荒ぶる、電子タバコ！

■リプレイ

●都内某所
「また面白えもんが出てきたじゃねえか。こんなもんオレなら即買いだっての」
　柄倉・清春（大菩薩峠・e85251）は仲間達と共に、ダモクレスが確認された倉庫にやってきた。
　ダモクレスと化したのは、様々な危険性が問題視されて、リコールされた電子タバコ。
　どうやら、コイルの抵抗値を調節する事によって、味が濃厚になって、爆煙を噴かせる事が出来たらしく、メーカー側の警告文を無視して、改造が相次いだようである。
　だが、ただでさえコイルの抵抗値をギリギリに設定されていた事もあり、その行為が引き金になって、爆発事故が相次いだらしい。
　そのため、メーカー側も注意喚起をしていたものの、手頃な値段で簡単に改造する事が出来る事ばかりがネットで広まってしまったため、このような結果を招いてしまったようである。
　ただし、事前に配られた資料に書かれている事も、被害者達の証言が元になっているため、すべてが事実であるとは限らないようだ。
　それでも、ダモクレスと化した電子タバコがリコールされた事自体は、疑いようがない事実であるため、深く考えるような事でもなかった。
　そもそも清春はタバコを吸わないものの、リコールされた電子タバコに興味津々。
　下顎を吹き飛ばすほどの威力を持った電子タバコを、この場で見てみたいと思っているようである。
「我々グランドロンに大気は必要ないから、必然とこの手の嗜好品には縁が無かったが、機械化して愉しむようなこともあるのだねぇ。しかし、そのせいで爆発するケースも発生するとは、何とも……」
　ディミック・イルヴァ（グランドロンのブラックウィザード・e85736）が複雑な気持ちになりつつ、事前に配られた資料に目を通した。
　電子タバコには、鎮静作用があるものの、肺汚染のリスクがあるため、ディミックには魅力を感じる事が出来なかった。
　だが、一定の需要があるのも事実であり、依存性があるため、簡単には止める事が難しいようである。
「……とは言え、不備で回収したなら、正規の手段で分解、再構成するなりしないから、こういう事になるのだと思うの。……だからと言って、ダモクレスに温情を向ける訳にはいかないのだけれど……」
　キリクライシャ・セサンゴート（林檎割人形・e20513）が、深い溜息を漏らした。
　おそらく、メーカー側は処分費用をケチって、倉庫の中に放置しておく事を選択したのだろう。
　それが何の解決にならない事を、メーカー側も理解していたはずだが、結果的に最悪の選択肢を選んだ事は間違いなかった。
「デンデン・デ・デ・デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスがケモノにも似た機械音を響かせ、倉庫の壁を突き破ってケルベロス達の前に現れた。
　ダモクレスは煙突の如く生やした電子タバコから、煙の如くモクモクと水蒸気を上げていた。
「……この水蒸気を吸うのは危険ですね。さすがに、毒が混ざっているという事はないと思いますが、元は電子タバコから発生したものですし……」
　その事に危機感を覚えた伊礼・慧子（花無き臺・e41144）が殺界形成を発動させ、ガスマスクを装着して間合いを取った。
　それと同時に、ダモクレスが爆発音と共に爆煙を上げ、ケルベロス達を威嚇しているような感じになっていた。
「……これが資料にあったロシアンルーレット感覚で爆発……って事のようね。そもそも、ロシアンって名前からして間違っているのだけど……。ロシアンルーレット自体、実際にはロシア発祥という訳でもないし……。だからネーミングからして不満なのよね。もちろん、あなたの存在も……」
　キリクライシャが覚悟を決めた様子で、ダモクレスの前に陣取った。
「デンデン・デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　それと同時にダモクレスが自らの身体を包み込むほどの勢いで、爆煙を上げながらタバコミサイルをぶっ放すのであった。

●ダモクレス
「……これは面倒な事になりましたね。さすがに当たるのはマズイ気がしますし……」
　その事に気づいた慧子が霧の如く漂った水蒸気の中を突き進み、雨の如く降り注いだ電子タバコ型のミサイルから逃げていった。
　電子タバコ型のミサイルは、個体によって爆発の威力が異なっており、その中には不発もあった。
「……どうやら、ミサイルにもアタリ、ハズレがあるようね。……だからと言って、気を抜くつもりはないけれど……」
　その事に気づいたキリクライシャがテレビウムのバーミリオンと連携を取りつつ、ダモクレスに攻撃を仕掛けていった。
　その間も、電子タバコ型のミサイルが次々と爆発し、辺りを水蒸気で包んでいった。
　それが原因で辺りが霧のようになっており、まわりが見えず、仲間達の姿を確認する事さえ困難になった。
　それでも、ダモクレスがケモノにも似た機械音を響かせているおかげで、居場所だけは何とか特定する事が出来た。
「……まったく嬉しくない当たりだねぇ。なるべくなら、はずれを引きたいところだけど、そう言う訳にもいかないしねぇ……」
　その間に、ディミックが黄金掌で光輝く掌をかざし、傷ついた仲間達を癒していった。
「デンデンデ・デ・デンシィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスが爆煙を上げて飛び上がり、ケルベロス達に対してタバコビームを放ってきた。
　それは電子タバコから出る水蒸気を濃縮してビーム状にしたモノで、辺りにあるモノをバッキバキに破壊しながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「おいおい、マジか！？　ちょっと待て、オイ！　なんでオレを狙っているんだ！？　これって間違いなく、俺を狙っているよな？　ちょっと、待て、待て、待て！　オレは葉っぱを吸わねぇから、マジで興味がねえんだって！」
　その途端、清春が身の危険を感じて、全力ダッシュで逃げ出した。
　しかし、タバコビームが執拗に迫ってきたため、脳裏に過り御陀仏エンド。
　この世には神も仏もいないのか、と思いつつ、横目でビハインドのきゃり子を見ると、すべてを悟った様子で合掌していた。
「……って、コラ！　まだ死んでねーから！　なに、惜しい人を無くしたみたいになっているんだよ！　いや、お焼香とかいいから、そういうボケ！」
　清春が、きゃり子にツッコミを入れつつ、ギリギリのところでタバコビームを避けた。
「デ、デ、デ、デンシィィィィィィィィィィィィィィィィィィ！」
　その間も、ダモクレスが大量の水蒸気を身に纏い、ケルベロス達に体当たりを仕掛けていた。
　ダモクレスにとって、ケルベロス達は排除すべき存在。
　それを本能的に理解しているためか、他のモノにはまったく目もくれず、ケルベロス達だけを狙っているような感じであった。
　そのおかげで一般市民に被害が出る心配はないものの、殺す気満々で全力攻撃を仕掛けてくるため、気を抜く事も出来なかった。
「と、とにかく、このモクモクを何とかしないと……」
　そんな中、慧子が水蒸気を掻き分け、ダモクレスに狙いを定め、黒影弾で影の弾丸を撃ち込んだ。
「デ・デ・デンシィィィィィィィィィィィィィ！」
　その影響でダモクレスの肉体が侵食され、耳障りな機械音を響かせながら、暴れ牛の如く辺りのモノを破壊し、電子タバコ型のタバコアームを伸ばして、ケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「……！」
　すぐさま、バーミリオンが凶器をギュッと握り締め、ダモクレスと鍔迫り合いをし始めた。
　その事にダモクレスが苛立ちを覚え、執拗に攻撃を仕掛けてきたが、バーミリオンも隙をつくようにして、関節部分ばかり狙っていた。
「オイ、きゃり子ぉ！　お前も、あのくらい頑張ったら、どうなんだ？　いや、『面倒臭いから嫌だ！』って顔をするなよ。雰囲気で丸わかりだからな……！」
　それを目の当たりにした清春が、きゃり子にツッコミを入れたものの、その反応は冷ややか。
　過度な肉体労働は、契約の範囲外と言わんばかりに、スルーであった。
　もちろん、きゃり子もヤル気が無いわけではない。
　ただ、今はその時ではないため。
　やろうと思えば、やれるのである。
　だが、今は違う。
　そう言わんばかりに、拒否気味であった。
　一方、バーミリオンは『今が戦う時！』と言わんばかりに、ヤル気全開。
　ダモクレスを翻弄する勢いで、脚の間を擦り抜け、凶器攻撃を仕掛けていった。
「紙タバコとは違うので、このまま燃やしても良さそうですが、大気汚染の原因になっても困りますしね。ここはこれで攻撃しておきましょうか」
　それと同時に、慧子がシャドウリッパーを仕掛け、影の如き視認困難な斬撃を繰り出す事で、ダモクレスの動力部分を掻き切った。
「デ、デ、デ、デンシ・シ・シィィィィィィィィィィ！」
　次の瞬間、ダモクレスが耳障りな機械音を響かせながら、真っ黒な煙をモクモクと上げ、ビクビクと全身を震わせた後、大爆発を起こして崩れ落ちた。
「……何とか倒す事が出来たようね。お疲れ様、リオン」
　キリクライシャがホッとした様子で、バーミリオンに視線を落とした。
「……！」
　そのためか、バーミリオンは、誇らしげ。
　『凄く頑張った！』と言わんばかりに、えっへんと胸を張っていた。
「後は、倉庫にあるモノを、どうするべきか……ですね。爆発に関連しないパーツの部品取りとか出来そうな気もするんですけど難しいのかな……？」
　慧子が穴の開いた倉庫の中を覗き込み、複雑な気持ちになった。
　ダモクレスが現れた事によって、倉庫の中は滅茶苦茶になっており、ダンボールの中に入っていた電子タバコが、辺りに散らばっていた。
　その中には、劣化しているモノもあり、再利用は不可能な感じであった。
「廃墟になっている時点で、製造元に頼る事が出来ないしねぇ。どこか別メーカーや行政に処分の対応をお願いしておくべきか。遅かれ早かれ、こういった品はいずれ壊れるものだからねぇ」
　ディミックも同じように倉庫の中を覗き込み、困った様子で溜息をもらした。
　だからと言って、このまま放っておくわけにもいかないため、何処か引き取り先を探しておく必要がありそうだ。
「……おっ！　このライター、格好いいな！　輸入したヤツか？」
　そんな中、清春が奇抜なデザインのライターを見つけ、ゴキゲンな様子で懐にしまうのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2020年4月5日 難度：普通 参加：4人 結果：成功！
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