ぽかぽかのんびりひなたぼっこ~ユリアの誕生日

作者:なちゅい


 3月29日。
 春になって、ずいぶんと温かくなってきたその日、情報を求めてヘリポートへと戻ってきたケルベロス達へと、ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)がこんな話を持ちかける。
「たまには、のんびりとひなたぼっこなんてどうかしら?」
 デウスエクスと戦い詰めの者もいるだろうし、新学期を前に忙しなく動き回っていた者もいるだろう。
 そんな忙しいケルベロス達に、ユリアはせめて今日くらいはやすらぐひと時を過ごしてほしいと願い、こうした誘いを持ちかけようと考えたらしい。
「海を臨むことができる芝生に覆われた小高い丘を見つけたの。そこなら、温かい日差しを浴びながらお昼寝できるわ」
「それ、ボクが皆を乗せていってもかまわないかな?」
 現場には、ヘリオンからぴくぴくと耳を動かして話を聞いていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が参加メンバーを現地まで運ぶ気満々のようなので、先に飲食物や使いたい物を用意しておきたい。

 現地でただ草の上に寝転がって過ごし、春の日差しを浴びながら眠るだけなのもいいが、その丘でピクニックをして仲間と楽しく過ごすのもいいだろう。
 仲間と行くなら、飲み物やお弁当、お菓子などの用意をしていくと楽しみが増える。
 なお、ゴミは持ち帰るのがマナーなので、そちらも考慮の上で持参したい。
「そういえば、草スキーをする人もいたと思ったわ」
 1人用か2人用のソリを用意して、緩やかな傾斜を滑ることができる。
 風を切って滑る感覚を、誰かと味わってみるのもいいだろう。
 ユリアの話を聞いて、参加を決めたメンバー達がヘリポートのあるビル内へと買い出しへと出かけていく。
 ちなみに、ユリアはすでに自作のサンドイッチをバスケットに、ほんのり甘いミルクティーを入れた水筒も合わせて持参していた。
「皆が揃ったら出発しましょう」
 長い金色の髪を風で揺らしながら、ユリアは爽やかに準備の整ったケルベロス達へと微笑むのである。


■リプレイ


 ヘリオンが降り立つのは、小高い丘。
 芝生に覆われたその場所は、海を臨むことができる。
 遠くに打ち寄せる波の音を耳にしながら、あったかい日差しをぽかぽか浴びてのんびりした一時を過ごすことができる素敵なスポット。
 ケルベロス達を乗せたヘリオンはそんな丘へと降り立ってきた。

 褐色肌の青年ロコと色白な肌の少女ホリィは、ドラゴニアンのペアで参加。
 今日はホリィが1日休暇を取り、ロコに同伴を頼んでこの誘いに応じたようだ。
 海を見下ろしながらひなたぼっこすることにした2人は直接、芝生の上へとゆっくりと腰を下ろす。
「海の見える丘、素敵です」
 草や土の匂いに懐かしさを覚えるホリィは、芝生の上で体育座りする。
 土は少し踏み固められていたが、芝生がいい具合にクッションとなっていたこともあって、全く痛くはない。
「君は世界を飛び回っていて、日本に戻るのは久々だろう。今度はどの国へ行って来たの」
 手荷物も持たずに参加したロコは芝生の上に寝転び、そうホリィへと尋ねる。
「色んな国へ行きました。知りたい事が増えました」
 これまで向かった国について、ホリィが話をする。
 自由の国、様々な神や仏を信仰する国。貴族の国、未開の地に住む原住民の集落。雲より上に造られた町。高潮で水没することのある町……。
 異国の話をするホリィがとても楽しそうだと感じていたロコは彼女の話に耳を傾けながら、温かな日差しを感じて瞼を閉じる。
 遠くから聞こえてくる潮騒にロコはしばし耳を澄ませていると、頬を撫でる風にうとうと微睡んでいた。
「あれ……?」
 そんなロコの姿に、ホリィが思わず驚いてしまって。
「不眠に苦しんでいた頃より、随分穏やかになりましたね」
 ロコはすぐに目を開き、意外そうな顔をするホリィにそう言えばと独り言ちながら軽く微笑む。
「……暗がりから見る夜空もいいけれど、日差しのある時間は不思議だね」
 大分浮かれて表情に出ていたのを自覚したが、ロコは気にしないことにする。
 そんなロコの笑顔に。夜の住人であった彼が昼の素晴らしさに気付いたことに、ホリィは安堵していた。
「こんな時間があと何度訪れるだろう」
「あと何度……はい。限られた時を、大切にします」
 この一時を大切に。
 2人はしばし、花見にもと行きたいと語り合う。
 残念ながら、ホリィはご一緒できないとのことだが、昼に向かって満開の桜を写真に収めて送ってほしいとホリィは所望した。
「次の旅も気を付けて。お土産宜しく」
 忙しないホリィへとロコが告げると、少し考えた彼女は少しだけ俯きがちにこう問い返す。
「お土産は、ペアの物が、よいですか?」
「って……それ冗談?」
 言うようになったねとロコは苦笑いする。
「冗談です」
 その反応に困惑するホリィは、小さく溜息をついてしまうのだった。


 少し離れたところには、緩やかな傾斜がある。
 そこでは、ソリに乗って草スキーを楽しむ子供や家族連れの姿がちらほらと見受けられた。
「っしゃー、草滑りすっぞぉ!!」
 傲岸不遜な金髪男性、清春がやる気一杯で丘を登っていく。
 ソリで傾斜を滑る者がほとんどだが、清春は出来合いのソリを使うのは物足りないと感じて段ボールソリを作っていた。
 お金も時間もかけず、手軽に用意できるのが段ボールソリの魅力だが、それだけではない。
「何よりスピードっしょ!」
 清春はここに来るヘリオン内ですでに準備していた。
 底にビニール袋を貼り、ワックスを塗って手際よく作った段ボールソリを手に、全力で助走をつけた清春はソリの上に乗ってスピーディーに傾斜を駆け下りる。
 なお、子供の遊びをしっかりとケルベロス風に楽しむ清春。
 子供のように腰を下ろして滑るだけでなく、彼は段ボール板をまるでスノーボードのように扱って芝生の上を滑っていく。
 時には、アクロバティックに宙返りしてみせる清春の姿はしばしこの場で遊んでいた人々を魅了し、注目の的となっていたようだ。
「わ、すごいね」
 そこに、ヘリオンのメンテが終わったリーゼリットがやってきて、感想を口にする。
 普段、ケルベロスの活躍を直に見る機会の少ない彼女だ。
 その宙返りも実に鮮やかに感じたのだろう。
 予め、到着のタイミングで清春が下心丸出しで声をかけていたのだが、そんなリーゼリットが来たことに気を良くして。
「よお、どうだい。一緒に」
 傾斜を駆けあがる清春は次にリーゼリットを背にして段ボールソリに腰を下ろし、勢いをつけて滑っていく。
「飛ばすぜーっ!」
「ははっ、すごいスピードだね」
 清春の出すスピードは彼女にとって、愛機であるヘリオン以上の速度に感じたようだ。
 声を上げて楽しむリーゼリットの姿に、清春はいいところを見せようとさらに加速するのだが、思いっきり転倒してしまう。
「っと、大丈夫か?」
「うん、すごく楽しいよ」
 芝生の上を転がる彼女にケガかなかったことに、清春は安堵していたようだった。


 参加するケルベロスが複数いれば、皆、やりたいことは違うもの。
 角と尻尾を生やすサキュバスの暁人、オーロラピンクの髪の摩琴のペアは日向ぼっこしつつ一緒にピクニックすることにして。
「海が見える丘、素敵だね」
「そうだね」
 のんびりするのが大好きな者同士。
 2人が一緒なら、良いデートになりそうだ。

 レジャーシートの上に腰かけた暁人と摩琴はまず、ブランケットの上にそれぞれ作ってきたお弁当を交換する。
 暁人が作ってきたのは、梅や鮭のおにぎり。それに、唐揚げや卵焼きといった王道のおかずだ。
「わぁ、あきとのお弁当はデザート付き♪」
 一旦、デザートはおいておき、おにぎりを口に含んだ摩琴は一品一品おかずの味を噛みしめてその味に顔を綻ばせる。
 柔らかさを感じてジューシーな唐揚げ。ほんのりと甘さを感じさせる卵焼きはいい味つけだ。
 その上で、定番のおにぎりの安心感。お塩がいい具合に利いているのが高ポイントだ。
 去年の初デートの際にも、摩琴は暁人のお弁当を食べたそうだが。
「その時より美味しく出来たと思う」
 多少自身なさげにも聞こえるが、今回は暁人なりに手応えはあったらしい。
「あきとの和食は美味しい。愛情の味がするよ♪」
 摩琴にとって彼の料理は格別なようだ。
 そして、用意された別の包みに用意されていたデザートは。
「デザートにはいちご大福も作ってきたよ」
 白くて丸いそのフォルムの中には、丸ごと1ついちごが入っている。
 大福の甘さをいちごの甘酸っぱさが引き立て、贅沢なひと時を味合わせてくれた。
 一方で、摩琴が作ってきたのは……。
「あきとの為に和食、みっちりお勉強したんだ」
 俵型のおにぎりにほうれん草の和え物と鶏肉の煮物。魔法瓶にはお味噌汁も入れてきていた。
 こちらは暁人が一通りお弁当の中身に口をつける。
 俵型はノリを巻いたものとゴマとシソを使ったもの、それにふりかけご飯を使ったものとバリエーションも取り揃えられていた。
 そして、鶏肉の煮物は味がしっかりとしみ込んでいて噛むごとにその味が口に広がっていく。
 その合間にほうれん草の和え物。こちらは香ばしさを感じさせ、歯ごたえも十分。
 さらにお味噌汁。コップに移してから口にするのだが、湯気が立てば味噌のいい匂いが周囲に漂う。
 口に含めば、香りだけでなくいいダシが取れた風味が舌を撫でる。
 魔法瓶に入れる為に細かく切ったネギや豆腐も、具材として別の味わいを感じさせてくれた。
「摩琴さんのお弁当も凄く美味しい……!」
 こういうお弁当が大好きだから、また食べたいと暁人が本心を口に出せば、摩琴はお勉強の甲斐があったと笑みを抑えられずにいたようだった。

 その後、一通り食べてお腹いっぱいになったら、暁人と摩琴はブランケットを敷き直す。
「ゴロゴロしちゃお!」
 2人は並んで手を繋いで横になると、真上には青い空と浮かぶ雲が見えた。
 穏やかな気持ちで暖かな日差しを浴びる2人。
 海風を気持ち良く感じる暁人に対し、寒さが苦手な摩琴はブランケットでしっかりと風をガードし、少しだけ暁人に寄り添う。
 楽しそうな姿の彼女の顔を見ていた暁人はわくわくしながら、何を話そうかと考えを巡らす。
 一方で、恋人繋ぎしていた摩琴は2人で空を眺めて色々な話をして。
 たくさん話を聞いているうちに微睡んだ彼女は、暁人の腕にぎゅっと抱き着きそのまま寝息を立て始めたのだった。


 草スキーをしていた清春が目一杯遊んで疲れたのか、持ち込んだジュースで喉を潤している頃。
「ユリアさん、誕生日おめでとうございます!」
 レジャーシートの上で青空を仰いでいたユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)へとおヒゲのドワーフイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)はにこやかに歩み寄りながら声をかけ、彼女の生誕の日を祝う。
「ユリアさん、お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう、ユリア」
 イッパイアッテナに続き、この場へと訪れたホリィとロコも祝辞を述べてくれた。
「ふふ、皆、ありがとう」
 礼を告げるユリアが目を細めていたのは、ドラゴニアンの2人の様子と、イッパイアッテナがミミック『相箱のザラキ』、攻性植物『Vergiss du Nicht』、オウガメタル『ブライトメタル』といった意志を持つ生物達の姿を見ていたからだろう。
 ホリィ、ロコの2人が会釈しつつこの場から去った後、イッパイアッテナは文字通り羽根を伸ばしていたユリアを目にして。
「ひなたぼっこ、翼あるオラトリオさんらしそうな? 心安らぎそうですね」
 のんびりとした彼女ならではの時間の過ごし方に、イッパイアッテナは心が洗われると思ったままを話す。

 そのまま、しばらくユリアと歓談していたイッパイアッテナ。
 とりとめもなく思いつく話題を存分に語らい、一時を楽しんだイッパイアッテナは程なくレジャーシートを敷き、相棒達を寝そべらせてのんびりまったりと過ごす。
 そよぐ風を感じ、爽やかで麗らかな陽光を浴びるイッパイアッテナは眩しそうに頭上を見上げて。
 徐に九尾扇を手にしたイッパイアッテナはザラキ、Vergiss du Nicht、ブライトメタルとでお昼寝の陣を見出し、自分のシートごとヒールを施す。
 ゆらゆらゆらゆら、ごろごろごろごろ。
 しばらく遊んだイッパイアッテナは穏やかに自分達へとタオルケットを掛け、微睡みに身を任せていったのである。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月11日
難度:易しい
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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