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大阪市民は今なお、攻性植物の脅威に怯える日々を過ごしている。
最近になって、地下から巨大なミミズ型の個体が穴を掘っているなどという話も出ている中、地上でも侵攻の手が緩んでいるわけではないらしい。
先日、攻性植物となり、4~5m程度にまで縮んでスギの木の集団が大阪市内に現れた。
丁度、花粉が飛散する時期とあって、自らの存在を主張するように大阪の市街地へと現れたそいつらはこれでもかと花粉を散布してケルベロスを苦しめたが、戦いの末に撃破。
このタイミングでの攻性植物の侵攻を食い止めることに成功した。
しかし……。
懲りずに襲ってくるのが攻性植物のやり方らしい。
「「シャアアアアァァーーッ!!」」
前回とほぼ同じような状況で攻めてきたのは、5体のヒノキの木の集団だった。
一般的には20~30m程度の樹高があるヒノキだが、今回襲い来る敵集団も4~5m程度まで樹高が縮んでいた。
複数の根を蠢かせて攻め来る敵はやはり、花粉を飛ばして襲い掛かってくる。
攻性植物として、枝を触手とした攻撃や花粉を振りまく花から光線を発射、地面に根を埋め込んだ浸食など、攻撃方法もおなじみのものばかり。
「まったく、しょーこりもなく……」
「ケルベロスと警察に連絡せえ、後はとっとと逃げるで!」
攻性植物の襲撃に慣れた大阪市民は手早く各組織への連絡をし、着の身着のままにその場から逃げていく。
「「シャアアアアアァァァーー!!」」
やや動きの鈍い攻性植物はゆっくりと歩を進めながらも、広範囲に花粉や触手、根を広げて自分達の陣地を広げようとしていたのだった。
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春の陽気を感じる中、ヘリポートへと集まるケルベロス達。
「皆、お疲れ様。来てくれてありがとう」
ヘリオンから姿を現すリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は彼らを労いつつ、自分の呼びかけに応えてくれたことに感謝する。
今回の依頼だが、白樺・学(永久不完全・e85715)のこんな一言がきっかけとなり、発覚した。
「花粉ならば自分も負けないと、ヒノキの攻性植物が出現すると思ってな」
学は先日、攻性植物となったスギの木の集団の討伐戦に参加していた。
その後、彼はスギが来るなら、ヒノキも……と考えたらしい。
攻性植物も安直ではあるが、あらゆる攻め手を使ってでも仕掛けようとしてくるところを見ると、なりふり構っていられないのかもしれない。
「ともあれ、今回の襲撃も食い止めなければならないね」
リーゼリットも頷き、さらに説明を続ける。
大阪市内で幾度も事件を起こすことで一般人の避難を加速させ、拠点の拡大するのが攻性植物の狙いで間違いなさそうだ。
大規模な侵攻ではないものの、このまま放置すればゲート破壊成功率が『じわじわと下がって』しまう。
「しつこい程に襲撃を繰り返す攻性植物をしっかりと止めていかないとね」
いつかは反撃に転じる機会が生まれるはず。それまでは個別に対処して撃退したいとリーゼリットは語る。
現れるヒノキの木の攻性植物は5体。
前回、スギの時と同様に樹高は4~5m程度にまで縮んでいる。
獲物を求めて動き回る敵だ。さほど歩みは早くないが、その分枝や根を素早く伸ばすことがあるから油断はならない。
「リーダーは不在で、個々の能力はほぼ同じくらいだね。全ての個体が固まって行動しているよ」
ヒノキの攻性植物は、キャスターを除くポジションを1体ずつが担当しているようだ。グラビティは確定していないが、いくつかの内から3種ずつ使うことが確認されている。
戦い始めたら逃走は行わないこともあり、攻性植物全てを確実に討伐してしまいたい。
「戦場は市街地で繰り広げられることとなるよ」
街に現れた攻性植物が暴れ出した直後に、ヘリオンから現場へと降り立つことができる。
警察、消防などもすぐに駆けつけ、すぐに避難誘導を引き継ぐことができるはずなので、手早く攻性植物の抑え、討伐に当たりたい。
事件について一通り説明したリーゼリットは最後にこんな話も。
「討伐の後、お腹がすくと思うのだけれど、回転寿司なんてどうかな?」
大阪市民達も度重なる攻性植物の襲撃を食い止め、討伐しているケルベロス達を労いたいという気持ちがあるそうで、この場はご馳走してくれるそうだ。
「折角だから、ご相伴に預からせていただきたいな」
雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も参加したいとのこと。
お寿司と聞けば、多少の敵から力押しで何とかしてでも頂きたいと考えるのは無理もない話だ。
そんなケルベロス達にリーゼリットは笑顔を見せて。
「その分、しっかりと攻性植物の撃破を、よろしくね」
改めてそう依頼した彼女は、ヘリオンの離陸準備へと移っていったのだった。
参加者 | |
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三和・悠仁(人面樹心・e00349) |
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382) |
白樺・学(永久不完全・e85715) |
●
大阪府大阪市。
今なお攻性植物の脅威にさらされる市街地へ、ケルベロス達が降り立つ。
すでに攻性植物が現れていたこともあり、周囲はひどく慌ただしい。
「ケルベロス、要請に応え到着いたしました。あとはこちらにお任せを!」
右目を地獄と化した地球人の青年、三和・悠仁(人面樹心・e00349)が自主避難しようとしていた大阪市民に割り込みヴォイスで声がけを行う。
「……早く避難を」
銀の髪にアネモネの花を咲かせたオラトリオ女性、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)は拡声器を使って避難を呼びかけていた。
その間、キリクライシャは破壊音のする方向へとテレビウムのリオンことバーミリオンを立たせ、攻性植物の強襲から市民を庇うことができるよう位置取らせていた。
「おい、焦……ってはいないようだな、うむ」
中性的な容姿をした青肌のグランドロン、白樺・学(永久不完全・e85715)は襲撃に慣れた大阪市民のメンタルに感服してしまう。
「……と、ではひとまず退避を頼む、ここは僕らに任せてくれ」
刹那呆ける学はデウスエクスの襲撃中だと我に戻り、呼びかけを再開していた。
「さっすが大阪民、デウスエクスの襲撃に慣れてんなぁ」
サポートで駆け付けた清春も市民の姿に驚きながらも、駆けつける消防、警察に人的避難を引き継いでいた。
悠仁は敵を目視で確認し、先に到着していたグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)の横に並び立つ。
彼らの目の前にいたのは、5体の攻性植物。
枝や根を伸ばし、周囲に花粉を振り撒いて街を破壊していたヒノキの姿がある。
ヒノキは本来、樹高は20mあるのが一般的だが、それらは小回りを重視する為か4~5m程度にまで縮んでいた。
「しつこく攻めてくるんなら、しつこく潰させてもらうのみだろうよ」
悪そうな面構えをした色黒な銀髪のオウガ、グラハは避難する一般人に余波が及ばぬよう、彼らを背にして攻性植物と対する。
避難を切り上げたメンバー達も続々と、攻性植物の近くへと集まってきていたのだが、シャーマンズゴーストの助手がなぜかくしゃみをしそうな表情をしていた。
「だから、貴様にアレルギーは無いと……いや、まぁ、これだけ花粉が見えれば、そんな気分にもなるかもしれんが……」
学が自らの連れへとツッコミを入れると、助手はハッとした様子でくしゃみを止めていたものの。
周囲が黄色になるくらいに花粉がまき散らされていれば無理もない。
学はメモを記しながら、そう考えていた。
「……燃やしてあげればいいかしら」
こちらへと注意を向けてくる敵へ、キリクライシャは牽制しつつ気を引く。
その手のグラビティを用意すべきだったかと考えながらも、彼女は後ろから雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が駆けつけてきたのに気づいて。
「支援に当たってもらってもいいかしら」
「了解した。最善を尽くそう」
キリクライシャの呼びかけに応え、彼はライトニングロッドを手にしていた。
「……よろしくお願いするわね」
改めてそう依頼したキリクライシャは、向き直った目の前の敵を全力で叩き潰す構えだ。
「デウスエクス……」
己から全てを奪った存在に復讐を誓う悠仁は右目の炎を憎悪によって燃え上がらせ、襲い来る攻性植物へと接敵していくのである。
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本州以南に生育しているヒノキは建材として、古くから日本人に親しまれた植物だ。
一方で、スギと並んで花粉症患者を多く引き起こしていることでも知られている。
黄色い花粉を振りまくヒノキをベースにしたこの攻性植物達もまた小型化こそしてはいるが、ヒノキの特性を持ちながら目に付くケルベロスへと襲い掛かってくる。
悠仁にとっては、ヒノキが利用されていようとも、暴れ狂う目の前の怪物はデウスエクスでしかない。
「お前は後方から援護を頼む」
悠仁はライドキャリバー、ウェッジを狙撃役となるよう指示し、炎を纏わせて特攻させる。
敵の布陣は予め事前説明の地点で割れており、ディフェンダー、クラッシャー、ジャマー、メディック、スナイパーと5体全てのポジションは全て異なっていることが分かっている。
まずは、ケルベロス一行が最優先討伐対象と見定めていたのは、最大限に花粉や枝、根の力を発揮させてくるジャマーだ。
燃え上がるウェッジが敵陣へとぶつかっていくが、それを手前の攻性植物が立ちはだかって邪魔をする。
悠仁はそいつをすり抜け、精神集中によってジャマーとなる個体に直接爆撃を見舞っていく。
「逃がしはしない。もう一撃……」
基本能力では格上のデウスエクス。撃破の為にもう一撃加えようと考える悠仁だが、相手の反撃を察して身構える。
そんな敵に、学は『智』の魔力を抱いて仕掛け、殺神ウイルスを投げつけて攻め立てる。
敵にはメディックとして、実らせた果実を輝かせて癒しにも当たる攻性植物がいる。
そいつもまたジャマーの次に優先撃破対象と学はメモに記すのだが、また助手がサボろうとしているのを見逃さず。
「しっかりと庇えよ」
釘を刺された助手はビクリと身を震わせ、大儀そうに前へと出てケルベロスのカバーと祈りによる癒しに当たっていた。
それを受けたグラハは狙ったジャマーへと、砲撃形態とした鎚矛『悪心』の砲塔を差し向ける。
鍛錬などに興味を抱かず、グラハは手段を問わず勝てばよいと考え、砲弾を叩き込んでいく。
1体ずつ確実に。キリクライシャはリオンと呼ぶテレビウムに凶器で一度殴らせてから、自らも竜鎚から轟竜砲を打ち込んで巨躯の攻性植物を怯ませる。
前方を見れば、リュエンが前線メンバーへと雷の壁を張り巡らしているのをキリクライシャは確認し、さらに攻撃の手を強めていた。
「4人じゃちっと手が足りねえだろ?」
さらに、サポーターとして現れた清春もまた地面に守護星座を描いてこの場のメンバーを支援する。
彼の連れていたビハインドきゃり子はいつの間にか攻性植物の背後へと回り込み、刃を振り下ろしていた。
手が足りない状況にあっては、1人でも戦力として加わってくれるのは非常にありがたい。
序盤から交戦していたケルベロス達は攻性植物の攻勢を削ぐべく、さらにグラビティを放っていくのである。
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戦況に変化したのは、グラハのその一撃からだった。
基本的には単独で敵を狩るのがグラハのスタイルではあるが、この場はやや劣勢からのスタート。
サポーターが駆けつけたことで戦力差は覆りつつあるが、現状は狙いを集中して叩く状況。
勝てばいいという思考のグラハは仲間との連携も卒なくこなし、攻撃を続ける。
「ドーシャ・アグニ・ヴァーユ。病素より、火大と風大をここに崩さん」
詠唱と共に、黒い靄を身体……特に右腕に纏わせて。
「――暴れすぎだ。死ね」
躊躇なく彼はジャマーとなっていた攻性植物の幹を殴り倒してしまう。
グラビティ・チェインを完全に失ったそいつの周囲から花粉が消え、全身を枯らしたヒノキは動かなくなってしまった。
次に狙うは、メディックとなる1体。
リュエンは電気ショックを前線メンバーに飛ばして賦活し、さらに殲滅力を高めようとする。
清春もビハインドのきゃり子に敵を牽制させつつ、自らはメインメンバーにオウガ粒子を飛ばしていた。
「三界の虜囚。欲界の引足……」
攻撃を繰り返すうち、悠仁の前にディフェンダーとなる1体が飛び出してくる。
「堕ちて過ぎ行く三悪趣。諦念せよ。呪われてあれ。糸垂らす蜘蛛も灰の中」
枝触手で縛り付けてこようとするその敵に彼は構わず詠唱を続け、地獄から生じた黒炎を手にする弓「梅見月」に纏わせて。
「――【塵境毀壊・罪嗤い】」
一気に悠仁は燃える矢を射放つと、それに穿たれた敵盾役の幹が燃え、苦しみ悶えながら倒れていく。
その間に、悠仁のライドキャリバー、ウェッジがメディック目がけてガトリング掃射。
枝や根を撃ち抜かれて体を煽られていたそいつ目がけて、キリクライシャが動く。
バーミリオンの応援を受け、傷を塞いだ彼女は砲撃形態としたままの竜鎚から今度は時空凍結弾を放射する。
一撃を見舞った箇所を凍り付かせる一撃だが、今の攻性植物を倒すには十分。
こちらもまた花粉が消え去り、メディックは完全に沈黙した。
その間、回復役に徹していた学だったが、敵の火力役が花から発してきた光線を助手が受け止めた直後、関節部よりケーブルを射出してその敵へと突き立てる。
「思い出させてやる。魂に刻まれた傷、病、そして苦痛をな」
学はそいつへと『智』の魔力を流し込み、攻性植物の嫌がる水害、干ばつ、そして身を焼く炎の苦しみを思い起こさせて。
地中に張っていた根をも蠢かせて苦しみ、そいつは立ったまま果てていく。
残る1体にも、ケルベロスの攻撃が集中する。
スナイパーとなっていた1体は地面に根を埋め込み、周囲を侵食させていたのだが、それもここまで。
グラハの突き出した凝視棍ラブスが攻性植物の幹を貫いたからだ。
「邪魔な害樹は伐採しねえとな」
これ以上ない笑みを浮かべ、彼は自らの腕をも突き出し、一層幹の穴を抉っていく。
グラハの腕を放そうとした攻性植物だったが、すぐに抵抗しなくなる。
舞い散っていた花粉の飛散も収まり、大阪の街にようやく静けさが戻ってきたのだった。
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ケルベロス達は無事に攻性植物の群れを撃破して。
「毎度、本当好きなように壊してくれる……」
元通りとはいかずとも、不足ないまでに直すからと、悠仁は戻ってくる市民を安心させながらも、花びらのオーラを舞わせて破壊箇所を幻想で埋めていく。
「……元気の出る模様ってあるかしらね、リオン?」
街の修復に当たるキリクライシャが尋ねると、相棒のテレビウムの画面には林檎が映し出されて。
「……それは私の場合でしょう?」
彼女は笑いながら、黄金に輝く林檎で周囲を照らし出す。
その横を、怪力を活かして重機のごとく働くグラハの姿が。
強面の彼だが、しっかりと働く彼は好感を得ていたようである。
ふらふら動く助手を監視しながら、学もライトニングロッドを操り、雷の壁と電気ショックを使い分けてヒールを施す。
「こんなものか」
あらかた終わったところで、いつものごとくメモを捨てそうになっている助手を学が止めていたところで、避難していた市民が声をかけてくる。
「どや、腹空いてんやったら、奢ったるわ」
「回転寿司か、労いとはありがたい」
遠慮なくいただこうと答える学に対し、近場にいたグラハも乗り気なようで。
「奢りってことなら、遠慮なんざ失礼ってなもの。ありがたく、存分に腹を満たすとすっかね」
豪快に笑い、彼は市民に店の案内を頼むのである。
案内された回転寿司店は開店再開準備の最中だったが、店主や店員はやってきたケルベロス達を快く迎え入れてくれた。
「それではゆっくりと、いただきますね」
心からの労いを悠仁も有り難がり、まだ皿が回っていなかったこともあり、直接注文する。
悠仁が頼んでいたのは白身魚のネタ。
昆布締めのタイやヒラメ、身が強めのカンパチなど、彼はその歯ごたえを存分に楽しみ、味わっていた。
キリクライシャはというと、流れていくりんごのパフェやジュースに意識を持っていかれつつも店員へと尋ねる。
「……オススメ……ご当地メニューってあるのかしら?」
こはだにえんがわ、しめ鯖と比較的リーズナブルなネタを押してくるのはやはり大阪人と言うべきか。
しかしながら、確かに新鮮なネタではあり、値段以上の贅沢な食感を味合わせてくれる。
それらの味を噛みしめていると、キリクライシャは傍のリュエンへと声をかけて。
「……お疲れ様……ね」
今回は細かい指示に応えてくれてありがとうと、キリクライシャは彼を労う。
「なに、その言葉だけでも私は嬉しい」
まんざらでもない笑顔でリュエンは言葉を返し、渋いお茶を口にしていた。
グラハはベルトを流れ始めた皿を順次手に取り始め、そのまま胃の中へと入れていく。
メジナ、ブリ、トロなど脂強めなネタを食べれば、グラハは口に残る旨味を余すことなくビールを存分に飲んで流し込んでいく。
そして、学の隣の席で、助手が片っ端から寿司を吸い込んでいるのに、彼は肩を震わせて。
「遠慮はしなくて構わんが、多少は味わえ! これは食い物だ、飲み物じゃあない!!」
しかしながら、助手はきょとんと首を傾げ、何食わぬ顔で再び寿司を飲み込み始めたのである。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年4月16日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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