第九王子サフィーロ決戦~瑠璃と青龍の激突

作者:質種剰

●瑠璃将奮戦
 八王子焦土地帯。
 ケルベロスの狙い通りに第八王子ホーフンドが撤退した事で、ブレイザブリクの防衛網へも見逃せない隙が生まれた。
 この好機に乗じて、ブレイザブリクの奪取を目論む死神軍勢——かの死翼騎士団がブレイザブリクへ進軍を始める。
 第九王子サフィーロも本国へ援軍を要請した上で、死翼騎士団との決戦に挑んだ。
 しかし、『サフィーロ王子反逆』というケルベロス側が流した虚報によって、エインヘリアルの増援が来ないのを、サフィーロ王子は知るよしもなかった。
「皆の者、本国からの応援が来るまでの辛抱だ。死神風情に遅れを取るなよ!」
 それは、青く輝く全身鎧で身を固めた瑠璃将ラズリエルも同様で、増援到着を心の支えに部下を鼓舞する姿は、もしケルベロスが知れば哀れにすら映るだろう。
 とはいえ、アスガルドから増援が来ない事を知らないのは、彼と戦っている死翼騎士団・勇将とて同じ事。
「死者が幾ら寄り集まろうと恐るるに足らぬわ! 者ども、我に続け!!」
 勇将自ら先陣を切って防衛線へ攻め込み、ラズリエルの赤いハンマーと激しく切り結んでいた。
 戦場は乱戦の様相を呈していたが、虎視眈々と機を狙っていただけあって死翼騎士団が優勢。
 また、将軍同士が一騎打ちでぶつかっている状況も、ケルベロスから見れば戦闘へ介入する際に何かと有利かもしれない。

「第八王子強襲戦、お疲れ様でした」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、集まったケルベロスたちへ説明を始める。
「皆さんのご尽力のおかげで作戦は成功、ホーフンド王子はアスガルドに逃げ帰ったようであります」
「更に、皆さんの作戦によってサフィーロ王子が裏切ったという情報がアスガルドへ伝わりましたから、エインヘリアル軍は『サフィーロ軍を敵として』ブレイザブリク奪還戦の準備を始めたであります」
 これぞケルベロスたちの作戦勝ち、素晴らしい成果といえるだろう。
「しかもこの好機を生かすためなのか、死神の死翼騎士団までが総力を挙げて、ブレイザブリク攻略の進軍を始めたであります」
 死翼騎士団が早期に動いてくれたおかげで、第八王子強襲戦に参加したケルベロスの撤退も容易にできたとはいえ、ブレイザブリクが死神の手に落ちるのをむざむざ見過ごせはしない。
「死翼騎士団を敵とする必要はありませんが、サフィーロ王子の撃破とブレイザブリクの制圧、これらは皆さん方ケルベロスの手で行うべきであります。連戦でお疲れでしょうが、もうひと踏ん張り、よろしくお願いいたします」
 と、頭を下げるかけら。
「さて、皆さんにお願いしたいのは、『瑠璃将ラズリエル』と『死翼騎士団・勇将』がぶつかっている戦場への介入であります」
 サフィーロ王子は『本国からの増援』を前提に、ブレイザブリクの防衛を紅妃カーネリアへ託して、ほぼ全軍を動かして死翼騎士団との決戦に臨んだという。
 死翼騎士団が四方から攻め入ってきたため、サフィーロ王子も軍を4つに分けて迎撃に出た——それ故、双方の将軍が離れた位置で場合によっては孤軍奮闘しているのだった。
「現時点での戦況は、サフィーロ軍が少し劣勢でありますから、指揮官が暗殺されて混乱すれば、それに乗じて死翼騎士団がサフィーロ軍を一気に撃破できるでありましょうね」
 基本的には、双方の将兵へ発見されずに戦況を伺ってから、タイミングを見計らって突撃し、奇襲によって瑠璃将ラズリエルを撃破して撤退——という流れの作戦である。
「ですが、今回は2班共同の作戦であります。1班が敵を混乱させて、その隙に1班が奇襲したり、あるいは……1班に瑠璃将の奇襲を任せて、もう1班は勇将と接触して協力を要請するとか、色々幅広い作戦をとれるでありますよ」
 但し、サフィーロ軍を撃破した死翼騎士団は、放っておくとブレイザブリクの制圧へ向かうため、戦闘終了後は可能な限り、交渉などで阻止する必要がある。
「死神側はケルベロスとの全面抗争は望んでいませんから、きちんと状況を説明すれば軍を引いてくれる可能性は高いでありましょう」
 もっとも、勇将自身が戦争で横槍を入れてきたケルベロスへ不満を持つ可能性も充分ある。
 その場合も、さっさとブレイザブリクへ攻め入る危険性があるので、交渉時には気をつけてほしい。
「せっかくの接触の機会でありますから、多少は情報交換なども行えるかもしれませんね」 かけらはそう説明を締め括って、彼女なりに皆を激励した。
「死神はデウスエクスですし信用はできませんが、無駄な争いを避けられるなら、それに越したこと無いであります……少なくとも、アスガルドのゲートを攻略するまではうまく付き合った方が得策でありましょうね。ご武運を」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
一式・要(狂咬突破・e01362)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)

■リプレイ


 八王子焦土地帯。
 8人は、瑠璃将ラズリエルと死翼騎士団・勇将が率いる両軍の戦いへ介入すべく、死翼騎士団に接触を図った。
「勇将殿がお待ちだ」
 果たして前回の交渉時に勇将の側で控えていた護衛かどうかは不明だが、それでも8人は勇将のいる本陣へあっさりと案内された。
「ケルベロスのラーナ・ユイロトス——一騎打ちにでも持ち込みたいところ、邪魔をしてしまい申し訳ありません」
 まずは、ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)が礼節を重んじた所作で声をかける。
「しかし諸事により、この戦場に介入させていただきます」
 何せ、本当に刃を交えている最中に横槍を入れては、心象悪化を覆すのは難しい。
 だから、8人は両軍の兵が本格的にぶつかるより早く、勇将へそれと告げる必要があった。
「『ケルベロスは全てのデウスエクスの敵である』事実を『信頼』されてるなら、こちらの横槍、もとい介入とてわかっていたことかと」
 ラーナがその常々笑顔に見える表情で、さっぱりした物言いをする。
「無論。団長はそこまで見越して動いていられる。我もそれに従うまでよ」
 勇将がフンと鼻を鳴らす。
(「よかった。機嫌を損ねずに共闘の意志は示せたみたい」)
 そう安堵の息をつくのは、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)だ。
「団長は時勢の読める方、か……確かにタイミング的にはいいところよね」
(「個人的にはもうちょっと、早く動いてほしかったかもだけど」)
 内心複雑なのは、ホーフンド本隊との戦いでの辛勝と、未だ見つからぬ仲間の安否という気がかりがあるからか。
「お久しぶり、って程時間も開いてないか……」
 かぐらはともすれば萎れそうな気持ちを懸命に奮い立たせて、笑顔を作る。
「同族以外の顔は区別がつかぬが、前にも来た奴か」
「そうよ」
「また会いましたな勇将殿、私も先日のケルベロスです」
 次いで、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)が恭しく頭を下げる。
「お忙しい所恐れ入りますが、少しだけ話を聞いて頂けますか?」
 あくまで物腰柔らかに礼儀正しく敬語を崩さない赤煙の丁寧さには、
(「以前の交渉以上に困難な状況ですが、失敗は許されませんな」)
 という気概が込められている。
「止めはせぬ。話すがいい」
 抑揚のない声で続きを促す勇将。
「……これは、特に蒼玉衛士団側には気取られたくない情報なんだが、奴らが信じているアスガルドからの増援は来ない、と我々は『予測』している」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が続きを引き取って、ヘリオライダーの予知については上手くぼかしながら説明した。
「サフィーロ王子が反逆したという嘘情報を掴ませるのに成功してな。本星へ引き上げたホーフンド王子軍がサフィーロ王子軍を裏切り者として切り捨てる可能性が高いのだ」
 実際に『エインヘリアル軍がサフィーロ軍を敵としてブレイザブリク奪還戦の準備を始めた』という、ケルベロスのみが持ち得る切り札を最良のタイミングで切ってみせた。
「それと、八王子が係争地化しているのは事実だが、少なくとも今の時点ではゲート奪還ではなく外堀を埋めている段階に過ぎない」
「……それが」
「以前の交渉時に述べていた状況とは些か異なるわけだ」
 じっと勇将の目を見据える晟。
「カラミティ、ザルバルク、レクイエムそして残霊……」
 晟がそう並べ連ねた瞬間、勇将の眼光が鋭さを増した。
「エインヘリアルの情報を請うならまだしも、今ここで我ら死神について訊く意図は」
 見ると、一行の周りで控えていた死翼騎士団の護衛たちも、武器の柄へ手をかけている。
 一触即発。
(「デスバレスへ魂が落ちる性質の者についても訊きたかったけど……これも死神の内情と捉えられるでしょうか」)
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は、張り詰めた緊張感をひしひしと感じ取って、思わず口を噤んだ。
「キャー、怖い。違うのよ。そんなつもりじゃなくて、もし目的通りに死者の泉が奪還できたとして、その後が心配になったの」
 焦って一式・要(狂咬突破・e01362)が助け舟を出す。
 線の細い美青年で特徴的な口調の通りオネエキャラらしいが、中性的なファッション故に爽やかな雰囲気のお兄さんといった風情もある。
「デスバレスに引きこもった死神たちが地球人に手を出さなくなったとして、グラビティ・チェインの供給大丈夫なのかなって」
 そう心から死神を案じる要は人が好さそうに見えるが、その実、前回に勇将から得た情報の中で嘘っぽく聞こえた話について、真偽を確かめたい意図があったようだ。
「……何を勘違いしているのかは知らんが、そんなに先まで共闘関係が続いていると思うか? 敵の本拠地について易々と聞き出せると思うならおめでたい頭だな」
 と、勇将の答えはにべもない。
 実際、今しばらくの共通の敵であるエインヘリアルについて死神が得ている情報を聞き出すならまだしも、晟も要も方向は違えど死神側の情報について問おうとした。
 8人の間で『ヘリオライダーの予知能力については隠し通す』と決めていながら、死神勢力の根幹について聞き出そうとする矛盾。
「すまなかった。今のは忘れてくれ」
 晟はその矛盾に潔く気づいて、前言撤回した。
「フローネと申します。どうぞお見知り置きを」
 とにかく場の空気を取り繕おうと、団子や饅頭を差し出すのはフローネ。
「地球文化の一旦。故郷に帰られた際の土産話に、試してみては如何でしょうか」
「我は屈強な異種族の遺骸をサルベージで奪ってこの姿になったに過ぎん」
 勇将は淡々と返すも、
「どこが可食部だ」
 と続けたので、慌ててフローネが饅頭の袋を破り、団子の串も引き抜いた。
「饅頭と団子じゃきっと喉が渇くので、これもどうぞ。飲み方はわかる?」
 咄嗟に要が気を利かせて、お茶の入ったボトルの栓を空けて渡す。
 勇将は団子と饅頭を鷲掴んで、お茶で無理やり流し込むように飲みくだしてみせた。
「これを渡したかった彼女は、第八王子軍との戦いで殿を務め行方不明ですが……帰ってきた際の土産話に、私もできます」
 フローネは微笑んで感謝を述べた。前回は見向きもされなかったと聞いていたから、それに比べたら進歩だと。
「さて、話を戻しますが……状況がやや異なっているからには、ケルベロスが磨羯宮を制圧する可能性も大いにありましてな」
 ともあれ、赤煙が穏やかな語調で晟の説明を補足する。
「ホーフンド軍は余力を残したまま撤退しました……整然と撤退していく所を、死翼騎士団の方でも確認しているのではありませんか」
 顔色ひとつ変えない勇将。
「エインヘリアルとて、もし援軍を送ってくるのなら、既に何か兆候がある筈。それこそが、援軍ではなく、ブレイザブリク奪還軍を編成中という証拠ではありますまいか」
 赤煙はそう断じた。予知による確定情報だと洩らすわけにもいかない『証拠に乏しい推論』について信憑性を持たせる、実に上手いフォローである。
「デスから、今のこの状況で先にケルベロスがブレイザブリクを制圧するのは、双方にとって悪い話ではないと思うデスよ!」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)も、じゃじゃーん、と相変わらず楽しそうにギターをかき鳴らしながら、ブレイザブリク制圧の利を説く。
「ケルベロスによる防衛戦なら、コギトエルゴスム化しかさせられないデウスエクス同士の戦いより、確実に戦力を削れるのデス!」
 これこそが、ケルベロス勢がブレイザブリク奪還軍を迎え撃つ何よりの強みだと。
「そうすれば、死翼騎士団は奪還軍との衝突を回避できますし、戦力を保持したまま死者の泉への進攻もできるのデスよー!」
 シィカの交渉カードは説得力も充分。
 現に、無限増殖するザルバルクとて一度はエインヘリアル軍に攻略されてしまった。
 かように戦力でエインヘリアルに劣る死神が、わざわざブレイザブリク防衛戦にて戦力をますます浪費するなど得策とは思えない——と、噛み砕いて説明したのだ。
「大した自信だな。それはコギトエルゴスム化のできぬ貴様らとて、我々より簡単にごっそり戦力を削られる危険性もあるのと同義だろうが」
 勇将は勇将で、ケルベロス特有の弱点を鋭く突いたが。
「だが、団長や知将ならば貴様らの詭弁を詭弁と知りながら呑むに違いない」
 案外すんなりとブレイザブリク制圧に拘らぬ姿勢を見せてくれた。
「ありがとうデスよ!」
 笑顔で礼を言うシィカ。
「少し論旨が飛んですまないが、レプリゼンタを殺す方法を知らないか?」
 次は日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)が簡潔に質問した。
 努めて普段通りに振る舞って、ヘリオンからの降下前にも操縦者へおっぱいダイブなどかましていた彼だが、やはり常日頃より口数が減っているのはどうしようもない。
 未だ行方のわからぬ親友の代行としてこの場に臨んだフローネ同様、蒼眞とて身近な存在の安否不明な現状に——ましてや彼女が自分たちを守るためにあの場へ残ったとあっては——やりきれない思いを抱えているに違いない。
「わからぬ」
 即答する勇将だが、そのどこか曖昧なニュアンスは、正直に真実を述べているようでいてどことなく嘘をついているような判然としない印象を受けた。
 それでもはっきりと嘘をつかないだけ悪印象では無いためか、意を決して問う蒼眞。
「前に団子を差し出した女性がいたと思うが、行方を知らないか?」
 勇将はちらとフローネを見て、そういえばさっき名乗っていたから初対面か、と得心した様子。
「……ブレイザブリクの剣を隠れ蓑に潜伏している斥候がいる。その中に居ないのか」
「ああ、白い髪……確かに彼女も前回いたけど、別人よ」
 勇将の人違いを正すかぐら。
「行方不明の彼女は銀髪で……」
「知らん」


「先も述べた通り、瑠璃将とやらの本陣へ斥候らしき兵が先行しているとの情報は既に得ている」
 ふと、そんな事を言う勇将。
「それが貴様らの別働隊……瑠璃将の首を取る為の暗殺部隊という認識で間違いはないな?」
 晟が頷くと、勇将の決断は早かった。
「者どもには前線での露払いを命ず。先鋒を務めるこの者たちと共闘して、瑠璃将の本陣から可能な限り蒼玉衛士団の雑魚を引き摺り出せ!」
「承知!」
 数多の死翼騎士団員が臨戦態勢を整えて、8人の方を見る。
「瑠璃将の守りが手薄になるぐらいに、最前線で暴れ尽くせ、ってことね?」
 かぐらが確認する。
「ああ。我は後方から死翼騎士団の指揮を執る。瑠璃将の首を狙うからには、奴が自由に身動き取れぬよう、我も息を潜めておくしかあるまい」
「ははあ、勇将殿がいつ何時単騎で仕掛けてくるか判らないうちは、瑠璃将も容易に動けない筈だ、と」
 赤煙が納得した声を出す。
「左様」
 要は、予めもう1班の仲間の顔を描いた手配書を見るも、残念ながら時間切れで彼の大まかな位置はわからなかった。
「まぁ、合流する必要も無くなったから、結果オーライかな」
「では、行きましょうか」
 ラーナがいつもの顔でルドラの子供達を振り上げ、号令をかける。
「利害だけでの共闘ならある意味合理的で気楽な関係……だと思っていたけど、まさかこれだけの大人数と一緒に戦うとはな」
 戦意を高揚させる地鳴りのごとき咆哮を背に、蒼眞も不思議な気分で斬霊刀を携え、勢いよく走り出した。
「レッツ、ロック! ケルベロスライブスタートデスよー!」
 シィカはギターを掻き鳴らして己が存在をアピールするかの如く歌いながら、蒼玉衛士団へ先陣切って飛び込んでいく。
「盛り上がっていきましょうデス!」
 そして、エレメンタルボルトを握りしめた拳で衛士を殴りつけるや、『竜』属性を爆発させて更なる追い打ちを喰らわせた。
「予定とは大分変わりましたが、ブレイザブリク制圧をケルベロスへ任せてくれた上に、こうして想定した形と違っても共闘してくれている……」
 フローネは自らへ言い聞かせるように呟くと、サファイア・グレイブを構えて護衛部隊に突撃。
(「それに、何より、お饅頭を食べてくれたもの」)
 稲妻を帯びた超高速の突きを蒼玉衛士1体へ浴びせて、神経回路まで届けとその腹部を貫いた。
「さてと……あんまり怪我しないようにね」
 混戦の様相呈する戦場だろうと、気にせずにコートを脱ぎ捨てるのは要。
 まるで薄氷のように薄く透き通った水の盾を幾重にも重ねて、前衛陣の守りを固めた。
 後続の死翼騎士団員たちも、統率された動きで蒼玉衛士たちへ挑みかかり、乱戦を演じている。
「焔焔に滅せずんば炎炎を若何せん。無論、消すつもりは毛頭ないのだがな」
 と、口から旋衝焔を噴きつけるのは晟。
 蒼い炎の息吹は火炎旋風にまで膨れ上がり、蒼玉衛士団員たちを一気に焼き払った。
 ラグナルも刃属性とでも言うべきブレスを吐き出して、蒼玉衛士の大火傷をより一段と悪化させている。
「悪いけど、八つ当たりに付き合って貰うぜ」
 蒼眞は斬霊刀を閃かせ、敵群を次々と斬り伏せていく。
 幻惑をもたらす桜吹雪が舞う中、自らへの怒りに任せて刃を振るうその姿は鬼か修羅のようだ。
 己がダメージへ全く頓着せず、我武者羅に戦い続けるあたり、まるでわざと自分を痛めつけているようにも映る。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……」
 オーラを鍼の形に凝縮し、蒼玉衛士目掛けて発射するのは赤煙。
 密度を増した鍼が経絡を遮断する秘孔を突いて、激痛を与えると共に衛士の平衡感覚をも奪い去った。
「足止めしたり甲冑を砕いた相手から、どんどん攻撃していってね」
 かぐらは近くで戦う死翼騎士団員たちへ声をかけつつ、自分も蒼玉衛士へ肉薄。
 雷の霊力宿したフェアリーブーツで神速の蹴りを見舞った。
「雨、アメ、降れ、降れ、ケロケロケロ♪」
 涼やかな声の雨乞いで怪雨を降らせるのはラーナ。
 広範囲に降り注ぐ雨が、多くの蒼玉衛士たちへ苦痛と毒を染み渡らせた。
 8人と死翼騎士団の猛攻によって、ラズリエル軍本陣は混乱を極めた。
 次々と護衛が湧いてくるため、8人からしてみれば前線をなかなか突破できずにもどかしかったが、その分相当な数の兵を蹴散らしていたようで。
 波打つ金髪のシャドウエルフと白猫の人型ウェアライダーの連撃がラズリエルに決まるのを、8人は遠目に見た。
 蔓触手形態の蔦がラズリエルを絡めとったところへ、ふわっと軽やかに跳躍した少女が強烈な踏みつけを奴の胸に見舞ったのを。
 こちらが作戦通りに瑠璃将をほとんど孤立させられたおかげで、暗殺担当班も奴の奇襲へ成功、見事討ち取る事ができたのだった。
「いずれにせよ、磨羯宮もここで終わりですな……」
 しみじみ呟く赤煙。
「勇将さんへ報告に戻りましょう。まだ訊きたいこともあるし」
 かぐらが笑顔を見せた。
「勇将さんにも、団長のゲーデンさんみたいに名前があるのかどうか、ね」

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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