スイート・イエロー

作者:崎田航輝

 陽がゆるりと下がって、青空が金色に染まる時刻。
 柔らかな春の風に吹かれてさらさらと揺れるアカシアの花の傍で──人々が訪れる一軒の建物がある。
 それは花園の中に建つカフェ。今の時期、蜂蜜を使ったスイーツがメニューに並び人気になっていた。
 レアチーズケーキにフレンチトースト、たっぷりの蜂蜜を使ったバターケーキや、果実をふんだんに盛ったフローズンヨーグルト。飲み物も温かなレモネードや、ノンアルコールでも楽しめるホットワインと、蜂蜜の優しい甘みを楽しめるものばかり。
 産地から直送だというその蜂蜜は、新鮮な美味が評判で。この日も少なくない客で賑わっているのだった。
 と、そんなカフェを見下ろす夕刻の空から、舞い降りてくるものがる。
 それは謎の胞子。店の敷地に生えるアカシアに取り付くと、同化。蠢くように根を動かし、這い出していた。
 店へと入ろうとしていた人々は、眩いほどの金色の花を呆然と見上げる。異形となったアカシアは、彼らへと枝を伸ばし──その命を喰らっていった。

「春は、蜂蜜の旬とも言える季節みたいですね」
 皆さんは蜂蜜はお好きですか、と。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は皆へそんな言葉を口にしていた。
「とあるお店ではそんな蜂蜜スイーツが人気なのですが……その近くにて攻性植物が現れてしまうことが予知されたのです」
 現場は大阪市内。爆殖核爆砕戦の影響によって続いている事件の一つと言えるだろう。
 放置しておけば無論、人々が危険だ。
「一般の方々を守るために、力を貸してください」
 戦場は店の前の道。
 敷地から這い出てくる敵を、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「周辺の人々は、警察や消防が避難させてくれます。皆さんが到着する頃には、丁度人々も逃げ終わっていることでしょう」
 こちらは到着後、戦闘に集中すればいいと言った。
「お店などにも被害を出さずに倒すことが出来るはずですから……勝利した暁には、皆さんもお店に寄っていってみては如何でしょうか」
 蜂蜜を使ったメニューが人気のカフェだ。
 お店で味わえる品の他に、クッキーやマフィン、プリンと言ったお土産もある。様々な形で蜂蜜が楽しめるでしょう、と言った。
「そんな憩いの為にも、ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」


参加者
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●夕空
「金色の夕焼けに、金色の花──」
 風にそよぐ花が、暮れ始めの陽に耀く。
 道に降りたイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は、白妙の髪を靡かせながら景色を仰いでいた。
「とっても綺麗だね」
「そうですね。それに良い香りもして……」
 と、頷く兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)は視線をカフェへ。甘い芳香の残る店の、表に描かれたメニューを見つめる。
「蜂蜜を使ったスイーツ、どれも美味しそうですよね」
「ええ、本当に……。綺麗な花に、美味しいハチミツスイーツ……こんな素晴らしい風景を壊されるわけには行きません!」
 きゅっと唇を結んで声音に力を込めるのはイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)。刷いた刀の柄に手をかけて、目を園の中へ向けていた。
 そこから這い出て来るのは──蠢く樹木。
 花の美しさだけを残した、異形のアカシア。
「綺麗な花だなあ。あの花がハチミツのもとになったのか?」
 その金色を正面から捉えた尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は、機巧の拳をがしりと握り込む。
「なら、止めてやらねえとな」
 と、非業の因子を受けた無辜の花にも、変わらぬ笑顔と意気を見せながら。
 広喜の言葉に、翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)もええ、と小さく応える。確かにその花は美しく咲いていた、それだけは今も変わらないけれど。
「人々や多くの命に危害が及ばないように、止めませんと」
「もちろんだよ! レアチーズケーキにフレンチトースト、いっぱいの果実と蜂蜜のスイーツがあるのに、攻性植物はまた邪魔しに来るんだから!」
 ちゃんと反省してもらうからね、と。
 イズナは光翼で翔ぶと黄金の腕輪から『滴る夢幻の黄金の雫』。無限に複製される雫で世界を金に染め、狂樹達を惑わせた。
 そこへ風音は爽風に乗って靭やかな蹴りを見舞い、碧竜のシャティレにも翠の葉の舞うブレスを重ねさせる。
 一体は反撃の枝を振り翳す、が。イリスが刀を真っ向から突き出して。
「銀天剣、イリス・フルーリア──参ります!」
 淑やかさを凛々しさに、嫋やかさを鋭さに変えながら。
「灼き尽くせ、龍の焔!」
 刀身から業炎を渦巻かせて放射。巨樹の全身を灼いていく。
 別の一体が花雨を降らせてきても──。
「……大丈夫、予見済み」
 敵の動きを具に視ていたオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が、手を夕空へ差し伸べていた。
 はらりと散るのは淡い光を帯びた花弁。
 陽を七彩に反射したそれは虹色に瞬くと、鮮やかに風に溶けて皆を治癒。同時に魂を奮わせて力も齎していた。
「あと、少し」
「では、お任せを。──夢幻」
 と、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)が深海の瞳を向けると、応えた翼猫が柔らかに羽を扇ぐ。
 清らかな風が癒やしを与えると、広喜も鎖に蒼焔を湛えて魔法円を描き、皆へ守りの加護を施していた。
 皆が万全となれば、綾奈自身は攻勢へ。
「雷よ、来たれ……そして、敵を薙ぎ倒す力となれ……」
 掲げた大斧へ雷光を煌めかせ『雷鳴斧撃』。斬打と鮮烈な光で三体を薙ぐ。
 樹木達は鈍り乍らも反撃を目論んだ、が。
「譲りはしないとも」
 老成した声音と裏腹に、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)は素速く疾駆。機械脚で跳ねるが如く迫っていた。
 刹那、拳から弾き出される光は『海鳴る辰砂』。赤色硫化水銀を媒介に砂塵を巻き起こし、暴嵐の衝撃と共に精神をも削りゆく。
 魂の欠損に虚像の理想郷を埋められ、茫洋と惑う巨樹。その揺らいだ心へ、紅葉は『メイプル・ダスク』。
「まどろみの世界へ誘う紅葉の舞を、ご覧下さいね」
 季節を鞍替えさせたかのように、美しい紅葉の幻影を踊らせて。朱き風が舞う迷夢に樹木達を淀ませた。
 そこへ風音が艶やかな声音で歌唱。力強い旋律で三体の挙動を押し止めると──。
「全力で、やらせてもらうぜ」
 広喜が躊躇わず飛び込み一撃。澱みない一直線の拳で一体を破砕した。

●決着
 花が揺れて、地面に不均一な影を耀かす。
 傷ついた狂樹達は枝葉をざわめかせていた。音色は威嚇か、或いは悲運の嘆きだろうか。
「アカシアには優雅、それに友情の花言葉がありましたか」
 その姿に風音は呟く。
「花の咲く様は優雅ですが……攻性植物になってしまうのは物悲しいですね」
 それでも意志は収めず、金蜜に夕陽を刷いた瞳で見据える。
 友情の花言葉を持つ花が人々を、人々が友をなくす様子を見るのは、きっと望まない。
 続く事件にも早く区切りをつけたい。だからこれをその一歩にして。
「──行きましょう」
「うん!」
 明朗に頷くイズナは、敵に劣らぬ眩い光を棚引かせ飛翔。
「寄生するだけならまだよかったけど。誰かを襲うのは絶対ダメだからね!」
 蔓に大輪を咲かせて一体の枝を食い破った。
 揺れ動く巨樹にも、広喜は視線を彷徨わせずに。全身の回路、そして眼球に獄炎を充填させて演算を加速。
 敵の軌道を見切ると拳を振りかぶり──『狙イ詠』。青の陽炎を纏いながら容赦なき打突で幹を穿ち貫いた。
「後は、頼むなぜ」
「ええ!」
 勇壮に返すイリスは刀と翼へ、全天から眩い光を凝集。
 ──光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ!
 瞬間、燦然と耀く刃で一刀を繰り出す。
 『銀天剣・零の斬』──刀の光で時を止めると、翼から溢れた光を無数の刃と成し斬撃。樹木を千々に散らせた。
 残る一体が枝を振るう、が、広喜は機械の腕で至近から受け止めて。
「悪いな、この先には行かせねえ」
 軋む痛みにも楽しげに笑いを見せる。
 直後にはオルティアが虚空に光の盾を描く。明滅する燿きは躰に溶け込んで、内外から護りの力で包むよう傷を回復させた。
「これで、問題ないはず」
「では──」
 敵へ、と。風音は手に刃を揺らめかせる。
 それは自然に揺蕩う無機物の波動の具現──『音無きものの交唱』。
 零れる雨滴の透明さを、吹き荒ぶ風の力強さを。鋭利な衝撃へ変えて、自然から外れてしまった異形へ刻み込む。
 巨樹は苦悶しながらも、暴れて体当たり。だが傷を受けた綾奈へオルティアが一瞬の内に駆け寄っていた。
 『伝令走技:闘翻静走』──軽量化の魔術で足音も動きの痕跡も残さず、一呼吸の内に強力な処置を施していく。
「……これが終われば、蜂蜜だって、待ってる。もう少し、だから」
「ありがとう、ございます」
 綾奈はそっと頷く。自分も蜂蜜は楽しみだ。だからその為に力を振り絞ることだって、出来るのだと。
「エンジェリックメタルよ、私に、力を……!」
 天使の翼の如く躰を纏っていたオウガメタルを燿かせ、斧を覆わせると一撃。光を帯びた斬打を放った。
 枝を断たれた樹木へ、紅葉も間隙を与えない。小さな歩幅で、しかし素速く走り抜け──敵が降らす花を潜り抜けて後背へ。
「植物は、焼かれてしまいなさい!」
 地を踏みしめ跳び上がると、躰を返して燃え盛る蹴撃。金花を紅葉へ彩るよう、焔に包み込んだ。
 ばきりと崩れ始める狂樹。
 それでも幹を振り回してくる、が。ディミックは下部ユニットを噴射し回避。着地と共に拳に日輪の如きエネルギーを湛えた。
 瞬間、光弾ける打突で幹を粉砕すると──八識システムを稼働。阿頼耶光を顕現させる。
「これで最後とさせてもらおうかねぇ」
 刹那、放射した無数の輝きで狂樹を霧散させた。

●甘き夕刻
 淡い陽の差し込む店に、漂うのは蜜の香り。
 戦闘後、周囲を癒やして平和を取り戻した番犬達は──早速カフェを訪れていた。
 席についたオルティアはメニューを見て、そわりそわり。
「美味しそう」
 上から下まで写真を眺めつつ。
「とても、美味しそう」
 視線を往復させて。
「どれも、美味しそう……」
「本当ですね!」
 隣に座るイリスもまた、蒼空の瞳をきらきらさせてわくわく。
「イマジネイターさんも仰っていた通り、全部とっても美味しそうで、目移りしてしまいます……!」
「私の胃、4つくらいに、増えないかな……」
 ついでに財布と、その中身も、と。
 オルティアも呟きつつ決めかねている。
 それでも選ばねばならぬと心を強く持って。
「……うん。食事は、フレンチトースト。飲み物は、レモネード。これに、決めた……!」
「では私は生カステラとチーズタルトと、フレンチトーストも。飲み物は紅茶で」
 と、イリスも注文。やってきた品を見てわぁと笑んだ。
 どれも眩い金色。
 ふんわり食感のカステラは、噛むと溶けながら優しい甘味が広がり……タルトは濃厚なチーズに負けないふんだんな蜂蜜の香りが感じられた。
 紅茶は好きなだけ蜂蜜が足せて、香りも華やか。
「美味しいです……!」
「ん、こっちも、美味しい……!」
 オルティアはトーストを一口。つやつやの焼き目から、染み出てくるような蜂蜜がバターと相性抜群で。
 レモネードは瑞々しい酸味と蜂蜜が黄金比。
 柔らかな甘さと爽やかな甘さの二品に、ほうと幸せな吐息が零れた。
「トーストも美味しいですね! では次はプリンに、アイスを……」
 と、健啖家かつスイーツ好きのイリスはまだまだ旺盛に。たっぷり味わうと、更に帰る前に店頭へ。
「ふふ、師団や旅団の皆さんにもお土産を買っていかないといけませんね!」
「お土産、確かに、必要……!」
 それには、財布の中身を鑑みて食事を抑えていたオルティアも頷いて。瓶入り蜂蜜にクッキーと、彩り豊かな品々をお買い求め。
「きっと喜んで貰えますよね」
 イリスも沢山の袋を手に、満足の面持ちで帰路へついていった。

 庭を望むテラスで、風音はメニューを広げていた。
「レアチーズケーキに、ホットワインもあるのですね……注文しましょうか」
 写真に見惚れつつ、シャティレにはレモネードを。
 その尻尾が待ち遠しげにふりふり揺れるのを眺めつつ……品が来るとシャティレと一緒に頂き始める。
 ケーキは濃厚さとチーズの風味を蜂蜜が包み込んで、甘く芳醇。ホットワインは淡い渋みを蜂蜜が優しく溶かし、シナモンの香りが美味を引き立てた。
 シャティレも甘酸っぱいレモネードにご満悦。飲み終えると、傍のアカシアを興味津々に眺め始める。
 くしゃみしそうなくらい鼻を近づけている、そんな姿に風音は微笑んで。
「夕暮れとアカシア……美しい風景ですね」
 こんな風景を、また一つ護れてよかったと思いながら。
 帰りには勿論お土産を。
「シャティレもクッキー、買っていく?」
 ぴゃう、と鳴く声を聞きながら、風音は蜂蜜も一緒に買っていった。

 金色の風に花が柔く揺れる。
 そんな庭を窓から望みつつ、綾奈は席についていた。
「どれも、綺麗なもの、ばかりですね──」
 メニューを眺めて、その彩りに目元を和らげながら暫し迷って注文。焼きたての特性クッキーと紅茶がやってくる。
「蜂蜜の良い香りが、とても素敵、ですね」
 甘い芳香のそれを一口食べると、小気味良い硬さでぱりっと崩れる。そこに仄かな甘さを感じると、次はたっぷりと蜂蜜をつけて二口目。
 ふくよかになった甘味と、蜜のとろみが相まって美味しさも倍増だった。
 合間に紅茶を頂けば、ほんのりとした渋さが蜂蜜の甘さと程良く合って。芳ばしい後味に、またクッキーに手が伸びる。
「美味しい、ですね」
 目を向けると、もそもそとクッキーをつまむ夢幻も鳴いて応えていた。

 芳しい甘薫りの中で、紅葉はメニューを眺めている。
「わぁ、蜂蜜を使ったスイーツがこんなに沢山。目移りしそうですね」
「えへへ、そうだね」
 と、隣に着くイズナも金色の品々に笑みを零さないではいられない。この中から選ぼうとすると困ってしまう程だけれど──。
「はちみつのレアチーズケーキ、とっても気になってたんだよね」
 中でも心惹かれるそれを選ぶ事にする。
「じゃあ、俺はこれにするぜ」
 そう言ってフレンチトーストを指すのは広喜。
 イズナもそれを見ると自分も食べたくなって注文。さらにフローズンヨーグルトや、飲み物も頼んでいった。
「蜂蜜を溶かしたレモネード、美味しそうですね。飲んでみたいです」
 紅葉も飲み物を決めて──皆の品がやってくると、早速実食し始めていく。
 広喜はフレンチトーストを暫し見つめたあと、あむりと一口。とろりとした蜂蜜の滑らかさと、蕩けるバターの香りに無邪気な感動を見せた。
「このパン美味えなあっ」
「うん。本当に、美味しいね!」
 爛漫に頷くイズナもまろやかな甘味に笑顔。
 更にチーズケーキを口に運び、しっとりとした食感とふくよかな蜂蜜の相性を堪能。フローズンヨーグルトはさらりと溶ける食感とりんごやベリーの酸味に、いっぱいの蜂蜜が甘さを加えて美味だった。
 ワインもフルーティさと蜂蜜の香りが良く合って。
「飲み物も美味しいよ!」
「ん、こちらも」
 と、紅葉もそっとレモネードを含んで頷く。余分な味付けのないそれは、酸味と甘味だけじゃなく、果汁と蜂蜜の風味までが楽しめた。
 紅葉は更にシフォンケーキのふわふわさと、パイナップルと蜂蜜のムースの柔らかな口溶けを味わって。
「後は、お土産ですね」
「おお、いっぱい買いてえな」
 それには広喜も頷き同道。瓶入りの蜂蜜に目を留める。
「すげえ……綺麗な色だ」
 アカシアの蜂蜜の白金色は大好きな色に似ていて、思わず見惚れてしまう。
 それを大事に手に取ると、イズナもまたクッキーやマフィンを選んでいた。
「えへへ、どれも可愛くて綺麗だね!」
「ええ、良い思い出になりそうです」
 紅葉も蜂蜜プリンを手にして清楚な笑みを見せる。
 皆で沢山お土産を買うと、イズナは上機嫌に夕空の下に出て。
「楽しかったね!」
「ああ」
 頷く広喜は両手いっぱいにお土産を提げながら──庭へ振り返り、花達へ笑顔で礼を言った。
「美味しいもんたくさん、ありがとよ」
 そうして金色の空に照らされる中、皆と一緒に歩み出していく。あのアカシア達の残した味が、皆の記憶に残ることを願って。

「養蜂が、現代にも続いているとはねぇ」
 なんだか嬉しくなってしまうよ、と。
 ディミックは席でお品書きを見ながら感心の声を零す。
「あれこそ、花の栽培で簡単に置き換えられてしまうものかと思っていたが……そうでもないのだね」
 永い文化には過日の記憶を刺激される思い。
 尤も機械の身には食の記憶は少なく、朧だが──。
「バターケーキか。これは太古の昔にもあったが……野趣に溢れた味わいだったかねぇ。現代のものはどうだろうか」
 と、興味を惹かれ注文。
 淡いきつね色の生地をほわりと食べ、ほどける生地の中に香る蜂蜜に上品さを感じた。
 飲み物は蜂蜜酒。濁りない金色で、甘口ながらしつこくなくて快い喉越しだ。
「食も、時と共に洗練されていくようだねぇ」
 昔の記憶を引っ張り出しながら、味の差異に呟く。
 それも楽しい経験で……食を終えるとお土産に瓶入りの蜂蜜を買って、ディミックはのんびりと歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。