唸る刃は全ての伐採に

作者:なちゅい


 広島県広島市某所の公園。
 今年もこの桜の名所に綺麗な花々が咲き乱れ、すでに見頃を迎えている。
 所々の事情で花見客は疎らだが、桜そのものは例年と変わらぬ美しさであり、足を止めてその花々を見上げる者も少なくはない。
 そんな公園に現れたのは、巨大な電動ノコギリのチェーンソーだった。
「ヴィイイイイイイイイイイイイイイイン!!」
 激しい騒音を上げるそいつはつい先ほど、近場にて廃棄物として打ち捨てられていた家庭用の小型電動ノコギリに小型のダモクレスが入り込んだことで大型化した。
 小型のダモクレスは、コギトエルゴスムに機械の足がついたような姿をしており、壊れた電動ノコギリへと入り込んだ後、機械的なヒールを機体に施して体を作り変えてしまったのだ。
 ダモクレスとなった電動ノコギリは近場の公園まで浮遊して向かい……、今に至る。
「で、電動ノコギリが宙を浮いとる!?」
「新手のダモクレスじゃ、早う逃げろ!」
 公園にいた人々は慌ててこの場から逃げ出そうとするが、ダモクレスは桜の木ごと逃げる人々を全て切り払っていく。
 まるで、人々すらも木に見立てて、大型化した電動ノコギリはこの場の全てを伐採する勢いで切りかかっていくのだった。


 温かな日差しを感じる昨今ではあるが、世間は様々な出来事が起きていて不安が募ることも多い。
「デウスエクスの活動はまだまだ盛んだからね。油断はできないよ」
 ヘリポートでは、リーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)が新たな依頼を説明し始めていたところ。
 そこで、北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)がこんな話を持ちかける。
「『何もかも伐採してやるぜ!』……と荒ぶる電ノコダモクレスが現れるんじゃないかと」
「うん、それらしき予知を確認したので、皆に討伐を願いたいんだ」
 現場は、広島県広島市の某公園。
 とある家庭で廃棄物として打ち捨てられていた電動ノコギリがダモクレス化、現場となる近場の公園へと浮遊して移動し、人々を襲い始めるようだ。
 被害が発生する前に、何とかしてこのダモクレスを破壊してしまいたい。

「ダモクレスとなった電動ノコギリだけれど、全長1.5m程にまで大型化していて危険な相手だね」
 元は小型とは思えぬ威圧感で、刃を唸らせながらスナイパーとして確実に相手を狙ってから襲ってくる。
 グラビティはチェーンソー剣とレプリカントのグラビティを使用することが確認されている。見知った技とあって、幾分か対処もしやすいだろう。
「事件は昼間に起こるようだね」
 ダモクレス出現後、警察隊がすでに厳戒態勢を敷き、現場周辺は避難勧告を出している。
 人的避難は進んでいる状況なので、直接ダモクレスの抑え、討伐に当たると良いだろう。

 ダモクレスを討伐した後は、戦場となった公園で花見を行うのもいいだろう。
「折角、桜が満開なのだから、花見をしないとそんな気分になるよね」
 それは自分だけかなと小さく笑うリーゼリットだったが、それは無事に事件が解決したらの話。
 ケルベロス達は気を引き締め、まずはダモクレス討伐へと当たるのである。


参加者
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)
 

■リプレイ


 広島県広島市。
 現場となる桜の名所である公園へと降り立ったケルベロス達はしばし、桜を見上げながら語らって敵の出現を待つ。
「工具や農具、よく放置してあるんよな」
 全ての色が異なる三対の翼を持つオラトリオの男性、岡崎・真幸(花想鳥・e30330)が昔、田舎でよく見かけた光景を思い出す。
 その放置された物からはバッテリー、駆動部といった物は抜かれていると真幸は聞いていたらしいが。
「そのまま錆びてたりするし、危ねえよなぁ」
 なぜ、彼がそんな話をするのかというと、今回現れるのが電動ノコギリ型のダモクレスによるところが大きい。
「春の風物詩もダモクレスにとってはただの木材なのかな」
 アンティークな服装を好む銀髪少女、エマ・ブラン(白銀のヴァルキュリア・e40314)もふと別の疑問を抱くと、物腰柔らかなこともあって初老の紳士といった印象も抱かせるディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が小さく唸って。
「開花中に伐採を行うなどほとんど聞いた覚えがないが……、枝葉の様子など気にも留めないということかな」
 かつて起こったユグドラシルとの戦いに投入できたなら、さぞ頼もしい存在だったかもしれないとディミックは淡々と語る。
「……桜も、人も、……伐採する暇を与えないために」
 純白の大翼と漆黒の小翼を生やす無表情なキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)は敵を発見したらしく、先んじて駆け出していく。
 続き、メンバー達もその場へと急行して。
「ヴィィイイイイイ…………ン」
 桜の木々の間に浮かび上がっていたのは、全長1.5m程度にまで大型化した電動ノコギリ。
 唸らせる刃を振り回すそいつの存在は非常に危険極まりなく、この場にいた花見客が我先にと逃げ出していく。
「刃物は扱う者の心がけ次第で、人を幸せにも不幸にもするもの」
 なぜかサメスーツ着用でやってきていた今事件の予見者、北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)。
 彼は剣士の端くれとして、人を傷つける刃物を見逃すわけにはいかぬと身構えて。
「目には目を、刃には刃を。ノコギリにはノコギリでお相手しよう……!」
 おそらく、計都はノコギリザメに扮して電動ノコギリ型ダモクレスと対しようというのだろう。
「まあ、俺の縄張りで好き勝手されると迷惑だ。スクラップになってもらう」
 生活の拠点となる場所での事件とあって脊髄反射的に参加したという真幸は、鋭い目つきで敵を注視する。
「ヴィイイイイイイイイイイイイイイイン!!」
 そこで、一層激しく刃を動かし始めたダモクレスの挙動に、エマが警戒して。
「こんな綺麗な桜を伐採なんてさせないんだよ!」
 普段、ロケットランチャーを使うこともあるエマだが、今回は桜の木を守りたいこともあって装備してこなかった。
 彼女は代わりにと用意してきたヌンチャク型の如意棒を手にし、攻め入る隙を後方から窺うのである。


 桜の花びらが舞い散る中、場違いな騒音が響き渡る。
「ヴィイイイイイイイイイィィン!!」
 刃を滅茶苦茶に振り回す電動ノコギリ型ダモクレスの近場に花見客が多くいなかったのは幸いであり、警察もすぐに駆け付けて避難誘導はどうにかなりそうだ。
 しかしながら、地面に根を張る桜の木々は動きようがない。
 花見における主役である木々が切り倒されてはたまらないと、ケルベロス一行は桜に攻撃がいかないよう取り囲むようにして布陣していく。
「……どこを向いてもケルベロスなら、桜に向かう気も起きなくなるでしょう?」
 とは、キリクライシャの弁。
 実際、ダモクレスは手近な伐採対象であるケルベロスへと切りかかってきていたが、そこはテレビウムのリオンことバーミリオンが身を張ってくれていた。
 直後、暴れる電動ノコギリ型ダモクレスに対し、サメスーツを着用した計都がライドキャリバーのこがらす丸と共に攻め立てる。
 まずは、こがらす丸が機体を燃え上がらせて特攻し、激しくぶつかった後、高く跳び上がった計都がエアシューズ「レイジングタスク」で蹴りかかる。
 僅かに動きを鈍らせるダモクレスだが、依然として健在。
 その刃に立ち向かう仲間の為にと真幸が仲間の強化に当たり、前衛から地面に守護星座を描くことで仲間達の守護をはかる。
 その手前に飛ぶボクスドラゴンのチビは、主の真幸が粗忽者だからしっかりしなければと気を張り、敵へと属性ブレスを吐き掛けていた。
 テレビウムのバーミリオンは閃光で相手を刺激するのを避け、凶器で一度殴り掛かった後は仲間の応援動画を流して回復に当たる。
 そんな相棒の働きを後方で視界に入れながら、キリクライシャは太陽の光がもつ浄化の力を光の珠と変換していく。
 すでに、前線メンバーの強化が済んでいたこともあり、キリクライシャは自身を含む後衛陣へとその光を飛ばす。
 光はメンバーの体内へと溶け込み、それぞれの体内から異常排除をと働きかけてくれていたようだ。
 立ち位置を定め、ダモクレスの隙を突いたエマがそこで攻め込む。
「やぁっ! たぁっ! ほわたぁっ!」
 空中で暴れる電動ノコギリの動きをいなし、刃を鈍らせながらも、エマは痛打を与えてダモクレスの破壊を目指す。
 彼女はヌンチャクだけでなく格闘も交え、刃の根本である動力部部分へと攻撃する。
「こういうのカンフーって言うんだっけ?」
「ヴィイイイイイイイィィィィン!」
 ただ、敵は唸るばかりで答えることもせず、今度は動力部からミサイルポッドを展開して大量のミサイルを発射してくる。
 前線メンバーへとそれらのミサイルが浴びせかけられる中、エマは少し敵の武装に感心してしまって。
「電動ノコギリにちゃんと装備しておくなんてすごい」
 彼女は自慢のガジェットにも応用できそうかなと後の改造のことを考えながらも、電動ノコギリダモクレスの破壊の手を強めていくのである。


「ヴィイイイイイイイイイイイィィィン!!」
 ふわふわ浮かび、震える刃で切りかかってくる電動ノコギリダモクレスはその見た目だけでもかなりの威圧感を感じさせる相手。
 確実な狙いで切りかかってこようとしてくるそのダモクレスに対し、ケルベロス達はディミックを主体として動きを抑えにかかる。
「ぬ、ううっ……」
 こちらの傷口を抉るように切りかかってくる敵を警戒するディミックは光の城壁を出現させ、しばらくは敵の凶刃を凌ぐ。
「……動きを制限していきたいわ」
 とにかく、自由に動き回るのが厄介だと独り言ちたキリクライシャが爆破スイッチを押して見えない爆弾を起爆させ、相手にプレッシャーを与えていく。
 さらに、エマがフェアリーブーツより理力を籠めたオーラを蹴り込み、装甲を打ち破ろうとしていた。
 見た目は横方法に柔そうなダモクレスだが、そこはデウスエクスとなったことで強い力を持った相手だ。
 もちろん、元が電動ノコギリとあって、狙撃手として位置取るダモクレスは高い攻撃力を持っており、前線のディミック、テレビウムのバーミリオン、ライドキャリバーのこがらす丸を深く傷つける。
 バーミリオンがやや苦しそうに応援動画を流していたが、彼らの負担を少しでも和らげようと、真幸が光の盾を展開していく。
 箱竜のチビも回復補佐として、属性注入による癒しに動いてくれていた。
 そうした各自の頑張りもあり、少しずつダモクレスの動きが鈍っていく。
 サメ型スーツの片手はハンマーヘッド、もう片手はノコギリと武装までサメ一色にしていた計都。
 彼は序盤、ハンマーヘッドから轟竜砲を撃ち込むこともあったが、ダモクレスの勢いがなくなってきたことを受けてノコギリで切りかかり始める。
 キリクライシャも攻撃パターンを少し変え、ネクロオーブを手にして水晶の炎で敵の装甲を切りかかり始めていた。
 真幸は回復の手を止められず、オラトリオの歌による癒しを仲間へともたらす中、ディミックは戦いも佳境と感じて回復の合間に光ファイバーによって光線を発射し、ダモクレスの体を撃ち抜いていく。
 エマもまた威力重視の攻撃へと切り替え、一度光の粒子となって突撃を繰り出し、ダモクレスの身体へと強い衝撃を与えて。
「覚悟してね! てーい!」
 さらに、フェアリーレイピアへと武器を持ち換え、残像を伴う超高速斬撃で電動ノコギリの体に亀裂を入れていく。
「ヴィイィ……イイイィイイ……」
 明らかに挙動がおかしくなってきていた敵が一度地面へと落下したところで、こがらす丸が激しいスピンを仕掛けてその刃を轢き潰す。
 続けざまに、計都が胸のサメの口にチェーンソー剣を噛ませ、赤い炎状のオーラを纏わせて。
「見せてやる……サメの力を!」
 なぜサメなのかなどと、今更聞くのは野暮だろう。
 計都は全力を持ってその刃を一閃させ、刃と動力部を完全に断ち切り、電動ノコギリの動きを止めてしまう。
 地面へと落下したダモクレスの動力部で何かが爆ぜ飛び、その体が見る見るうちに縮んでいく。
 変化が止まり、壊れて錆びついた電動ノコギリが地面に転がり、その上へと桜の花びらが舞い落ちてきていたのだった。


 ダモクレスの脅威の去った公園で、ケルベロス達の作業は続く。
 敵によって荒らされた公園の木々に対して、エマはどこからともなく取り出した銃器より蒸気を噴射してキズを直していく。
 キリクライシャは応援動画を流すバーミリオンの傍で浄化の光を光の珠とし、仲間の手当てへと動いていた。
 他者向けのヒールグラビティを持たない計都は手作業で修復を進める。
 物騒な戦闘の痕跡をなくすべく、光輝く掌をかざして幻想で覆っていたディミックもある程度修復が進めば、避難中の花見客の呼び戻しへと動いていたようだった。
「事後処理も完了じゃ。封鎖を解いてくれて問題ないでぇ」
 その際、真幸がご当地の警察に地元言葉で喋っていたのが印象的だったメンバー達である。

 修復作業が終われば、計都はサメスーツを抜いで。
「さて、花見を満喫しましょうか」
「そうだね。我々も楽しんでいくとしようか」
 ディミックも同意し、ケルベロス一行は花見を再開した人達に交じって、たくさんの花が咲いている桜の木の下へと腰を下ろす。
 エマは持ってきた飲食物を広げ、春のひと時を満喫することにしていた。
 ラムネの瓶を取り出したエマは、慣れた手つきでビー玉を下へと落とす。
 シュワシュワと音を立てて零れそうな泡を、彼女は上手にお口でお迎えして。
「とっても美味しい!」
 定命化してかなり経つエマだ。地球の飲食物もかなり口にしており、その味を存分に楽しんでいたようである。
「今年も綺麗に咲いたな」
 箱竜のチビに甘酒を渡して桜を眺める真幸は、また春が来たことを実感する。
「……種類もあるのかしらね? ……少し歩いてみましょうか、リオン」
 桜の中にシダレザクラがあるのを確認したキリクライシャは席を立ち、テレビウムと共に公園内を歩くことにしていたようだ。
 そんな彼女の後姿を見ていた真幸は、自身の伴侶のことを思い出して。
(「あいつが忙しさで病み始めてるのに、俺だけ花見して帰ると泣かれるかね」)
 おそらく、今は教師としての仕事の為にストレスが振り切りそうになっているであろうと真幸は確信していた。
 何か埋め合わせを。そう考えていた彼はちびちびと甘酒を飲む箱竜チビを、そして、足元に舞い落ちてくる桜の花びらを見つめて。
(「初デートは花見だったな。あの時は望み薄だと思っていたが」)
 その時は、最初で最後だと考えていたものだったが……。
 来年こそは一緒に桜を見に来ようと、真幸は決意していた。
 同じく、地面に落ちていた桜の花びらを見ていたディミックは再び頭上の桜を見上げる。
 一斉に咲き、すぐに散ってしまうあまりにも儚い花々。
 ただ、それらの花びらが最後に織りなす雪のような美しい光景に、ディミックは感嘆する。
「ほぉ……」
 この国において、桜が愛される所以。そして、心を打つ理由を、ディミックなりに理解していたようだった。

 ラムネで喉を潤したエマは次に、容器から溢れそうなほどに山盛りの焼きそばを頬張っていた。
「うん、美味しい!」
 食べるのに忙しいエマは、花より団子ならぬ花より焼きそばだったようだ。
 公園内を散歩気分でテレビウムのバーミリオンと歩いていたキリクライシャも、屋台の食べ物に興味を惹かれていたようで。
「りんご飴を買っておかなくちゃ」
 さらに、彼女は立ち並ぶ屋台の食べ物を一つずつ買って制覇していくが、それらを食べるのは程々にして。
「……でも、もうしばらくは……眺めておきましょうか」
 満開の桜。風に揺れる枝から落ちてくる桜吹雪。
 ぼんやり眺めていたキリクライシャはそういえばと思い出したのは。
「桜餅もそろそろ時期が終わってしまうのかしら?」
 寄り道する場所が増えたと、彼女はバーミリオンと共に公園を後にしていくのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月6日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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