愛を伝える花

作者:芦原クロ

 チューリップフェアが開催されている、とある広い公園。
 黄色や白、赤やピンクなどの色とりどりのチューリップが、辺り一面に咲きほこっている。
 見ごろを迎えた何種類ものチューリップは、青空によく映える。
 その1本に、どこからか漂ってきた謎の花粉のようなものが、とりついた。
 巨大化し、動き出した異形は、近くにいた一般人を襲ってゆく。
 逃げ惑う一般人の命を残さず刈り取り、美しい花々も無残な光景に変え、血だまりの中で攻性植物は咆哮をあげた。

「花見里・綾奈さんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来たぜ。なんらかの胞子により、チューリップが攻性植物に変化したようだな。放っておけば、多くの命が失われる……急ぎ現場に向かい、攻性植物の討伐を頼む」
 敵は1体のみで配下は居ない、と伝える、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)。
「避難誘導は、どうなりますか?」
 花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)の問いには、警察などが一般人の避難誘導を迅速におこなってくれると返答。

 ケルベロスたちは降下後、攻性植物を迎撃すれば良いようだ。
 戦闘に集中していれば、敵の意識もケルベロスだけに向けられる。
 園内に有るカフェの前が、戦場となるだろう。

「チューリップの花言葉は、思いやり……らしいな。いい言葉だ。花の色で、花言葉は変わるが、愛に関するものが多いようだ。贈り物としても最適だろうな」
 チューリップの販売所も有ることを伝え、フェア中のカフェに関する説明もする。
 カフェでは、チューリップの花びらを表現したアイスや、クッキーが売られており、バニラ、キャラメル、マンゴー、チーズムース、ショコラムース、ストロベリー、ラズベリーと様々な味が楽しめる。
「期間限定で、このカフェでしか食べられない、特別なスイーツらしいぜ。討伐後、休息するのも良いかもな。……あんたさん達なら無事に討伐出来ると、信じてるぜ」
 信頼と願いの言葉で締めくくった。


参加者
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
カグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)

■リプレイ


「綺麗なチューリップなのです!」
 チューリップフェアに来るのが初めての肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は、思わず感動する。
 数メートル先には、可憐で美しいチューリップ畑が広がっていた。
「色とりどりのチューリップは綺麗ですわね」
 恋人のカグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)が、鬼灯に寄り添って言葉を返す。
(「チューリップか。ガキの頃入学式で渡されたり、校門周辺のプランターに植えてあったか」)
 花が大好きなわけではない岡崎・真幸(花想鳥・e30330)は、一瞬だけ視線を向け、思案する。
 チューリップは式典でよく使われるので、子供達にトラウマが出来ると困る、というのが今ここに立つ理由。
 子供達を想い、そして愛する妻を想ってこその、行動だ。
「すげえ、チューリップがいっぱいだっ」
 無邪気な笑顔を浮かべる尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)だが、敵の姿が見えたらすぐ動けるようにと警戒はしている。
「来ました」
 這いずり回る音と共に、接近して来る異形。
 カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は冷静に、敵の襲来を告げる。
(「私が危惧していた攻性植物が、本当に現れるとは……」)
 可憐とは程遠く、変わり果てた異形の花を見て、花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は瞳に真剣な色を浮かべる。
(「これは、私が責任を持って、対処しないといけませんね」)
 撃破の意志を強く固め、戦闘態勢に入る綾奈。
「綺麗だぜー、でも」
 広喜はチューリップ畑から、敵へと素早く視線を移す。
「あいつはちょいと、でかすぎるな」
 ひらけた場所まで這いずって来た敵を、囲みこむようにケルベロスたちは動いた。


 異形は、敵意をむき出しにし、咆哮する。
 それはまるで、自分を囲むケルベロスたちを攻撃対象と認めたかのように。
 つる状に伸びた茎が、蠢いたかと思えば、次の瞬間、凄まじいスピードでキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)へ迫る。
「……あとでヒールでの修復が要らないくらい、を目指したいところね」
 ギリギリで避けた為、頬を掠める程度で済み、キリクライシャは無害な花々を横目に呟く。
「悪い胞子に乗っ取られてしまったチューリップだって、他のお仲間が散らされるのは見たくないと思うのよ」
「周りのチューリップにも被害が出ねえように気をつけて戦いてえな」
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)と広喜が同意した直後、大地が揺れた。
「恐らく後衛に――」
 カロンが注意するようにと声を出し掛けた瞬間、汚染された大地が後衛陣を呑み込む。
 しかし咄嗟のカロンの冷静な声掛けが効果を成し、後衛陣は全員、守りを務める者たちに庇われた。
「壊れるくらい、冷やしてやるよ」
 回復の隙を作ろうと、広喜が敵に急接近。
 腕部パーツから噴出した地獄が氷塊の砲弾となり、近距離で爆ぜる。
 つるがしなり、広喜に向かうも、半身が凍っている為かスピードが遅い。
 四肢が機械の広喜は、回路全てが急激に超低温の状態となり、後方に飛び退く動きは、ややぎこちない。
 それでも楽しげに、戦場に身を置く、広喜。
「ムスターシュ! お花を傷めないように注意して、ぜったい倒そうね!」
 リュシエンヌが放つ、オーロラのような光が、敵の攻撃から庇ってくれた仲間たちを治癒する。
 ムスターシュもリュシエンヌの呼び掛けに応えるように、翼を羽ばたかせ、邪気を祓う。
「どうか今だけは、私の話を聞いて頂けますか」
 今だけで構わないので、どうか私を信じてくれませんか、と。
 伝承を再現したカロンにより、祝福と幸運を司る鐘が鳴る。
 飛び出したフォーマルハウトが敵に喰らいついた隙に、カロンの魔法で癒された綾奈が、すっと息を深く吸う。
「……さぁ、行きますよ夢幻。サポートは、任せますね。……私の歌声よ、皆に、届いて下さい……!」
 歌声で呼び寄せた魂を、前衛陣に纏わせる、綾奈。
 夢幻は指示通り、回復に徹した。


「……リオン、庇ってくれて……ありがとうね」
 バーミリオンに優しい声音でキリクライシャは礼を伝え、黄金の果実をかかげる。聖なる光が、後衛陣を包んだ。
 敵の催眠を警戒し、後衛の味方を進化させる、キリクライシャ。
 バーミリオンは味方を応援する動画を流す。
「被害を最小限に抑えるか」
 跳躍した真幸は、敵が前後左右へ吹っ飛ばぬよう、赤き鬼と化したガーネットで、真上から拳を叩き込む。
 地面に潰れ伏した敵を、真幸が蹴って離れる間に、チビは仲間の耐性付与に回っていた。
「猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液、存在せぬこれ等を用いて天狼をも貪り食う鎖と成さん――グレイプニル!」
 真幸が敵から離れた直後を狙い、カグヤは虹色の紐を放ち、敵を縛りつけた。
(「折角のチューリップ畑ですので被害が及ばないように注意しましょう」)
 素早く地面に守護星座を描く、鬼灯。それは光を発し、前衛陣の耐性を高める。
 刹那、獣のような雄叫びを響かせ、その身を起こす敵。
 禍々しい重圧さが濃くなるが、敵の攻撃を受けても己の負傷には構わず、広喜は嬉々として戦い続ける。
「一般人がもし来た場合は、最優先で庇ってね」
 仲間たち以外に人の気配は無いものの、最悪の事態を想定し、フォーマルハウトに声を掛ける、カロン。
 冷静に戦況を読んで把握し、適した行動に移る。
 カロンは地面にケルベロスチェインを展開し、味方を守護する魔法陣を描く。
 回復すると共に、味方の受けるダメージが、ダウンする効果も付与した。
「もう動かないで」
 カロンのお陰で回復の手が空き、リュシエンヌは行動を即座に切り替える。
 煌めく光の粒子が、敵だけに降り注いだ。
 その全ての影を、縫い止めるが如く。
「攻性植物さんを倒してゆっくりと楽しませて頂きましょう」
 カグヤが高速度で駆け抜け、回転の斬撃を浴びせて敵を斬り刻む。
 敵はあがき、つるを伸ばして、ケルベロスたちを痛めつけた。
「花びらよ、皆を癒す力を、与えて下さい……!」
 綾奈が戦場を美しく舞い踊ると、花びらのオーラがひらひらと降り注ぐ。
 仲間たちが戦闘を有利に進められるよう、上手く立ち回る、綾奈。
 幾度目かの攻防が、続く。
 やがて、敵は最後のあがきとばかりに、身体の一部に黄金の果実を宿し、光を浴びた。
「……あなたの伝えたい言葉は、何かしらね」
 無表情で、敵の花びらの色を見つめる、キリクライシャ。
 微かに見えた白色。その花言葉は――失われた愛。
 花言葉に詳しい者が居るかは、さておき。
 キリクライシャが宙へ舞い上がり、音速を超える拳で、敵の耐性を衝撃と共に吹き飛ばし、破壊した。
「お前も仲間を壊したかねえだろ」
 仲間を大切に思える広喜だからこそ、分かる。
「止めてやるぜ!」
 笑みを浮かべ、広喜が繰り出した、凍結の一撃。
 怒涛の一撃を受け、敵は為す術もなく、消滅した。


 侵食された大地もヒールで元通りになり、避難は解除され、公園に平和な風景が戻った。
(「一本でも存在感あるのに沢山あると圧巻だよなぁ」)
 真幸は、華やかな光景を写真におさめている。
 30種以上、10万本以上のチューリップが咲き、赤、白、オレンジ、黄色、緑、ピンク、紫、と色とりどりのチューリップで大地が埋め尽くされている。
「全体が瑞々しくて厚めなんだよな。種類豊富だし……落ち着いたらまたあいつと一緒に来よう」
 真幸の呟き通り、フリルのような花びらをしたものや、白に赤のストライプが入ったもの、まだら模様のもの、八重咲のものといった、珍しい種類のチューリップも咲いている。
 色別に分けられているメインの花畑の他に、色の組み合わせがピッタリの、カラフルな一角も有った。
 花の香りがほんのり漂う中、多忙な妻に送る写真を、撮って歩く真幸。
「……カフェでのんびりしますね。チューリップのアイスとか、頂きたいですね」
「僕も、フォーマルハウトと一緒にカフェでアイスを楽しもうかなと。最近暖かくなってきたから、食べたいと思っていたんですよね」
 綾奈の言葉を聞いて、カロンが穏やかに語り掛ける。
 ころんとしたチューリップ型のアイスを、綺麗な花畑を眺めながら食べて、のんびりと過ごす2人。
「……アイスに紫色はないかしら……ブルーベリーとか……季節が違うかしら?」
 カフェでは、キリクライシャもアイスを注文していた。
「……なければ赤に近い色……ラズベリーかストロベリー味を。林檎の赤さを思い出すから、ね」
 望む色はすべて揃っており、購入するアイスが決まると、キリクライシャはクッキーのほうに視線を向ける。
「……クッキーは持ち帰り用かしら。12枚セット……ダース単位であれば丁度いいと思っているわ、人数に合わせやすいもの」
 あるものを意識しているが、意図的に違う理由を装い、購入を決めるキリクライシャ。

「ムスターシュ、見て! チューリップ専門のお花屋さんよ? 旦那さんに似合うチューリップはないかしら……」
 家で待っている大好きな人へのお土産にしようと、販売所で探し回る、リュシエンヌ。
「チューリップの種……じゃねえ、球根ってやつあるか?」
 同じく販売所で購入を決めている広喜は、店員を1人捕まえた。
 経験が浅い為、育て方をしっかりと聞く為だ。
 どの球根が、どういうチューリップを咲かせるか、丁寧に花を見せて説明する店員の声に、真剣に耳を傾ける広喜。
「植えてえ場所があるんだっ」
 とある大切な場所の、今は何もない花壇を、脳裏に浮かべる。
 いつか、花でいっぱいになる事を願って、芽出し球根の苗を数種、購入。
「喜んでくれっといいなあ」
 一緒に食べたい相手がいる為、クッキーも幾つか土産用に買っていた広喜は、幸せそうに帰ってゆく。

「あ……これ素敵!」
 リュシエンヌが選んだのは、青味がかった綺麗な紫色の一重咲きチューリップ。
 縦長スタイルで、スタイリッシュに仕立てられている為、男性に贈っても似合う筈だ。
「この前は花束も渡せなかったし紫と赤の花買うか」
 写真を撮り終えた真幸が販売所に到着し、華やかな八重咲きのチューリップを選ぶ。
 真幸の言葉が耳に入り、色と花言葉がふと気になったリュシエンヌは、店員に花言葉を確認してみる。
 紫色のチューリップの花言葉は、不滅の愛。
「……お店にある紫色のチューリップ、全種類ください!」
 一重咲きから八重咲きやユリ咲きなど、様々な種類の、紫色チューリップをフラワーブーケにして貰い、意気揚々と店を出てゆくリュシエンヌ。
 本数で、永遠の愛、と意味を持つ数に決め、清楚で美しい花束に仕上げて貰い、真幸も販売所を後にする。
「あいつの好きな苺味のアイスも、クッキーも買って帰りてえな。俺もアイス食うかね、ラズベリーの奴」
 カフェにも寄り、持ち帰り可能なのを確認し、自分用と妻の分、両方を購入する、真幸。

(「チューリップ畑とかなかなか見ないですし、ヴァルキュリア種族であるカグヤさんには新鮮かも」)
 カグヤと鬼灯は、味の違うアイスを買って少しずつ食べ合いをしながら、チューリップ畑を見て回っていた。
 手を繋ぎ、仲良く甘々なデートを楽しむ、2人。
 販売所が視界に入ると、鬼灯はカグヤの為に、赤色とピンク色のチューリップの花束をサプライズする。
「いつも傍にいてくれて、ありがとう。カグヤさん」
 普段の感謝の気持ちも込め、言葉と共に花束をプレゼントする、鬼灯。
 カグヤは優雅に微笑み、彼の頬へと、お礼のキスをした。
 恋愛初心者な鬼灯は少し赤くなり、周囲に人が居ないのを確認してから、カグヤの頬にキスを返す。
 少し休憩しようとベンチに座り、カフェで購入した限定クッキーを仲良く食べ合う、カグヤと鬼灯。
 帰路を急いだり、のんびりしたりと、メンバーは思い思いの時間を過ごした。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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