
 けれど、銀髪のサキュバスが巻き起こす火球の爆音に乗せられて、声が聞こえてくる。
「――向こうのチームも猛烈な勢いで攻め込んできてるから」
 その言葉通り、後方から接近してケルベロスたちは藍軍師アクリウムを挟み撃つ。
「よし、援護は任せろ!」
 泰地が仲間たちへと声をかけた。
 同時に、引き締まった筋肉から穢れに満ちたオーラが吹き出して、彼自身を強化する。
「ここからが本番なんだよ。マシュちゃん、タクティさんを回復して欲しいんだよ」
 他の者たちの傷は、スノーエルの生んだヴェールにくわえてマシュが属性をインストールして癒していた。
「Brechen……」
 ヴォルフの口から洩れたのは祈りだった。
 だが、それは邪な祈り。エインヘリアルたちの絶望を願う祈りだ。
 朽ち果てた祈りに応えて精霊が姿を見せる。
 とっさに軍師をかばおうとした兵たちへ精霊が襲いかかった。
 精霊が与える絶望がデウスエクスの心を乱し、動きを止めていく。
「オウガちゃん、頼んだよッ! ………喰らえッ!」
 傷ついている1体、アクリウムに一番近い場所に移動した敵へモモが銀の弾丸を放った。
 左手を強く握りしめた瞬間、オウガメタルの弾丸が銀の龍へ変わって護衛を打ち砕く。
 ヴォルフの技が敵を止め、モモが切り開いた隙間から、仲間たちがアクリウムを狙いはじめる。
「ミミック、仲間を守りながら敵の動きを止めるんだぜ!」
 タクティは自分のサーヴァントへと命じながら、ハンマーガントレットを砲撃モードへと変化させた。
「さあ、挟み撃ちよ。逃げ場はどこにもないからね!」
 トリュームが握っていたハンマーも同じく変化した。
 2発の竜砲弾が後方からアクリウムを打ち、足を止める。
「怯むな! 敵は少数! 落ち着いてかかれば、どうということはない!」
 羽扇を振り回し、アクリウムが号令を下す。……いや、号令というには、少しばかり冷静さを欠いた声だ。
「慌てているところ悪いが、機会を逃しはしない!」
 足が止まった軍師をガートルードの放つ混沌の水が狙う。
 アクリウムさえ倒せば勝利だと、皆が理解していた。

●軍師の終焉
 挟撃からの混乱が抜けぬうちに、2チームのケルベロスは両面から攻撃をしかける。
 アクリウムは戦術を立て、羽扇を掲げ、ケルベロスの脅威を押し戻そうとする。
 しかし、敵の前衛がアクリウムをかばおうとすることは予想のうちに入っている。
「そろそろ俺も攻撃に参加させてもらうぜ。悪いが、震え上がってもらう!」
 泰地の筋肉が盛り上がり、風をうならせ氷結輪を放つ。
 強烈な冷気を纏う輪はディフェンダーに阻まれたが、敵を氷漬けにした。
「さあ、燃やします」
 そこに襲いかかるのは結里花の炎。伸ばした如意御祓棒を高速回転し、炎が敵をまとめて燃やす。
 敵は反撃を試みようとしたようだったが、それより早く投げつけた大型ナイフがその首を貫いた。
「体は大きいが、動きは人の兵士と同じだな。……殺しやすい」
 ヴォルフが無駄のない動きで接近してナイフを抜くと、防衛役の敵は声もなく倒れた。
「そうね。もっと私に『スリル』を頂戴!」
 錨型の鍵を振り回し、炎を浴びた別の1体にモモが痛打を与えている。
 敵も黙ってやられてはいないが、そこを支えるのはスノーエルだ。
「信じられたのは、そう……あなたがいたから……」
 執事服の青年が彼女のかたわらに現れて、共に希望に満ちた歌を歌う。
 足を止められ攻撃を受けたガートルードを、優しく響くデュエットが癒していく。
 戦いは続き、配下の数が減ると共に、アクリウム自身の傷は増えていた。
「ハーイ、今週のビックリドッキリなヤツはコレ!」
 トリュームの呼び声に応えて、虚空から現れたパーツが変形合体し、残り少ない配下の1体を爆散させる。
「ケ、ケルベロス……なんと忌々しい連中であることか……」
 その時、誰かの攻撃を受けたアクリウムの、怨嗟の言葉が血と共にこぼれ落ちた。
「貴様らが横槍を入れてこなければ……我が軍は必ず知将を打ち倒して……いや、待てよ?」
 見開いた目はここにいない誰かの姿を見ている。
「もしや、知将はこうなることを見越した上で……」
「反省会や感想戦はあの世でやってくれないか?」
 黒豹の獣人の声が響いたかと思うと、ボーイッシュな少女が生み出した火の雨が軍師に降り注いだ。
 好機と見て、ケルベロスたちはアクリウムへと攻撃を集中させた。
「さあ、笑えよ。全ては夢だったってな!」
 タクティは手の中に無数の結晶を生み出す。
 その中に描き出された悪い未来がアクリウムの現実を浸食していく。
 ガートルードがワイルド化した左手を向けた。
「それがお前の力か? だが……それだけか! その力ごと……斬り伏せる!」
 爪を巨大化させた手が伸びて、アクリウムの守りを容赦なく切り裂く。
 他の者たちの攻撃も軍師の体力を削っていく。
「顎が……お留守」
 そして、小柄なレプリカントがアクリウムの顎を蹴りあげ、その意識を永遠に奪った。
 アクリウムが向かおうとしていた場所から、鬨の声が聞こえてきた。
「……知将が動いたか」
 ヴォルフが呟く。
「あっちも生かしておくと、もっと厄介そうっすけどね」
「けど、今はお引き取り願うしかねぇ。もう一仕事するとしようぜ」
 結里花や泰地が言葉を交わす。
 ゆっくり傷の手当てをしている暇はない。
 最低限の手当てをして、ケルベロスたちは知将の部隊を目指して移動していった。

●知将との交渉
 アクリウムを失ったエインヘリアル軍が死神軍に撃破されるのは時間の問題だった。
「大勢は決しましたね」
 戦場の一角、羽扇で顔を隠した知将が呟く。
「ブレイザブリクに攻め込む前に、ちょいとこっちの話も聞いてくれねぇか?」
 泰地が声をかけると、死翼騎士団の知将はゆっくり振り返った。
「驚きましたね。まさかこのような場所にケルベロスがいらっしゃるとは」
(「驚いてるようには見えないけどね……」)
 口の中でアメを転がしながら、モモは心の中で呟いた。
「戦いに乗じて私を暗殺しようと?」
 死神が問いかけてくる。羽扇の向こうでどんな表情をしているかはわからない。
 直衛の死神は知将の命令を待っているようだ。いつ戦いが始まってもおかしくない。
「知将さんって、羽扇でお顔を隠されてますけど……恥ずかしがり屋さんなんでしょうか?」
 緊迫した空気を崩したのは、ガートルードの一言だった。
「……これは面白いことをおっしゃる」
 羽扇の奥から含み笑いが聞こえてきた。
「戦いに来たわけじゃないっすよ。話を聞いて欲しいって、もう言ったっす」
「いいでしょう。聞く価値があるお話が続く間は、他の者にも手出しはさせません」
 結里花の言葉に、知将が頷いた。
「話が早くてありがたいね。あ、よかったらお饅頭でも食べる?」
 ボーイッシュな女性の発言に対して、知将は気持ちだけもらっておくと答える。
 本題はここからだ。
「わかってるかもしれないけど、アクリウムは私たちが倒したんだよ」
「証拠もある。あいつが持っていた羽扇だ」
 スノーエルの言葉を、黒豹の獣人が補強する。
「それはそれは。エインヘリアルの戦線が一気に崩れたのは、そのおかげというわけですか。感謝すべきなのでしょうね」
「ああ、その通りだぜ」
 まるですべてをわかっているような顔をして、トリュームが頷いてみせる。
「感謝の印として我々になにか要求があると?」
「ああ。エインヘリアル軍を片付けたら、そのまま撤退して欲しいんだぜ」
 タクティが言った。
「そっちの目的が、ブレイザブリクじゃなくて死者の泉だってことはわかってるんだぜ。ケンカするより、お互い欲しい物を手に入れたほうがいいんじゃないかだぜ?」
「ふむ……検討の余地はあるかもしれません。とはいえ、ブレイザブリクを手に入れておいたほうがこちらとしても有利になるのですがね」
 一瞬、再び空気が張り詰める。
「猛将さんや勇将さんなら、単純にそう考えそうですね。そういえば、猛将さんや勇将さんとは死翼騎士団よりも前から一緒に戦ってたんですか?」
 空気を変えようとガートルードが口を挟む。もっとも質問への答えはなかったが。
 アメを飲み込んで、モモが口を開いた。
「有利でもないんじゃない。エインヘリアルの本星がブレイザブリクに増援を送り込んでくる。この前戦った時、そうなるように情報を流したから」
「なるほど。制圧すれば、ケルベロスに襲われるのを気にしながら、エインヘリアルに対処しなければならないと。それはあまり望ましくない状況ですね」
 モモと知将の視線が交わる。
「すっげ。今のでそこまで考えるのかよ」
 トリュームが口の中で驚きの声を上げた。
「いいでしょう。ここは退くとしましょうか」
 知将はそこで一度言葉を切った。
「……ただ、これはあくまで今回限りのこと。ケルベロスがブレイザブリクを奪還された時、改めて制圧に動くのは我々の自由と考えてかまわないでしょうね?」
「それは仕方ないんだぜ。けど、そうなることはないんだぜ」
 確認の言葉にタクティが応じる。
「ほう?」
「ケルベロスに味方をしてくれてるエインヘリアルもいるんだぜ。全部は明かせないが……色々先手は取れてるんだぜ。今までも、きっとこれからもねだぜ」
 少しの間、無言で知将はタクティに顔を向けていた。
「……なるほど。では、お互いの健闘を祈っておくことにいたしましょう」
 タクティの言葉をどう判断したのかはわからなかった。
(「呼吸も仕草も、最初から最後まで異常なしか。よほど隠すのがうまいのか、それともすべてわかった上で茶番を演じていたのか……」)
 知将を観察していたヴォルフは、口に出さずに考えていた。誰かに伝えるとしても交渉が終わってからだ。
 敵の真意は羽扇の奥に隠れたまま。
 ただ、知将がブレイザブリク制圧から手を引いたことだけは間違いない。
 それでも、死神たちが撤退するまで、ケルベロスたちは警戒を解かなかった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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