第八王子強襲戦~怖がり王子、発奮する

作者:柊透胡

 それは、勇壮と言える光景ではあるのだろう。
 豪奢な宮殿のバルコニーに佇むのは、黒髪の少年。金彩煌びやかな甲冑姿で、眼下に集う軍勢を見回す――何処か、怯えを含んだ眼差しで。
 少年の背後には、女性2人が控えている。
 片や、秘書官と思しき白髪は、心配そうに少年を見守る様相。一方、ゴシックドレスに肩当と脚甲が厳つい赤髪は、明らかに愉悦を含んだ面持ちだ。
「僕の大切なヘルヴォールを殺したケルベロスを倒しに行くよ!」
 ――――!!
 その声音は、小さいながらも明確。檄を飛ばされ、熱狂的な歓声が沸き立つ。
 よくよく見れば、熱狂的なのは一部であり、大半はいっそおざなりな鬨の声ではあるものの――エインヘリアル第八王子、ホーフンドの陣容は、エインヘリアルの大柄を差し引いても、大軍勢と呼ぶに相応しい偉容であった。
 
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 今日もタブレットを手に、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は粛々と集合したケルベロス達を見回す。
「過日、死神……死翼騎士団との接触に於いて、『ブレイザブリク周辺のエインヘリアルの迎撃状況』に関する巻物を得られました」
 その情報を検証した所、エインヘリアルの陣容に不自然な点が発見されたという。
「エインヘリアルの迎撃ポイントやタイミングに、明らかに不自然な穴があったのです」
 死神に欺かれた可能性もあったが……副島・二郎(不屈の破片・e56537)を始め、東京焦土地帯を探っていたケルベロス達の情報とすり合わせた結果、これらエインヘリアルの動向は『大軍勢を迎える為の配置展開』と判明している。
「ヘリオンの演算によれば、その大軍勢の指揮官は『第八王子ホーフンド』です」
 之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)の予測通りとも言えようが――八王子に現れる第八王子は、大阪城のグランドロン城塞で撃破された三連斬のヘルヴォールの夫であるという。見た目は明らかに少年だが、実は妻子持ち。不老不死のデウスエクスらしいかもしれない。
「判り易く、報復の出陣のようですね」
 ホーフンド王子の軍勢には、第四王女レリとヘルヴォールの残党も加わっている。その戦力は高い。彼らが合流を果たせば、ブレイザブリクの攻略は難しくなってしまうだろう。
「東京焦土地帯は首都圏にも近く、『復讐』を目的とするからには都民の大虐殺も行いかねません。何としても、ホーフンド王子のブレイザブリク合流阻止をお願いします」
 さて、どうするべきか……採用されたのは、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の作戦だ。
「合流前のホーフンド王子の軍勢に対し、ブレイザブリクの警戒網の穴を突いて精鋭部隊を浸透させ、奇襲する作戦となります」
 ホーフンド王子の軍勢は、レリ及びヘルヴォールの配下だった残党軍を前衛としており、前衛と本隊との連携が上手く取れていない。
「又、ホーフンド王子は妻の仇を討つべく出陣しましたが……王子を大切に想う配下の方は、地球への侵攻に消極的なようです」
 更には、ホーフンド王子自身も本来は好戦的な性質では無く、寧ろ臆病なまでに慎重という。
「ケルベロスの攻撃で本隊に危機が迫れば、狼狽して撤退を決断するでしょう」
 今回の作戦は『ホーフンド王子がブレイザブリクに到着』する前、王子も容易に撤退が可能である進軍中だからこそ、成功し得る。
「まず、戦意は高いものの、本隊とは連携不備の前衛軍を各個撃破で壊滅させます」
 それぞれ、前衛の右翼はレリの配下、左翼はヘルヴォールの配下であった部隊のようだ。
「続いて、前衛の救援に向かって来るホーフンド王子直属の部隊を迎撃。王子が居る本隊に戻れないよう足止めします」
 後は、救援を出して手薄になった本隊を派手に襲撃して、ホーフンド王子を怯えさせれば……臆病故に、慌てて撤退の判断を下す筈だ。斯くて、ブレイザブリクへの合流阻止は成る。
「東京焦土地帯にて、エインヘリアルと抗争中の死神……死翼騎士団の動きも気になりますが、この作戦の邪魔は無いでしょう」
 死神とて、新たな王子の参入でエインヘリアルの戦力が増強されるのは歓迎出来ないだろうから。或いは、死神の利益の範囲で、援護も期待出来るだろうか。
「寧ろ……ホーフンド王子の軍勢に大阪城の戦力が加わっている点を、警戒すべきかもしれません」
 大阪城に逃げ込んだハールが、自らの戦力を差し向けた意図とは……ともあれ、大阪城と東京焦土地帯で兵の貸し借りが可能であれば、かなり厄介な事案となりそうだ。
「懸念は尽きませんが……今は、第八王子合流の確実な阻止を」
 ホーフンド王子の軍勢は、前衛を除けば士気も低い。ケルベロスが上手く立ち回れば、余裕を持って撤退に追い込めるだろう。
「その上で、敵戦力をどの程度まで削るかは、各チームで相談して下さい」
 ――東京焦土地帯に向かう、ケルベロス達の健闘を祈る。


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)

■リプレイ

●切り拓く為に
 正に、大軍勢――東京焦土地帯を進軍する様は、その戦力の大半がエインヘリアルという長躯なだけに、目を瞠らんばかりの偉容だった。
 エインヘリアル第八王子、ホーフンドを旗印としたこの大戦力が、丸ごとブレイザブリクに合流する事は何としても阻まねばならない。
 それで、ケルベロス達が採った作戦は、合流前のホーフンド王子の軍勢を奇襲する、強襲作戦だ。
 ヘリオンの演算に由れば、ホーフンド王子の軍勢は、大阪で散ったレリとヘルヴォールの元配下を前衛としており、本隊との連携が上手く取れていないという。
「ブレイザブリクを巡る戦い、予知があるケルベロスだからこそ、情報の裏が取れる所は大きな強みね」
 ――彼らは、崩れ掛けて傾いたビルの陰に潜んでいた。
「得られた情報を活かして、まずはエインヘリアルの動きを潰していきましょう」
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)の言葉に否やは無い。
 まず、戦意は高くとも本隊と連携不備の前衛軍を壊滅。前衛の援護に向かう本隊の動きに対応し、精鋭部隊がホーフンド王子に肉迫すれば――臆病なまでに慎重な第八王子の性格からして、アスガルドへ撤退するだろう。
「慎重系の王子さんは強いんですかね? 少なくとも、ハールさんみたいなやらかしはしなさそう」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)の呟きに、テレビウムの安田さんは男前な顔文字を画面に浮かべる。バールのような凶器を手に、ヤル気満々の様子。
 彼らが対峙するのは、前衛右翼。かつて、第四王女レリが率いた白百合騎士団が前身となる。
(「何度も戦った相手だね」)
 ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)に過る心情は、感傷めいて。
(「僕はレリ王女の死を悼んでいる、けれど」)
 ケルベロスの哀惜なんて、最期まで仲間を想って戦った彼女にとって侮辱にすらなるだろう。だから、ウォーレンは無言のまま、武器を握り締める。
「敵も懲りないというか、何と言うか、だな」
 既に、ケルベロスの2チームが、前衛右翼の進行方向を遮っている――復讐の叫びが轟き、富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は赤い双眸を淡々と細める。
「……まぁいい。群れた奴を蹂躙するのは久しぶりだし、腕が鳴るぞ。思いっきり大暴れしてやる」
「ま、今回は、本命が突っ込む前の露払いがメインっすからね」
 撫子柄の千早が何だか勿体ないくらいに、神宮寺・結里花(雨冠乃巫女・e07405)は今日も下っ端口調だ。
「派手に動き回って、後の人達の道を作るっすよ」
 ガンガン攻めて攻めまくるのは得意分野だと、カラリと笑む結里花。
(「そうだな……今は、少しでも前へ」)
 白き軍服姿も麗しく、じっと戦況を見据える眼差しは清冽。此度のマルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)も、味方の道を拓く事のみを心に留めて。いつでもレイピアめいた斬霊刀を抜き放てる態勢で、『その時』を待つ。
「……」
 他と見解を異にするのは、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)だ。敵を前に彼が抱くのは、殺害対象への純然たる興味と好奇心。戦い屠れば、それで終わり、だ。
 だからこそ、ヴォルフの眼差しは、敵を識らんと熱を帯びる。
「足が止まったな……」
 先陣を切ったチームの奮戦で、旧レリ軍の侵攻が止まる。瓦礫の陰より、子細に戦場を見渡すヴォルフ。
 旧レリ軍、と一括りとするには、大凡、7対3で分かれる2部隊の関係は、良好とは言い難いのだろう。指示待ちの一方と突撃を敢行する他方が余りに対照的で、部隊の境界が判る程。隊長同士、連携可能な位置にいない。
「……む」
 集団が分散すればする程、個別の動きも読み易い。ヴォルフの聡い目が捉えたのは――少数派の部隊の最奥に立つ灰髪のエインヘリアル。血気逸る騎士を束ねながら、何処か熱量の薄い風情に見えるのは、果たして気の所為か。
 機械鎌を携える灰髪の女騎士こそが、今回の標的である氷月のハティだろう。指を差して仲間に居場所を報せたヴォルフが、より高い場所に陣取るチームの方を見やる。
「……あ、先越されたみたい」
 アンティークな装いのヴァルキュリアの少女が、ヴォルフの視線に気が付いたようだ。やはりハティの位置を、仲間に伝えている。
「行くわ!」
 凛然たる蒼銀の鋼乙女の掛け声に、チーム一丸となって駆け出す。
 ――――!!
 待機していた場所の高低差もあり、先行の呈となった彼らに、白百合の騎士達は次々と鬨の声を上げて襲い掛かる。
「守りを厚く、好機を待って確実に掴み取る配置にしましょう。陣形名は……そうですね、日輪月輪を覆い隠す『蝕』の陣」
 九尾扇の陰で、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)の百戦百識が陣形を定める。その挙措は礼儀正しく、だが、エインヘリアルの騎士へ向ける眼差しは険悪。
 デウスエクスは、殺す――というか、くたばれ。
 エステルが抱く強烈な憎悪は、過去の惨劇で唯一の生存者となったが故に。独り生き残ったのは、デウスエクスならぬ神に復讐を命じられたからだと、思っている。

●復讐の刃
 Brechen――。
 其れは、朽ち果てた祈り。遥か昔に失われた筈の約束の術は、敵の絶望を祈る事で精霊を召喚する。
 百戦百識陣を定めてすぐさま、バイオレンスギターを構え直すエステルに続き、ヴォルフはオリジナルグラビティ「Verwesen Beten」を迫り来るエインヘリアル目掛けて放つ。
「……」
 軽く眉根を寄せるヴォルフ。見える限りの敵を標的としたが、列で限定しようとその数の多さに、威力も厄の付与の率も大きく減衰する。発動率の低いパラライズならば尚の事、ジャマーの手であろうと即効性は薄かろう。
 ――――!!
 それでも、白百合の騎士達の注意を引く事には成功した。殊、氷月のハティ率いる彼女らは、ケルベロスへの復讐に燃えている。数多への『攻撃』自体が挑発覿面と言えた。
「さあ行きますよ。私達と戦う勇気があるならば、かかって来なさい。正面から粉砕します」
 駄目押しと言わんばかりに、ケルベロス達は挑発を口々に。
「雨冠の巫女、結里花。参ります!」
 涼やかに名乗りを上げる結里花は、目の前のエインヘリアルに気咬弾を放つ。
「貴女達のお仲間が、どうやって亡くなっていったか教えてあげましょうか? 身を以て」
 恭介の丁寧な口振りは、正に慇懃無礼。すかさず、安田さんの頭越しに轟竜砲をぶっ放す。
「仇討ちなら受けて立つよ。僕も全力で戦う」
 ウォーレンの氷れる螺旋は、長躯を翳された盾ごと凍らせんと。
「戦いを以てレリ王女への弔いにしよう。おいで!」
「貴様ぁ!」
 狂信者にとって絶対の名を、事もあろうに仇が口にする不遜。彼女らには、到底許し難いだろう。だが、マキナは、更にその上を行く。
「守るべき主も守れない騎士団に、遅れる道理は無いわね」
 正に、傷口の塩を擦り込む台詞も冷ややかに、マキナは殺神ウイルスを投擲する。
「力なき存在では無いというのならケルベロスの攻撃、凌げるかしら?」
「予想してたかは知らないが、ケルベロスのお通りだ。全員噛み殺してやるから、覚悟するといい」
 数多を見て取り、白亜は眼前の長躯目掛けて旋刃脚を繰り出す。長い長い白髪が風を切って翻った。
「復讐心、分かるさ。それこそ力の源になることもな」
 マルティナの言葉はいっそ呟きめいて、何故か戦場によく響いた。
「……なんて、その仇に理解を示されることこそ、何よりの屈辱だろう?」
 マルティナ自身、復讐を糧に生きている。だが、紛う事なき共感も、仇敵からでは噴飯ものであろう。
「安心しろ、その想いごと斬ってやる。来い!」
 まるで鏡合わせのように、自らも聞けば激昂するであろう言葉を敢えて言い放ち、マルティナは天空より無数の刀剣を召喚し、降らせる。
 ――――!!
 士気高く、白百合の騎士達は我先にとケルベロス達に襲い掛かる。
「……っ」
 遮二無二繰り出される攻撃は、只々、眼前のケルベロスを刺し貫かんとして――復讐に猛る白百合の騎士達を真っ向から相手取り、ケルベロスの奮戦が戦線を乱しに乱していく。
 その間隙を突き、もう一方のチームが鋭く切り込む。目指すは、遠目にも月輪の武装と知れる指揮官。
(「ダモクレスの技術を用いているのは……、あまり歓迎するべき事態では無いわね」)
 ハティの武装に懸念を抱くレプリカントのマキナだが、彼女についてはひとまず突破していったチームに任せ、眉を顰めながらも周囲の戦況を注視する。
「ここは、回復のフォローに回るわ」
 Code A.I.M…,start up.
 槍撃を浴びせられた白亜に、『CCP A.I.M』を発動するマキナ。青の粒子状の光で傷を癒すと同時、ターゲットスコープを付与してターゲッティングを補助する。
 騎士達の行動に、連携らしい連携はない。只管に、怨敵を血祭りに挙げんと得物を振い続ける。
 ――――!!
 マルティナの意に反して、面を圧する制圧射撃は威力こそ過少であるが、すかさず、結里花は親友の幻霊を召喚。
「二人心を合わせれば、その一撃は金を断つ!! 連携奥義断金一式!! 疾風迅雷!!」
 結里花の雷と親友の風の力を合わせた合体魔法は、雷纏う竜巻で多を巻き込んで薙ぎ払う。
 ――――!!
 白亜より迸るハウリングが戦場に轟く。クラッシャーの相次ぐ範囲攻撃に、よろけた騎士を見逃さず、ウォーレンのチェーンソー剣が唸りを上げた。
「全く、復讐心だけで勝てるわけでもないでしょうに」
 溜息混じりに呟いて、恭介の時空凍結弾と安田さんの凶器攻撃が交錯する。硬直した長躯を残虐ファイトが引導を渡した。
 敵の攻撃を時にディフェンダーが阻み、時にヒールし合い、確実に各個撃破していくケルベロス達。
 そんな乱戦の最中も、戦況と戦場の警戒を継続していたヴォルフだが、不意に呆れたような声音を零す。
「まさか……敵前逃亡か?」
「な……!?」
 ヴォルフの言葉に、エステルは癒しを歌いながら戦場の奥を見やり――愕然と紅の眼を見開いた。

●怨讐の果てに
 ヴォルフの気咬弾も、エステルの歌声も届かぬ先の先――土煙が上がっていた。
「ハ、ハティ殿!?」
 流石に動揺する騎士達。よもや、彼女らの指揮官が、迫り来るケルベロスと一切剣も交えず、単身逃亡しようとは。
 戦線の側面を突かれて不利を悟り、無理せず撤退したと言えば聞こえも良かろうが……思わず唇を震わせるエステル。
「何故……復讐の相手が、目の前にいるのに退く」
 『今』を大事にしない、ハティの姿勢に怒りを禁じ得ない。
「ラリグリスさんとかいう親衛隊長だって、もうちょっと頑張ってましたよ」
「ラリグラス、殿だ」
 騎士の律儀な訂正に、恭介はのんびりと肩を竦めてのける。
「あなたは、どうします?」
 さあせめて最期まで、恥じぬ戦いを――自らの髪の花を射出するや、居丈高に言い放った。
「僕の戦った白百合騎士団の騎士は皆そうやって死んでいきました。……命乞いをしたら惨たらしく殺します」
「後ろに隠れて偉そうに!」
 疾風の如き一突きを、安田さんが遮る。構わず、騎士は吼えた。
「我らが命は、最期まで、レリ様の御為に!!」
 レリの狂信者は今や少数派。更に部隊の指揮官迄いなくなっては、敗北は決定的だ。だが、残る彼女らは只、『復讐』の為だけに起ち続ける。
「……よく、判った」
 斬霊刀二刀を構え直すマルティナ。騎士達の覚悟に、最期まで付き合う気になったのは情の厚さ故か。或いは、復讐にしか寄る辺なき者へのせめてのもの手向けか。
「だったら……守るわ。私に心を与えてくれた地球と人々を」
 マキナより、闘気が燃え上がる。迸った気咬弾は、弧を描いて長躯を穿った。
 流石に、戦闘種族たるエインヘリアルの騎士を相手に敏捷に因る技を立て続けに繰り出しては、喩え機敏な立ち回りを得手としていようと、動きを見切られる。
「……」
 ジグザグスラッシュに続いて稲妻突きも躱され、眉を寄せるヴォルフだが、不意に蜂蜜色の小さな猫の群れが体勢を立て直す前のエインヘリアルに突撃する。
「そら、猫たちのお通りだ」
「潰せ、白蛇の咢」
 白猫の火群――白亜が作り出した地獄の小猫達に纏わりつかれ、騎士は埋もれるように動きを止めれば、すかさず結里花のドラゴニックスマッシュが叩きのめした。
(「何でだろ……今すごく、会いたい」)
 すさまじいモーター音の最中で切り上げられた騎士の瞳が生気を喪っていくのを見上げ、ウォーレンの脳裏に過ったのは恋人の面影。
「駄目だ……まだ、終わってない」
 ともすれば茫漠となる意識に頭を振って抗い、彼は武器を握り直す。
 それは、悲壮なる掃討戦――見境ない突貫を躱し、ケルベロス達は1人ずつ打倒していく。
 葬った数が25を数えて漸く……戦場に復讐の叫びが途絶える。
「I need to just be……」
 エステルの心理療法的グラビティが、激戦を制したケルベロス達を癒す中、次なる戦場を見定めたのは、やはりヴォルフだ。
「炎日騎士と言ったか……スコルは斃されたようだが、あちらの配下は逃げ出しそうだな」
「まだ動けそうなら、援護に行きますか?」
 恭介の言葉に否やは無い。些かぼんやりが抜けきらないウォーレンの催花雨にも癒されて、ケルベロス達は駆け出す。
「急いで加勢するぞ」
「さあ、次も派手に燃やしましょう」
「2人共、一旦落ち着いて」
 血気盛んなクラッシャー達を窘めるマキナに続こうとして、マルティナはふと足を止める。
「……」
 振り返っても、もう、エインヘリアルの骸は霧散して無い。
「復讐、か……」
 その呟きは、風に紛れ――凛乎たる金剛石は決然と顔を上げると、仲間を追い掛けた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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