多脚砲台はビルを蹂躙する

作者:baron

 キュイーン。
 ガションガション。ツイーン。
『グラビティ反応を確認。これより採集作業を開始します』
 器用にビルの上に伸びりながら、7mものサイズを持つダモクレスが街に侵入した。
 高い位置から町全体を眺め、人口密集地帯へ静かに移動する。
 静かと言っても7m大のダモクレスである、よじ登ったビルには大きな傷がつき、降り立った家屋は軒並み粉砕。
『ターゲット・ロック。一斉回収開始!』
 真っ先に街の出入り口にある道を粘着弾で狙撃し、車両の脱出を封じる。
 そしておもむろに、周囲の建物へドローンでの攻撃を始めた。
 そして時間が経過すると、大規模な破壊をまき散らしてどこかへ移動してしまったという。


「大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知があった」
 ザイフリート王子が説明を始める。
「復活したばかりの巨大ロボ型ダモクレスは、グラビティ・チェインが枯渇している為、戦闘力が大きく低下している。だが放置すれば……」
「そんなことができるはずがない!」
 王子の言葉にヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)が断言すると、周囲のケルベロス達も頷いた。
「そうしてもらえるとありがたい。すでに避難勧告は出しているし、町を足場に戦っても構わない。上で戦っても建物に隠れても、あまり駆らないだろうが、指示くらいは出し易くなるぞ」
 王子が言うには空いてのレーダーも強力なので、隠れることは無理らしい。
 だが上に居ればお互いの姿が見えるので、ハンドサインなどで連絡が取り易いのは確かだ。
「戦闘方法は、狙撃用の粘着弾。ドローンによる範囲攻撃。そして格闘攻撃だな」
「蜘蛛っぽいけど糸で捕まえるのでないのですね」
「その辺はダモクレスって感じだよな。確かに網よりはトリモチの方が機械だ」
 王子の説明にケルベロスたちは何となく納得する。
 多脚砲台のような形状とのことだが、別に生物ではない。
 あくまで有効な兵器を使っているだけなのだろう。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せない。絶対に倒す!」
「任せてもらおうかしら」
「まあ回収させる訳にもいかねえしな」
 ヒエルたちが相談を始めると、王子は出発の準備に向かうのであった。


参加者
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
 

■リプレイ


「おー、カッコいい構造の機体だなあ」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は一番高いビルの上から敵を確認。
 無数の足を使ってビルに登るのが見えたのだ。
「こいつは壊すのが大変そうだ」
 面白え。と広喜は笑って口笛を吹いた。
 どうせ戦うならば強い方が良いと今から既に手応えを感じている用だ。
「しかし……明らかに廃棄家電型や大きいだけの個体とは一線を画すな」
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は油断なく敵の姿を眺めた。
 よく見かける廃棄家電型は、強敵というよりはその再生数の方が厄介なイメージが強い。
「元々戦闘用として作られた形状で、しかも巨大とは厄介極まりない敵だな」
「大戦末期のダモクレスですか……当時は封印するしかなかった存在、けど今はうちらが倒すことが出来ます」
 ヒエルの言葉に田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)は倒せるのだと強調した。
 それは楽観論ではなく事実であり、この地においてもこれから目指すべき結末である。
「この期を逃さず確実に倒します! 被害なんて出させません!」
「そーそー。オレたちならやれるってばよ」
 このままでは町が破壊されてしまうとマリアは決意を新たにし、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)はそれを応援する。
 別に知らない人間など興味はないが、女のの笑顔は守るべきものだ。
 女盛りを逃した? 何を言ってるんだ幾つになっても女性は可愛いじゃないか。と思っている。
「話し込んでるとこ悪ぃーが、そろそろ敵が射程に入るぜ」
「へいへい。適当に何とかしますかね」
 そんな時にグラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)から声をかけられたのだが、清春はなんとなく自分に通じる物を感じた。
 誰かを守って戦うとか、使命感だとかをなんとも思っていないトーンが声からする。
 オウガだし純粋な戦闘狂なのかなと、男に関心のない清春は思考を途中で切り上げた。
「さてと。勝てるにゃ勝てるんだが、パパっとやれるかつーのが問題だよな」
 なお彼の想像とは裏腹に、グラハには戦闘を愉しむ気などはない。
 そんな面や使命感がない事のほうが、むしろ清春と共通していたかもしれないほどだ。

 それはそれとして敵はやって来る。
 ガシガシと壁を足場に歩き、ツイーンとケーブルも使ってよじ登ってきた。
『敵性体を発見。これより戦闘行動を開始します』
 多脚戦車は蜘蛛めいた軌道で建物の上を進み、ケルベロス達を排除せんと攻撃。
 これに対しケルベロス達も対応して迎撃を始める。
『ターゲット・ロック。発射!』
「やらせん!」
 放物線を描いて放たれるトリモチ弾に対し、ヒエルはジャンプしながら手刀で叩き落とした。
 もう少し弾速が遅ければこちらも技を放って相殺できたかもしれないが、生憎と相手は素早い。
「おっと、落ちるにゃ早いぜ。足場をくれてやる」
 広喜はニヤリと笑って腕を振るい、落下中のヒエルの足元に爆風を吹かせた。
 風は他の場所にも拭き、前衛たちの周囲に吹き荒ぶ。
「助かった。……お前たちの攻撃は必ず当たる。これまで培ってきた経験が生きるはずだ」
 ヒエルは礼を言いながら風を足場に近くの家屋へ着地した。
 長い髪を棚引かせると、仲間たちの意思を汲み取り闘気や風を束ねて送り出していく。
「おう。援護があると助かるぜ。なにしろ楽でいい」
 グラハは朱色の鉄槌を担ぐと近くのコンビニの屋根を足場に疾走し、助走をつけて飛び掛かった。
 そしてダモクレスの横合いより飛び掛かり、凍気を固めて打ち付ける。
「相手は機敏に動いとりませんが、もし外れたら面倒そうやね。まずは手堅く皆さんの助けになりますよう」
 マリアはハンマーを砲撃形態に変形させ、狙いすませてダモクレスの移動先を抑える。
 相手の動きを制することで、少しでも味方の攻撃を当たり易くするためだ。
「これでも零式だからな。忍者らしく暗躍させてもらおうじゃねえか」
 清春もまた爆風を吹かせるが、即座にその場を移動して風に紛れて姿を消す。
 もちろんダモクレスのセンサーならば彼を見つけるのは容易いだろう。
 だからこそ前衛の攻撃を強めるための風を吹かせ、脅威を別に作ることで自分に注意を向けさせないようにしたのだ。

 ブ~ンと鈍い羽音を響かせ、あるいはキンキンキンと甲高い足音を立ててナニカがケルベロス達の元にやって来る。
『ターゲット・ロック。一斉攻撃開始!』
 それはダモクレスの放った虫型ドローンだ。
 前衛陣に食らいつこうと、ワラワラと攻撃を開始する。
「お、いっぱいい居るじゃねえか。まあ守りきれなかったらそれはそん時だな」
 清春はビハインドのきゃり子がワタワタと虫を撃退しに向かったのを見守る。
 既に向かっているヒエルも居るし、なんとかなりそうだと思っておく。きゃり子を除けば前衛にはヤローしかいないので、ダメージくらっても気にはしないのだが。
「治療し甲斐があるじゃねえか」
「そりゃどうも。俺としちゃあ、楽勝で構わねーんだがな」
 結局のところ防ぎきれず、広喜は攻撃役のグラハを治療することにした。
 とはいえ一撃で重傷というほどではないので、援護を兼ねてホログラムの蝶にグラビティで実態を与えて、虫型ドローンを排除していく。
「邪魔だ!」
 ヒエルも治療を兼ねて援護を行うことにして、闘気を放って道を作ることにした。
 これだけドローンがウロチョロしていると、攻撃に専念できないと思ってのことだ。いつも通りに戦えるように闘気でドローンを牽制して道を造る。
「やれやれ。傷は痛てが、それよりも面倒なのがダルイな」
 グラハはコツコツと足元を爪先で叩きながら、敵の様子を眺めた。
 防御型ではないのでそれなりに傷ついているが、このまま治療で手を取られたら倒せるとしても時間が掛かる。
 仲間たちの攻撃も今のところは牽制攻撃が多く、長期戦を見据えているので火力が低い場合が多い。
「仕方ねえなあ。少し本気を出すとしますか」
 そういって思いっきり足元を蹴りつけ、コンクリートごと烈風を敵に叩きつけた。
 装甲を引き割くことで相手の防御力を音えば、誰が攻撃してもダメージを与えやすくなるだろう。
「動きを止めに行きますよ!」
 マリアは高い位置の有利を捨てて、あえて前に飛び出ていった。
 そのまま勢いをつけてビルからの角度と共に蹴りつける!
 グラビティで相手を縫い留めることができれば、命中させやすくなるだろう。
「よし、効きいた。いまですっ」
「せっかくマリアちゃんが作ってくれたこのチャンス! 二人の共同作業と行こうかなっ。ハッハー。まずは邪魔くせえ脚からもぎ取ってやんよ」
 清春は揺れる姿(何がとは言わない)を見に行きたい気もしたが、過剰はセクハラは嫌われるので止めておいた。
 それはそれとしてヨイショを入れながら、ダモクレスに忍び寄って沢山ある脚に攻撃をかけたのだ。

 適当なところで牽制攻撃も役割を終え、一同は徐々に攻勢を強めていく。
「ちっ。早けりゃそろそろ兆候が見えてくんだがな」
 一同の中で最大の火力を持つグラハは、己の攻撃を受けてもビルに取りついたままのダモクレスに舌打ちを入れる。
 鉄槌によって大きくへこみ、凍気を撃ち込んでいるがまだまだだ。
(「最悪、回復を考慮から外さねーとな。流石に今から全力攻撃って時に、フラフラじゃあヤベエが」)
 言葉には出さずにグラハは算段を立てた。
 一応攻撃は効いているし、外れることも今のところはない。
 だが、時間までに削り切れるとは断言できないレベルだ。もちろん以前よりもみな腕を上げてきており、決して絶望的ではないのだが……。
「うちらなら諦めさえせんかったら、やれるはずです。確実に倒すためにも、積み重ねます」
 マリアはライフルを両手で構えて、凍結光線を放った。
 既に命中率は確保したと見なして、攻撃配分を変えたのだ。
「女の子には悲しい顔よりも笑顔がいいってね。そんじゃま、ここはひとつ……。急所にぶちこんでやるよ。いい声で泣きやがれ!」
 清春はダモクレスの上に着地すると、バールを振り上げて無造作に攻撃を放ったかに見えた。
 だが斜に構えて適当な行動をしているようでいて、彼もまた忍者である……。といえば聞こえが良いのだが、実際には相手の重要部位らしき場所を、片っ端から殴りつける喧嘩殺法であった。
「はっ。上手くいったんだから結果オーライってな。っと、もう四分だ。頑張ってくんな」
 そういって清春は自分の役目は果たしたとでも言いたげに、肩をすくめてダモクレスより落下する。
(「ククク、折り返しっつーやつだな。オレが目立たねえように暴れまわってもらうぜ?」)
 清春は内心でほくそ笑みながら着地し、できるだけ死角を通って別の建物の上に潜むことにした。
 ダモクレスに見つけられるのは仕方がない。重要なのは、矢面に立たないことだ。
 女の子に活躍するシーンだけを見せつけたいとは思うが、野郎と共に死線を越える気などない。
「任せていいか? 当たるようになったし、ここは少しでも削っておきたい」
「行け行け。俺が健在な限り、そういう心配は無用だぜ」
 ヒエルは敵の攻撃に向けて走りながら、今回から指針を変えることにした。
 攻撃を交えることにした彼に変わって、広喜は今までよりも強い回復技を使用する。
『攻勢を確認。迎撃します』
「ふっ……おおお!!」
 ダモクレスはケーブルだけで体を固定すると、無数の足でヒエルを攻撃。
 咄嗟に目と心臓だけを庇いながら、ヒエルは腰だめに鉄拳を固めた。
 それは最低限の守りであり、攻撃の為に繋ぐ構えである。
「ド根性ってやつだな。ま、そういうのは嫌いじゃないぜ」
 広喜は掌から青い光を広げ、ヒエルの傷をスキャンした。
 彼が筋肉を引き締めて爪先を受け止めていることも含めて、どう直せばよいかを逆算した。
「まだ、壊れんなよ……そら。いけっ」
 広喜は己の回路に過負荷をかけながら、ヒールの為にグラビティを絞り出した。
 四肢を支える地獄の炎は、青いサーチ光を逆行するように仲間の傷を癒して行く。
 プスプスと焼け付き、壊れかねないのはヒエルではない。過負荷をかけて仲間を癒す広喜の回路である。
「……もらった!」
 ヒエルは二重の意味で言葉を使った。
 一つ目はチャンスをモノにするという意味。二つ目は広喜の力を受け取ったという意味だ。
 繰り出される拳がダモクレスに突き刺さった。

 そして時間は無慈悲に過ぎていく。
 アラームが鳴り続ける中、敵の動きに変化があった。
『最終戦術準備。全力集中、カウントダウン開始』
 ダモクレスは無数の足を切り離し、砲弾としてグラビティをチャージし始めたのだ。
「敵が今までと違う動きをしとります!」
「だんまりかと思ったが、最後の最後で逃げ切れねえと判断したようだな!」
 今までと違う動きに、マリアは脅威を覚えグラハは機嫌を良くした。
 7mサイズのダモクレスは一度だけ全力で攻撃し、かつての力を使える。
 だがそれは残りのエネルギーを動員する行為であり、使ったらやられてしまう、使わなければ逃げれる場合には使用しないこともある。
「てーことは逃げれないと判断したのか。ま、楽になって良かったってことだな」
「そういうこった。最初から使ってくれりゃあ、もっと楽に倒せたんだがよ」
 清春はグラハの愚痴に、少しだけおやっ? と首を傾げた。
 てっきり戦うのが好きな戦闘狂だと思っていたが、別にこだわりはないようだ。
 そう……グラハは勝つことが好きなのであり、戦いを愉しんでないのである。
「そろそろ攻撃が始まっても……? いや、違う! もう既に始まっているんだ!」
「え?」
 ヒエルは踵を返すと、後ろの方。
 後方にいるマリアたちの方へ飛んだ。
『全砲門斉射。ターゲットロック。発射!』
 その時である。隠れていたドローンが飛び出し、同時に切り離された足がミサイルのように撃ち出される。
 タフな前衛と違って、体力が低いであろう後衛を狙ったのである。
「きゃー!?」
「野郎やる気じゃねえか。くんぞ、って、しまった! こんなおいしい状況があるなら。颯爽と助けに行くんだったぜ」
 清春は危険な状況にもかかわらず、マイペースにお姫様だっこでマリアを救う光景を夢想した。
「ふう、着地は任せるか……それとも俺もあいつの真似してみるか……」
 広喜はきゃり子に庇われながら、ビルより落下した。
 衝撃で落ちそうになったからだが、着地まで任せるのは忍びない。
「やっぱり、自分でやるか。いくぞ!」
 広喜は拳でビルの外壁を貫き、自由落下を停止させる。
 そしてそのまま腕のパーツを回転させ始め、壁に傷跡を残しながら敵に向かって突進。
 そこで今日初めての方向をあげつつ、鉄拳を浴びせたのであった。
「トドメは任せた!」
「あいよ! ドーシャ・アグニ・アーパ。病素より、火大と水大をここに与えん」
 ヒエルが蹴りでダモクレスの動きを止めに掛かると、グラハはグラビティで悪霊を制御する。
「これこそ最後の晩餐、ってか? 己で己を貪り殺せ」
 過剰強化した己の精神を悪霊として振るい、ダモクレスを内部から溶解させ始めた。

「念のためにもう一発撃っときますか?」
「要らないんじゃない? マリアちゃんが確認に行くなら、付き合うけどさ」
 マリアが飛び蹴りを放てる態勢で近づいていくと、清春はそれに付き合ってバールを肩に担いだ。
 ダモクレスは寄生虫に内部から喰われたように、奇妙な形でへこんでいる。
 近寄る前に自重でガラガラと崩れていくのが判った。
「んじゃ、あとは殴り直すとすっかね」
「本格的な復興作業の前に直せるところはうちらで直した方がええですよね」
 グラハは傾いたビルを殴り倒してバランスを整えたり、歪んだ部分を一度壊してから闘気を込めた拳でヒールを始める。
 修復作業が始まるとマリアは薬剤を雨を降らせ始めた。
「こいつは直すのも大変そうだ」
 広喜はビルの骨格など見えにくい場所をサーチしながら矯正し、爆風で残骸を一か所に固めていく。
「変異する可能性を考えたら適当には済ませられねえし、やり甲斐があるぜ。……どうした?」
 広喜は戦場痕を眺めて肩をすくめつつも丹念に修復していたが、仲間の一人が物憂げなことに気が付いた。
「人類を殺す為の兵器として対峙するのではなく、人類を守る為の兵器として共に戦う事が出来たら有り難いのだが……それは流石に人類視点の我儘だな」
 今回のダモクレスは設計によっては、人類にも建造できそうな兵器だ。
 もしこんな兵器が人類側にあれば心る良いのに。そう思うヒエルであった。
「これで終わりですかね? 早く地元の方達が元の生活に戻れますよう」
「お疲れさん。んじゃ帰るとするか」
 こうしてダモクレスとの戦いは終わり、一同は帰還するのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月18日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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