青い絨毯

作者:芦原クロ

 まるで絨毯のように青い花一色の、ネモフィラ畑。
 レジャーシートを広げてゆっくりネモフィラを眺める者や、見ごろを迎えたネモフィラを写真におさめる者。
 和やかな時間を過ごす一般人たちは、皆一様に、笑顔を見せている。
 その平和な時間が壊されるのは、ほんの数秒だった。
 謎の花粉のようなものが、1本のネモフィラにとりつき、たちまち巨大化して動き出す。
 異形は暴れ、殺戮の限りを尽くし、美しい青の上へ血潮をまき散らした。

「ディミック・イルヴァさんの推理のお陰で、攻性植物の発生が予知出来た。なんらかの胞子によって、ネモフィラが攻性植物に変化したぜ。放っておけば、人命が失われる……どうか、急いで現場に向かい、攻性植物を討伐してくれ」
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)に礼を述べてから、霧山・シロウ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0315)は説明に入る。

 敵は1体のみで、配下は居ない。
 避難誘導については、警察などが迅速におこなってくれる。
 ケルベロスたちは現場に到着してから、攻性植物を迎撃する形となる。
 敵の意識は、ケルベロスに優先して向けられる為、ケルベロスたちが戦闘を放棄しなければ、一般人に被害が及ぶことも無い。

「今はイベント期間中で、アロマキャンドル作りが出来るようだ。季節の変わり目は体調を崩しやすいからな、眠れない時にはスイートオレンジやプチグレインやベルガモット。リラックスしたい時はラベンダーやマジュラムやイランイランなどが効果的だぜ」
 ミント、ローズ、ローズマリー、レモン、レモンバーベナ、ユーカリなど、他にも多くの種類が揃っていることを伝える。
「討伐後は、アロマキャンドルを作って贈り物にするのも良いんじゃないだろうか。友人、仲間、恋人など大切な人に贈ると喜ばれるだろう。……討伐の成功を、願っているぜ」


参加者
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
ウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)
ザラ・ガルガンチュア(旧き妖精譚・e83769)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)
 

■リプレイ


「地球にかような花畑があるとは!」
 花畑一面に咲きほこるネモフィラに、感動の声をあげる、ザラ・ガルガンチュア(旧き妖精譚・e83769)。
「大地を青く染める花は、蒼天を映しているようで神秘的だねぇ。青い花自体もなかなか珍しいものだし」
「まったく飽きさせぬな」
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が珍しさを伝えると、聞いていたザラはディミックに向けていた視線を、花畑に戻す。
「青い絨毯とはよく言ったもんだな。まっ、綺麗じゃねーの。これで可愛い女の子もいりゃ完璧だな」
 柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)が片目を閉じ、アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)とザラにウィンクを投げた。
「今のは地球での挨拶なのだろうか?」
「合っていると思います。頑張りましょうって意味でしょうね、きっと」
 不思議がるザラに、のんびりと答えるアリッサム。哀れ、清春。
「油断せねば被害も無く終われる相手だ、分かったか助手。後の時間を確保するためにもしっかりと片付けるぞ、聞いているか助手」
 白樺・学(永久不完全・e85715)が助手に眼差しを向けると、助手の手をそっと握っている積極的なきゃり子の姿が。
「柄倉? きゃり子の様子がおかしいようだが……」
「あー、それな。助手がお気に入りみてぇだわ。邪魔ならきゃり子引き剥がして、ポイ捨てすりゃいんじゃね?」
「自分のサーヴァントには、相変わらず粗雑だな。しかし助手のどこを気に入ったんだ」
 知識欲が強い学は、照れた様子で助手と手を繋いでいるきゃり子、対して表情を変えない助手とを、交互に観察する。
 そこへ、束の間の和みを打ち消すかのように、異形が這いずり出て来た。


「ネモフィラですか。確か花言葉の一つに貴方を許す、と。……私はいつか許せるでしょうか」
 ウーゴ・デメリ(ヴィヴァルディデメリ家現当主・e44460)は瞳の奥にほんの僅かなかげりを映し、首を静かに横に振った。
「その前に、目の前のあなたを倒さなくてはなりませんね」
 周りを不安にさせないようにと、常に優しげに微笑んでいるウーゴは、敵が凄まじい咆哮をあげても、動じない。
「さぁて影からサポートさせてもらおうじゃねえか」
 長剣を振るい、素早く地面に守護星座を描く、清春。
「がっちり固めて防がせてもらうぜ」
 守護の光がほとばしり、仲間たちに優しく降りかかる。その隙に、念を籠めた物を敵に飛ばす、きゃり子。
「この花達は、誰かを傷付ける為に咲いたのではありませんから」
 アリッサムは花畑を守るように、立ちふさがる。
「青い絨毯が赤く染まってしまう前に……止めさせて、頂きます」
 アリッサムは黄金の果実から聖なる光を発し、補助の隙間を埋める。
「あぁ、綺麗な花畑っすねぇ」
 名残惜しいが今は戦闘に集中しようと、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は脳裏に浮かんだ人物を、一時退場させた。
(「前に出て注意を惹くのが第一っすね」)
 佐久弥は敵の意識が一般人に向かないようにと、攻めの姿勢を崩さない。
 万が一、一般人が来てしまった場合も考慮し、直ぐに庇えるよう、細心の注意を払いながら、巨大な鉄塊剣を振り下ろして敵を叩き潰す。
「花畑に被害のないように、注意して戦おう」
 ディミックが展開する、光り輝く城壁。敵の攻撃から守ってくれる、頼もしい壁だ。
(「害する事には慣れていないのですけれど」)
 畑を踏み荒らすこと無く、戦場を駆け回りながら、慣れない戦闘行為に集中する、ウーゴ。
 深く剣を構えて突撃の姿勢を取り、地を蹴って飛び出し、敵を猛烈に斬りつけた。
「ふむ……攻性植物が現れてしまったのは残念なことである」
 蝶の翅を広げ、敵を見据えるザラ。
 鞭のようにしなる敵のツルを上手く躱しつつ、小柄な体格も活かして低空飛行し、敵の死角に回り込む。
 飛び蹴りを叩き込む、ザラ。
 蹴撃の軌跡が、流星の如くきらきらと輝いていた。
「初めて見たけどタイタニアの羽ってすげぇー。ザラちゃんキレイだねぇ」
 思わず歓声を上げてしまう、清春。
「ありがとう清春よ、とても嬉しいぞ。さて、我らが平穏を取り戻してみせようではないか」
 ザラは自信に溢れた表情で、味方を鼓舞した。


「助手、貴様はDfだ。サボらず庇えよ。貴様はもう負傷者へ向けて祈っているだけで良い。余裕があれば攻撃しても良いが……とにかく邪魔だけはするな」
 重い飛び蹴りを学が敵に浴びせた瞬間、反撃とばかりに敵のツルが伸びる。
 ここで庇ってくれるハズの、助手はというと……。
 気持ち良さそうに、居眠りしていた。
「大概にしろよ貴様ァァ……!!」
 学の怒りの声が、大きく響く。

 毒々しいツルに捕まらないよう、戦場を疾駆する、ケルベロスたち。
 敵は彼らの素早さに翻弄されながらも、灼熱の光線を放つ。
 ウーゴを庇った佐久弥に、光線が直撃する。
 しかし、清春が付与していた耐性のお陰で、炎に身を焼かれるまではゆかなかった。
「来年の今頃、遊びに来たいっす。そのためにも頑張るっすよ」
 共に遊びにゆきたい相手を思い浮かべ、気力を奮い立たせる佐久弥。
「とりまBS増やしまくってやんよ。ククク、楽しいだろ?」
 きゃり子が敵を金縛りにすると、口角を上げた清春は、瞬時に飛びかかって敵に接近するなり、鬼の如き鋼の拳で敵の胴を貫いた。
 敵が弱り出したのを見逃さず、学は攻勢に転ずる。
「威力も出してゆこう」
 独自の構えをとると、智が宿った魔力の光線が、敵を撃ち抜く。
 助手が珍しく動いたかと思えば、それは危うく学まで巻き込みそうな、攻撃だった。
「その貌は透いて、その質を好いて、されど煩いは酸くて――」
 白の石英を媒体にし、限りない可能性による生存の道を強く願い、ディミックは癒しの光で、佐久弥の負傷を治癒した。
「不要に花を散らせたくはないと思っているのは、妾の他にもいるであろう」
 仲間たちの、ネモフィラ畑への被害を食い止める戦法を見て判断し、ザラは美しい細剣を構える。
 攻撃が躱されないようにと、スナイパーの利点を有効活用する、ザラ。
 綺麗な花の嵐が巻き起こり、敵だけを閉じ込める。
「ガッとやって、アロマキャンドル作りを楽しみましょう」
 アリッサムは温和に微笑み、稲妻を纏った超高速の突きで敵を貫く。
 敵の動きが鈍足となったのを確認し、佐久弥とウーゴが頷き合う。
「血潮よ燃えろ、加速しろ――」
 二本一対の鉄塊剣を一本の大剣に変形合体し、二股に分かれた刀身の隙間から、灼熱のプラズマを噴射。
「終わらせましょう」
 体を高速回転させながら敵へ突進し、佐久弥とウーゴの高威力の攻撃に耐えきれず、敵は爆散した。


 必要箇所にだけヒールを掛けて戦闘の跡を消し、一般人の避難も解除されると、平和な光景が戻って来る。
 荒らさないよう気を配っていたお陰で、ネモフィラ畑は、ヒールの必要が無いほどキレイなままだ。
「アロマキャンドル作りに参加するっすよ」
「アロマキャンドルか。この花の色のような青で作りたいな」
 暫くネモフィラを眺めていたメンバーだが、佐久弥の言葉に促され、手作り教室の建物内へ入ってゆく。
 ザラはネモフィラの色を目にやきつけていた為、やや遅れて入る。
「アロマキャンドルに興味はありましたけれども、自分で作るのは初めてなのでドキドキしますね」
「グランドロンなのでね、香りを楽しむことには慣れていないのだが、リラックスできる効果には興味があるね」
 緊張気味のアリッサムに対し、自分も初心者だと伝えて少しでも和ませようとする、紳士なディミック。
「アロマねぇ。気になんだけど詳しくはねえんだよなぁ」
 清春も遅れて、自分も初心者仲間だとアピールしてみる。
「つーわけで講師がいりゃ色々と教えてもらいながら作るか。リラックス系でチャレンジ」
「香りは清々しい森の香りを選びたい。それがなければレモンバーベナにしよう」
「森の香りもリラックスできるよねぇ」
 ザラの言葉にすかさず反応する、清春。
 じっくり素材を選び、見た目にこだわるザラの要望通り、講師はソイワックスを使ったアロマキャンドル作りを始めた。
 ソイワックスのキャンドルはススが出難く、空気を浄化する役目もこなすのだ。
 耐熱容器に入れ、透明になるまで熱を加える、ザラ。
 ワックスに浸した芯は真っ直ぐ伸ばし、座金を付ける。
 次は好きな精油を入れて混ぜる……と。
 講師の教え通りに、ザラは真剣にアロマキャンドルを作っている。
「香りはあまり嗅ぎなれていないので、サンプルを確認する時間を少々頂くよ」
 ディミックは物腰柔らかに告げ、優雅な所作で丁寧に、精油の香りを順番に確かめていた。
「レモンに……ティーツリーも良いね。ほう、レモンティートゥリーというのもあるのか」
 講師の解説にも真面目に聞き入り、ディミックは香りだけでなく彩りも考慮して、作り始める。
「香りはオレンジ……ローズも好きなので迷ってしまいそう。ところで、アロマキャンドルは色も自由に出来るのでしょうか?」
 香りを決めかねているアリッサムが、ふと、疑問を口にする。
 それに答えるかのように、不透明のロウに色をつけ、ネモフィラの青色のグラデーションを見事に再現した、ザラ。
 2個の内、片方はフレッシュで爽やかな香り、もう片方はウッディな香りで、どちらも森を感じさせる清々しい香りだ。
「ドライフラワーのラベンダーを薫りと飾りに入れれば見た目も華やかだ。新しい魔術の構築のようで、楽しいねぇ」
 ディミックは大人びたボタニカルキャンドルを完成させ、講師やメンバーを驚かせた。
「ティートゥリーとローズマリーの二種類作ります」
 ウーゴは慣れているのか、扱いやすいスチール缶に入れ、アロマキャンドルを素早く完成させる。
 気管支や自律神経の弱い家族への、贈り物用だ。
(「次の休日には帰りましょう。皆は元気でしょうか」)
 実家に暫く帰っていないウーゴは、愛する家族に早く会いたいといった様子。
「今、大変な時期っすし、ストレスも溜まる状況っすからね。少しでも、リラックスできればいいんすけど」
 疲労時、気分転換になる香りを選び、オレンジのアロマキャンドルを作りながら、ある人物を思い浮かべている、佐久弥。
 佐久弥の言葉になにか思うところが有ったのか、お祈りや瞑想用にと、もう一つ、サンダルウッドの香りのものを作り始める、ウーゴ。
(「平和な世が訪れますよう」)
 優しい微笑みを浮かべ、胸中で願う、ウーゴ。
「今日の記念に、ご一緒の皆さんのイメージの色や模様を入れて、カラフルなキャンドルを作りたいと思ったのですが、大丈夫でしょうか?」
 色や模様が自由に出来ると分かり、アリッサムが仲間たちに問う。
「アリッサムちゃんから見たオレのイメージ。楽しみだねぇー」
「アリッサムよ、楽しみにしているぞ」
 清春と、清春のアロマキャンドル作りを手伝っていたザラが、和気あいあいと答える。
「私も楽しみにしているよ。のんびり待っているから、アリッサム嬢が満足出来る物を作れるといいねぇ」
「僕も問題なく思うぞ。……なんだ助手、貴様も作りたいのか。構わんが……重ねて言うが、邪魔はするなよ」
 ディミックの返答に、学も続く。
「色も香りもいーかんじだねぇ。ザラちゃんが手伝ってくれたお陰だねぇ、ありがとねぇー」
 うろうろしているきゃり子を気にもせず、清春は礼を言い、休憩スペースで寝そべり、まどろむ。
「天気がいーと、昼寝したくなんよねぇ……」
 後半は眠気で小声になり、清春は昼寝タイムに入った。
「香りは、そうだな……眠らずとも活動可能とは言え、質の良い睡眠は精神に良い。鎮静効果に期待してベルガモットにしようか」
 リラクゼーション効果を感じられる、良い香りを選んだ学。
「アールグレイの香りとも聞くが……なるほど、確かに。知った香りならば、意識に残らず眠りに入れそうだ」
 しっかりメモを取るのも忘れない、学。
 助手は、鼻に抜ける強い香りが特徴のユーカリを選び、通常よりも香りが強いアロマキャンドルを作った。
 上手く完成させたそれを、学に差し出す、助手。
「ははは、ユーカリか。さては覚醒効果を撒き散らす気だな貴様ァァ……!!」
 助手の素敵な日常風景が、繰り広げられている。
 アリッサムは、講師やザラに手伝って貰い、ロウソクを何色か混ぜてマーブル状にしたり、グラデーションをつけたり、ドライフルーツやドライフラワーでカラフルにしてみたりと、個性的なキャンドルを完成させた。
 やがて、アロマキャンドル作りを満足したメンバーは、教室を後にする。
「帰る前に、青い絨毯の写真を……次はのんびり、お弁当を持ってピクニックに来たいですね」
 写真を撮っていたアリッサムは、春の風を感じる。
 ネモフィラの青色と、青空の色とが重なり、美しい絶景が暖かな春の中に広がっていた。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。