第八王子強襲戦~我が愛の灯は遠く

作者:秋月きり

 それは、多くのデウスエクス達が集う光景だった。
「僕の大切なヘルヴォールを殺したケルベロスを倒しに行くよ!」
 豪華絢爛の名にふさわしいバルコニーから彼らに檄を飛ばすエインヘリアルの少年がいた。名をホーフンド王子と言う。エインヘリアルの第八王子であった。
 彼の檄に熱狂的に応じる者がいる。おざなりな声を上げる者がいる。乾いた笑いを零す者さえいた。
 彼らは混成軍だった。ヘルヴォールの元部下達は熱狂し、第四王女レリの残党は怨敵への呪詛を口にし、ホーフンド王子の配下の兵士達は一様に肩を竦める。
 彼らを纏めるホーフンド王子はしかし、何処となく頼りなかった。そして、控える傍らの女性二人もまた、彼同様、上に立つ者のそれではない。片や心配そうに彼を見守り、もう片方は好戦的な笑みを浮かべている。各々の心情・信念で動くそれらは。
「目標はブレイザブリク! 進め、エインヘリアルの勇者達よ!」
 鉄靴の音が響く。規則正しいそれは地響きの如く、進軍の音を奏でている。
 混成軍だけあって、その数だけは巨大な軍隊として充分なものであったのだ。

「未来予知で見られた軍勢はエインヘリアル第八王子、『ホーフンド王子』に率いられているわ」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の語る未来予知は、驚異としては充分すぎる物であった。
 エインヘリアルの第八王子が巨大な軍勢を率いて東京焦土地帯へ進軍している。その目的が磨羯宮ブレイザブリクへの合流である事は明白であり、その後、東京そのものが戦火に包まれる事は容易に想像出来た。
「ただ、混成軍である為か、彼らは連携に難有り、と言った感じね。前衛を壊滅させ、本隊の中心にいるホーフンド王子に肉薄する事が出来れば、ホーフンド王子を撤退させる事が出来そうなの」
 前線は第四王女レリ、そして三連斬のヘルヴォールの元配下達で構成されており、本隊はホーフンド王子の部下達で構成されている。
 主の敵討ちに燃える前線の士気は高く、ホーフンド王子の安全を優先する本隊の士気はさほど高くない、と言うのが未来予知から導き出された結果だ。
「だから、『ケルベロス達は驚異だ』とホーフンド王子の部下や王子自身に思い知らせれば撤退する可能性が高いわ」
 よって、此度、執り行われる作戦は少数精鋭による強襲作戦、と言う事になるのだ。
「ホーフンド王子はヘルヴォールの仇討ちと息巻いているから、ちょっとやそっとの脅し程度じゃ撤退を選ぶ可能性は低いわ」
 ただし、慎重な性格であるが故に、ケルベロスが本陣を強襲する事で、命の危機を感じれば、撤退の判断を下す事は想像に難くない、との事だ。
「要するにビビりな性格なんだけど」
 しかし、本作戦が少数精鋭による強襲作戦である以上、彼に撤退を選ばせなければ勝利は難しい。恐慌状態を抜けてしまえば、各個撃破の憂き目に遭う可能性も否定出来ないのだ。
「だから、まず、前線のレリ王女やヘルヴォールの残党を壊滅させるの。本隊との連携に隙があるから、皆が力を合わせれば各個撃破は可能よ」
 ちなみに前衛の右翼はレリ王女の元配下達、左翼はヘルヴォールの元配下達のようだ。
 そして彼らの形勢が不利になれば、本隊からの救援が駆けつけるだろう。
「ヘルヴォール配下の救援に向かうのは、本隊左翼を任されている秘書官ユウフラ、レリ王女の救援には本隊右翼にいるアンガンチュール。この二者が中心となって動くわ」
 秘書官ユウフラは実質的なホーフンド王子軍の指揮者とも言うべき存在だ。彼女を倒す事が出来れば、ホーフンド王子軍は大きく弱体化するだろう。ただし、彼女はホーフンド王子に撤退を進言し、それを実行する行動力がある存在でもある。彼女の撃破はホーフンド王子軍の不撤退を呼び、そしてそれはそのまま、磨羯宮ブレイザブリクの戦力強化に繋がりかねない。
 そして、右翼のアンガンチュールだが、この少女の正体は、ホーフンド王子とヘルヴォールの間に生まれた娘、との事なのだ。
「アンガンチュールの撃破は難しい事じゃ無いわ。ただ、彼女を倒してしまえば、『妻と娘を殺された』ホーフンド王子に撤退を選ばせる事は至難となるでしょうね」
 ホーフンド王子本隊への損害は当然ながら、この二者、そして彼女らが率いる軍隊に対する作戦もまた、勝利へ大きく関わってくるだろう。
「つまり、この二人を本隊に合流出来ないように抑えつつ、ホーフンド王子の本隊へ派手目に襲撃。ホーフンド王子をビビらせて撤退させれば……」
 それが勝利への近道となるのだ。
「ホーフンド王子の軍勢は、士気は低いわ。前衛を除いて、だけど。だから、上手に立ち回る事で、余裕をもって撤退に追い込む事が出来るはず。……その上で、敵戦力をどの程度まで削るかは、実際に作戦に参加するチームで相談して欲しい」
 信頼の光を両目に湛え、リーシャはケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」
 東京焦土地帯、並びに東京そのものを守る事が出来るのはケルベロス達だけなのだ。


参加者
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●衝突
 戦争とは数だとは誰の台詞だったか。
 視界を埋め尽くす無数のデウスエクス達――旧ヘルヴォール軍の軍勢に九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は溜め息を零す。漂うタールの臭気は多くのシャイターン兵から零れる物だろうか。ヘリオライダーの予知通り、軍勢の過半数はシャイターンから為る物の様だ。
「想像以上に数が多いね。まあやる事は変わらないし、さっさと済ませようか」
 淡々とした声でアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)が独白した。それは彼女の二つ名と同じく、冷たく響く。
「えへへ、こういうのって『飛んで火にいる夏の虫』って言うんだよね?」
 対して、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)から発せられた言葉は明るい。天真爛漫とはこのことを言うのだろう。皮肉でも無く純粋な物言いに、少しだけほっこりとしてしまう。
 天地を揺るがす程の大軍勢であるホーフンド王子軍、その一角を担う旧ヘルヴォール軍に対し、立ちはだかるケルベロス達は60人に満たず、と言った処だ。
 その軍勢の目的はしかし、立ちはだかるケルベロス達の蹂躙では無い。
「ここは通さないよ……」
「確実に殲滅するであります」
 彼らの目的も、それに対する決意も、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)、そしてクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)の言葉に現れていた。
 彼らの目的は東京焦土地帯を陣取るサフィーロ王子軍との合流。そして、ケルベロス達の目的はその妨害だった。
 故に宣言する。
 この地の進軍はまかり通らぬ、と。

「それではまずー、始まりは派手に参りましょうー」
 それが鬨の声となった。
 黒髪女性が握った短杖の両端から放たれた火球がヘルヴォール軍の中央部を灼いたのだ。
 生み出された熱波や爆風、そして衝撃波は、如何に大軍であろうと一瞬の萎縮を生むのに充分であった。
「蒼き星の力、今この掌の中に――これは、明日を切り開く希望の力!」
 浮き足立つ一角に疾走る光輝があった。
 光より生み出された聖剣を抱き、縦横無尽に駆け巡る影の正体は渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)であった。
 まさしく千軍万馬。まさしく一騎当千。
 斬られ倒れ伏すシャイターン達に、更なる追い打ちが迸っていく。
「ま、後々、攻略に支障が出るのも嫌ですから」
 流星纏いの蹴りで敵を打ち砕く妙齢の女性の名はリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)と言った。二つ名が讃える通りの電光石火でデウスエクス達を打ち据え、倒していく様は青き稲妻を想起させる。
「外しませんよ!」
 サメの牙が描かれた無数の得物がシャイターンを貫き、赤い霧を散乱させた。
 湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)の投擲したピックが手裏剣宜しくシャイターン達を穿ち、傷を負わせたのだ。
「…・・ケルベロスがぁっ!!」
「ヘルヴォール様の仇だ!!」
 対するシャイターン達も、砂嵐や炎塊を用いて応戦してくる。
 多対少で始まった旧ヘルヴォール軍とケルベロス達の衝突は、もはや乱戦の様相へと移り変わっていっていた。

●攻防
 呪詛と怨嗟、そして嵐と熱。シャイターンの放つ炎はケルベロスたちを焼き、ケルベロスの放つ光や得物は彼らを切り裂いていく。
(「数の多さがそのまま、武器と言うわけだね」)
 紅蓮の炎をまとわせた如意棒を背に戻し、代わりにブラックスライムの槍でシャイターン兵を貫く幻は独り言ちる。
 数においては彼らの優位。そこから生み出される減衰の壁は、ケルベロスたちの使役するグラビティを限定的な物へと貶めていた。
 では、質は――?
「いくよ、アミクス」
 サーヴァントと共に斬撃を振るうリューインの整った口元に、笑みが宿る。
 残光は血煙と共に。空の魔力と共に袈裟懸けに切られ、大鎌の一撃を加えられたシャイターンは地に伏せ、そのまま光の粒子へと砕け、変異していく。
 死を刻まれたデウスエクスの最期を見送る暇もなく、彼女の視線は別のシャイターン兵へと注がれ、そして。
「押し切るよ!」
 戦場に轟音が鳴り響く。
 イズナの放つ竜砲弾は敵兵を捉えると、その身体を派手に吹き飛ばしていた。
「キリがないなぁ」
 倒しても倒しても前に進んでくるシャイターンの軍勢に、愚痴の一つでも零れよう物だ。
 数は旧ヘルヴォール軍が優勢。だが質においてはケルベロス達が圧倒的だった。旧ヘルヴォール軍はそれでも数で押し潰そうと進軍を続け、対するケルベロスたちは無双の如き勢いで迎撃している。
(「あまり歓迎することではないかもしれないけど」)
 アンプルを割り、薬液を霞状に散布するフローライトの内部で、冷静な自分の呟きを感じる。
 流石に戦闘で無傷と言うわけにいかない。今はその全てを癒しているが、いずれ蓄積されたダメージは、自身を、そして仲間達を蝕むだろう。
 つまり、これはそう言う戦いなのだ。終わりの見えない敵兵を倒しきるのが先か、それともケルベロス達が櫛削られ、敗退するのが先か――。
 そして、懸念材料はもう一つあった。
「――?!」
 獅子の重圧を宿した圧壊が、フローライトたちを強襲する。不意打ちに近いそれは、しかし。
「ボクが皆様を護るであります!」
「勇者兵の一撃ってその程度? 大したことないね」
 クリームヒルトの大楯と闘気を纏うアビスの拳が、そして主人に付き従うコキュートスの身体を張った防御が、その圧が仲間に届くのを防いでいた。
「来たな、エインヘリアル!!」
「私たちが相手をするよ!」
 飛び出す二条の光は数汰と美緒だ。
 返す刀のゾディアックソードは数汰の放つ轟炎を防ぎ、美緒の繰り出す殴打は星霊甲冑の外甲で弾いていく。
 シャイターン兵が数任せの烏合の衆ならば、エインヘリアルの勇者兵は旧ヘルヴォール軍の質そのもの。
「相手にとって不足無し、であります」
「だね」
 フリズスキャールヴの治癒に身を任せながら紡がれたクリームヒルトの宣言に、アビスの笑みが重なった。

●奮闘と幻想
 火薬の焦げる臭いと土の焦げる臭い。そして鉄の臭いと赤黒く染めていく血の臭い。それこそが戦争の臭いだった。
 鉄の殴打が奏でる音や怒号や悲鳴と言った歌声は、天上の調べとは程遠く、しかし、それ故、戦争そのものを意味するように思えてしまう。
 戦場を行き交うは邪霊兵と英雄と、そして地獄の番犬達のみ。
 死を刻み、死を穿ち、死をまき散らし、ケルベロス達は戦場を駆け抜ける。
 勢いづく猟犬達を、止める事の出来る者など、何処にもいる筈がなかった。

 轟音が唸る。目と鼻の先をゾディアックソードの切っ先が駆け抜け、避け切れなかった前髪が二、三本はらりと宙を舞った。
 同時に響く殴打の音に、数汰の拳がエインヘリアルの脇腹を砕いた音が重なる。紙一重の逆襲撃は巨体が繰り出す衝撃も相俟って、自身の攻撃以上の破壊を生み出していた。
 身体をくの字に折るエインヘリアルに、無数のピックが突き刺さる。
 美緒が投擲したピックは星霊甲冑に覆われていない皮膚、そして数汰が穿った傷跡を侵食し、打ち砕いていった。
「――狼は逃がさない。地の連環は貪り喰らうもの」
 攻防の刹那。瞬間に湧き出た間隙に響く詠唱はイズナが紡いだ物だ。
 神すら食らう魔狼を縛するために生まれたとされる黄金の紐は、エインヘリアル如きが断てる物ではない。縛鎖は3メートルの巨体を大地へ繋ぎ止め、地面へと縫い留める。
「出来れば速攻で倒したかったんだけどね」
「それは――」
 イズナの零した言葉に返す言葉はリューインの物だ。
 電光の槍を振るい、敵を穿つ彼女の表情は、しかし、憂いに満ちている。
 それはイズナと同じ気持ちを抱くが故か。
 神殺しの電光を受け止めたエインヘリアルがおおおと叫ぶ。それは悲鳴のようにも、雄叫びのようにも感じた。
「さすがは勇者兵」
 シャイターン達が前線を維持する雑兵ならば、勇者兵は猛将、あるいは隠し玉とでも言うべきだろう。耐久力は高く、そして、攻撃力もまた、シャイターン達に比べれば天と地ほどの差があった。お陰で仲間に緊急治療を施すフローライト、そして動画を映して応援を続けるフリズスキャールヴの治癒陣は、休まる暇がない。
 そして、それは無論、防御に徹するテレビウムの主人らにも言える事であった。
「まだ倒れるには早いであります! 光よ!」
「……まだ倒れてもらっちゃ困るんだよね」
 ほぼ同じ意味の詠唱を発したのは、クリームヒルトとアビスの二名だ。攻撃を仲間に任せ、防御に、そして治癒に徹する。
 それが彼女達が紡いだ戦法で、その盤石さは、ただ一体の勇者兵と、無数の有象無象なシャイターン達に突破する暇すら与えることはない。
(「確かにエインヘリアルを倒せば敵の士気を挫くことは出来ただろうな」)
 数汰は独り言ちる。
 旧ヘルヴォール軍を繋ぎ止めているのは、その名の通り、ヘルヴォールのカリスマ性だ。その彼女が死した今、復讐を遂げる想いそのものが、軍の行動指針と化している。
 要するに、熱狂的な集団なのだ。軍としての是非はともかく、猪突猛進な気概は、むしろ好感すら持てるものだろう。
(「だから、わかりやすい」)
 エインヘリアルを庇おうと、群がるシャイターン達を突撃槍が放つオーラで焼きながら、幻は口元を歪める。
 彼らは自身の軍を勢い付ける為、シンボルとなる存在を求める。それがヘルヴォールであり、死した彼女の残滓であり、そして、勇者兵たちなのだ。
 だからこそ、勇者兵は速攻で落としたかった。ヘルヴォール軍をただの烏合の衆へと貶める必要があった。
「ま、通常戦力では一体狩るのがやっとだから致し方ない、かな?」
 シャイターン達の妨害を受けながら、善戦を保っている。
 それだけでも僥倖だと笑うのだった。

 やがて戦いにも終わりが来る。
「神々より託されしこの一投、神殺しの一撃を受ける栄誉をあなたに授けましょう。そして真の死をあなたに」
 リューインの身体を電光が覆う。青白い光が青白い皮膚を、青い髪を、そして青く染めた装甲に走り、一条の槍を形成していく。
「……クングニルバスター!!」
 それが崩壊の切欠となった。
 神殺しの槍を胸に受け、片足立ちになるエインヘリアルに、ケルベロス達のグラビティが殺到する。
 クリームヒルトの竜砲撃は星霊甲冑を打ち砕き、アビスの弓矢は砕けた甲冑の隙間へと吸い込まれるように突き刺さる。
「いっけーっ!」
 まるで巨大なブーメランの如く投擲された大鎌が、エインヘリアルの肩口深くを穿っていく。
 投擲体勢後の残心を描くイズナは、自身の思い望んだ通りの結末を前に、ふふりと笑みを浮かべた。
「何処に逃げても斬ってみせよう」
 そして幻の紅色の稲妻がエインヘリアルを焼く。――否、斬り捨てる。稲妻はむしろ、紅の刃として、その巨体を切り裂いていた。
「……それが……あなたの『核』……捉えたよ……『核分裂』……」
 フローライトが呪を紡ぐ。
 魂をも焼き、引き裂く呪術は、天使の翼を持つ麗人の虚像をも伴って。
 内面から引き裂かれる痛みに、勇者兵が零したそれは、確かに悲鳴だった。
 そして、歌が響いた。
 美緒の歌は暴虐の嵐と化し、エインヘリアルに駆け寄るシャイターン達を潰していく。前に進む者のみが抱く強さが、敵の信念を、そして精神を揺さぶり、崩壊へと導いたのだ。
「じゃあな。勇者兵。あんたは強かった」
 数汰の貫手が膝を折るエインヘリアルの喉を捉える。そこに込められた賞賛は虚偽ではない。心の底から零れた賛辞だった。
 大量の血が彼らを汚し、しかし、それらはその傍から光へと消えていく。
「こいつは俺らが討ち取った!」
 消えゆくゾディアックソードを掲げ、雄々しく叫ぶ彼の口から発せられた言葉は、まさしく勝利宣言であった。

●進軍
 蓋を開けてみれば、前衛との戦いはケルベロス達の圧勝であった。
「……大きな怪我とかなくて何より、ね」
 フローライトの言葉に、一同は強く頷く。
 重傷者もいなけば、3体のサーヴァントも消失に至っていない。軽微な損耗に対して、敵の一個隊を全滅に追いやったのだから、戦果としては上々だろう。
「まだまだ頑張れるよ」
「余力は十分だ」
 イズナが微笑を浮かべ、幻が笑ったその瞬間だった。
 声が戦場に木霊していた。
「こっちは無事だ! 皆も無事みたいだな? オレ達はこれから本隊に向かう、余力がある奴らは一緒に行こうぜ!」
 ドラゴニアンの少年の言葉に、零れた笑みは誰の物だったか。
「さぁて、行くであります」
「……一人も生かして返す気は無い、から」
 クリームヒルトは盾を構えつつ、アビスは深い吐息と共に立ち上がる。まだ、誰かの役に立てる。双方の瞳はどこか、そんな輝きを帯びていた。
 行きましょうと笑う美緒の声は歌うように弾み、数汰はよし、と己の拳を見下ろす。
「さて、それじゃもう一仕事、頑張りましょう」
 残業はごめんだけどねと軽口を叩くリューインは、そして戦場に視線を向ける。
 戦いは終わり、しかし、新たな戦いはすぐ傍まで。
 遠くで揺らぐ灯は、何を現す物か。
 そこに答えは無くとも、ただ目を細め、その景色を仲間達と見送っていた。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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