●食べられないのだから最初から作ってはならぬ!
「何故、ひよこさんの形をした菓子など作るのだ!」
「何故、ハトさんのサブレなど作るのだ!」
「何故、かもめさんのたまごをモチーフにしようと思ったのだ!」
「何故、ライオンさんのドーナツなど考えてしまったのだ!」
「何故、くまさんのクッキーを焼いたのだ!」
「何故、アルパカをケーキで再現しようとしたのだ!」
「何故、何故、何故、なにゆえー!!」
「許すまじ人間ども! そのような可愛らしい食べ物を作り出しておきながら、
無慈悲にも喰らいつくしてしまう人間ども! 許すまじ! 許すまじーぃ!!」
かくして、動物の形を模した食べ物許せないビルシャナと、その信者7人が決起した。
桜も見頃の4月上旬。
風吹き荒ぶ埠頭――の横にある、倉庫の中での出来事だった。
●ヘリポートにて
「うちの子達だって喜んでくれるから……作っちゃだめって言われても困るわねー?」
「ねむも困ります! 可愛くて甘いものは、とーっても大事なのですよ!」
予知の手助けをした心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)と、事件の予知をした笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、息を合わせて語りだす。
「ビルシャナがまた、海辺の街の倉庫の中で悪巧みをしているのです!
ケルベロスのみんなの力で、しゅびしゅばばっと解散解消解決してきてほしいのです!」
――その為の作戦も、括ちゃんと一緒に考えてあるのです!
ねむは何処からともなくフリップを取り出して、どーん! と見せつけた。
そこには『ケルベロスお料理大作戦(どうぶつ編)』と可愛らしい文字で書いてあった。
「ねむの予知によれば、ビルシャナに賛成している7人はこれまでの同じような事件と一緒で、おっきな衝撃を受けると正気を取り戻すはずなのです」
そこで、彼らが許すまじと頻りに叫んでいるもの。
つまり『動物を模した食べ物』を見せつけて、強いショックを与えようというのだ。
「食べ物だったら、なんでもいいのよねー?」
「なんでもいいのですよ。お腹いっぱいになるごはんでも、ちょっと一口なおつまみでも、甘いのでも辛いのでもしょっぱいのでも熱いのでも冷たいのでも大丈夫なのです! お料理の難しさだって関係ありません! ……でも、ねむは甘いケーキが一番だとおもいます!」
括の言に力強く答えて、ねむはさらに続ける。
「お料理道具や食材は、たっぷり積み込んであるのです! それから、戦うぞー! って殴りかからなければ、ビルシャナも信者の方も攻撃はしてきません! だから細かいことは気にしないで、まずはみんなでどうぶつさんのお料理をしてみましょー!」
「おー」
腕を振り上げたねむに同調して、フィオナ・シェリオール(はんせいのともがら・en0203)も声を出してから、ふと呟く。
「ところでさあ、かもめさんのたまごはちょっと違くない?
あとなんでアルパカだけ呼び捨てなんだろう? 他のは全部さん付けなのにさ」
「……それはわからないので、ビルシャナか信者の方にきいてくださーい!」
ねむがわたわたしながら答えて、説明は終わってしまった。
参加者 | |
---|---|
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235) |
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642) |
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121) |
ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544) |
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452) |
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594) |
武蔵野・大和(大魔神・e50884) |
アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750) |
●
「僕の調理を手伝ってくれませんか?」
諸々の搬入が終わると、武蔵野・大和(大魔神・e50884)は助手を求めて声掛けた。
その相手、フィオナ・シェリオールは二つ返事で引き受けて。
「なに作るの?」
「動物パンです! 一つずつ教えますから、まずは生地から作っていきましょう!」
「はーい」
かくして始まったパン教室は、さすが本職が指導するだけあってスムーズに進む。
強力粉やらドライイーストを用意して、それらを混ぜ合わせたらひたすら練って。
滑らかでいい感じになってきたらば、最も重要な工程に移る。
即ち発酵。けれども、それは“待つ”時間だから些か手持ち無沙汰にもなる。
「フィオナさんはケーキを作るんでしたよね? 良ければ手伝いますよ!」
「ん? ああ、うん。ありがとう。でも大丈夫だよ。すぐ終わるから」
フィオナはにへらと笑って、自身が持ち込んだ袋から幾つかの材料を取り出した。
既製品のスポンジケーキとチョコチップ、ホイップクリームが二種類――。
「これでハリネズミ作るの?」
ひょっこりと現れたカッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)が問えば。
「まあ見ててごらんよ」
ふふんと不敵な表情を作って、フィオナは各材料の封を切る。
そして台座のケーキをクリームで白いドーム状に整えて。
チョコクリームをひたすら細かく絞り、びっしりと敷き詰めていく。
「でも顔になる部分だけは残して、そこにチョコレートを付けたら……ほら」
つぶらな瞳のハリネズミの出来上がり。
「……思ったより手抜きだな」
「何を言うのさカッツェさん。料理上手は手抜きが上手いってやつでね」
「ていうか、なんでハリネズミなの?」
「可愛いじゃんハリネズミ。可愛いって大事だよ結構」
「その通り! 可愛いは大事! 可愛いは正義!」
にゅっと割り込んできたのは七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)だ。
勢いに任せて主役の座へと上り詰めた彼女は、まず何よりも先にベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)を引っ張ってきて、一言。
「べるちゃんかわいい~!」
などと訴えた。
途端、戦場には困惑と沈黙が満ちたが、それも束の間。
「わーい、お姉ちゃんもかわいい~! ぎゅー!」
「やだもー! べるちゃんの方がずっと可愛いわよー! ぎゅー!」
とかなんとか、抱き合い褒め合い称え合う二人。ああ仲睦まじき義姉妹愛。
ちなみに義妹のベラドンナちゃんは十九歳。
義姉のさくらさんは「さあー、それじゃあべるちゃん、お料理しよっか!」
義姉の「うん! お姉ちゃんは何作るの?」
義「わたしは――春のピクニックにぴったり♪ 可愛い動物さんのお弁当!」
「おべんとー! じゃあ私はピニャータケーキを作るよう!」
義姉妹愛はあらゆるものを凌駕する。
エプロンつけて調理台に並んで、いざや楽しきクッキング。
ウインナーをタコさんカニさんペンギンさんにカットして。
ハンバーグはクマさんのお顔。チーズや海苔で耳や口元、目を象って。
「唐揚げも形を整えて、海苔で作った目と鼻を付ければ可愛いトイプードルに大変身!」
「えっ」
「ん? べるちゃん、どうしたの?」
「……え、あ、ううん! なんでもないの! えへへ」
同じアイデアを没にしていたのは言わないでおこう。
胸中に過ぎるものを笑顔で蓋すれば、その可愛さに絆されるさくらもラストスパート。
「トドメは――ひよこさんおにぎりよ!!」
一口サイズのまんまるぴよぴよを手際よく握って、あとはお弁当箱に詰めるだけ!
「だけど、その前にべるちゃん、味見をお願いしても良い?」
「味見!? するする!」
「それじゃあ……はい、あーん♪」
トイプードルの眉間をぷすり。それをベラドンナがぱくり。
「……ん~♪ かりかりでさっくさくだけど油っぽくないし、下味がしっかりついてて美味しい! さすがお姉ちゃん、可愛くてお料理上手なんて反則だよう!」
「もー! でもそうやって褒めてくれるべるちゃんやっぱり可愛くて好きー!」
「えへへー♪ じゃあお姉ちゃんにも食べさせてあげるね、味見用プチサイズケーキ!」
「きゃー! かわいー! かわいいべるちゃんが作ったケーキかわいー!」
「はい、あーん♪」
「あーん……む! 美味しい! ほんとに美味しいこれ!」
「やったぁ! えへへへー」
「でへへへ」
もう姉の方はでっれでれでとても他人様には見せられない顔である。
というか、同席した賢明なるケルベロス諸君も解ってきただろう。
中々やべぇ姉妹だ。勿論、いい意味で。
「まあ、仲良きことは美しきかな、なんて言うらしいしね」
戯れ合う義姉妹を横目に言って、アリアナ・スカベンジャー(グランドロンの心霊治療士・e85750)も米を握る。
此方は鶏卵くらいの大きさに整えたら、ハムや薄焼き卵、とろろ昆布に海苔などを巻き巻きして、お雛様やお内裏様や三人官女を作っていく。
アリアナの料理テーマは、ずばり春の料理プレート。
その先陣を切る3月といえば、やはりひな祭りと、そういうことらしい。
ならば4月5月は何になるのか。アリアナが立つ周辺には穀粉から野菜類まで多種多様なものが並べられているが、答えは後ほど。
一方、セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)の調理台周りは実にシンプル。
砂糖と水。それを鍋に入れて火にかけ、程よく煮詰めたら動物の型に流し込む。
「あとは冷ますだけで“べっこう飴”の完成ですっ」
「簡単で可愛くて、子供達が喜びそうね~?」
ひょいと横から覗いて言ったのは、心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)だ。
ウイングキャットの“ソウ”を伴い、仲間たちの調理を見学して回る彼女がビルシャナの信者へと喰らわせる――もとい、彼らの説得に使う食料は、クーラーボックスの中で今か今かと出番を待ちわびている。
さすがは幾人もの孤児を育て上げる母。
手際の良さで右に出るものなど居ないということだろう。
とはいえ、他の仲間たちの調理も仕上げの段階。
「――二次発酵の時に軽く霧吹きしておくと、このように生地がくっつきます」
動物型に整形した後、再び寝かせたパン生地の具合を確かめながら言った大和は、卵液を塗りつける傍ら、助手に箸を持たせて。
「それで目や鼻になる穴を開けたら、チョコチップを入れてください」
「おっけー」
フィオナは指示通りに淡々と動く。
後は焼き上げたらチョコペンで顔のパーツを書き足すだけ。
そして、今まさにそれを行っていたのがエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)だ。
此方はまぁるい型に入れて焼いた、甘い香りのふんわり漂うカップケーキがキャンバス代わり。
そこにチョコやクリームを用いて様々な動物を描く。
もとい、デコる。ウサギさんにネコさんに、なんでもござれだ。
「可愛いですね~! なんだかもふもふ感が伝わってきますっ」
後片付けまで終えたセレネテアルがちらりと覗き見て言えば、エルムは微笑み返して。
「もふもふふわふわ、可愛いじゃないですか。そして可愛いは正義です」
何やら先程聞いたばかりのような事を語りだす。
「勿論、美味しいも正義です。つまり可愛くて美味しいは最強という訳ですね」
「なるほど~! つまり、これは最強のカップケーキっ」
「中でも今日一番の出来栄え、最強の最強は――これです」
「こ、これは、まさか……っ」
「シマエナガさんです。ヒヨコさんも可愛いので甲乙つけがたいですが――」
なんて、語り口こそ冷静だが、エルムの瞳は無垢な幼子の如く輝いていて。
きっと本当にもふもふふわふわふかふかな動物が好きなんだろうなと、セレネテアルは一人納得して、頷く。
●
そして、ケルベロス達は信者の説得にかかる。
「可愛くて美味しいが超正義だってことを解らせてやるのだわ!」
「がんばれーお姉ちゃん!」
義妹の声援を背に浴びて、トップバッターを務めるのはさくら。
可動式のテーブルを押しながら、じりじりと信者に迫って。
いざや勝負と春らしい色柄のランチクロスを広げたら、お弁当箱を開く。
その中身は、当然ながら先に作っていたあれこれであるから――。
「ああ! ひよこさんが、ひよこさんが! トイプードルちゃんが!」
「タコさんカニさんペンギンさんをこんなにぎっしりと……鬼! 悪魔! とし――」
「ん?」
「なんでもございません!」
さすがの信者も超えてはいけないラインだと思ったようだ。
その平謝りする一人に狙い定めて、さくらは口を開く。
「バレンタインに『本命チョコです♪』って板チョコ渡されるよりも、板チョコ溶かして猫さんとか兎さんとかの型に流し込んで固めた方が、同じ材料でも愛を感じるでしょ?」
「愛……?」
「そうよ、愛よ! “可愛い”には“愛”が詰まってるのよ! だから可愛い料理にも、食べてほしい人への愛が篭っているのよ!」
それを見た時に『可愛いね』と。
食べた時には『美味しいね』と、喜んでくれる顔を想像しながら、まるで自身のときめきを詰め込むようにして作る。
さくらの用意したお弁当は、単に動物が可愛いというだけではないのだ。
「わかるわー。想いが詰まってるのよねー?」
子供達の事を考えているのか、何度も頷く括にさくらも頷いて。
「大好きな人と会う時におめかしをするみたいに、悩んだりもするけど楽しいのよね」
「え、なんか重――」
「いいから黙って食えーい!」
最終的には力押し。
ひよこさんおにぎりをブチかましてから、ウインナー唐揚げハンバーグの男子イチコロメニューを流し込めば、信者は咽び泣く。
「泣くほど美味しいのね!」
「おいひいです……ひっぐ……」
強いられている感も否めないが、しかし美味しいのは間違いないようだ。
信者は自らお弁当を手に取り、さくらに監視されつつ残りを食べ進めていく。
それに続いて、二番手を引き受けたのはアリアナ。
さあ召し上がれと並べられたプレートには、ひな祭りおにぎりの他、5月の子供の日をイメージした鯉のぼりサラダと、4月の印象に相応しい桜のクッキーと、木に止まる鴬のケーキ。大作だ。
「鯉のぼりは、ビーフンをベースに野菜やサーモンで鱗の彩りを表現してみたよ。それから……サクラの中で鳴く鶯は、アタシが感動した春の光景なのさ。だから再現にはかなりこだわったね」
鶯の色合いは抹茶。それが止まる枝や幹の部分にはほうじ茶を入れているらしい。
そこまで工夫が施されていると食べるのが惜しい気もするが――。
「こ、こんなもの食べられるかー!」
信者が激高してみせたのは、やはり可愛らしい鳥などがいるから。
「うぐいすさんを切って食べるなど……おぞましい!」
「でも食べ物は放置しても終わりがくる、腐敗とかカビって終わりがね」
そうして粗末にする方がよほど惨い。
淡々と語るアリアナに、信者は大して喋ってもいないのに言葉を詰まらせる。
「目で見て楽しむって文化は良いものだと思うし、食うのが勿体ないって気持ちも分からん訳じゃないが、綺麗なうちに食って時々思い出してやるのが人情ってもんじゃないか」
「ぐぬぬ……だが、しかし!」
「いいから。食い物ってのは食べられるのが花道さ」
最終的には力押し、その2。
信者はまた一人、抵抗虚しく鶯への入刀やら鯉のぼりの踊り食いを強いられる。
その終わりを待つまでもなく、戦場に投入されたのは動物パン軍団だ。
「どうぞ! お好きなものをお好きなだけ!」
大和は溌剌と言う。
信者は悲鳴を上げてのたうち回る。
「はいはーい、食わず嫌いはよくないからねー」
フィオナが手近な一人を掴まえて、ブタさんパンを詰め込んだ。
最終的には力押し、第三弾。
信者は口だけをもぐもぐさせて動かなくなった。はい次。
「そろそろカッツェの出番かなー?」
「……あれ、料理してたっけ?」
首傾げるフィオナに、カッツェは不敵な笑みを覗かせて。
信者へと説得材料をぶつける――前に、一つ質問。
「そういえばさ、結局なんでアルパカだけさん付けしてなかったの?」
「あ、それ僕も気になってたんです」
エルムがそろーっと手を上げる。
よくぞそんな事まで聞いていたものだと、ビルシャナ側からも感嘆が湧くが。
「……何故だろうな」
信者たちですら、その理由に思い当たらないらしい。
刹那、戦場には落胆と嘲笑が満ちたが、それも束の間。
カッツェがぶちかました料理は――。
「キャラ弁、フィオナモデル!!」
「うわああああああああああ!?」
突如伸し掛かったヒール不能ダメージ(心因性)に悲鳴が上がる。
「人間も動物でしょー? で、まあそれなりに可愛い感じでしょコレ。縦横比もスリーサイズもバッチリ再現してあるし、上半分を食べると水着姿になる二段構造でー……ここだけの話、上半身部分だけを食べると上が水着の下は普段着という拘りシチュエーションが出来てしまうという――」
「意味がわからない! 意味がわからないよなんだそれ!」
顔を真赤にした本人が抗議するも、それをカッツェはひらりと躱して。
「まー、確かにモデルが子供っぽい感は否めないけども。けども! よく考えてみたまえ、これが出来るということは、他のどんな人物や動物でも可能だということ! つまりは、これぞ究極の大人も子供も楽しめるお弁当!」
とりあえず勢いで押す。
信者は困惑した。
やはり物理的に力押し、四回目。
「上から食べるかなー? 下からかなー? 実はもう一つマル秘Verもあるんだけど」
「やめろぉ!」
キャラ弁を持たされた信者の後ろで騒々しい二人は――放っておくとして。
「さあ、こっちもどうぞ」
「好きな方を召し上がれ、だよ!」
エルムとベラドンナが、それぞれの動物カップケーキと白猫ピニャータケーキをずずいと出した。
「私のおすすめはべるちゃんのケーキよ!!」
当然のように口を挟んでくる義姉。
さておき、ピニャータケーキなる言葉に首を捻る信者が二人ほど。
ならば教えてあげましょう――と、ベラドンナはナイフを手にとって。
その瞬間、信者の嘆声を聞く。
やはり切り分けたりする行為そのものが、彼らにとっては悲惨極まりない光景らしい。
「確かに、かわいそうかもっていうのはわからないでもないけど」
ひとまず手を止めて、ベラドンナは滾々と語る。
「でも、見た目でも人を楽しませようって気持ちも大事にするべきと思うのだよ」
お弁当でもケーキでも何でも、それを作ろうとする原動力は他人への想い。
その想いと努力の結晶を、ただただ頭ごなしに否定するのは如何なものか。
「だからね、まずはこのケーキから、はじめてみようよ」
「そうです。まずは食べましょう。それに、お腹に入れば一緒ですよ」
ベラドンナの言葉に重ねて、エルムも言えば。
まだ何も口にしていない信者の一人、ベラドンナと同じくらいの年頃の娘がおもむろに進み出て、白猫ケーキを切った。
すると、その中から溢れ出してきたのはチョコやメレンゲ、ビスケットなどなど。
まるでビルシャナの教義から解放される事を祝うような、くす玉の如きその仕掛けこそが“ピニャータ”なのだ。
「おめでとー! さ、食べよー!」
ベラドンナは元信者の娘に寄って、ケーキを取り分け――。
「べるちゃん! えらい! あとかわいい!」
義姉から熱烈な称賛を受けると、少しばかり真面目な台詞を吐きすぎた反動か、頬を赤く染めた。
それを見やりつつ、エルムも改めてカップケーキを勧めてみる。
「シマエナガです」
「えっ」
「シマエナガです」
「あっ、はい」
「可愛いですよねシマエナガ。なので、どうぞ」
「はぁ」
なにが“なので”なのかは解らないが、エルムの輝く瞳とカップケーキのお味は信者を解放するに充分。
「やっぱり気にしすぎってことですね~!」
残る一人の信者へと、セレネテアルがにじり寄る。
「普段の食事の方が切ったり焼いたり揚げたり、残酷なことしてるじゃないですか~?」
「う、む……」
「それに比べたら、形を真似ただけな上に美味しいんですから贅沢だと思いますよ~!」
「そうよー、齧りつくよりも、放っておく方がかわいそうなことになっちゃうわよー!」
括も加わって言えば、彼女が取り出したるは動物型のアイス。
チョコチップやアーモンドを目や鼻として付けたり、軽く輪郭などを彫ったそれが、時間と共にどうなっていくかは簡単に想像がつく。
「子供達も大好きなこれだって……ほら、早く食べてあげないと、どんどん溶けていくわよー? そうしたらとってもグロいことになっちゃうわよー!」
「え、あ……食べます! 食べまぁす!」
「はーい、それじゃあいい子には二つあげちゃいましょうー!」
「えっ」
「早く食べないとー?」
「食べまぁす!」
括の前では、信者とて赤子同然。
掌でくるくる転がされて、気付けば超絶美味の動物アイスを貪る子供に。
「おのれ……情けない信者どもめ!」
「まあ、そう言わずにお一つどうですか~? ……あ」
残る教祖にも折角だからと、セレネテアルが勧めようとしたべっこう飴。
しかも鳥を象ったものが、首の辺りからばきりと折れた。
衝撃のあまり泡吹いて倒れるビルシャナ。
取り囲んでボコボコにするケルベロス。
なお用意した料理は、元信者の皆さんとケルベロスで全て美味しく食べました。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年4月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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