荒ぶる、ピッチングマシーン！

■リプレイ

●都内某所
「……スポーツ方面の知識は、まだあまり学習できていないのだが、球を打つスキルを鍛えるために専用の設備まであって、一般人でも利用できる、というほどに浸透しているのは興味深いよ」
　ディミック・イルヴァ（グランドロンのブラックウィザード・e85736）は仲間達と共に、廃墟と化したバッティングセンターにやってきた。
　バッティングセンターは廃墟と化してから、しばらく経っているらしく、あちこちが錆びつき、まるでお化け屋敷の如く不気味な雰囲気が漂っていた。
　そのため、何やら近寄り難い雰囲気が漂っているものの、そのおかげで近隣住民が近づく事もないため、ある意味で戦いやすい状況であった。
　だからと言って、まったく人通りが無いわけではないのだが、それでも近隣住民を巻き込む状態を極力避ける事が出来るのは幸いだった。
「……これって、ただ単に打ち返せばいいのでは、と思ったのだけれど……？　……流石に多数は対応しきれないかしら？」
　キリクライシャ・セサンゴート（林檎割人形・e20513）が、複雑な気持ちになった。
　一球、二球であれば、打ち返す事も可能だが、それ以上のボールを打ち返す事を考えると、決して容易な事ではない。
　最悪の場合は、次から次に飛んでくるボールを喰らって行動不能になる可能性もあるため、色々な意味で注意をしておく必要がありそうだ。
「いエ、マシンの無念（仮）を晴らすには、我々が存分に打ち返すのが妥当に思いマス。最近、運動不足だったので、存分に挑戦致しマショウ」
　そんな中、モヱ・スラッシュシップ（機腐人・e36624）が、ボールを打ち返す気満々で答えを返した。
　さすがに、すべてのボールを打ち返す事が出来なかったとしても、仲間達と力を合わせて頑張れば、何とかなる……はずである。
　例え、何とかならなかったとしても、ダモクレスの注意を引く事によって、ボールが飛んでいく場所を予測する事が出来るため、ある程度の被害を減らす事なら出来そうだ。
「……リオン、一応これも持っておいて」
　キリクライシャが何かを悟った様子で、テレビウムのバーミリオンに、オートバットを手渡した。
　オートバットは殺傷力が無い代わりに、視覚センサーと同期し、初心者でも簡単にボールを打てるため、バーミリオンにはピッタリのバットであった。
「……！」
　その気持ちに応えるようにして、バーミリオンがオートバットを受け取り、ブンスカブンブンと素振りをし始めた。
　その影響で何やら熱血スポコン漫画風にメラついているものの、だからと言って能力が飛躍的にアップしたわけではないようだ。
　それでも、『必ず打つ！　打ち返す！』という強い意志が感じられたため、色々な意味で心強い印象を受けた。
「しゃー！　目指せ、ホームランってやつか、あー？」
　そんな空気を察した柄倉・清春（大菩薩峠・e85251）が、ドラゴニックハンマーをブンブンと振り回した。
　そのため、バーミリオンも、さらにテンションが上がっていき、清春と並ぶようにして、いい汗（？）を掻いた。
「ピッチングマシィィィィィィィィィィィィィィィィィィン！」
　次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、老朽化したネットを身に纏い、ケルベロス達の前に現れた。
　ダモクレスはピッチングマシーンに蜘蛛の脚が生えたような姿をしており、禍々しい雰囲気が漂わせながら、先手必勝とばかりに豪速球を投げてきた。

●ダモクレス
「……リオン、打ち返す事が出来……ないわね」
　すかさずキリクライシャがバーミリオンに視線を送ったものの、肝心の本人はフリーズ状態。
　あまりの剛速球に魂までブルついてしまったらしく、オートバットを握り締めたまま、その場で凍りついていた。
　だからと言って、打ち返すつもりが無かったわけではないようだが、目の前で起きた状況を理解する事が出来ないため、半ばパニクっている様子であった。
「……！」
　それでも、今にも折れそうな心を奮い立たせ、オートバットを握り締めていたものの、ダモクレスが再びブン投げた剛速球を打ち返そうとした瞬間、風を切るようにしてボールが頬を掠めたため、そのまま時が止まったかのように動かなくなっていた。
「これは……まるで弾丸だね」
　ディミックが間一髪でボールを避け、警戒した様子で間合いを取った。
　ダモクレスがブン投げたボールは、ビルの壁に抉り込み、巨大なクレーターを作っていた。
「それでモ、打ち返さなけれバ、次に風穴が開くのはワタシ達でス」
　モヱが仲間達と連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
「ピッチ、ピッチ、ピッチッチィィィィィィィィィィィィィィ！」
　ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、ピッチングビームを放ってきた。
　それと同時に剛速球並のビームが放たれ、ビルの壁にクレーターを作る事なく吹き飛ばした。
「おうおうおう、随分と気合が入っているじゃねえか！　だったら、遠慮はいらねぇ！　バッチこいやぁー！」
　すぐさま、清春がダモクレスの前に陣取り、真正面からピッチングビームを受け止めた。
「……！」
　それはシャレにならないほど、激しい痛み。
　格好よくピッチングビームを受け止めた分、いまさら泣き言が言えないと思ったのか、溢れんばかりに涙を瞳に浮かべつつ、表面上は余裕な態度でグッドスマイル。
　本音を言えば、あまりの痛みに泣き叫びながら、アスファルトの地面を転がり回りたいところだが、『なんだよ、この程度か！』と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「……見たでしょ？　あのくらい頑張らないと、ダモクレスには勝てないって事。それこそ死ぬ気で頑張らないと、ボールを打ち返す事なんて出来ないわ」
　そんな空気を察したキリクライシャが、バーミリオンに気合を入れた。
「……！」
　その気持ちに応えるようにして、バーミリオンがオールバットを握り締め、ダモクレスの前に陣取った。
「ピッチ、ピッチ、ピッチッチィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスがピッチングミサイルを放ち、大量のボールを雨の如く降らせてきた。
「……！」
　それでも、バーミリオンがブルついた気持ちを奮い立たせ、ボールを打って、打って、打ちまくった！
　だが、ボールの数が多過ぎて、全身アザと傷だらけ。
「……よく頑張ったわね」
　キリクライシャが陽光の珠（スベテヲテラス）を発動させ、太陽の光がもつ浄化の力を光の珠へと変換して、バーミリオンに飛ばした。
「ナイピ、ナイピ。いいじゃねえか。今度はこっちだ。ほらほら、来いよ！」
　清春がダモクレスを褒めつつ、ハンドサインを送って、自分の所に誘導した。
　その間、ビハインドのきゃり子が木陰から顔を出し、マネージャー件お姉さん的な立ち位置で、清春の事を見守っていた。
「ピッチ、ピッチ、ピッチッチィィィィィィィィィィィィィィ！」
　ダモクレスが興奮した様子で、再びピッチングビームを放ってきた。
　それは弾丸と言うよりも、一筋の光……！
　アスファルトの地面をガリゴリと削って、抉り、ビルを倒して、ケルベロス達に襲い掛かった。
「わざわざ威力を弱めるとは……。手加減しているのかい？　それとも、何も考えていないのかな？　まあ、どちらにしても、放っておくつもりはないけどね」
　それに対抗するようにして、ディミックがホーミングアローを撃ち込んだ。
　その影響でダモクレスのビームが相殺され、辺りにあった瓦礫が勢いよく弾け飛んだ。
「さア、いまのうちニ……」
　その間に、モヱがRoll back sync Ver1.0（ロールバックシンクバージョンワン）を発動させ、戦闘開始時に保存した万全なデータベース情報をコード化して時空魔術に反映させ、仲間達の状態を巻き戻した。
「あー、モヱちゃん。わざわざ、ありがとうな。なんか元気が出たぜ！　これで24時間戦えるって感じだな！」
　清春がヤル気満々な様子で、ドラゴニックハンマーをブンスカと振り回した。
　その横でミミックの収納ケースも、武装具現化でバットを形成し、同じように素振りをし始めた。
「ピッチングマシィィィィィィィィィィィィィィィン！」
　それと同時にダモクレスが殺気立った様子で、アスファルトの地面を蹴りつけ、再びピッチングミサイルを放ってきた。
「おうおう、いいね、いいね！」
　それを迎え撃つようにして、清春が収納ケースと連携を取りつつ、ドラゴニックハンマーを振り回した。
　収納ケースに至っては、次々とボールを打ち返し、ダモクレスのボディを地味にヘコませた。
「……そろそろ、球切れかな」
　ディミックがライトバスティオンを発動させ、敵の攻撃を防ぐ光の城壁を出現させ、ダモクレスが飛ばしたボールを弾き返した。
「……だいぶ弱ってきたようね。リオン、そろそろいける？」
　その隙をつくようにして、キリクライシャがバーミリオンに声を掛けた。
「……！」
　その指示に従ってバーミリオンがオートバットをナイフに持ち替え、清春達と一緒にダモクレスをボッコボコにし始めた。
　それは実に地味な作業であったが、確実にダモクレスのボディをヘコませ、コア部分をあらわにした。
　そこにバーミリオンがナイフを突き立て、ダモクレスの機能を完全に停止させた。
「何とか倒す事が出来ましたネ。……とは言え、腕を使い過ぎたせいで、筋肉痛が……ッ」
　その途端、モヱが崩れ落ちるようにして、その場にガックリと座り込んだ。
　久しぶりに頑張ってしまったせいで、両腕がズキズキと痛み、まるで電気が走っているかの如く痺れていた。
「……うっし！　戦って汗かいちったし、ここはスポーツマンらしく男女の壁をノーゲームしてひとっ風呂あびに……」
　そう言って清春がイイ笑顔を浮かべて、女性達を風呂に誘ったものの、そんな空気ではない事を悟ったのか、ぎこちない笑みを浮かべつつ、その場から退散するのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年4月8日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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