荒ぶるモバイルバッテリー!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 製造上の不備が原因で、過熱、発煙、発火に至る恐れのあるモバイルバッテリーがあった。
 その事が原因でリコールされ、大量の在庫が倉庫に眠ったまま、それを販売していた企業が廃業に追い込まれた。
 その場所に蜘蛛のような姿をした小型ダモクレスが現れ、カサコソと音を立てモバイルバッテリーの中に入り込んだ。
 それと同時に、機械的なヒールによってモバイルバッテリーが作り変えられ、家電製品っぽい雰囲気のダモクレスに変化した。
「モバ・モバ・モバイイイイイイイイイイイイイルゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、廃墟と化した倉庫の壁を突き破るのであった。

●セリカからの依頼
「ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した倉庫でダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、廃墟と化した倉庫。
 この場所に保管されていたモバイルバッテリーが、ダモクレスと化したようである。
「ダモクレスと化したのは、モバイルバッテリーです。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティ・チェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、グラビティ・チェインを求めて攻撃を仕掛けてくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●都内某所
「……発火バッテリーねぇ。ははっ、そんなもんが大量に積んである倉庫って火薬庫かっつーの。いきなりドカンってならねーよな? いや、そんな事になったら、それこそトャレにならねーからさ。大丈夫……だよな?」
 柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
 倉庫は数年ほど前から廃墟と化しており、大量のモバイルバッテリーがダンボールの中に入ったまま、放置されているようだ。
 その時点で、危険な状態である事は間違いないのだが、倉庫を所有していたメーカーが、その事実を公表しなかったため、近隣住民であっても、大量のモバイルバッテリーがダンボールの中で眠ったままになっていた事を知らないようである。
「懐や荷物の中に容易に仕込む事が出来て、そのうち発火・爆発するモバイルバッテリー……ですか。ある意味、時限爆弾より、優秀かも知れませんね。もしかすると、その手の人に需要はあるかもしれませんが……」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)が、何処か遠くを見つめた。
 暗殺者としての立場から考察しては見たものの、爆発するタイミングを調節する事が出来ないため、そういった意味で暗殺には不向きかも知れない。
 それでも、使い方次第で危険なモノになる事は、間違いない。
 念のため、殺界形成を発動させ、人払いをしたものの、それでも嫌な予感が消えなかった。
「だったら、このまま放っておくのもマズイだろ? 使わなきゃ問題ねーかもしれねぇが、管理は必要だろうしさ」
 清春が呆れた様子で、事前に配れた資料に目を通した。
 そこには、モバイルバッテリーに関するクレームが書かれた資料も添付されていたものの、イラッとするほど専門用語が並んでいたため、途中で読む事を止めた。
 それだけでも、リコールされたモバイルバッテリーに問題が多かった事だけは、何となく理解する事が出来た。
「確かに、どのような形であれ、エネルギーをたくさん蓄えるのだから、それが暴発するというのは有り得ない話ではないんだよねぇ。むしろ、爆発しないのが当たり前という風に、作れる技術が素晴らしいよ」
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が、感心した様子で事前に配られた資料に目を通した。
 その資料を見る限り、爆発の原因は、メーカー側にあり、安く仕上げようとした結果の末路であった。
 それが何とも悲しく思えたものの、冷静になって考えてみると、単なる自爆。
 そう考えると、この結末も、自業自得なのかも知れない。
「まあ、スマホゲームにハマっていた時は、外出先でもプレイしたい時に、とてもお世話になったものだけど……。確かに熱くなってきて心配だったんだよねー」
 そんな中、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が、しみじみとした表情を浮かべた。
 さすがにモバイルバッテリーが熱を持って変形したり、膨張したりするような事はなかったものの、それでも危ない事があったため、軽く流す事が出来なかったようである。
「モバ、モバ、モバ・イル・バッテリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、ダモクレスと化したモバイルバッテリーが、耳障りな機械音を響かせながら、倉庫の壁を突き破って、ケルベロス達の前に姿を現すのであった。

●ダモクレス
「……随分と苛立っているようだけど、私達が敵である事は分かっているようだねぇ。これも本能ってヤツかな……」
 ディミックが何やら察した様子で、警戒心をあらわにした。
 ダモクレスはケルベロス達に対して、激しい敵意を抱いており、他にはまったく興味がない様子であった。
 おそらく、ケルベロス達を倒さなければ、人々からグラビティ・チェインを奪う事が出来ないと、ダモクレスが判断したのだろう。
 先程まで全方位に向けられていた殺気が、今はケルベロスだけに向けられていた。
「おうおう、いい度胸をしているじゃねえか! そっちがヤル気だって言うんだったら、こっちも遠慮なくブッ壊すだけだ!」
 清春がダモクレスの前に陣取り、メタリックバーストを発動させた。
「モバ・モバ・モバイルバッテリィィィィィィィィィィィィ!」
 それと同時に、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせ、モバイルバッテリー型のアームを振り回して、ケルベロス達を攻撃しながら、強力なビームを放ってきた。
「まずは足止め……と思ったけど、このままじゃ近づく事も難しそうだね。まずは近づく事を考えないと……!」
 右院がギリギリまでダモクレスに迫り、身の危険を感じてビームを避けた。
 そのビームはアスファルトの地面をガリゴリと削りながら、イイ笑顔を浮かべながらゴールを持った女性の看板を破壊した。
 その影響で看板がユラユラと揺れた後、轟音を響かせてアスファルトの地面に落ちた。
「だからと言って、迂闊に攻撃して大丈夫なのでしょうか? 戦っている途中に、発火したり、爆発したりするような事が無いと良いんですが……」
 慧子が色々な意味で危機感を覚えつつ、フローレスフラワーズを発動させ、戦場を美しく舞い踊りながら、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせていった。
「まあ、その時は……その時という事で……。正直、遅かれ、早かれ、だと思うしね。万が一、途中で何かあったとしても、俺達なら何とかなると思うし……」
 右院が何かを悟ったような表情を浮かべ、薔薇の剣戟を発動させ、幻の薔薇が舞う華麗な剣戟で、ダモクレスを幻惑した。
「モ、モ、モバ・モバ・モバァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
 次の瞬間、ダモクレスが半ばパニックに陥った様子で、モバイルバッテリー型のミサイルをぶっ放した。
 ダモクレスから放たれたモバイルバッテリー型のミサイルは風を切りながら、ケルベロス達めがけて雨の如く降り注いだ。
 その大半がケルベロス達には当たらなかったものの、アスファルトの地面を削るようにして大きな穴が開き、壊れた水道管から大量の水が漏れて、噴水の如く噴き出した。
「まあ……多少の犠牲は仕方がないって考えておかないとねぇ。それに、このまま放っておけば、間違いなく被害が拡大する訳だけだし、ここは覚悟を決めておかないと……」
 ディミックがミサイルから逃れるようにして、ダモクレスの死角に回り込んだ。
「モバ・モバ・イルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! バァァァァァァァァァァァァァアッテリィィィィィィィィィィ!」
 それに気づいたダモクレスが、ガサゴソと音を立てながら、ディミックを威嚇するようにして、耳障りな機械音を響かせた。
「……それじゃ、改めて足止めしておこうか。もしもビビッと来たら、フォローよろしくね。何の抵抗も出来ずに、ダモクレスの餌食になる事だけは避けたいからさ」
 その隙をつくようにして、右院がスターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、ダモクレスの機動力を奪った。
「ハッハーッ! いいぜ、このノリ! この勢い! そのままドデカイ一撃を叩き込んでやれ!」
 続いて清春が猟犬縛鎖を仕掛け、精神操作で鎖を伸ばし、ダモクレスを締め上げた。
「モバ・モバ・モバイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 そのため、ダモクレスがイラついた様子で、ガタゴドと身体を震わせた。
「そ、そうですね。発火するものに炎もどうかと思うのですが、燃やしてしまったほうが電気も放電……されない……と思うのですが……」
 すぐさま、慧子がドラゴニックミラージュを仕掛け、掌からドラゴンの幻影を放って、ダモクレスの身体を炎に包んだ。
「モバ・モバ・モバ・モバイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 それと同時にダモクレスがブスブスと煙を上げ、バチバチと火花が散るようにして、ボディ全体に電気が走った。
「うわっ、凄ぇな、これ……! 触れたら間違いなく、感電しそうだな。どうする? しばらく待っておくか?」
 その途端、清春が身の危険を感じて、反射達に身体を仰け反らせた。
「それじゃ、また暴れ出してしまうし……。うう、これを斬ったら電気が来るかな……? ちょっとビリビリは嫌だなぁ。でも、やるしかないか」
 右院が複雑な気持ちになりつつ、再び薔薇の剣戟を発動させ、華麗に舞うようにして、ダモクレスのコアを貫いた。
「モ、モ、モ、モバァァァァァァァァァァァァァ!」
 その一撃を喰らったダモクレスが、あちこちにパーツを飛ばしながら、ビリビリと電気を飛ばして爆散した。
 その巻き添えを食らった右院が痺れ、ビクビクと体を震わせながら、ガックリと膝をついた。
「おい、ディミック。何か使えそうなパーツがあるんじゃないか」
 そんな中、清春が倉庫に足を踏み入れ、ゴキゲンな様子でディミックに声を掛けた。
 倉庫の中には沢山のダンボールが闇積みされており、清春が見上げる程の量があった。
「そんなパーツがあるのか疑問だけど、希少な金属を使っているのであれば、多少コストがかかっても解体できるような施設へ運ぶべきだろうかねぇ。このまま放っておくのは、あまりにも勿体ない気がするし……」
 ディミックが複雑な気持ちになりながら、ダンボールの山を見上げた。
 ここにあるモノは、すべてリコールされたモノのようだが、そのすべてが使い物にならないとは言い切れない感じであった。
「……せっかくなので、処分の仕方を調べてみましょうか。リサイクルが基本なら、分解できないようには作ってないはずですから……」
 そう言って慧子がスマホをイジって、関係がありそうな資料を読み始めた。
 ある意味、ビリビリするのは、運次第。
 一見すると、見分けがつかないため、自分の運を信じるしかなさそうだ。
 それがどれほど危険な事か、身を以て理解しているため、嫌な汗が止まらなくなった。
 そして、ケルベロス達は自分の運命を信じつつ、綱渡り感覚でモバイルバッテリーが入った箱を開け、テキパキと分解していくのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月7日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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