月下襲撃、機巧忍

作者:七尾マサムネ

●機忍急襲
 とある夜の街。瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)の姿があった。ケルベロスとして、一仕事を終えた後である。
「腹を減らして食費を稼ぐ。因果なものですね」
 過剰なレベルの新陳代謝……自身の体質に苦笑しながら、今夜はどう腹を満たそうか思案する燐太郎。
 外食も一興……そんな燐太郎の足は、目的とは裏腹に、人気のない方、路地裏へと向いていく。だが、その足は、唐突に停止する。
「よう、ご苦労さん。ここなら姿を見せても恥ずかしくないだろ?」
 燐太郎の口調が殺気立つ。
 闇という名のヴェールの下から現れたのは、人影1つ。
 顔を覆う白面には、『鏖』『狗』の二文字。四肢、そして刀には、翠の光が走る。
「武具を機械化した螺旋忍軍……いや、機械にしたのは体の方か。ダモクレスの技術か?」
 ダモクレス。その単語を口にした一瞬、燐太郎の眼差しが鋭さを帯びる。
 機械忍者は、応答の代わりに、名乗りを上げた。
「我ら、鏖狗面党(おうぐめんとう)。その命、喰らわせていただく」
 無音で走る翠光が、夜闇を切り裂く。

●救援要請
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロスに招集をかけたのは、緊急の用件ゆえであった。
「瀬部・燐太郎さんが、螺旋忍軍の急襲を受ける事が予知されました。ですが、ご本人とは連絡がつけられず……。そこで、皆さんには速やかなる救援をお願いしたいのです」
 セリカの説明によれば、燐太郎を襲ったのは、『鏖狗面党』を名乗る螺旋忍軍。体の一部を機械に置き換え、戦闘力を向上させている。
「機械化となると、ダモクレスからの技術給与。あるいは流出なども疑われますが、詳細は不明です。いずれにせよ、通常の螺旋忍軍より脅威である事は疑いありません」
 鏖狗面党は、刀や手裏剣を駆使したグラビティを扱う。機械の力から繰り出される忍びの技は、いずれも正確無比。特に、機械化した腕から繰り出される手刀は、鎧をも突破する。
 更に、機械化された両腕から放電する事で、周囲の相手を足止めする事も可能ときている。
 幸い、戦闘現場に人気は無いため、到着次第、燐太郎に加勢して欲しいとセリカは告げた。
「瀬部さんも手練れのケルベロスではありますが、1人で相手をするには荷が重い敵です。なにとぞご助力をお願いします」
 そしてセリカは、ヘリオンへとケルベロスを促した。忍軍の任務成功を阻止するために。


参加者
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)

■リプレイ


 『捕食』の牙を剥く鏖狗面党……機巧の螺旋忍者を、瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)の手が制した。
「俺を食べちゃうのか? ペロリと? そうか。なら、最期に一つ質問いいか?」
 ぴたり、忍の動きが静止する。
 それを肯定の意ととらえた燐太郎は、
「……『森』って男を探している。身に覚えは?」
 燐太郎が追い求めるもの、それは婚約者をダモクレス化した真犯人。
 ここまで、捜査線上に浮かび上がったのは、『他種族の特徴を併せ持つダモクレス』。目前のキカイニンジャも、その符号と合致する。
 果たして、忍の回答は……沈黙。
「素直に答える訳ねえよな、分かっている。じゃ、さっさと俺を喰え。しっかり味わいな」
 応えて閃く。斬撃が。
 しかしその軌跡は、思わぬ方向転換を見せた。飛び込んできた炎によって。
 炎……レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)は、足に宿した火の猛りをなだめながら着地した。
「縁は大事にしないとな。加勢させてもらうぜ燐太郎!」
 がしゃあん!
 レヴィンの台詞は、忍がゴミ箱に激突した騒音によって掻き消された。
「……あれ?」
 思ってたのと違う。
 一方、忍のリカバリーは早かった。強引に跳ね起きると、再び命を喰らうべく飛びかかる。
 だがそこに、竜の吼える声が響く。続けて来たのは、砲弾。
「仲間をそう簡単にやらせるケルベロスやあらへんよ!」
 敵への着弾と炸裂を確認し、巨大ハンマーを変形させた田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が、暗がりから姿を見せる。
 煙をたなびかせ、バック転する忍。直後、その機械の体を、殺意のこもった一撃が襲う。
「まだまだ残党っつうのはいるもんだな。ゲート潰したのって俺がケルベロスになる前だろ、確か」
 振り切った鉄塊剣を担ぎ直し、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)が現れた。
「さて、俺も新米とはいえ忍者名乗ってるからな。命を喰らわれるのは、果たしてどちらかねぇ?」
 軽口に聞こえるが、道弘にはまるで隙が無い。
 忍の視線が、不意に空へと跳ね上げられる。直後、機械脚による派手な急降下キックが炸裂した。
 ヒットの反動で飛び上がり、スラスターで姿勢制御。燐太郎と敵の間にシュタッと着地を決めたのは、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)だ。
「ダモクレスっぽいやつ死すべし慈悲はない!」
 敵に指を突き付けるトリューム。ポーズはそのままに、くるっと頭だけを燐太郎の方に向けると、
「燐太郎お久ー、なんだっけ、そう……ここで会ったが百年目! ってやつね!」
「ちょっと……違いますね」
 燐太郎、苦笑。
 相次ぐ加勢に忍がひるんだ隙に、サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)が、装着型祭壇を展開した。大団扇を掲げ、符で出来た紙兵を解き放ち、味方の守りを固める。
「機械忍者退治、手伝うよ! さあ、祭りだ祭りだ!」
 祭り装束に身を包んだサリナの言葉が、戦い始めの合図となった。


 忍が駆ける。速い。これぞ機械化の恩恵。
「かけっこなら負けねぇぞ」
 道弘が、ランスを携え突撃した。体格の良さも加えた衝撃が、忍の体を軽々と吹き飛ばす。
(「大切な方の仇を取るためにずっと探し続けてらしたんですね。その手掛かりになりそうな相手やと交戦するに至ったんでしょう」)
 これまでの燐太郎の戦いの道のりを慮るマリア。
(「なら助けましょう、戦いを、その思いを)
 マリアが竜翼を広げると、オウガ粒子が煌めいた。
「皆さんの助けになりますよう」
 マリアの想いを乗せた粒子は、敵対者である忍を避けるようにして、味方へのみ、その加護をもたらす。
「燐太郎はやらせねぇ!」
 レヴィンがビル壁を蹴って、空中へ。味方が敵と離れた瞬間を見極め、蹴撃を降らせた。
「今度はかっこよく決まったろ?」
 両腕をクロスさせガードした忍の背後から、燐太郎が飛び出す。殺意の眼光で敵を射抜き、剣を叩きつけた。
 衝撃に逆らわず、吹き飛ばされることを選んだ忍へと、光と化したトリュームが迫いすがる。腹部への体当たりを喰らい、体をくの字に折る忍。
 力を合わせたケルベロスは、厄介だ。だが、使命遂行を阻むものは、鏖狗面党の名に懸けて排除するまで。
 忍が、駆けた先に待つ道弘に、斬撃を浴びせた。手首や肘を、生物ではあり得ぬ角度で駆動させる事で描き出される軌道。それは、妖術の如く不規則。
「おお、痛え。しかも動きを止めるとは、なかなか」
「負けないで! わっしょい!」
 道弘の耳を、威勢のいい掛け声が打つ。
 掛け声の主、サリナが、大団扇を振るった。豪風を浴びた道弘の束縛が、即座に吹き飛ばされた。
「こっちの厄はワタシが祓うよ、だから大丈夫!!」
 味方に声援を飛ばす一方、サリナは忍に牽制の言葉を投げる。
「ねえ、その名前だとキミ達にとっても縁起悪いんじゃない? 忍者も組織の走狗だよね?」
 相手のプライドを揺さぶり、精神的優位を崩しにかかるサリナ。あいにく、その表情変化は仮面に隠され、見る事は出来なかったが。
「愛想のねえ奴だ」
「忍びですしね」
 そんなレヴィンとマリアにも、機巧の忍は牙を剥く。
 構えた2人の視界から、忍が消える。トリュームの指示を受けた、ボクスドラゴンのギョルソーの体当たりをお見舞いされたのだ。


 攻撃を仕掛ける味方の動きをチェックしながら、道弘は片手で『何か』を弄ぶ。
「路地裏を走っちゃいけませんって教わらなかったのか!?」
 白の閃きが、忍の足元を穿つ。破砕したそれが、無数のつぶてとなり、忍の全身を打った。
「まあ、教わっちゃないわな」
 白の正体は暗器……いや、チョークだ。子どもを教え、育てる時に用いるアレ。
 面に隠されているゆえ、忍の表情は読めぬ。だが、挙動のキレの低下が、ダメージの蓄積の証拠。
 だがそれでも流石は忍、俊敏だ。
 忍が、機械化された腕をアスファルトに叩きつける。同心円状に伝播した震動が、ケルベロス達を弾き飛ばす。
 どのような態勢からでも技を繰りだせるのは、忍術とサイボーグ化された肉体の相乗といえよう。ならば、
「その厄介な動き止めます!」
 マリアが、バスターライフルに麻酔弾を装填。
 発射と共に炸裂したのは、光。生体と機械の融合度を高めるグラビティチェインの働きを減衰、反応速度を低下させる。
 ここぞ、とレヴィンが、贅沢なもてなしを披露した。
 リボルバーから、ありったけの弾丸を、一切の惜しげもなく大盤振る舞い。たとえ文字通り鋼の肉体といえども、物量で容赦なく突破していく。
 そんな中……不敵にも、メガトンコインで栄養補給してみせる燐太郎に、忍が急接近する。しかしそれは思惑通り、爆砕の念動力が、忍の足元で爆発を起こした。
 味方の回復はギョルソーに任せ、トリュームが、爆砕されよろめく忍へと、拳を叩きつけた。ほとばしった雷撃が、周囲を束の間、昼に書き換える。
 ケルベロス達も、攻め一辺倒ではない。現に、サリナの紙兵団が、忍の技に秘められし術の効果を浄化。味方の継戦をフォローしているのだ。
 一方、攻撃をしのいだ忍が、機巧の腕を駆動。燐太郎に手刀を見舞った。
 すぐさま道弘が、燐太郎の体を敵から引き剥がす。もう一方の腕で、忍にランスを突き刺した。槍先に光が収束し、爆発を起こす。
 道弘が敵を串刺す間に、マリアが、ライフルのトリガーを引く。
 冷凍光線が駆ける。周囲の温度を急速に低下させながら。それを浴びた鋼の体は白く染まり、明確に動きを鈍化させる。
「キャッハー!!」
 四方に反響するトリュームの笑い声。多数の残像で包囲網を作りながら、マリアの光を浴びた忍に切りかかっていく。
「ソイヤッ!!」
 トリュームに合わせ、サリナが厄除け御札を振るった。機械腕の結合部を狙い、断裂する。
 刀を拾わせまいと、すかさず腕ごと蹴り飛ばすサリナ。
「さあ決めろ燐太郎!」
 レヴィンが、声を上げる。
 ガネーシャパズルから溢れた光は蝶となって、燐太郎を導く。示されたのは、必勝と言う名の道。
 レヴィンの導きに身をゆだねた燐太郎の剣が、振り上げられる。斬るというより押し潰す形で、忍を上下二分割にした。


「ほら、やっぱりキミ達にとっても縁起が悪かったでしょ?」
 サイボーグボディを破壊され、倒れ伏した忍に、サリナの声が降る。
 が、異様な気配を察したサリナは、とっさにその場を離れた。
「鏖狗面党に栄光あれ。……これにてシツレイ!」
 末期の捨てセリフを起動キーとして、忍が爆散する。
 サリナが爆風を紙兵で防ぐと、忍がいた場所には、黒い跡が残るのみ。終始、言葉数の少ない忍であったが、最期だけは律儀であった。
「おうぐめんとう……おうぐめんと……ああ、『augment』、『増強する』と掛かって……って、もう遅いか。それはさておき……救援、感謝します」
 駆け付けてくれたケルベロス達に、礼を告げる燐太郎。
「怪我する前に間に合ったみたいで何よりでした」
 マリアの安堵が、笑みとなってこぼれた。
「その、婚約者さんの件、真犯人早く見つかるといいな。また協力するからさ、いつでも言ってくれよな」
 励ましの言葉をかけるレヴィン。その視線が、手元の銃に落ちる。重なる面影は、ケルベロスに覚醒する前、自分をデウスエクスから庇って死んだ女の子のもの。
 さて。サリナが、戦場となった路地裏を見回す。惨状というほどではないが、酔っ払いが暴れたと誤魔化すにはいささか荒ぶり過ぎている。
 それなら、と、マリアがヒールに取り掛かる。路地裏は陰にあたる部分ではあるが、街の一部である事に変わりはない。
 ヒールの傍ら、敵の痕跡や手がかりがないかと注意を払うのも忘れないマリアに、道弘も手を貸す。元工学部だけあって、機械のパーツには興味を惹かれるところだ。
 皆であちこち手がかりを探していたトリュームは、鏖狗面党の面を見つけた。ヨイショとかがんで、木の枝でつんつくした後、ぺいっとひっくり返す。
「……何か重要な手掛かりが……製造番号とか産地とか……」
「産地……」
 渡された面を凝視する燐太郎。その腹が、ぐう、と鳴った。
 全員、沈黙。
 それを破ったのは、レヴィンの笑い声だった。
「腹が減ったのか? なら、ほら、これ。餅だよ、餅! やっぱこういう時は餅だろ」
 ここぞとばかり、大好きな餅を推しまくるレヴィン。
 そうだな、と道弘も、手持ちのクノーテンを差し出し、
「これも食うか? 少しは腹の足しになるだろ」
「助かります」
「よかった、これで一件落着だね!」
 燐太郎の腹が膨れる算段もついて、笑顔を咲かせるサリナ。
 トリュームは、じーっと相方のボクスドラゴンを見ていたけれど、
「そういえばギョルソーって名前、ギョニソに似てるよね?」
 ギョニソ。魚肉ソーセージ。美味しいアレ。
 トリュームのダジャレに、ギョルソーは、そばにいたケルベロスの陰に身を隠したのだった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月22日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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