伝説の桜の下で

作者:雷紋寺音弥

●夕桜逢瀬
 山間の町を、夕日が赤く染めて行く。卒業式を明日に控えた高校は、昼間の喧騒も嘘のような静寂に包まれている。
 そんな校舎の裏手にて、折原・香奈(おりはら・かな)は桜の巨木を見上げていた。
「明日は、いよいよ卒業か……。チャンスは、明日しかないのよね」
 少しばかり早咲きの桜を見つめ、香奈は胸に手を添えながら、この桜にまつわる伝説を思い出す。曰く、この桜の前で卒業式の日に告白した者は、両想いになれるという噂。ただし、その様子を他の誰にも見られてはならないという、ちょっとした制約があるのだが。
 幼馴染であり、同級生でもある高良・佳祐(たから・けいすけ)。彼は来月から、東京の大学に進学してしまう。そうなったら、もう想いを伝える機会は訪れない。故に、明日は香奈にとっても勝負の日なのだ。
 そっと、桜の幹に触れ、香奈は大きく溜息を吐いた。その際、桜の洞に何かの胞子が舞い込んだことにも気付かずに。
「桜の伝説か……。どこまで本当かは分からないけど……試してみる価値はあるわよね」
 気のせいか、桜の木の鼓動さえ掌を通して聞こえるような気がする。否、気のせいなどではない。桜はまるで、意思を持った人の如く幹を大きく開いて香奈を抱き締め……悲鳴を上げる暇さえ与えず、そのまま中に飲み込んでしまった。

●想い食らう魔桜
「召集に応じてくれ、感謝する。鹿児島県にある私立高校の裏手に植わっていた桜が攻性植物と化し、一般人を襲う事件が予知された。至急、現場に向かい、攻性植物を倒してもらいたいが……少しばかり、問題がある」
 この桜は、内部に一般人を取り込み一体化している。単に敵を倒すだけでなく、取り込まれた者の救出まで考えるのであれば骨が折れると、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に告げた。
「攻性植物に取り込まれたのは、卒業式を間近に控えた女子高生だ。名前は折原・香奈。どうやら、この学校に伝わる桜の木の伝説を信じて、自分の気持ちを決めるために桜の下へ向かったようだが……」
 運悪く、そこで攻性植物と化した桜に取り込まれてしまうというわけだ。放っておけば、彼女は攻性植物の養分にされてしまうだろうし、このまま桜が暴れ出せば、卒業式どころの騒ぎではない。
「普通に攻性植物を倒すだけでは、寄生された香奈も一緒に死んでしまう。多少、危険を伴うが、敵にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に救出できる……はずなんだがな」
 問題なのは、この攻性植物の得意とする戦い方だ。妨害に特化した立ち回りを得意とし、幻覚を見せる桜吹雪で攻撃して来る他に、自らを毒や呪詛を除去できる桜の花弁で覆ったり、相手の回復力を低下させる花吹雪を放ってきたりもする。
「要するに、『ヒール操作』をしてくる敵、ということだ。持久戦になるのは仕方ないにしても、こちらの回復力を削がれたり、与えたはずの状態異常を除去されたりすれば、ダメージ計算が狂う。状況に応じて的確な判断を下せないと、思った以上に苦戦するかもしれないぞ」
 香奈を救出するのであれば、そこまで考えて作戦を立てなければ難しい。回復力が低下した状態で戦い続ければ、回復不能なダメージを敵に蓄積させる前に敵が事故で倒され兼ねず、そうなると香奈も死んでしまうのだ。
「卒業の日に、桜の木の下で誰にも見られず告白に成功すると、両想いになれる、か……。なんともロマンチックな伝説だが、感傷に浸っている余裕はなさそうだな」
 所詮は何の根拠もない噂話。この桜に、不思議な力など存在しない。それでも、人々に淡い夢を与えて来た大樹を失ってしまうのは忍びないが……それでも今は、人命第一。新たなる門出を祝う日に、感動以外の涙は必要ない。
 そう言って、クロートは改めてケルベロス達に、攻性植物の撃破を依頼した。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●荒らぶる夕桜
 校舎裏に咲く桜の伝説。様々な学校に存在する、心温まる系の七不思議の類だろうか。
「伝説の桜の樹ですか。そういう噂の出てくる樹も多いですよね。ですが……それが攻性植物になってしまうとは、何とも悲しい事です」
 蠢く樹木の怪物と化した桜を前に、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が溜息を吐いた。
 桜の樹齢からして、恐らく大戦期よりも前からこの場所に在り続けていたのだろう。そんな桜を失ってしまうのは、なんとも忍びない気持ちにさせられるが。
「ずっとみんなを見守ってきた桜が亡くなっちゃうのは心苦しいけど……ここで誰かが命を落とすのはもっと嫌だから、香奈を助けて告白、してもらいたいよ」
 人命には変えられないと、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は覚悟を決めた。そしてそれは、この場に馳せ参じた他のケルベロス達にとっても同じこと。
「告白……とっても勇気のいることだよね。それの邪魔をするなんて、絶対にさせない」
「片思いの方に想いを伝える事無く死んでしまうのは、とても悲しいですわね。絶対にその様な事の無い様に、彼女にとって最高の卒業式になる様に……私達も頑張りましょう」
 互いに頷く、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)の二人。女の子にとって、卒業前の告白は一大イベント。それを、こんな悲劇で終わらせてはならないと、改めて香奈の救出を誓う。
「では、作戦通りに行きましょう。速攻で仕留められない分、辛い戦いになるとは思いますが……」
「オーケー、任せて。直ぐに仕留めちゃ、ダメなのよね?」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の言葉に続け、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)が確認する。
 そう、これは通常のデウスエクスとの戦いとは違い、香奈を救出する戦いだ。攻性植物と一体化させられている以上、香奈を救出するには危険を承知で持久戦に持ち込むしかない。
「なんていうか、青春だねぇ……。告白の結果がどうなるにしても、後悔なく進むために助け出してあげないと、だね」
 そのためにも、まずはこの桜から香奈を引き離すのが先だと、クレーエ・スクラーヴェ(明ける星月染まる万色の・e11631)は呟いた。そんな彼の後ろから様子を窺っているのは、ビハインドの桜。もっとも、同じ桜の名を冠する者であっても、目の前の怪物とは異なり、彼女は10歳程度の少女の姿をしているのだが。
「ウゥゥ……オォォォォ……!」
 桜の樹が枝を大きく振り上げ、花弁を舞い散らせながら低く吠えた。こちら側からは、中に取り込まれた香奈の姿は見えない。だが、それでも必ず声は届くと信じ、那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)は駆け出した。
「好きな人に想いを伝える一大イベントだからね! その不安、決意、期待、良く分かるよ。必ず助けるから待っててね!」
 少女の命と、そして純情を守るため。桜舞い散る夕刻の校舎裏にて、香奈を取り込んだ攻性植物との、辛く長い戦いが幕を開けた。

●空回る歯車
 攻性植物に取りこまれた人間を助けるには、危険を承知で敵にヒールを施して、蓄積ダメージを稼ぐしかない。今まで、幾度となく同じような戦いを経験して来たケルベロス達ではあったが、今回ばかりは少々勝手が違っていた。
「できれば早々に、そのお嬢ちゃんを返してもらいたいんだけどね」
「人の恋路を邪魔する者は、なんとかに蹴られてやられちゃえばいいんだよ」
 クレーエとリリエッタの鋭い蹴りが、立て続けに炸裂する。そこまでは良い。問題なのは、その先だ。単に敵を倒すだけでなく、回復させながら戦わなければ、香奈を救いだすことはできないのだが。
「敵を回復するのは不本意ですが、これも少女を救うためです」
 ショック療法で攻性植物と共に取りこまれた香奈を回復させようとするバジルだったが、しかし身体に纏わり付いた桜の花弁が、その効果を減衰させて阻害した。回復量だけに特化したグラビティを用いても、それを減衰させられてしまっては、実質上はプラスマイナスゼロだ。
 アンチヒール。半永久的に回復を阻害する付与効果は、全身を蝕む猛毒や、体力を徐々に奪い取る火炎等に比べれば、通常はそこまで気にする必要もない。体力を奪われるわけでもなければ、動きを封じられるわけでもないため、気にせず戦闘を続ける者が大半である。
「よーし、次は……」
「待って! まだ、敵の体力が回復しきってないよ!」
 調子の乗って仕掛けようとしたトリュームを、摩琴が慌てて止めた。瞬間の回復力が低下すれば、予定していた通りに相手を回復させられず、攻撃を見送らねばならない状況も出てきてしまう。要するに、無駄に我慢を強いられる時間が増える。そして……。
「桜の花弁はボクに任せて! 他の皆は、回復のフォローに!」
「分かったわ。……皆の方をフォローできないのが、ちょっと心苦しいけど」
 摩琴が花弁の呪詛を解呪している間に、メリルディが代わって攻性植物へ回復を施した。今度は過剰回復気味になってしまったが、それも仕方のないことだ。あのまま、予定よりも早く敵の体力を削り落してしまえば、万が一にも急所に攻撃を当ててしまった場合、香奈を殺してしまわないとも限らない。
 瞬間回復力の低下に伴い、従来の手数よりも多くの回復を要求される状況。おまけに、それで行動まで制限されれば、戦いが長引くのも無理はなかった。そして、それらの消耗は徐々にだが確実に積み重なり、ケルベロス達の気力も体力も奪って行く。
「ウゥゥ……ォォォォ……」
 呻くような声で、桜の木が枝を激しく揺らした。その枝先から撒き散らされる花弁は、今度は幻惑を伴う花吹雪となり、ケルベロス達の頭上へと降り注いだ。
「きゃぁっ! ま、また、こっちを狙って来た!?」
「しつこいですね。……もしや、こちらの作戦が読まれているのでしょうか?」
 執拗に狙われ、辟易した表情を浮かべるメリルディとバジル。先程から、敵は主に宙瑛を中心に狙って攻撃を繰り返して来る。相手を回復させる要も担っている部分に攻撃を集中させられては、ますます足並みが揃え難くなるので勘弁して欲しいのだが。
「……させませんよ」
 さすがに、そう何度も好きにはさせないと、真理が身体を張って二人を守った。が、まとめて二人分の攻撃を受け止めた代償は重く、二人を守り切った代わりに、真理自身が錯乱させられてしまい。
「くっ……て、敵は、どこですか?」
 せめて、気合いで催眠効果を吹き飛ばす術を持っていれば良かったのだが、生憎と今日の真理は、そういったスタンドアローンで戦うための術をあまり用意していなかった。
 このまま戦えば、味方に被害が出るかもしれない。仕方なく、真理は攻撃をライドキャリバーのプライド・ワンに託し、自らは動きを控えることで被害を最小限に食い止めるも、これは宜しくない流れである。
「癒しを阻害する呪いに、同士討ち狙いの催眠術……。もしかしなくても、思っていた以上に厄介な相手だったかもしれませんわね……」
 歯噛みするカトレア。これが通常の敵ならば、セオリー通りに動きを封じ、弱ったところを一気呵成に攻めることで、難なく退治できたかもしれない。
 だが、今回の任務は、香奈の救出も含まれている。ただでさえ不利な持久戦を強いられる状況で、余剰回復を強いられたり、手数を減らされたりすれば、更なる不利を一方的に押しつけられることになってしまう。
「遠隔爆破ですわ、吹き飛んでしまいなさい!」
 念を使って桜の花弁諸共に敵を爆破するカトレアだったが、これで状況が好転しないことは、彼女自身が分かっていた。
 メリルディの黄金の果実による施しを受ければ、ある程度は自動的に状況を立て直せるものの、それとて行動が終わった後に限定される。瞬間の回復量低下を補う術は、殆ど存在していないに等しかった。

●想いに賭けた一撃
 気が付くと、夕日は大きく山の向こうに傾いて、東の空は徐々に暗闇に包まれ始めていた。
 敵もかなり負傷が蓄積し、内部に取り込んだ香奈の身体を露出させていたが、しかし触手状に絡み付く幹は決して香奈を離そうとはせず、彼女の身体を繋ぎとめている。
 それは、まるで大切な人を渡したくないと、駄々を捏ねる子どものように。だが、その行為は決して許されるものではなく、香奈にとっての大切な相手も一人だけだ。
「ま、まだ……戦えますか……?」
「ええ……なんとか、ね……」
 バジルの言葉に、メリルディが苦笑しながら答える。前衛を務めているわけではないが、それでも二人とも随分と負傷が蓄積している。
「こっちはもう……正直、限界ですね……」
 その一方で、真理は仲間の盾となり過ぎた結果、先の二人よりも余裕がなかった。守りに特化した戦い方をしているとはいえ、これでは次に強力なグラビティで攻撃された場合、身が持たない。
「ォォォ……オロロォォォォ……」
 悲鳴とも、嘆きとも取れぬ叫びを上げて、桜の樹が最後の抵抗を示す。癒しの力を阻害する呪弾。桜の花弁を模したそれが命中したのは、トリュームのサーヴァントであるギョルソーだった。
「あちゃ~、さすがに無理だったかー」
 箱に戻ってしまったギョルソーを見て、トリュームが頭を抱えた。仲間の盾をさせつつ回復にも回らせていたが、しかしどうにも行動の条件が粗く、それだけ効果的に動かすことができなかったのだ。
「このままだと……覚悟を決めないといけないかもしれないねぇ」
「そんな! それじゃ、香奈を見捨てるってこと!?」
 クレーエの呟きに、摩琴が思わず叫んだ。ここまで来て、香奈を見捨てる選択などしたくない。しかし、現状ではケルベロス達の側に、余裕がないのも事実であり。
「でも、このままだと、今度は確実にリリ達の誰かが死ぬかもしれないよ? それに、リリは救出を諦めるつもりはないよ。ただ……少し、賭けになるかもしれないけどね」
 ここから先は、香奈の体力と精神力に賭けるしかないと、リリエッタが続けた。敵も回復不能なダメージは蓄積しているが、ここで撃破した場合、香奈が生き残れるか否かは彼女自身に掛かっている。
 多少の無理はあるかもしれないが、それでも他に選択肢はなかった。最悪なのは、敵を倒すことができないまま香奈も助けられず、おまけに多数の負傷者を出すことだ。
「まずは、少しでも動きを封じるのですよ」
 プライド・ワンと共に真理が砲塔から一斉射を浴びせ、桜の樹の動きを牽制する。巨木が揺れ、閉じ込められている香奈の首も微かに揺れたが、しかし未だ香奈が解放されることはなく。
「桜、敵の動きを封じるのは任せたよ」
 ならば、とクレーエが桜に命じ、敵の身体を念で捕縛させた。そこを逃さず、今度は手にした剣で斬り付ける。狙いは香奈を取り込んでいる、幾重にも絡み合った桜の幹だ。
「まだ、これじゃ足りないか……」
「だったら、ワタシにお任せよ!」
 さすがに、一撃で敵を倒すまでには至らないものの、そこへトリュームが続き、更なる斬撃を浴びせた。美しい円弧を描き、刃が幹を断ちきって行く。その度に、少しずつ香奈の姿が露わになり、敵の勢いは弱まって行く。
「その傷口、更に広げてあげますわ!」
 今度はカトレアが、先の攻撃で傷つけられた個所を抉るようにして斬り付けた。これでもう、香奈を繋ぎ止めているのは、彼女の腕に絡み付いている幹しかない。
「行くわよ、コル。後少しで……」
 幹の一部を断ち切るべく、メリルディがナイフで斬り付ける。しかし、未だ香奈は目を覚まさない。ともすれば、攻撃が命中する度に、苦しそうに眉根を寄せるだけだ。
「やっぱり、少し勇み足だったのでは……」
 一向に攻性植物とのリンクが途切れない香奈の姿を見て、バジルの脳裏に最悪の予感が浮かんだ。だが、限りなく絶望に近い状況であっても、諦めてしまったら、そこで終わりだ。
「香奈! 意識をしっかり保って! 負けちゃダメだよ! 想い、伝えるんでしょ!」
 気弾を飛ばし、摩琴が叫ぶ。その言葉に、捕われの香奈の口元が微かに動いた。
「う……ぁぁ……。た、助けて……佳祐……」
 朦朧とする意識の中で、香奈は想い人に助けを求めた。それは、彼女の意識が攻性植物の呪縛に抗い、懸命に命を繋ぎ留めんとしている証拠だった。
「もうすぐ助けだすから頑張って!」
 リリエッタもまた声を掛けつつ、その手に雷鳴を圧縮させる。稲妻を固めて作った弾丸。それを愛銃に込め、狙うは敵の急所と思しき、脈動する巨大な根瘤の部位。
「これで動きを止めるよ! ライトニング・バレット!」
 逢魔ヶ刻の薄闇を切り裂き、迸る雷鳴の軌跡を残して銃弾が敵の身体を射抜いた。同時に、香奈を縛りつけていた幹も千切れ飛び、桜の巨木は香奈を外に吐き出して枯れ果てた。

●伝説の終焉
 攻性植物と化した桜の樹は討伐され、香奈も無事に救出された。
 戦いとしては、色々な意味で危うい橋を渡ってしまった部分もある。それでも救出に成功したのは、香奈の想いが成せる業だったのだろうか。
「大丈夫ですか、意識はありますか?」
 気を失った香奈にカトレアが声を掛けると、程なくして香奈は目を覚ました。かなり衰弱している様子だったが、しっかりと体力を回復させれば、明日には問題なく登校できそうだった。
 救出が成功したことに安堵の溜息を吐きつつ、ケルベロス達は香奈に説明した。伝説の桜の樹は、もう存在しないということを。
「そっか……。それじゃ、告白のジンクスも、関係なくなっちゃったかな……」
 気持ちを後押ししてくれる存在を失い、香奈の表情に影が差した。やはり、どこか不安なのだろう。
「桜の木はなくなっちゃったけど……告白……諦めたらダメだよ。きっと後悔するもん」
 だが、そこで諦めては勿体ないと、まずはリリエッタが背中を押した。攻性植物に取りこまれても失わなかった想いだ。伝えなければ、後できっと何度も悔やむに違いないと。
「ボクも一年ほど前に告白したんだ。香奈が今感じてる気持ち、よく分かるの」
 だからこそ頑張って欲しいと、摩琴が続けた。不安な気持ちは、誰にでもある。しかし、それを乗り越えて想いを告げれば、それはきっと相手にも伝わるはず。
「大丈夫です。勇気を持って告白すれば、その成果はきっと実りますよ」
 最後にバジルも後押しし、それを聞いた香奈も静かに頷いた。
 明日の卒業式、果たして香奈は告白を成功させることができるのか。答えは、聞かずとも最初から分かり切っている。
 これだけの逆境を乗り越えた香奈だ。もう、彼女に桜の伝説など必要ない。
 想い人と結ばれることを願いつつ、ケルベロス達は日の落ちた校舎裏で、彼女のことを見送った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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