荒ぶるデジタル血圧計ッ!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
 廃墟と化した病院に、デジタル血圧計が棄てられていた。
 その場所に蜘蛛のような姿をした小型ダモクレスが現れ、デジタル血圧計の中に入り込んだ。
 それと同時に、機械的なヒールによってデジタル血圧計が作り変えられ、家電製品っぽい雰囲気のダモクレスに変化した。
「デジ・デジ・デジタルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、廃墟と化した病院の壁を突き破るのであった。
●セリカからの依頼
「瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が危惧していた通り、都内某所にある廃墟と化した病院でダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、廃墟と化した病院。
 この場所に棄てられていたデジタル血圧計が、ダモクレスと化してようである。
「ダモクレスと化したのは、デジタル血圧計です。このままダモクレスが暴れ出すような事があれば、被害は甚大。罪のない人々の命が奪われ、沢山のグラビティ・チェインが奪われる事になるでしょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
 資料にはダモクレスのイメージイラストと、出現場所に印がつけられた地図も添付されていた。
 ダモクレスは巨大な蜘蛛のような姿をしており、グラビティ・チェインを求めて攻撃を仕掛けてくるようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)
サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)
 

■リプレイ

●都内某所
「……廃病院っていうロケーションが、まず怖いよね。何と言うか、ほら……いかにも出そうだし。まあ、違うモノは出るから、間違ってはいないんだけど……」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された廃病院にやってきた。
 廃病院は異様な雰囲気が漂っており、いかにも何か『出そう』な感じであった。
「確かに、かつては人々が治療に訪れていた、とは思えない荒れようだし、何か出てもおかしくないかも知れないねぇ。それじゃ、念のために立ち入り禁止は徹底しておこうか。この季節でも若者は肝試しに来るかもしれないし……」
 そんな空気を察したディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が、警戒した様子で辺りを見回した。
 幸い、辺りに人の気配はなく、間違って誰かが近づく心配もなさそうだ。
「……それにしても、病院ならもうちょっと他に向いた何かありそうだけど、何で血圧計を選んだのかな? まぁ、深い意味はないと思うけど……」
 サリナ・ドロップストーン(絶対零度の常夏娘・e85791)が、不思議そうに首を傾げた。
 おそらく、それは単なる偶然。
 そのデジタル血圧計が、腕に巻くタイプなのか、筒に腕を通すタイプなのか、それ以外のタイプなのか分からないが、それも戦ってみればわかる事。
 それよりも大事なのは、いかに被害を出す事なく、ダモクレスを倒すか、であった。
「心臓から送られる血の流れが正常かどうか計測する機器か……。まあ、深い意味はないと思うけど……。我々グランドロンは鋼だから、こういう柔らかい測り方はできないねぇ」
 ディミックが資料を眺めつつ、ボソリと呟いた。
 そういった意味で、仲間達と比べて被害が少ない気もするが、オーバーヒート的な意味合いで、影響を受けるのであれば油断は出来ない。
「幸い、あのぎゅーって圧をかける攻撃がないみたいだから安心したけど、血圧計って時点で嫌な予感しかしないなぁ」
 右院が妙な事を考えてしまい、青ざめた表情を浮かべた。
 現時点では、想像の域を超えていないものの、それでも安心する事が出来ないというのが、本音であった。
「でも、血圧をあげる攻撃って地味すぎじゃねえか? もっと、こう……あるだろ、攻撃の仕方がさ」
 柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)が、事前に配られた資料に目を通した。
 何やら地味な攻撃ではあるものの、資料を読む限り、地味に強力。
 血圧が上がり過ぎて、ポックリ逝ってしまう可能性もあるため、油断が出来ない攻撃である。
 それが分かっていても、何とかなりそうな気がしているせいか、まったく危機感がないようだ。
「いや、結構キツイと思うよ? 血圧の見方とか分からないけど、アタシってば結構高いと思うし。……ほら、血の気とか多いから! だから、攻撃を喰らったら、最後。そのまま、あの世逝きって事も……」
 ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)が苦笑いを浮かべて、清春に答えを返した。
 そういった意味では、強敵。
 地味にヤバイ相手なので、なるべく攻撃を喰らうべきではないだろう。
「ケツ、ケツ、ケツアツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、病院の壁を突き破り、ダモクレスがケモノの如く咆哮を上げた。
 その姿は、巨大なデジタル血圧計。
 腕に巻くタイプと、筒に通すタイプが融合した新世代のデジタル血圧計と言った感じのデザインであった。

●ダモクレス
「なんだか、あのダモクレス……腕をズボスボ出し入れしたくなるデザインだね! ……って、そう思っているのはワタシだけ? ち、違うよね?」
 サリナがハッとした表情を浮かべ、心配した様子で辺りを見回した。
 さすがに自分だけ、という事はないようだが、そんな事を言っている場合ではない雰囲気。
 それが分かってしまう程、アタリガピリピリとした雰囲気に包まれていた。
「でも、まぁ……血圧を測られてる時って、そのまま腕ちぎられるんじゃないかって怖くなりますよね? ……え、なりません? これって俺だけ?」
 そんな空気を察した右院が、自分なりの考えを述べ、同じように心配した様子で、辺りをギョロキョロと見回した。
 やはり、同じような空気に襲われ、色々な意味で不安な気持ちになった。
 だが、戸惑っている暇はない。
 こうしている間も、ダモクレスが迫っているのだから……。
「どうやら、話をしている暇はないようね。それじゃ、みんなも血圧あげてくわよ! 高嶺の花よ、咲き誇れ!」
 その気配に気づいたベルベットが、Out of League(タカネノハナ)を発動させ、和風トランスミュージックに乗せて軽やかなステップを刻み、地に増強を意味する魔法陣を描いた。
「ケツ、ケツ、ケツ、アツ、ケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
 次の瞬間、ダモクレスはケモノにも似た機械音を響かせ、ケルベロス達に迫ってきた。
「さっきから、ケツ、ケツ、うるせぇよ! セクハラオヤジじゃねえんだから、少しは黙りやがれ!」
 清春がイラッとした様子で、ダモクレスを叱りつけ、ギリギリの所で攻撃を避けた。
「ケツ、ケツ、ケツ、ケツ、ケツ!」
 しかし、ダモクレスはまったく気にしておらず、歩く猥褻物と言わんばかりの勢いで、狂ったように鳴き声を響かせ、デジタルビームを放ってきた。
「イタタタタ……。このビーム……地味に効くね」
 その攻撃をモロに喰らったベルベットが、崩れ落ちるようにして膝をついた。
 デジタルビームを喰らったのと同時に感じたのは、激しい頭の痛み。
 頭の中でミチミチと音が響き、脳内の血管が沸騰しそうな錯覚に襲われ、立っている事さえ出来なくなった。
「確かに、これはキツイね。頭が割れそうに痛いし……」
 右院も激しい眩暈に襲われ、今にも倒れそうな勢いで頭を抱えた。
 何とか深呼吸をして、息を整えているものの、一般人であれば、これだけで気絶してしまうレベル。
 こうやって意識を保っているのか奇跡と思えてしまう程、シャレにならない痛みであった。
「……ん? そんなにヤバイ攻撃だったのか? オレって、どちらかと言えば低血圧だから、今の攻撃でようやくエンジンが掛かってきたところなんだが……。むしろ、元気になった感じだぞ?」
 それとは対照的に、清春はヤル気満々な様子で、ドラゴニックハンマーで素振りをし始めた。
「私もビームを喰らったようだけど、内部電圧が一時的に上がっただけのようだね。思っていたよりも……と言うか、拍子抜けだね、これは……」
 ディミックもキョトンとした様子で、仲間達に答えを返した。
 ほんの一瞬ヒヤッとしたものの、身の危険を感じる程のレベルではなかったようだ。
「デジ、デジ、デジィィィィィィィィィィ……」
 これにはダモクレスも動揺したのか、警戒した様子で間合いを取り始めた。
「……何か嫌な予感がするね。なるべく用心した方がいいと思うけど……」
 ディミックが、ただならぬ気配を感じ取り、仲間達に対して警告しつつ、恋する玻璃(クォーツインラブ)を発動させた。
「それじゃ、盛り上げていくよ!!」
 サリナがサクッと気持ちを切り替え、自分自身に気合を入れた。
「デジ・デジ・デジ・デジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイ!」
 それと同時に、ダモクレスがケモノにも似た機械音を響かせ、デジタルミサイルをぶっ放した。
 ダモクレスから放たれたデジタルミサイルは、勢いよく風を切りながら、ケルベロス達に対して、雨の如く降り注いだ。
「あそーれ、わっしょい!! わっしょい!!」
 それに気づいたサリナが踊るようにしながら、デジタルミサイルを次々と避けていき、九涙裂き(クルイザキ)を仕掛け、ダモクレスの脚に、えげつない斬撃を浴びせた。
「ケツ・ケツ・アツ・アツ・ケイィィィィィィィィィィィィィィ!」
 その影響でダモクレスがバランスを崩し、発射されたデジタルミサイルが、全く関係ない場所に飛んで、大爆発を起こした。
「だからケツ、ケツ、うるせぇよ! マジで、ふざけてんのか? それとも、ケンカをうってんのか? いい加減に黙りやがれ!」
 その間に清春がダモクレスに飛び乗り、イラついた様子でドラゴニックハンマーを振り下ろした。
 そのため、ダモクレスはまったく抵抗する事が出来ず、ドラゴニックハンマーが振り下ろされるたび、醜く形を歪ませた。
「そろそろクライマックスだね!!」
 それに合わせて、サリナがノリノリな様子で団扇を扇ぎ、ダモクレスに絶空斬を仕掛け、空の霊力を帯びた武器で、ダモクレスの傷跡を正確に斬り広げた。
「ケ、ケ、ケツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
 次の瞬間、ダモクレスが断末魔を響かせ、大爆発を起こして、機能を停止させた。
 その途端、ケルベロス達の間を冷たい風が、ふわっと通り抜けた。
「うう……、何だか寒気が……。ひょっとして、この廃病院って『出る』のかな?」
 ベルベットがブルッと身体を震わせ、廃病院を見上げた。
 あまり上手く説明する事は出来ないが、何か見えないモノが『帰れ!』と警告しているような錯覚を覚えた。
「確かに、クソ不気味だな。廃墟の病院なんかにいつまでもいられるかよ」
 清春も同じような気配を感じ取り、悪態をつきながら、手早くヒールをかけ始めた。
「依頼だから迷わず飛び込んだけど、普段なら絶対に近寄らないねぇ」
 そんな空気を察したベルベットが、乾いた笑いを響かせた。
 おそらく、何もいないと思うが、そう思う事が出来ない程、不気味な空気。
 そういった意味でも、何か出てもおかしくない。
「ところでこの病院、何で潰れちゃったのかな?」
 それとは対照的に、サリナが肝試し感覚で、廃病院の中に入っていった。
「とりあえず、俺は家に帰って安静にしておこうかな。さっきの攻撃が原因で体調を崩しても笑えないしね」
 そう言って右院が苦笑いを浮かべて、帰路につくのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月29日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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