もう夜も遅いですけどクレープ食べません?

作者:星垣えん

●9つの腕を持つ男
 都内。
 深夜の空き地に、繁華街の喧騒が遠く聞こえる。
 そして、そこにひとつの機械が置かれていた。
 小さくはない。
 どっしりとした真四角の土台はいかにも重そうで、上に乗っかってる丸い鉄板は直径40cmはあるだろうか。その上にゆるい生地を流せば美味そうなクレープ生地ができあがりそうである。
 ……うん? それクレープメーカーじゃね、って?
 YES、クレープメーカーです。業務用です。
 けれど空き地にポイっと捨てられてるということは、業務用クレープメーカーさんもお役目をまっとうしてしまったって感じなのです。確かに所々に汚れも目立って、ちょっと商売には使えそうもありません。
 が、なんということでしょう。
 夜風にのってふわ~っと、いつもの極小ダモクレスさんが来るではありませんか。
 ダモさんは傍から見ててイライラするほどのスロー感で、クレープメーカーに着地。
 そのままするするっと内部に潜りました。
 で。
「レッツ! クレェェーープ!!」
 頭の悪そうな台詞とともに、業務用クレープメーカーさんが蘇りました!
 しかもただのクレープメーカーではありません! ガションガションとロボット物っぽい変形シーンを経て、直径40cmの鉄板が増設されたのです!
 3×3の合計9枚の鉄板を持つグレートなクレープメーカーに生まれ変わったのです!
 単純に考えて回転率が9倍!
 もう店主はきっとウハウハです! これで要らない子認定とはおさらばです!
 新たな力を得たクレープメーカーさんは喜びのあまり踊り出して――。
「クレェプ……」
 はいなかった。
 そう、もう言わずともわかるだろう。
「クレェプ……キジィ…………!!」
 焼くべき生地が、なかった。

●行くぞ! クレープを焼きに!
「クレープ、楽しみですね」
「そうっすねー。あれって何か1度は焼いてみたいって思うっすよね」
 ヘリオンにガタゴトと荷物を搬入しながら、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が楽しそうに話している。
 呼ばれて来たら、これである。
 説明もなく、なんか作業に勤しんでやがるのである。
「あ、皆さん来てたんすね!」
「すみません、気づかずに……」
 2人が猟犬たちに気づいたのは、5分ぐらい経った頃でした。
 そっからの説明は早かった。雑だった。
 なんでも捨てられていた業務用クレープメーカーがダモクレス化して、都内の空き地で生地を欲しそうにしているらしい。これは早急に生地を持っていく必要がある。
 なんか間違ってる気がするが、少なくともダンテと和希の言葉はそんなんだった。
 クレープ作ることしか頭になかったと思います。
「もうクレープ生地や生クリーム、挟むフルーツやアイスクリームなどは僕とダンテさんで用意してあります。道具も揃えたので安心して下さい」
「きっちり寝かせた生地なんで、着いたらすぐ焼けるっすよ!」
 2リットルぐれー生地が入った密閉容器を持ってニコニコしてる2人。ヘリオンのほうを見たらその密閉容器と同じやつが大量に積みこまれている。ガン積み。
 美味しいクレープ食べることしか頭になかったと思います。
「ちなみに上手く焼けるかって不安な人もいるかもしれないっすけど、そこは安心っす。クレープメーカーさんはダモクレスなんで、どんな無茶をしても美味しいもっちりクレープに仕立ててくれるっす!」
「もちもち食感はクレープの肝ですからね。ありがたいです」
「さ、それじゃもう言うこともないし行くっすか」
「そうですね。そうしましょう」
 ヘリオンまで小走りで駆けてゆくダンテと和希。
 小さく揺れる2人の背中を見て、猟犬たちは思った。
 これ今日パーティーになるな、と。


参加者
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●清潔感は大事
 深夜の空き地に奴はいた。
「クレェプ」
 9枚の鉄板を連ねたボディを夜風に晒して、ぽつりと呟くダモさん。
 そのさまを見るなり、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)は地デジ(テレビウム)ともどもバンザイしていた。
「く、れーーぷ、だーーーーー!!!!」
「クレェプ!?」
 猛ダッシュだった。
 猛ダッシュで抱き着いていた。
「これが……クレープメーカー? 初めて見ました」
「これならたくさん焼けそうだね」
 オリヴンたちに密着されて慌ててるダモさんを、横からしげしげ観察するのはカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)とリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)。
「野ざらしだったみたいだし、掃除しておきましょうか」
「リリもお手伝いするよ」
「クレェプ……」
 窓ふき職人のように、ダモさんの体を布巾ですりすりしてゆくカロンとリリエッタ。ダモさんを見上げるフォーマルハウト(ミミック)はうずうずし始めた。次は自分が拭いてもらえると思っているのかもしれない。
 それを横目に中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)が生地入りの容器を置く。
「さすがに液体が入っているだけあって重いですね」
「そうだね。中条が生地を持ってくれて助かった」
 蔦で運んできたフルーツを生地の隣に置くアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)。
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)と仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)は、生クリームやらチョコやらを詰めた容器を持ちながらひそひそ。
「蔦で持つならアンちゃんが生地担当でもよかったんじゃ……」
「ぼくも同じことを思ったのです」
「何を言ってるんだ。蔦で重い物を持てるはずがないじゃないか」
 しれっと言うアンちゃん。
 竜矢は食材の容器を使いやすいようきちんと並べて、ぐぐっと体を伸ばす。
「それにしても、皆さんとこんな風にパーティーできるなんて思ってませんでした」
「夜遊びクレープなんて、なんだかぼくも大人のお仲間入りした気分です!」
「深夜に甘いものなんて……最高に贅沢だ。ボクもダモさんの掃除を手伝ってこよう」
 かりんが手を取り合っていっぽ(ミミック)とはしゃげば、アンセルムは抱いた少女人形をさすさすしながらふらふらとカロンたちの加勢へ。
 3人態勢になってさらに綺麗になってくダモさんを見て、環は腰に手を当ててニヤリ。
「深夜クレープなんて、背徳的な香りがぷんぷんしますね!」
「背徳……それは確かに」
「体重計がこわくなるやつですよ!」
「何を言ってるんですか?」
 カロリー的なものを気にする竜矢とかりんに、チチッと指を振る環。
「最後に動くから無問題ですっ!! むしろ痩せますっ!」
「むしろ痩せるのですか、環!」
「それは食べる量によるのでは……?」
 首をかしげる竜矢。
 たぶん、みんな痩せません。

 数分後。
 ダモさんはきらっきらに光を反射する奴になっていた。
「クレェプ!」
「ふぅ、クリーニング完了ですね」
「ぴかぴかになったよ」
「まったく手間のかかる子だ」
「いよいよクレープ、ですね……!」
 満足げにダモさんを眺めるカロン、リリエッタ、アンセルムの清掃班。ちなみに3人の横で胸躍らせているオリヴンはダモさんと戯れてただけである。
「ついに、このときが来ましたか」
 颯爽と、颯爽と現れたのは霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)。
 夜に紛れる漆黒の衣装をまとった男は――クレープ生地の容器を、抱えている。
「OK、ダモさん! まずはスイーツ系クレープの生地を!」
「クレェェプ!」
 和希がささーっと鉄板に生地を落とすのを合図にして、宴は始まったァ!

●このクレープ……美味いぞ!
 ふわりと焼けた薄い生地に、溢れんばかりのホイップクリーム。
 さらに隙間なくいちごが埋められ、彩りのチョコソースがよく映えるできたてのクレープに、オリヴンははむっとかぶりついた。
「おいしい、です……!」
「あ、私の生地ちゃんとパリパリになってます。さすがダモさん……!」
 口端にクリームつけて恍惚顔のオリヴンの隣で、小気味よい生地の食感に目をぱちくりさせる環。薄めパリパリをオーダーしたら、彼女のいちごクレープの生地はしっかり希望どおりのものになっていた。さすダモだった。
「このオーダー機能は嬉しいですね!」
「うん、好きなように焼けるのは大きい」
「なんていいダモさんなんでしょう……あ、皆さん飲み物が入用でしたらどうぞ」
「霧山さんありがとうございます!」
「ボクはジュースを貰うね。果肉入りのやつ」
 普通に学校帰りの買い食いみてーな光景を繰りひろげる環とアンセルムと和希。両手にクレープとジュースの紙コップを装備しているさまは、控えめに言っても仕事中のケルベロス感はゼロである。
「いちごのクレープはやはり鉄板の美味しさでした……では次にいきましょうか」
「そうだね。色々フルーツもあるし」
「何でもいいです! じゃんじゃん作っていきましょう!」
「あ、僕もちょっと、試したい、です……」
 ごそごそと果物を漁りだす3人にオリヴンも加わり、すでに異様な盛り上がりを見せ始める春のクレープ祭り。
 そんな彼らの少し横では、竜矢とかりんといっぽがチョコバナナクレープをもぐもぐしていた。
「やっぱりクレープといったらチョコバナナですよね。甘くてもちもちで……うん、外れのない美味しさです」
「バナナとチョコとクリームのハーモニー……思わず笑顔になってしまうのです。ね、いっぽ?」
「――!」
 はむはむとクレープを口に収めたかりんに、ぱかぱかとランドセルの蓋を開閉して何かを答えるいっぽ。お気に召したみたいっす。
 ぺろりと完食した竜矢は、新しいチョコバナナクレープを持って立ち上がった。
「この美味しさはぜひ皆さんと共有しなくては……ということでどうぞ」
「これはチョコバナナ……!」
「それもまた鉄板だね」
 勧められたそれに目を輝かせる和希、そしてアンセルム。ちなみに環とかオリヴンはてくてく歩いてきたかりんと裏で楽しくやってるので安心してくれ。
「バナナのもったり感がいいですね……」
「チョコとバナナだけでも美味しいからね。美味しいに決まってる」
「ですよねー……」
「ではこちらも中条さんにいちごクレープを……あ、飲み物要りますか?」
「飲み物ですか。じゃあ炭酸系をお願いします」
「クレープに炭酸……」
 クレープもぐもぐしながら歓談する和希、アンセルム、竜矢。
 もう買い食い風景が止まらねーのでカメラを移そう。
 ダモさんのそばで、真剣な顔して生地を焼いているカロンやリリエッタのほうに移そう。
「こんな具合、でしょうか……!」
 鉄板に伸ばしていた丸々生地を、ぺろんと取り上げるカロン。
 柔らかながらもしっかり重さも感じられる生地は、薄く色がかって綺麗な焼き上がりを見せていた。触らずともしっとり感がわかりそうなほどだ。
「あまり自信はなかったですが、思いのほか綺麗に焼けましたね。あとはこれにクリームやフルーツを添えて……できた!」
 初めての手作りクレープを掲げて、ちょっと誇らしげなカロン。
 ぱくりと一口齧ってみれば、甘く幸せな味に思わず頬がとろんと緩む。
「こんなに美味しいクレープができるなんて……よし、もっと色々試してみよう! フォーマルハウトも好きなだけ食べていいからね!」
「――!」
 クレープを咥えながらビシッと敬礼するフォーマルハウト。
 そんな2人をよそに、リリエッタはやや不格好な分厚いクレープをもぐもぐしていた。
「むぅ。奇麗に薄く焼くのは、やっぱり練習が必要だね」
「――」
 リリエッタの足元で、こくこく首を振るのは地デジ。
 オリヴンから離れて食べ歩きを始めていたテレビウムは、リリエッタと同じ分厚いクレープを持っていた。とはいえグラニュー糖をしっかりまぶしたそれは、一味違うシュガークレープになっててそれはそれで美味しい。
 飲みかけの紅茶を飲み干すと、リリエッタは再び生地の容器を取った。
「今度は奇麗に焼くよ。薄くて奇麗な生地に、いちごとかバナナとか、カスタードとかいっぱい挟もうね」
「――!」
 FIGHT、と画面に表示してリリエッタを応援する地デジ。
 なお、リリエッタさんはそっから割と早く要領を掴みました。

●深淵
「OK、ダモさん。次はもっちり厚めの生地を!」
「こっちは薄いのお願いするね」
「クレェプ!」
 オーダーに従い、何やら鉄板のほうに力を送るダモさん。その謎機能をなんとなく感じながらサッと生地を伸ばし、美しい生地を焼き上げる和希とリリエッタ。
 パーリィを始めてから30分。
 もうすっかり連携プレイが板についてきていた。
「鉄板が9枚もあるから、焼けた端から食べられる……最高ですね……!」
「くるっとやって、奇麗に焼けると気持ちいいね。食べるのもいいけど焼くのも楽しくなってきちゃったよ」
「ぼくもきれいに焼けましたよ! ほら見てくださいダモさん! ぼく、大きくなったらクレープ屋さんになれますかね?」
「GOOD!」
 焼き立てクレープにパパパッとトッピングを盛り込む2人の横で、焼き上げた生地を見せてダモさんに褒めてもらうかりん。グッとサムズアップしてくれたダモさんに「皆に見せておいで」とばかりに促され、かりんは仲間たちにも見せびらかしに。
 連携プレイどころか、もはやファミリーだった。
 やってきたかりんの頭をなでなでしながら、もぐっとクレープを頬張る環。
「何かケルベロスとして間違ってる気もするんですが……気のせいですね!」
「うん。気のせい気のせい」
「私も気のせいだと思います」
 クレープ咥えて頷きまくるアンセルムと竜矢。手遅れである。
「しかし焼き加減で食感を変えられるのはいいんですが……そろそろ別の変化も欲しくなってきました。生地にチョコ混ぜたりとかしてもいいですかね?」
「いいんじゃないかな」
「空いてる容器持ってきますね」
 環の一声で動き出す竜矢。
 そこに元のクレープ生地とチョコソースとを混ぜて、ダモさんに鉄板に乗せれば――。
「うん! もっちりチョコ生地の完成です!」
「チョコ生地……そんな手もあるんですね」
 ぺろーん、とチョコ色の生地を舞わせる環に、興味の視線を向けるカロン。裾をくいくいしてくるフォーマルハウトにクレープをあげると、彼はウマウマとチョコクレープを食す環をじーっと凝視。
「クレープは奥深いですね……」
「ええ、本当にです」
 しみじみ頷く竜矢。仲間たちが作る多様なクレープに彼も感心しきりだった。
「生地を変える手もあるけど、具を変える手もあるよ。たとえばゆで卵と野菜とか」
「え、そんなたまごサラダみたいなクレープが?」
「うん、ほら」
 食べかけクレープの断面を竜矢たちに見せるアンセルム。具材は彼の言葉に相違なく、ゆで卵とシャキシャキの野菜たちだ。
「趣は違うけどこれも美味しいよ」
「サラダ風だけでなく、ピザ風もありますよ。ほらこれなんてソーセージを入れてます」
 話を聞きつけて介入してくる和希。
 クールなんだか呆けてるんだか判然としない笑顔で、和希はチーズやケチャップをトッピングした熱々クレープを分けてくれた。
 一口食べた竜矢が、カッと目を見開く。
「……甘くないのは初めてなんですけど、美味しいです。クレープってお肉とかとも合うんですねー今まで気付かなかったです」
「これは本当にお食事になりますね……」
「あまーいスイーツ系からガツンとしっかりなお食事系まで……クレープには無限の可能性があるのですね」
 同じくピザ風クレープを分けてもらったカロンがクレープ界の深淵に感心し、こちらもちゃっかり食べていたかりんがホクホク顔で感慨に浸る。
 オリヴンは地デジ(いつの間にか戻ってきた)と並んで、木の実を齧るリスよろしくクレープに埋めていた顔を上げた。
「クレープって、幸せになれます、ね……」
「――!」
 ほんとほんと、と顔画面に表示する地デジ。
 2人が食べているクレープはほんのり桜色をしている。桜パウダーを混ぜた生地で抹茶アイスと餡子とクリームを巻いた、春らしい和のクレープである。
「ほっとできるおいしさ、しあわせです」
「和風クレープ……気になりますね」
「食べます、か?」
「ぜひとも!」
 地面を抉る速度でオリヴンの真ん前に滑ってくる和希。
 一方、かりんはダモさんの傍にひっついて、ミルクレープを食べていた。
「とても薄くて、ミルクレープにぴったりです! さすがのダモさんです!」
「クレェプ!」
 きゃいきゃい仲睦まじいかりんとダモさん。
 だがそのとき、かりんは気づいた。
 向かい側の鉄板で、リリエッタもミルクレープを食べていることを。
 それだけなら「リリエッタもミルクレープ好きなんですね!」で済んだだろう。
 しかしリリエッタが食べているクレープは……緑色だったのだ!
「リリエッタ、そのミルクレープはいったい……」
「抹茶を混ぜた抹茶ミルクレープだよ」
「抹茶ミルクレープ! あ、あの、ぼくにも分けてもらえないですか……?」
「リリのでよければ、いいよ」
「ありがとうございます!」
 ててててっ、と超笑顔でリリエッタに寄ってゆくかりん&いっぽ。
 2人を見てダモさんは「クレェプ」と優しくこぼす。
 そしてそれを密かに目撃していたカロン。
「高性能な上に、この温厚さ……なんだか、壊すのが勿体ないな」
 カロンの足元でしょぼんと肩を落とすフォーマルハウト。
 が、猟犬として成すべきは成さねばならぬ。
 その事実は忘れていなかった一同は、武器を取った。
 だいたい1時間後ぐらいに。

●宴は終わらず
 無惨にもバラされた、部品たち。
 まだほかほかと温かいそれらの前で、環とかりんは合掌していた。
「ダモさん、ごちそうさまでした!」
「今日のことは忘れません……」
 返事はない。
 さくっ、とね。ダモさん死んでました。
「クレープ焼いてくれてありがとうございました……!」
「OKダモさん、もうおやすみ、です」
「あなたの遺志は、僕たちが受け継ぎます……」
 ぺこっと頭を下げている竜矢とオリヴン。その眼前を右に左にと動いて、せっせと残骸を回収している和希。
 修理して使う気満々である。
「捨て置くには惜しいからね」
「ええ、本当に」
「リリも寮に1台、買ってもらおうかな」
 むぐむぐとクレープを咥えて喋るアンセルムの横で、大量の土産クレープを抱えたカロンとリリエッタが深く頷く。(壊す前に大急ぎで作ってもらった)
 空を見上げるアンセルム。
 もう空は白んで、朝が顔を覗かせていた。
「朝帰り……今日は本当に悪い子だったなあ」
「なに変なこと言ってるんですか。早く帰りましょう」
「あ、回収終わったんだ」
 それっぽく感じ入っていたアンセルムに水を差した和希は、両脇に残骸を詰めた袋とクレープを詰めた袋を抱えている。
 帰ってからも宴する気ですね、これは。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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